夢破れて
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/06/30 16:27



■オープニング本文

 開拓者とは、何だろう?
 曰く、才能に恵まれた体を持ち夢を追う者たち。
 曰く、氏族の軛から離れ自由を体現する者たち。

 だが、夢を追えば破れ、自由を歩めば堕落する。
 そんな元開拓者たちもいるという事実もあるのだ。

 開拓者達は志体を持つ。
 泰国では仙人骨というものらしいが、人より優れた資質を総じて持っているのだ。
 様々な技能の習熟において、人より優れ、一般人からすれば一の努力で十を得る。
 そんな者たちを、人は天才と呼ぶのである。
 たしかに、開拓者たちは皆同じ志体の持ち主であり、そこに差は無い。
 そして本来であれば、その優れた資質を人のために使えばいいのだろうが、そうは出来ないものもいる。
 人を見下し、自分は天才であるという小さな自尊心にすがり続ける者。
 鍛えれば伸びる素質を持っていても、性根が鍛えられていない者。
 そんな者たちが行き着く先は、人様に迷惑をかけるような開拓者崩れである。

 さて、優れた素質を持っているから、一般人にとってはそんな者たちは脅威である。
 そして開拓者ギルドからすれば、彼らはギルドの風評を落とす賊徒以外の何者でもない。
 となれば、どうなるか。
 一つの依頼が出された。
 「迷惑な開拓者崩れをぶっ飛ばせ」

 さて、どうする?


■参加者一覧
柄土 仁一郎(ia0058
21歳・男・志
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
秋姫 神楽(ia0940
15歳・女・泰
ラフィーク(ia0944
31歳・男・泰
真明 凛武(ia1099
22歳・男・サ
鬼灯 仄(ia1257
35歳・男・サ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
千王寺 焔(ia1839
17歳・男・志


■リプレイ本文

●現役の溜息
「開拓者崩れ‥‥か。そうだな、大勢いれば、こういうのも出てくるか‥‥」
 やりきれん、と首を振りつつ嘆息するのは柄土 仁一郎(ia0058)。
 依頼を受けて、改めて作戦を立てて、いざ行動と思っても、やはり溜息はでるもので。
 外道に成り下がっても、元は自分たちと同じ道を歩んだ同胞である。
 内心、やりきれない思いがあるのだろう。
「フム‥‥この手の輩、やはり何処の国にでも居るものだな」
 この程度の範囲ならまだ救いようがあるがな、と言うのはラフィーク(ia0944)だ。
 とにもかくにも、これ以上野放しにすれば、開拓者崩れが増長するのは必定。
 自然と、依頼を受ける面々の気も引き締まるようで。
 静かに依頼は動き出すのであった。

●狭まる包囲網
「うぉ〜い、お銚子もう一本〜」
 場末の酒場にて、夕方からのんべんだらりと飲み続けてる人物が1人。
 見れば、ころころと卓上にはからっぽのお銚子が転がり、なんだかできあがってる様子である。
 そこへ、数人の人影が。
 どれもこれも、身なりは貧相な若い男達で、ただ表情だけはぎらぎらとしている。
 腰に粗末な刀を差している者もいれば、何も持たない者もいて、一様に態度がでかく。
「おい、早く酒もってこいよ!!」
 徒党を組んで、大声で店の者を呼ばわり、にやにやと笑顔を浮かべては、店の者を怒鳴りつけて。
 だが彼らの様子をみて、すでに店の中に先にいた酔漢、鬼灯 仄(ia1257)はにやりと笑みを浮かべるのだった。
 若い男達が酒を飲んで、酔い始めると隣の卓にすっと移動して。
「おお、お前さん方、ずいぶんと羽振りが良さそうだなぁ」
 無精ひげを指でかきながらにやにやと言う鬼灯。
 なんだ? とばかりにとげとげしい視線を向ける若者達だが、大柄ながら酒に酔ってる風な鬼灯をあなどったようで。
 まぁなとばかりに得意げな表情を浮かべて。
「‥‥俺も金が無くってよぉ。なんか美味い儲け話とかねえもんかねえ」
 そう言った鬼灯に対して、若者達は鼻高々に自分たちの悪行を自慢話として語って。
 そんな話をにやにやと聞く鬼灯の、その眼だけは笑っていないことに最後まで気づかないようであった。

