秋月の宴を設けて
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/19 20:11



■オープニング本文

 残暑の暑さも落ち着いて、ここ武天の芳野という街にもやっと涼しさが訪れた頃。
 芳野の領主代行である伊住穂澄は、祖父である伊住宗右衛門をねぎらう宴席を設けようと考えていた。
 芳野の街は商業都市として栄えているが、本来の領主である叔父の東郷実将は多忙。
 そんな中で、必死で芳野の領主を勤め上げる彼女にとって祖父は頼りになる人物である。
 最近は、領主代行としての忙しさで疎遠になってしまっていたのだが、やっと仕事も一段落ついて。
 折角の良い季節と良い気候のこの時期、祖父のために一席設けようと思ったのだが‥‥。

 たしかに、彼女は祖父の伊住宗右衛門に、緑月屋での宴会には是非お友達を呼んで、と告げた。
 しかし、結果としてギルドに張り出されていたのは、宴会参加者募集の張り紙だったのである。

 孝行をしたいと、祖父のための宴会を開いたところ、祖父の宗右衛門翁が招いたのは開拓者達だった。
 確かに、親しい友人たちはすぐに集まれる状況に無かったのは仕方のないこと。
 しかし、賑やかなのが大好きな祖父が、盛大に開拓者を交えての宴会にしようとするのは予想外で。
 伊住穂澄は慌てて、酒の発注や料理の注文に奔走するのだった。
 その中で、一番の問題となるのは宴会の盛り上げだ。
 さすがに、前代の領主代行が主賓の大宴会、きれいどころを呼んでのどんちゃん騒ぎは無しである。
 そのため、音楽や踊り、そのほか様々な芸に優れた人間を呼ばねばと穂澄は考えて。
「‥‥利諒兄さんに、もう一つ依頼を出していただけるよう頼まないと‥‥」
 微妙に疲れた様子の穂澄嬢は筆を執るのだった。
 ギルドの受付をしている幼馴染みの利諒宛に出された依頼の手紙の内容は単純明快。
 芸達者な開拓者に宴会を盛り上げる手伝いをして貰いたい。

 さて、どうする?


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
フィーナ・ウェンカー(ib0389
20歳・女・魔
琉宇(ib1119
12歳・男・吟
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟


■リプレイ本文

●準備に天手古舞い
「料理ですか‥‥場所が場所ですので、許可するわけには参りません」
「そこを何とかならないかねぇ、息子殿」
 主賓の“孫娘”である伊住穂澄と交渉中なのは巴 渓(ia1334)だ。
 主賓と主催者は地元の名士だから、失礼を働いてはいけないと巴は思っているようで。
 実際の所、主賓の伊住宗右衛門は、領主と血縁の一族で代行を務める家柄、名士どころではないのだが。
「創作料理の実演調理ってぇのが売りだからなぁ‥‥これでも方々の依頼で、何度も披露してるんだぞ?」
「‥‥これが料理を振る舞う依頼ならまだしも、会場は老舗宿の緑月屋。専属の料理人が居ます」
 そもそも依頼されているのは芸である。実演調理も一つの芸かもしれないが、それはそれ。
 それに客を預かる身としては、伊住穂澄が食事に対しては神経質になるのが当たり前である。
 料理で体調を崩されたりでもしたら責任問題だし、そもそも食事は暗殺の危険すらある。
 信頼が得られるような言動ならまだしも、主催者の性別やら出自を間違う巴に任せられるわけは無く。
「それに、宴会場での調理も認められません。衛生的にも、火を使う安全面においてもです」
 どうやら、巴の企画自体がかなり不味かったようである。
「‥‥なら宿の料理人の管理下で、料理をつくるってならどうだ?」
「最大限譲歩してそれぐらいでしょう。もちろん食材や品書きもこちらで用意させてもらいますが」
「ま、この際しかたねぇな! ありがとうよ、息子殿!」
「‥‥宗右衛門様は祖父ですし、男装しておりますが私は女ですので。お間違い無きよう」
 と、大変失礼な勘違いをしていた巴は、大いに伊住穂澄の不興を買う巴であった。
 そもそも料理人が存在する緑月屋で自分が料理を作るというのは大変に失礼な話で。
 芸を求めた今回の依頼では、せいぜい料理の手伝いをやらされる程度が限界となるのだった。

