理穴の小砦
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/28 21:53



■オープニング本文

 理穴は、かつて七カ国連合軍により大アヤカシを退けて魔の森縮小に成功した。
 その結果、徐々に魔の森は小さくなり、アヤカシたちの被害は減っていくのだろうと予測されているのだ。
 だがしかし、急にアヤカシが減るわけでもなく、いまだ危険は残っているわけで。
 ここにも、そうしたアヤカシの害に対抗するために最近たてられた小さな砦があった。
 詰めている人間は少ない。十名弱ほどが詰めているに過ぎないようだ。
 そして砦というには、あまりにも小さく、装備も無い場所である。
 だが、周辺の里や村々からの援護を受けて、魔の森との境界線となるべく日夜頑張っているわけである。
 しかし、最近やっと砦が完成したのだが、まだまだ魔の森の調査は進まない。
 詰めている人数が少なく、正直なところ、日々の警戒任務で手一杯なのである。
 周囲の魔の森を警戒し、最低限近隣の安全を確保したい。
 となれば、応援を頼まねばなるまい、ということで開拓者に白羽の矢が立ったのである。

 今回の仕事は、理穴の魔の森境界付近に新たにできた小さな砦の応援である。
 主に、周辺の探索を砦を拠点として数日行って貰うことになるだろう。
 それほど危険性が高いわけでも、緊急性のある任務でもない。
 だが、常に警戒することこそ、重要な仕事であるともいえるだろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
雲母(ia6295
20歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
日向 亮(ia7780
28歳・男・弓
白 桜香(ib0392
16歳・女・巫


■リプレイ本文

●一行はてくてくと
 遠路はるばる開拓者達一行がやってきたのは、理穴の森深い土地だ。
 かつては魔の森として怖れられていたその一画も、今では徐々にかつての姿を取り戻しつつあった。
 そんな中に作られた真新しい砦、開けた丘の上にぽつりと立つその姿が見えてくるのだが。
「‥‥どうみても砦ってよりは、監視小屋に柵をつけました、って感じだねぇ‥‥」
 思わず雲母(ia6295)が呟くように、ずいぶんと質素な建物であった。
「まぁ、どこもかしこも人手が足らないのも事実‥‥自分達で助けになればいいのだけどね」
 身の丈を優に超える巨大な刀を携えた雪斗(ia5470)は砦を見上げながらそういって。
 とにもかくにも、無事に砦に着いた一行は、砦に来訪を告げるのだった。

「いやいや、良く来て下さった! 何にも無いところですが歓迎しますぜ!」
 そういって一行を出迎えたのは、砦の長と呼ばれてる壮年の男だ。
 髭面で頑強そうな男はまるで山賊の親分のような見た目だが、傭兵崩れの弓術士だとか。
 彼はその強面にニコニコと人の良い笑みを浮かべながら、とりあえず一行を迎え入れるのだった。
 聞けば志体持ちは彼以外に経験の少ない若者が2人いるだけとか。つまり戦力はたったそれだけなのだ。
 となれば、やはり危険な魔の森の警戒と索敵は難しいのも頷けるもので。
「すまねぇが早速、見回りにでて欲しいとおもってるんだが‥‥」
「問題ない。もとよりそのために来たわけだしな、まだ日も高いし、すぐにでるとしよう」
 紬 柳斎(ia1231)が請け負えば、長も破顔一笑。開拓者達の一部はすぐに出発の準備を始めるのだった。
 まずは広域索敵のための技を使える面々が必要だと言うことで、同行するの面子は自ずと決まった。
 瘴索結界をもつ弖志峰 直羽(ia1884)と鏡弦が使えるからす(ia6525)そして、
「さて‥‥まずはぁ真面目にお仕事とぉいこうか」
「拙者も第一陣として参ろうか、宜しく頼むよ、親父殿」
 犬神・彼方(ia0218)と紬を含めた開拓者4名が、砦の人間を数名連れて出発することとなったようだ。
「じゃ、行ってくるね。桜香ちゃんはお掃除頑張ってね」
「はい。直羽さんも頑張って下さいね」
 弖志峰が白 桜香(ib0392)に声をかければ、彼女もそう応えて送り出すのだった。