「へぇ、脅された、と‥‥」
 最近被害にあったとギルドに訴え出た被害者の元に、真明 凛武(ia1099)とラフィークがいた。
 元開拓者達の顔ぶれを聞いて、相手の技や武器を予測するためだろう、どんな奴らがいたのかを詳細に聞いているようだ。
 何はともあれ最初は相手の陣営の確認、これは正しい策である。
 敵を知ることこそが、勝つための最善の策、さてその次の手は、地の利を得ることである。
「じゃ、次は隠れ家の廃屋に回るか」
「ああ、たしか秋姫と千王寺が監視してるはずだったな」
 真明が言えばラフィークがそうこたえ、2人はすでに調査と見張りに赴いてるはずの他の面々のところに向かうのだった。

「ね、そこの君。あっちに古い家が建ってるの知ってる? 誰か入ったこと有る子居ないかな」
 秋姫 神楽(ia0940)は廃屋の近くにあった民家の軒先で聞き込み作業中である。
 相手は、子供達で、
「んー、あそこは危ないから近寄っちゃいけません! て、おっかぁが怒るんだ」
 どろんこで遊んでた子供がそういえば、近くでお手玉してた女の子は、
「あ、でも兄ちゃんが昔行ったとか自慢してたよ」
「じゃあ、お兄ちゃんを呼んできてくれないかな?」
 どうやら、だいぶ前にその廃屋まで遊びに行ったことがある子供がいたようで。
 話を聞けば、廃屋は土間と囲炉裏がある以外は、ただぼろぼろの板間があるだけのようで。
「そっか、ありがとうね〜」
 と秋姫はその場を立ち去るのであった。

「とくに川とかもないし、裏口のとこは道をふさげば良さそうだな」
 時は移って、すでに月が明るく輝く夜半過ぎ。ふらりと見張りのところにもどってきたのは真明と柄土だ。
 どうやら裏口周辺の見回りとついでに罠を仕掛けてきたようで。
 なにか変化はあったか? と真明が問えば、首をふるって応える千王寺 焔(ia1839)。
 彼は、静かに廃屋が見張れる小高い丘の木陰に座って、監視を続けているようで。
 彼の隣には仮眠あけでここに戻ってきた秋姫。なにやら紙切れを前に悩み中だ。
「っと、一人出てって‥‥さっき戻って‥‥あれ、今何人?」
「‥‥今は、全員戻っているようだ。大丈夫だとおもうぞ」
 紙切れに記された人数に目をやって千王寺がそう告げて。
 そしていつの間にかその見張り場所だった丘には、8名の人影があった。
「‥‥彼らの姿は私の起こり得る未来の姿だから」
 まるでこれから起きるであろう戦いを刻みつけるように、静かに1人つぶやいたのは嵩山 薫(ia1747)。
 見れば、静かに遠くに見える山々の稜線が明るくなり、もうすぐ明け方。
「んー‥‥おお、時間か?」
 むくっと身を起こす鬼灯、寝起きの一服とばかりに煙管を取り出すと一服して。
「‥‥そろそろ時間だな。では行くか」
 千王寺がそう言って一行を見回すと、
「うむ、しっかりと説教してやらねばな」
 鬼島貫徹(ia0694)が長槍を掴み、そういって。
 いよいよ、決行の時である。

●強襲と教習
 どがんっ! 正面入り口の粗末な木戸が蹴り飛ばされて開けられて。
 その大きな音に、大徳利を抱えたまま寝ていたりした廃屋内の元開拓者たちは飛び起きたようで。
 なんだなんだと、起き出してみれば、蹴破られた正面の扉に人影が数名。
 しかも、彼らは武器を持ち、入り口をふさぐように立っているのが、薄暗い行灯の明かりに浮かび上がっていれば、
「‥‥なんだてめぇら! 何しに来やがったっ!!」
 とりあえず、口汚くそう言うしかない元開拓者たち、その言葉に応えたのは、
「年の割にチマチマした悪事しか働けない小者に、説教をするためにやってきたのだ、この大タワケがっ!!!」
 真っ赤な顔をして大音声の一喝をたたきつけたのは鬼島である。
 その左右に並ぶのは、柄土、真明、千王寺、そして秋姫が。
「悪党共御用よ御用よ! この世に私が居る限り、悪の栄えた試し無し!」
 口上も凛々しく、秋姫が大声でそう告げて、
「流派・天儀不敗、秋姫神楽が天に代って成敗してあげるわ!!」
 びしりと指を突きつければ、元開拓者達はいきり立ち、
「手入れと言う奴だ。悪いが、覚悟してもらおうか」
 決めつけの一言、ついに悪事の報いがやってきたのを痛感した元開拓者達は、怒号を上げて反撃を始めた。
 曇りきった自尊心を傷つけないために刃を取るものや、はたまた保身のために逃げ出そうとするものがいて。
 混乱の中、戦闘は開始されたのだった。

