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■オープニング本文 寒い冬。 そんなときこそ、熱い風呂。 しかも、天然温泉となれば、そりゃもう至福である。 とはいっても、温泉経営も楽じゃない。 お湯の管理も大変だし、湯気のせいで設備の痛みは早い。 だが、そんな苦労もなんのその、夢を叶えるために1人努力する青年がここにいた。 場所は武天の芳野という街のはずれにて。 紅葉の見事さで知られる景勝地、六色の谷にその古びた温泉宿はあった。 元は、あまり人気の無い古びた温泉旅館だった。 それを、青年が買い取り、手を入れてなんとか温泉宿としての再開にこぎ着けたのだ。 だが、しかし。 やはりなかなか商売ごとというものはうまく行かないものである。 名の知られていないその温泉宿に、あまり客が来ることもなく。 このまま行けば、とっても悲しいことになるに違いない‥‥。 ということで、一念発起。 青年は、その温泉宿の人気を獲得するために、一計を案じることにしたのだ。 昨今、この天儀の各地にてめざましい働きを見せる開拓者達。 彼らは、アヤカシを相手にして怪我をすることも多いだろう。 なので、是非、湯治に来て貰おうではないか。 それに、危険な仕事をする開拓者達は、なかなかに羽振りが良いと聞く。 開拓者の間で評判になれば、きっとこの温泉宿も人気を取り戻すに違いない!! ということで、若者は、開拓者たちを無料で温泉宿に招待し。 もし良ければ、いろいろと改善点を教えてくれないだろうかと考えたのである。 さて、どうする? |
■参加者一覧 / 天津疾也(ia0019) / 柚月(ia0063) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 井伊 貴政(ia0213) / 当摩 彰人(ia0214) / 犬神・彼方(ia0218) / まひる(ia0282) / 奈々月纏(ia0456) / 橘 琉璃(ia0472) / 篠田 紅雪(ia0704) / 鷹来 雪(ia0736) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 蘭 志狼(ia0805) / 氷海 威(ia1004) / 奈々月琉央(ia1012) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 大蔵南洋(ia1246) / 巴 渓(ia1334) / 剣桜花(ia1851) / 劉 厳靖(ia2423) / ルオウ(ia2445) / 犬神 狛(ia2995) / 腹部 康成(ia3734) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 平野 譲治(ia5226) / 倉城 紬(ia5229) / 氷那(ia5383) / 設楽 万理(ia5443) / 菊池 志郎(ia5584) / 由里(ia5688) / 太刀花(ia6079) / 藍 舞(ia6207) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / ギアス(ia6918) / 浅井 灰音(ia7439) / ナナ・シノ(ia8022) / 草薙 慎(ia8588) / カルナック・イクス(ia9047) / ジェシュファ・ロッズ(ia9087) / そよぎ(ia9210) / 夏 麗華(ia9430) / ベルトロイド・ロッズ(ia9729) / 観月 静馬(ia9754) |
