【神乱】士気を高めろ!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/22 21:04



■オープニング本文

 反乱の続くジルベリア。
 長く続く厳しい戦いで、大変重要となる要素は士気である。
 いつ敵が来るか分からぬ中で、ひたすら待つという任務。
 乏しい食料に劣悪な生活環境、さらに厳しい気候と重なれば辛く苦しいのは当たり前である。
 そうなれば、いざ戦いの時が来たとしても、十全の力を発揮できないということもある。
 ゆえに、戦場において士気を高め敵に備えることは重要なのである。

 開拓者の仕事と言えば闘うことはその最たるものである。
 だが、それ以上に複雑な来歴を持つ開拓者も少なくないわけで。
 さまざまな特殊技能を保っていることも珍しくない。
 だが、正規軍である騎士や戦いのみを続けてきた傭兵たちはそうではなく。
 前線に集まった騎士や傭兵たちの生活は自然と地味なものになってしまうのである。
 反乱軍撃退の前線となるべくジルベリア軍が駐屯している城、クラフカウ城もそんな状況で。
 物資の枯渇も重なり、士気の減退は激しく、一〇〇余名ほどの兵達も日々辛く苦しい生活を送っていた。
 ゆえに、そこに士気高揚と支援のために開拓者が送られることが決定した。

 任務内容は、いわゆる慰安である。
 吟遊詩人をはじめ、楽器などの演奏が出来ればそうした娯楽で盛り上げるも良し。
 あまり多量の支援は出来ないが、ちょっとした異国の料理を振る舞うでも良し。
 酒もある分だけ支給されるとのことで、なんとか前線の士気を回復させてほしいというのが今回の任務である。
 どうやって回復させるかは、開拓者達に一存されている。
 これから始まる戦乱を前に、士気回復はとても重要な任務となるだろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
胡蝶(ia1199
19歳・女・陰
乃々華(ia3009
15歳・女・サ
からす(ia6525
13歳・女・弓
柳ヶ瀬 雅(ia9470
19歳・女・巫
日御碕・神楽(ia9518
21歳・女・泰
和紗・彼方(ia9767
16歳・女・シ
ナーザニン・アディル(ib0175
19歳・男・吟
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
ライオーネ・ハイアット(ib0245
21歳・女・魔


■リプレイ本文

●歓迎と準備は賑やかに
 クラフカウ城にやってきた8名の開拓者。
 その姿を見ようとその日、城の兵達はどやどやと集まっていた。
 娯楽の無いこの城に、たった数人といえど外から人がやってきたのだ。
 しかもそのうち7名は女性だとなれば、噂はあっという間に広がって‥‥。
「‥‥なんだか大歓迎みたいだね?」
 思わず、和紗・彼方(ia9767)はぽかんとしてしまうのだが、無理はない。
 無駄に多い見張りをはじめ、なんだか大勢の兵達が今か今かとお待ちかねのようで。
「あ、あんまり期待されすぎるのも、困るわね」
 そんな様子にこっそりと練習していた横笛をさっと隠す胡蝶(ia1199)であった。
 とにもかくにも、こうして開拓者達は城へと到着したのだった。

「舞台を作る‥‥ふむ、城の食堂広間の一角でしたら、どうぞご自由に」
「わぁ、よかった。それじゃ、そこを貸して貰うね」
 さて到着して早々、和紗は舞台の場所交渉に成功した模様。
 相手は気むずかしそうな兵士。おそらくは、資材や設営の監督に当たる部署の隊長なのだろう。
 彼の許可を得た和紗は、黙々と舞台設営の準備に移るのだが。
 そんな彼女の後ろの方で、先ほどの隊長さんに話しかけてる部下たちの会話が聞こえたり。
「隊長! 今日中に仕上げなければ行けない修理箇所は全て完了しました!」
「‥‥ご苦労。ならば、他の資材整備に関して‥‥」
「隊長! お願いがあります! 今は急ぎの仕事は無いハズなので、是非手伝いを!!」
 どうやら、若い兵達は隊長に交渉中のよう。そんな部下たちを渋い顔して見つめる隊長だが。
「‥‥兵士の慰安に関わる設営任務も、重要な仕事だな。良し、すぐ任務にかかれ」
 そんな隊長の計らいに、了解と声をあげてから、若い兵士たちが和紗の手伝いにやってくるのであった。
 和紗は兵達に、元気な笑顔を向けて。
「みんな、ありがとうね! ボクは出ないけど、みんなで歌とか踊りをやるから見に来てねっ!」
 そして和気藹々と兵達が手伝えば。そのかいもあって、あっというまに簡単な舞台が完成するのだった。

