酒運び
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/06/24 21:39



■オープニング本文

 天に浮かぶ島、といっても天儀は広大である。
 龍や飛行船という空を行く移動手段もあれば、精霊門という便利な交通網も存在する。
 だが、これらの便利な手段はあくまでも一部の人間にしかつかえないものである。
 なので都市間の物資の輸送は馬や牛などの力を借りての人力で行われるのであるが‥‥
 そこに問題が一つ。

 アヤカシである。
 都市間を結ぶ街道はある程度整備されてるとは言っても途中には山あり谷あり。
 そして、突然出現するアヤカシはその街道におけるもっとも大きな障害となるのだ。
 動物であれば恐れを知るし、人であれば利害を悟すこともできる。
 だが、アヤカシは本能のままに、人を喰らおうとするだけだ。
 奴らを退けるには、戦って滅ぼすほか無いのである。

 さて、いよいよ本題。
 今回の仕事は天儀六王国の一つ、武天にある鉱山街、此隅へとある荷物を運ぶ商人の護衛だ。
 此隅は鉱山街として栄えているが、如何せん山間なので様々なものを外部から運んでくる必要が生じる。
 その一つ、どんな場所においても人が集まれば売れる商品が今回の荷物である。
 それは酒。鉱山街の職人達にも好まれて飲まれる良質の酒だ。
 船などを使って運ぶことはできず、馬で引く荷車を連ねて運ぶことになるのだが、今回は懸念が一つ。
 前述したとおり、アヤカシの被害に遭う可能性があるというのだ。
 道中、山間の街道にて、なんどか小鬼の姿を見かけたという話が少し前から聞かれるという。
 そうなれば、動きが遅く荷物を抱えている商人が狙われる可能性があるかもしれない、ということで開拓者達への護衛の依頼がでたのである。

 なお、追加情報として、振る舞い酒があるとか。
 持ち帰ることは許してもらえないだろうが、依頼中や依頼の終わった後の打ち上げでは酒の無償提供を行う予定もあるとか。

 さて、どうする?


■参加者一覧
雪ノ下・悪食丸(ia0074
16歳・男・サ
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
風麗(ia0251
20歳・女・巫
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
戦部小次郎(ia0486
18歳・男・志
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
御陵 花音(ia1333
15歳・女・巫


■リプレイ本文

●駆け付け一杯
「ふぁぁぁ‥‥ねむ」
 出発の朝、大あくびをしているのは鷲尾天斗(ia0371)。
 どうやら出発前に依頼主のところで、味見の酒を少々‥‥いや、たらふく馳走になったようで。
 危険な護衛の出発前に、酒を愉しむのは肝が据わっている証拠だ。
「‥‥ちょいと張り切りすぎたかね」
 ただの脳天気だったりはしないだろう、たぶん。

