【負炎】反撃開始!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
無料
難易度: やや難
参加人数: 50人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/22 19:57



■オープニング本文

 まず、現状を整理しよう。
 事の発端は、天儀の北方にある王国、理穴におけるアヤカシの大攻勢であった。
 理穴にある緑茂という里の東部において、魔の森の突然の拡大が始まる。
 それと時を同じくして、魔の森の中心である大アヤカシの移動が確認されたのだ。
 大アヤカシ、それは魔の森を司るアヤカシの親たる存在である。
 しかし、大アヤカシはそれ一体で一国の軍に比類しうる強大な存在であれば、兵達の足並みは鈍っていて。
 現在は、理穴の国王、儀弐王と理穴の軍による反攻作戦が行われている。
 同時に、緑茂の里長によって防衛陣が展開されているのだが、如何せん兵力が不足している模様。
 大アヤカシ、炎羅の命令により刻一刻と増えるアヤカシには苦戦を強いられているが現状である。
 そこで、理穴の儀弐王は朝廷を通じ、正式に開拓者ギルドへと協力を要請。
 開拓者達による反攻作戦が進められることとなったというのが、事の顛末である。

 そんな中、緑茂の里に一つの報告が伝えられた。
「‥‥なに、北方からアヤカシの一軍が?!」
 地図を確認して貰えば解るだろう。
 現在、アヤカシの本陣は里の北東ににて陣を展開した理穴軍本隊とにらみ合いを続けている。
 また、緑茂の里の兵力は、里の東側の魔の森内部に布陣したアヤカシたちに対する防衛に備えている。
 そんな中、里の北方から攻め寄るアヤカシの軍勢が確認されたとのこと。
 すでに里の防備は開拓者に一任され、その他物資の運搬や他の小村落の防衛、または小規模な反攻作戦が進行中だ。
 それと同時進行で、開拓者達主導による反撃作戦が実行される運びとなった。

 緑茂の里の北方のアヤカシ出没地域から一直線に里を目指して攻め寄るアヤカシの一軍。
 その総数、およそ100体前後の軍勢と見られている。
 これに対抗するために、開拓者達50名による遊撃軍の結成が決定。
 主たる人員や、朝廷より派遣された開拓者ギルドの管理役、大伴定家も来る一大反攻作戦の準備に忙しく。
 この度の遊撃軍には指揮官は不在、開拓者主導による遊撃戦が展開される模様だ。

 すでに、確認されているアヤカシの中には、亡鎧と呼ばれる鎧を纏った鬼のアヤカシいるとのこと。
 中級アヤカシが指揮官として存在するために、普段は群れないアヤカシたちも従っているのだろう。
 開拓者達には、大アヤカシを討つための討伐軍に参加する必要もある。
 しかし、こちらの軍勢を放って置くわけにも行かないのも事実。
 亡鎧を指揮官として、軍勢の大半は下級の狂骨や小鬼たちであるが、中には剣鬼や骨鎧の姿もある。
 開拓者達は、数で劣りつつも、なんとかしてこの一軍を止めなければならないのだ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 仮染 勇輝(ia0016) / 紅(ia0165) / 鷹峰 瀞藍(ia0201) / 澄野・歌奏(ia0810) / 孔成(ia0863) / 紫焔 遊羽(ia1017) / 風雲・空太(ia1036) / 霧崎 灯華(ia1054) /  ゼロ(ia1165) / 北里 巴(ia1190) / 汐水 瑠音(ia1301) / 草薙 煉(ia1311) / 皇 りょう(ia1673) / 嵩山 薫(ia1747) / 三日月(ia2806) / 神無月 渚(ia3020) / 骨首 於凶(ia3354) / 鬼限(ia3382) / 赤マント(ia3521) / 銀丞(ia4168) / 神鳴(ia4653) / 甲樹(ia5107) / 糺(ia5279) / 紅蜘蛛(ia5332) / 魅影(ia5366) / 北風 冬子(ia5371) / 夕羅樹 仙(ia5419) / 好危 辰(ia5556) / 小鳥遊 郭之丞(ia5560) / 天月 遠矢(ia5634) / 胡桃 楓(ia5770) / 千見寺 葎(ia5851) / 神楽 銀二(ia5970) / 矢吉(ia6013) / アルネイス(ia6104) / 屠龍(ia6236) / 黒棘 萩(ia6251) / 扇陽(ia6277) / 華雪輝夜(ia6374) / 宮本無鎖死(ia6426) / 炎鷲(ia6468) / 全手動(ia6586) / †聖帝ギアス†(ia6755) / 藍黒龍(ia6810) / 芯(ia6830) / ペガサス(ia6855) / 小賀坂(ia6867) / ギアス(ia6918) / 珈琲(ia6925) / フロアチーフ(ia7155


