海から来たる者
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/07 21:38



■オープニング本文

 これは、とある海沿いの村にて、貴方たちが経験した数奇な体験を記した物語である。

 開拓者というものは、各地を忙しく移動する職業である。
 それは、仕事のための場合もあるだろうし、修行の旅や単なる物見遊山かもしれない。
 ともかく、広いこの天儀のさまざまな場所へと流転していくわけである。

 そんな折、貴方はとある海沿いの漁村にやってきていた。
 仕事の帰路にふらりと風に誘われたのか、はたまた妙な噂を耳に挟んだのか。
 それぞれの状況は違えど、偶然その日貴方たちはその漁村へとやってきたのである。
 ひっそりと静まりかえった漁村、そこには一人も人影は無かった。
 不審に思った貴方たちは、手分けして村の方々を見て回る。
 すると、海沿いの小さな荒ら屋に、一冊の書き付けが残してあるのを発見したのだった。
『やつらが、来る‥‥』
 その書き付けには恐怖で震えた筆跡で、おぞましい出来事の顛末が記されていた。
 ある日、突然この漁村を襲った悲劇、それは海より来たる者たち。
 ぬらぬらとした鱗で覆われた奴らは夜になると現れた。
 はじめは、たんなる怪談話だったのだが、一人村の若い娘が居なくなった。
 村を飛び出したか、はたまた神隠しか。噂はただ噂に過ぎなかった。
 だが、その日を境に、数日おきに妖しい姿が目撃されるようになったのだ。
 彼ら漁師たちが見慣れた魚のような面相をした二足歩行のアヤカシ達。
 だが、瞬きをすることもなく周囲をぎょろりぎょろりと睨め付けるその大きな目。
 ぺたりぺたりと湿った音を立てて村を徘徊するその足。
 そして、ゆっくりながらもすさまじい膂力で人を浚っていく長く強靱な腕。
 魚のような、またカエルのようにも見える頭を備えた異形のアヤカシたちの群れがその村を襲ったのだ。
 村の人口は少なく、そして村が滅びる瀬戸際になっても彼ら村人は村を捨てることは出来なかった。
 満月の夜が近づけば近づくほど、奴らの数は増している。
 そしてすでに満月の夜は近く、自分たちはもう逃げる術も持たない。
 もう、おしまいだ。そう書き付けの最後には書かれていた。

 静かにそれを読み終えた一同は、窓の外を見上げた。
 時は折しも満月の夜。
 風にのって流れてくる潮の香りに混ざるのはどこか不気味でおぞましい匂い。
 耳に聞こえてくるのは、遠くから響く湿った足音。
 ぺたりぺたりと迫る足音は、いつのまにか周囲の様々な方向から聞こえてくるのであった。
 妖しく光を投げかけてくる満月の下で、偶然巻き込まれてしまったこの状況から脱出しなければ。

 こうして長い夜が始まる。
 さあ、どうする?


■参加者一覧
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
滋藤 柾鷹(ia9130
27歳・男・サ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
白 桜香(ib0392
16歳・女・巫
アリスト・ローディル(ib0918
24歳・男・魔


■リプレイ本文

●奇縁
 数奇な運命に導かれたように、そこに集った開拓者達は8人。
 月が彼らを照らす恐怖の夜、その少し前にさかのぼって物語を始めるとしよう。
 天河 ふしぎ(ia1037)がその村の近くに親族の屋敷があるということを知ったのはほんの数日前だ。
 人間関係で疲れた彼は、その親族の遺品整理をかねて、その屋敷を訪れたのだが。
「なんだろう、この本は‥‥」
 屋敷の書斎に置いてあった一冊の妖しげな装丁の本、題名はかすれて読めない。
 好奇心からその本を開いてみた彼は、そこで不気味なアヤカシ達の姿を見たのだった。
 あまりにもおぞましく、気味が悪かった天河はその本をしまい直す。
 そして、気分転換として遠くに見かけた漁村へと足を向けることにしたのであった。

 村に急ぐ数名の開拓者の姿があった。
 異形のアヤカシの噂を聞きつけて、陰陽師としての好奇心からか、真偽を探りに来たのは、胡蝶(ia1199)。
 アヤカシに関する村人からの依頼を受けて、満月に間に合うようにと急いで来た、設楽 万理(ia5443)。
 人がいなくなったという村の噂を聞いて、調査に訪れたのは滋藤 柾鷹(ia9130)。
 そして、無人になったという噂を聞き、その弔いのために訪れたのが、白 桜香(ib0392)だ。
 かれらは村への道すがら合流し情報を交換しあって村へとやってきたのだった。
 情報は錯綜し、噂は混乱しているようだ。
 共通して浮かぶのは、妖しげなアヤカシの姿に纏わる噂と村人の消失。
 アヤカシは開拓者の敵として広く知られているが、その全容は未だに謎が多いものだ。
 摩訶不思議な能力を持つものも居れば、いまだ知られない種も沢山いるようで。
「‥‥面倒なことになったわね‥‥」
 胡蝶は、人気の無い村に足を踏み入れながら、悪い予感を感じたのか小さく呟くのであった。