■リプレイ本文 夢の温泉計画! リプレイ ●改装計画始動! かっこーん‥‥冬の温泉宿に響く風呂桶の音。 その日、芳野の温泉宿「桂の湯」は大忙しであった。 それもそのはず、なんと大勢のお客がごった返していたからである。 「‥‥‥うう、こんなに沢山のお客が‥‥」 「お客っていってもあんた、今回はお金は入らないんだから。涙ぐんでるんじゃ無いわよ」 その光景が嬉しかったのかなんだか感激している主人の辰蔵。 そして辰蔵の脇腹に肘を叩き込みつつ、腕まくりしているのが妻のおせんだ。 なんと集まった開拓者は40名以上、宿は満員状態であった。 さて、どやどやとやってきた開拓者たちの思惑は様々だ。 宿の再建話に手を貸そうと意欲溢れる者から、湯治を楽しみに来た客。 恋人や仲間との一時にと遊びに来た者も居れば、しばしの息抜きと酒瓶片手の姿も見える。 だが、もちろん皆さん、大事なお客様で。 「桂の湯へ、ようこそおいで下さいました!」 挨拶をするおせんと従業員たちに、その後ろで頭を下げている辰蔵。 彼らに迎えられて開拓者達は宿へと到着し、早速温泉宿でのしばしの時間を楽しむのであった。 いろいろと温泉の改良案を持ってきた開拓者も沢山いたようで。 宿の主人は感謝感激、だがとりあえずは温泉を楽しんで下さいとのこと。 一行は思い思いに温泉を楽しむことになった。 では、その様子を覗いてみよう。 「痛っ‥‥はあ、まだ痛むなぁ‥‥」 女湯にて、ぐーっと体を伸ばしつつ、そう呟くのは浅井 灰音(ia7439)。 どうやら依頼で負った怪我が痛むようだ。 だがさすが開拓者、ほとんど傷も癒えているようで、温泉に浸かっていれば完治までもうすぐだろう。 「ん‥‥やっぱり温泉は景色を楽しむのが一番楽しいね」 と、呟きつつ、温泉宿の裏に広がる雪山の景色を眺めていると。 てくてくと歩いてきたのはからす(ia6525)、なぜか女湯の入り口からではなく外からだ。 どこへ? と不思議そうに浅井が尋ねると、 「ん、念のためにね」 どうやら覗き防止の罠を仕掛けてきたようで。 さすがに開拓者満載の女湯を覗く度胸のある男は居なかった‥‥とおもわれるのだが。 そして、からすは浅井に。 「どうぞ、一献」 と徳利を向けるのであった。温泉たるもの、こうして落ち着いて楽しむのも良いものである。 といっても開拓者も千差万別で。 「お風呂は久々ですの! みんなでお風呂なんてはじめてですのー!」 陽気に、義肢がもげたりしつつはしゃいでるのがナナ・シノ(ia8022)。 「ほら、シノ。腕、腕‥‥折角の良いお湯なんだから」 世話を焼いているのは、明らかにナナより年下に見える藍 舞(ia6207)で。 そんな藍も、温泉に入れば、 「あ゛〜、良いお湯に良いお茶、極楽極楽‥‥」 若いのに、なんだかずいぶんと渋いのはともかく、のんびりと楽しんでいるようであった。 華やかな女湯。そこで気になるのは、普段なら見聞きすること適わぬその内情である。 男性諸君からすれば、非常に気になるその様子はこんな感じだったり。 「本日のお題は肩こりですっ!」 響いたのは女性の声、温泉は肩こりに良いというが‥‥。 「今は浮いてるから良いですが普段はずーっしりと重いこの胸による肩こりっ!」 女湯の片隅に2人の女性、そしてなんだかとっても重そうなものがぷかりとお湯に浮いていたり。 剣桜花(ia1851)と夏 麗華(ia9430)であった。 「我々にとって重大な問題ですっ!」 「時には、戦いの邪魔にもなりますしね」 聞けば彼女たちは、非常に立派な胸の持ち主だけが入れる会を結成したのだとか。 といっても、現在会員は彼女2人。そりゃまあそれだけのモノをお持ちの女性はさすがに少ないようで。 ‥‥さすがにこういった光景は、みせられないよ、である。 では、男湯の方はというと? 「うむ、なかなか景色も良さそうだし露天風呂は最高だのう」 ひろびろとした男湯にやってきたのは腹部 康成(ia3734)。 男湯も広々としていて、大柄な彼でも十分に手足を伸ばせる風呂に浸かって一言。 