死を持っての償い・追壱
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/15 20:32



■オープニング本文

 その日、受付の青年・利諒が飛び込んできた少女が名指しで自分を指名した後に泣き崩れる前で途方に暮れたのは、底冷えするような寒さのとある冬の朝のことでした。
「えっと、その、一体どうしたんですか? あれ? えぇと‥‥貴女は確か‥‥」
「淑栄の妹の陽花です‥‥兄様が、兄様が‥‥」
 縋り付くように掴まって泣く少女は年の頃14、5でまだあどけなさが残りますが、その顔を涙でくしゃくしゃにして早口で何かを捲し立てますが興奮していて言葉にならないよう。
「それで‥‥栄君がどうしました?」
「兄様の所為と、責められ、一人で、行ってしまいました‥‥私、どうして良いのか‥‥」
「栄君が責められた? 気が急くのは分かりますが、まずは何があったか教えて下さい」
 何とか座らせお茶を飲ませ順を追って話すように促せば、彼女の兄・淑栄は友人でもあったはずの開拓者仲間から何やら酷い侮辱と罵りを受け、単身武天と理穴の国境の小さな村へと向かったとのことで。
「栄君は確か、サムライの人と、あと陰陽師の人とで、二人親しい開拓者仲間がいましたねぇ、そう言えば」
「ええ、その、サムライの方に‥‥兄様が出立する二日程前に、陰陽師の方がその村に向かったそうで、兄はその話を聞いて、血相を変え装備を掴み飛び出していき‥‥」
 開拓者で、良く一緒に組んで仕事を受ける仲間が居る事は、そもそも淑栄の友人である利諒も知っていた為、その仲間が淑栄を罵るというのがしっくり来ない様子の利諒。
「単身でと言っても、村に向かったのなら‥‥」
「いいえ! あのサムライの方は、兄が飛び出していった後に、私に気味の悪い顔でにたりと笑って、他島の者など皆死ねば良いと‥‥兄は生きて帰って来ないと、楽しみにしろと!」
 親代わりともなって可愛がってくれた唯一の肉親を失ったらどうすれば良いのかと、そう言って再び泣き崩れる陽花に利諒は難しい表情で考え込んで。

 陰陽師の甲雲は早鐘のような自身の心臓の音を聞きながら、一歩も動けなくなっていた。
 長い間仲間として組んできたサムライの永錬から、忘れ物を取ってきてほしいと頼まれたのが発端だった。
 確かに、以前理穴においてのアヤカシの動乱があったときに、彼ら3人はその村を訪れた。
 しかし、わざわざ何でそんなことを自分に頼むのか。そんな疑問が頭をよぎったのは事実だ。
 だが仲間である永錬の、淑栄のためなのだ、という言葉を前にその疑問を告げることは出来なかったのである。
 今思えば、あのときの永錬の頼みはどこかおかしかったのでは‥‥。
 そんなまとまらない思考を引き裂いて、すぐ近くで大きな吠え声が聞こえた。
 ごうごうと吹き付ける灼熱の空気、そしてがちゃがちゃと鳴る鎧の音。
 甲雲は、最後のあがきとばかりに符を放とうとした。
 しかし、灼熱の炎と刃の一撃は、無情にも彼の命を奪い去ったのだった。
 最後に彼の脳裏に浮かんだのは、仲間たちの顔。
 きっと、栄や陽花は悲しむんだろうな‥‥。
 無念さを胸に、そこで彼の意識は途絶えたのだった。


 何処かの、暗い森の中で、緩やかな笑みを浮かべる影が一つ。
「ふふ‥‥我の邪魔立てをしたものは、皆、死を持って償うが良い」
 低い笑い声は、深い闇の中を響き渡るのでした。


■参加者一覧
百舌鳥(ia0429
26歳・男・サ
鳳・月夜(ia0919
16歳・女・志
福幸 喜寿(ia0924
20歳・女・ジ
水月(ia2566
10歳・女・吟
花焔(ia5344
25歳・女・シ
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
滋藤 柾鷹(ia9130
27歳・男・サ
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰


