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■オープニング本文 武天に芳野という街がある。 人の集まる賑やかな場所で、様々な産業が栄える商業の街として知られているのである。 さて、そんな芳野の街であるが。 人が集まれば、自ずと様々な娯楽が栄えるもので、その中でも最たるものが花街である。 一夜の恋を求めて、夜な夜な密やかに人が集い、様々な人間模様を見せるのだ。 だがしかし、人にはいろいろいるもので。 中には厄介な輩もいるのである。 「まったく、あの方たちには困っているのですよ」 依頼をもってきたのは桜花楼という名の遊女屋の主人、陣右衛門である。 桜花楼は、華やかな芳野の花街にあって、何代も続く老舗の遊女屋。 数十人に及ぶ遊女たちを擁する大きな店であった。 しかし、人の流れが活発になれば、そうした格式やしきたりに従わない者たちも増えるもので。 どうやら最近、迷惑な客に苦労しているというのである。 「あのお客様がたは、金さえ払えばと大きな顔をしましてね。とても無粋な方たちでして‥‥」 聞けば、さまざまなしきたりがあるこの道、そうしたものを全く無視して、我を通そうとするそうで。 金さえ払えばいいだろう、といった無粋な行動がますます遊女たちからも嫌われているらしいのである。 もちろん、まだ大事にはなっていないのだが。 「‥‥実は、志体を持った方々でしてね、暴れられると困るのです」 武器や装備に関しては、芳野の花街では入り口にて預かる方針をとっていた。 というのも、武器を持って花街に入るのを無粋としているからなのだが、どうやらそれも通じないようで。 金で言うことを聞かないなら次は腕力で、という気配がしているとのこと。 ということで、それに対する備えとして開拓者にお呼びがかかったのである。 「‥‥依頼を出す身で恐縮なのですが‥‥」 依頼人の陣右衛門は身を縮めながらそう言って、 「花街の中での事ですので、申し訳ないですが、あまり無粋な事は避けていただきたいのです」 と、きっぱりと告げた。 聞けば、護衛を頼む形になるだろうが、武器の持ち込みや派手な術の使用は控えて欲しいというのである。 「この商売では、評判は非常に重要ですので、大事にもしたくありません」 恐縮しつつ、陣右衛門は言って。 「それに、何より店の娘たちの手前あまり血なまぐさいことは避けたいのです。お願いできますかな?」 さて、どうする? |
■参加者一覧
小野 咬竜(ia0038)
24歳・男・サ
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
福幸 喜寿(ia0924)
20歳・女・ジ
紫焔 遊羽(ia1017)
21歳・女・巫
瀬崎 静乃(ia4468)
15歳・女・陰
若獅(ia5248)
17歳・女・泰
神楽坂 紫翠(ia5370)
25歳・男・弓
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
痕離(ia6954)
26歳・女・シ
滋藤 柾鷹(ia9130)
27歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●華やかなり夜の街 「‥‥新人の瀬崎静乃といいます。‥‥この仕事は初めてで右も左も判らないですが、宜しくお願いします」 きっちりとした挨拶をしているのは瀬崎 静乃(ia4468)。 「例え一時といえどもお客様に無礼の無い様に対応したいので、ご教授宜しくお願いします」 「あらまあ、そんなに硬くならなくても‥‥そうね、丁度良い年頃だし」 と、周りに集まってきていた女郎たちは、瀬崎を着飾らせ始めて。 あっという間に、1人の新造のできあがりであった。 新造とは水揚げ前、つまり客を取ることの無い女郎見習い兼お手伝いといったところで。 「まぁ、可愛らし。それじゃ、早速お座敷で手伝いをして貰おうかしら?」 こうして瀬崎は新造の1人として店に溶け込んでいるようで。 彼女の役目は開拓者同士の連携や補佐とのこと‥‥では、他の開拓者はどこだろう? さて、所変わって桜花楼の前の通りにて。 今までは、けんもほろろな対応で店から煙たがられてた開拓者崩れの迷惑な客たち。 今日も今日とて、狙いの桜花楼へとやってきた。 