割れ物注意!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/16 17:09



■オープニング本文

「私の器たちをなんとか救って下され!」
 そんな言葉とともに、ギルドの受付に泣き言をいっている男が1人。
 それなりに瀟洒で落ち着いた身なりのその青年は、名を荒田作之助。
 今年で27になる、自称芸術家であるとか。
 生まれはとある商家の次男坊、いろいろと目端は効くのだがあまり落ち着きのない性分で。
 結果、いまでは茶器を作ったり、絵を描いたり書を書いたりと気ままな暮らしをしている男だという。
 で、なんでそんな男がギルドにやってきたのかというと。
「わ、私の窯にアヤカシ達がやってきたのだ!」
 つまり、そういうことである。

 神楽の都の外れ、ちょっとした森の中に、彼の住居兼作業場があった。
 さほど名声があるわけでもないが、食うには困らない程度の稼ぎがあるという荒田。
 ある日、新しい茶碗を焼いている窯の具合はどうだろうと小屋の裏手に回り込んでみたところ。
 ふらっと現れた小鬼の一団とこんにちはしたそうな。
 小鬼の一団は、小屋の周囲を物珍しげに見て回っているようで、荒田は慌てて逃げ出して。
 そして、今に至るというわけだ。

 まだ、小鬼達は小屋を荒らしているわけではないようだが、それも時間の問題。
 泣きそうな荒田作之助のためにも、一刻も早く小屋の周囲のアヤカシを撃滅しなければなるまい。
 だが、一つ注意事項が。
 小屋の内外は、壊れ物が多数ある。
 書画をはじめ、作りかけの茶器や乾燥中の器の類。
 小鬼達がそれを壊さないように急ぐのはもちろん、戦いの中でそれを壊すのは避けねばなるまい。
 慎重に、しかし迅速に。
 なかなかに厄介な依頼のようであるが、全ては開拓者の行動にかかっているのだ。

 さて、どうする?
 


■参加者一覧
大蔵南洋(ia1246
25歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
亘 夕凪(ia8154
28歳・女・シ
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
ロムルス・メルリード(ib0121
18歳・女・騎
櫻吏(ib0655
25歳・男・シ
式守 麗菜(ib2212
13歳・女・シ
ネリク・シャーウッド(ib2898
23歳・男・騎


■リプレイ本文

●依頼を前に
「荒田殿。まずは家の間取りと屋敷周辺の様子について教えて頂きたい」
 依頼解決の基本は情報収集から。
 というわけで大蔵南洋(ia1246)は、依頼人の荒田から話を聞くところから始めるようで。
「えーと、間取りですな。紙に書くとこんな感じで‥‥」
 ちなみに場所はギルドの中に設けられた相談用の個室だ。
 依頼人との話し合いや、開拓者同士の連携を相談するために使われる場所のようで。
「では荒田殿、重点的に守るべき品・調度があればその場所も教えていただきたい」
「作業場の奧の棚に、師からお褒めいただいた器があったような‥‥あとは新作がこことここに‥‥」
 そういって、荒田は簡単な地図に印をつけていく。
 それを見ながら一同は作戦を練るのであった。

「道具に興味とは‥‥また付喪の様な小鬼だねえ、そりゃ」
 厄介だな、と眉根を寄せる亘 夕凪(ia8154)。だが彼女の言葉に応えたのは、無邪気な一言だ。
「焼き物に興味でもあるんでしょうか? アヤカシに分かるとは思いませんが‥‥」
 首をかしげつつ、式守 麗菜(ib2212)がそういえば、
「まあ、確かにわかりそうもないわな」
 亘はそういいながら、荒田が持ち出したいくつかの茶器を眺めてみたり。
 たしかに、こうしたものの目付は素人には難しいもので、
「‥‥やっぱり、さっぱりわかりません」
 と首をかしげる式守。
「どうして微妙に形や模様が違うだけで金額の桁が一つ二つ上がったりするんでしょうね」
 そんな式守の言葉に、一同もなぜだろうと首をかしげる様子には、荒田も苦笑するしかなかったり。
 ともかく、ある程度品物の目星はついたようで、一同はさっそく厳芭へと向かう。
 荒田の案内に従って進めば、すぐにその場所は見えてくるのだった。

