骨の群れ
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/12 15:35



■オープニング本文

 開拓者ギルドの依頼には、さまざまな形式がある。
 一般市民から頼み事が持ち込まれること。
 国やさまざまな所からの協力要請。
 だが、それ以外にも開拓者には重要な仕事がある。
 あえて言う必要も無いだろうが、それはアヤカシの討伐だ。
 多くの開拓者が所属していることで、ギルドには自ずと情報が集まってくるもので。
 危険なアヤカシが確認された場合、その危険度に応じてギルドからの討伐依頼が出されるのである。
 そして今回も。

「‥‥こいつぁ、なかなか厄介そうな相手だな」
 防寒装備に身を包み、一人静かに森を進んでいる男の名は、庄堂巌(しょうどう・いわお)。
 開拓者ギルドの依頼調役という役職にある彼の仕事の一つ、それはアヤカシの調査だ。
 得られた情報の裏付けを取り、依頼を出すための詳しい情報を集めるという任務。
 元開拓者である彼にはうってつけの仕事なのである。
 そんな彼が様子をうかがうのは、武天のとある山中。
 かつては集落があったとおぼしき山間の窪地にその巨大な姿はあった。
 がしゃがしゃと異音を立ててうごめく骨の塊。
 それは、骨が集まって形作られた大きな人型のアヤカシであった。
「岩巨人や氷巨人と似たようなアヤカシか‥‥で、骨で出来てると」
 見つからないようにこっそりと、姿を隠しながらその様子をうかがう庄堂。
 そんな彼の後ろに忍び寄る影‥‥。
 とっさに、振り返った庄堂は、左手で器用に刀を抜き放つと、忍び寄っていた狂骨を斬り倒す。
 骨の瘴気が宿って生じるアヤカシ、狂骨だ。
 見れば、いつの間にかその山間の村にはぞろぞろと狂骨が群れていた。
 狂骨は、さほど恐ろしいアヤカシではない。
 だが、問題なのはその数で、しかも手間取れば骨巨人に気付かれる恐れがある。
「‥‥ちっ、潮時か」
 そう庄堂は呟くと、狂骨を斬り倒しながら、その場を離れるのであった。

 そしてすぐにギルドに一つの任務が。
 骨巨人と狂骨の討伐任務。我と思う者来たれ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
紫焔 遊羽(ia1017
21歳・女・巫
四方山 連徳(ia1719
17歳・女・陰
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎


■リプレイ本文

●我らに策あり
「ほう、では策があると」
 そう聞いたのは今回の依頼の同行者、庄堂巌である。
 彼は元開拓者であり、今はギルド受付として多くの開拓者を見てきた。
 そんな彼の眼から見ても、今回の面々は実力者揃いで。
「そう、今回の作戦はござるだいじに‥‥違った、いのちだいじに、でござるよー」
 四方山 連徳(ia1719)が言うのを見つつ、個性的なのだと庄堂は改めて思うのだった。

「狂骨は、タダの雑魚では無いと思うのでござるよ」
 四方山の言葉に一同は頷く。彼らは今回、全体を二つに分けて行動するとのこと。
「狂骨は実は、骨巨人の一部ってことで、吸収されたりしそうでござるねー」
 さもありなん、そう庄堂も思ったのか頷いて賛同しているようで。
 その懸念を払拭するために、まずは狂骨退治を先にやることにしたようである。
「まぁ、そのためにも地形を聞かせて貰えるとありがたい」
 羅喉丸(ia0347)は庄堂から、地形の覚え書きを受けとって作戦は最後の詰めと相成ったわけで。
 いよいよ、一同の視界に依頼の廃村が見えてくるのだった。