 さて、此隅へ向かう街道にて。
 開拓者達は、がらがらと賑やかな音を立てる荷車やそれを引く馬、そして護衛対象である商人達を前にしていた。
 見れば商人達の荷車には、酒がたっぷりと詰め込まれた樽以外にも少々の荷物が。
 それは少々古びた武器や木で作られた盾まがいの代物である。
 聞けば、もとよりこうした荷運びにおいては、自衛のために持っているのだという。
 今回のような小鬼程度に対してならば、一般人とて無力ではない。
 志体を持った開拓者には到底及ばないものの、小鬼の数匹程度ならば何とか撃退できるのだという。
 それならば、多少は開拓者たちが心配していたことは解消されそうなのだが‥‥。
「他の者を危険に晒してまで勝手に危険に飛び込んでいくような奴を守る義理は無いからな。遠慮なく見捨てて行くぞ」
 輝夜(ia1150)が言えば、
「アヤカシが現れても、ボクたちを信じて、1カ所に固まって盾を持っておいてください」
 道中での策を説明しているのは水鏡 絵梨乃(ia0191)だ。
 御陵 花音(ia1333)が、
「いくら取り越し苦労だろうと構わんでしょ‥‥本当の苦労するより」
 とつぶやくように、少々きつめに商人達には注意をしているようだ。
 確かに、たとえ弱いアヤカシであり、一般人でも倒せるといえども、奴らは恐怖の対象だ。
 アヤカシは瘴気から生まれ、人を喰らう化け物である。
 だが、志体を持ち戦闘に長けるとは言え、まだ若い開拓者たちからそう言われて、はいそうですかとうなずけない者たちもいるようで。
 特に商人の中でも、まだ若く血気盛んな者たちは、少々いらだっているようにも見えるのであった。
 しかし、開拓者達が警戒するのもわからなくもないのだ。
 日に日にアヤカシの被害は増えていくし、さらに言えば開拓者として自分たちはまだ駆け出しであるという自覚もあるだろう。
 だからこそ、失敗がないようにと気張ってしまうのかもしれない。
「ガチガチになって構えてしまっては出来る物も出来なくなってしまいますよ。もっとゆったりといきましょう」
 戦部小次郎(ia0486)がそういえば、
「そうだなぁ、しっかりと武器や盾も用意されてたんだ。商人の意地は、アヤカシに負けないと思うんだけどねえ」
 かたかたと、手に持った人形の口からそう語るのは青嵐(ia0508)だ。
 こっそりと商人のまとめ役らしき壮年の男に近寄ると、
「別に悪意があってああいう物言いというわけじゃないんですよ、ただ少し、気負っている部分が大きいみたいで、大目に見てもらえませんか?」
 かたかたと、自分に似せた小さな人形を操ってそう言えば、壮年の男も少し笑みを浮かべて。
「なに、私らもわかっていまさぁ。まぁ、若いもんは少々腹に据えかねているかもしれやせんが‥‥」
 そう苦笑しながら言うのであった。
 さて、いざ出発となって、
「途中にゃ何が起こるか分からねぇ。ハラ括って臨め。つっても心配は要らねぇ。お前らと荷物は俺らが必ず護る」
 背が高く、金髪碧眼が目を引く姉御肌、風麗(ia0251)が商人達を前にして言葉を放つ。
「だが、人生含めて道ってもんには、揉め事や問題ってのは付きもんだ。そりゃ商売やってる奴なら百も承知だろ」
 しつこいぞとでも言うように、むっとした顔の若い衆が前に出かけるが、それを壮年の男が制して、
「そういう時に一等最良の対処方法は、冷静に、取り乱さねぇ事だ。何が起きても取り乱すな。俺らが必ず護ってやる」
 にっと笑みを浮かべてそういえば、言い返すことの出来ない若い衆。
 こうして、一行は出発したのであった。

●道中、酒とともに」
「へぇ、お前さん武天の出身なのか」
「ああ、でもまさか、地元を出たのに仕事で地元に行く事になるとはな」
 会話しているのは鷲尾と雪ノ下・悪食丸(ia0074)。
 2人は斥候として、峠を先行して道の確認をしてきた帰り道である。
 出発してから一日たった道中は快適に進んでいった。
 特に問題なく宿場町で一泊の宿を取り、道中は晴れ空、土砂崩れも無く万事無事に進んでいて、となれば話の花が咲くのも道理である。
「しかし、晴れ空が上手い具合に続いてくれてるのは、運が良かった‥‥ん?」
 雪ノ下が首をかしげて見やる先には、酒運びの荷車達が。
 どうやら、立ち往生しているようなのだが、別にアヤカシが出た様子でもなく。
「‥‥ああ、戻ってきましたか。実はちょっと問題が生じましてね」
 戦部が言うには、荷車の一つが轍の石に引っかかった際に荷の樽がすこし崩れてしまって、その積み直しに時間がかかっているとのこと。
「なら、俺も手伝うか」
 そういう雪ノ下、ひょいと大きな樽の一つに手をかけると。
「うぉぉぉっ!」
 2人がかりでないと持ち上がらない大樽をひょいと持ち上げてしまう。
 サムライの特技、強力を使って怪力を発揮したのである。
 ちょうどそこに、警戒のためと周囲を見回ってきた輝夜も戻ってくれば、彼女も同じく強力で手伝って。
 あっというまに大樽を乗せ直すと、一行は行程を再開したのであった。

「てーるてーるぼーず、てーるぼーずっと‥‥」
 そして二日目も無事宿場について、てるてる坊主を作っているのは御陵であった。
 歩き通しの二日目、人より頑強で肉体的に優れる開拓者といえども疲れるものである。
 それでも、まだ雨が降っていたりしなければ楽なもの。
 御陵がもくもくとてるてる坊主を作っていれば、先の道筋の情報を宿場で聞き込んできた風麗たちも手伝ってみて。
 水鏡なんかは芋羊羹をかじりながらのてるてる坊主作り、いつの間にか開拓者どころか商人達も手伝っていたりで。
 青嵐なんかは自分の人形に似せたてるてる坊主を作っていれば、
「‥‥しかし、アヤカシも酒を呑むのかねぇ」
 徳利片手にてるてる坊主を作りつつ鷲尾がそういえばそれに応える鷲尾の友人である青嵐。ひょいと人形を手に取って、
「‥‥さぁな、酒を狙っているのか、それとも人を狙っているのかは知らないが」
「ふぅん。まぁタダ酒ほど高く付くものは無いって言う事を教育してやらなきゃな」
「天斗、お前が今呑んでるのは何だ?」
「‥‥‥‥タダ酒だな。しかしまぁ、タダ酒ほど旨いもんはねぇな!」
 と、鷲尾はへにょへにょな出来の作りかけなてる坊主をほったらかして逃げ出すのであった。

