秋の夜長に温泉は?
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 易しい
参加人数: 22人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/28 19:36



■オープニング本文

 寒さの厳しくなるこの季節。
 そんな時こそ、景勝地での温泉で一休みは如何だろう?
 場所は武天の景勝地、六色の谷。
 芳野と言う大きな街からほど近い、紅葉の綺麗な温泉街である。
 そこにある新しい温泉宿「桂の湯」が今回の舞台だ。
 去年の冬、開拓者達に知恵を出して貰い、改装した桂の湯。
 聞けば今では、開拓者御用達の湯治場としてなかなか繁盛しているようだ。
 元大工の木訥な主人、辰蔵とその妻のおせんは日々大忙しとかで。
 どうやら開拓者らと協力して考えた温泉再建策が大当たりしたようだ。
 男湯と女湯、それに混浴の家族風呂を備えた大きな露天風呂。
 温泉の蒸気で蒸した卵と饅頭を筆頭に、蒸し料理の数々もなかなかの評判。
 そんな桂の湯は、もちろん開拓者への恩義を忘れているわけもなく。
 この繁忙期にこそ、その恩に報いる催し物を開始するのだった。

 それは、温泉の無料開放だ。
 もちろん、料理や酒を頼めば必要経費は発生する。
 しかし、宿を自由に使う分には、料金なしで開放するとのことである。
 非常に太っ腹なこの企画。
 仲間と、友と、家族と、恋人と。
 寒さ厳しいこの季節に、温かい温泉宿でのくつろぎの時間は如何?

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 井伊 貴政(ia0213) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 明王院 浄炎(ib0347) / 明王院 未楡(ib0349) / シルフィリア・オーク(ib0350) / キオルティス(ib0457) / 琉宇(ib1119) / 牙王(ib5282) / 霊姫(ib5530) / spiner(ib5547) / 九鳳院 栞(ib5558) / 先日 二番星(ib5567) / 紫蘭 蒼(ib5582) / リベザル(ib5589) / かたりあ(ib5590) / 霞月 銀華(ib5609) / ルクレティーナ・メルツ(ib5610) / 北島(ib5612) / 懺樂 麩蓁(ib5615) / 紅蓮 蓮花(ib5619


■リプレイ本文

●和やかな秋の日
「良い日和だねェ‥‥偶には羽伸ばしも必要さね」
 紅葉の綺麗な宿の近くにて、のんびりと景色を愛でながら散策するキオルティス(ib0457)。
 秋のうららかな午後、舞い落ちた紅葉を手にとってしばらく紅葉狩りといった様子。
 そのうち、彼は静かにハープを取り出すとそれをつま弾き始めるのだった。
 派手な様子もこのときばかりは凛としたまま風景に溶け込んで、柔らかい楽の音が響いて。
 ‥‥そんな音が届くのが、今回の舞台である温泉宿「桂の湯」である。

「あら、どこからか素敵な音が‥‥風情がありますね」
「うむ、なかなか良い雰囲気だな」
 宿の入り口にて、宿の主人らに挨拶をしつつ、キオルティスの音に気付いた客夫婦が。
 明王院 浄炎(ib0347)と明王院 未楡(ib0349)は、夫婦水入らずの旅行といった様子。
「えーと、お二人は離れの個室でしたね。準備出来ておりますのでどうぞ〜」
 愛想の良い宿の女将にそう案内されて行く2人、そんな彼ら以外にもちらほらと客の姿が。

「ふむ‥‥自由に楽しめと言われると逆にする事が思いつかんな‥‥」
 ぼーっと、廊下を歩きつつ思わず呟く琥龍 蒼羅(ib0214)だ。
 遠くから聞こえる楽の音に耳を傾けながら、はてさてどうしたものかと思案していると。
「おや、これは琥龍殿。ふむ、なかなかに雅な音色が聞こえるな」
 てこてこと廊下を歩いてきて、そう声をかけたのはからす(ia6525)だ。
「からすも来ていたのか。‥‥で、その手にしてる帳面は一体なんなんだ?」
 どうやら旧知の間柄のようで、挨拶する琥龍。
 だが琥龍が気になったのは、カラスがなにかを書き付けている帳面であった。
「ん? 折角だし、宿の売り込みの一助になるかと思ってな。景色やら見所を纏めているのだ」
 これから、従業員に話を聞きに行く所なのだ、というからす。
「ふむ、そりゃまた大変そうだ。で、この宿はどんな感じだ?」
「うむ、開拓者の意見を取り入れた結果なかなか良い出来のようでな。多少料理の幅が狭いが‥‥」
 とそんな会話をしていれば、ふと琥龍は閃いて。
「ふむ‥‥なら、ちと腕を振るうのも良さそうだな。ちょいと厨房に聞いてこよう」
「‥‥おお、いつものアレを振る舞うのだな。では楽しみにしておこう」
 そうからすは応えて、厨房に向かう琥龍を見守るのだった。

