初夏の大酒飲み会
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 易しい
参加人数: 33人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/14 17:48



■オープニング本文

 日々、気温は暖かくなり、梅雨入りまではもう少しといった気持ちの良い季節。
 日差しは時に暑さを感じるほどで、こんな季節はまさしく行楽日和といたところだ。
 そんなところに目をつけたのは、最近神楽の都に出来た酒屋さん。
 酒屋といっても、酒を売るだけではない。
 聞くところによれば、武天のとある街にある大きな酒造業者が自ら進出した店だということ。
 安価で大量に、良い酒を売るというのが、この酒屋の売りである。
 名を芳池酒店、主人の名は新六。
 さあ、新たな天儀酒を大々的に売りだそうと考えて、さてどうするか。
 まずは、誰も名を知らないその酒を広めようじゃないかと新六は考えたのだった。
 ということで、ひとつ派手な催し物を売ってやろうじゃないかというわけである。

 まず、神楽の街の通りの面した広場を借り切ってみた。
 そこでは、日中の暑いうちから格安で、彼ら芳池酒店の天儀酒を飲めるというわけだ。
 周りには、出店を出して貰って、賑やかに飲んで貰えば宣伝効果もばっちりで。
 さあ、この催し物の成功にこそ、店の浮沈は掛かっているというわけだ。

 だが、問題がいくつかある。
 酒は百薬の長であるが、酔った人間は手が掛かるのは誰もが知ること。
 この神楽の街には開拓者が多いときいうし、そうした武芸者が暴れればかなり大変である。
 なら、先に彼らを味方につければいいのだ。
 ということで、ギルドに一枚の張り紙が出されることとなったのである。

『開拓者の皆様は、催し物中、酒はタダで提供させていただきます!』

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 無月 幻十郎(ia0102) / 鈴梅雛(ia0116) / 篠田 紅雪(ia0704) / 白拍子青楼(ia0730) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 斉藤晃(ia3071) / フェルル=グライフ(ia4572) / 狼(ia4961) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / ジェシュファ・ロッズ(ia9087) / 木下 由花(ia9509) / ベルトロイド・ロッズ(ia9729) / シュヴァリエ(ia9958) / アルクトゥルス(ib0016) / アレン・シュタイナー(ib0038) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 明王院 浄炎(ib0347) / 明王院 未楡(ib0349) / キオルティス(ib0457) / 不破 颯(ib0495) / 琉宇(ib1119) / 成田 光紀(ib1846) / マヤ・バケット(ib2393) / 央 由樹(ib2477) / 蓮 神音(ib2662) / 闇 虎焔(ib2878) / 有月 御世(ib2879) / 立花道貫(ib2902) / 鷏(ib2903) / 残龍(ib2909) / 森仁(ib2926) / 木ノ葉(ib2932


■リプレイ本文

初夏の大酒飲み会  リプレイ

●酒と肴
 酒。それは、人類が生み出した英知の結晶。
 酒。それは、いかなる病をも癒す百薬の長。
 酒。それは‥‥まぁ、ご託はいいからまず呑んでみなければ始まらない物である。

 ということで、ここ神楽の都において催された大酒飲み大会。
 なんのことはない、新しい酒店が売り出す酒の販売促進のための催し物である。
 そこそこ羽振りの良い店のようで、こうしてほぼ無料で酒を振る舞うとはなかなか豪儀。
 折しも、夏の日差しが照りつける暑い日が続く中、大会は大いに盛り上がっているようであった。
 だが、催し物とあれば多くの人が集まる物である。
 しかも、ここは神楽の都。開拓者をはじめ、多くの人が集う賑やかな街だ。
 まるで祭りが開かれているかのような賑わいに酒が加わるとなれば、派手に盛り上がるのも必定。
 それでは、その賑わいを覗いてみるとしよう。