「それじゃ、巡回の間は、砦の修繕やら補強でも始めておこうか。長殿、手が必要なところは?」
「おお、それは助かるな! じゃあ、まずは櫓の補強から‥‥」
 日向 亮(ia7780)がそう声をかければ、長はいくつか手入れの必要なところを示して
「困った時はどんな時でもお互い様‥‥さ。自分たちに出来ることをするよ」
 これには雪斗も手伝いに加わり、彼らは力仕事を初めるのだった。
 そして雲母は地図の確認と補正、桜香は髪を束ねて掃除に取りかかって。
 忙しい初日が動き始めるのだった。

●巡回はさくさくと
「‥‥あちらの方角だな」
 鏡弦を使い大まかな方角を捉えてから、弖志峰の瘴索結界でアヤカシを捕捉。
 そして、敵を視認すれば前衛の壁役に紬が立ちはだかり、攻撃役は槍を構えた犬神といった布陣の一行。
 うろうろしていた猪型のアヤカシがこっちに向かって突進してくれば、
「向かってくるなら好都合‥‥親父殿、油断はせぬように」
「なぁに、大丈夫さぁ。とどめはまかせてもらおうかぁね」
 突進してきた大猪を、紬は二刀を振り抜いてがっきりと正面から迎撃。
 足に手傷を負わせて動きを止めれば、霊青打で強化した槍を振りかざして犬神がとどめを刺す。
 そして、逃げようとするアヤカシが居れば、
「‥‥我が弓は変幻自在」
 小さな身体で器用に長大な弓を構えるからすの一矢が狙い過たず敵を穿つ連携の妙であった。
「いやはや、これじゃ回復は必要無いね」
 そう地図をつけながら弖志峰が思わず言ってしまうほど快調に調査はすすみ、
「‥‥さすが皆さん凄いですね。僕たちも修行すれば、皆さんのようになれるんでしょうか‥‥」
 おもわずそういっているのは、ついてきた砦の新人弓術士たちだった。
 長以外の2人の若者はまだ十代中頃。おっかなびっくりついてきたのだが、
「精進すれば、可能性は生まれるけど、努力が無ければ無理なことだけは確実だな」
 きっぱりと自分より年下のからすに言い切られてしまったり。
 思わず、弓を持つ手に気合いの入る新人弓術士たちであった。

 そんなこんなで、数時間。予定していた範囲をざっと見回り、近くにいるアヤカシは退治して。
 夕刻を前にして彼らは砦へと帰ってくるのだった。
 初日は、近隣の索敵だけで精一杯だったが明日からは2班での巡回調査と索敵撃滅の同時進行の予定で。
 そんな予定を話し合いながら、一行は砦へと帰ってきたところ、
「‥‥ん?洗濯物が歩いてる‥‥じゃない、桜香ちゃんだった!」
 よろよろと干し終わって取り込んだ洗濯物の山に埋もれて進んでいた桜香を弖志峰が見つけて、
「重いだろ? 手伝うよ」
「あ、直羽さん‥‥助かりました。洗濯がやっと終わったんですけど凄い量で‥‥」
 洗濯物満載の籠をひょいと弖志峰が持ち上げれば、ほうと桜香は一息ついて。
 洗濯物を、砦の住人たちの居住区になっている長屋へと持って行くのだった。
「‥‥桜香ちゃんは洗濯物得意なんだね。よいお嫁さんになれるよ〜」
「そんなことありませんよ。‥‥あ、そういえば、お漬け物も漬け始めたんですよ」
 一夜漬けもあるのですぐにでも食べられますよ、と笑顔で言う桜香。
 そんな彼女に、やっぱり良いお嫁さんになるよと心の中で思う弖志峰だったり。