 そして、他の出し物の準備も進められているようだ。
「宴会で芸を見せてどんちゃん騒ぎ! 良い依頼や!」
 すでに会場に運び込まれた酒を味見しつつ、ご満悦なのは斉藤晃(ia3071)だ。
「さて、会場の準備もこんな所か‥‥下準備が大切な芸もあるからの」
 どうやら、彼は会場設営の手伝いをしていたようだ。
 力自慢の彼は宴会場の準備に大いに役立ったようだが、問題はその後だ。
 彼は、依頼に参加した他の開拓者の手伝いをしているようで。
 その彼が伊住穂澄に頼んだのはちょっと特殊は衣服やらであった。
「犬耳、犬尻尾、給仕服‥‥‥完璧やっ」
 ぐっと親指を立てて、女物の服を前に納得顔の斉藤を、伊住穂澄は不思議そうに見つめるのだった。

●当日は賑々しく
 宴会当日、主賓である伊住宗右衛門も堅苦しい席にするつもりはないようで、早々と無礼講の様子。
 開拓者の皆は伊住宗右衛門に挨拶をしたり、開拓者同士が旧交を温めたりと大賑わいである。
 運び込まれる料理、振る舞われる酒、まだ日は高いながらも、賑々しく宴会は盛り上がっていくわけで。
 そんな中で重要となるのが、やはり盛り上げ役の芸である。
 広い宴会用の座敷の端に設けられた舞台にて、いよいよ芸が始まるのであった。
 集まったのは、開拓者の皆々。やはり皆物珍しさには弱いもので、自然と注目は集まるものだ。
 いよいよ、一人目の芸の始まりである。

「さぁーて、大きな舞台はどれぐらいぶりだろっ! 今日は思い切り唄わせてもらうよ!」
 舞台、といっても、急ごしらえだが、舞台袖代わりの衝立の裏から出てきたのは蒼井 御子(ib4444)。
 一番手の登場に、やんやと賑やかな声があがるのだが、そこに混じるのは驚きの声だった。
 それもそのはず、竪琴を抱えて出てきた吟遊詩人は、どう見ても10才ほどの少女だったのである。
 しかし、開拓者として、まだ幼いときから才覚を現す者も少なくない。
 はじめは多少驚いた様子の観客たちだったが、すぐにどんな演奏が聞けるのかと楽しみに待つのであった。
「ボクが披露する曲は、第三次開拓史の歌‥‥」
 そう言って、大人用の竪琴を小さな身体で器用につま弾く蒼井。
「‥‥ボクは参加できなかったから、噂から作った曲となってしまうけど、唄わせてもらうよ」
 そして演奏が始まり、賑やかに盛り上がっていた席にさらなる彩りが加わるのだった。

「彼らは進む。熱気の中を。
 討つべく相手を討ち、新たな世界を目指さんが為。
 彼らは守る。その横にいる供を」
 場で蒼井の演奏を聴く開拓者たちの中には、歌の題材となった第三次開拓に参加した者も多いよう。
 歌に聞き入る者、触発されて自分の体験を語る者、様々な思いが開拓者の胸には去来しているようだ。
「そして奇跡はなる。
 かのもの、叫び声を放ち、焔と共に崩れさる。
 後に残されしは――」
 つま弾く指はなめらかに音を響かせ、その幼さからは想像できないほど朗々と武勇の曲が響く。
 そして開拓最後の戦いを題材にして歌は、開拓者達の大きな拍手でもって幕をおろすのだった。
「やれるだけやったよ‥‥気に入って貰えたようで良かった!」
 一曲だけでは観客たちは許してくれないらしく、その後数曲蒼井はその歌声を披露したようで。
 そして、見事責務を果たした彼女は、休む間もなく。
「それじゃ、あのおねーさんもちょっと気になるし厨房を見てくるね」
 と、巴が宿に迷惑をかけてないか調べに行く忙しい蒼井であった。

 そして、その蒼井と交代で、次に舞台に立ったのはルオウ(ia2445)だ。
 赤い髪に金の瞳、目立つ容姿をしたまだ若いサムライである彼は、舞台に立つと刀を抜いて。
 どうやら、剣舞を見せるようである。
 もちろん、刀を使っての芸は危険であるが、そこは伊住穂澄から許可済みのようで。
「俺はサムライのルオウ! よろしくな! いくぜぃ!!」
 そういって、彼は刀を手に、剣舞を始めるのだった。
 そもそも剣舞は、災害を鎮撫するといった祭事に行われるものがおおい。
 だが、そうした剣舞とはまた違う形での、ルオウの動き。
 それは、まるで対する相手が居るかのように、敵を想定した応酬を繰り返すというものであった。
 一人で行う殺陣とも言えるだろうが、多くの場数を踏んできたルオウの剣技は鋭く鮮やかで。
 剣舞を見守る面々からは、やんややんやと喝采が飛ぶもりあがりとなったのである。
 そもそも、開拓者たちは武芸者だ。剣談に花が咲くのも至極当然のことである。
 ルオウは大型のアヤカシを相手にしてるかのように、敵の一撃をかいくぐり鋭い横薙ぎ。
 後ろに下がりつつ、大上段に構えてからの裂帛の気合い、体を開いて躱しざまの袈裟懸け。
 連綿と続く攻防の動きは、まるで相手のアヤカシが見えてくるかのように感じられる迫力で。
 宴席は大いに盛り上がるのだった。