「‥‥かは〜〜っ美味いねぇ〜生き返るよ!」
 日差しを遮るひさしの下で、一息に酒を呷るのは無月 幻十郎(ia0102)。
 彼の手には、新商品の酒がなみなみと注がれていた酒盃があった。
 少々気の早い夏の訪れは、うだるような暑さをもたらして。
 しかし、そんな季節に呑むよく冷やされた酒はまた格別となった。
「新しく出店される店の酒が飲めるとは、こんな幸せなことはないねぇ〜」
 そういって、また一つ、酒の入った容器をからっぽにするのであった。
 そんな無月と同じように徳利を空けているのは斉藤晃(ia3071)だった。
「ただ酒とは景気のええ話やな」
 呵々と笑いながらこちらもどうやらうわばみのようだ。
 彼らのような腕が立つ開拓者達が盛り上がっていれば、揉め事を起こすような者も場をわきまえるわけで。
「酒はやっぱりええのう」
「ああ、そして酒飲みに悪いやつは居ない‥‥確かにその通りだなぁ」
 自然と揉め事回避に寄与することとなった斉藤や無月は楽しげに酒を呑み続けるのであった。

 さて、酒を呑めばつまみが欲しくなるものだ。
 昼日中から始まった催し物、人気の肴は詰めたいもののようで。
 冷やした漬け物、冷や奴。塩気の聞いた枝豆やら鮮魚の類が特に人気とか。
 まるで祭りのように多くの出店が出て、賑わう会場。
 その中ふらりとやってきて、おそるおそる酒を口に運ぶ少女の姿があった。
(飲んでも良いのか‥‥?)
 やってきたのは有月 御世(ib2879)、彼女は酒になれるために今回はやってきたようで。
 二日酔いをしないようにと準備も万端。
 子供が飲んでも良いのだろうかといぶかしく思いつつ、進められるままに酒を飲む有月であった。
 天儀では、酒は14から。それに、開拓者としてすでに一人前に働く者にうるさく言う者はいない。
 有月にとって、まだ酒の善し悪しは分からないのだったが、こうして賑やかな中で呑む酒は。
「‥‥悪くは、ないか」
 そんな風に思えたのだった。

●酒も様々
 昨今、この神楽の都には様々な場所からやってきた人が増えてきていた。
 天儀の様々な国からの人々は言うには及ばず、他の儀からやってきている人も多くなったようで。
「‥‥駄目なの?」
 故郷のお酒を持ち込もうとして、さすがにそれはと止められたのはジェシュファ・ロッズ(ia9087)だ。
 今回のこの催し物は、新しく売り出す酒の宣伝のためのもので。
 さすがに、それと全く関係の無いジルベリア産の酒だけを飲まれるとなれば、それは困りもの。
 ジェシュファは少々残念そうに勧められた酒を飲むことになったわけである。
 酒は種類が違えば味も飲み方も違うものだ。
 ジルベリア産の酒は、その高い度数のためにその味わい方も天儀の酒とは異なるのだ。
 だが、天儀の酒はジルベリアの酒と比べ飲み口が軽い分、料理と合わせて飲むのも一般的で。
「これはこれで飲めなくはないですね」
 と、ベルトロイド・ロッズ(ia9729)。天儀の酒は薄いから好みではないというベルトロイド。
 ならば、なぜにこの催し物に来たんだろうという疑問はあるが、それはひとまず置いておいて。
 とりあえずいろいろな肴を試してみるジルベリア出身者たちであった。