■リプレイ本文

●戦いを前に
 開拓者の本分、それはアヤカシ退治であると言って良いだろう。
 志体を持つ開拓者でなければ、凶暴で凶悪なアヤカシ達を屠ることは難しい。
 そして、普段ならば、十分な作戦と備えをした上で討伐に向かうのだが。
 時には、命を賭して敵の矢面に立たねばならない事もある。
 緑茂の里に襲い来るアヤカシの群れ、その総数はおよそ100。
 亡鎧という名の、鬼を首魁としたその軍勢はまっすぐに平原を進んでいた。
 それに対して、待ち構える開拓者の総数は、およそ30と少し。
 やはり、大規模な作戦を前に、十分な数を確保できなかったのだろう。
 古来より、人々は数多くの合戦を経験し、それは戦場におけるいくつかの基礎知識を育んだ。
 その中でも有名なのが、三対一の法則と呼ばれる者だ。
 それは攻撃側は防衛側に対して三倍の兵力をもって当たる必要があるというものである。
 これは防御側の優位を示すものであり、一概にすべてに当てはめるわけにはいかないが、一理ある言葉である。
 さて、今回の合戦はというと。
 アヤカシ100に対して開拓者の総数は丁度三分の一である33名。
 つまり、開拓者が守備を固めて待ち構えれば、持ちこたえることが出来る数と見ていいだろう。
 だが、事態はそれを許さない。
 すでに緑茂の里は、他方面からのアヤカシの攻撃に晒されているのだ。
 ゆえに、開拓者達わずか33名は、野戦にて決着をつける必要があったのだ。
 では結論を言おう。
 状況は非常に不利ということだ。

「これだけ集まると、実に壮観ね‥‥存分に楽しめそうだわ」
 ふ、と妖艶な微笑みを浮かべて居並ぶ仲間を見てそういったのは紅蜘蛛(ia5332)だ。
 開拓者らはいくつかの小集団に分かれて進んでくるアヤカシ達の集団を待ち構えていた。
 数の不利を覆すためには、敵の頭である亡鎧を倒すこと。
 これが、今回の不利な状況を打破するための目標となったようである。
 だが、これはすなわち、敵陣営を引きつけたうえで、敵陣を突破し亡鎧を狙う必要があるということで。
 誰も表だって口にするわけではないが、危険度の高さは十分に感じられているようであった。
 主に前線を拡大させるために、いくつかの小集団で分かれて戦闘をしかけ。
 同時に、亡鎧を狙う主戦力の一団が急襲するという手はずが整えられられたのである。
 戦場となる予定の平原のそこかしこに姿を隠した開拓者達。
 遠くまで見通せる平原ではあるが、姿を隠す場所はところどころにあって。
 遠くからやってくるアヤカシ達の進路の近くにある木々や茂みの影に潜む開拓者達。
 ここでは開拓者が少数であったことが利となったようである。
 それぞれが武器を構え息を整えているのだが、開拓者達も千差万別。
 幾度か死線をくぐり抜けた歴戦の強者から始めて戦場にたつ者。
「何気に初の実戦だけど‥‥ま、何とかなるかなっ」
 味方の援護と生命線を握る巫女の澄野・歌奏(ia0810)は、初めての実戦。
 ぎゅっと杖を握りつつ、そっと息を殺して身を潜めて。
「敵は倍数、どころか三倍‥‥我等精鋭意気軒昂なれど、厳しい事にも違いなし。褌を締めてかからねばのう」
 皺が刻まれた顔に苦い笑みを浮かべて拳を握るのは老齢の開拓者、鬼限(ia3382)。
 このように、開拓者にはまだ年若いものから、老齢に達する者まで老若男女がそろっていた。
 だが、彼らに共通することは開拓者であると言うことだ。
 全員が志体を持ち、常人よりは遙かに優れた戦士であり、それぞれが戦うための技術を身につけている。
 この戦場であれば、誰しもが変わらず活躍が出来るはずであった。
 もちろん、同じく敵の刃に倒れる可能性も等しいのであるのだが。

 そして、アヤカシ達は開拓者達が待ち構える平原のその場所へとさしかかって。
 アヤカシ達には数の利があった。
 生半可な数では彼らを止めることは出来ないだろう。
 それに、彼らは味方を思い遣ることも無く、ただ進み、敵対する者を踏みしだくだけである。
 そんな彼らが周囲の警戒をしっかりしているわけでもなく。
 罠こそなかったものの、開拓者たちの待ち構える場所へアヤカシ達は警戒もせずに踏み込むのだった。