 さて、琥龍が向かった先の厨房では、いろいろと仕込みの準備に忙しいようなのだが。
 そこには先客の姿が。
「天麩羅には、紅葉の天麩羅でも添えるのはどうかな? あと、彩りとしては塩に一工夫で‥‥」
 先客は井伊 貴政(ia0213)、なにやら料理にいろいろと助言をしているようで。
 どうやら宿の料理人たちが夕餉の準備を始めているのを目にしてちょこちょこ料理談義に熱が入ったよう。
 そこにやってきた琥龍も実は同じように料理好きらしく、思わず料理談義に加わって。
「‥‥と、そんな話をしに来たんじゃない。実は厨房を使わせて貰いたいんだ」
「そいつぁ構いませんが、なにかつくる予定で?」
 思わずそう聞いた宿の料理人、それにこたえて琥龍は
「ああ、こいつをつかった料理を作ろうと思ってね」
 そういって、取り出したのは「ジルベリアの黒ソース」、どうやらお好み焼きを作るようであった。
 幸い琥龍が作りたい料理に使える材料もあるとのこと、琥龍はいそいそと準備に取りかかるのだった。

●温泉の風景
「‥‥ふぅ。やっぱりお風呂はいいなぁ‥‥」
 まだ紅葉が明るく映える夕暮れ前に、露天風呂で一息ついている琉宇(ib1119)。
 賑やかなのよりはゆっくり休みたいと思っていた彼にとって今の状況は最高であった。
 幾人か開拓者の客たちも来ているようだが、宿は比較的静か。
 そして、桂の湯の広めの露天風呂は、混浴の多い昨今ちゃんと男女で別れているのであった。
 幸い、彼以外には男湯に客はいないようでぼんやり夕暮れ時の紅葉の情景を眺めつつ溜息をつく琉宇。
「ふぅ‥‥‥‥癒されるなぁ」
 依頼の疲れを癒す琉宇は、年の割には妙にじじむさくのほほんとお湯に浸かるのであった。

 一方、女湯では。
「はー、やっぱり美容には温泉が一番だね〜」
 のびのびとお湯の中で手足を伸ばしてくつろいでいるのはシルフィリア・オーク(ib0350)だ。
 今回は美肌によいという化粧水を持参。
 これは宿の女将にも好評だったようで、是非宿に置かせてくれとの御墨付きで。
 もちろん彼女も存分にその効果を確かめているようで、風呂場で美容の研究に余念が無いようだ。
「この秋の夜長に温泉入り放題ってのは嬉しい話だねぇ〜」
 美容と健康のためにもと、のんびり長風呂に入っていたのだが。
 そろそろ風呂から出ようかなというときに、やってきたのは先ほどの明王院夫婦。
 彼らは家族風呂を使うとのことで、シルフィリアは妻の明王院未楡とすれちがって。
 そのままどうやら中央の家族風呂で合流したようなのだが。
「‥‥あたいも、素敵な恋をしてみたいものだねぇ〜‥‥」
 明王院夫妻は、家族風呂で仲良く按摩でもしているよう。
 時折聞こえる妙に色っぽい声を聞いたシルフィリアは、そそくさと風呂を離れるのであった。