「コレはコレで美味い。肴には‥‥肉より魚介が合うかな」
 ちびりちびりとおちょこで酒を舐めているのはアルクトゥルス(ib0016)。
 彼女も生粋のジルベリア人、手にした酒はそんな彼女からすると軽い飲み口で、いささか戸惑い気味である。
 喉を焼くような熱さは無いが、魚介の脂と合わさればえもいわれぬ旨さを醸し出す天儀の酒。
 軽やかながら、淡く旨い。これはこれでとなかなかに楽しんでいるような様子であった。
 時刻はまだ昼過ぎだ。
 しかし、酒が入れば皆陽気になるもので、そんな時には音楽が付きもの。
 アルクトゥルスからすれば耳慣れない音楽の中で、ふと聞こえてきたのは懐かしい故郷の音色だった。
 ハープをつま弾いて、会場に彩りを添えているのはキオルティス(ib0457)だ。
 手持ちの小さなハープを奏でつつ、陽気な曲を奏でる吟遊詩人。
 そんな彼の近くには、いつのまにか同国人はもとより人だかりが出来ているようだった。
 思わずアルクトゥルスもそんな輪の片隅にこっそりと加われば。
 異国の地で、異国の杯を空けながら、故郷の歌に酔うのもそれはそれで楽しくて。
「さぁ、まだまだ続くゼ〜」
 キオルティスが、勇壮な騎士の曲を奏でれば、いよいよ場が盛り上がるのであった。

「おにーさん、イケる口だね。ささ、もう一献」
「ああ、ありがとうございます。なかなか良い曲ですね」
 キオルティスに一献勧められて、それをくいっと呷るのは和奏(ia8807)だ。
 いつのまにか、輪に加わっていた彼は、どうやらなかなかのざるのようで。
「では、こちらの肴を。なかなかいけますよ」
「お、これも美味いな♪」
 といった様子で、国の差を超えて盛り上がる一同。
「タダ酒ってのはいいもんだねぇ」
 こちらは、団子片手に酒を飲んでいる不破 颯(ib0495)。
 酒と甘味の両刀遣いというわけで、どこかの出店から持ってきた団子をまわりに勧めてみたり。
「‥‥これもなかなかいいですね」
 周りの評判はいまいちだったが、和奏はなんでも美味しいようであった。

 さて、昼も過ぎて日がゆっくりと落ち始めれば、一番暑い時間も過ぎていき。
 いよいよ催しの盛り上がりは高まっていくのであった。
 キオルティスのハープに加わるのはリュートの音色、琉宇(ib1119)が演奏に加わったようだ。
 彼はまだ酒は飲めないようで、ちょうど不破のもってきた団子を貰いつつ。
 さらに盛り上げるためにと、手伝いをしようと思ったようで。
 そんな風に盛り上がっていれば、どんどん人は引きつけられるもの。
「‥‥それでは、私も踊らせていただきますね」
 たっぷりと新酒を飲んで上機嫌にそういったのは木下 由花(ia9509)。
 香りの良い新酒をきりっと冷やした花冷えで堪能した木下は、楽しげな楽の音に合わせて踊り出して。
 まだ日も落ちない内から、祭りの日のように大いに辺りは盛り上がるのであった。

●支える人達
 大酒飲み会場はなかなかの広さがあった。
 多くの人々が思い思いに酒を飲み交わす広場中央、それを囲むように出店。
 酒をどんどんタルから振る舞う酒屋の店員たちに、徐々に増え始めた酔漢。
 そんななかを、落ち着き払って進む人影があった。
 手には、差し入れとして握り飯なんかの軽食やらお菓子やらを携えて。
 まっすぐに救護所に向かうのは琥龍 蒼羅(ib0214)であった。
「‥‥差し入れを持ってきたぞ。何か手伝うことはあるか?」
 ひょっこりと広場の片隅に急遽作られた救護所の手伝いに彼はやってきたのである。
「ありがとうございます。今はまだ大丈夫ですけど‥‥これからもっと忙しくなりそうです」
 ぺこりとお辞儀をして答えたのは、救護所でくるくると働く鈴梅雛(ia0116)だ。
 飲み過ぎて、具合を悪くした人はまだあまり多くないようで。
 ちょっと調子に乗って気分が悪くなった若者が数人、椅子に座ったり横になったりしている模様であった。
「‥‥いくら美味しくても、あまり飲み過ぎては体に悪いです」
 めっとばかりに、年若い鈴梅に諭されては、若者たちも反論できず。
 そんな様子を横目に見ながら琥龍はその隣に目を向けるのだった。
 救護所の隣は、一種の休憩所となっていた。
 こちらも主は少女のようで。
「差し入れありがとう。お礼と言っては何だが、茶は如何?」
 そういってお茶を勧めるのはからす(ia6525)であった。
 二日酔い対策の濃茶から、となりの鈴梅が作った氷を借り手の冷茶まで。
 苦い薬草茶も用意されているようで、老若男女を問わずに結構な人気であったり。
 ともかく、日は徐々に落ちつつあったが、会場はますます賑わいを増していくようで。
「限度はあるが‥‥楽しむことは良いことだ」
 からすが見た目に似合わぬ達観したことを言えば、琥龍もしずかに頷くのであった。