 いよいよ、戦闘開始である。

●戦の場にて
 わっという鬨の声、響く呼子笛の音、駆ける足音、武器と武器がかみ合う金属音。
 突然に現れた開拓者達を見て、アヤカシ達の大部分を占める小鬼たちは混乱した様子であった。
 彼らは、一般人でも退治できる下級のアヤカシ、駆け出しの開拓者でもそうそうひけは取らない相手だ。
 一気に襲いかかる開拓者達はいくつかの小集団に分かれていて。
 それは、まるで巨大な相手に対して小さな獣が群れを成して襲いかかる様子にも似ていた。
「狙わなくても当たる‥‥楽だねぃ」
 飄々と、符を放って小鬼の一体を斬撃符でなぎ払ったのは好危 辰(ia5556)。
 戦端が開かれてから、まず攻撃を始めたのはこうした遠距離攻撃の手段を持つ術者たちだ。
 もちろん小鬼達も彼らを放っておくわけではない。
 接近戦の手段を持たない術者を狙おうと攻め寄るのだが。
「そうはさせないよ!」
 弓から放たれた矢が先頭の鬼に命中、もんどりうって倒れた小鬼は起き上がらず。
 短弓から弓を放ったのは銀丞(ia4168)だ。
 銀丞は、すぐさま手の短弓を無骨な太刀に持ち替えて。
 傷跡の走るその顔に美しくも剣呑な笑みを浮かべて術者たちの前に立ちふさがるのだった。
「お前達の相手はこの私だよ‥‥‥ぅぅぅるるぉぉぉおおおおおおぉぉぅ!!」
 まるで狼のような咆哮を銀丞が放てば、寄ってくる小鬼や狂骨達。
 その中でも強力な骨鎧に対して、銀丞は大きく踏み込んで、業物の太刀を一閃するのだった。
 小鬼や狂骨と違い、骨鎧はそれなりに強く、その一撃を受けつつも何度か切り結び。
 銀丞がそうして足止めを喰らうと同時に、他の下級アヤカシが攻め寄る。
「俺様の術、とくとご覧あれ‥‥なんてねぇ」
 しかし、そこで下級アヤカシを切り裂くのが好危の術の一撃だった。
 前衛が持ちこたえれば、後衛が術を使う余裕が生まれる。
 このように前衛と後衛、回復役がお互いに協力し合いつつ、耐えしのぐ。それが今回の基本戦術であった。
 アヤカシ達の頭である亡鎧を狙う仲間のための露払いとして、アヤカシ達の前衛を引きつける必要があるのだ。
 小集団で攻撃しては移動を繰り返し、包囲されないように立ち回る開拓者たち。
 もし、アヤカシ達が組織だった行動に長けていたのならば通用しないであろう作戦。
 だが、鬼や骨達を主としたアヤカシならばそうした組織行動が苦手ということを開拓者達は経験的に知っていた。
 ゆえに、こうした遊撃戦闘を行っているのである。
 そして、利点がもう一つ。
「確かに我々は組織だった軍とは程遠い烏合の衆‥‥」
 そう思うのは亡鎧に向かって一目散に駆け抜ける一団にある泰拳士の女性、嵩山 薫(ia1747)。
 アヤカシと同じく開拓者達も、そう言う意味では組織だった行動は苦手であると言えるのだが。
「‥‥けれども逆に、頭を潰されて崩れるという事も無いわ」
 そのとおりである。
 何十人で足並みをそろえて行軍すると言った能力は、開拓者に求められていない。
 それぞれが違う能力、違う装備を備え、ここの技を磨いた結果としてこの戦場に断っているのだ。
 彼らには、それぞれの経験と知識があり、それぞれが知恵を使って行動する。
 そして、互いに協力することも可能なのである。
「さて、開拓者なりの戦い方というものをお見せするとしましょう」
 薫はそう思いを断ち切って、他の開拓者達があけてくれた道を仲間と共に駆け抜けるのであった。

●戦いの連鎖
 轟と渦巻く火炎、小鬼や狂骨たちが炎にまかれ、あるいは怯えて逃げ惑う。
 紅蜘蛛が放った火遁は、狙い過たずアヤカシ達の足を止める効果があった。
 そして、すぐさま紅蜘蛛は逆手に握った小刀を振るいつつ戦陣を駆ける。
 一撃で敵を仕留める力が無いのならば、絡め手を使い生き残る、それが開拓者達の知恵である。
「‥‥か弱い乙女はこういう戦い方しか出来ないの。だから許して頂戴ね」
 そう微笑む紅蜘蛛、一度そうしてアヤカシ達が算を乱せば、そこには次々に開拓者の仲間達が殺到するのだった。
 アヤカシたち前線を担うのは、小鬼や狂骨であった。
 だが、その中には強力な剣鬼や骨鎧が混じる。
 炎の一撃に耐えた剣鬼は、刀を持ってずいと開拓者に迫るのだが、そこに立ちはだかる一人の影。
 剣鬼は、アヤカシに取り付かれた剣士のなれの果てであり、その技はアヤカシと化してなお衰えず。
 大上段から振るわれる鋭い一撃、だがそれを最小限の動きで身を捌いてかわしたのは仮染 勇輝(ia0016)だ。
 必殺の一撃を躱されて、一瞬体勢を崩す剣鬼、勇輝はそのがら空きの胴に一撃を放つ。
「‥‥天明流・旋風刃」
 相手の勢いも生かした交差の一撃にどさりと剣鬼はその身を沈めるのだった。