 怪異は、好奇心を引きつける物である。
「‥‥興味深い!」
 一足先に村へとやってきて、書き付けを見つけたのはアリスト・ローディル(ib0918)だった。
 噂を聞いて好奇心からこの村へとやってきて彼は、導かれるようにして書き付けを見つけた。
 そして、そこに書かれた内容に目を輝かせたのであった。
 そこにやってきたのは、四名の開拓者。
 彼らは無人の村にて人の気配を探っていて、アリストを見つけたようだ。
「ふむ、君たちもこの村の噂を聞いてやってきたようだな‥‥見ろ、素晴らしい収穫があったぞ」
 笑みを浮かべてアリストが一同に見せたのは残された書き付けだ。
 そして、彼が書き付けの内容について話そうとしたのだが。
「‥‥その話、僕にも聞かせてくれないかな?」
 やってきたのは天河だ。どうやら話し声に気付いて、ここにたどり着いたよう。
 そしてその後ろから姿を見せたのは、ちょうど依頼の帰りにふらりと村を訪れた斑鳩(ia1002)。
 さらに、もう1人、黒衣の女性、フレイア(ib0257)があった。
 こうしてそろった開拓者一同は、静かにアリストの語る書き付けの内容に耳を傾けたのだった。

 村人の姿が無いことの理由はそれで分かった。
 だが、アヤカシ達の姿は村には無い。奴らはどこに行ってしまったのだろうか。
 最初に異変に気付いたのは、斑鳩だった。
「皆さん、聞こえますか、この音‥‥‥‥何でしょうか?」
 いつの間にか、夕日は沈みすでに月が山の端に顔を覗かせていた。
 その月光に照らされた町並みは無人。だがどこからか響くのはぺたりぺたりという足音だ。
「ええい、邪魔をするな! 今面白いところ‥‥‥‥音だと?」
 書き付けをのぞき込んで、さて村の現状の原因はと試行錯誤していた一同。
 その中でアリストもその音に気付いたようで、一同は思わず声を殺して耳を澄ませる。
 すると、響いてくるのは続々と増えていく足音だった。
「‥‥なるほど、今夜は満月か。成程」
 アリストが呟くように、一同は確信を深めたのであった。。
 村から人がいなくなった原因と、目撃された妖しげなアヤカシの姿、そして恐怖に怯えた手記。
 全ては一つの事件の違う側面であったと言うことに。
「‥‥冗談かと思いましたけれど、悠長なこともいってられないようですわね」
 冷静に、フレイアがそう言って、続々と増える足音の中、静かに決意を固めるのだった。

●算段
「‥‥こんな事になるなんて。ああ、無事に帰れますように‥‥」
 そういってお守りを握りしめるのは斑鳩だ。
 通常であれば、開拓者達はアヤカシを探し出して撃滅するのが一般的である。
 だが、今回は偶然集まった一同は逆に包囲され巻き込まれる形になったわけで。
 しかも、正体不明のアヤカシと恐怖に怯える手記があるとなれば、恐怖を感じるのもあたりまえだ。
 だが、そういっても開拓者は開拓者。
 すぐに気持ちを切り替えて、脱出のための算段を整えるのだった。
「近いけど海は危険だ、逃げるなら陸路だね」
「ええ、どうやらその方がいいようね。たしかこんな地形だったわよね?」
 天河の言葉に応えて、フレイアは村の入り口に居たる地形を書いてみて。
 すぐそばの小舟を使うのではなく、彼らは村を突っ切って行くことにしたようで。
「このまま村を放置していくのは忍びないが‥‥」
 まずは生き延びなければと、滋藤が言えば、
「村の人達のためにも、僕達がここで奴らにやられるわけには、絶対行かないからね」
 と天河も言うのだった。
 村を出る道が決まれば次は脱出するための方法だ。
 巫女たちは結界をはり周囲を徘徊するアヤカシ達の気配を掴み、
「‥‥どうやら、不気味だけどただのアヤカシには違いないみたいね」
 弓術師の技、鏡弦を使ってアヤカシの場所を探った設楽はそう言うのだった。