「菓子でも食べて待っていれば、探しに来よう」
 安心しろと迷子に声をかけているのは明王院 浄炎(ib0347)だ。
 場所は救護所にほど近い大きめの屋台にて。
 酒が飲めるとあれば、家族を連れて訪れるものもいるようで、人が増えて迷子もでてきたよう。
 そんな子供たちを安心させている彼はその屋台の主であった。
 屋台を切り盛りしているのは、彼の妻の明王院 未楡(ib0349)。
 そして礼野 真夢紀(ia1144)であった。
 屋台は様々なことを手広くやっているようで。
 礼野がつくった氷を削ったかき氷に、未楡手作りのさまざまな家庭料理を提供しているようで。
 子供連れや下戸、酒を一休みして休憩といった客たちにはとても人気のようであった。
 さて、時刻は夕暮れへと徐々に近づいて。
 これからは、夕食時を兼ねてのお客が増えてくるだろうという時であった。
「あら、それはどうしたんですか?」
 未楡は礼野が手にしていた酒瓶を目にしてそう聞けば、
「これは、姉様やちぃ姉様に送ろうと思って」
 にっこりと答える礼野にそうですかと微笑む未楡。
 そんな2人を見つつ、迷子を親元に届けた浄炎が、2人に向かって
「さて、これから忙しくなるだろう。我々も頑張らねばな!」
 といって、忙しく屋台の仕事に戻るのであった。

●仲間との酒
 日は暮れ始めて、ゆっくりと夕闇がやってきていた。
 しかし、大酒飲み大会はまだまだ盛り上がり続けているようで。
 会場中に響く楽の音はキオルティスや琉宇の楽の音や、木下の舞で。
 そんな中、祭りに人があつまるように、会場は多くの人でごった返していた。
 時刻が遅くなれば、酒に酔っぱらう者も増えるようで。
 からすの休憩所は鈴梅の救護所もなかなかの忙しさのようである。
 だが、もちろん酔っぱらって人に迷惑をかけるような客ばかりではない。
 こうした催しを良い機会と友人と会場をめぐって楽しんでいる開拓者達たちもいるようであった。
「初めての依頼もなんとか終わったし、今日は息抜きだ!」
 マヤ・バケット(ib2393)はそういって、興味深げに屋台を見て回る。
 彼女と一緒に会場をめぐっているのは、2人の同行者、狼(ia4961)とフェルル=グライフ(ia4572)だ。
 マヤとフェルルは年若い女性となれば、酔っぱらいが酔ってくることもあるのだが。
「正義漢を気取るつもりはないが‥‥これくらいしかできる事はないのでな」
 としっかりにらみを利かせて、騒動を未然に防ぐ狼によって、平和で楽しく彼女たちはたのしめているよう。
 皆、酒を少々口にしながら、祭りの様相となった会場を回るのである。
 そして彼女たちが興味を示したのは小さな装身具の出店であった。
「あっ! これかわいい!」
「この簪、マヤちゃんにとっても似合ってる♪」
 盛り上がるマヤとフェルル。酒のせいもあるのかいつも以上に楽しげで。
 酒のためか妙に潤んだ瞳で
「あれ‥‥買って‥‥?」
 とフェルルが狼にお願いすれば、思わず狼も頷いてしまったり。
 そして最終的には、マヤが買った3人そろいの値付けをぶら下げながら、
「ありがと‥‥今日は楽しかったね‥‥」
 酔ってしまったフェルルは狼に背負われながら、2人にそう言えば、
「フェルルさん、狼さん今日は楽しかったです。ありがとうございました!」
 とマヤも楽しげに答えるのだった。

