行列請負・開拓者?!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/05 02:05



■オープニング本文

 神楽の都、そこは開拓者達が住まう場所だ。
 開拓者達はみな、ここを拠点としてギルドを窓口に様々な依頼を請け負うのである。

 さて、ここで唐突に、開拓者達の台所事情を。
 独身者も多く、しかも若い者も多い開拓者。
 そんな者たちが大量に集まれば、潤うのは外食産業であり。
 神楽の都においても例に漏れず、最近は新しい料理屋も増えているとか。
 ちょっと気取った料理を食べさせるような場所から、独り者の味方の安い定食屋まで。
 そんな店たちが開拓者達を客として、競い合うこの神楽の都で。
 なんだか、妙に流行らない店がぽつんと一つ。

「なにがわるいんでしょうか‥‥」
 店の立地はまあまあなところ。大きめな道からちょっと入った路地沿いに。
「一応しっかり修行したんですけど‥‥」
 味もまあまあ、ちゃんとした店をいくつか回って修行した店の主人は二十代後半。
 人の良さそうな青年で、のほほんとしたその雰囲気も、いまはちょっぴり沈み気味。
「妹も手伝ってくれているのに、このままならじりじりと‥‥」
 店構えは、それなりに広く、いくつか土間に卓があり、奧には衝立で仕切った座敷もあり。
「しかたない‥‥一世一代の大勝負。なにがいけないのか教えてもらうとしよう!」
 ということで、その店の主人は決めたようで。

 どうやら、この店の運命は、開拓者の手にかかっているようである。

 さてどうする?


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
井伊 貴政(ia0213
22歳・男・サ
富士峰 那須鷹(ia0795
20歳・女・サ
諸葛・紅(ia0824
15歳・女・陰
山城 臣音(ia0942
22歳・男・陰
華美羅(ia1119
18歳・女・巫
空(ia1704
33歳・男・砂
水津(ia2177
17歳・女・ジ


■リプレイ本文

●始まりは試食と共に
 時刻は昼下がり、茄子屋の前には臨時休業の張り紙、そして店の中には、いつも以上の人の姿。
 しかし、彼らはお客ではなく、依頼を受けた開拓者達だ。
 茄子屋店主の伸蔵の前、もくもくとお昼用に作られた料理を食べる一同。
 もちろんお品書きは多いわけではなく、たんなる白飯に味噌汁。
 あとは漬け物に、今日は野菜の煮物なんかをつけてるだけなのだが。
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
 まずくはない、でも格別うまくもない。
 ということで、一同はなにを言えばいいのかに困っていた。
「あー‥‥飯も食ったし、作業に行きますかァ」
 味を確かめると言い出した当本人の空(ia1704)はさらっとそういえば席を立ち。
 そうだそうだと、他の面々もそれぞれの策に従って席を立ちはじめたり。
「あ、あの皆さん?! りょ、料理の味の方は‥‥」
「‥‥ま、そこらへんはちょっと相談しようか、台所借りるよ〜」
 がっちり伸蔵を捕まえて台所に消えるのは井伊 貴政(ia0213)。
 そんなこんなで、とりあえず 茄子屋を立て直すための作戦ははじまったのであった。

