死と隣り合わせの戦い
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/11 19:16



■オープニング本文

 人生とは選択の連続で、開拓者の人生もまたそのとおりである。
 そして、ここにも非常に判断の難しい選択が一つ。
 命を賭けるのに値するかどうか、それはそれぞれの考え次第だ。
 最終的に、どうするかは話を最後まで聞いてから決めた方が良いだろう。

 武天のとある鉱山にて、ある日大変な出来事が発生した。
 すでに廃坑となった枯れた鉱山からアヤカシが現れたのである。
 それも、少数ではない。続々とすでに誰も居ない鉱山から這い出してきたのである。
 鉱山は十数年前に枯れた鉱山で、近くの鉱山街もさびれて久しい場所だった。
 そんな鉱山にある日現れたのは、狂骨と呼ばれる骸骨型のアヤカシだ。
 たしかに鉱山では事故もあったと聞く。おそらくそうした骨に瘴気が宿ったのだろう。
 だれもがそう思ったのだが、そう単純なものではなかったらしい。
 最初の狂骨に続くようにして、続々と現れた狂骨の群れ。
 中には骨鎧と呼ばれる強力な骸骨型のアヤカシが。
 さらに骨の集合体が巨人を形成する骨巨人までもが現れたのだ。
 事態は急を要するものとなった。
 近くの鉱山街はすでに寂れてるとはいえ、まだ多くの人間が暮らしているとのこと。
 彼らを全て退避させるにはしばらくの時が必要となるだろう。
 試算したところ、人手をかき集めてほぼ三日かかるとのことである。
 だが、鉱山への唯一の道を塞いだ急場しのぎの関所は、もう破られる時を待つだけであった。
 人々を救うためには、あえて危険な鉱山へと逆行し、敵の勢いを削ぐ必要がある。
 そのため、危険を承知で死地に踏み込む開拓者が急募されることとなった。

 さて、どうする?


■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029
23歳・女・巫
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
音有・兵真(ia0221
21歳・男・泰
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
小星(ib2034
15歳・男・陰
朱月(ib3328
15歳・男・砂


■リプレイ本文

●死地へ
 武天の片田舎でおきた突然のアヤカシ大発生、その現場は混迷を極めていた。
 現地の兵力は少なく、彼らは徐々に増えつつある狂骨を撃退する余力すらない。
 辛うじてアヤカシが発生した鉱山への道を封鎖したのだが、それが破られるのも時間の問題。
 そんな危機的状況の中、鉱山街の避難は中々進まず、絶望すら漂い始めたのだが‥‥、
「角材、縄、油、大八車をかき集めて積め。速く積まなきゃお前等が逃げ遅れるだけだぞ。ホラ急げ急げ」
 そんな状況の中、現場に急行した十名の開拓者たちがいた。
 彼らがまずしたのは、避難が進む鉱山街から、資材を集めることだった。
 村に残っていた男達に檄を飛ばして、荷物を集めさせているのは鷲尾天斗(ia0371)だ。
 ある程度、開拓者ギルドからの協力もあったのだろう、最低限の治療道具や資材の援護は行われたよう。
 しかし、それだけでは絶対的に資材が足りなかったため、必要な分は現地調達となったわけである。
 命からがら避難する住民たちを鼓舞し、資材を集める開拓者達。
 結果として、大量の材木や桶にたっぷりの油、縄とそれを運ぶ荷車がすぐに集まったようであった。
「とりあえず、これだけ集まれば上出来でしょう‥‥泣き言は言ってられませんね」
 万木・朱璃(ia0029)はそういって、鉱山へ向かう道を見据えて。
「依然として状況は厳しいですが、行きましょう。全員無事を目指して!」
 こうして、一行は荷物を積んだ荷車と共に、一路鉱山を目指して進み始めるのだった。

 すでに分かってる情報から、開拓者達が立てた作戦は堅実なものであった。
 彼らに求められているのはアヤカシ達の勢いを止めること。
 すでに鉱山への狭い山道は数カ所が封鎖されているようであった。
 だが、それは現地の人間や少数の兵たちが急場しのぎで作った単なる障壁。
 資材を積み重ねただけの粗末な障害物でしかない。
 今はまだ、アヤカシ達の数も少なく、山道を降りてくる数も現地の護衛兵たちでなんとか撃退しているようで。
 しかし、徐々にアヤカシ達の大群は街に近づきつつあるのだ。
 それに対して開拓者達は、斬り込んで防衛陣地を作り上げることにしたようだ。
 といっても、敵の真ん中に作るわけではない。
 1度一気に押し返して、資材で障壁を作り、そこを機転として撤退戦を仕掛ける構えなのである。
 防衛のための障害を作る時間は少ない。
 そのため、寡兵である開拓者たちは更にその部隊を二つに分けて行動するようであった。
 ある意味、この決断は危険を伴うモノである。
 ただでさえ少ない兵力を二分割して運用するのは、さらに危険度が高まると言うことを表す。
 だが、それでもなお、なるべく長く戦い続けるための苦肉の策が、障害作成と分割行動なのであった。
 この決断が吉と出るか凶と出るか。それは、戦い終わらなければ分からないのである。