「センセーお酒好きだから、いっぱい持って帰ったら『やっぱり俺のヨメは神音しかいないな』てなるかも‥‥」
 よっこらしょと、背中に角樽を担いで行くのは石動 神音(ib2662)だ。
 彼女は今まで、のんびりと救護所の手伝いをしたり横笛を吹いたりしていたのだ。
 だが、そろそろ夕暮れは過ぎて夜にさしかかり、そろそろお酒を買って帰ろうと準備中。
 思いを寄せるセンセーとやらのために、奮発してお酒を手に入れてみたら意外と重かったようで。
 よっこらしょと大変そうに運んでいれば。
「よぅよぅ、大変そうだなぁお嬢ちゃん! あとで手伝ってやるから‥‥」
 といかにもな酔っぱらいのご登場であったり。
 もちろん石動もいっぱしの開拓者だが、センセーのためのお酒があるしどうしたものかと思っていれば。
「おいおい、酒は飲んでも飲まれるもんじゃねぞ。お嬢さんが迷惑してるじゃねぇか」
 がっちりと酔っぱらいの肩を掴んだのはシュヴァリエ(ia9958)で。
 なんだよと振り返った酔っぱらいが見たのは、鎧兜の黒騎士姿。
 その迫力に押されて、思わず酔いも覚めたのか、そそくさと去っていく酔っぱらいであった。
「ありがとうございました!」
 礼をいう石動に、気にするなとシュヴァリエは言って、
「まったく、酒に罪はねぇ、悪いのはいつも人間さ」
 そういって、再び彼は厄介事が起きてないか見て回るために移動するのであった。
 昼頃にはこうした光景は無かったが、やはり夜となれば、迷惑な客も増えているようで。
 しかし、やっぱりあらかじめ開拓者を呼んでおいた甲斐があったようで。
「‥‥酒の席では喧嘩は付き物だな」
 そう呟くのは残龍(ib2909)だ。
 見れば、彼がのんびり酒盛りを楽しんでいたその近くの席で、小さな小競り合いから喧嘩になったようで。
 一触即発のその雰囲気に、割ってはいる残龍。
 見上げるほどに大柄な彼が一別をくれると、さすがに喧嘩も収まったよう。
 そうやって未然に、厄介事を防ぎつつ、残龍は、
「たまには、こういう仕事もいいだろう‥‥」
 小さく呟いて、またしても酒盛りにもどるのだった。

 そして夜もゆっくりと更けていって。
 祭りと化した大酒飲み大会も佳境、そんな中を行く目立つ2人組がいた。
 なんだか短い裾ときつい胸元が気になるのか、指で弄りつつ、
「‥‥少し恥ずかしいですの」
 というのは白拍子青楼(ia0730)。酒も飲まずに頬を桜色に染めている様は酔漢たちの目を引いていたり。
 そんな彼女と連れ添って行くのはアレン・シュタイナー(ib0038)だ。
 ぽやぽやしている白拍子を放っておけないとばかりに、丁寧に案内している様子で。
「‥‥お酒無理ならこっちのジュースにしなよ?」
「はい、シュタイナー様♪」
 と、こんな風に仲睦まじい様子であった。
 会場の雰囲気もあってか、シュタイナーに寄り添う白拍子で。
「なあ、青桜。その……時間あるか?良かったら家に来ないか?」
 というシュタイナーの言葉に首をかしげる白拍子。
「ああ、ジルベリアの酒とか料理でも食べないか? 」
 と言えば、彼女は、それならば是非と一緒に連れ立っていって。
 そんな2人の後ろ姿に、多くの独身開拓者の、特に男達の視線が突き刺さっていたという。