■リプレイ本文

●急行
 理穴の小さな拠点に飛来する8頭の龍。
 次々に竜たちは、急遽設けられた広場に着地すると、その背からは開拓者達が飛び降りる。
「ゼピュロス、よく頑張ってくれたね」
 ゼタル・マグスレード(ia9253)がそう言って自分が乗ってきた龍を撫でて。
 やってきたのは、厳しい顔つきをした8名の開拓者だった。
 彼らは急いで龍を待機していた者たちに預けて準備を進めて。
 そう、彼らには急ぐ理由があるのだ。
「こちらが地図です。道なりに進めば、迷うことは無いと思いますが、数カ所難所が‥‥」
 地図を差し出しながら言う現地の協力者たちに対して。
「大丈夫、大役買っちゃったけど、やってやるわよ!」
 花焔(ia5344)はそういって、一応地図の写しを見ながらぐいぐいと体をほぐしていた。
 そして、他の開拓者達も忙しく準備を進める中で。
「それじゃ、先に行ってるわね。まったく、男ってやつは‥‥」
 苦笑の形にその美貌を崩す花焔に対して。
「花焔さん、ムリはせんでええからねっ! 頼みますさねっ」
 福幸 喜寿(ia0924)が、心配げにそう告げれば花焔は首を振って。
「任せなさい。それに可愛い女の子の頼みとあっちゃあね。さあて、行くわよぉ‥‥」
 とんとんと、軽く助走をつけると、あっという間に加速して。
 まさしく超人である志体の持ち主にしかできない速度で、道を駆け抜けていくのだった。

 そんな花焔を見送りながら、他の開拓者も急いで準備を整えて居た。
 防寒のための装備、武器防具の確認、地図の再確認に、作戦の最終調整。
 全てを整えて、花焔が出発したのと間をおかず、一行は出発するのだった。
 現地の協力者が見守る中、連れだって拠点を出る7名の開拓者。
 彼らの無事を待つ龍たちを振り返りもせずに、一目散に目的地へと進み始めるのだった。

「山は走りなれているけど、全速力はキツイわね」
 設楽 万理(ia5443)はそう言って、支給された水を一口。
 基本彼らの行軍は、一番小柄な水月(ia2566)に合わせての歩みとなった。
 だが水月とてれっきとした開拓者だ。
 常人より遙かに優れた運動能力を持っているうえに、周りの協力もある。
 進む道は、すでに人が通らなくなって久しい道なのだろう。
 道は残っているものの、荒れ放題で険しい道となっていた。
 だが、すでに先行した花焔がところどころに目印を残してあり、一行はそれをたどって進んでいた。
「大丈夫か? 手を貸そう」
 手をさしのべた滋藤 柾鷹(ia9130)にこくこくと頷いて水月は手を借りて。
 一行は着々と道を進んでいくのであった。

 そして、丁度その頃、花焔はすさまじい速度で村の近くまでたどり着いていた。
 時には木々の枝を足場として距離を稼ぎ、道無き道をまるで飛ぶように走る花焔。
 後続の開拓者達は迂回せざるを得ないような急斜面は、シノビの早駆を使って突っ切って。
 とうとう、目的の村の姿が見えてくるのだった。
 周囲を森に囲まれた小村、村の建物はほとんどが強烈な一撃か炎で破壊されているようで。
 だが、その破壊を行った鬼たちの姿は見えない。
 みれば、その破壊の跡は周囲の山林へと拡大して行っているようで。
 おそらく鬼は周囲の山野まで行動範囲を広げているようであった。
 となれば、目的の淑栄はどこだろう‥‥。
 花焔は気持ちを切り替えると、静かに気配を殺したまま、周辺の捜索を始めるのだった。