「‥‥うむ、風呂に入り雪見酒。最高、最高!」 かっぽーん‥‥。 「たまには‥‥こういうのも、良いものだな‥‥」 普段の険しい顔も少しはゆるんでいるのは大蔵南洋(ia1246)。 「おー‥‥この時機に熱い風呂に入るのは、やっぱり気持ちええなあ」 天津疾也(ia0019)も、そういって眼を細めてのびのびと。 渋く男らしく、温泉を楽しんでいる皆の様子をちらりと見て。 (「‥‥混浴は是が非でも実現しなければ」) 自身も温泉で体を伸ばしながらこっそり心に誓う井伊 貴政(ia0213)なのであった。 「‥‥無料で温泉宿に招待なんて、太っ腹ですね」 肩までお湯に浸かりつつ、のんびりとくつろぐのは菊池 志郎(ia5584)。 彼は、今日はここに来る前に周囲の散策をしてきたとのことで。 しみこんだ寒さに温泉が嬉しい心持ちであった。 「景色がよいと、時間が経つのを忘れてしまいますね」 ふと隣に話しかける菊池。隣には、異国の兄弟の姿があった。 「ほんと、温泉街って楽しいよね〜」 その兄弟はジェシュファ・ロッズ(ia9087)とベルトロイド・ロッズ(ia9729)の2人。 彼らは、故郷の酒を堪能しつつ、同じようにのんびりと温泉を楽しんでいて。 人が集まれば自然と会話が弾むもので、ベルトロイドが興味を示したのは散策路の話だった。 「そんな散策路が用意されてるんだ、さすが観光地だな」 「ええ、この宿は多少大きな道からは外れてますけど、すこし歩けばいろいろと見所がありましたよ」 菊池が言うように、この桂の湯は恵まれていないわけでは無いようである。 では果たして、どういった形で再起を図るのだろう。 「考えるのは皆にまかせる!!」 のんびりと温泉に浸かりつつ、そういったのはギアス(ia6918)だ。 もちろん彼のように、案がない者も大勢いた。 だが、今回の目的は、案を貰う以上に、開拓者達に楽しんで貰うことである。 今回楽しんで貰えれば、きっとこれから先につながるだろうという辰蔵とおせんの起死回生の計画なのだ。 なので、ギアスのようにのんびり楽しむのは間違いではない。 「ふぅ〜、きもちいいなぁ」 ギアスのように温泉を満喫していれば、きっとこの温泉の良い噂が広がるに違いないからである。 ●匠たちの提案 さて、温泉を楽しむ一方で、様々な案を持ち寄る者たちはといえば。 宿の主人夫婦を前にして、相談が始まっていた。 いくつかの案はすぐに仕事にかかろうと、辰蔵を中心に動き始めたようで。 「やっぱり温泉なら効能が大事だね! ということで、女性陣は実体験を教えてちょ〜だいな♪」 聞き取り調査中の当摩 彰人(ia0214)は笑顔である。 一方、同じ事に興味を示していたのは瀬崎 静乃(ia4468)だ。 「‥‥温泉の効能も売りに出来ると思うの。もし、肌に効果があると尚売りになると思います!」 と瀬崎。すると幸いにもどうやらこの温泉は、本当に肌に良いということが分かったようで。 「なら、こういう実体験を、広めて貰らうのも一つの手だよな」 当摩が言えば、瀬崎は頷きつつ。 「‥‥今度来た時には、徹底的かつ本格的に調査したいけどね」 作戦その1、温泉の効能を広めて貰ってお客を集める、となったようである。 「地物の材料を使った料理なんかを考えられると良いんですけどね」 鍋とか? と案を出しつつ、調理場にて腕を振るう開拓者は井伊であった。 「建康に気を遣う御仁や、体重が気になる娘さんに、一ひねりってぇことで、山菜づくしなんかはどうだ?」 こちらは巴 渓(ia1334)だ。 といっても、山菜は一年中採れるわけではないので、冬の間は乾物という形ならと、女将のおせんは言って。 ここ調理場では、宿の名物となり得る料理の模索が行われていた。 「んぅ〜。さっ、と火を通しただけの物やある程度作り置きができる煮物が良いでしょうかね」 簡単で手のかからない料理もいくつかあると応用が利くだろうと倉城 紬(ia5229)が言って。 