●それぞれの意気込み
「これが初めての依頼‥‥いきなりこんな所で躓くなんてこと、ないようにしたいわね」
 現場が近くにて、改めて意気込むのはロムルス・メルリード(ib0121)。
 いかに訓練を重ねていようと初の実戦となれば緊張するもの。
 ロムルスはその瞳を伏せつつ、思わず武器を握る手に力が入るのだが。
「ロムルス、初依頼だからってあんまり気張りすぎるなよ?」
 そう声をかけたのはロムルスと幼馴染みのネリク・シャーウッド(ib2898)だった。
「小鬼退治‥‥最初の一歩はこんなもんだろ。お袋もそう言ってたし」
 そんな飄々としたネリクの言葉に、ロムルスは、
「‥‥分かってるわよ。ネリクの方こそ、もうちょっと気を引き締めた方が良いんじゃないかしら?」
 ぴしっと手厳しく返すのだった。
 幼馴染みだからこその気心のしれたやり取りをすれば、緊張もほぐれるものだ。
 改めて、ロムルスとネリクの2人は緊張感を保ちながら、依頼の現場へと意識を向けたのだった。

 今回の作戦の要は、
「アヤカシは数も種類も驚くに値するものはない。問題なのは壊れ物が多数あるということだな」
 と、大蔵が言うように、如何に静かに小鬼たちを無力化するかが重要なのだ。
「自分がこの世に残そうとしたものを壊されるのは、悲しいことです」
 そういって、静かに進み出たのはシャンテ・ラインハルト(ib0069)。
「そうならないように、尽力しましょう」
 そういって荒田を感激させている彼女だったが、実は彼女は今回の策の鍵となる人物で。
 とにもかくにも、一行はそれぞれの役目を果たすべく配置につくのだった。

「‥‥どうか宜しく頼みましたぞ」
 不安げに、彼らの背を見送る荒田、そんな彼に声をかけたのは黒衣のシノビだ。
「此れでは折角の芸術品‥‥が泣きましょうや。せいぜい割らぬよう、推して参ることと致しまする」
 くつくつ笑いながら言ったのは櫻吏(ib0655)。
 そして櫻吏は心配げな新米芸術家をあとに、配置へ向かうのだった。

●静かな戦いの始まり
「天儀のアヤカシであっても、子守歌は効くはずなのですが‥‥本当に大丈夫でしょうか‥‥」
 かすかに心配を覚えつつ、改めてシャンテは、静かに前線に立って。
 すでに、仲間たちは小屋の周囲に散らばり静かに待機しているはずであった。
 今回、如何に穏便に小鬼を無力化するかのその要、それはシャンテの子守歌である。
 その調べに力を込める吟遊詩人ならではの技を持って、小鬼達を無力化しようというのである。
 静かに決意を固めたシャンテは、龍笛を構えると静かに夜の子守歌を奏で始めるのだった。
 龍笛の素朴な音色で奏でられるゆったりとした曲が響きわたる。
 それを合図とするかのように、他の開拓者達も動き始めるのだった。