●村へ
 後続の開拓者が、村まであと少しの所までやってきている丁度その頃。
 花焔は、まだ淑栄の捜索を続けていた。ここに来て後続の開拓者達も花焔も、停滞していたのだ。
 後続の開拓者達は、村に近づけば、鬼たちに気付かれてしまう可能性があるため慎重になる必要があり。
 そして花焔は、村の周辺を徘徊する鬼たちに気づかれないよう、隠密行動をしていたからだ。
「まったく、どこかしらね‥‥」
 小さく口の中で呟く花焔。嫌な結果がちらりと頭に浮かぶがそれを考えないようにしつつ。
 ただひっそりと周囲を探りながら進んでいると、ふとなにかの気配を彼女は捉えた。
 シノビの優れた近くが幽かに捉えたのは、呼吸の音だ。
 必至で息を殺しながら、それでも漏れてしまっている苦しげな呼吸の音。
 それを頼りに近づけば、大樹の陰に1人の男の姿があった。
 それは、あらかじめ知らされていた淑栄の様相通りで。
「‥‥栄君ね? 陽花君の依頼で来たのよ」
 そう小さく声をかけながら、花焔は血だらけの右腕に包帯を巻いていた淑栄の側へと近づいたのであった。

「間にあったかコンチクショウが!」
 百舌鳥(ia0429)はそう言いながら武器を抜き放って。
 花焔が淑栄を見つけたのと同じ頃、後続の開拓者達はやっと村へとやってきていた。
 彼らが見たのは花焔と同じく、荒れ果てた村だった。
 その破壊の跡を見れば、一目瞭然。ここはすでに危険地帯だと言うことが理解できる有様だ。
「先行した花焔さんも危ないし、急がないと‥‥」
 設楽がそう呟けば、皆も頷いたのだが、そこで鳳・月夜(ia0919)が。
「‥‥まって。誰か近づいてくる‥‥」
 アヤカシが、ではなく、誰かと鳳は告げた。
 一行は身構えつつ、鳳が告げる方向へと近づいていけば、そこには淑栄と花焔の姿が。
「間に合った‥‥」
 ほっと鳳が言うように、一同は安堵したのだが。
「‥‥待ってくれ。私はこのまま帰るわけには行かない」
 強い意志を込めて、淑栄はそう言って。
 どういうことだと見返す皆に、花焔は首を振るしかないのだった。

●決死の探索
「栄さん! 戦闘は後でもできるけんども、生き残るのは今しかできないんさねっ!」
 思わず声を荒げて行ったのは福幸だ。だが強固に淑栄は首を振って。
「まだ甲雲が見つからないんだ」
 水月とゼタルの術によって負傷を治療されながらも疲労のためか、苦しげにそういって。
「それに彼の身にもしもの事があれば、私は命を捨ててでも一矢報いなければ‥‥」
 聞けば彼はすでに一度炎の鬼に遭遇したとのこと。
 その時は、命からがら逃げ出したのだが、結局怪我を負い、甲雲の行方を捜すことも出来なくなって。
 だが、悲痛な決意を固めている淑栄に対して、開拓者達は告げるのだった。
「神楽で待っている妹さんの許へ無事に連れ帰って欲しいと‥‥そう頼まれたましたから」
 普段はほとんど声に出してしゃべらない水月がそうきっぱりと言う。
 淑栄は、妹よりも幼く見える彼女のその言葉にさすがに言い返せず。
「妹が心配しているぞ、戻ってやれ。たった一人の肉親なのだろう? 悲しませてどうする」
 滋藤の言葉に、淑栄は頷くのだった。
 だが、ここで命を捨てることは思いとどまったにしろ、もう一つの目的は譲れないようで。
「だが、甲雲の行方だけでも捜させてくれ! ‥‥やつは、俺にとっては弟のようなもので‥‥」
「‥‥そうね。ここまで来て退け、とは言えないわ」
 重い沈黙の中で、そう言ったのは花焔だ。
「あなたの保護が依頼の目的だけど、甲雲さんを一人でも探させるよりわね」
 設楽も頷き。
「僕達は、君達の力になる為にここに来た」
 仕方がないとばかりにゼタルも腰を上げ。
「一人でできぬ事も、皆の力が合わされば可能になることだってある」
 こうして、甲雲の捜索をまず行うことになったのであった。
 だが、すでにここは鬼の活動範囲内である。
 となれば、危険は付きものである。
 一行は、二手に分かれて探すことにしたのだが、すぐさま危機がやってくるのだった。

