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■オープニング本文 泰国は拳士の国。 数多くの泰拳士たちが技を競い切磋琢磨する国である。 そんな泰拳士の道を、最近歩き出した者がここにも一人。 名はリーラン、最近やっと開拓者ギルドへの登録が許された新米泰拳士である。 緊張して挑む初依頼は、それほど難易度の高いものではない。 依頼の内容は、街の近くに現れた化猪退治。数頭いる化猪を退治すればそれで終了。 突進力自慢の凶暴なアヤカシ猪を退治するために、リーランは仲間を待つのであった。 今回は、初心者リーランを含むために、依頼の難易度は低く、その分報酬も少ない。 だが、油断していては痛い目に合わないとも限らないだろう。 「‥‥ねぇ、受付のおにーさん、質問質問」 「えぇと、リーランさんだったね。なんでしょうか」 「化猪って食べられる?」 「‥‥‥‥‥アヤカシは、倒すと瘴気に返るので、食べられないと思いマスヨ」 「そっか、残念。じゃあ人が来るまで、肉まん食べに行ってて良い?」 「‥‥‥‥‥‥ハイ、ご自由にドウゾ‥‥」 色気より食い気の新米泰拳士リーランと行くアヤカシ退治。 さあ、どうする? |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
劉 飛虎(ib1470)
22歳・男・泰
カナカ(ib3112)
17歳・女・泰
蒔司(ib3233)
33歳・男・シ
灰夢(ib3351)
17歳・女・弓
レジーナ・シュタイネル(ib3707)
19歳・女・泰
樋速(ib3710)
25歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●冒険者も十人十色 「ねぇねぇ、そこの大きなおにーさん、その肉まん‥‥」 「これはワタシの肉まんネ。食べたいなら自分で買ってくるアルよ」 じーっとリーランが見ているのは劉 飛虎(ib1470)、ではなく彼の手にある肉まんだった。 「あと、ワタシは大きくないアルヨ。ちょっとぽっちゃりしてるだけアルネ!」 きっぱりと言いつのる劉。といっても劉は高さも幅も規格外で、さらには胃袋も規格外のようであった。 ぱくぱくとこともなげに囓っている肉まんは特大、それをすさまじい勢いで消費しているのだ。 だが、そんな劉の肉まんをじーっと狙うリーラン。手を出そうにも体格差があって届かないらしく。 そんな様子を見ていて、笑いながら肉まんを差し出した梢・飛鈴(ia0034)だった。 「初対面から肉まんを欲しがるトハ、肝は据わってるぽいシ、手が掛からんナ。肉まん食うカ?」 「おお、おねーさんありがとう! もちろんいただきます!」 ひょいぱくもぐーと貰った肉まんを一口で飲み込むリーラン。 とりあえず先輩たちには快く迎え入れて貰えたようであった。 開拓者たち一行は、泰国のギルドに集合していた。 「アヤカシ退治‥‥は、初めて‥‥ですけど、リーラン、さん、も‥‥い、一緒に頑張りましょう、ね」 おずおずとそういったのは珍しいジルベリアの泰拳士、レジーナ・シュタイネル(ib3707)。 「ここ、が‥‥泰国、ですかぁ‥‥話にはちょっとだけ聞いてた、ですけど」 そういって言葉をきったレジーネは泰国の町並みを眺めてほうと溜息をついて。 「この目で、見られて、嬉しい‥‥です」 聞けばレジーナはジルベリアに流れてきた泰拳士から技を学んだとのこと。 「そっか、お師匠様は泰国の出身だったんだね。じゃあじゃあ、依頼が終わったら案内するよ」 そういうリーランにレジーネは嬉しそうにはにかむのだったり。 そして、そこにもう1人新人の開拓者が。 「あたしも新米泰拳士ですので、今回は一緒に学ばさせていただきますね〜」 そしてこちらは猫の獣人の泰拳士、カナカ(ib3112)だ。 「あたしは実は‥‥」 「んん? もしかしてカナカは料理人か?」 自己紹介の途中で、鼻をすんすん言わせていたリーランは、そういってカナカに詰め寄ったり。 「ほえ?! え、ええ。