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■オープニング本文 彼方の国では争乱があると聞くが、それはそれ。 ここ武天でも日々変わらず騒動が起きるわけで、開拓者たちは引く手数多だったり。 そして、今回はこんな話。 駆け出し開拓者の参平太はその日、簡単な依頼を一つ終えて浮かれていた。 彼は、まだ依頼を一つ二つしか受けたことのないサムライだ。 今回も、ちょっとした護衛と荷運びの仕事を請け負ってそつなくこなしたそうで。 幾ばくかの報酬を手に、彼が向かったのは小さな賭場であった。 武天の大きな街、芳野は賑やかなところ。 花街もあれば景勝地もあり、もちろんそれ以外にもいろいろとある。 賭場も「いろいろ」の一つだ。 あまりおおっぴらには言えないが、やはりこうした遊びは人気があるもので。 賭け事が好きな参平太は、風の噂で聞いた新たな賭場にこっそりと遊びに来たのである。 そして、その日は妙に運が良かったようだ。 あれよあれよという間に、なんどか大当りを繰り返して。 気付いたときには、駆け出しの自分には信じられないような大金を手にしていたのである。 目を白黒させた参平太は、ここでさらに調子にのっちゃあならねえと切り上げて。 ほくほく顔で帰路についたのであった。 だが、賭場をでてすぐに、彼は数名の男達に囲まれた。 「お、お前ら、何なんだ?」 顔に覆面をした男達に囲まれては、開拓者であって驚きひるむ物で、思わず問うた参平太。 だが、その言葉に男達は何も返さず、ただ、手にした棒でもって彼を滅多打ちにしたのである。 「‥‥お、俺が何をしたっていうんだ‥‥」 「‥‥ふん、お前は勝ちすぎたんだよ」 吐き捨てられた覆面の言葉を聞きながら、参平太は気絶したのだが‥‥。 「最後に聞いたあの声、確かに賭場に居た用心棒の男のもんでした」 開拓者ギルドで参平太はそういって。 彼が言うには、彼が勝ったので、賭場はぐるになって勝ち分を取り返しに来たんだとのこと。 たしかに、それが事実ならその賭場はかなり悪質といえるだろう。 ということで、参平太は言う。 「俺の仇をとって下せえ!」 さて、どうする? |
■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
柊・忍(ia1197)
18歳・女・志
露草(ia1350)
17歳・女・陰
神無月 渚(ia3020)
16歳・女・サ
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ
御神村 茉織(ia5355)
26歳・男・シ
時永 貴由(ia5429)
21歳・女・シ
アレン・シュタイナー(ib0038)
20歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●影二つ 「ってことは、賭場で勝った分以外にも、有り金全部取られたってわけか」 「へぇ。気付いたときにゃ、身一つで転がってたってぇ有様で‥‥」 まだ怪我の癒えぬ依頼人の参平太を見舞っているのは、御神村 茉織(ia5355)だ。 「そいつぁ、酷い話だな‥‥しっかりと仇は取ってやるからな」 「ああ、我々に任せてしっかりと養生していろ」 御神村と連れだって見舞いにやってきた時永 貴由(ia5429)にもそう言われて。 思わず参平太は、頼もしい先輩開拓者にありがとうございやすと頭を下げるのだった。 そして2人の先輩開拓者は、参平太に別れを告げて外に出る。 ちょうど時刻は夕暮れ時だ。 夕餉の香りが町々の路地から漂い、日はゆっくりと暮れて行く。 ぽつぽつとともる町家の灯りがともる中、2人はゆっくりと目的地に向かって歩き出すのだった。 向かう先は、賭場が立つと噂の町外れの古屋敷だ。 「‥‥それじゃ、貴由。作戦通りに手分けして行くとするか」 「ああ、茉織。宜しく頼んだぞ」 そう言うと、2人のシノビはすっと別れると、まばらな人影を縫って路地へと踏み込んで。 静かに、誰にも気づかれることなく任務へと取りかかるのだった。 ●イカサマ暴き 御神村と時永が向かった町外れの屋敷。 人の手が入らなくなってから、結構な時間が経っているようで庭木は荒れ放題だ。 