 そしていよいよ、開拓者による士気向上のための舞台が始まるようであった。
 数回繰り返し、時間を変えることで兵達に交代で見に来て貰えるようにと配慮しつつ。
 非番や待機中の兵士たちで賑わう観客席を前に、いよいよ舞台の幕が上がるのである。

●歌に踊りは華やかに
 城の兵士たちは、交代で任務に当たっている。
 日夜を問わず周辺の偵察や、城からの監視などは絶対に休めない仕事で。
 いつでも出撃できるようにしておくというのも重要な任務の一つである。
 しかし、それは準備を整えてはいるものの待機状態であるということだ。
 そんな折、今回の開拓者達の訪問に際しては、休息もかねて可能な限り任務を外すとのこと。
 つまり、いつでも出撃できる状況は整えたままではあるが、兵士たちは自由を得たと言うことだ。
 ‥‥何が言いたいのかというと。
 舞台の前の観客席は、超満員だということである。

「娯楽‥‥あまり得意な分野ではないのだけど」
 舞台袖からちらりと覗いて、兵士や避難民で超満員の観客席を前に、思わず胡蝶はそう言って。
 だが、そう言っても開演は待ってくれないわけで。
「私は趣味程度、独奏で魅せるほどの腕じゃないし、からす、頼んで良い?」
「もちろん、任せておくれ」
 同じく横笛を手にしたからす(ia6525)は、胡蝶に対して快諾して。
 そしてもう1人、楽器を手にした開拓者の姿が。
 今回唯一の男性開拓者、ナーザニン・アディル(ib0175)である。
 実は、ここに到着する前に、彼は胡蝶らと一緒にいくつか曲を練習していた。
 それも、演目である天儀風の踊りの伴奏をするためで。
「‥‥それじゃ、まずはボクから‥‥だね」
 準備万端、いよいよ開演である。

「隊長殿、まずは一発宜しくお願いします」
 からすに促されて、城兵たちの上司らがいろいろと今回の慰安について語り始める。
 兵士の心構えについてやら、話がながくなるに従って微妙に兵士たちも焦れてきたよう。
 やっとそれに気付いた隊長たちは、やっと小言をやめて。
 いよいよ開拓者達の演目が開始されるのであった。
 まずはナーザニンが天儀風に奏でる楽の音に合わせて、てくてくと歩いてきた小さな姿が。
「えと、天儀の神楽を舞わせて頂きます」
 ぺこりとお辞儀する鈴梅雛(ia0116)は、そういって神楽舞を始めるのであった。
 異国の少女が舞う幻想的な神楽舞。それだけでも、兵士たちの心を励ますのに役に立っただろう。
 だがそれだけではない。鈴梅は本職の巫女であり、その神楽舞には力がある。
 士気を高めるという目的にも適った軽やかで華やかな神楽舞は大いに兵士たちを勇気づけたのである。

 さて、続くのは一転して軽やかな音色。ナーザニンのリュートに合わせて、響く横笛。
 舞台に飛び出てきたのは、日御碕・神楽(ia9518)だった。
「さ! 盛り上がっていこー!!」
 男むさい兵士たちの歓声に乗せて、ひらりと飛び上がった日御碕は舞台中央にすたっと着地。
 鮮やかな振袖を纏って、その長い袖をはためかせて舞う動きは、鋭く華麗だ。
「紅鳳院流、一の舞『鳳翼』」
 先の鈴梅が待った神楽舞の雰囲気を残しつつも、早く鮮やかな動きは、まさに抜き身の美しさ。
 赤い振袖がまるで鳳凰の羽のように風を切って、時に優雅に力強いその動きは舞と言うより演舞だ。
 その舞は、先ほどの鈴梅の神楽舞の励ましとも違って。
 戦いの場に身を置く自分たちを、まさしく鼓舞するための力強さに満ちあふれているのだった。
 そして兵士たちの歓声の中、ひときわ高く飛び上がる日御碕。
 その鋭くも美しい動きに、水を打ったように一瞬静まりかえる広間。
 そして次の瞬間、ふわりと舞台に降り立った日御碕は、割れるような拍手の音を耳にするのだった。