一応料理人ですけど、なんで分かったんですか?」 「うん、美味しそうな匂いがした! ねぇねぇ、カナカはどんな料理が得意?」 「ええと、とりあえず基本的には何でも作れますけど」 「じゃあじゃあ、とりあえず肉まんに、海鮮あんかけに‥‥」 勢い込んで言うリーラン、よだれも垂らさんばかりというか垂らしつつ詰め寄るのだが。 「こらこら、そーいうのは依頼が終わってからにしないとなー」 にっと笑いながら、詰め寄っているリーランの襟首を掴んだのはブラッディ・D(ia6200)。 先輩としちゃぁ良いとこ見せないとなー、なんて言いつつリーランを諭すブラッディ。 その後ろから、すっと姿を見せたのは樋速(ib3710)だ。 「私も今回が初依頼だ。お互いに精進していこう‥‥そしてとりあえずそのよだれは拭いた方がいいな」 眉目秀麗な樋速は表情一つ変えずに、そうリーランに告げるのであった。 その後、おやつが食べたいとぶーたれるリーランと共に、彼らは目的地に向かうのであった。 食い意地が張っていても、やはり開拓者としての初依頼。 目的地が近づけば自然と緊張してきたようで、きょろきょろとリーランは辺りを見回していて。 村に着いた一行は、いよいよアヤカシ退治のための行動に移るのであった。 ●村にて作戦開始 「ギルドで内容を把握しとっても、現地での最新の情報を入手しとくんは大事やと思うで」 そうリーランら新人開拓者達に言っているのは蒔司(ib3233)だ。 「罠仕掛けたりするなら尚更、村人の許可は要るし、意思疎通を図るんも、協力を得るには欠かせん」 そんな彼の言葉には一同うんうんと頷いて。 見れば、それぞれ開拓者たちは別れて情報収集をしているようであった。 「化猪はどの辺に出るのかわかるかネ?」 劉は、アヤカシ達の出現場所を調べているようで。 「この鍬や鋤、ちょっと貸して貰っていいだろカ?」 梢はそういって、村から道具を駆りだしているようだ。 そんな様子を見て、新米の開拓者達も手伝わねばと行動を始めたようで。 「‥‥とりあえず、みんなで、罠、作りましょうか‥‥」 「そうですね〜。まずは鳴子あたりを増やしてみましょうか」 レジーナの言葉に、カナカが応えれば、私も私もとリーランも手伝って作業を始めるのであった。 「村には近づけないよう、誘導するつもりやけどな。念の為、退治の間は近づかんといてな」 「万が一があると危険だから、近づかないで欲しいアルよ。出来れば、家の中で隠れてるのが一番ネ」 強面に反して、蒔司は丁寧に村の人々に説明し、同じく劉も村人たちに釘をさして。 その後彼らは、おそらく戦場となるであろう村のはずれの荒れ地へと足を向けたのだった。 アヤカシ達は、この周囲をうろうろし小動物や家畜を幾度か襲ったのだという。 まだ、村には被害は出ていないがこれ以上のさばらせておけば被害が出るのは確実だろう。 先んじて、アヤカシを滅するために、彼らが今していることは‥‥。 「んー、リーランはもう少し深く掘った方がいいかもねー。あ、樋速は、罠の再確認お願いね」 てきぱきと指示をするブラッディ。 開拓者達は、一生懸命罠作りに精を出していたのである。 「‥‥こんな深さで大丈夫かな?」 「うむ、あとは木の枝でも使って簡単に二をしておくと、ばっちりアルな」 リーランが掘った穴を確認して、すっぽりそれに蓋をするのは梢。 そんなこんなで半日ほど作業すれば準備は完了。使っていない村はずれの空き地は罠だらけとなって。 しかし、アヤカシが勝手に罠にはまるのを待つわけにはいかないのが難しいところ。 いつ何時どこからか現れるか分からないわけで、となれば取るべき策は一つ。 「み、みなさん。気をつけて、下さいねっ‥‥」 拳を握りながら言うレジーナたちに見送られながら、開拓者達の一部は囮として出発したのだった。 後に残されたのはリーランにレジーナ、カナカに梢、そしてひっそりと離れてたたずむ灰夢(ib3351)だ。 灰夢は、 「‥‥‥‥‥」 ともかく終始無言のまま、弓を構えて配置につくのだった。 