「お前ら、やっちまえ!!」
 口角泡を飛ばして、じりじり後ろに下がりながら叫ぶのは若いサムライの姿が。
 見れば頭目と思われている若いサムライである。
「‥‥随分と偉そうにしているようだが、お前も落伍者だろう。誰に対して威張り散らしているんだ?」
 炎をまとう太刀を振るって、粗末な武器で襲いかかってきた奴を打ち据えながら、あきれ顔な柄土。
 その言葉に、かっと頭目は真っ赤になりつつも、弱そうな奴らを狙えと叫び立て。
 見れば、皆体格にも恵まれた偉丈夫の中に、1人だけ女が。
「弱い者いじめなんて最悪よ! 悔い改めなさい!」
 と秋姫が言うのもなんのその、狙いは秋姫1人にしぼったようで、一気呵成に元開拓者たちは武器を取るのだが。
「‥‥かかってらっしゃい、強さって何か教えてあげる」
 なんと、返ってきたのは挑発の言葉、その言葉のとおりぼろぼろの刀を振るって斬りつける元開拓者の1人だったが、
 一瞬の交錯のあと、腹を押さえて倒れたのは元開拓者のほうで。
「成敗完了‥‥正義は、勝ぁーつ!! さぁ、次はどいつ?!」
 秋姫はばしんと拳を叩くと、性根まで腐った敵に目を向けるのであった。

 そして弱いとおもった秋姫を狙ってもその体たらくの開拓者崩れに対して。
「ォォオオオオオオオオオオオオッ! 男子たる者、国のひとつやふたつ盗るくらいの気概が無くて如何するかッ!」
 その性根に対して、大音声での一喝‥‥否、咆哮を上げて威嚇した鬼島。
 その迫力を怖れ、思わず斬りかかってしまう開拓者崩れ達。
 見れば頭目までもが、反撃を試みるのだが覇気の無い攻撃は鬼島の長槍にはじかれて、逆に鬼島たちの反撃を受け。
「性根まで腐ると、この程度だな」
 鞘に収めたままの刀で開拓者崩れの横っ面をぶっとばし、飄々とつぶやく真明。そして、
「あまり、無駄なことをするな。もっと痛い目を見たいのか?」
 黒衣を翻して、両刀を振るうのは千王寺だ。こうしてあっという間に、室内での決着は付きつつあった。
 そして、突入と同時に裏口から逃げ出した数人の開拓者崩れはというと‥‥。

 一番最初に裏口から走り出た男は、足下の紐に躓いてびたんと転んで。
 真明が仕掛けてあった罠に見事引っかかったようで、そこにぬっと人影が。
「ほい、いらっしゃいっと‥‥」
 にやりと笑みを浮かべつつ、起き上がろうとしていたところを木刀で一突き。
 さらにじたばたと逃げようとするのをゆっくり追いかけて、尻に木刀を一撃。
 遠慮無くぼこぼこと打ち据えると、やっと逃げようとしなくなったのを見て一言。
「‥‥お〜い、生きてっか〜」
 これも自業自得である。
 また、こっそり暗がりに隠れて逃げようとしていた開拓者崩れの前にはラフィーク。
「そう簡単に逃げられると思われては困るな」
 しかしそう言っても、開拓者崩れはすなおに言うことを聞くような奴らではなく。
 力で押し通ろうと、懐から短刀を抜けば、
「俺に向かってくるならば‥‥覚悟してもらおうか」
 刀を鞘ごと抜くと、びしりと腕に一撃して武器を落とさせて、脚を払って。
 倒れ込んだところにぴたりと鞘付きの刀を向ければ、そいつは観念するしかないのだった。
 そして、残るはわずか1人、逃げ切ったと思われたところ、前に立つ1人の人影。
「てめぇ、どきやがれ!」
 粗末な武器を握って怒声を上げる開拓者崩れ。それを見て、ふっと微笑むのは嵩山だ。
「できれば貴方がたとは最初から真正面に向き合いたかったのだけれどね‥‥ふたつの意味で」
 だが、その微笑みを向けられて、侮られたと思ったのかその開拓者崩れは武器を向けて。
「‥‥どかねぇとたたっきるぞ、ババァ!」
 だが、そう言われても嵩山は笑みを崩さず。
「失礼ね。嵩山薫、二十年振りの新人よ」
 そういって静かに構えて。一瞬の踏み込みで、距離を詰めるとどすんと一撃。
 ぐったりと倒れ込む開拓者崩れの襟首を掴むと、世話が焼けるとずるずる廃屋まで戻るのだった。