だが、一歩足を踏み込めば、聞こえてくる賑やかな声。 行われているのは主に賽子を使っての丁半博打で、今日は特に盛況なようだ。 そんな客の中に、目立つ容姿の女性が1人。 服装は普通ながら、その女性を目立たせているのはその炎のような髪である。 手慣れた様子で、勝ったり負けたりしているのは柊・忍(ia1197)。 「んー、次は半だな」 手元のコマと呼ばれる木の札をずいと押し出して、柊がそう告げれば。 「‥‥サブロクの半!」 ざっと増えたコマが手元に戻ってくるのだった 丁半と呼ばれるこの博打は単純だ。 出た目の合計が偶数なら丁、奇数なら半、そのどちらかに賭けるだけである。 単純だからこそ、勝つときはあれよあれよという間に倍倍と増えていく。 そんなおもしろさに取り付かれた者たちがこうして毎日賭場を賑わしているのである。 「今度も半かな」 結構な数のコマをずいと出して柊が賭けたのは半。、 「‥‥グサンの丁!」 今度は負けてしまったようである。だが、彼女は静かに一点を見つめていた。 それは、壺を振る役目にある中盆の手元。壺を上げるときの賽子の様子である。 (グラ賽じゃ無いか‥‥となると糸ってところか) グラ賽とは重心を偏らせて特定の目が出やすくした賽子のことだ。 柊はその中盆の動きに違和感を感じて注視していて、やっとなにかを掴んだようであった。 おそらく、細い糸に引っかけて賽子を転がし目を操っているのだろう。 そこに気付いた柊は、隣で静かに賭場を見ていた女性に静かに目配せをする。 いかにも賭場は始めてといった様子のその女性は露草(ia1350)だ。彼女はかすかに頷いて。 「それでは、私も遊ばせて戴きますわね」 というのであった。そしてさらに白熱する賭場、柊は勝ったり負けたり、とんとんといった様子。 一方露草は、 「それじゃあ、次は丁で」 「‥‥‥‥ピンゾロの、丁!」 「わ、また当たってしまいましたね」 なにやら大勝しているようであった。 露草は、どうやら悪い友達に連れられてきた堅気の人間と見えたのだろう。 1人なら怪しまれたのだろうが、いかにも博打慣れしている柊が友人といった様子に見えて。 そして、そんな初心者が大勝しているとなれば、周りも白熱するものだ。 「‥‥どうにも出来すぎだな」 小さく呟く柊は、幽かに露草の方を見た。すると露草は考え事をするかのように目を閉じていて。 しばらくして、ぱちりとその青い眼を開くと、 「‥‥分かりました。やっぱり柊さんが仰った通りでしたよ」 と、囁いて告げるのであった。 彼女たちの前で壺を振る中盆の手元に、小さなこがね虫のようなものが。 じつはこれ、露草の式、人魂によって作り出されたものなのである。 それによって壺の様子を監察してみれば、案の定糸が見つかったようである。 「でも、それならなぜわざわざ私を勝たせるようなことをしているのでしょう?」 大勝した露草は、荷物を纏め柊と連れだって屋敷を離れつつ柊に聞いて。 「1人勝ってる人間がいれば、周りも勢いづくからな。賭場全体として設けるための手だな」 「なるほど。でも、そういった場合は、勝たせた人間は放っておくのでしょうか?」 「‥‥ああ、一度勝たせて、それで賭け事にはまり込んだら次からはむしり取るなんて手もあるからな」 そう言いながら賭場を離れる2人は狭い路地に入り込むと。周囲に人の気配が。 いつのまに現れたのか覆面で顔を隠した数名の男達が彼女たちを取り囲んで。 「‥‥なんかようか?」 つっけんどんに聞く柊に、男達は棍棒を取り出して、無言で振りかぶるのだった。 ●お大尽 さて、ちょうどそんなことが屋敷近くの路地裏で行われていたとき。 賭場はまだまだ盛り上がっていた。 この屋敷での賭場は、どうやら1カ所ではないようであった。 数部屋に別れていたようで、別口で潜り込んでいた他の開拓者は違う賭場で遊ばされていたのである。 「おお、そこのあにさん! あんた、大分負けてるみてぇだが大丈夫かね!」 「なーに、平気平気! 俺ァ、自慢するわけじゃねぇけど、金にゃ困っちゃいねぇんだよ」 からからと笑いながら酒を呷る男は荒屋敷(ia3801)だ。 酒を手に、大金を山盛りのコマと替えてもらい、それをぽんぽんと無造作に使っている。 