 だが、必ずしも開拓者達が優勢なわけではない。
 一対一であれば怖くもない小鬼とはいえ、開拓者一人で三倍の敵を相手しなければ行けない物量差があるこの状況。
 練達の開拓者といえども、攻撃をすべて裁けるわけでもなく、回避し続けるのも不可能である。
 致命傷を負わずとも、軽傷を負うことは必然であり、さらにそれが重なっていけば、動きは鈍る。
 足を打たれれば、素早い身のこなしを奪われ。
 腕を傷つけられれば、武器を握る手も地に滑る。
 そうなれば、待っているのは無残な死であるのだが‥‥。
「‥‥くっ」
 がくりと膝をつく開拓者は、手甲で敵を打ち据え戦場を駆けていた泰拳士の青年、屠龍(ia6236)。
 泰拳士の本領はその速度であるが、さすがに手数で押されたのか怪我が重なり、思わず膝をついたのである。
 そこに殺到する小鬼の群れ、だが、その小鬼は横合いから駆け付けた女性の一撃に阻まれる。
「ここは私が守ります。今のうちに一度下がって治療を‥‥」
 大薙刀を振るい小鬼を牽制するのは小鳥遊 郭之丞(ia5560)だ。
 ばらばらと逃げる小鬼を追い散らし、郭之丞は屠龍を援護しつつ退いて。
 退いた先にまつのは巫女、即座に手当をしてさらには神風恩寵で屠龍をいやしたのは華雪輝夜(ia6374)だ。
「私は戦えないけど‥‥出来ることはしておく‥‥」
 彼女を始めとして、仲間の回復が回復な巫女達の存在も開拓者達の優位であった。
 たとえ傷ついても、再び立ち上がることができる開拓者達。
「癒し手が無事ならば、数の不利は覆る」
 郭之丞が言うとおり、持ちこたえるためには巫女達の存在は非常に重要であった。
 アヤカシ達を一網打尽にする必要はない、持ちこたえ数を減らせばそれだけで周りの仲間が有利になる。
 そのために、傷を負いつつも開拓者達は共に助け合い戦うのだ。

 だが巫女達は、直接攻撃に晒されれば弱く。
 だからこそ、開拓者達はそれぞれの適正や能力に応じて、他人を助けるのだ。
 
「応援、してます。がんばっ、て」
 まだ幼いと言っても良いような年齢ながらも戦場に踏みとどまり味方を助けていた汐水 瑠音(ia1301)。
 そんな彼女の前に、狂骨が。
 乱戦と化した前線を抜けて到達してしまったようで、ゆらりと振り上げられた剣に小さく瑠音は息を呑んだ。
 だが、そこに飛び込む影。
「そうはさせね〜よ!」
 疾風脚で一足飛びに距離を詰め、拳の一撃は青い髪をなびかせた鷹峰 瀞藍(ia0201)だ。
 がしゃんと討たれてふらつく狂骨、武器を取り落としながらもその骨だけになった腕だけで瀞藍につかみかかる。
 だが、そうされてなお、瀞藍は拳を振るって狂骨の体に拳を叩き込めば、がしゃりと崩れる。
 どうやら、瀞藍は瑠音に接近した狂骨にいち早く気づき、即座に援護に向かったために間に合ったようで。
 だが、その代償として狂骨の骨の指によって腕や胸に浅く傷を負ったようであった。
「風の、舞。癒して‥‥‥いた、く。ない、ですか」
 それを癒すのは瑠音の舞、それに礼を言って瀞藍は微笑みを向けて。
「怯えなくていいぜ?‥‥だれにもあんたを虐めさせねぇ。一緒に頑張ろうぜ」
 その言葉に、瑠音はこくりと頷くのだった。