 いよいよ脱出という段階で、彼らは機をうかがっていた。
 すでにぞろぞろとその海沿いの荒ら屋はアヤカシ達に囲まれている。
 彼らが踏み込んでくるのは時間の問題なのだ。
 時折、壁の隙間や窓枠から覗くのはぎょろりとした魚の目と鱗の肌。
 ぬらぬらと湿った肌はところどころが鱗で覆われ、不気味であった。
 それにまったく鳴き声を上げないのもおそろしさを増すようで。
 だが、何にも増して一番恐ろしいのはその目であった。
「‥‥目が‥‥」
 おもわず小さく呟く白。それもそのはず。
 アヤカシには高い知性を持つものも多いのだが、この魚人間もどきはその外見や行動はただただ愚鈍そう。
 だが、魚に似たその不気味な瞳には、確かに知性の光が見えるのだった‥‥。

 そしてついにその時が訪れた。
 脆い扉をどんどんとたたきつけ、一気に破ろうとしてくるアヤカシ達。
 アヤカシ達が、戸口に集中した次の瞬間、滋藤はその大きな戦斧を振り上げて。
「‥‥行く手を塞ぐならば、切り開いて進むまでだ」
 手薄になった、荒ら屋の壁を一気にたたき割って突破口を開いたのだった。

●脱出
「あのアヤカシたちの姿‥‥屋敷でみた書物の中に‥‥」
 月明かりの下、アヤカシに追われながら天河は思い出していた。
 ふと手に取った妖しげな書物に書かれていたアヤカシは、まさしく彼らを追ってくる奴らだったことを。
 彼らは一見愚鈍に見えていた。
 だが、その実なかなかの速度で彼らを追いすがってきているようで。
 しかも、視覚以外も鋭いようで、的確に開拓者を追いすがってくる姿は恐怖を煽るものであった。
 吼えもせず、声も立てずにぺたぺたと追いすがる足音だけ。
 しかも、彼らは村のところどころから姿を現すのだ。
「気を付けて、そこの影‥‥怖くなんか無いんだからなっ!」
 心眼で周囲を伺いつつ、先頭を行くのは天河、大太刀を振るって隠れ潜むアヤカシ達を斬り倒して。
「前から来ます。次の角を右に曲がりましょう」
 その後ろを追いながら、敵の動きを先読みして道を示すのが斑鳩だ。
 村はすでに、アヤカシで溢れていた。予定した道が通れるとも限らず、彼らは村を彷徨いつつ逃げていた。
 一度足が止まってしまえば、数で劣る開拓者達は不利だ。
 一対一の力では勝てても、技を使う練力には限りがある。
 そのためにも、なるべく敵を避けながら進む必要があるのだ。
 火種によって着火した材木を松明代わりに、斑鳩が周囲を照らして。
 するとちょうど暗がりから浮かび上がったのは、はぐれたアヤカシだった。
 つかみかかってくるアヤカシの前には胡蝶が。
「ひっ‥‥‥この‥‥近づくんじゃないわよ!」
 思わず息を呑んだ胡蝶だが、すぐに黒犬姿の式を放ってそのアヤカシを攻撃して。
 そこに追い打ちの矢を放つのは設楽だ。
 こちらは相手がアヤカシならばと冷静に矢を続けざまに放ってアヤカシ達を撃退していくのだった。
「胡蝶さん、大丈夫かしら?」
 べたべたとした手につかみかかられて思わず声を上げてしまった胡蝶を心配する設楽だったが、
「だ、大丈夫! こんなの何でも無いわよ!」
 と思わず胡蝶は強がりを言うのであった。