 同時に響いたのは、屋敷の前後に位置していた2人のサムライが放った裂帛の気合いだ。
「こちらだ、小鬼ども!」
「さあ、かかってきな!」
 咆哮で小鬼をおびき寄せようとするのは大蔵と亘だ。
 子守歌で眠らなかった小鬼達への囮となるのが2人の目的である。
 この作戦は見事功を奏して、小鬼はぞろぞろとおびき寄せられていくのだが。
 だが、その数は当初想定していたより幾分多いようであった。
 どうやら荒田がこの家を離れている間に、さらに追加されたようで。
 ともかく、亘が前面の小鬼を引きつけるように動きつつ誘導。
 そして、大蔵は乾燥所からさらに家の内部へと道を造るように小鬼達を蹴散らしていこうとするのだった。
 小鬼達は単独の能力は高くない。
 故に、子守歌によって眠りに落ちるものは多く、さらにそれを逃れても咆哮によっておびき出されがちだ。
 だが、小鬼達は個々の戦闘力が弱い代わりに、その数が脅威である。
 盾をかざし、兜割で小鬼を打ち据える大蔵。
 接近した小鬼を、盾の一振りではじき飛ばし、よろけた小鬼を兜割で一撃。
 歴戦の開拓者だからこその無駄のない動きはまさしく見事であった。
 だが、咆哮におびき寄せられた小鬼が、意識の及ばぬ背後から一撃をすれば、怪我は必至である。
 そこで、旨く連携したのはロムルスとネリクだ。
 騎士の2人は、サムライに比べて防御に長けていると言っても良いだろう。
「小鬼にやるには惜しいが‥‥これもしかたないな」
 ネリクは、用意した肉を使ってさらに小鬼を引き離す。
 彼は料理が得意らしく、しっかりと下ごしらえのされた肉は小鬼達にも魅力的に映ったようで。
 咆哮や肉に惑わされて右往左往する小鬼達、そこに突っ込むのはサーベルを掲げたロムルスだ。
 オーラを使って強化したロムルスの一撃は小鬼達をかるがるとはじき飛ばしていく。
 こうして2人は連携し、守りを固めながら大蔵や亘の援護を行うのであった。

 だが、如何に咆哮でおびき寄せたり、子守歌を使用しても、偶然それを逃れる運の良いやつもいるもので。
 その小鬼は、たまたま少し遠いところに居たせいか、効果をうけていなかったのだ。
 やってきた開拓者をみて、敵意をむき出しに、まっすぐ棍棒を振りかざして突っ込んでくる小鬼。
 どうやら小鬼の中でも、体格が良く武器を装備した強い個体のようだ。
 向かう先は、壊れ物満載の乾燥台。だが、もちろんそんな愚挙を許す開拓者ではなかった。
「小鬼なんかに器の良さがわかるわけ‥‥ないよな!」
 とんっと軽やかに地を蹴る足音、瞬脚を使った泰拳士にのみ出せる高速体術。
 軽やかに、でかい小鬼の進路に割り込んだのはブラッディ・D(ia6200)だ。
 高速移動の勢いそのままに、小鬼のどてっぱらに叩き込んだのは百虎箭疾歩。
 走ってきた勢いそのままに、小鬼は吹っ飛ばされていくのであった。
「やれやれ、壊れ物を守って闘うのもらくじゃないねぇ‥‥ま、とっとと倒しちまうか!」
 そうブラッディは呟くと、再び素早く走り出し、次なる得物を狙うのだった。

●あっさりと決着
 本来ならば、得物を振るうには狭すぎる室内での戦いとなったであろう今回の依頼。
 だが、小鬼達を無力化させたのは剣ではなく子守歌だった。
 まずは、シャンテの子守歌で小鬼の一部がぱったりと眠らせることに成功。
 そしてその後に続いたのは咆哮による誘い出し。
 小屋から話してしまえば小鬼達は恐るるに足らずだ。
 そしてそうした策から逃れた小鬼は、ブラッディの高速戦闘によって排除する。
 作戦は万全の構えだった。
 だが、まだ安心は出来ない。
 小鬼達がうじゃうじゃといるせいで、なかなか室内に入れない大蔵。
 彼が焦るように、室内の鬼を無力化出来たかどうかはまだ謎なのだ。
 肝心要の室内の無力化、それは2人のシノビの働きに掛かっていたのである。

