【負炎】焼跡からの出発
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/02 21:57



■オープニング本文

 その依頼は、最近アヤカシの猛攻に晒されている理穴に関わる依頼であった。
 アヤカシの猛攻撃を受けている里は周知の通り、緑茂という里である。
 この大きな里を中心に、アヤカシ対人々の大きな合戦が繰り広げられているのだ。
 だが、緑茂の里以外にも、大小様々な里や小村が周囲には存在する。
 開拓者達は、本文であるアヤカシ退治の役割において合戦では主力となっているが、それ以外にも仕事は多く。
 今回も、補給物資を積んだ荷車を一台伴って開拓者たちはとある小村へと向かっていた。

 依頼は、その村と縁のある商人からのものである。
 彼は別の地区で、その小村のための物資を購入し、それを運ばせる依頼を出したのだ。
 馬が一頭ついているその大きな荷車を護衛しながら、その小村へと向かい届けるだけの依頼。
 しかし、依頼は予定通り進まなかったのである。

 目的地の小村へと向かう道中、天気は良く抜けるような秋の空が広がっていた。
 しかし、あと少しというところで、その道行きの先に見えたのは幾つも立ち上る黒い煙だった。
 嫌な予感と共に、急ぐ開拓者達。
 しかし、その予感は当たってしまうのだった‥‥。

 数十人が暮らしていたであろうその小村は、すでに炎に包まれた後。
 残されたのは、崩れ落ちた家々の残骸と、逃げ遅れた無残な村人の姿だった。
 即座に開拓者達は生存者を捜したのだが、どうやらただ一人の生き残りも居ないようであった。
 開拓者達は、夜を徹して村人達の亡骸を葬り、次の朝に出発することにした。
 目的地は、依頼人が待っているはずの深柳の里。
 そこは、そこそこ大きな里で、近くから避難民が集っている場所でもあるようで。
 依頼を果たせなかった開拓者達は、その荷を持ったまま深柳の里へと向かう以外に選択肢はなかったのである。

 だが、現在この理穴ではアヤカシの被害がそこかしこで発生している。
 さらに最近では、荷を狙った盗賊までもが出没するらしい。
 そんな中を、君たち開拓者たちは深柳の村まで進まなければならないのだ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
香坂 御影(ia0737
20歳・男・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
羅轟(ia1687
25歳・男・サ
星風 珠光(ia2391
17歳・女・陰
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
翔(ia3095
17歳・男・泰
羽貫・周(ia5320
37歳・女・弓


■リプレイ本文

●それぞれの思いを胸に
「‥‥せめて、安らかにお休み下さい」
 盛り土を前に手を合わせ、そうつぶやくのは鈴梅雛(ia0116)だ。
 傍目には、育ちの良さそうな少女と映るであろうその小さな姿。
 しかし彼女は、そう見えてもれっきとした開拓者で。
 幾つもの依頼で仲間達を支え助けてきた巫女である。
 開拓者たちがたどり着いたときには、すでに里は焼け落ちた後で。
 荷を届ければ、喜ぶ顔が見られるという希望もむなしく、ただ骸となった村人達だけが開拓者を迎えたのだった。
「無残‥‥せめて‥‥安らかに‥‥」
 雛の横で、同じように粗末な墓に手を合わせているのは羅轟(ia1687)。
 全身を鎧で包んだこの巨躯のサムライは、武器を鋤に持ち替えて墓を掘り、村人達の埋葬を手伝ったのだ。
 丁度、彼らがその小村にたどり着いたとき、里の火はくすぶる程度までに収まっていた。
 後に残されたのは、それほど多くない村人たちの骸と焼け落ちた里だけで。
 すぐさま、彼らは村の広場に荷車を止めて、里の人々の埋葬を始めたのであった。
 だが、ただ埋葬しただけではない。
 里を見回り遺体を手厚く葬りつつも、彼らの目は様々な点を注視し調べていた。
「うーん、残ってる足跡はどれも人の足跡ですね‥‥どうやら結構な人数がいるようですが」
 翔(ia3095)は、土に残った足跡を見やりながらそう言って。
 開拓者たちは、それなりにアヤカシ達と戦い、時には人と刃を交えることもある。
 となれば、経験的に様々なことを知るようになるわけで。
「傷の様子も人の技、そいつが分かっただけでもめっけもんだな」
 燃え残った壁板に突き刺さった折れた矢を引き抜いて、ニヤリと笑ったのは斉藤晃(ia3071)。
 悲しいかな戦乱の続くこのご時世の開拓者達にとって、傷を見れば大体の凶器がわかるもので。
「‥‥戦では良くある事とは言え、悲しいの」
 ばきりと燃え残りの矢を手の中でへし折る晃。
 彼は、酒を一口呷って、残りを盛り土へと振りかけるのであった。