気が乗らない依頼のようだが、それでも仕事をこなすのは依頼を受けた身であれば当たり前。 そして姿を隠した灰夢以外の面々は、罠の周囲に身を潜め、アヤカシがやってくるのを待つのだった。 ●戦闘開始 「‥‥リーランさん、罠の所に置いてあるお肉は食べちゃだめですよ?」 「ん、それは分かってる。美味しそうだけど、あれは罠。あれは罠‥‥」 罠の淵に置かれている古い干し肉の塊をじーっと見ていたリーランはカナカに釘を刺されつつ。 待機組の開拓者達は、静かにアヤカシがおびき寄せられてくるのを待っていた。 だが、やはり初めてのアヤカシとの実戦が近づくと思えば、じわじわと緊張が高まるもので。 「‥‥レジーナ、大丈夫?」 「‥‥アヤカシ‥‥は、こ、怖い、です‥‥でもっ‥‥皆、困ってる、から‥‥」 緊張した様子のレジーナの手を、思わずリーランがそっと握れば、 「し、しっかり‥‥しなきゃっ」 ぎゅっと握りかえして気合いを入れるのだった。 そんな中、幽かに聞こえる森の向こうに最初に反応したのは、経験の豊富な梢だ。 「‥‥ん、皆気合いを入れナ。どうやら来たみたいだヨ‥‥」 そういってすっくと罠の前に移動して。 「相手の動きをよく見れば対処は難しくねーアルぜ。落ち着いて‥‥」 そう言いながら、梢はもふらの面を改めてしっかりかぶり、手甲をがちんと打ち鳴らしつつ。 「相手の間合いをハズして反撃するこっちゃ」 「「「はいっ!」」」 梢の言葉に、3人の新米開拓者は気合い十分に応えたのだった。 アヤカシが潜むとおぼしき村周辺の森にて探索中の一行は、ちょうどその頃、アヤカシに追われていた。 「アヤカシが出たアル。逃げるアルよ〜」 化猪にがっつり追っかけられているのは劉だ。 巨体ながら、木々の隙間を器用に駆け抜けて、アヤカシから逃げつつ誘導している模様で。 「もう2匹ほど追加やな。うしろからきとるで」 その頭上、木々の枝を活用して、後方を見渡しながら森を駆け抜けるのは蒔司であった。 そして彼らを併走するのは、初依頼ながら唯一囮に参加した樋速とブラッディだ。 「大丈夫か、樋速〜」 「ああ、あの程度の速度なら追いつかれることはないだろう」 樋速は黒狼の獣人だ。獣人特有の強靱でバネのある四肢を駆使して、森を駆け抜けているようで。 囮役の四名の開拓者たちは一気に森を抜けると、仲間の待つ罠の場所へと近づくのだった。 「危ないアル。突っ込んでくるネ!」 劉は、駆け抜けてきた勢いのまま、身軽に横っ飛びして突進してきた化猪を回避。 そのアヤカシが向かう先には、待機していた梢がいた。 「鬼さんこちらってカ。猪だけに勢いだけは認めてやるがナァ‥‥もう少し、ホネを見せるアルぜ」 梢は冷静にそういうと、先頭の一匹に向かって、苦無を放ったのだった。 アヤカシは鋭く飛来する苦無に正面から突っ込んでしまい、突進がふらつく。 そこを逃さず梢は躱しざまに、交差で放つ連環腿。さらに続けて極神点穴を放つのであった。 練達の連続攻撃にさすがのアヤカシも痛打。そのまま罠に足を取られて、 「新米たち、合わせるネ!」 その言葉に動くレジーナとカナカ。カナカはふらつくアヤカシに空気撃で一撃。 そして、カナカの一撃で転げたアヤカシの鼻っ柱にレジーナが疾風脚をお見舞い。 怒濤の連続攻撃で先頭の一匹はあっさり瘴気に返るのだった。 だが、まだまだ続く後続の化猪。しかし開拓者達の連携はさらに一枚上だったようだ。 「シノビにはシノビの戦い方がある。ならば、泰拳士の戦いぶりもしかと見せて貰おう」 ひらりとリーランの横にやってきたのは蒔司だ。彼はリーランにそう声をかけると、 「頼りにしとるよ」 そう一言告げて、即座にもう一匹の化猪に立ち向かっていくのだった。 いつの間に抜いたのかその手には手裏剣と刀。 罠に敵を誘導するように移動しつつ、まずは手裏剣で遠距離の牽制。 そしてそれを追うようにして、一気に接近して斬撃一閃、そして離脱。 同じ神威人と呼ばれる獣人で、樋速が疾風だとするなら蒔司は暴風だ。 大柄な体躯でありながら、ひらりひらりとシノビの機動力を活かしての一撃離脱。 