どこからか下っ端も連れてきたのか人数は少し増えて10名ほど。 周りの冷ややかな視線もなんのその、徒党を組んだ安心からかいつにも増して図々しく様子だ。 そこへ、ふらりと姿を見せるのは2人の女性。明らかに場慣れした様子の2人は、開拓者崩れに向かって、 「‥‥そこぉの男前。ちょっと一緒ぉに遊ばねぇか? 良い女達がいるんだぁが遊べる奴が少なくてぇよ」 といって笑みを向けたのだった。 語りかけた黒髪の美丈夫、いや美丈婦は犬神・彼方(ia0218)。 その横にすっと立つ白銀の髪の女性は痕離(ia6954)である 女性から遊廓へと誘われるて、驚く開拓者崩れたち。 だが、いろいろと変わり種も居る昨今、2人を変わり者の通人なのだろうと思ったようだ。 女郎屋というものは、いろいろと複雑なしきたりがあるもの。 男はその決まりを守り、粋で通なところを魅せてこそ、始めて女郎たちに認められる。 つまり理想の女性であろうとする遊女たちに釣り合う粋な男であることが求められるのだ。 故に、通とおぼしき2人の女性からの誘いというのは渡りに船。 しかも、行く先は狙っていた名店「桜花楼」、案の定彼らはその餌に飛びついたのだった。 犬神と痕離が先に立って店の入り口をくぐれば、店の者は皆一様に頭を下げて、挨拶をし。 それに対して鷹揚に答える犬神と痕離、開拓者崩れたちも今までとは違い丁寧な扱いを受けて。 そうとなれば、警戒も緩んだようで、すぐさま調子に乗っているようであった。 彼らは気付かなかった。 女郎たちや、その見習いの新造、まだ若い禿たちの視線に混ざる冷ややかなものに。 そして、一見すれば新造や禿と見える者たちのなかに、密かに混ざる開拓者達の姿に。 結局、数名ずつに分かれて部屋に案内される開拓者崩れたち。 いざとなれば、開拓者の武力で我を通そうとしていた彼らも、牙を抜かれたように惚けた顔をして。 あれよあれよというまに座敷の、賑やかな席に案内されたのだが‥‥ 「‥‥華の夜を荒らす無粋な輩にゃぁそれ相応の報いを‥‥ってぇな」 犬神は、浮かれている開拓者崩れたちに聞こえないよう、静かにつぶやくのであった。 ●それぞれの席 「そうそう、お上手。あ、扇の角度に注意して下さいませ。ここは柔らかな動きが大事ですよ」 奥まった座敷にて、舞の稽古をしているのは福幸 喜寿(ia0924)だ。 座敷の奧にて、その様子を見て声をかけているのは、桜花楼の最上位の遊女の1人、紅山。 柔らかな物腰と美しい声の持ち主で、芸や学識に欠けては並ぶ者無しと言われる花魁だ。 踊りの名手である紅山に踊りと歌の伝授をと頼んだ福幸は、望みの通り練習中で。 そして、その後ろで一生懸命笛を奏でているのが只木 岑(ia6834)だ。 端から見れば、先輩花魁が後輩の新造に踊りを教えているといった情景である。 元々躍りで生計を立てていたという福幸の踊りはなかなかのもので。 紅山が少し教えればそれをすぐに吸収していくようであった。 そんな様子を、興味深げに見ている只木、暫く暢気な時間は過ぎていくのであった。 そこへふらりと案内されてきたのは開拓者崩れたちだ。 きょろきょろと周りを見回している様はいかにも田舎者。 本来ならばとてもこんな上席に案内されることは無いのだが、 「‥‥ようこそおいで下さいました。では、とりあえずまずはつたない芸などで」 にっこりと微笑んだ紅山に促されて、一緒に舞を披露する福幸。 内心の想いはちっとも顔に出さず只木と福幸は淡々と仕事をこなすのであった。 「‥‥着飾れば、見違えるもんだねぇ‥‥」 凛々しくも、今回ばかりは鮮やかな新造の衣装を身につけているのは若獅(ia5248)。 その眼前で、同じく鮮やかな衣装に身を包んでいるのは滋藤 柾鷹(ia9130)であった。 髪を足して、化粧をし、たっぷりと豪奢な着物を着込めば、一丁できあがり。 「まぁ、これならお客さんがとれそうですね。ちょっと背は高いですけど」 にこにことできあがりを見つめて、満足げなのは花魁の初雪だ。 若くして名の知れるほどの女郎でありながら、名の通りの初々しさを備え。 まるで童女のような優しい笑みを浮かべいるのを見れば、その評判も納得である。 そして有名な女郎だけあって、化粧や着飾らせるのはお手の物。 普段は堅物といってもいいような滋藤も、なんとか女性に化けたという次第である。 さて、準備万端の彼らのところに、開拓者崩れたちが2人ほど案内されてきて。 