 埋葬が終わった一行は、この惨状は人の手によるものだという確証を得た。
 小村の至る所に残る人の足跡、亡骸に残された傷、そして矢などがその証拠だ。
 もちろん、武器を使うアヤカシもいるので、武器だけでは証拠にならない。
 だが、村人達が武器を持って闘った形跡も無く、主に背後から斬られていたり。
 また、火をつけるために使われたであろう松明なども見つかったのだ。
 そして、幾ばくか残された食料や資材は見つかるものの、秋なのに村に蓄えられた食料は明らかに少なく。
 それこそが、人間が里を襲った証左に他ならないと開拓者達は感じたのであった。

「こうやって色々と荒れると、賊が出るのは良くあることだけど‥‥」
 つぶやくのは香坂 御影(ia0737)。
 彼ら開拓者たちの中にも、アヤカシ達の被害などから、住む場所を失ってしまう者たちもいる。
 だからこそ、賊にならざるを得ない状況は分からなくもない。
 だが、御影は唇を結んで、言葉を続ける。
「それでも、村一つを滅ぼして良い理由には、絶対にならない‥‥」
 故郷を失っても、持てる才覚を使って開拓者として身を立てる彼らからすれば、その怒りももっともで。
 やりきれない思いと、怒りを胸に開拓者達は燃え尽きた小さな村を後にするのだった。
 埋葬のために時間を食ったので、すでに時刻は夕刻近く。
 しかし、
「‥‥村を襲った人が、まだ近くに居るかもしれないです」
 という雛の言葉で、一行はある程度街道を戻り深柳の里へと向かう道筋を進むことにしたのだ。
 アヤカシは人の身だけではなく、恐怖や苦しみすら糧とすると言われている。
 たしかに、そのまま村にとどまっていれば、村を襲った者たちやアヤカシと遭遇していたかもしれない。
 そう考えて、一同は足早に村を離れるのだった。

●野営と道中
 村を離れて暫くして、夕日が山々の向こうに沈めば、すぐさま夜の闇がやってきて。
 あいにくの曇り空、時折雲間から月が照らすものの、理穴の山中の闇は濃かった。
 村で補充した松明をつけて、闇夜を何とか進んだ開拓者達であったが、さすがに無理はしないようで。
 村からある程度距離を取った山間の街道沿いにて、彼らは野営をするのであった。
「‥‥ここなら良さそうですね」
 ぐるりと周囲を松明で照らしながら、見回してそういうのは滝月 玲(ia1409)。
 街道からわずかに森へと踏み込んだその場所は、おそらく過去にも野営した人がいたのだろう。
 土の露出した一画には、大分前にたき火をした跡とおぼしき灰が残っていて。
 その木々の開けた場所に、開拓者達は荷車ごと馬をつれて進み、そこで火をおこして野営を始めたのだった。
 開拓者達にとっては、野営も慣れたもの。
 幸いなことに、今回運んでいるのは保存の利く食料品や冬に備えての防寒具など。
 依頼主は道中でと、荷の一部を開拓者が使う用に別個で少量ながらも用意していたようで。
 肌寒くなってきた秋の夜、開拓者はなかなか快適に過ごすことが出来そうであった。
 さすがに豪勢な夕食とは言えないまでも、慣れた手つきで魚の干物を炙り、荷の干飯を鍋で煮て。
 急遽依頼の予定が変わった先の見えない状況において、やっと一息つく開拓者達であった。
「こう何日も野宿だと早く自分の旅館の温泉に入りたいわ‥‥」
 星風 珠光(ia2391)が言うように、村へと向かう道も野宿続きで、さすがに疲労はたまっている。
 だが、今の理穴の人々がおかれている状況を考えれば、贅沢を言っている場合ではなく。
 大人しく開拓者達は、2班に分かれて、それぞれ見張りを立てて、眠りにつくのだった。