 開拓者一行と淑栄が、どこを探すかと考えていた丁度その時だ、ずしんと地響きが聞こえたのは。
 めきめきとへし折れる木の音と、ずしんと倒れる音。
 それは、鎧を纏った巨大な鬼が接近してくるのを告げる音だった。
 開拓者達は即座に行動を開始。
 逃げ回りながら探すよりも、開拓者の一部が鬼の足止めをすることを選択したのだ。
 索敵手段を持ち、敵を避ける能力に長ける4名は淑栄をつれて戦線から離脱。
 そして、鎧鬼を前に残ったのはたった4名の開拓者であった。
「でっけぇ奴、何秒持つことやら‥‥任せられる自信はねぇが‥‥やってやらぁ」
 危険すぎる苦境を前に、にやりと不敵な笑みを浮かべる百舌鳥。
 その後ろを守るように、福幸が円月輪を構え、花焔は手裏剣、ゼタルは符を構える。
 轟と吼え、巨大な刃を振って突進してくる鎧鬼に開拓者達は真っ向から立ち向かうのであった。

 一方、戦線を離脱したもう一方の開拓者達は、慎重に進みながら甲雲の行方を捜していた。
 鳳の心眼と水月の瘴索結界で、もう一匹いると目されている炎の大鬼を警戒し。
 林の中でより被害が大きいところを進みながら周囲に目を凝らして何らかの痕跡を探し続けるのだった。
 皆、足止めをしている仲間たちのことが気がかりだった。
 時間がかかれば、危険度は大きくなる。
 そんな焦りの中で、その痕跡に気付いたのは設楽だった。
「‥‥あれは‥‥」
 指した先にはひときわ大きな破壊の跡と、血まみれになった焼け焦げた衣服の切れ端が。
 それを見た淑栄は走り出すのだった。

●悲しき戦い
「硬ぇし、なんて馬鹿力だチクショウ!!」
 鎧鬼が振るった豪腕の一撃をかろうじて受ける百舌鳥は悪態をつきながら。
 しかし、怪我を負いつつもその強力な一撃をしのいでいたのはさすがだと言えるだろう。
 援護として、花焔の手裏剣と福幸の円月輪が飛ぶが、どれも鎧鬼の分厚い鎧に阻まれて。
「さすがの大鬼だ。体力はさすがだな‥‥」
 術を放つゼタルも、あきれたようにそう言うしか無いのであった。
 しかし、百舌鳥がかろうじて前衛として攻撃を凌いではいるがそれにも限界はある。
 すでに、少なからず傷を負っている上に、疲労がたまればいつかは凌げなくなるだろう。
 そうなるまえに、と動いたのは福幸だ。
「やっぱり鬼は強いけん、もずさん! いったん任せるさね!!」
「おうよ!!」
 福幸は、円月輪から装備を変えるためにいったん戦線を離脱。
 もちろんその隙にと、攻める鎧鬼だが。
「そうはさせないわよ!」
 残り少ない練力を費やして、打剣で鬼の目を狙う花焔。
 これにはさすがの鬼も、腕で顔を庇ってそれを防ぎ。
 その隙に福幸の準備は整ったようだ。
「‥‥陰陽の力、今、解き放てっ! 九尾の狐、陰陽剣!!」
 青白い光が福幸の武器から立ち上る。武器に霊力を帯びさせての乾坤一擲の一撃だ。
 予想外の方向から、苦手な一撃を受けて思わず揺らぐ鎧鬼。
 その隙を逃さないのは、全身の傷から血を流しながらも耐え凌いでいた百舌鳥だ。
「隙ありだ! 斬って駄目なら刺すのはどうよぉ!」
 膝をついた鎧鬼の脇腹を狙った一撃は、見事に鎧の間を貫いて。
 ぐぉぉぉぉっ! と吼える鎧鬼を前に、一同は再び距離を取り、仲間からの知らせを待つのであった。

