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■オープニング本文 皆さんは、棒倒しという競技を知っているだろうか? 基本は単純。二陣営に分かれて、それぞれ自陣の棒を守り敵陣の棒を倒せば勝ちである。 ただし、棒の大きさは人の背丈の数倍はあるどでかい丸太。 それを保持して守る者と、引き倒さんと押し寄せる者で激しいぶつかり合いとなるのだ。 というか、怪我人続出、死人が出ないのがおかしいという話の派手な競技なのである。 そんな競技を毎年やっているのが、武天の芳野と言う街。 大きな歓楽街もある商業の栄える街であり、こうした派手なお祭り事が大好きな気風なのだ。 ということで、今年も秋の祭の目玉として予定されていたのだが、そこで問題が一つ。 毎年、派手に盛り上がるのは良いのだが、志体を持つ人間をどうするかが悩みの種なのである。 身体能力で勝る志体持ちが混ざれば、不公平は必須。 ということで結局こうなった。 「志体持ちだけでやる棒倒しを用意して、一般の部と分けよう!」 ますます、派手で危険な棒倒しが、ここに誕生したのである。 芳野で行われる秋の祭。そこの目玉の棒倒し。 今年は開拓者をはじめとする志体持ち専用の一戦が設けられるとあって、芳野からはギルドに張り紙が。 開拓者の皆さん、振るってご参加を。 参加者には、祭の食券大盤振る舞い、とか。 さて、どうする? |
■参加者一覧 / 礼野 真夢紀(ia1144) / 平野 譲治(ia5226) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 明王院 浄炎(ib0347) / ティア・ユスティース(ib0353) / 明王院 玄牙(ib0357) / 琉宇(ib1119) |
■リプレイ本文 ●賑やかな街 芳野の秋の祭り。 商業の発達した大きな街の祭となれば、それはそれは盛大なものである。 祭の期間中でなくても出店も多く景勝地も近い芳野のこと、常日頃から賑やかな場所だ。 それが、この時期は普段以上に賑やかで盛大にもりあがっているようであった。 そんな中にちらほらと開拓者の姿が。 昨今活躍めざましい開拓者たちは、勢力に縛られない自由な気風がその特徴である。 開拓者達は皆志体を持ち、さらには特権としてさまざまな技能を習得している職能集団だ。 柔軟な運用が可能なため、いまやアヤカシ対策の重要な一翼を担う集団として認知されているようである。 さて、そんな難しい話はさておき。 ここ、芳野においても開拓者の姿はちらほら見かけられる。 ギルドへの窓口も存在すれば、依頼を受けてやってくる開拓者達も多いのである。 だが、志体を持つ者は彼らだけではない。 まず、それぞれの領主たちが抱える戦力の大部分が志体を持つ兵士たちで構成されている。 芳野の現領主代行、伊住穂澄の抱える戦力も例外ではなく、領内の治安維持に努めるのはそうした兵達だ。 それに、芳野の近くには大きな傭兵砦が存在する。 金で協力を得ることの出来る戦闘集団というのはいつの時代も重宝されるもので。 商業の発達しているこの街では、護衛やアヤカシへの対策などで活躍しているとのことである。 さらにいえば、ここの商人たちも私兵を抱えることすらある。 大きな商家であれば用心棒や護衛として志体持ちを召し抱えることは少なくないのである。 また、芳野は大きな歓楽街があることでも知られている。 そうした場所であれば、揉め事が起きることも多いため用心棒を雇っていることも多いのだとか。 つまり、開拓者以外にもそれなりに多くの志体持ちが存在するという状況なのである。 こうした状況は規模の大きな街であれば殆ど当てはまることだろう。 ということで、残念ながら現役開拓者の参加はそれほど多くない様子ながら、会場は盛況で。 午後から始まるという、棒倒し・志体持ちの部を前に、一般の部が始まりますます賑やかであった。 ●祭の風景 「お、おがあざ〜ん!! ど〜こ〜!!」 賑やかな雑踏、人の波。案の定そこかしこに親からはぐれた迷子の姿があった。 器用に飴で細工を作る出店に気を取られていたその女の子は、気付けばひとりぼっちで。 びーびーと泣きながらうろうろしはじめたその時、聞こえてきたのは楽しそうな音色だった。 「‥‥お嬢ちゃん、親御さんとはぐれてしまったのかしら?」 声をかけたのは、ティア・ユスティース(ib0353)だ。 突然見知らぬお姉さんから声をかけられてびっくりした様子の女の子。 見慣れた天儀の人々とは違うような雰囲気の女性に声をかけられれば、おっかなびっくり女の子は頷いて。 「そう。それじゃ、一緒に探してあげましょう」 柔らかく笑みを浮かべて手をさしのべたティアの手を女の子は握って。 2人は一緒に親の姿を探して歩き出すのだった。 ついつい人助けをしてしまうのも人の常。というより開拓者の常なのかもしれない。 もとより、既存の集団から外れた者の多い開拓者、お節介やら親切心の強い者が多いのだろう。 見れば、祭の熱気で頻発してる迷子を世話してやっている開拓者は他にも居るようであった。 「‥‥迷子だそうだ。みんな、一緒に探すぞ」 こちらは明王院 玄牙(ib0357)、父の明王院 浄炎(ib0347)と一緒に参加予定とか。 まだまだ年若い開拓者なのだが、体格のせいかしっかりしている様子で。 「うむ、困っている者が居れば助けてやるのだぞ」 父親の浄炎の厳命のもと、息子たちは迷子たちの親探しに奔走しているのであった。 2人とも大柄で、肩に迷子たちを抱え上げてやればすぐに親たちも気付くよう。 そんなこんなで時間は過ぎていくのだが、いつの間にかお日様は高く昇っていて。 「‥‥ふむ、そろそろ時間だな」 いよいよ、大賑わいの棒倒しが行われるのであった。 ●派手に賑わう棒倒し 「おや、お嬢ちゃんも開拓者じゃないのかね?」 「ええ、よく分かりましたね。ですが開拓者とはいえ、この身体では簡単に吹き飛ばされてしまうのですよ」 見物の老人からそう声をかけられたからす(ia6525)は頷きながら応えて。 「ふむ、開拓者は見れば大体分かるからのう‥‥ま、お嬢ちゃんぐらい小さけりゃしかたあるまいて」 わしもあと十年わかけりゃな、というそのご老人は、元は用心棒をしていたとか。 志体持ちが多いこの芳野。どうやらかなりの数の参加者が集まったようである。 町内の用心棒たちが町衆の意地を見せようと息巻いていたり。 傭兵砦の面々が仲間との連携を強みに勝利を高らかに宣言していたり。 とにもかくにも、大いに賑わっているようである。 「‥‥お、じゃが嬢ちゃんと同じぐらいちっこいやつも参加してるようじゃぞ?」 にぃと笑ってからかうように言うご老人の言葉に、しれっとお茶を出して受け流すからすであった。 「多分、勝算は低いなりが‥‥やってみたい人は付いてきて欲しいのだっ!」 見学の老人の視線の先にいたのは平野 譲治(ia5226)だった。 小柄な彼は、大柄な傭兵たちの肩の上に乗っかってなにやら作戦を高らかに宣言している様子で。 「合図はうみせんっ! で、やませんっ! なりよっ!」 肩車されつつ、ぐぐっと拳を握って力説中の様子はなぜか共感を得られたようで。 「ふーむ、坊主の案も悪かぁねえな。なにより、白組にゃお前さんが司令塔だとは予想できねえだろうしな」 「おお、それなら、みんな手伝ってくれるなりか?!」 「おうともよ。こうなりゃ一か八かだな!!」 がははと笑う傭兵たちの一団が譲治の味方についたのであった。 そんな紅組にあって、きょろきょろ辺りを見回しているのは和奏(ia8807)だ。 「ええ、と。あちらの棒を倒せば良いのですよね?」 「おうよ。それ以外になにがあるってぇんだ? ‥‥お、兄ちゃんもしかして初めてか?」 砂に山に棒を挿してそれを倒す遊びだと思っていたとはとてもじゃないが言えない和奏。 「え、ええ。