 さて、大いに盛り上がった日御碕の演舞、思わず鈴梅も
「皆さん、すごいです。ひいなも、もっと頑張らないといけませんね」
 と感心する出来映えだったようで。
 そして次なる演目を前に、兵士たちも持ち場についたり離れたりと忙しいようだ。
 数日の間は、こうした演目を繰り返すからと、兵士たちを納得させて。
 そして演目と演目の間は、ナーザニンがリュートを響かせていた。
 彼がつま弾くのは、彼の血に連なる古き音色。
 どこか懐かしく、そして何処か新しく聞こえる幻想的な音色は、幽玄で牧歌的であった。
 そんな歌の数々を間に挟みながら、まだまだ出し物は続くのだ。
 最後に登場した派手な出し物は、なぜだか“お花と畳”に溢れていた。

「みなさーん、今日は私のステージを見に来てくれて、どうもありがとー!」
 にこにこと観客席に手を振るのはルンルン・パムポップン(ib0234)。
「一杯、一杯楽しんでいってくださいね」
 そう、彼女が観客に呼びかければ、るんるーん! と名を連呼する一団がいたり。
 どうやらすでにファンは獲得済みのようで。
「それじゃあ聞いてください、『明日に送る花言葉』」
 そして彼女は歌い出すのだった。
 神楽舞で兵達を勇気づけた鈴梅、そして演舞で兵達を鼓舞した日御碕。
 ルンルンの演目はどちらとも違っていた。
 舞う花吹雪、くるくると回るワンド。そしてふりふりと踊る可憐な女の子。
「ジュゲームジュゲームパムポップン‥‥」
 珍奇な呪文(?)も口にしつつ、楽しげに舞台を跳ね回る彼女の姿は‥‥。
 特に若い兵士たちに大人気であった。
「皆さん頑張ってください。私、応援してます‥‥そして、いつかまた貴方の住む町で会いましょうね!」
 るんるーーん!! というファンたちの叫びの中、彼女のステージは幕を下ろし。
 妙な熱狂を振りまきつつ、とりあえず開拓者達の演目は一通り終了するのだった。
 だが、もちろん開拓者達の働きはこれだけではない。
 演目が行われている間に、その賑やかな食堂広間で他の慰安も行われていたようで。
 次はそれについてみてみよう。

●酒と料理で楽しげに
「はい、お疲れ様です。皆さん、頑張って下さいね。これ、手作りのお結びです」
 お結びを配っているのは柳ヶ瀬 雅(ia9470)だ。
 開拓者の舞台で賑わう中、彼女は料理人たちと協力していろいろと料理を作っていたようだ。
 持ち込んだ天儀の調味料や材料を使って、異国の料理をつくったり。
 その中でも一番簡単と言うことで、お結びを沢山作って、それを振る舞っているようだ。
 もちろん、米もそれほどの量を持ち込めたわけではないが、振る舞うのには足りる程度はあったようで。
「いっしょに、お守りでもどうですか? わたくし個人からの贈り物、ということで、ね」
 たしかに舞台の上を華やかに舞う開拓者もいい。
 だが、にっこりと微笑んでお結びを手渡してくれる妙齢の巫女さんはどうだろうか?
「あ、ありがとう‥‥大切に、します‥‥」
 柳ヶ瀬から貰ったお守りをぎゅうと胸に抱きつつ、なんだか呆けてる若い兵士も居たり。
 いつの間にか、柳ヶ瀬は料理を振る舞いつつ、みんなの聞き役に回って。
 輪の中心として、大いに兵士たちの心をいやしているようであった。

 もちろん、開拓者が様々居るように、兵士にも様々居るようで。
「‥‥個別対応は別料金です」
 ちょいとよからぬ事を考えた兵士さんを、ほどほどにぶっ飛ばしたのは乃々華(ia3009)だ。
 どうやら粗暴な性格の兵士が、彼女の色香にくらっときたようで。
 ちょっとした悪戯に対して手痛い反撃を喰らったのだろうが、それは自業自得。
 何ごともなかったかのように、乃々華は目を輝かせて
「お辛いでしょうけれど、がんばってくださいね」
 といって、兵士たちの手をぎゅっと握るのだった。目線は上目遣い、しかも薄着。
 いろんな意味で効果覿面な、どストレートな慰安であった。
 彼女の慰安に、兵士たちはびろーんと鼻の下を伸ばすわけで。
「‥‥男って単純な生き物です」
 思わず本音もぽろりである。