 すでに周囲には狂骨がうろうろと群れていた。
 だが、開拓者達は躊躇せずゆっくりと歩みを進めて。
「ったく、骨っこどぉもがうじゃうじゃと‥‥」
 先頭を歩いていた犬神・彼方(ia0218)が無造作に槍を振るう。
 陰陽師だが、前衛に立つ彼女の一撃は背中を向けていた狂骨の首をへし折って。
 吹き飛ばされて転がる頭蓋骨をその狂骨はよろよろと追いかける。
 そして、転がる頭蓋骨の先には、さらに大勢の狂骨の群れが。
 その狂骨たちは、手に手に武器を持ち、開拓者一行に虚ろな眼窩を向けて。
 そんなアヤカシ達の様子ににやりと犬神は笑みを浮かべるが。
「彼方さん、頼むから無茶だけは‥‥せんでよ?」
 犬神を、涙を浮かべて心配そうに見上げる紫焔 遊羽(ia1017)。
「大丈夫だぁ、遊羽‥‥大事な大事なぁ妹分の邪魔ぁする悪い骨っこには、容赦しねぇぞ!」
 にぃっと妹分の遊羽に笑みを向けると、威勢の良い言葉と共に犬神は飛び出して。
 まるでそれをきっかけにしたかのようにぞろぞろと歩み寄る狂骨たち。
 だが、それにひるむことなく、開拓者達は散開し、迫る狂骨たちを蹴散らしていくのだった。
 だが、そのさらに先、崩壊しかけている廃屋の向こうに見える巨大な影があった。
 それは、おぞましいまでに白く、恐ろしいまでに異様な人型の化け物である。
 人の形をしているからこそ、その不気味さはいっそう際立つのだろう。
 歪な人の姿をしている骨の塊がゆっくりとこっちにやってくるのが分かったのである。
 だが、それもすでに策の内だ。
 ずいと前に出るのは羅喉丸と赤マント(ia3521)。
 参加した仲間たちが狂骨たちを蹴散らして出来た道がすでにできあがっている。
「お二人共、存分にその足生かしてや♪」
 遊羽が舞によって2人の泰拳士を援護すれば。
「ああ、任せて貰おうか。‥‥悪いな、俺の相手をしてもらおう」
「僕の速さがどこまで通用するか‥‥試させて貰うよ!」
 まるで放たれた矢のように、羅喉丸と赤マントは疾風の如く骨巨人へとまっすぐに進むのだった。

●骨砕き
「こうした地形ですと、少々大剣は振るい切れないのが問題ですね」
 グレートソードを手にしてそう言うのはサーシャ(ia9980)。
 だが、彼女が手にすれば、大型で肉厚なそのグレートソードも少々小降りに見えるという不思議が。
 それもそのはず、彼女は一日一倍大きな体の持ち主なのである。
 そんな彼女が騎士の腕力と技術を持って振る大剣の一撃は、まさしく強烈の一言。
 狂骨の中には武器や防具を装備した個体も居るようなのだが、それもなんのその。
「ロック様、後ろに一匹回り込んでおりますよ? お気をつけ下さいな」
 そんなサーシャが声をかけたのは、ロック・J・グリフィス(ib0293)だ。
 開拓者達はお互いに視界を補うようにして、孤立を避けているのだ。
 サーシャの言葉に、ロックは、白薔薇という銘のついた槍を振るい、後ろの狂骨を撃破。
「‥‥ふむ、骨は丈夫な方だ。生憎間に合っているんだがな」
 と様子を見せつつ、槍の間合いを活かして狂骨たちを一匹一匹倒していくのだった。
「骨か、突く武器には些か不利だが、槍にはこういう使い方もある‥‥」
 ロックは槍を突かずに振り抜いて狂骨の足を砕き。
「狭くても、やりようはありますわね」
 サーシャは、鍔元をたたきつけるようにして、狂骨たちをはじき飛ばす。
 そして、狂骨たちを撃破し、引き寄せた先には。
「‥‥哀れな魂、穢れし瘴気を常世へ還しましょう」
 ジークリンデ(ib0258)の声は、廃屋の屋根の上から聞こえたのだった。
 その声を合図に、距離を取るサーシャとロック。
 取り残されたのは狂骨たちの群れ、そこにたたきつけられたのは、真っ白な破壊の嵐であった。
「‥‥白い闇が貴方を包み込む」
 掲げた杖の先から、春の空気を切り裂いて迸る風雪の嵐。
「‥‥さよなら哀れな魂よ」
 吹き付ける強烈な風と余りにも低い温度によって、狂骨たちは凍り付き始めていた。
「‥‥もう会う事はないでしょうけれど」
 そうジークリンデが言って、吹雪が収まったときには狂骨たちは殆ど凍り付き、倒れているのだ。
 残る狂骨たちを、ロックとサーシャが次々に撃破していけば、狂骨たちはみるみる減っていく。
 こうして、開拓者達は連携し、狂骨たちの数を急速に減らしていくのであった。