初めてですが、たぶん大丈夫です‥‥お手本があれば、できると思うのですが」 「おう、それなら心配いらねぇさ。どうせ全員一丸となって動くんだ。勢いに乗ってりゃいいのさ!」 と、いうことで、剛健そうな傭兵たちに混じって和奏も最前列に配置されてしまうのであった。 一方白組の方はというと。 「俺に守りは任せて貰おうか。そう簡単に倒させはせぬ」 ねじりはちまきにさらし姿の浄炎は、重要な棒の支え役についたようで。 どっしりと巨体を活かして丸太を抱える姿は文句のつけようもでないのであった。 「祭りは、人々に明日を生き抜く活力を湧き立たせしもの。何としても盛りたてねばな」 「‥‥わかってるよ」 父親からしっかり念を推されて、緊張の高まる息子の玄牙。 いよいよ始まる試合開始に向けて、静かに集中するのだった。 「‥‥承認していただいて、感謝致します」 いよいよ試合開始という時に、ティアはリュートを抱えて会場にいた。 彼女は両陣営の無事を祈りつつ、会場を盛り上げるために吟遊詩人の技をつかいたいと申し出たのであった。 この申し出は快諾され、彼女は彼女に共感した多くの吟遊詩人や楽士たちとともに会場に赴いたのである。 「この競技に参加する全ての参加者の元に、祝福がありますように」 そういって、始められた勇壮な楽の音は、ますます会場を盛り上げて。 いよいよ試合開始、巨大な銅鑼の鳴る音と共に、ついに両陣営は一気に動き始めたのだった。 「わわ、開拓者が居なくてもやっぱり盛り上がるんだなぁ‥‥」 浮きたくないものねと、一生懸命ブブゼラやら笛を吹いているのは応援席の琉宇(ib1119)。 両陣営ともに軽く100人近くいるだろう。 その数の志体持ちが一気に動き出す様子は、まさしく怒濤の勢い。 特殊な技能を使わずとも彼らは常人よりはるかに優れた運動能力を持っているのである。 血気盛んな肉体派のぶつかり合いが巻き起こらんとしているその時、琉宇は気付いたのだった。 友人である譲治が、紅組の戦闘をいくマッチョな傭兵の肩の上に直立不動で乗っかっていること。 そして、彼の号令で、なんと赤組は複雑な動きを開始したのだった。 ●激突と決着 「全力でいくなりよっ!!」 譲治の出した合図は、ちょうど両陣営が真っ向からぶつかったその瞬間に発せられた。 合図に伴って赤組はその陣営の一部が迂回、白組の正面軍を避けて横合いからの攻撃を開始したのである。 ちなみに、攻撃と言ってもたんに体当たりとぶつかり合い程度。 人の間をかき分けて、何とか敵陣の棒に向かって進もうとする押しくらまんじゅうなのである。 だがしかし、その迫力と派手さは押しくらまんじゅうどころの騒ぎではない。 流血沙汰は無いものの、押し出されて転げたり、相手の上を昇ろうとそこかしこで派手なぶつかり合い。 そんな中、流れに任せていたらいつの間にか敵陣深くまで潜入した赤組の戦士が1人。 なんとそれは和奏であった。 志士の身のこなしで、敵との接触をさけて、するすると進めばいつの間にか眼前に白組の柱が。 だがしかし、それを守っているのは巨体の浄炎であった。 「‥‥勝てる気がしませんね‥‥」 そんな一瞬の躊躇のまま、あっという間に和奏は乱戦に飲まれてしまうのだった。 作戦は良かったが白組の防御は厚く、赤組は攻めあぐねていた。 そんな中で、自ら突撃とばかりに譲治もみんなの肩やら頭を伝って柱に近づこうとしたその時。 彼の隣を同じように、人々の身体を踏み台に突進する姿があった。 それは白組の玄牙だ。 シノビの身軽さを活かして、頭上からの侵攻の策であった。 これに呼応する白組、同じように身軽な者たちが次々に赤組の傭兵たちを踏んづけて突貫。 あと少しで赤組が浄炎らの防御を破って白組の棒を倒すと思われたその時に、反撃が成功。 惜しくも赤組の棒に群がったシノビら身軽な面々が棒を引き倒すのであった。 ティアらの奏でる勇壮な曲もいっそう高まり、歓声があがって。 派手で賑やかな棒倒しは白組の勝利で幕を下ろすのだった。 |