「ようやる‥‥どんな体しとんねん‥‥」
 頭に布を巻いて、網でするめを炙っているのは央 由樹(ib2477)だ。
 彼の視線の先には2人の大柄な男達の姿が。朝から酒を飲みっぱなしの無月と斉藤である。
 彼が炙っているのは酒の肴ばかりで、なかなか言い売れ行きのよう。
 だが、彼自身の酒の肴は会場の喧噪と賑わいであった。
 見てるだけで楽しくなってくる、と笑みを浮かべたまま、央は旨い酒の肴を振る舞うのである。
 そんなところに顔を出したのは成田 光紀(ib1846)だった。
「らっしゃい。‥‥何か食うてく?」
「ああ、手頃な肴をいくつか頼む」
 炙った干物やなんかを買って成田が進んだ先は、広場の一角。
 中央の喧噪から離れてひっそりとした席だった。
 そこには先客が。ひとり杯を重ねる篠田 紅雪(ia0704)だ。
 特に何をいうでもなく、酒と肴を前にして、なんとなく盛り上がる広場中央に視線を向ける2人。
 いまだ鳴り止まない音楽はジルベリアの音楽だけでなく、横笛や手拍子も加わって。
 酔いの回った客も増えているよう、夜といえども賑わいはいよいよ増しているようであった。
 だが、酒は全てを解決するわけでなく。
「酔えぬものだな。なかなかに‥‥」
 ぽつりと、篠田は呟くのであった。
 酒を飲んでも気が晴れないということは往々にしてあるものだ。
 だが、篠田のそんな言葉を聞いて、成田が飄々と返したのは
「なんだ、君もあのようになりたいのかね」
 大いに賑わっている酔っぱらいたちの煙管で示して答えるのだった。
 あくまでも飄々と、のんびりと酒盃を重ね、煙管を噴かし、肴を摘んで時間は過ぎて。
「(願わなければ、良かったのだろうか‥‥)」
 声には出さずに自問する篠田の悩みは、思い人へのもののよう。
 だが、それにもちろん成田は答えることなく、ただ静かに席を共にするだけで。
 静かに時間が経てば、篠田は思わず静かな酒につきあってくれた友人に
「手間を、かけさせたな‥‥」
 そうわびてしまうのだが。
「ふん、友人と呑むのに何の手間があろうか」
 気にするならば、今度奢れと不貞不貞しく成田が言えば、思わず篠田も小さく笑みを浮かべるのだった。
 これも酒の飲み方の一つである。
 酔いに任せてただただ楽しむのも一興。
 だが、共に飲む相手が居てこその酒でもあるのだ。
 新しく売り出される酒は、ただただ酔わせるだけでなく、様々な縁を取り持つことにもなるのであろう。

「あの、お酒ばかりだと喉が渇きませんか?」
 そう思わず斉藤と無月に勧めたのは鈴梅で。
 冷やした水は、確かに酒で火照った体に染み渡るよう。
 いよいよ夜も更けて、そろそろ催しも終わりという時刻。
 だが、ウワバミたちはまだまだ終わらないようで。
「ま、ここらでお仕舞いかな。それじゃお勧めの品を一本もらうわ」
 そういってさらに酒を持って帰ろうとして、斉藤はまわりを驚愕させたり。
「また、こんな素敵な催し物が開かれないかな〜」
 踊りで周りを賑わわせていた木下は、酒も踊りも堪能したようで。
 長いようで短かった酒の宴もいよいよ終わり、空がゆっくりと白んでくるころに祭りは幕を閉じるのだった。

 そして死屍累々と残されたのは酔っぱらいたちで。
 世話が焼けるとばかりに、琥龍は寝込んでしまった酔っぱらいたちを救護所に運びつつ。
 そんな光景をみつつ、アルクトゥルスは言うのだった。
「‥‥ま、二日酔いもまた酒呑みの風情だな」

 コレを持って大いに賑わった酒飲みの宴は万事終了。
 もちろん次の日、二日酔いで悶絶する者が沢山いたのは事実だが。
 大いに名を広めた酒は、その後も好調に売れることとなるだろう。