「頑張って始末でござるー」
 斬撃符を飛ばし、狂骨の胴体を真っ二つにしているのは四方山だ。
 陰陽師ながらしっかりと鎧を着込んだ四方山は、ある程度の数なら引きつけて、受けをしながらの攻防。
 そして、彼女の前を進みながら、豪槍を振るっているのは犬神だ。
 2人の陰陽師は術だけではなく武器や防具で凌ぎつつ、狂骨たちを倒しているのであった。
 彼女たちの位置は、骨巨人と対峙している2人の泰拳士と援護を担う巫女の紫焔の両方が見える場所だ。
 泰拳士たちに近づく狂骨を妨害し、紫焔とついでに庄堂へよってくる狂骨も倒すというのが2人の役目。
 そうなればただ、作戦も無くじりじりと押し寄せてくるだけの狂骨などは怖くない。
 お互いに得意な能力で協力し合うことで、開拓者の戦闘力はますます高まるのである。
 だがたしかに狂骨を倒しきるのは楽なのだが、如何せん時間がかかってしまう。
 そして、本命である骨巨人を相手に奮戦している2人の泰拳士は、苦戦を強いられているようなのだ。
「こいつぁ、急がねぇとなぁ!」
「あとすこしでござるよー!!」
 いよいよ戦いは佳境に入るのであった。

●骨との決戦
 殆どの狂骨は倒したようだ、そう開拓者達は周囲を確認した。
 残るは本命の骨巨人だけ‥‥そんな時に、呼子笛の音が高らかに響いた。
 赤マントの合図である。どうやら、開けた場所への誘導が出来たとのことだろう。
 散開していた開拓者達は、一気に笛の音が聞こえた方向に急行する。
 すると、崩れた家屋の破片が散らばるその一角に、作戦通り骨巨人は誘導されていたのだった。
「いかに巨大であろうと人体と同じ構造というのなら戦いようはいくらでもある!」
 羅喉丸は、骨巨人の死角を突いて立ち回る。
 怪力を誇る骨巨人の一撃は、その速度も威力も尋常ではないようで。
 軽々と廃屋の柱をへし折って腕を振り回すのだが、それでも人型は人型。
 人ではあり得ない方向に関節が曲がらないだろうという読みで、その死角に回っているようである。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪」
 一方、赤マントはその機動力を活かしての攪乱戦法だ。
 気功波での牽制に始まり、ちょこまかと動き回りつづければ、さすがの骨巨人もなかなかに捕まえられず。
 こうして時間を稼ぐことで、一行は全戦力を集中させるまで、時間を稼ぐことが出来たのであった。
 すでに、少々の手傷は負わせているようでこうなれば、もう勝利は揺るがない、と誰もが思ったとき。
 骨巨人は、ずらりと勢揃いした後続の開拓者たちに気付いたのか、急にうずくまった。
 何ごとだと誰もが思った瞬間、ぼこりと骨巨人が引き上げたのは廃屋の廃材だった。
 ところどころつながったままの梁と柱の塊である。
 それに気付いた瞬間、開拓者達は次の骨巨人の行動に気付いたが、一瞬遅かった。
 ガァァァァァァ!! と叫びを上げて、骨巨人はその塊を投擲、その先は‥‥。
「あかん!!」
 回復の要、巫女の紫焔に向かってだった。