一撃一撃は軽くとも、すぐさま化猪はその身体を抉られてみるみる疲弊していくのだった。 そこで、アヤカシも起死回生、乾坤一擲の突撃攻撃。 だが、それを待っていた蒔司はひらりとそれを回避、化猪が突っ込む先はもちろん作った落とし穴だ。 そこまで深いわけではないが、自由を奪うには十分で。 「そら、いまやでリーラン!」 「はいっ! てぇぇいぃやぁっ!!」 ずぼっと穴にはまったアヤカシの巨大猪が、なんとか穴の淵から這い上がろうとするその瞬間。 眼前には気力全開で拳を構えるリーランの姿、そして正拳二連の硬い音が響けば。 「ふむ、良う食べるだけあって、なかなかに力持ちよのう」 その二発で化猪をリーランは倒したのであった。 だが戦いはまだ終わっては居なかった。 「立派な猪なのに食べられないなんて、勿体ないアルよ」 アヤカシの攻撃をひらりと躱して、びしっと荒鷹陣を決めた劉は、そのまま反撃の構え。 そこを援護するのはレジーナだ。レジーナは空気撃で足止めを狙っての援護。 だが、運の悪いことにふらついたアヤカシが突っ込もうとしている先にリーランの姿が。 その瞬間、灰夢が放った矢が辛うじてそのアヤカシの突進を押さえ込んだのだった。 見事アヤカシの足を貫いて機動力を殺した矢の一撃。 そこに追いついたレジーナと劉は速やかにアヤカシにとどめを刺すのだった。 そして最後の一匹を相手取っているのは、ブラッディと樋速だった。 「リーラン、同じ泰拳士でもいろんな戦い方があることを覚えておくんだ」 そういってブラッディが抜き放ったのは重厚な片手剣。 そして剣を構えたブラッディは、突進してきた化猪を地昇転身でひらりと回避。 それに合わせるように樋速が空気撃を見舞って足止めをすれば。 ブラッディは間髪入れず、必殺の百虎箭疾歩で目にも止まらぬ刃の突きを放つのだった。 この攻撃には化猪もぼろぼろ、最後はカナカと樋速の連続攻撃の前に瘴気に返るのであった。 ●初依頼を終えて 「化猪‥‥お、大きかった、です‥‥」 はふーと溜息をついて、やっと休めるとばかりに腰を下ろすレジーナ。 「‥‥開拓者の先輩達‥‥凄い、ですね‥‥私、も、もっともっと‥‥強く、なりたい、です‥‥っ」 「ん、わたしも強くならないと!」 依頼で使った罠を解除し、穴を埋めながらそんな会話をしていたレジーナとリーラン。 だが、その次の瞬間、リーランはしゅぱんと走り出していた。 その理由は、 「‥‥リーランさん、できましたよ〜‥‥って気付くの早いですね〜」 原因は、カナカが作っていた宴会料理であった。 アヤカシが無事退治されたことを祝って、村では小さな宴会が行われているようで。 カナカも料理の腕をさっそく振るっていたようなのだが、早くもリーランはもくもくと食べ始めていたり。 「仕事の後のご飯は、とても美味しいアルよ」 「んむ、ほんふぉにおいひいね」 思わず劉の言葉に応えるリーランだが、食べてからしゃべれ、ちぇすと、と梢にチョップを喰らったり。 だが、リーランはとなりの劉に勝るとも劣らない勢いでもきゅもきゅ宴会を食べ尽くしているようで。 「‥‥おなごは、本当に見た目によらん食欲があるのう‥‥」 酒をなめなめ、依頼の疲れを癒していた蒔司は思わずそう呟いたとか。 ちなみに、端っこの方では。 「樋速、せっかくの尻尾が汚れてるじゃない。手入れもやっとく〜?」 ブラッディがそう良いながら櫛をひらひらさせてみれば、 「そうだな。どうせだから手入れをしてもらおうか。綺麗な尻尾は黒狼としての嗜みだからな」 と、樋速は自信の自慢の尻尾をブラッディに委ねるのであった。 そして2人は、すさまじい勢いで食べ続ける劉とリーランをみて、思わずぷっと吹き出したりして。 そして食後、腹八分目だとか怖いことを言うリーランにレジーナは、 「あの、私の、お師匠さんは、泰国の人で‥‥泰国の話、色々聞かせてくれると、嬉しい、です」 「ん、それじゃ、わたしの生まれた街の話ー、おっきな鉱山があってねー」 リーランをはじめ、泰国の方々の話に花が咲き。 ともかく、無事に依頼が終わった後の平和な時間がこうしてのんびりと流れていくのであった。 |