「やぁ、まゆちゃん。何作ってんの?」
「あ、シルフィリアさん。いまちょうど変わり種の饅頭をつくっていたんですよ」
 礼野 真夢紀(ia1144)は、以前この宿の改装にも関わった開拓者だ。
 そんな彼女は小さいながらもなかなか舌が肥えているようで、単なる温泉饅頭を改良するとのこと。
「へー、この赤い饅頭なんて美味しそうだね。ひとついただきっ」
「あっ、それは‥‥」
「(もぐもぐむぐむぐ)‥‥む、辛っ!! なんだこれ!!」
 慌ててシルフィリアに水を差し出す礼野は大丈夫ですかとシルフィリアを心配しながら、
「それは、宿のご主人がたまたま手に入れたとかで、理穴から買い付けた唐辛子入りの饅頭で‥‥」
「うー、辛かった。なんでまたそんなものを作ったんだ?」
「いえ、この宿の女将さんが結構辛党だとか。お酒にも合いそうなので作ってみたんですけど」
 ちょっと辛さの調節が必要ですね、と微笑む礼野であった。
 とりあえず、礼野が作った変わり種の温泉饅頭はなかなかに好評のよう。
 赤のとうがらし入りも一部では人気なのだが、やはり人気は黄身餡入りの黄色饅頭や豆餡入りの緑。
 紅葉の季節と相まって、これもまた名物の一つとなりそうであった。

●そして宴会
「しまったー! 風呂に長く入りすぎたっ!!」
 夕方頃から、極楽極楽と長風呂をしていた牙王(ib5282)は急いで宴会場に向かっていた。
 宴会場では、お客全員に料理が振る舞われるようで、一応時間が設けられていたのだが。
「みんなもうあつまってるだろうなー。おまたせー」
 そういって飛び込んだ牙王は、宿の従業員たちに迎え入れられつつ、座敷を見渡したり。
 みれば、宿が用意した料理以上に、珍しい料理が並んでいるようで。
「‥‥俺は酒はだめなので、こっちでカンパイ!」
「じゃあ、僕もそれ頂戴‥‥女将さん、これ何?」
 牙王や琉宇のように酒が駄目な者たちは、宿が用意したジュースで乾杯したいるのだった。

「井伊さん、折角だしお酌させてもらおうか」
「おお、そいつはありがとう‥‥って、目のやり場に困るな」
 婀娜っぽく浴衣を着崩したシルフィリアにお酌をされて上機嫌な井伊。
 彼は宿の料理を楽しんでいたのだが、仲間も集えば楽しみも何倍で。
 そんな井伊の横には礼野が琥龍の作ったお好み焼きをぱくつきつついたりして両手に花状態だ。
 そこにやってきたのはもう1人、なかなかに派手な容姿の女性だ。
「あら、折角ですし私もお酌を」
「ああ、ありがとう‥‥‥」
 不思議とかすれた低い声で女性がそう言えば、不思議そうにその女性の姿を見やる井伊。
 はてさて、こんな顔の女性客は今日居ただろうか、と思っていれば。
「‥‥井伊さん、その方、男性ですよ? ほら、先ほど庭先で演奏していたキオルティスさんかと」
「へ?」
 思わずあんぐりと吃驚する井伊。その様子をいてキオルティスはからからと笑ってネタ晴らしをするのだった。

「心のコリもほぐして下さい‥‥ね」
「疲れていよう、後の事は任せてそのまま寝ても構わんぞ。早朝の‥‥朝霧の中の紅葉見物も乙であろう」
 こちらは明王院夫妻の様子。彼らは仲良く過ごしているようで、離れでマッサージ中とか。
 一方、宴会も賑やかに進む。
 琥龍にキオルティス、琉宇らが楽器を取り出して演奏してみれば、牙王が慣れない歌を歌ったり。
 料理も酒も十分に用意されているようで、宴会は夜半過ぎまで延々と続くのであった。
 そしてやっと宴会が終わればあとは死屍累々。
 酔いつぶれた他の客に水やらお茶やらをからすが振る舞ったりしていて。
 その横で琥龍は作った分が全部はけたお好み焼きの料理を片付けていた。
「‥‥琥龍殿、お好み焼きなかなか美味しかったぞ?」
「ああ、褒めてくれてありがとう。好評なようで嬉しいよ‥‥ところでからすはこれから温泉か?」
「うむ、そのつもりだ。月見酒としゃれ込もうかと思ってな」
「ふむ、それもいいな」
 と、温泉を堪能するものも居れば、明王院夫妻のように睦まじく過ごすものも居て。
 他の開拓者達もそれぞれ楽しく過ごし、桂の湯の夜は更けていくのだった。