 一番最初に動いていたのは赤マントだ。投擲を警戒していた彼女は、捨て身の突貫。
 塊の弱いところを狙っての跳び蹴り一撃!
「赤マントちゃん!!」
 もちろん、飛来する巨大な塊に体当たり気味の蹴りをぶつけた赤マントは吹っ飛ばされて地面に転がる。
 だが、渾身の一撃で僅かに進路が逸れたのを見逃す開拓者達ではない。
「させねぇよぉ!!」
「四の五の言ってられないでござるよ!!」
 犬神は斬撃符を二連発で放って、同時に飛び出していた四方山は虎の子の蛇神を放って、塊を迎撃。
 その一撃に、塊は粉砕されていくつかの塊にばらける。
 だが、元は巨大な柱や梁の破片だ。ばらけた破片でもかなりの危険物。
 それを、サーシャは盾になり得る分厚い大剣で弾き落とし、後衛のジークリンデたちを守る。
 そして、四方山や犬神は鎧でかろうじて大きな怪我を負わずに凌ぎきったのだった。
 だが、それでも大小の怪我を負ってしまう一行、一転して窮地であった。
 見れば、骨巨人ははぐれた狂骨の一体をがっしりと捕まえていた。
「‥‥む、やっぱり狂骨を取り込んでいるようでござるな」
 さすがに分裂はしないようでござるが、と身構える四方山。
 どうやら骨巨人はゆっくりと回復する以外に、狂骨をその体に取り込むことで大きく回復するようだ。
 もし、狂骨を先に倒していなければ、さらに苦戦していたに違いない。
 だが、狂骨はもう居ないようで、回復した骨巨人は一気にとどめとばかりにこちらに突貫してくるようだ。
 回復を封じたとは言え、危機は続いているようだ。
 だが、開拓者達は一時たりとも諦めてはいなかった。

「私は魔女。破壊を齎す者なのだから‥‥」
 骨巨人の周囲に仲間がいなくなった瞬間は、好機でもあった。
 ジークリンデは、渾身のブリザーストームを放つ。
 彼女は、投擲の破片から身を守るためにストーンウォールを放つことなくこの一撃に集中していたのだ。
 味方を信頼してこその連携である。
 放たれた強烈な猛吹雪、それを追うように駆ける二つの影は羅喉丸とロック。
 先行した羅喉丸は、仲間の時を稼ぐために無謀とも言えるほど距離を詰める。
 だが、勝機はあった。すでに回避し続けることで、単調な骨巨人の攻撃には慣れてきているのだ。
 轟と振るわれる巨人の拳、その横をぎりぎりで見切って間合いに踏み込んだ羅喉丸。
「‥‥見切った、唸れ空気撃」
 羅喉丸の渾身の一撃は、骨巨人の踏み込んだ膝をたたき割ったのだった。
 そこに追い打ちをかけるのはロックだ。
「助太刀に来たぞ!!」
 突進の勢いのまま足を砕かれ、ぐらりと倒れかける骨巨人を下から待ち受けるロックの一撃。
 突き上げるその槍は、まさしく伝説にある一角獣の角の一撃がごとしだ。
 骨巨人の突進の威力も相まって、強烈な一撃が叩き込まれ、さらに開拓者達は追い打ちだ。
「‥‥参ります!」
 体ごとぶつかるように飛び込んできたのはサーシャ。
 足を砕かれ、槍の一撃で体勢を崩した骨巨人は、もちろん手を突いて体を支えていた。
 だが、その手に狙いをサーシャの間合いだ。
 全身の力を振り絞り、全力で振り抜いた大剣の一撃は、巨人の手を粉砕。
 そうなればずんと地響きを立てて倒れ込むしかない骨巨人だ。
 たたみかけるように攻撃が続く。
 四方山の術、犬神の槍、ジークリンデの魔法、羅喉丸の拳、サーシャの大剣、そして。
「どんな頑丈なものにも、目というものは存在する‥‥そこを突けば‥‥」
 ロックは、胴体のど真ん中に槍を穿って、リボンをなびかせて。
「さあ今だ! 赤マント嬢!!」
 そこには紫焔によっていやされて戦線復帰した赤マントの姿があった。
「さっきは不覚を取ったけど、こんどこそは!!」
 まっすぐに、まるで弾丸のように赤マントは進んで。
 それを迎えうとうとする骨巨人の腕、だがそれは仲間たちの攻撃に阻まれ砕かれて。
 そのまま赤マントの一撃が見事骨巨人の核を粉砕。
 骨巨人は、骨の山へと返り、瘴気は雲散霧消していくのだった。

「‥‥心配したんやで‥‥」
 困った笑顔の紫焔が、怪我だらけの犬神や赤マントを困った笑顔で迎えれば。
「心配かけたぁようだな、悪い悪い‥‥お疲れさんな?」
 そういって犬神は紫焔の頭を撫でる。
 先に狂骨を倒していたために、短期決戦で決着にこぎ着けたこの依頼は無事成功したようであった。
 破片の攻撃を受けて、普段以上によれよれのギルド依頼調役の庄堂もやっと一息。
 一同は、紫焔の治療を受けつつ、緊張を解くのであった。