海弦山からの防備
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/25 20:05



■オープニング本文

 その日、開拓者ギルド受付の青年・利諒が幻雪楼に呼ばれたのは、気候の不安定な初夏の早朝のことでした。
「早急な仕事で、朝早くからすいません。宜しくお願いします」
「げ、穂澄ちゃん‥‥いやあわわ、穂澄さんも揃って、どうされたんですか?」
 げ、と言われたことに対して少し膨れる様子を見せる伊住穂澄、二人の様子を見て微かに喉の奥で笑いを漏らしてから、煙管盆を引き寄せて灰を捨てると、利諒を呼び出した当人である東郷実将は中へ入るように促して。
 伊住穂澄は芳野の街で領主代行をしている女武者、そして東郷実将は武天内にて武力を持って賊等の追捕を行い治安維持に努めている芳野の現領主その人です。
「急ぎ頼みてぇ仕事が入ってな。お前ぇも海弦山は分かるな?」
「えぇ、そりゃまぁ‥‥」
 実将の言葉に頷く利諒、海弦山とは武天にある芳野という街の側、海に面した山のことで、海に向かって弓引くようにせり出した崖が続いていることからついた名前とか。
「私の元に明芳の村より知らせが届きました。海弦山と隣接した森の中にある村ですが、近頃不審な者を村の付近で目撃していると‥‥そこでおじ様に報告し調査頂いたのですが‥‥」
「かなり規模がでけぇ。それにどうも差し迫ったことになっているようでな。だが他の件もあって回っている者も居て手が足りねぇ」
「無論動かせる者もそれなりにいますが、芳野の警備が手薄になるほど動かすわけにもいきませんし」
 二人の言葉に依頼書へと筆を走らせながら口を開く利諒。
「えぇと、それで、具体的にはどんな‥‥?」
「手の者が賊の本拠について探りを入れて大凡の位置は目星が付いている。よって、まず一つはこの本拠を押さえる為の手が借りたい」
「今一つ‥‥既に明芳の村へ、賊が調査に訪れているので一刻の猶予もありません。村の護衛のために手を借りたいのです」
「では、手入れと護衛、って所ですね。分かりました、依頼出しておきます」
 頷く穂澄、利諒は改めてそれぞれの情報を確認すると抜けの内容に注意深く依頼書へと筆を走らせるのでした。


■参加者一覧
音有・兵真(ia0221
21歳・男・泰
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
露草(ia1350
17歳・女・陰
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
御神村 茉織(ia5355
26歳・男・シ
柳ヶ瀬 雅(ia9470
19歳・女・巫
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
アレン・シュタイナー(ib0038
20歳・男・騎


■リプレイ本文

●罠の森
「しかし、厄介なもんに目をつけられたもんだな」
 嘆息しながら、村を見渡す御神村 茉織(ia5355)は視線をめぐらせると、
「ったく、出来たての村襲って、めちゃくちゃにするつもりかよ、許しておけねぇ‥‥」
 と言って、彼の前に立つ女性に向き直った。
 彼の前に立つ女性は、伊住穂澄。若き領主代行で今回の依頼主である。
「伊住の姐さん、宜しくな」
「はい。こちらこそよろしくお願い致します。仕掛けの進み具合はどうですか?」
 そういう伊住穂澄に、御神村は現状について説明を始めるのだった。