●後の始末
 抵抗激しい奴らは縛られ簀巻きにされて、廃屋のなかに集められていた。
 反撃をこころみた大半の人間は、顔を腫らしたり鼻血を流したりしているが、ひどい怪我を負った者はいないようで。
 だが、悪事は悪事。彼らは後でしかるべきところに突き出され、犯した罪の償いをすることだろう。
 しかし、その前にラフィークは手にした桶で井戸から汲んできた水を開拓者崩れ達にぶっかけて。
 そうすれば気絶してる奴らもやっと目を覚ましたようであった。
 時刻はまだ朝も早く。
 真明やラフィークは彼らを突き出すためにしかるべき場所へと報告に向かっていて。
 ちなみに、居並ぶ開拓者達の中に、酒場で会った鬼灯が気づいた奴がいたようだが、思わず情けない視線を向けたその若者に対して。
 これ以上手間かけさせんじゃねえぞ、ゴラァ! とでも言うように返ってくる鬼灯の殺意まじりの視線に、萎縮する奴もいたり。
 そして、開拓者は元同胞たちを前にしてとつとつと語り出すのであった。

「悔い改めさえすれば他の人間と同じ様にやり直すことは出来ます」
 嵩山は静かにそう言うものの、まだ年若く、自尊心だけは人一倍な開拓者崩れ達は不服そうな表情で。
 そんな姿を見て、柄土は、
「お前たちは、何のために開拓者を目指した? 今のお前たちはそれに対してどうだ? ‥‥お前たちのその覚悟は、諦めて落伍する程度に半端だったのか?」
 真っ向からそう言われれば、それぞれがどこか弱さをごまかして、開拓者としての道を外れたことが思い出されて。
「今が一番面白い時代だというのに、こんなところで終わるつもりか‥‥」
 眼光鋭くそういう鬼島、そして、
「‥‥夢に終わりなど無いわ。貴様等が勝手に終わらせるのでなければ、な」
 かすかに表情をゆるめて告げる鬼島。自らも夢を追っていることが伝わるような言葉で。
「罪を償って、赦されるなら‥‥一から出直してくる事だ」
 そう柄土が告げれば、元は夢を持っていた開拓者達、なにも言うことはできないのだった。

 やっと説得というか説教も終わり、一同は神楽の都の警備団に引き渡されるところで。
 説得が聞いたようで、とくに問題もなく、静かに引っ立てられつつも、ふらりとそこに千王寺が。
「‥‥獅子臣 神才っていうのは、あんたの仲間か?」
「い、いや。そんな奴は聞いたことねぇが‥‥」
 黒衣の千王寺が頭目に向かって問いただし。
「そうか、ならいい‥‥」
 改めて、引っ立てられる開拓者崩れは開拓者としての深みに触れた気がしたのであった。
 そして、
「意外と強かったわよ、あんた。また何時か手合わせしましょ」
 秋姫は、自分が倒した相手に対して、そう声をかければ、未熟なりとも認められることが嬉しくないわけはなく。
 開拓者崩れ達は、多少は前向きな気持ちで彼らの罪を償うことが出来そうであった。

「開拓者‥‥進む先は何処か。私には果たして見つけられるかしら‥‥」
 嵩山は呟き、物思いにふける。
 確かに、開拓者としての人生は厳しいものであるが、彼らは前に進むしかないのだ。
 こうして、今回の事件は開拓者達の心にしっかりと刻み込まれつつ、無事解決したのであった。