●遭遇
 開拓者達は、はぐれの狂骨たちを蹴散らしながら山道を進んでいた。
 鉱山から村につながる道がここしかないことはこの事件で最大の僥倖だ。
 この場所さえ守ればいいわけで、戦力で劣る開拓者にとってそれは優位に働くはずである。
 だがしかし、それは敵軍の全圧力が彼らに集中すると言うことを表すわけで。
「‥‥おう、こりゃ中々に歯ごたえがありそうアルな。一丁ヤルか」
 梢・飛鈴(ia0034)はそう言いながら拳を握り、眼前の光景を見据えて。
 彼ら開拓者第一班の眼前に現れたのは、見渡す限りの骨の群れであった。
 そこは丁度山道が平坦に変化し、広くなっている場所。その場所に丁度大群がやってきていたようで。
 ついに開拓者達は、アヤカシ達の大軍の先頭とぶつかったわけである。
 作戦は単純、後続の第二班はおそらくいくつか撤退戦のために簡易の拠点を設けつつ、追いついてくる予定。
 その後、二班は第一班との交代までの間、体力練力を温存して備える予定であった。
 つまり、交代の時間まで一班はただ戦い抜けばいいわけだ。
「皆さん、今のうちに渡しておきます。気休めかもしれませんが‥‥」
 只木 岑(ia6834)がそういって仲間に渡したのは回復用の梵露丸や符水。
「‥‥ここにいるのは、超えなきゃいけない試練だからだ」
 自分に言い聞かせるように、呟いて小星(ib2034)は、油をぬった木材を地面に突き刺して。
 第一班もただ敵陣に突貫するだけでなく、自分たちを有利にするための策をもっていた。
 それは、簡単ながらも材木や縄を使って障害物を作ると言うこと。
 数で劣る開拓者達がもっとも避けるべきは包囲されてしまうことだ。
 仲間に背中を任せると言っても、敵陣の中で孤立してしまえば生存率は絶望的だ。
 単体では力の無い狂骨たちですら、開拓者に手傷を負わせることは出来る。
 それが、この大群ともなればまさしく数の暴力というわけで。
 それを防ぐために、すこしでも開拓者が有利に動き回るために、障害物を設置して立ち回るわけである。
 だが、そのための時間はあまりにも少なく、資材も少ない。
 そして、すでに開拓者達に気付いた狂骨たちは動き始めているのだ。
「‥‥クハハハ‥‥さてアハハハ‥‥そろそろはじ‥‥クククケケケ始めようか!!」
 先陣を切ったのは鷲尾、まさしく戦闘狂といった様子で槍を振るって突貫して。
 いよいよ戦端は開かれたのだった。

 同時刻、戦場のざわめきを幽かに聞きながら、第二班は急いで拠点を作りつつあった。
 すでに、撤退戦のために数カ所障害物を設け、適宜拠点として使える場所は作り終わっている。
 戦場はすぐに近くだが、今は準備を整え休養せねばならないわけで。
「‥‥なんつーかあれだ、正気の沙汰じゃねーよなあ。『これ』を一日半以上押し留めるって」
 ぞくぞくと遠くの鉱山から山道を下ってくる骨の群れを見て、竜哉(ia8037)は思わずそういって。
「ま、それでもなんとかしねーとな。とりあえず俺は時間まで休ませて貰うぜ」
 そして竜哉は得物の優美な薙刀を抱えたまま拠点の入り口に陣取って眠り始めるのだった。
 彼らは第一班と交代して、おそらく夜を徹して戦い続けることになる予定である。
 そのため、今の内にすこしでも休んでおく必要があるわけだ。
 もちろん、全員が同時に休むわけにも行かないので、たった五名で交代しながら少しずつ休憩するわけで。
 その合間に、それぞれは戦いに備えての準備も進めるのだった。
「‥‥なんだかキツそうな仕事だね。でも、みんながいるから大丈夫な気がする」
 剛胆な竜哉の様子を見て、ふっと肩の力を抜いたのは朱月(ib3328)だ。
「心強いってのはこういう事なんだろうね」
 そう言いながら彼は装備の準備をして。投擲する苦無に回収しやすいように紐をつけて。
 朱月が空を見上げれば、まだ日は高く、まだまだ続く戦いに改めて緊張を感じるのだった。