●素材と飾り付け
 料理屋たるもの、素材も大事ということで、何人かが材料の仕入れ先を探しに行ったりしている間に。
 素材たる店の看板娘候補、お春嬢を前に女性開拓者達が3名ほど。
 場所は、店の二階のお春の部屋で、ずらっと並ぶのは開拓者達がどこからか手に入れてきた衣装の数々だ。
「人間、魅力的な部分を主張するのも大事ですよ。わたしの場合は、大きな胸とか」
 むぎゅとこぼれんばかりのその胸を見せつけるのは華美羅(ia1119)。
 お春自身は、普通に地味な着物姿の娘さん、さすがに開拓者たちの奇抜な衣装にはびっくりぎみのようで。
「お春、お前はこの茄子屋になくてはならない存在になるんだ」
 きっぱりと言うのは水鏡 絵梨乃(ia0191)。
「故に客の目を引くのはとても重要だ‥‥というわけで、まずは衣装からだな」
 にっこり微笑む水鏡、しかしお春は引きつった笑顔で、
「は、はい。頑張りますけど‥‥このすけすけのぴらぴらの着物は‥‥」
 やっぱりどうしても決心がなかなかつかないようで、
「まぁまぁ、こういうのも悪かないで? 世の中結構張ったりやって、なんでもやってから後悔してみたほうがあとあと楽や」
 諸葛・紅(ia0824)がそういって。見れば彼女も、用意してきた 袖と裾の短めの着物を着て見せつつ。
 そんなこんなで、それならと頷いたお春、なんだか着せ替え人形のようにいろいろ衣装を試してみることに。
 その結果、どういうことになったかと言えば‥‥。
「こ、このあたりで限界です!」
 えー と物足りなさそうな面持ちの開拓者娘3人に対して、やっぱり露出度高めの衣装は恥ずかしかったようで。
 泰国風の着物や、華やかな衣装のいくつかに絞ったようで。
「それじゃ、次は夜もお店をやるからには必須の技術の習得ね」
 仕方無いとばかりに話を変えて、次に華美羅が提案したのは、迷惑なお客のあしらい方だ。
 いろいろと助言をしてから、すぐに練習が始まって。
 たちまち、きゃあきゃあ言いつつ、またしても賑やかな訓練が始まったりしたのであった。

 さて、そんな中、黄色い声を聞きつつ何をしてるんだろうと首をかしげている伸蔵。
 彼は台所で井伊と一緒に、いろいろと料理を作っていた。
 井伊も料理人顔負けに、いろいろと案を出せば、仕入れ先を探しに行ったついでにいろいろと材料を買いこんできた開拓者のおみやげを使ってさらに料理を増やしたり。
「酢の物と、漬け物は切らさないようにして‥‥酒に合うようなものを昼間から多めにつくれば効率もいいかも?」
「そうですね。そうなると煮付けに干物をつかったものとか‥‥」
 卓に並ぶのは、魚の頭の酒蒸しや、干物をつかった簡単な一品といざ作り始めればいろいろとひろがる。
 いつのまにか下りてきたお春と開拓者達も一緒に試食が始まったりするのであった。

 さて、試食をしつつも、いろいろと改造計画は進むもので。
「本を置きたかったんですが残念です‥‥」
 さすがに本を刷ろうとしても、書いたものを何冊も印刷するのはなかなかに難しいことで。
 伝手も時間もたりなかったのかさすがに自著を店に置くことのできなかった水津(ia2177)はしょんぼりと。
 しかし、そんな彼女にもぴったりの仕事があるようで。
 お品書きと広告用のビラ書きをやることになったとのようである。
「ふむ、こんなところかねぇ?」
 ビラ書きを手伝う空。どうやら交渉ごとはうまくいったようで今はビラ配りに集中しつつ。
「しっかし‥‥店をやるっていうのも大変だなぁ?」
 にやりと笑みを浮かべる空、みれば彼らがビラを作るさらに奧で、さらにいろいろと集客のための策をねっているようで。

「うむ、茄子を那須と帰ることによって、おや、もしかして茄子とかけてるのかぃ?店長、いなせだねぃ‥‥と思われるわけだよ」
 そういうもんですか、と首をかしげる伸蔵に対して、語っているのは富士峰 那須鷹(ia0795)。
 富士鷹は店に、茄子をかたどった花器をおいたりして、茄子色で揃えつつ、屋号は那須屋と変えさせるようである。
 伸蔵としては屋号にあまり思い入れも無いために、さくっと看板の表面にかんなをかけて新しく墨で『那須屋』と大書して。
 さらには、今現在流行りの醤油なんかを勧めたりしつつ、
「そうだ、これで気分一新だろう? あたらしい仕入れ先も決まったし、気合いをいれて明日からの新装開店に備えねばの」