そして、カルナック・イクス(ia9047)が提案したのは。 「蒸気がふんだんにあるようだし、蒸し卵なんていうのも面白いかも知れないな」 これには皆も頷いて。ついでに、天津は温泉の蒸気で作るとひと味違うとうたい文句まで用意して、 そしてカルナックが甘いお菓子もあればいいんだが、と言えば。 「それなら、一緒に温泉饅頭も蒸すと良いかな?」 井伊がそう締めくくるのだった。 作戦その2、宿の名物料理は温泉の蒸気で卵と饅頭。 さらにささっと一品と地物や山菜を使った鍋で合わせ技である。 一方その頃、裏の露天風呂は残念ながら改装中の札をだし、突貫工事が進んでいた。 工事と言っても、敷居を作るだけだが、いろいろと細かい点が重要なようで。 「そうそう、入り口はわざとずらすような形で〜」 陣頭指揮を執っているのはまひる(ia0282)だ。 なにやら恋人と風呂に入るんだ! と強い意思の元、混浴部分を露天風呂に作るようで。 働いているのは、力仕事を引き受けた開拓者のお手伝いと主人の辰蔵であった。 ギアスを始め、手の開いていた開拓者達は総出で改修工事に協力していた。 しかし熱い温泉での作業はなかなか大変なようで。 「‥‥(クイッ)」 太刀花(ia6079)のように、眼鏡を曇らせ、前が見えなくなりつつも、一行は奮闘。 そして露天風呂の中央を竹製の敷居で囲うようにして、分離させたのであった。 「混浴は、賛否両論だと思うけど、無いよりはあった方が良いと思う」 とのまひるの言葉に頷く辰蔵、ただし風呂の名前は混浴と言うよりは家族風呂ということで。 常時開放ではなく、時間ごとに開放されるような形となったようだ。 男達の夢も恋人たちの夢も、ついでに家族連れが来たときのためにも。 いろいろな思惑も乗せて、作戦その3、混浴風呂、完成である。 ついでに、温泉にはさまざまな細かい意見が盛り込まれたようで。 なんということでしょう、涼めるように竹製の長椅子が温泉のそこかしこに配置され。 「のぼせたぁり暑い時に休めるよぉな場所もあると助かるかぁらな」 温泉を楽しみつつ、感じたことから気付いたのだと犬神・彼方(ia0218)は言って。 そしていよいよ温泉部分は完成、開拓者一同も満足げに見守るのであった。 「ここまで成長するのに、どのくらいの年月がかかったのでしょうね‥‥」 温泉宿の前に堂々と立つ桂の大樹を見上げて、そう呟いたのは白野威 雪(ia0736)だ。 「このように大きく、揺ぎ無い存在に、いつかなれるのでしょうか‥‥」 なにやら悩みがあるように小さく呟く白野威であったが、そんな彼女の肩に手を置いて。 「‥‥大丈夫よ。悩んで、その時出来得る事をすればいいんじゃないかしら」 応えたのは氷那(ia5383)だ。 友人を元気づけるようにそう告げた氷那に、白野威も頷いて。 そう、この桂の湯の前に立つ大樹は、開拓者達にそう思わせるだけの堂々たる威容を持っていた。 そんな大きな象徴を、放っておく開拓者達ではない。 「簡単なお土産を作るっちゅーのはどーやろか? 親子で作るゆーんもええ思うけど」 周囲にも桂の木があるらしく材木には事欠かないと聞いて提案したのは藤村纏(ia0456)。 「そうそう、せっかく立派な桂の木があるんだから、これを売りにしないとな」 飾り立てるのもいいだろうしと提案したのは、藤村の恋人の琉央(ia1012)だ。 ということで頭を捻る開拓者達。葉の栞や木でつくった小物なんかが候補にあがる。 「なら、桂の木に関するお話なんかがあれば、それも一緒に盛り込むといいのだっ!」 平野 譲治(ia5226)がそう言って。 手には、「おせんのおんせん帳」と書かれた、宿泊客が一言書き残す帳面が持ちつつ。 そして観月 静馬(ia9754)が提案したのは、手ぬぐいや染め物で。 