 厨房を借りて薬湯作りに精を出すのはナーザニンだ。
 持参したり、備蓄されていた薬草を使って、様々なお茶を淹れているよう。
 演目を長々と続けるわけには行かないので、演目は人の集まる時間に集中する。
 となると、逆にそれ以外の時間はほそぼそといろいろ行われるわけで。
 このハーブティーもその一つだ。
 食堂広間の片隅で、リュート片手にこの国の音楽を奏でつつ、お茶を一杯。
 そんな心の平安を求めるのはどうやら、上官たちのようであった。
 怒りっぽい上官には鎮静作用のあるお茶を。
 元気が出ないならば、回復効果のある薬湯をと、さりげない心遣いが嬉しいもので。
「いくつか、レシピは書き残しておく、から‥‥」
 緊張が続く日々の中、こうして心を落ち着けることは、非常に重要だ。
 その結果、いつの間にか多くの人々が、彼の音楽の周りには集まるようになるのであった。

「まあ、あそこの生まれでいらっしゃるのですね」
 ライオーネ・ハイアット(ib0245)は、兵士たちに混じって、賑やかに話をしていた。
 彼女は、兵士たちに酒をお酌してやりながら、様々な話をしていて。
「あちらには行った事がありませんもので、どんなところか是非お聞きしたいと存じます」
 にこりと微笑みを浮かべて、兵士たちの話に耳を傾ける。
 そうすると彼女の周りの兵士たちは、酒を飲みつつ、様々な話をすることになるのであった。
 その多くは、彼らの故郷の話だ。演奏や演目の間の時間に、ふと休みに来た兵士たち。
 彼らは自然とライオーネに話を聞いて貰いたいと集まってくるようになるのだった。
 同じ国で生まれ育った開拓者と兵士。
 境遇は違えども、いろいろと話が会うことも多いのだろう。
 ライオーネの周りの兵達は、故郷に思いを馳せながら、酒を楽しく飲むことができるようで。
「さぞかし、これからの季節は綺麗なんでしょうね」
 兵士たちの疲れを忘れさせ、さらに決意を新たにさせる力が、彼女の話にはあるようだ。

●宴と舞台は、力となって
 いつまでも、何度も響いていたのは戦士を讃える歌。
 いつの間にか、兵士たちも口ずさむようになったのはナーザニンの故郷の歌だった。
 そんな調べの中で、
「かつて、オリジナル・アーマー3機が、大アヤカシとの戦いで失われたのは知っているわね」
 多くの兵士たちを前に、そう語っていたのは胡蝶だ。
 笛を吹いて舞台を盛り上げる以外に、彼女が語るのはかつて理穴であった戦乱の話だ。
「つまり、あのオリジナル・アーマーでさえ、大アヤカシの前には、力が及ばなかったということよ」
 いつの間にか、冒険譚を聞かせるように胡蝶は輪の中心になっていて。
「けど、緑茂の戦いでは、天儀の軍と開拓者の手で、大アヤカシの討伐を成功させた」
 そう、彼女が話しているのは、開拓者達の力だ。
 人の身では到底叶わないと思われた大アヤカシを討伐した緑茂の戦い。
「‥‥何が言いたいか、わかるわよね」
 その話は、大いに兵士たちを勇気づけたのである。
 辛さを忘れることも時には必要だが、彼女の話は改めて明日への活力を産むだろう。

 そして、厨房で忙しく働く2人の姿。
「わわ、塩を入れすぎたかなっ?」
 あわあわと慌てる和紗だったが、柳ヶ瀬はそのスープを味見すると。
「あら、ジルベリアの料理は結構味付けが濃いようですし、大丈夫ですよ」
 そういってにっこりと。
 彼女たちが作ったスープもまた兵士たちに振る舞われて。
 材料は粗末で具も少ないのだが、彼女たちが作ってくれたと知っていれば、嬉しいもので。
 一方、乃々華は、
「見た目ぐちゃぐちゃだけど味は美味しいものと、見た目は綺麗だけど味は最悪な物」
 彼女も厨房に立って、
「どちらのタイプをご希望ですか」
 究極の選択を兵士たちに強いていたり。

 そしてライオーネは、仲間の開拓者と手分けして、兵士たちに酒を振る舞っていた。
 からすは、兵士たちと一緒に料理をつつきつつ、武勇伝に耳を傾けて、
「ふむふむ、それで?」
 一方、日御碕はくるくると忙しく料理を運んだりお酌をしつつ元気に周りを励まして。
 そんな中、 最後に、鈴梅が兵士たちを一致団結させようとしていた。
 実は、兵士たちの間で、どの娘さんが一番だと、微妙な派閥争いがあったようだが。
「それでは、皆さん、一緒に。えい、えい、おー」
 兵士たちは、開拓者達の働きに感謝しつつ、高まった士気を示すように。
 おー! と大きく鬨の声を上げたのである。
 こうして開拓者による士気向上は大成功で幕を下ろすのであった。