「おうおう、ずいぶんとでかいねえちゃんだな」 やっぱり開拓者崩れもちょっとびっくりしたようであるが、 「あらあら、私の可愛い妹分をからかわないで下さいまし」 初雪がそう言えば、 「この娘は、恥ずかしがり屋だからね」 と若獅も言って、開拓者達を席に案内して。 ここでも、紅山のところ同様に、至極普通に宴席が設けられるのであった。 そして、最後の部屋は大いに賑わっていた。 その部屋には、朝霧と吉備の2人が配され、大勢の人間がそこには集っていたのだ。 開拓者崩れたちに先だって部屋にいたのは小野 咬竜(ia0038)。 「美人が3人と、今宵は楽しい酒が飲めそうで何よりじゃ。んむ」 煙管を片手に広々とした座敷でおくつろぎの様子である。 そんな彼に酌をしているのは新造姿の紫焔 遊羽(ia1017)だ。 そこにやってくるのは、件の犬神と痕離の2人と、彼女らに率いられてきた開拓者崩れたちだ。 なんと、最上位の女郎が2人も座敷にはいて。 そして、紫焔をはじめとしてきれいどころがよりどりみどり。 そんなところに突然案内された開拓者崩れたちは、大いに驚いた様子であった。 しかし、そんな中でも犬神や痕離は悠々としているし、 「流石、美人揃いだね。‥‥今宵一晩、お相手頂けるのが嬉しいよ」 と痕離も言うので、きっと慣れているお大尽たちなのだろうと納得した様子であった。 所詮自分たちの気にくわないことがあれば無理で通そうとする馬鹿な開拓者崩れ。 都合の良いことだけを見て、流される程度の器だったということである。 さて、そんな開拓者崩れたちも巻き込んで、紫焔がとある提案をした。 「せっかくこんな人数もおるんやし、一つ花拳でもしたらどうやろか?」 伏せた杯をめくって、印がある杯をめくるまで続ける。 そしてめくってしまった杯の数だけ酒を飲まされれるという遊びなのだが、 「お兄さん方、漢の見せ所やで♪」 紫焔にそう言われれば、開拓者崩れたちも乗せられて、犬神に痕離、小野も加わって盛り上がるのだった。 開拓者崩れたちも一緒に、桜花楼の一流の女郎たちと楽しい時間を過ごす開拓者達。 もちろんこれは桜花楼とも示し合わせた作戦の一部だ。 では、なぜわざわざ迷惑な客であった開拓者崩れたちにもいい目を見せるのか? それは、落差が激しければ激しいほど、しっかりと心に刻み込まれるからである。 いよいよ思惑取りに、開拓者崩れたちは踊らされていくのである。 ●報いは十二分に こうした女郎屋は、内装にもお金をかけているもので、見るからに華やか、まるで桃源郷である。 そんな中を、細々と働いているのは女装した神楽坂 紫翠(ia5370)だ。 「また華やかな‥‥所です‥‥でも人様に‥‥迷惑かけるのなら‥‥相応に‥‥お仕置きでしょうです」 そうつぶやきながら、酒を運んだり、料理を持って行ったりと意外と忙しい神楽坂であった。 そんな中で、大分酔っぱらった開拓者崩れの1人がふらりと廊下で神楽坂を目に止めた。 大分酔っぱらっているようで、整った顔立ちの神楽坂が男性だとは気付かなかったようで。 「ちぇ、どうせ俺にゃいい目はまわってこねぇんだからよぅ‥‥」 どうやら開拓者崩れの中でも下っ端のようで、不満があるようだ。 「なぁ、そこのねえちゃん。金は払うからよぅ、暇ならちぃと遊んでくれねぇか?」 げらげらと何が楽しいのか笑いつつ、そんなことをいう下っ端。 だが、神楽坂が口元を扇で隠し、手招きをすれば目の色を変えて‥‥。 あっさりと人気の無い座敷に誘導されていったのだった。 「おうおう、意外と話せば分か‥‥げっ、てめぇ男じゃねぇか!」 剣呑な表情を浮かべた神楽坂の正体にようやく気付いたのか、逃げだそうとした下っ端。 だが、そこに飛んできたのは瀬崎の術だ。呪縛符で動きを止められた男は、神楽坂に再度とっつかまり。 頑張れとばかりに瀬崎が頷けば、神楽坂も頷きかえし、憐れ下っ端は再び暗がりへと。 「ちくしょ、てめぇ、なにをしやがるつもり‥‥アッー!」 そんなこんなで神楽坂の“人には言えないお仕置き”が発動して、あっさりと気絶する下っ端であった。 「おや、やっと出たか‥‥なぁに、まだまだこれしきじゃ酔わんよ」 花拳をしつつ煙管片手に何杯も酒盃を呷る小野。 「いやぁ、さぁすがは姐さんたちだぁ。こいつぁ目の毒てなぁもんだな」 「そういうぬしさまも、素敵でありんすよ。