●芸は続く
 本来であれば、こうした宴の席で、ちゃんとした本職の芸人を呼ぶことも可能だ。
 だが、今回はわざわざ伊住宗右衛門の願いにより、開拓者達を沢山招くことになったわけである。
 折角大勢の開拓者が来るなら、宴の盛り上げも開拓者に任せた方がきっと喜ぶだろう。
 そうした思いで、伊住穂澄は今回は開拓者達に芸を任せたわけなのである。
 しかし、芸と言っても宴会における盛り上げの芸は、言わば脇役である。
「この中に音楽が好きな人はいるかな‥‥‥うーん、困ったなぁ」
 舞台上にて、困った表情を浮かべているのはこれまた若い開拓者、琉宇(ib1119)である。
 どうやら、観客である宴の客にも参加して貰うつもりだったようだが。
「みんな、宴会の方に集中してるみたいだね。えー‥‥どうしようかな」
 そもそも、宴会に参加してる面々はすでに結構できあがっている者も多い時刻だ。
 それぞれ親しい者同士で話が弾んでいたり、宗右衛門翁を中心に盛り上がっていたり。
 金を払っての舞台ではないため、宴会での芸はあくまで余興。
 時に興味を引くような演目があれば盛り上がることもあるだろうが、それはなかなか難しいわけである。
 と、そんな琉宇に助け船を出したのは厨房やらの見回りも終えた蒼井だ。
 彼女も吟遊詩人として、一緒に参加者を募ることにしたようで。
 なんとか無事に、手伝ってくれる数人の開拓者が見つかったようである。
「えっと、蒼井さんはリュート弾けるかな? ‥‥弾ける、それはよかった」
 ということで、まず琉宇はリュートを蒼井にわたして曲を弾いて貰って。
 それから、琉宇は手伝ってくれることとなった開拓者達にそれぞれリュートを渡して、ちょっと弾かせて。
 どうやら、琉宇はそれぞれが弾いた音をもとに即興で曲を演奏するようであった。
 耳にした適当なフレーズをもとに琉宇がリュートをつま弾く。
 はじめは、無秩序な音の連なりが、なんどか繰り返すうちに曲になり。
 いつしか、そこに蒼井のハープの伴奏が加わり、単なる音は曲へと昇華されたのであった。
 そして、演奏が終わり、即席で作られた曲には盛大な拍手が送られて。
「協力してくれた人達にも大きな拍手をしてね。みんな、ありがとうね」

 続いて台に上がったのは、こまごまと他の開拓者の手伝いをしていた斉藤だった。
 どうやら、ちょっとした場つなぎのための芸と言った様子である。
 斉藤の登場に、会場からは喝采の声。どうやら交友の広い斉藤、知り合いも多く宴会に来ているようで。
「さて、ちと次の演目までは時間がかかるんで、ちとわしの芸につきあって貰おうかの」
 ということで、それからは斉藤の独壇場であった。まず始まったのは珍妙な小咄であった。
 会場も大分お酒が入った様子で、ちょっとした息抜きの小咄もおおいにウケているよう。
 続いて、会場の笑いが収まらないうちに、斉藤が始めたのはこれまたおかしな踊りだ。
 どじょうをすくうかの様子で、ほっかむりに剽軽な表情。
「おやじ〜どこへいく腰に籠さげて〜」
 そんなこんなで場を沸かせれば、どうやら次の演目の準備が整ったよう。
 斉藤は、滑稽な格好のままで場所を譲るのだった。
 それに入れ替わりで現れたのはフィーナ・ウェンカー(ib0389)。
 舞台袖で、斉藤の様子を見ていたのか、ふふっと口元を抑えつつ、ごろごろと持ってきたいろいろな機材。
 はてさて、何が始まるのだろうと斉藤の踊りに注目していた観客たちは興味を示すのであった。