 開拓者たちは、依頼を受け村に到着するとすぐに準備に取りかかった。
 今回、攻めてくる敵の数は不確定ながらある程度は分かっている。
 結果、数で劣る村の防衛戦力で賊を撃退するためには、罠と奇襲で攻めることとなったようで。
 開拓者達はそれぞれの才覚を活かして、敵が進むであろう経路に罠を仕掛けているのである。
「さて、こんな所ですかね‥‥ま、いつも通りセコくヤらせてもらいますよ、相応にね」
 下草を結び合わせるような単純な罠を沢山作っているのは真珠朗(ia3553)。
 気付けば、簡単に避けられてしまうものだろうが、数が多ければ引っかかる可能性も上がるわけで。
「おや、ちょーどいい大きさの石が。これをこう置いてと‥‥」
 そして、転んだ先の頭が当たるであろう石を置いたり、手の位置に杭を作ったりもすれば。
「‥‥そいつは、なかなかえげつないな」
 思わず音有・兵真(ia0221)苦笑するほどの効果的な罠のできあがりである。
「んー、良心的じゃないすか? 首の位置には仕掛けてませんし」
 石や杭を巧妙に隠しつつ、そういう真珠朗に音有も、まあ手加減する必要は無いしな、と答えるのだった。
 もちろん音有もいろいろと罠の準備を手伝い中で、完成した罠を丁寧に隠して。
「向こうに如何に見つからないようにするかだな」
 と、気をつけて罠作りに努めるのであった。
「皆の希望が詰まったエエ村やのにな‥‥狙うなんてまったく酷い話や」
 樹上で、頑丈な材木を縄で吊した罠を工夫しているのはジルベール(ia9952)だ。
 木工が得意で手先の器用な彼にとってはこうした罠はお手の物。
 縄を切ればたちまち大きく勢いをつけて材木が敵にぶつかるという罠を幾つも作りつつ。
 そして、そうした罠の位置を地図にしたためている女性が2人。
 罠の場所に村人が近づかないように注意しては居るものの、自分たちが掛かっては台無しで。
「鳴子の位置は、ここの他にどこでしょうか?」
 露草(ia1350)は淡々と、罠の位置を記していく。
 それは単に罠の位置を記録しているだけではなくて、
「それなら、この辺りに地縛霊を仕掛けるのが効率的でしょうね」
 と、陰陽師の技を発動。物理的な罠に加えてさらに術の二段構えである。
 どれだけの時間的余裕があるか分からないが、その中でなるべく多く罠を仕掛けようとする開拓者達。
 そのため、一部ではあるが領主代行の伊住が連れてきた守備兵の手も借りて、急いで準備をするのであった。
 そして、可能な範囲で罠を仕掛け終わって。
「では、一度戻りましょうか」
 柳ヶ瀬 雅(ia9470)の言葉に一同は頷いて。
 地図と、部下たちとともに一度村へと戻るのだった。

 これが御神村が告げた準備の現状であった。
「ってぇことで罠の様子はこんな感じだな」
 御神村は伊住に仲間たちが作った見取り図を渡して。
「襲撃時には念の為、村人には一か所に避難して貰っといた方がいいんかね?」
「ええ、村の中央に集まってもらうことにしています。その方が守りやすいですから」
「なるほど。ま、後は部下の配置だが、姐さんに判断任せるぜ」
 そういう御神村に、伊住はお任せ下さいと請け負うのだった。
 こうして準備は完了。
 あらかじめ知らされていた予想時刻からすればそろそろ賊たちが村へと踏み込む刻限である。
 それを迎え撃つためにも、開拓者達はそれぞれの持ち場へと移動するのであった。

●戦いの始まり
「賊というのは本当にどこにでも現れますわね‥‥」
 持ち場へと急ぎながら、柳ヶ瀬は思わずそう嘆息する。
「多くの人が汗水流してこれからだというような場所を襲おうと言うのなら、黙ってはおれませんわね」
 そう柳ヶ瀬が言えば、
「ええ、まったくですわね。そんな不届き者は村に近づけさせたりしません!」
 全力で頑張らせていただきます、と気合い十分に答える露草。
「あの村にはな、ジョイって牛がいるんだ。名付け親は俺だ」
 戦いを前に、長大なクレイモアを手にしつつアレン・シュタイナー(ib0038)がそういって。
 アレンとともに持ち場に急ぐのは王禄丸(ia1236)だ。
 奇しくも、牛の面をしていたのだが、移動を前に面を外しておどろおどろしい別の面に切り替えて。
「‥‥なるほど。その格好なら脅しが利きそうだな」
 とアレンが言うのに静かに頷くのだった。
 そして、最後に残っていたのはジルベール。
 避難所として使われる村中央の集会所へと急ぐ不安そうな子供たちに。
「‥‥おにーさんたちが悪い奴らは追っ払ったげるから、安心してな」
 と笑顔で声をかけて、彼もまた森へと急ぐのだった。

 開拓者達は森で、いくつかの小部隊に別れて持ち場についていた。
 罠が様々な場所に仕掛けてあるが、その場所はすでに頭に入っている。
 彼らの目的は、罠と奇襲で襲撃してくる賊たちを分断し各個撃破していくというものだ。
 そして、その要を務めるのが斥候役。
 賊の接近を感知し、さらに罠へとおびき寄せるという危険な役目である。