●激戦
「わかってたことではあるケドナァ‥‥」
 手にした即席の火炎瓶を敵陣ど真ん中まで遠投しつつ、梢は呟いて。
「この数は、破数稼ぎにはいいかもしらんがナ‥‥アタシはその系統の趣向はないからウザイだけアルぜ」
 そう言いながら、つかみかかってきた狂骨の腕を躱し、返す拳の一撃で粉砕する梢。
 戦いはいつ終わるともなく続いていた。
 第一班の前衛は、突貫して大暴れしている鷲尾に、回避しつつ戦場を縦横に動く梢。
 その2人を援護するのは、刀を片手に奮闘する陰陽師の小星だ。
「‥‥あのときとは違うんだ」
 今回の面子の中では、経験値で多少劣る小星は、地形を上手く利用しつつ闘っていた。
 地面に無造作に突き立てられた丸太や材木を背にして背後を突かれぬように移動して。
 さらに、練力を無駄に使わないように、縄を活用しながら、果敢に接近戦を挑んでいるのだ。
 そんな面々をさらに援護するのは只木だ。
 戦場を見据えて、要所要所に弓矢での援護を放って。
 戦場には波があるものだ。ある場所では敵が集中して動きが鈍くなり、また別の場所では加速する。
 前衛はたったの2人であるため、その流れに呑まれてしまえば危険度は高くなるだけだ。
 その機先を制すのが只木の弓である。
 同時に最も後衛にあって、仲間の回復のために待機している万木は司令塔でもあった。
「っ! 左前方に大物がきました。警戒して下さい!」
 笛を吹いて、前衛の注目を集めるながらの声かけ、その声に前衛たちは即応する。
 左前方からやってきたのは、骨の集まった骨巨人だ。
 周囲の狂骨らを取り込んで再生する厄介な特性を持つ強力なアヤカシなのだが、
「大物まで出やがったな。くひひひ、面白れえなぁこの戦場は」
 狂骨の足を薙いで行動不能にした鷲尾は、そのまま踏みつけて粉砕しながら距離を詰めて。
 その背中に接近する狂骨には只木の矢が、そして追うように小星が近づいて援護の形。
 同時に、梢は他の前衛を牽制するために、虎の子の旋風脚を発動。
 接近しつつあった骨鎧たちはなぎ倒されて他の狂骨たちを巻き込み大渋滞となって。
 その隙を逃す開拓者達ではない。
 小星の放った霊魂砲が鷲尾の眼前の骨鎧を蹴散らす。同時に突進する鷲尾。
 手にはいつの間に拾ったのか油を塗ってある障害用の材木が。
 それを武器の代わりとばかりに振り回してから、骨巨人に向けて思いっきり投擲!
 鈍い音を立てて、槍のように骨巨人の胸に突き刺さった材木に、今度は梢が火炎瓶を投擲。
 油が満たされた陶製の壺は火をまき散らし、材木が発火。その燃えさかる骨巨人に対して、
「‥‥アヤカシのくせに良い刀使ってるじゃねぇか。借りるぜ」
 骨鎧の腕を叩き斬って刀を奪った鷲尾は、そのまま骨鎧の身体毎燃えさかる骨巨人に縫い付けて。
 纏めて雷鳴剣で叩き斬るのだった。
「たまらんなぁ!」
 戦いの興奮そのままに、再び敵陣の只中で刃の暴風と化す鷲尾。
 あっというまに、連携によって骨巨人を屠る第一班は、その勢いのままに何とか戦線を維持するのだった。