 まだまだ混戦は続いていた。
 シノビのみに可能な高速移動、早駆けを生かして戦場を疾駆する千見寺 葎(ia5851)。
 彼の手には、出立の前に里で手に入れた支給品の油があった。
 それを手に、敵陣にすこし入り込み、そこにいた大柄な鬼の油入りの容器をたたきつけ。
(火遁。僕の、ささやかな得手‥‥)
 内心の言葉と同時に、猛る火炎の一撃。火遁は狙い通り油に燃え移る。
 そのまま、身の丈以上の長巻を一閃。
 炎を前に、統制のとれていないアヤカシ達を狙い、血路を開く葎。
 そして、葎の金色の目に映ったのは、彼らが開いた血路を一気に駆ける仲間の姿。
 その戦闘には、老齢ながら敵陣を一気に貫いていく鬼限の姿があった。
 同じ開拓者として、育ちも年齢も、持てる技術も違いながら、葎は仲間達の姿に憧憬を向けるのだった。

●亡鎧に対して
 亡鎧の姿は、アヤカシ達の群れの中にありながら、よく目立っていた。
 その名が知られているとおり、亡鎧は巨大な鬼が鎧を纏った姿をしており、身の丈は他の鬼を優に超える。
 そして、その周りに従うように、普通な鬼もいて。
 そこに開拓者達の一団がまっすぐに向かっていた。
 それはさながらアヤカシ達の群れを貫く杭のごとく。
 他の開拓者達が前線を引きつけ、混乱させた結果、血路を開いて群れの首魁である亡鎧へと肉薄出来たのだ。
 だが、亡鎧は他のアヤカシとは違い中級と呼ばれる高位のアヤカシだ。
 魔の森の主となる上級のアヤカシほどの強さは無いとはいえ、それ一匹で小さな里なら滅ぶであろうその脅威。
 それは、亡鎧を狙う開拓者達にもひしひしと感じられていた。
「ぐぅぉおおおおおおおお!!!!!」
 開拓者達の接近に気づいた亡鎧は、咆哮と共にその大きな刀を離れた場所から振るった。
 その一撃は、風の刃を生じさせ、それは真っ向から開拓者の一軍へと襲いかかる。
 だがその刃に身を躍らせる姿、風雲・空太(ia1036)だ。
 どんとまるで直接、大刀で切りつけられたような衝撃を受け血がしぶく。
 だが、空太は踏みとどまり。
「‥‥漢なら、多少の傷は覚悟の上! 見せてやろうぜ、人間の力ってやつを!!」
 ぶぅんと手にした長槍を振るって、怪我を負いながらひるまず。
 まずは、亡鎧の周りに群れている剣鬼や骨鎧に打ってかかっるのだった。
 もちろん、空太の怪我をそのままにしておくわけではなく、即座に味方の援護が飛ぶ。
「まってて、今癒すからっ!」
 怪我を負ったまま、骨鎧を相手にしていた空太に、癒しの風を送ったのは歌奏。
 そのまま、さらに神楽舞によって攻撃力を強化すれば、あっというまに空太は目前の敵を打ち倒し。
「よし、もう一体、やっかいな護衛を片付けてやるぜ!」
 全身のバネを生かし、まるで獣が獲物に襲いかかるかのごとく長大な槍をキバとして飛びかかる空太。
 その一撃の勢いには、刀を手にした剣鬼も押されまくるのだった。
 亡鎧に肉薄するためには、周囲を固めていたアヤカシ達が邪魔となったようで。
 接近した開拓者の一軍にとって、時間がかかればかかる程、仲間の開いてくれた血路が塞がり死活問題となる。
 腕利きをそろえた亡鎧狙いの一隊といえども、数の暴力には屈してしまうだろう。
 だからこそ、まずは周囲を固める護衛の排除が重要なのだ。
 そして、ここでも開拓者達はそれぞれの役割を把握し、まるで示し合わせたかのように協力し合っていた。
「考は冷く、体は軟く、技は疾く、心は熱く!」
 鞘走り閃く刃は護衛の骨鎧の腕を斬り飛ばす。武器おろか腕を失った骨鎧は苦し紛れに体当たり。
 だが、それすらもひらりと良ければ返す刀で、護衛の骨鎧を切り倒し、亡鎧へと肉薄したのは紅(ia0165)だ。
 近づいて、改めて分かるその迫力。文字通り鬼気迫るその巨躯は、見るからに強固であった。
「ゆぅにできる、少しの‥‥お手伝いや」
 紫焔 遊羽(ia1017)による援護を受け、剣鬼に対峙していたのは鬼限だ。
「忝ない。ならば、こやつの相手をいつまでもしているわけにはいかんのう」
 武器を構える相手に対して、鬼限は拳を構え、まるで蛇のように向けた手と揺らぐ体は蛇拳の構え。
 剣鬼が襲いかかってくるその瞬間、絡め取るように腕をとらえると、刀を振らせずに打ち倒し、拳の一撃。
 護衛の剣鬼を打ち倒した鬼限と遊羽も亡鎧のもとへ。
 いよいよ亡鎧を狙う開拓者の一隊は、敵アヤカシの首魁のもとへと肉薄した。
 開拓者達に残された時間は少ない。
 時がかかればかかる程、彼らの生還は難しくなる。
 ここが正念場であった。