「宣伝しなくちゃ、良いものも広まらないので、参加者全員で広めるのも必要でしょう」 ということで作戦その4は、土産物。 桂の木に纏わる小物の開発と様々なお土産物を用意することに決まったようであった。 そんな中、温泉を満喫しつつ、とある提案をする開拓者の姿が。 「饅頭として開拓者温泉饅頭とかはどうかしら? 梅干しとか干飯を入れたり」 「‥‥それはさすがに売れないと思うので、遠慮させていただきますわ」 設楽 万理(ia5443)の買い取って下さい、という無言のお願いをきっぱりと断るおせんなのであった。 さらに、まだまだ案はつきない。 「折角の露天風呂が殺風景なのは勿体ないですね」 今は冬であるからしかたないが、春になれば、と提案するのは礼野 真夢紀(ia1144)だ。 具体的には、温泉の周りに花を、というのが彼女の案である。 「お財布を握るのは女性が多いですもの」 と、女性を狙っての美しい景色作りを提案するのであった。 そしてもう一つの案は、近隣の地図を作ることだ。これは彼女ともう1人、藍舞も提案していたようで。 いよいよ最後の作戦その5、景色作りと観光地図の作成、これも目玉の一つとなり得る企画である。 そんなこんなで、宿は大分様変わりしたようであった。 まだまだ案が出来ただけというものも多く、全てが整うまでは時間がかかるのだろう。 「沢山提案が出たと思いますが‥‥」 いろいろと出た案をまとめて一息ついていたおせんに向かって、橘 琉璃(ia0472)が。 「全部実行しようと焦らずに、出来そうなものから選び、考えていくと良いと思いますよ」 といえば、そうですね、その時はまた是非要らして下さい、とおせんは橘に応えるのだった。 こうして、様々な意見が出そろい、桂の湯は再建に向けて動き出すのであった。 といっても、温泉を楽しむ時間はまだまだたっぷりあるわけで。 いろいろと出そろった案を楽しみつつ、開拓者達は、働いた分ますます温泉を楽しむのである。 ●湯に咲くは 湯の花ではなく 恋の花? 「アタシは団長なんだからっ、宿に来たからには宿の一番偉い人、つまりは女将であるべきよねっ!」 なんだかかっ飛ばしているのは鴇ノ宮 風葉(ia0799)だ。 どうやら、我こそ女将と、腕章にも女将とつけて、宿の中を飛び回っているようである。 「どうせならアタシが一番目立ちたい!」 と、どこかに行ってしまった彼女をなんだかしょんぼり見送るのは天河 ふしぎ(ia1037)で。 さっきまでは、羽子板を使った球技で遊んでいたのに、と寂しげである。 一方そのころ、鴇ノ宮はというと温泉にいた。 そこに近寄ってきたのは水鏡 絵梨乃(ia0191)で。 「おぉ、風葉も来てたのか。ちょっと隣失礼するぞ」 さて、2人の間にどんな会話があったのかは分からないが、なにやら水鏡はなにか背中を押したようで。 「ふふっ‥‥まぁボクはいつも鴇ノ宮の味方だからな。頑張れ」 そういって、水鏡は鴇ノ宮を送り出したのであった。 で、送り出された鴇ノ宮は、部屋で彼女を待っていた天河に向かって、 「こら天河、アタシの為に御茶と和菓子を用意なさい。今すぐっ! ちょっと疲れちゃったかな」 と、一緒に月見をすることにしたようであった。 そんなわがままに振り回されつつ、天河は、 「‥‥僕、風葉と一緒にこれて良かった」 そう告げるのであった。 「雪〜☆ 一緒に入ろうよ〜♪」 と当摩が知り合いを追いかけている中、混浴露天風呂のお客第一号となったのは、まひるであった。 提案者の特権、ということで恋人の草薙 慎(ia8588)と一緒に混浴風呂を貸し切り中だ。 ということで、2人はとーっても仲良しということで、それ以上は自主規制。 仲がよいことは良いことだが、あんまり突っ走ると。 「‥‥あのー、布団は一つでよろしいでしょうか?」 どうやら、宿の人からも気を遣われたようである。 