「えい! ちょっとどいてて下さいね」
 入り口付近で寝ている小鬼を蹴り出しながら、まっすぐに小屋の中に駆け込んだのは式守だ。
 苦無を手に、薄暗い周囲を伺いつつ、いそいで潜入。
 正面から抜足と早駆を駆使して、室内に入り込んだ式守が見たのは、ろくろを遊んでいる小鬼達だった。
 室内に残るはたったの二匹。だが、
「あ、それは‥‥」
 小鬼が手に持っているものを見て、式守は一瞬躊躇した。
 どうやらそれは、最近作られた新作の茶器のようで。
 なぜ持っているかは分からないが、このまま闘えば被害が及ぶのは目に見えていて‥‥。
 だが、式守はさくっと気持ちを切り替える。
「室内で戦闘をして一つも割らずに‥‥というのは、やっぱり無理でしょうね」
 ということで、さらなる被害を出さないための、必要な犠牲と決めて、一気に間合いへと踏み込んだのである。
 本来ならば投げるための苦無を逆手に構え、一気に小鬼の懐へ。
 これ以上の被害は出さないようにと、体ごとぶつかるように、裏口から外に小鬼をはじき出して。
 直接苦無を小鬼に突き立てつつ、一気に式守は外に飛び出すのだった。
 だが、小鬼は二匹。
 無防備な式守の背中を狙うもう一匹の小鬼。そして式守に吹っ飛ばされた小鬼の手からこぼれる茶器。
 そこにすっと音もなく割り込んだのは櫻吏だった。手裏剣を放って、式守を狙っていた小鬼を牽制し、
「‥‥器物に罪はありませぬ故、お救い致しましょう」
 と、地面に落ちかけていた茶碗をぎりぎりで拾い上げるのだった。
 そして式守といっしょに裏口から転がり出た小鬼は、ちょうどやってきた大蔵の一撃で倒され。
 のこるは残党退治と相成ったわけである。

「逃がさないよ。他でどんな悪さをするかわからないからねぇ」
 直閃を一撃、逃げようとした小鬼を翡翠の輝く美しい刀で一閃する亘。
 咆哮におびき寄せられてやってきていた小鬼達もいつしか殆ど倒されていたのだった。
 小鬼達の群れの中で健闘したのは背中合わせに闘っていた騎士2人。
 孤立しかけていたロムルスとネリクは、背中合わせになって小鬼達を蹴散らしていたのである。
 その結果、大蔵や亘に小鬼が集中することなく、効率よく撃破できたようで。
「‥‥こいつで終わったかね? 皆お疲れさん。‥‥‥ロムルスもお疲れ」
 小鬼の最後の一匹が倒されたのを確認してネリクが刀を納めれば、
「何かを守りながら傷つけないように戦うのも楽じゃないわね‥‥ネリクもお疲れ様」
 と、小屋から笑顔を覗かせている他の開拓者をみて、笑みを軽く浮かべるロムルスであった。

●戦い終わって
「特に‥‥被害に遭ったようなものはなさそうですね。‥‥掃除は必要かもしれませんが」
 小鬼達を掃討して、シャンテは一足先に小屋の中で、被害確認をしていた。
 慈善に教えて貰った大切なものが無事なのかどうかを確認しつつ、それをひとまずとりだし確認して。
 いまだ周囲では、サムライや騎士の面々が、安全確認のために討ち漏らしたアヤカシが居ないか調査中。
 しかし、待てないとばかりに櫻吏と式守に案内されて、依頼人の荒田が小屋へとやってくるのだった。
「さて、なんか壊れたもんとか大丈夫だったかい?」
 ブラッディが興味深そうに作業場なんかを見て回りながら、そう荒田に問えば、
「ええ‥‥ああ、とりあえず目立った被害はないと‥‥」
 と確認に忙しいようすであった。
 そんな様子に、やれやれとブラッディは首を振って。
 そして、周囲の安全を確認し終えた一行はやっと依頼が終わって一息つくのであった。