●混沌の戦場
 組織だった行動をしないアヤカシ達。
 ゆえに亡鎧に開拓者達が到達したといっても、それを援護に向かうといった行動を取るものは少なく。
 多くの小鬼や狂骨たちは、目の前の開拓者に向かうだけなのだが。
「きっと時間を稼げば、彼らが亡鎧を討ち取ってくれるはず‥‥」
 陰陽師ながら白鞘を手に、小鬼を切りつけているのは孔成(ia0863)だ。
 亡鎧に向かった仲間を援護するため、白鞘での攻撃以外にも陰陽師である彼は術を放ちアヤカシを引きつけていた。
 同じように、片手に刃、片手に呪符といった姿で戦場を駆けているのは霧崎 灯華(ia1054)だ。
 呪符を放てば、進路上の骨鎧に赤い雷が直撃し、そこを駆け寄ると短刀で一撃。
 敵の攻撃で傷つけば、自らの血に染まりながらも笑みを浮かべ、赤い蛇として現れた式で敵から生命力を奪う。
「キャハハハ、この程度? もっと楽しませてよ」
 笑みを浮かべたまま、彼女はさらに戦場を進むのであった。
 彼女のように、幾度も戦場を越えて戦う術を確立している開拓者達が居る一方で、まだ未熟な開拓者もいた。
 だが、まだアヤカシとの戦いを経験したことがなくとも、開拓者の力は必要で。
 そういった開拓者達はお互いに協力し合ってこの戦場で生き延びていた。
「‥‥危ない!」
 狂骨の刀の一撃をがっきと受け止めたのは北里 巴(ia1190)。
 薙刀で、狂骨の一撃を受け止めたまま、手を返しつつ敵の武器をはじくと今度は一撃を見舞って。
 彼女が守ったのは ゼロ(ia1165)だ。
 巫女ながら手に鉄爪を装備し、小鬼と対峙していたその背後を突かれたようだ。
 ゼロは、巴よりもさらに小さな少女で、みればまだ10ほどにしか見えず。
 しかし、彼女たちはその年齢にかかわらず開拓者なのだ。
 たしかにまだ経験は少ないかもしれないが、その不足は協力し合い補って。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です、まだまだ敵をぶん殴りまくりです。ぱこぱこぽこぽこぽこ〜〜んですよ」
 疲れた様子ながらそう意気込むゼロの言葉を聞いて、巴も薙刀を構えなおし。
「そうですね、まだまだ持ちこたえないと」
 そういって、二人は再び混乱する戦場へと身を躍らせていく。
 そしてその二人の前を疾駆するのは狐の仮面を纏った黒い影だ。
 ぴたりとした黒装束の上からでも目立つ豊満な体つきのシノビは魅影(ia5366)。
「私の力は微々たるもの。それでも、お力になれるなら全力で勤めまする」
 そう告げる彼女が放つのは手裏剣と苦無だ。
 魅影がそうやってアヤカシ達の隙を作れば、ゼロと巴たちでもその隙を打つことが出来るもので。
「ありがとう!」
「いいえ、礼には及びませぬ。アヤカシ達にはここで朽ちていただきましょう」
 ゼロが上げた言葉に対して、狐面を向けて頷くと、三人はさらにすすむのだった。

「常に放つ一撃は‥‥僕の『今』を示す矢となる‥‥必中の一射‥‥穿つ!」
 遠方から飛来する矢は小鬼を見事に射貫く。
 まだ数は少ないながら、前衛の開拓者達を助ける射手、弓術師たちの矢は確実に前衛の開拓者達を援護していた。
「‥‥大丈夫か。危ないところだったな」
 矢を放ったのは夕羅樹 仙(ia5419)、助けられたのはギアス(ia6918)だ。
 仙のような弓術師が活躍するためには、接近されないための前衛が不可欠で、それを助けるのも後衛の仕事。
 遠方から周囲を伺えば、本人が気づいていない周囲の敵にも気付くようであった。
 だが、接近されたときが弓術師の弱点。
 地面に伏せていたのか突如起き上がって、ギアスの所へと近づいた仙に襲いかかったのは骨鎧だった。
 あわやその刃が仙をとらえるかと思われたその時に、放たれたのは術の一撃だった。
「今だよ!」
 三日月(ia2806)が放った力の歪みに体勢を崩され、骨鎧の一撃はかろうじて仙から逸れた。
 その隙を逃がさず骨鎧へと打ちかかったのは珈琲(ia6925)だ。
 鉄牙を装備した両の手で、右左と連打を放てば、ギアスも借りを返すとばかりに長脇差を振るう。
 炎を纏ったその一撃に鎧を持った骨鎧も痛打を受けたようで。
 さらに追撃した珈琲の連打に骨鎧は物言わぬ骸と化すのだった。
「すまない‥‥借りが出来てしまったな」
 そういう仙に、ギアスは、
「俺も助けられたからな、これで貸し借り無しだ」
 そう告げて紫の瞳を細め、笑みを向けて。
 そこに、駆け付けて無事な一同をみやってホッと一息ついたのは三日月。
「みんな大丈夫だった? ‥‥無事、戻れたらみんなに美味しいご飯を御馳走してあげるよ」
 だから、もう一踏ん張りだね、という三日月に、彼らも頷いて答え。
 そして戦場にあって、目立つ亡鎧に目を向ける珈琲。
「‥‥ああ、もう少しだな」
 その視線の先には、亡鎧へと果敢に攻めかかる仲間の姿があった。