●酒を守って
「‥‥来ましたっ!!」
 はじめに気づいたのは戦部であった。
 三日目の道中、昼下がり。
 先行した斥候たちが見つけたのは、踏み倒された草や、なにものかが争った跡の残る街道筋。
 このまま暫く行けばそこを通らざるを得ないという一本道において、引き返す選択はなかった。
 おそらく、残った跡は小鬼に襲われた旅人が逃げ出したあとだろう。
 だが、こちらは大荷物を抱えた大所帯。逃げ出すわけにはいかないのである。
 開拓者達は、より警戒を強めて進むことにして‥‥。
「右前方から‥‥結構数が多いようですね」
 がさがさと茂みをかき分けて躍り出た小鬼は、大荷物を抱えた一行を見て、ぎゃっぎゃと猿のように声をあげて。
 手には粗末な木の枝で作った棍棒まがいの代物や、どこで手に入れたかぼろぼろの農業道具を武器として持って。
 しかし、武器と言えない代物でも、立派な武器であって。
 さらにいえば、数がくせ者だ。
 開拓者なんていなくても、と文句たらたらであった若い衆も、その小鬼の数が10を軽く超えた当たりで思わず後ずさり。
「‥‥っ! 打ち合わせの通りに、盾を持って円を作って!」
 水鏡は商人達にそう言って盾を渡しながら前に出て、同時に輝夜も、
「後ろに下がっておれ!」
 ずらりと刀を抜きながら前に出て、
 どうやら水鏡や輝夜が心配したように、突飛な行動に出てしまう商人はいないようであった。
 さらに、小鬼達は待ち伏せしたものの、ただ群れをなしているだけで、策では開拓者達が一枚上手だったようだ。
 だが、やはりアヤカシを目にすれば、恐ろしいのは当たり前のようで、浮き足立つ商人達へ一喝が。
「心配要らねぇ! 目ン玉シッカリ見開いて、耳の穴カッ穿って、俺らの働きをその目に焼き付けとけ」
 大音声でそう声をかけたのは風麗だ。
「そんで手前らの道行きを、親子兄弟子子孫孫に至るまで語り継げ。男を自覚してるなら、情けねぇ恥だけは晒すなよ?」
 商人達のすぐそばに控えて後方支援の構え、そしてさらに、
「おうよ、俺のかっこいい戦いから目を離すなよ! 小鬼ども、俺に焼かれてみるか?」
 風切る音と共に槍を振るって大見得切ったのは、酒ばっかり呑んでいた鷲尾だ。
 のらくらとのんきな道中の様子もどこへやら、全身に力を漲らせ、振るう槍は縦横無尽。
 じりじりと進んできていた戦闘の小鬼にびたりとその先端を向ければ、思わず小鬼も後ずさる迫力である。
 開拓者側の陣営は整い、商人達の怯えも収まった。
 いよいよ戦闘開始である。