●化学の魔女と二人の舞
「紳士淑女の皆さんこんばんは。フィーナと申します」
 彼女が持ち出したのは、水差しに塩の小瓶、そして透明な容器と卵だった。
 興味津々の観客を前に、フィーナが始めたのは実験だ。
 食塩水入りの容器と真水の入った容器にそれぞれ卵を入れれば、どうなるか。
「はい、水の方は沈んで、食塩水の方は浮くんです。ここまでは皆さんご存じですね」
 原因は比重の問題だとフィーナが言えば、なるほどと頷く者に、さっぱりと首をかしげる者。
 少々難解なようだが、とりあえず実験は続くようだ。
「では、ここからがこの実験の肝です」
 そういってフィーナは、半分捨てた食塩水の容器にゆっくりと水を注ぐ。
「この状態で、卵を入れたらどうなると思いますか?」
 突然投げかけられた問いに、この実験を見守っていた面々は頭を捻るのだった。
 薄い食塩水が出来たから浮くはず。いやいや、薄くなったから沈むはず。
 比重の問題なら真ん中で止まる? いや、浮き沈みをするのでは。
 侃々諤々、喧々囂々の議論が始まったようであった。
「‥‥では実際に挑戦してみましょうか。‥‥はい、見ての通り、正解は真ん中で止まる、ですね」
 卵はぴたりと容器の中央でとまったのだった。
 そしてフィーナから種明かし。
「この容器の中は、ゆっくりと水を注いだことで下に食塩水、上に真水という状態になっています」
 その言葉に、おおーと納得する一同。芸ではないが、フィーナの演目は大いに人気を博したのだった
 にわかに始まった実験の時間に開拓者達は引き込まれていたようで。
 いよいよ、開拓者達による最後の演目が始まるのだった。

「アタシの術は見世物の為にあるわけじゃないってのっ」
 そうぼやいているのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)だ。そしてその横にいるのはブラッディ・D(ia6200)。
「ま、そう言うな。宴会なら楽しむのも楽しませるのも、どっちにしたって楽しいってな」
「そういうずれた希望にも応えられるのが魔法使いだけど」
 どうやら二人は協力して、最後の演目を担当するようで。
 フィーナの実験で、なかなか開拓者による芸も注目を集めているようで、舞台は準備万端の模様。
「さて、と‥‥いくわよ、月緋。このアタシが引きたててあげるから、存分に舞いなさいな」
 いよいよ最後の演目が始まるのだった。

 舞台に進み出る二人。ブラッディの手には薄手の繊細な刀が。
 しずしずと舞台で独特の歩法。まるで祭事を行うかのように始まった剣舞はルオウとは違った雰囲気で。
 舞笠を手にした鴇ノ宮は、舞台で彼女の逆側に。
 どうやら、鴇ノ宮が術で舞台を彩り、そこでブラッディが芸術性の高い剣舞を舞うようであった。
 まずはじめに現れたのは白い兎。因幡の白兎で生み出された兎が水を探して舞台をはねる。
 そこでブラッディはまるで兎を導くように、時には追うようにゆっくりと舞って。
 そして一転、鴇ノ宮が人魂で生み出した鳥を追って、鋭い一撃。
 刀「朱雛」をきらりと輝かせながら、緩急をつけた動きで観客を幻惑するのであった。
 いつしか、吟遊詩人立ちの手で音楽が加わって。
 縦横に鴇ノ宮が作り出す鳥や動物たちの間を舞うように動くブラッディ。
 そして、まるで一枚の絵のようにぴたりと動きをとめたブラッディが、だんと強く舞台を踏む。
 同時に、ふっと鴇ノ宮の術も消え、そこでやっと魅入られていた観客たちは我に返って。
 最後の演目も、大きな拍手とと共に幕を下ろして、これにて全演目が修了するのであった。

「ったく、もうっ‥‥戦闘依頼だってこんなに錬力使ったりしないってのよ!」
 演目が終われば、彼らも宴会に混じって。鴇ノ宮は文句を言いつつだが。
「盛り上げるのお疲れ様な?」
 そういって、ブラッディに撫でられてみたり。
 その他の面々も、それぞれ宴会に混じってくつろいでいるようで。
 依頼主の伊住穂澄からすれば、ほっと一息。無事開拓者達の手で宴会が大いに盛り上がったわけで。
 まだまだ賑わいの終わらない様子を眺めつつ、これはこれでと小さく笑みを浮かべるのだった。

 蒼井や琉宇はもう一曲もう一曲と今だ演奏を要求されていたり。
 宴会に参加してた仲間たちに混じって、斉藤とブラッディは飲み交わし、ルオウや鴇ノ宮も盛り上がり。
 多くの開拓者も交えての盛り上がりに、フィーナも静かに加わって。
 しずかに宴会の夜は更けていくのだった。