 そして、ちょうど炊事場では、もくもくと食事の美味しそうな煙が上がっていた。
 武器にもなる山姥包丁を振るい、料理を作っているのは雲母だ。
 今日の献立は、朝釣ってきたという川魚を混ぜて作った炊き込みご飯に山菜の汁物。
 桜香お手製の漬け物に、貴重な燻製肉もつかっての豪勢な宴会料理ができあがりつつあった。
「平和なのはいいけどね、誰も死なないし、何も被害が出ないってのは‥‥ま、世の中そう甘くないけど」
 煙管を銜えつつ、器用に料理を盛りつけていく雲母はそう1人呟いて、
「でも、飯ぐらいは旨いものくわない、やってられないな」
 そういうと雲母は、飯の時間だと一同を呼び集めるのだった。

●宴席はわいわいと
「そうなのか。君も側ん村からか。うん、あんときは大変やったけんなぁ‥‥」
 日向は砦の人達に混じって、暖かい夕食に舌鼓を打ちつつ、会話していた。
 思わず方言混じりの日向、理穴出身の彼にとってどうやら郷が近い人間も多いようで。
 苦労話に、思い出話となかなか話が盛り上がっているようであった。
 そして、日向のもとに20代があつまり、わいわいと談笑しているその横に別の盛り上がりが。
 若い弓術士をはじめ数少ない10代の面々が集まっているのは、雪斗のところだった。
「ふむ、魔術師の正位置か‥‥悪い事にはならないと思うが‥‥まぁ不安に成る程ではないな」
 興味津々で少年たちが見つめるのは雪斗の手のカードだ。
 どうやら占いをしてもらっているようで、
「‥‥あの、恋愛運とか占えます?」
 出会いの一切無い砦の少年たちは、微妙に俗っぽいことが気になっているご様子であった。
 そして、そんな喧噪を尻目に、長をはじめ数名のおっさんたちが車座になっている場所が。
「さ、丁か半か‥‥選びなよ?」
「おう、それじゃー俺ぁ明日の晩飯の‥‥おかずを賭けるぜ!」
 犬神と紬を中心にやいのやいのと盛り上がる一行はどうやら賭け事の真っ最中で。
 紬が持ってきた酒の影響もあるのか、どうやら数日先のおかずまでが賭けられている様子。
「‥‥親父殿、あまりハメを外しすぎては‥‥妹からなんていわれるか」
「はぁっはっはっは、柳斎。そう小さいことはぁ、気にするなぁ」
 犬神は紬に酌をして貰いながら、楽しそうに大笑いするのだった。

 そんな中でも、砦の役目は休むわけにはならなくて。
 砦の見張り台の上には、ハズレ籤をひいたとしょんぼり気味な若者が1人。
 彼は志体持ちではないものの狩人としての腕を買われて砦の一因となったのだが、くじ引きで負けたとか。
 だが、彼のもとにはからすがやってきていた。
「‥‥‥見張り番、お疲れ様。茶は如何かな?」
 身体が温まると薬草茶を持ってきたからすはそう見張りをねぎらって。
 そして、同じように門の見張りをする面々の所には、弖志峰は桜香が料理を振る舞っているのだった。
 わざわざ握り飯にした混ぜご飯は、まだ温かく。
 砦の面々は、久々に楽しい一日を過ごすのであった。

●砦の生活はだんだんと
 そして次の日。開拓者を交えての砦の生活が始まったのだが、様々な変化が砦には起きることとなった。
「長様、地下蔵はありますか? 氷室を作りたいのですが」
「ふむ、とするとちょっと深さが足りないかな。おい、元大工の源鉄と若い衆何人か呼んでこい!!」
 長が手の開いていた面々を呼び集めて、突貫工事で設けた地下蔵には桜香によって氷が蓄えられて。
 また同時に、弖志峰は持ち込んだ種や苗を使って、畑の拡張を行ったようであった。
 こちらも、開拓者に周辺調査を手伝って貰えている分、手の開いた面々が協力して作り上げて。
「元気に育ちますよーに、ってお祈りしながら植えたからな☆」
 弖志峰の御墨付きを貰って立派な畑ができあがるのだった。