●決着
「今こそ反撃の時! この地に再び精霊と人々の安息を取り戻そうぞ! いざ、我等に武神の加護やあらん!!」
 刀を掲げ、凛とした声で高らかに告げたのは皇 りょう(ia1673)だ。
 真っ向から巨躯の亡鎧へと向かい合う彼女の防具には青い燐光がともっていた。
 受け流すためにその身を、亡鎧の攻撃にさらす覚悟なのだ。
 幾度も死線をくぐって磨き上げたその技、だがしかし。
 一つ間違えば、敵の刃が我が身を抉るかもしれないその恐怖は如何ばかりだろう。
 しかし、開拓者ならば誰もが抱くその恐怖を支えるものがある。
 それは、彼ら開拓者が、その身を賭して守る仲間であり、里であり、人々であった。
 アヤカシと正面切って戦えるのは開拓者達だけである。
 ならば、彼らはここで退くわけにはいかない。
 たとえ死の恐怖に怯えても、傷の痛みに挫けても、また立ち上がり前に進まなければならないのだ。
 いまだ終わりの見えない大きな戦乱の中で、今回の戦いがどれほどの役割を果たすのか、それは分からない。
 だが、開拓者達は負けるわけにはいかないのだ。

 風切る音が響くほどの豪腕で振るわれる刀の一撃。
 それはまっすぐにりょうへと向かって振るわれた。
 分厚い鎧に被われた亡鎧からすれば、歴戦の開拓者といえど個々の力でいえばまだまだ不足。
 ならば優々と一匹ずつつぶしていけば、いずれ動くものは居なくなるはずだった。
 だが、そんな思惑の元で刀を振るったためだろうか、死角から足下に攻撃を仕掛けてくる姿に気付くのがおくれた。
 刀を振るう瞬間、近づいていた鬼限の拳が鎧の上から亡鎧の足を強打。
 わずかに、ほんのわずかにぶれた剣先、それをりょうはかろうじて受け流す。
 刀を振り切ったその瞬間、それは一瞬の好機だった。
 武器を振り回す亡鎧に近寄るのは至難であり、その一撃を受ければ開拓者といえどもタダではすまない。
 だが、その一撃が振るわれた後の瞬間、それは数少ない無防備な状況で。
「お〜にさん〜こ〜ちら〜っと!」
 その隙に、亡鎧の頭を狙って放たれたのは手裏剣。
 鎧の隙間を狙うが如きの精妙な技で放たれた手裏剣はまっすぐに亡鎧の顔へと向かった。
 放ったのは北風 冬子(ia5371)だ。
 人の限界を遙かに超える巨躯の亡鎧を前に、恐怖が首をもたげそうになるも、仲間達の姿がそれを押しとどめ。
 アヤカシ達に、開拓者の力を見せつけてやるんだから、と強く願うその思いはさらに手裏剣の一撃に。
 亡鎧は、その攻撃に気を取られた。
 刀を振り切っては居ても、その身は分厚い鎧に守られている。亡鎧にはそんな油断があったのかもしれない。
「ここっ!」
 機を見て、動いたのは薫だ。
 亡鎧の側面を取ると、放ったのは空気撃だ。
 それを渾身の力で放つ薫。その意図は単純、亡鎧の体勢を崩すことだった。
 亡鎧はその身を被う鎧とともに、その巨躯も脅威である。
 だが、その巨体といえども体勢を崩してしまえば、それはむしろ亡鎧の不利となるだろう。
 この隙を逃がさないとばかりに、渾身の力ではなった空気撃は見事に直撃。
 がくりと亡鎧は膝を折って、地面に膝をついた。
 もちろん、その隙を逃す開拓者達ではなかった。
「みんなで作ったこの好機‥‥! 絶対活かすよ!!」
 側面に回ったのは赤マント(ia3521)、速度を活かして回り込めば、膝をついた亡鎧に対して、腰を落として構えて。
 泰拳士に伝わる技、泰練気法によって自らを覚醒状態に。
 そして回避を犠牲にしつつも、強打を二連、牙狼拳を放つ。
 鎧は厚い、だがこの亡鎧はその名の通り鎧がその本体である。
 その鎧に向けて渾身の力で放たれる二連撃に亡鎧は苦しげな咆哮を上げ。
 だが、そのままその場所で亡鎧を釘付けにするとばかりに放たれたのは力の歪み。
「逃がさせんよってなぁっ!」
 遊羽はそのまま神楽舞でさらに前衛を強化すれば、怒濤の攻撃は続き。
「ここで一気に仕留めるわよ!」
 薫は気功波を放って、亡鎧の弱点である非物理攻撃を放ち。
 正面で一撃をかろうじて躱したりょうは、武器からも青白い光を立ち上らせて、亡鎧に肉薄。
 霊力を帯びさせた武器の一撃は膝をついた亡鎧を袈裟懸けに一撃、ぐらりとぐらつく亡鎧。
 そこに追撃したのは、冬子の手裏剣、紅の居合いの一撃、そして鬼限の拳の連打だ。
 それは一瞬の出来事だった。
 刀を振るった亡鎧が次の瞬間手裏剣を受け、膝をつき。
 そのあとほとんど同時に開拓者達の連続攻撃の餌食となったのだ。
 開拓者にとっては、無限にも思えるような一瞬の後、そのまま亡鎧はがしゃりと崩れ落ちると瘴気へと化して。
「‥‥亡鎧、討ち取ったり!!!」
 紅をはじめとして、開拓者の口をついてその歓声は声高らかに叫ばれたのだった。