 だが、いくら戦いの興奮で気力十分といえども疲労はたまる。
 特に最前線で戦い続ける鷲尾や梢は疲労だけではなく、小さな負傷を重ねていた。
 しかし、なんとか一班は耐えきった。
 丁度時刻は日暮れ、灯りを持たない一班の面々が一抹の不安を感じたその時、
「無事か、皆! 今度は我々が相手となろうぞ! 我等に武神の加護やあらん!」
 先陣を切って飛び込んできたのは皇 りょう(ia1673)だ。
 後方の面々は手に松明を持ち、その灯りが周囲を照らして。
 続いて敵陣に突貫を賭けたのは、音有・兵真(ia0221)。
「今こそ使うべきだろ、この技は‥‥崩震脚!」
 泰拳士の運足でもって敵陣只中へと進んだ音有は、そのまま崩震脚。
 味方を巻き込まないように発動された大技、雑魚の狂骨たちは皆その一撃で砕け散るのだった。
「みなさん、大丈夫ですか? これ、つかって下さい‥‥あと、食料の補給も」
 そして、交代をしながら倉城 紬(ia5229)は皆に回復のための品々を渡して。
 多少の怪我ならば応急手当を施しつつ、音有が作り出した隙を使って、第一班は撤退、拠点にて小休止。
 変わって、灯りを持って第二班が主戦場へ。アヤカシ達は昼夜変わらずじりじりと押し寄せてくる。
「‥‥人気の甘味屋でもこんなにごった返しにならないよ」
 思わず、朱月が呟いて。長い長い夜の始まるのであった。

●死闘
「討ち漏らしはボクに任せて!」
 朱月は苦無を投擲し前線を牽制、同時にシノビの機動力で接近すると骨鎧の一体を短刀で撃退。
「竜の名を持つものが骨に負けるわけにゃ行かないだろう?」
 豪腕で振るわれる優美な薙刀は、竜哉の眼前の狂骨たちを纏めてなぎ倒して。
「っ! 不覚‥‥」
 皇はこの第二班の貴重な前衛戦力として、八面六臂の活躍をしていた。
 だが、不意に骨鎧の装甲に刀が挟まれてしまい、一瞬の隙が。
 そこをつかれて、皇は腕を強かに負傷してしまうのだった。
「い、いま治しますっ‥‥とりあえず小さい傷は止血だけで、腕の傷を先に‥‥」
 そこに駆け寄る倉城は神風恩寵を使って傷を癒して。
 このように第二班は決死の覚悟で戦い続けているのだった。

 一進一退の攻防は、すでに一昼夜続いていた。
 すでに時刻は次の日、何度かの交代が繰り返されているのだが、やはり長時間の戦闘は苦しかった。
 練力も尽きかけて、開拓者達はじりじりと後退を余儀なくされていた。

 ここでまた班の交代。
 今回は、敵の圧力が強く引きながら防衛陣地を捨てての交代となって。
「‥‥無茶しすぎてもまずいな」
「ああ、一度退こう。だが、あの骨巨人だけは‥‥天辰!」
 皇は音有に援護されながら、最後の一撃を骨巨人に放ち。
 同時に交代してきた第一班は、
「あと少し‥‥あと少しなんだ! ―――散れぇ!」
 小星が放った岩首は、ちょうど狭くなった山間の通路を封鎖するように直撃。
 同時に、第二班の退避が終わると同時に、第一班の仕掛けた罠が発動。
「‥‥負けません。守るべきものが、私たちにはあるんですから」
 万木の合図で、仕掛けられた燃えさかる丸太の罠を狭い通路に。
 罠の連打で、なんとか退避の時間を稼いだ面々は、辛うじて最後の防衛陣地に滑り込むのだった。
「やっぱ火はええのぅ! 滅ぼされた故郷を思い出すよ! あはははは!」
 呵々大笑し、再び前線に舞い戻る鷲尾、すでにその身体は傷だらけで。
 援護する只木も、なんども弦を変えた弓を引き絞り、指先から血を流しながらも矢を放ち。
「‥‥あと、少し‥‥」
 小星の悲痛な呟きは、戦いの喧噪に呑まれるのだった。

 数刻後、すでに開拓者達に休む余裕は無かった。
 残り数時間、だが本当に数時間で終わるのか。そんな不安と共に戦場で刃を振るう一同だった。
 そんな中、村の方角から挙がる一条の煙、退避完了を告げる狼煙である。
 同時に響くのは、法螺貝や笛の音、ついに時間いっぱいまで彼らは守りきったのだ。
 最後の力で技を放ち、一目散に撤退する一行。
 すでに体力も練力も底をつき、物資も枯渇。彼らは辛うじて生き残ったのである。
「これでひとつ‥‥約束が果たせたよ」
 背後で、アヤカシの群れに呑まれる無人の村を見ながら小星はそう呟いて。」
「‥‥生きて、帰れたな」
「だいぶ、あぶなかったけどね」
 しみじみと呟く皇の言葉に、しれっと応える朱月。
 一行はやっと笑顔を見せ合うのだった。