 走り出した淑栄は、地面にうち捨てられたそのぼろぼろの装備の切れ端を握りしめていた。
 酷い怪我も気にせずに、膝をつき、呆然とただその切れ端を握って。
 すると、かちゃりと地面に落ちたものが。それは、銀の腕輪であった。
 滋藤は、その腕輪と同じものを、淑栄もつけていることに気付いた。
「‥‥淑栄殿。その腕輪は甲雲殿の物に間違いないのか‥‥」
「‥‥ええ。3人で依頼での守りになるだろうと買ったもので‥‥」
 ぐっと悔しそうにそれを握りしめる淑栄は、その落ちた腕輪を拾い上げ、そこに巻き付いている紐を示した。
「甲雲は、妹の陽花からもらった髪紐をお守り代わりだとこの腕輪に結んでいたんだ‥‥」
 みれば、結びつけてあるのは女性の髪紐であった。
 やはり、予想したとおり甲雲に関しては悲しい結果となってしまったのだが。
 それを悲しんでばかりも居られなかった。
 まず、甲雲の行方が判明したことを、足止めをしている仲間に知らせなければならなく。
 そして、同時に。
「‥‥逃げなければならないのが口惜しいが‥‥今は無事帰らねばな」
 鳳が、仲間に知らせるために呼子笛を吹けば、その音に気付いたのかやってきたのが炎鬼で。
 甲雲の悲しい結末を知ったからか、怒りをたぎらせながらも滋藤たちは武器を抜き放ち。
 撤退のために時間を稼ごうとするのであった。

●脱出
 遠くから響く呼子笛の音は、あらかじめ決めてあった撤退の合図で。
 それは、鎧鬼と対峙していた一同の耳に届いたのだった。
「まだ行けるか、百舌鳥君」
 ゼタルは、そういって治癒符を百舌鳥に放つが、百舌鳥はすでにかなりの痛手を負っているようで。
 といっても、逃げるためには大きく鬼に一撃を与えねば隙を作ることが出来ないのだ。
 そこで、彼らは最後の反撃に出たのである。
 ぶんと振るわれた大刀の一撃を十時組受でがっきと受け止めたのは百舌鳥。
「今日はここまで、ほんじゃお勤めご苦労さんってねぇ!!」
 そのまま、力任せに敵の武器を弾けば、生まれる一瞬の隙。
 そこに飛来したのは花焔の手裏剣だ。
「もらった!」
 狙い通り、手裏剣はありったけの気力を乗せて鎧鬼の目に突き刺さり。
 そして、咆哮を上げて暴れる鎧鬼に対して、福幸が放ったのは爆裂撒菱だ。
「さあ、今の内ににげるさね!!」
 爆裂撒菱の炸裂音が響くなか、一行はあっという間に距離を離して戦線を離脱するのであった。

 同じ頃、もう一方の開拓者達は、淑栄を守りながら炎鬼と対峙していた。
 正面に立つのは、志士の鳳とサムライの滋藤。
 そして、その後ろに、巫女の水月と弓術師の設楽が、淑栄を守る形で構えていたのだが。
「‥‥! 散って!」
 じりじりと近づいてくる炎鬼を注視していた鳳は、とっさにそう言い放った。
 即座に反応して、飛び退る一行。
 すると、今まで一行がいた場所に向かって炎鬼が炎の吐息を放ったのであった。
 ごうごうと燃えさかる炎が通過するも、それはわずかに開拓者達の衣服や髪を焦がした程度。
 そして、滋藤は巧みに炎の余波を回避しながら、接近し両断剣の一撃。
 同時に、即座に矢をつがえた設楽が炎鬼に矢を放ち。
 鳳は、炎を武器に纏わせてさらに追撃の一撃を見舞った。
 さすがの炎鬼も、渾身の炎を回避され、そこをたたみかけられてひるんだところに。
「必ず、甲雲の敵は!」
 傷を負っているのにも関わらず、接近した淑栄は、炎にもひるまず一撃し。
「‥‥退きます」
 水月がそう言えば、掌中に甲雲の形見を握りしめながら、淑栄も頷き。
 設楽が撒菱で炎鬼を牽制しつつ退くのに合わせて一緒に撤退するのだった。

 回り道してから、やっと一行は合流して。
 後ろから鬼が追ってこないことを何度も確認しつつ、拠点へと進んでいた。
 傷の手当てもしながら、無言で道を進みながら。
「みんな無事ならそれでいーや。ま、詳しいことは追々きこうじゃねぇか」
 怪我を負いつつも、やっと一息とばかりに煙管をふかしているのは百舌鳥だ。
 その言葉に淑栄も頷き、一行は見えてきた拠点にゆっくりと帰還するのであった。