時々当たるものの、酒に酔っぱらったまま適当に賭けていれば山はみるみる減っていくのだった。 そして、そんな荒屋敷の横で、ちょこちょこと賭けているのは犬神・彼方(ia0218)。 こちらは賭場になれた博徒か渡世人といった様子で、静かに賭けているようだ。 「兄ちゃん。派手に金使ってやがるじゃねぇか。いいねぇ金持ちは」 「んー? まぁな、姐さんはしけてんのかい? まぁ、飲みねぇ飲みねぇ」 といって酒盃を渡す荒屋敷、いかにも商家のぼんぼんといった様子である。 だが、もちろん彼らも役目があっての潜入中なのだ。 金をばらまいて遊んだ荒屋敷は、もう十分と見ると、 「‥‥あー、しかし、もーそろそろ飽きてきちまったなぁ‥‥」 酒が回っているのか、揺れつつそんなこと言ってる荒屋敷に、今度は犬神が答えて。 「おぉ? それじゃぁ兄ちゃん、いい女ぁがいるトコへつれてってやるよ」 そう話しかけたのであった。 こうした様子は賭場では珍しくない光景だ。 時には、賭場の人間から直接に、そうした店にでも行かないかと誘惑することもあるわけで。 今回は、隣のいかにも遊び慣れた様子の犬神である。 そんな2人の様子に、用心棒や賭場の人間が、視線を向けているのを2人は重々承知で、 「ああ、それもいいなぁ。今日は負けちまったし、慰めて貰うかな!」 「おぉ、そうするといい。ちなみに金ぇはまだ大丈夫かい兄ちゃん?」 「おう! まだまだきれいどころの1人や2人分は余裕だぜ!」 そういって連れだって賭場の外に出るのであった。 賭場には幾つもの出入り口があるようで、犬神と荒屋敷が屋敷から出るとそこは人気の無い路地裏だ。 そこを2人が進むと、案の定追いかけてきたのは覆面をした男たちだ。 こちらでも、覆面の男達は、無言で襲いかかってくるのだが、 「おう、おいでなすったか」 ふらふらと歩くのをやめた荒屋敷は、棍棒を避けると鼻っ柱に拳を一撃。 「後輩を可愛がってくれるたぁ、粋な真似をしてくれたじゃねぇか」 武器を持たずとも、不意を打てばこの通り。だが、相手も志体をもった用心棒たちのようで。 「開拓者を敵に回すたぁ、どーいうことか、教えてやるぜぃ!」 「て、てめぇら開拓者か! はめやがったな!!」 「いまぁごろ気付いたのか。そういうことぉだ‥‥悪い店ぇはおしおきしねぇとなぁ?」 荒屋敷と犬神はそう告げると、たった4人で無謀にも向かってきた用心棒たちをなぎ倒すのだった。 少々時間は前後するが、荒屋敷と犬神が素手で用心棒たちをぶっ飛ばす少し前。 取り囲まれていた露草と柊は、絶体絶命かに見えたのだが。 「‥‥そこまでだ」 襲いかかろうとしていた男達の後ろから、ずいっと突き出されたのは無骨なクレイモアだった。 たった2人を相手に6名ほどで取り囲んでいた男達は、自分の背後に気付いていなかった。 いつの間にか彼らの後ろから忍び寄っていた2人の影に。 クレイモアをずいと向けたのはアレン・シュタイナー(ib0038)。 そして、いつの間にかぴたりと刀を男の1人に背に押しつけていたのは神無月 渚(ia3020)だ。 「‥‥なぁ、こいつら志体持ちみたいだけどどうするかねぇ?」 ちくちくと背中を刀で突きつつ、そう言う神無月に、男達は動けない。 動けば背中からばっさりやられるかもしれないからだ。 救いを求めるように視線を彷徨わせて、一番人畜無害に見える露草に助けてくれと目を向けると。 「‥‥大丈夫ですよ、治癒符ありますから、ぼっこぼこにしても」 にっこりと露草の宣告が下るのであった。 「よし、それなら少し痛い目に合ってもらうかねえ? 死んでも怨むなよ」 そういって、ぶんとアレンのクレイモアが振り上げられれば。 「ち、ちくしょぉーーー!!」 男達の健闘むなしく、あっというまに男達は全員死なない程度ぎりぎりまでぶっ飛ばされるのであった。 ●強欲の末路 その日、その賭場の元締めは日課をこなしていた。それは汚い手で貯めた金を数えるという日課である。 イカサマでわざと勝たせて、他の奴らを負かせて金を巻き上げる。 わざと勝たせた人間も帰り道に襲って金を奪う。そして金持ちからは、問答無用で襲って金を奪う。 そうして蓄えた金を数えるのが何よりも楽しみなのである。 