 一同はなんとか大きな被害に遭うことなく進んでいた。
 予定していた道を迂回することもあったが、まとまって進めばまだ被害は少ないわけで。
「‥‥これほど興味深い事象を前に退かねばならぬとは!」
 悔しげにアリストは呟きつつ、屋根を伝ってやってきていたアヤカシにサンダーを放って。
 そしてアリストと並んで、同じく魔術を放っているのはフレイアだ。
 彼女は、まとまってやってきていたアヤカシをブリザーストームで纏めて攻撃してから、アリストに、
「確かに興味深い事件ですわね‥‥ところで書付は?」
「ああ、もちろん持ってきたぞ。それにしても不気味なアヤカシだな。声も上げずにぞろぞろと‥‥」
 彼らウィザードは開拓者集団の中核に位置して、周囲を魔術で攻撃しながら観察していた。
 ちょうど後ろから追いすがってきた一匹を、殿に立つ滋藤が迎撃する。
「白、下がっていろ!」
 振り下ろされたのは、村に放置されていたであろう農具の刃だった。
 それを紙一重で躱す滋藤だったが、その刃は腕をかすって地面を穿ち。
 その隙を逃さず滋藤は、手にした戦斧でアヤカシを真っ二つにするのだった。
 ぞろぞろと後ろから追ってきていたアヤカシ達は滋藤の回転斬りで蹴散らされ。
 さらに、そこに追い打ちとばかりに術や弓によって撃退されたのだった。
 後に残されたのは、彼らが武器代わりに振るっていた農具なのだが。
「滋藤さん、いま傷を‥‥」
 そういって白が神風恩寵によって怪我を治療していたのだが。
「それにしても、村の人達は、一体どこに行っちゃったんだろう‥‥」
 天河は足を止めて、声を殺しながらそう呟いた。
「‥‥ねえ、あれはアヤカシが身につけていた物よね?」
 夜光虫の光に照らされて、胡蝶が指さしたのは地面に落ちた農具と衣服の切れ端だった。
 たしかにそれは瘴気へと還ったアヤカシが残した物である。
「まさか‥‥このアヤカシは‥‥」
 胡蝶が気付いたのは恐ろしい可能性だった。
「成る程。それも可能性としてはあり得る話だな。村人はさらわれたのではなく‥‥」
 言葉を継いだのはアリストだった。
 そう、このアヤカシは、かつては村人だったのではないだろうか。
 だが、それを調べる時間は今はなかった。
「やはり、生き残りの方はいないようですね‥‥」
 治療を終えた白は、悲しげにそうつぶやけば、
「もし生き残りが居たのなら、是非とも話を聞きたかったのだがな」
 とアリスト。だが、再び周囲にはアヤカシ達の気配が戻ってきていた。
「とにかく、まずは全員無事に生きて帰りましょう! そうすれば、再び調査に訪れる機会はあるはずです!」
「くっ、解っている! この世の全てを見る前に、こんな所で死ぬのは俺だって御免だ」
 斑鳩の言葉にそうアリストは答えて、一行は再び危険な脱出行を続けるのだった。

●真相
 村の入り口は、一本の橋だった。
 周囲を岩場に囲まれたその村は、がけのように切り立った谷によって外界から遮断されているようで。
 一行は、一直線にその橋を駆け抜けていくのだった。
 その後ろを追いすがるアヤカシ達。
 だが、橋を渡り終えた一同は、迷い無く橋を落としに掛かったのだった。

 アリストがサンダーを放って先頭のアヤカシをひるませた次の瞬間、飛来する矢。
 設楽が連射で放った矢は見事にアヤカシの目を穿って、先頭の一匹を倒れさせ後続を足止めする。
 そこに放たれたのがフレイアのブリザーストーム。
 多くのアヤカシを巻き込んで吹き荒れる吹雪が動きを止めて。
「飢える者よ‥‥襲え!」
 それでも、谷を渡ろうとするアヤカシを胡蝶の術が防ぎ、
「いまです!」
 斑鳩が橋に火種で着火するのと同時に、天河と滋藤は2人で橋の綱を叩き斬ったのだった。
 綱を斬られて、落ちていく橋。そこに火が回るようで、対岸に残っていた橋の残骸も燃え落ちて。
 村は完全に外界と遮断されるのだった。
 やっと危機を脱出した一行は、安堵の溜息をつくのだった。
「それにしても‥‥村は全滅。アヤカシに囲まれるし、散々だったわね。今回の件は」
 そういって海の方に目を向けた設楽はそのまま固まった。
 なんだろうと、他の開拓者達もその視線の先を追ってみれば、そこには‥‥。

「あの波間に見えた、信じられないぐらい巨大なあの姿は、なんだったのだろう」
 天河は静かに手帳にそう記していた。
 村を脱出した一行が最後に見た物はなんだったのか。
 霧が出始めていた海の波間に見えた大きな影、それは幻だったのか。
「海に逃げなかったのは正しかったと思うけど、村人の行方、事件の核心は、海の底かもしれないわね」
 思わず胡蝶がそういうように、結局謎は謎のまま残されたのだった。
「ギルドに報告書は出すから、きっと再調査の依頼がでると思うわよ」
 そうフレイアが言うように、一行は今回経験したアヤカシのことを報告書にするようで。
「‥‥後で必ず調査と弔いに来ます」
 そういって白と滋藤が村の方に向かって手を合わせるのを待って、一行は帰路につくのだった。