 そして、毎日の巡回とアヤカシ討伐も継続され、その結果は上々のようであった。
「何時までたっても治安が改善されないのは、いかがなものかね」
 思わずそう雲母が言うように、地道な作業ではあったが、
「未来のためには、小さいことでも積み重ねないと‥‥」
 長大な斬竜刀「天墜」を振るって雪斗は鬼型のアヤカシを屠り、その地道な作業を続けるのだった。
 その日の午後の調査では、数匹の鬼型アヤカシを撃退し、地図を雲母がさらに細かく作り、
「‥‥うん、なかなかに良い得物がとれた。これならしばらくは持ちそうだな」
 なんと日向が仕留めたのは一頭の大きな鹿だった。
 それを得物として持ち帰って、晩ご飯はからすと日向が協力して作ったもみじ鍋に決定して。
「こんな味付けは食べ慣れているだろうが、まぁやってくれ」
 濃いめに味噌味のついたもみじ鍋は、最近急に冷え込んできたこの季節、染み渡る旨さであった。

 そして、あっという間に時間は過ぎ去って、明日には砦を離れなければならない日。
 その夜、今日も別れの宴会と盛り上がってる中で、雪斗は夜間哨戒のために櫓にのぼるのだった。
 周囲を見渡せば、真っ暗で何も見えない森が遠くまで広がっているのが見えて、
「想像以上の暗さだ‥‥もう少し目が利けば良かったのだがな」
 そう雪斗がいえば、同じように見張りをしていた弓術士の少年が、
「ええ‥‥僕たち弓術士でもこれだけ暗いと敵を見つけるのも大変なんです。でも、そのかわり‥‥」
 そういって、少年が指を指したのは上、つられて雪斗が見上げれば、そこは満点の星空が。
「‥‥魔の森が浸食してきてたころは、戦火の煙ばかりで空を見上げる余裕はありませんでしたから」
 そして少年は、暗がりの中で頭を下げて、
「僕、ここがとても気に入ってるんですよ。‥‥ここ数日、ほんとにありがとうございました」
 また来て下さいね、という少年に雪斗は、それもいいなと頷くのだった。

「しかし、我々が居なくなったらまた暇になるだろうな」
 雲母は、ひとりぼんやりと的に矢を投げながらだらだらと、
「退屈なのは、いただけんなぁ‥‥相手にならない遊びをしても退屈だろうし」
 そんなことを言っていれば、そこにふらりとやってきたのは砦の長だった。
「なんの、今回のこれで大分助かったさ。料理の材料は増えたし、娯楽も増えたしな」
 みれば、彼の手には犬神から貰った酒にサイコロが握られていて、
「おまえさんの残してくれた地図と書き置きは、役に立ちそうだ。ありがとうな」
 そういって離れていく長に、雲母は煙管をふかしながら見送るのだった。

 そして宴会の席は、最後に日とあって盛り上がっているようで。
 今日は料理の大盤振る舞い。日向の仕留めた得物は炙られ煮られ、鍋になり。
「飯不味ければ士気もあがらない」
 定期的に調味料や嗜好品を補充してくれるようにからすは要望書を纏めるのだった。
 その横で、酒が飲めない日向は酒を飲まされてしまいぱったりと気持ちよさそうに酔いつぶれ。
 そして、面々の前で喝采を浴びているのは弖志峰と桜香だ。
 2人の巫女は砦の安全祈願の舞を踊っている様子で、その舞に彩りを添えるのは紬の笛。
 何時か魔の森が完全になくなり、人々が安らかに過ごせるよう。
 その願いが込められた舞と笛の音が響き、砦での最後の夜は暮れていくのだった。

 砦の周囲の安全は確保され、地図も周辺調査も万全。
 さらに、砦は補強され、氷室に新たな畑まで開かれた。
 別れの時、離れ行く開拓者達に対して、砦の人々は名残惜しげに手を振り続けて。
 遠ざかる開拓者達の姿を見つつ、砦の面々は砦での厳しい任務に励む活力を得るのだった。