金庫の中には、イカサマに使う道具やら、帳面。 そして、金持ちから奪ったが、まだ現金化の出来ていない証文やら貴重品が隠してあるのだ。 それらを陶然と眺めてから、金庫をパタンと閉める元締め。 さて、今日も賭場を見に行くかと思ったちょうどその時、元締めは怒声が聞こえた気がした。 すわなにごとかと、立ち上がって部屋を出ると、普段なら見える用心棒たちの姿が無い。 志体持ちのごろつきどもは、いつものように帰り道を襲撃しに言ってるだろうか。 そう考えて首をかしげた元締めは、ちょうど廊下を曲がって歩いてきた1人の女性に気付くのだった。 艶やかな黒髪の楚々とした美人である。 なにかを探しているかのような彼女に元締めは近づくとその女性はびっくりしたようだが、 「‥‥私、捜し物があって迷いまして‥‥」 「おお、そうかそうか。わしはこの屋敷の主だから、なんでも分かるぞ」 なぜかそっと寄り添ってくるその美女を前にさっぱり状況が掴めないまま、やにさがる元締め。 だが次の瞬間、彼はその美女、時永の手でぱしんと口をふさがれて。 そして、ひらりと天井裏から舞い降りてきた、御神村は。 「‥‥俺の女に手ぇ出すなよ。冥土の土産にちった、いい夢見れたろ?」 そういって、握った拳で背中から強烈な一撃を見舞うのだった。 ぐぅと声も出せずに悶絶する元締め、その襟首を御神村は掴むと襟を使った絞め技でさっくり落として。 あっというまに、2人は元締めを縛り上げるのだった。 やに下がっていた元締めの太った体を御神村がぎゅうぎゅう縛り上げているのを見て時永は。 「‥‥茉織、力入れすぎだぞ」 というのだが、なんのことだと御神村がとぼけるのに思わず笑みを浮かべたり。 そんな時に、丁度裏口からどかんと豪勢な音が。 「おや、元締めはもう捕まえたのか。てことは、あとは残党退治ってところか」 クレイモアで裏口をぶちこわして入ってきたのはアレンだ。 裏口をふさぐかのように、取り回しの悪い大剣を裏口の前に突き刺しつつ、アレンがダガーを抜けば。 「あ、てめぇら元締めに何を!!」 そういって、匕首で斬りかかってくる賭場の人間にアレンは、金属製の靴でどかんと一撃。 志体を持つ用心棒たちは、開拓者が返り討ちにしたから全滅したようであった。 だが、まだ賭場には部下たちが残っているようなのだが。 ちょうど、正面からは、 「やいやい、外でこいつ等ァ、俺らに襲いかかってきたぜ!」 聞こえてくるのは荒屋敷の怒声と、逃げ惑う客の声。そして 「ココはそーいうアソビも楽しめるたあ、知らなかったな!!」 正面から乗り込んできた荒屋敷と犬神にぶちのめされる元締めの部下たちの悲鳴だったり。 裏口からは、用心棒たちを全員縛り上げてアレンや神無月らが屋敷に戻ってきて。 そして正面からは、荒屋敷と犬神が用心棒たちをぶちのめしての帰還。 首魁の元締めはというと、縛り上げられた上に御神村に踏んづけられていたりして。 こうして、悪徳な賭場はあっさりと全滅したのであった。 「おめーらの持ちモンは、全部売っぱらってキチーンと勝ち分として返しとっから、安心しな♪」 用心棒をはじめ、悪徳賭場の元締めとその部下を縛り上げながら荒屋敷はそういって。 「これで恨みっこナシだぜ」 その後、彼らはギルドから連絡を受けた芳野の役人に突き出されたのだった。 応酬された金品は、全てしかるべき持ち主に返すように取りはからうとのこと。 そう、芳野領主代行の伊住穂澄は開拓者達に請け負ったのであった。 「‥‥今度はまともな賭場で遊ばせて貰うさね。なあ、参平太」 アレンは、怪我の癒えた参平太にそう言って。 依頼を終えて、開拓者達はその首尾を参平太に報告しにきていたのだった。 彼らの手には、参平太が奪われた金と、彼が持っていた親の形見の脇差し一つ。 金と一緒に奪われた脇差しを、わざわざ時永が探して見つけ出してきたのである。 感激して感謝する参平太に、時永は。 「‥‥怪我も良くなったみたいだし、皆で飲みに行こうか。今回の賭場の話を肴に、な」 といえば、その言葉を聞いた露草はぱちんと手を打ち合わせて。 「あら、それは良いですわね。私今、大勝ちして懐に余裕がありますしね」 というのだった。 こうして開拓者達は、盛大に依頼成功を祝う宴会が開くのであった。 |