 樹上に身を潜めていたのは御神村と真珠朗だ。
 2人は静かに隠れていれば、見つからないようにお互い姿を偽装して、じっと賊の接近を待っていた。
 そして、不意に御神村がそっと手信号で真珠朗に合図をだす。
 どうやら御神村のシノビとしての超越聴覚が敵の接近を捉えたようであった。
 ゆっくりと樹上を2人で移動していけば、そこのは賊の集団が。
 見たところ、当初の予想より僅かに多い人数の集団のようであった。
 だが2人はひるむことなく、淡々とそれぞれの仕事のために集中するのである。
 まず御神村は、手に持っていた石を投げた。
 その石は、藪や木の幹にあたって、音を立てて。
「‥‥おい、なんか物音がしたぞ。調べてこい!」
 案の定、賊の偉そうな奴が下っ端に命令すれば、しぶしぶと従う部下。
 そして、
「おや、あそこはあたしが仕掛けた罠の所ですな」
 にやりと笑いながら真珠朗が胸の内で呟けば、すぐさま上がる下っ端の悲鳴。
 どうやらあっさり罠に引っかかったようで。
「ちっ! 罠か。面倒なコトしやがる‥‥いいからとっとと進め!」
 しかし、賊の偉そうな奴らはそんなことをものともせずに、部下たちに進むよう命令したのだった。
 御神村や真珠朗が注意してみれば、どうやら志体持ちは6名ほどのようだ。
 見るからに偉そうで良い装備に身を固めている。
 そして、それ以外は訓練されているとはいえ志体を持たない賊のようだが、彼らはただただ従うだけで。
 どうやら、賊は恐怖で縛られた上下関係があると2人は気付くのだった。
 おそらく、罠があろうと敵がいようと志体持ちの賊は部下を捨て駒に使うことで有利に闘うのだろう。
 しかし、そうなればなおさらに彼らを分断する必要があるということで。
 2人は直接行動に移るのだった。

●激突
「がっ!」「ぐぇっ!!」
 響く断末魔の叫びが二つ。
 それは、罠を慎重に避けようとしていた賊の下っ端2人の上げたものであった。
「くそっ、てめぇら開拓者だな!!」
 すぅっと森の暗がりから姿を現した御神村は、一刀ですでに罠で怪我をしていた賊を斬り倒し。
 同じように真珠朗は、下っ端の賊を拳の一撃で昏倒させて。
 そして2人は即座に森の奧へと走りさるのだった。
「追え! 早く追いかけろ!!」
 そう叫ぶ賊の志体持ち、罠が仕掛けられていると分かっているので部下たちは嫌そうだが。
「おら! 早くいかねぇと、叩っきるぞ!」
 武器を抜いた志体持ちの賊に脅されると、慌てて彼ら2人を追いかけるのだった。

 その後、さんざんな目にあいながら賊たちは2人の姿を追っていた。
 なぜだか妙に殺傷能力が高い単純な罠が続き、それに慣れてくれば、今度は木の上から材木振り子が。
 しかし下っ端の賊たちがボロボロになろうが、賊の志体持ちからすればこれは想定内だ。
 彼らはいつも、こうして下っ端を捨て駒に使って難局を切り抜けるわけで。
 たとえ開拓者が相手でも、部下を盾に使えば、自分が有利だという自負があるのだ。
 だが、次の開拓者の策はそうした行動を予想したかのようなもので。
 まず引っかかったのは、先頭を進んでいた下っ端たちだった。

「うわっ! なんでこんな所に氷が?」
 この夏の時期に、凍った水たまりに足を取られた下っ端は驚いてそう声を上げて。
 柳ヶ瀬の術によって作られた凍りに足を取られて数名が急に転んでみたり。
 すでに罠で神経質になっている彼らはさらに慎重に進もうとしたのだが。
「薙ぎ払うで。皆巻き込まれんといてや!」
 次の瞬間、そう仲間に声をかけつつ放たれたジルベールのバーストアローが彼らに直撃したのだった。
 自慢の弓を泥で汚してまで潜んでいたジルベールが放った衝撃波を放つ矢の一撃。
 それには満身創痍の雑魚たちはなすすべ無く吹き飛ばされて転倒して。
 だがそれで開拓者の行動は終わらなかった。
「‥‥何人ほど減らせたらいいかな」
 瞬脚を使って、彼らのど真ん中に現れたのは音有だ。
「回りは敵だらけだ遠慮なく行こうか」
 突然現れた彼にとっさに反応できないで居る賊をよそに、大きく構えを取ると音有は大きく足を踏み出す。
 どしんと、地面を強烈に踏みつければ、そこから再び広がる強烈な衝撃波、崩震脚の一撃だ。
 柳ヶ瀬の氷で転び、ジルベールのバーストアローで転び、そこにこの一撃。
 賊の下っ端たちは問答無用で吹っ飛ばされて次々戦闘不能になるのであった。
 もちろん、そのままにしておく賊たちではない。
 志体持ちの賊が次々に襲いかかってくるのだが。
 柳ヶ瀬の術による援護と、ジルベールの牽制の矢に支えられ、音有はその場をすぐに離脱。
 賊の下っ端たちは半ば壊滅し、残るは志体持ちばかりとなるのだった。