もちろん、開拓者同士の恋の形も千差万別だ。 「ふむ、今日も平穏じゃったな‥‥」 月はすでに高く昇り、それを眺めて呟いたのは犬神 狛(ia2995)だ。 彼の、その言葉の向かう先は篠田 紅雪(ia0704)。 2人とも、人がいない時間を見計らって温泉に入る心づもりのようで、今はただのんびりと月を見上げ。 「平穏‥‥か、どうだろうな。ここは確かに、平穏だとは思うが。今は」 犬神の言葉に応える篠田、2人ともこうした平和が一時のものであると知る戦士だからだろう。 こうした穏やかな時間を味わいつつも、どこかそれを冷静に捉えていて。 だが、たった一時の平穏でもそれが幸せであることには変わりなく。 「ふむ、良いのではないか? それでも‥‥」 ふたりして、僅かだとは知りつつも、こうした平穏な時間を味わうのだった。 そして、篠田はぽつりと。 「幸せ、というのは‥‥もしかして、こういう感情のことを言うのだろうか‥‥私には、勿体無いな」 そんな言葉を否定するように、恋人の犬神はそっと篠田の肩に手を回すのだった。 ●そして賑やかに 温泉の日は暮れる 温泉を1人楽しむのも良いが、やはり大勢で楽しんでこその温泉である。 だからこそ仲間たちと賑やかに温泉を楽しむ開拓者達の様子が、そこかしこで見られるのだ。 「なんでおっちゃんまで一緒なの!」 がっくりとうなだれているのは柚月(ia0063)だ。その眼前で 「いいのか? そんな事いって。折角こいつを奢ってやろうと思ったのによ」 にやりと笑って酒を見せつけるのは劉 厳靖(ia2423)。 そんな2人をなんだか保護者な顔で見つめているのは蘭 志狼(ia0805)である。 「にゃっ、お酒? ‥‥それならしかたないね、一緒に居てあげる!」 劉の酒に釣られる柚月であったり。 露天風呂を楽しみにふらりと招待に応えた蘭はそんな賑やかな2人を眺めつつ。 「雪中行軍から戻ったところで丁度良いと思ったのだが‥‥まぁ、構わんか」 微妙に諦めた雰囲気であった。ということで、何はなくとも温泉である。 「うなー、生き返るー」 のびのびと男湯でくつろぐ柚月は、劉と蘭とともに温泉を満喫していた。 もちろん、他の2人も温泉を楽しみつつ、久々の骨休めを味わっていて。 特に、蘭は久々の休みとあって、精一杯くつろいでいた。 丁度その時、あとから男湯に入ってきたのは氷海 威(ia1004)で。 彼は、蘭に依頼で世話になったお礼をと、丁寧に挨拶しつつ。 そして裸のつきあいだとばかりに、話は弾んだ。 氷海は、先ほどまで宿の主人たちと、宿の外観に関する話し合いをしていたんだといえば。 蘭も、今回は招待に応えたが、せっかくなら鄙びた秘湯の雰囲気も残すと良いと提案して。 さて、そんな蘭をよそに、柚月と劉はなにやら悪戯を思いついた様子であった。 「ふぅ、湯に浸かりながらの酒は格別だねぇ」 劉はそう言いながらほらよと、柚月の杯にも酒を注ぎ。 そうなれば次にお酌を向けるのは蘭だ。だが、蘭は徳利を向けられると 「劉、何故そこで酒が出てくる! 風流は酒が無くとも味わえると言うのに‥‥」 「‥‥まあ、無理強いはできねぇなぁ。な、ユズ」 「‥‥ふふ。そうだね、おっちゃん」 なんだか目配せし合う2人に蘭は気付かなかった、そしてその隙に柚月が。 「でも、お酒ばっかり飲んでると、のぼせちゃいそー‥‥シロー、お水どうぞ」 すちゃっと柚月が渡した杯を、再び氷海との会話に戻りかけていた蘭は受け取り、くいっと一口。 すると、蘭は一瞬硬直してそのまままっすぐ倒れ、ばしゃんと温泉に沈んでいく。 実は杯には酒が満たされていたようで、なんと蘭はたった一杯でぶっ倒れたのであった。 「はっはっはっ。んじゃ、後は任せたぜっ」 ぶくぶくと沈んでいく蘭をほったらかしに、すたこら逃げる劉。 「にゃ。シロー、だいじょぶっ? そこまで酔わなくってもっ」 慌てて蘭を引っ張り上げる柚月。 