 こうして、開拓者達は策を尽くしたようで、いよいよ新装開店の日がやってきたのである。

●新生那須屋
「握り飯いかがですか〜、那須屋特製の握り飯ですよ〜」
 茄子色の着物で、今日は珍しくぴしっとした姿の山城 臣音(ia0942)は握り飯の行商がてらビラを配っていた。
 ビラにはこれを持ってきた人は割引しますの大きな文字が。
 全て手書きだったために、前日までは、ビラ担当の面々は大変苦労したらしいがそれはそれ。
 同じくお弁当用に小茄子の漬け物が入った握り飯を売りつつ、さすがに式をつかっての宣伝は難しいようだが。
 意外と売り上げは良いようで、比例してビラもかなりの数がはけているようだ。
「はー‥‥これは結構腰に来ますね‥‥」
 なかなかにお疲れの様子である。

 さて、店の方はというと、昼間からビラを持ってきた人でそれなりに繁盛していた。
 しかも、いつもよりだいぶ華やかなのは、給仕や宣伝の娘さん達のおかげのようで
「お兄さん、お腹空いてませんか? ここの料理は絶品ですよ」
 切り込みの入った浴衣で人目を引きつつ、水鏡は店の近くでお客さんに声をかけているようで。
 ビラを渡しつつ、
「それに、店員さんが凄く可愛いですよ」
 それに引き寄せられるようにして、地図の入ったビラを手に、店に行けば
 店の前では、横笛を演奏する諸葛の姿。横笛で人目を引きつつ、
「‥‥客商売なんやらもっと腹から声出さんと、こっち見てくれないやろ」
 隣のお春に声をかければ、お春が元気よくいらっしゃいませ〜と声を上げ
「焼き茄子に、煮物っと‥‥伸蔵さん、こんなに忙しいのは久しぶりじゃない?」
 井伊は伸蔵と並んで調理場に立ちつつ、久しぶりの忙しさで、伸蔵も嬉しそうに頷きつつ。
 店の方では、
「‥‥おにぎりもありますよ? 次来たときは割引もしますし‥‥」
 売り子さんをしている水津は、本で読んだ店の大変さを実感しているようで。
 そんなこんなで昼時のおおわらわ、あっという間に開拓者を含めて忙殺されて。

「店をやるっちゅーのは大変やな‥‥」
 そういう諸葛をはじめ、みんなは店内でぐったりのご様子。
 水鏡が用意した芋羊羹と渋いお茶を手に一息を付いて。
「まぁ、今まで流行らなかったってのが嘘のようだなぁ?」
 にやりと微笑む空、しかし、
「‥‥あ、そういえばビラが足りなくなりそうなんですが〜」
 山城の言葉に、空もげんなりとしつつ手伝うほか無いのであった。

 さて、夜はといえば。
 さすがに一般の店で賭場を開くなんてことは出来ないので、それは却下されてしまったのだが。
 普通に昼に客足が多く、ビラや客引きの効果もあってなかなかに繁盛しているようで。
 もちろん、酔客もちらほらいるようだが、そういう輩には練習の成果かお春もなかなかうまい対応を見せて。
 そんなこんなで、新装開店はなかなかにうまく進んだようである。
「経営努力は継続することが大切や、ずっと出来るところはつづけてなぁ」
 そういうのは諸葛、もちろん頷く伸蔵とお春で。

 それから数日後、店はなんとかうまい具合に受け入れられたようで。
「‥‥ひいきにさせてもらいますね」
 水津をはじめとして、通っている開拓者達の顔も見え。
「兄貴殿、良い肴はあるか?」
「へい、今日は太刀魚とイカのいいところが入ってますよ!」
 活気ある店に響く伸蔵の声に、富士鷹は笑みを浮かべて。
 どうやらそれなりに店の立て直しはうまくいったようである。