「そろそろ‥‥交代‥‥だ」
 見張りに立っていた羅轟たちは、そういって交代のために仲間達を起こして。
 全身を鎧兜で被い、目元しか見えない羅轟に起こされて、びっくりしつつも交代はつつがなく進み。
 羽貫・周(ia5320)は、深い闇の向こうで幽かな月明かりに照らされる周囲に視線を向けるのだった。
 周は竹筒から水を一口飲むと、同じく起きて見張りをしている御影や玲、珠光に、
「すこし周囲を伺ってくるよ」
 といって、野営地の周囲を静かに歩み、警戒する。
 彼女のような弓術師はその技に必要とされるため、索敵能力に優れていた。
 遠く離れた獲物を狙うためには、その視力の高さがまず必要とされるからである。
 それゆえに、こうして周囲を警戒する役にはもってこいと言えるだろう。
 暫くして戻ってきた彼女に、どうだったと仲間達は声をかければ。
「ん、大丈夫そうだったよ。草木も眠る丑三つ時、ってところだね」
 そういう彼女の手には、ぐるりと周囲を伺うさなかでアケビの実が握られていて。
 野営の寂しい食生活の足しにと皆にアケビを渡せば、一同はふと笑みを浮かべるのであった。

 そうして見張りを交代して続ければ、やがて朝がやってきて。
 寒暖差の激しい山の朝と、秋の気候のためか、ひんやりと冷え込んだ空気。
 開拓者達はその中で、再び街道を進むのだった。
 一行は、準備万端に荷車を守りつつ進む。
 荷車から少し先をある気街道の様子をうかがうのは、翔と御影。
 そして荷を守るように、荷車の前には晃と雛。
 馬を引きながら、晃は強面の顔に笑みを浮かべて、雛に
「よろしゅう頼むわ、お嬢ちゃん。これいるか?」
 と、日持ちのする菓子なんかをあげていたりするようで。
 そして、車の左右に羅轟と周。
 そして荷の後ろには珠光と玲という配置であった。

 天気が崩れることもなく、秋晴れの下一行は順調に街道を進んでいった。
「馬さんも休ませないと。荷を運べなくなったら、困ってしまいます」
 ときおり街道沿いに小川などの水場があれば、そういって暫く馬を休ませて。
 周囲の様子から気を抜くことなく進めば二日目の道中も順調だったのだが。
 昼下がり、先行して偵察していた御影と翔は、街道の先に数名の人影を見つけた。
 向こうもこちらと同じほどの人数の集団で、同じように荷を運んでいるようで。
 ただし、馬で引くのではなく、人が小さな荷車を引いているように見えた。
 彼らが進んでいる道は街道である、それゆえに人とすれ違うことは珍しいことではない。
 彼らと同じように、依頼を受けて荷を運ぶ開拓者から、商人や村々の人々まで、街道を使う人は多いのだ。
 だが、開拓者達はなにか勘が働くところがあったのだろう。
 こっそりと、後ろを進む仲間達に、合図を出して すこしゆっくり進むようにと指示して。
 先行した2人は、向こうからくる一団と向かい合うのだった。

●遭遇
「皆さんも、仕事ですか? それとも帰り道でしょうか」
 荷車に何も乗っていないのを見た翔は、そう向こうの一団に声をかけた。
「ん、ああ。荷物を運んできたところでな。いまは丁度帰り道だよ」
 突然声をかけられた戦闘の男は、いささかびっくりした様子でそう答える。
「なるほど、ではこれからどちらのほうへ?」
 再び翔が訪ねたのは彼らの行き先だ。
 相手までの距離は、十歩ほど。声は届くが武器を振るうにはまだ遠い距離で、彼らも足を止める。
 どうやら答えに窮しているようだ。
 ただし、向こうがこちらを警戒しているとするならば、行き先を言わないこともあるだろう。
 そこで、御影はふと思い出したように。
「この先の小村は焼けてしまったようだし、もっと先までいくかな?」
 そう言われれば、男は首を振って。
「そうそう、あの村は焼けちまったからな。他のところで物を仕入れて‥‥」

 しかし、男の言葉を待たず、翔と御影は武器を構えるのだった。
 なんだ、なんだと男達も身構えるのだが。
「村が焼けちまった‥‥と言いましたね」
 泰拳士の翔は構えをとってそう言って。
「私たちは、その村が焼け落ちてすぐにこの街道を進んできました」
 そして御影は刀を抜き放つと、男達を見据えて、
「ならば、我々以外にこの街道を先行して進んでいて、村が焼けたことを聞いて驚かなかったお前達が‥‥」
 向かい合う男達も、これ以上ごまかすのは無理だと悟ったのか、武器を構えていて、
 だが、それに臆せず御影は言い放つ。
「そう、村を襲ったのはお前達だな!」
 その声が、輸送隊の振りをしていた賊徒たちとの戦いの始まりの合図となった。