そして柚月が蘭を引きずって去るのを、呆然と見つめる氷海は。 「‥‥俺も鍛えねば‥‥」 柚月がひいこら言いながら引っ張っていく蘭の筋骨隆々たる背中を見送りながらそう呟くのだった。 「おおー! 広えなぁ!! いっそ龍も入れたりすればいいのになぁ」 ルオウ(ia2445)は温泉に浸かりながら感動していたり。 「でも、さすがに龍が入ったら狭すぎるなりっ!」 その横で、ルオウといっしょに盛り上がって温泉でバタ足してるのは平野で。 まだ若い開拓者の彼らは、思わず盛り上がりすぎたのを周りからたしなめられつつ。 そんな中、ルオウの腹違いの兄の琉央はこっそり温泉を通り過ぎて。 彼女の藤村纏を探しに歩き始めたのだった。 ここだろうかと、ひょっこり琉央が覗いた大座敷では。 「お部屋あったかいの嬉しい。お風呂にいつ入っても風邪ひかないのね」 ごろごろと転がりつつ、床が暖かいのをたのしんでいるそよぎ(ia9210)を見かけたり。 「ふふ、また勝てそう。次は漬物頂こうかな」 「甘い! これで猪鹿蝶」 どうやら花札をしているらしき女性たちの姿が。 どうやら藍がからすに負けたようで、ナナや浅井が見守るなか、白熱した攻防のようで。 「おーい、ぼくも混ぜとくれ!」 飛び入り参加の草薙の姿も見かけたり。 そこでやっと琉央は、藤村と合流し彼女の温泉への先導役を仰せつかるのであった。 もちろん、温泉の露天風呂は常時空いているようで。 まだ賑わいは続いているようであった。 倉城は眼鏡を外してしまったら、何も見えないらしく、手伝っているのは友人の瀬崎で。 2人とも、のんびりとお湯に浸かっているのだった。 倉城は女湯でも恥ずかしいらしく身を縮めて。そして瀬崎は、なぜか藤村のまわりをぷかぷかと浮いて。 そんな露天風呂も、そろそろ時刻は夕暮れ、沈む夕日が雪山を綺麗に照らしていた。 そんな中、倉城と瀬崎が女湯を出るのと入れ替わりで温泉にやってきたのは由里(ia5688)。 「う〜ん、この頃忙しかったので〜温泉気持ち良いです〜♪」 彼女は、日中は宿の手伝いとして働いていたらしく、やっと温泉を満喫しているようで。 そんな彼女の周りには、温泉を前回で楽しんでいる面々の姿が。 酒を静かに舐めつつ、 「景色が良いと言う訳ではないが‥‥見えればいいところだな」 そういうのは雲母(ia6295)は煙管をくわえつつ、のんびりと長湯を楽しんでいて。 「隠れ宿というのもそれはそれでいいかもしれんな‥‥」 ぷかりと煙を噴き上げるのだった。 そう、まさしく今この宿は開拓者達の隠れ宿のようであった。 居並ぶ面々は、知った顔も多く。他の客はいないので、精一杯羽を伸ばすことができるというわけだ。 そして、藤村と琉央が温泉をあがって、のんびり酒を飲んでいると、どこからか楽の音が。 それは露天風呂から響いてくるようであった。 湯上がりに、露天風呂の脇で笛を奏でているのは柚月であった。 「こぉれは、なかなかぁに風流だぁな」 にっと笑みを浮かべたのは丁度温泉に浸かっていた犬神だ。 最初は柚月が奏でる一つの音だけであった、だがすぐに重なるもう一つの音色。 多少、拙いながらも一生懸命な横笛はそよぎ。 たまに調子はずれになるその音は、なんだかむしろ楽しげで。 そして観月 静馬がそれに合わせて歌い始めれば、いつしか開拓者達も皆盛り上がって。 大いに歌い大いに騒ぎ、大いに食べて大いに飲む。そして大いに温泉を楽しみつつ。 桂の湯での楽しい一時はあっというまに過ぎていくのだった。 多くの計画が形になるまではまだしばらくの時間がかかるだろう。 それでも、開拓者達が大勢訪れたという事実はすぐに広まり。 そして最近では徐々に、桂の湯は盛況さを増しているという話である。 どうやら、無事に依頼は成功し、また一つ開拓者御用達の温泉宿ができあがったと言うことであった。 |