「やっぱし来たかアヤカシ‥‥ま、そのために私らがいるんだけどね!」
 前衛たちの後ろで援護するのは御陵、巫女装束の上に鎧と長刀姿が凛々しく決まり。
 ぴたりと長刀を構えつつ、時には前衛の間から抜けてくる小鬼の脚を払って手傷を負わせ。
 さらに御陵のように、前衛の後ろに控えつつ前衛を援護するのは弓矢を使っている雪ノ下。
「させるか!」
 前衛として突出してる鷲尾たちを狙う死角の小鬼に矢を放ち。
「切り刻め、刃姫! ‥‥戦部、後ろに一匹」
 陰陽術で、式を呼び出したのは青嵐。鎌鼬のような刃が空を走り、小鬼の一匹を切り刻む。
 ともすれば乱戦となりがちな前線で、まるで人形繰りが人形達を操るかのように、的確な指示をだして。
 声に反応して、戦部は粗末な鍬の一撃を刀で受け止めて、はじくとずばんと袈裟がけに一撃。
「どうした? 当てないと、ボクは倒せないぞ」
 小鬼がふるう棍棒をひらりひらりとかわしながら、そう言うのは水鏡。
 舞うような動きで地を蹴って。そして大降りの一撃をかわしたところで、大きく脚を振り上げて。
 おお、と商人達から声が上がったのは、その武術の妙技ゆえか、それともすらりと伸びた白肌の脚に対してかはわからないが。
 見事、小鬼の脳天に踵落としが直撃、小鬼は勢いのままに地面にたたきつけられて瘴気へと還るのであった。
「おら、もう一匹っ!」
 そして小鬼も残り少なくなった終盤、鷲尾は槍の間合いを活かして小鬼をなぎ払い。
 紅炎に包まれた槍の一撃に、吹っ飛ばされた小鬼は鞠のように地面を跳ねて。
「あと少しだよ!」
 手傷を負った小鬼に、風麗は力の歪みで攻撃しつつ。
「‥‥雑魚などに用は無い、首魁はどこだ? 潔く我に成敗されるがよい!」
 残りわずかな小鬼の間を駆け抜けて、大柄な一頭の小鬼に駆け寄ると、輝夜は気合い一閃。
 おそらくは小鬼達の群の長であったろうその一匹はばったりと倒れると、他の小鬼同様瘴気へと還り、消えていくのであった。

 周囲を伺う開拓者。剣戟の響きは静まり、
「‥‥も、もう終わったのか?」
 おそるおそる商人の1人がそう聞けば、心眼を使って周囲を調べていた開拓者たちは頷いて。
「みたいだな。さて、あとは宴会だけだな!」
 けろっと鷲尾がそう言えば、やっと商人一同は息をつくのだった。

●酒の宴
「さぁ、どんどん飲んどくれっ!」
 商人達の喜びの声と共に、此隅の届け先の商家にて。広間を借り切って大宴会が行われていた。
 商人達も、開拓者達の腕前に感心したようで、しがらみは忘れて大宴会は盛り上がり。
 開拓者達もやっと息をついて数日の疲れをねぎらう宴会と酒を愉しんでいた。
 どうやら、大きな商売だったらしく、つつがなくそれが終わったため、料理もなかなかのもので。

「‥‥誰かを守るのがこんな大変と思わなかったよ」
 ふぅ、と可愛くため息をつきつつ酒杯に手を伸ばす御陵。
 その横では、風麗が
「まったくだな。だが酒と食いもんがあって笑えりゃ、それが最上の至福だ」
 かなり強い酒を、大きな酒盃で煽れば、商人たちからもその飲みっぷりで気に入られたよう。
 その容姿と飲みっぷりが相まって、何度も酒を勧められていれば、いつのまにか隣の御陵は
「くー、すー‥‥」
 と寝てしまったようで、それを見やっておもしろそうにくつくつと笑う風麗であったり。

「いやぁ、こうして無事依頼が解決したあとの酒は旨いな!」
 がんがんと煽るように酒を飲んでいるのはやっぱり鷲尾で。
 その横で、嘗めるように酒盃を傾けているのは青嵐だが‥‥。
「天斗、俺様に飲み比べで勝てるかな?」
 人形でかたかたしゃべりつつ、なにやら青嵐、口調まで代わってにやりと笑みを浮かべて。
 なんと、脇に置いてあった小さいとはいえ、一升近く入っている角樽を掴んで、そのままがばっと飲んでしまって。
「‥‥‥‥俺も負けてられねぇな!」
 もちろん鷲尾もつきあって、樽でがんがん飲もうとして、もちろん二人してぶっ倒れるまで飲み比べたのは言うまでもなかった。
 そしてしばらくしてから。
「そういえば、雪ノ下は‥‥」
 火が付きそうなほど、酒のにおいをさせつつ鷲尾が問えば、
「あー‥‥そういえば酒をもらってなにやら花街があるとかいう方に消えてったなぁ‥‥」
 青嵐は、酒で酔っているのに人形をかたかたとしゃべらせながら応えて。

「何つまらなそうな顔しているんだ、もっと楽しそうな顔をしろ!」
 戦部と輝夜を宴会の盛り上がりの中心に加えようとしているのは水鏡。
「別につまらなさそうな顔をしてる訳じゃ‥‥」
 と戦部は言うのだが、それにはかまわず、大いに盛り上がりつつ。
 しかし、どうやら輝夜は、一升を超えた当たりから目が据わり、しかもどうやら説教上戸だったとかで。
 そんな様子を、寝てしまった御陵に膝枕しつつ風麗が見て大笑いしていたり。
 大盛り上がりな宴会は、朝まで続いたとか。