 賊たちは、本来なら怪しまれることなく近づき一気に奇襲する予定だったのだろう。
 眼前の8名以外にも左右の森からも伏兵が数名飛び出してきて。
 だが、翔と御影が先行していた上に、仲間達に警戒するように指示した結果、賊の奇襲は失敗。
 開拓者達は、万全の体勢で賊を迎え撃つのだった。
 賊の荷車が街道をふさぐ形でおかれているため、強行突破は難しいだろうと開拓者達は賊を迎え撃つ。
 まずは、先行していた偵察の翔と御影に数名が襲いかかる。
 そして残りが荷車へと向かって行くのだが。
 その攻撃を躱す翔、そして御影も賊を引きつけながら強打で迎え撃っていた。
 経験豊富な彼らを危なげなく賊を引きつけて、さらに反撃で手傷を与えていったのだ。

 そして同時に、荷車の方へ向かった賊たちも、開拓者に阻まれていた。
「外道‥‥なれば‥‥その‥‥報い‥‥覚悟‥‥せよ‥‥!」
 長巻を手に、突っ込んできた賊の前に立ちはだかったのは羅轟。
 言葉少ない彼の咆哮は、賊を引きつける。
 だが、賊の攻撃は彼の鎧と武器に阻まれて、返す一撃に賊は地を這うのだ。
 武器の重さと長さを活かした一撃を見舞って、
「滅‥‥!」
 ぶうんと血降りをした羅轟、さらに次なる賊を迎え撃つのだった。
 そして同じように、賊への壁となるのは晃だ。
「ここから先は命がお代や」
 そういって大きな斧を構えて。
 かなり大柄な晃の背丈ほどもある巨大な斧に、さすがの賊も圧倒されたようで、その剣先は鈍く。
 そうなれば、歴戦のサムライたる斉藤晃にとって、隙だらけ。
 両手にもった大斧一閃、両断せんばかりの一撃を真っ向から食らって賊は血煙を上げて吹き飛ぶのだった。
 もちろん彼らを援護するのは術と弓の力で。
 さすがに乱戦なので、大きな術は使えないが、斬撃符を飛ばして援護する珠光。
 そして、矢で援護する周、この2人を守るようにして立ち回り、さらに指示を飛ばしていたのが玲であった。
 玲は、戦闘開始と同時に心眼を使い、伏兵の有無を確認。
 その後も、的確に指示を飛ばしながら、後衛を守るために立ち回っていた。
 さすがに開拓者側が優勢となれば、賊らは振りを悟ったよう。
 すでに仲間の半数は打ち倒されているものの、ばらばらと逃げ出したのである。
 さすがにただでは逃さない開拓者達。
 逃げようとする賊に気付いた周が、素早く矢を放って賊1人の足を射貫く。
 そうすればそいつから情報が聞き出せるだろうと思ったのだ。
 だが、次の瞬間、他の賊がそいつに近づく。
 助け起こすつもりか、開拓者達はそう思った。
 たしかに、足を怪我した賊は仲間に助けを求めるかのように手を伸ばしたのだ。
 だが、近づいた賊は、無情にも仲間にとどめをさそうとしていた。
 一瞬の出来事ながら、あっけにとられた開拓者達、しかしそこにもう一本矢が飛来。
 周が放った矢は、狙いや過たず、見事武器を直撃。
 賊の手から武器をはじき飛ばすと、すぐさまその賊を御影や翔が取り押さえて。
 それでも一部の賊は逃げ、すべて倒すには至らなかったようであるが荷は無事であった。
 その荷に、縛った賊を加えて、一行は深柳の村への歩みを再開するのであった。

●深柳の里にて
 その後、開拓者達は再び街道を移動し、深柳の里へと向かった。
 幸い、野営でも道中でも、それ以上の障害は無く、一行は、予定通り小村から三日で深柳の里へとたどり着く。
 そこで待っていたのは、良い知らせを期待していた依頼人で。
 間に合わなかったと忸怩たる思いで伝え、頭を下げる玲ら開拓者達を前にして依頼人は、
「‥‥そうだったのですか。‥‥いえ、貴方たちの責任ではありませんよ」
 そういって、ぎこちない笑みを浮かべ、
「無事に荷を持ってきていただいてありがとうございます」
 頭を下げるのだった。
 すでに起きてしまったことをどうすることも出来ないと知りつつも、開拓者達は悔しく思った。
 だが、今回の依頼では、村を火にかけた賊たちと戦いその一部を倒すことが出来たのだ。
 たしかにどうすることも出来ない悔しさはあるが彼らは出来ることを最大限に果たしたのだ。
 賊の行方は気になるが、今はひととき休息を取っても良いだろう。
 これにて依頼は終了、荷を無事に守り抜いた一行には報酬が支払われるのだった。