●戦いの終わり
「こちらへ!!」
 目的であった亡鎧を倒すことは成功した、だがアヤカシの大半はまだ無傷だと言って良いこの状況。
 まだ戦いは終わったわけではなかった。
 声と共に矢を放ったのは天月 遠矢(ia5634)だ。
 すらりとした痩身の彼が矢を放ち、アヤカシ達の気を引いて、
「ほらほら、余所見なんて良くないですよ?」
 亡鎧を討ち取った開拓者達のために再度、逃走路を作ろうとしていた。
「こうなれば生きて帰らないといけませんね。ここまできてやられたくはありませんし」
 矢吉(ia6013)も同じく鋭く矢を放つ。
 こうした撤退の場においては、遠距離攻撃は重要である。
「ここは通しません」
 同じように手裏剣を手にした藍黒龍(ia6810)もそれで援護をすれば、なかなかアヤカシ達も進むことが出来ず。
「数が多いですが、これならばあと少し、耐えるくらいの事はできるでしょう」
 巫女達を背に、まだ攻め寄るアヤカシ達を呪符で牽制しつつ、開拓者達を目で追うのはアルネイス(ia6104)。
 放った呪縛符は、まさしくこうした足止めに向いた技であり。
 すでに戦局は最終局面、どの開拓者もここで最後とばかりに技を温存せずに最後の反撃へと移っていた。
「あと少しです。ここは任せて!」
 ダーツを放って、退く仲間の後ろに迫っていた小鬼を牽制した炎鷲(ia6468)。
 そしてそのまま、殿に付くと、刀で敵の攻撃を受け流し、反撃を加え。
 円陣を組むようにして開拓者達は集まり、攻め寄るアヤカシ達を迎え撃ちながらばらばらに退却にかかっていた。
 アヤカシの群れの頭であった亡鎧はすでに倒され、指示系統は壊滅。
 そのなかで追いすがってくるアヤカシ達もまばらとなり、開拓者達はなんとか全員無事に退却を成功させたのだ。

 のこったアヤカシ達の数はおよそ半分強といったところだろう。
 だが、もっとも強力なアヤカシであった亡鎧は完全に討ち取られ、また強力な剣鬼や骨鎧の多くも倒されたようで。
 残ったアヤカシたちはすでに組織だった行動は出来ないだろう。
 もちろん放置することは出来ないが、危険度は格段に下がったと言えるはずである。
 となれば、あとはまたの機会の討伐となるわけで。
 開拓者達は満身創痍ながらも、里を襲うアヤカシの一軍を止めることに成功したのだった。
 それも、一人も欠けることなく。
 となれば、今回の依頼は大成功であるといえるだろう。
 まだまだこの戦乱の終わりは見えていないものの、開拓者達は確かにアヤカシへと反撃を加えたのだ。