きっと若い子たちにはそういう装いも人気なんでありんしょう」 犬神の酌をしつつ、色気を振りまいているのは朝霧だ。 開拓者崩れたちも同じように酌をされているのだが。 しかし、やっぱり性根までしみこんだ下品さがこういうときにこそ出てくるものである。 開拓者崩れの中の頭目格が、しびれを切らしたかのように、 「おうおう、うめぇ酒はたらふく飲ませて貰ったよ。だが折角の遊女屋なんだ、これで終わりじゃねぇだろう?」 下品な視線を遊女たちに向けてそういえば、応えたのは痕離だ。 「まあまあそう言わずに‥‥ね? 折角の機会なのだし、そう焦ることはない。楽しまなければ」 と取りなすように言うのだが、何が気に入らないのか開拓者崩れたちはいきり立つ。 怒声を上げれば、女ならひるむと思っているのだろう、思い思いにがなりたて。 「はん、名店だ花魁だと言ってはいても、この程度か?! 金はあるっていってんだろうがっ!」 もう、ここまでくると処置無し、暴れ出そうとする男達だったのだが。 「己等‥‥女に手を上げるとは無粋者めよ」 小野が振るった喧嘩煙管に足を払われて転がる男。 「その拳、振り上げるからには振り下ろされる覚悟もあるのじゃろうなぁ」 「そうそう、大の男がぐちゃぐちゃ言ってんじゃぁねぇよ。ココは華やかな時を楽しむ場所だぁぜ」 犬神も煙管を振るって、酔っぱらった男のみぞおちを一撃。 そして、痕離は無言で投げはなったダーツが、男の鼻先につきたって。 「ああ、あんまり動かない方がいい。手元が狂うかも知れないからね」 ここに来てやっと彼らは、同席してた客たちが、自分らより遙かに強い開拓者だと気づき。 「さぁて、困ったさんをどなしよか?」 くすくすと笑いながら紫焔が花魁の2人に問えば、朝霧は艶やかに、吉備は美しく微笑みながら。 「思い知らせてやりんさい」 そう言い放ったのであった。 そして同じような展開が他の座敷でも起きていたようで。 暴れだそうとした開拓者崩れ相手に福幸は鉄扇を一撃、そして。 「只木さん、無粋な人は磔にしてしまうんさねっ!」 「え、ボクの事?」 只木は、一瞬、自分が磔にされる? と思ったりもしつつ、ダーツを福幸からを投げ渡されれて。 そういうことかと、開拓者崩れたちの服を壁に縫い止めていくのだった。 「‥‥無粋な人さね。折角踊りに精通してる人に出会えたんに‥‥」 「あら、まだ時間はありますよ。ほら、お客様たちはお帰りのようですし」 見れば、開拓者崩れは服をそのままに、半裸ですたこら逃げ出したようで。 福幸は只木が見守る中で、心置きなく踊りの練習に戻るのだった。 そして、最後の一部屋では。 「ええい、こんな遊び事はもう沢山だ!」 そういった開拓者崩れを誘ったのは滋藤だ。 暗い部屋に案内されて、鼻の下を伸ばしてついていく開拓者崩れだったのだが。 すっくと滋藤が背を伸ばせば、頭二つは背が高く。 しかもよく見れば、布で被われ扇で隠されていたその顔は、怒りを帯びたもののふであった。 あっというまに叩き伏せられ身ぐるみはがれた開拓者崩れ。 そして滋藤が座敷に戻れば、若獅も丁度最後の一撃を食らわせたところだったようで。 「勘違い野郎には、良いお灸になったかな? 戦士には戦士の、遊女には遊女の意地も誇りもあるんだ」 小柄な遊女だと思い込んでいた若獅に、拳の連打でぶちのめされた開拓者崩れはどさっと崩れ落ち。 「例え金を払ったって、踏み躙っていいもんじゃない」 その啖呵に、ぱちぱちと初雪は拍手して、かっこよかったですよと2人をねぎらうのだった。 ●後の宴 開拓者崩れは、全員遊女の前でぶっ飛ばされたり身ぐるみはがれたりでたたき出されてたよう。 開拓者達はやっと終わったと一時の休息をとっていた。そこに顔を出した楼主の陣右衛門は 「どうやら片付いたようですな。これであの方たちももう顔を出さないでしょう」 満足げにそう言って、開拓者達を、ねぎらう宴を設けたとのこと。 そう言われれば、断る必要も無く、開拓者達は皆晴れやかに宴に向かうのだが。 「しかし‥‥遊女さんの扱いに慣れとるなぁ‥‥咬竜」 涙目で紫焔がそういえば、 「何じゃ、妬いたか? ‥‥安心せいよ。俺の愛する女はお前だけじゃて」 と小野が応えた。 「おやおや、お熱いこと。わっちらは、奧で飲み直しんしょう」 そんな様子を見てくつくつと笑いながら朝霧がそう言って。 開拓者達は皆心置きなく、桜花楼での宴を楽しむのであった。 |