 もちろん、賊の志体持ちたちはこれまで幅を利かせてきたことからもそれなりの実力は持っていた。
 しかも、長く賊稼業を続けて、血塗られた経験を重ねてきているのだ。
 生半可な開拓者であれば返り討ちにしてきたのだろう。
 だが、今回は勝手が違っていた。開拓者の罠と奇襲に対して後手に回ってしまったのだ。
 そんな中、志体持ちの賊たちの前に現れたのは、露草だった。
 ところどころに仕掛けられた鳴子で、開拓者達は彼らの場所を容易に知ることが出来る。
 そんな状況で、彼女が放ったのは斬撃符だ。
 かまいたちの一撃は志体持ちの賊を襲う。
 だが重装備の彼らには、あまり大きな効果を与えることなく、逆に彼らの注意を引くことになって。
 彼らは、残った数少ない部下たちを盾に罠を強引に突き抜けようとするのだが。
 そこで発動したのが、彼らの大部分を巻き込んでの地縛霊だ。
 あらかじめ、露草が仕込んでおいた罠が最後のとどめとばかりに下っ端たちを倒して。
 残るはちりじりになった下っ端の生き残りと志体持ちだけ。
 そしてそこに姿を見せたのは、今まで鎧で音を立てぬように潜んでいた王禄丸とアレンだった。
「‥‥対人は不得手だが、やるしかないか」
 ゆらっと隠れ潜んでいた彼が姿を見せれば、その顔には百目の覆面。
 思わず一瞬志体持ちの賊が気を取られた瞬間、王禄丸の姿は無かった。
 彼は一瞬で懐に潜り込むと、賊の厚い装甲の合間に刃が滑り込んでいた。
 シノビの剣技、影の一撃は見事に賊の急所、心の臓を一突きしたのであった。
 一撃で絶命する賊から刃を引き抜けば、吹き上がる鮮血。
「‥‥しかしよく切れる。嫌な刀だ」
 そう良いながら王禄丸は次なる標的に向かい、
「怯えるがいい、逃げ惑うがいい。百目の悪夢に唸され、悪事を恐れる子供のように」
 血の滴る刃を手に、そう告げる王禄丸に思わず賊も後ずさるのだった。

 一方アレンはおびき寄せられた賊を前にクレイモアを振り上げて、
「安心して逝きな。お仲間は送ってやるよ」
 剛の一撃で、賊を斬り倒していた。
 盾として志体持ちの賊が突き飛ばした下っ端ごとぶった切る一撃で次々下っ端事賊を斬り倒し。
 返り血に塗れた彼の姿は、まさしく戦鬼。
 戦いの興奮ににやりと笑みを浮かべながら、ふたたびアレンはクレイモアを振り下ろすのだった。
 こうして一度混乱に陥った賊を討伐することはたやすかった。
 アレンや王禄丸によって志体持ちの数名が討ち取られれば、残る志体持ちや下っ端は逃げ出そうとして。
 だがそれを許す開拓者ではない。
 ジルベールの矢が飛び、真珠朗の拳と御神村の刃でさらに数は減っていって。
 そして、彼らが逃げようと飛び出した村の外、そこにはすでに伊住穂澄とその部下が。
 露草が知らせのために噴いた呼子笛で彼らはすでに待ち構えていて。
「刃向かう者は切り捨てて構いません! 1人たりとも逃がしません!」
 その言葉で、残った数名の賊立ちもあっという間に制圧されていくのだった。

 こうして、村が戦場になることは無く無事賊は全滅し。
 開拓者の怒濤の奇襲攻撃が功を制したようで、見事依頼は成功したのであった。