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■オープニング本文 「そういえば、紹家村が資材家財丸ごと、轟拳に乗っ取られたという噂があるんですけれどー」 その一言に、激震が走った。 その言葉を発したのは開拓者ギルドの窓口となって居る泰国人少年・孔遼。 蒼旗軍を指揮するガランに清璧派後継者の綾麗は、協力者である商人の鷺・俊麗と付き人のからくりツバメ、泰拳士の開拓者・岳陽星と共に、香春関領主の館で対策を練っているところだった。 「そのような話、未だこの関に届いてはおらぬが」 領主の程灰零が事実ならば一大事と配下を呼ぶ間、一同の詰問を受ける孔遼。 「それが本当なら何故まず言わぬのじゃ!」 「紹家村と言えば紹鰐という文武に長けた御人の村では……それに村の人々はどうなったのですか?」 「今時分は屋敷に山と積まれた穀物が……八極轟拳はたっぷりと兵糧を手に入れたと言うことになるねぇ」 ガランが怒り綾麗は心配げに聞き、シュンレイは参ったわねぇ、と腕を組んで。 「いっぺんに言わないでくださいよー僕だって、くる途中の村で、逃げてきたって言う人にちらっと話聞いただけなんですから」 「……しかし、兵糧、ねぇ……」 シュンレイは何かを思いついたかのようににぃと笑って口を開くと。 「それ、そっくり盗み……もとい、取り返してあげるってのはどう? お礼に半分……いや、何割かは貰えるかもしれないわよ? ひょ・う・ろ・う☆」 名案でしょとばかりに笑うシュンレイに綾麗はあっけにとられたようで。 「そ、そんな弱みにつけ込むような……」 「ま、まぁ、奴らの本拠に食料など資材が運び込まれれば面倒だからの、かといって焼き払うというのはおぬしの心情的にできぬ。それならば、運び出してしまうのは一つの手だの」 紹家村の人達が村を取り戻すにしろ、倉庫に堆く積まれた食料などを使われれば苦戦するものだと言う説得に、綾麗は渋い顔をして居るのだった。 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ライ・ネック(ib5781)
27歳・女・シ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ● 八極轟拳は危機を感じていた。 そもそも、八極轟拳は巨大な組織だ。 力こそ全てと標榜する轟煉の元に集った拳士たちの組織であり、一枚板ではない。 技と力に秀でた者が幹部として名を成して、部下を連れていたりはする。 しかし彼らはなにか八極轟拳としての、決められた目標があるわけでは無いのだ。 力をただただ振るうための集団。 有る集団は、さらなる技や力を得るため。 有る者は、ただただ暴力を振るって自分の我を通すため。 そんな八極轟拳が危機を感じていた。 幹部が大勢倒された。相手は開拓者だ。 その結果開拓者が強敵だとは認識されたようだ。 だが、弱い奴が敗れるのは自然の摂理。はじめは気にされていなかった。 単に開拓者に敗れた幹部が弱かっただけ、そう思われていたのだ。 だが、幾人もの幹部が倒れされた。 さすがに、八極轟拳もそのことには動きを見せた。 八極轟拳に刃向かう開拓者を倒せば、幹部に取り立てると言い放ったのである。 だが、それからも開拓者達は八極轟拳の敵であり続けた。 有るときは八極轟拳に虐げられる弱者のために。 また有るときは、正義を信じる拳士のために。 そしてその結果、ついには八極轟拳に虐げられていた拳士たちが立ち上がった。 八極轟拳に対抗し、闘うために起った拳士の連合、蒼旗軍だ。 そこには多くの拳士たちが加わり、そして他の門派も動きを見せる。 八極轟拳と因縁浅からぬ、仁義を重んじる守りの流派、清璧派。 二つに割れた門派を救った開拓者達に恩義を感じる渦山派。 蒼旗軍のまとめ役、閃翻拳の掌門のガランとその門人たち。 そして対に開拓者と蒼旗軍は、大きな行動にでた。 八極轟拳が拠点を移した虚を突いて、本拠地に向かう重要拠点の関を陥落させたのだ。 さらに続いて、巨大な監獄であった要塞、鬼哭塞を奪取。 これによって蒼旗軍は一挙に戦力を拡充し、拠点を手に入れたこととなった。 ここまで来ればあとは決戦が待つだけだ。 その時を前にして、重要なもの……それは後方からの支援である。 八極轟拳は、国を作らない。なぜなら人々から奪えば良いからだ。 恐れおののく人々を働かせ、鉱山を掘らせ、家畜のようにこき使う。 そして、いざとなれば力に任せて奪い取れば良い。 対する蒼旗軍は、すでに仁義を通し多くの商人たちにつなぎを付けていた。 義侠の女商人シュンレイもその1人だ。 そのため後方支援においては蒼旗軍は遙かに優位にあったのだ。 そこで、八極轟拳は暴挙にでた。 豊かな紹家村を、長であるショウガクが不在の好きを狙い、占領したのだ。 残された時間は少ない。 山と積まれた豊かな収穫物が八極轟拳の本拠地・瑞峰へと運ばれてしまえば危険だ。 戦力においてはわずかに劣る蒼旗軍にとっての、優位が失せてしまうのだ。 そのため、今回は開拓者達が、八極轟拳の野望を阻止するために行動を開始したのだ。 ● 「ウッキッキー!」 「なんだ?! ……ちっ、猿か」 村を占領した八極轟拳の雑兵たちは緊張していた。 それは幹部候補の3人組が今回の作戦の主導者なのにも関わらず、不安が大きな作戦だからだ。 仮に成功すれば、大きな出世が見込めるのだが、失敗すれば命はないだろう。 そんな綱渡りの作戦に参加しているので、警戒もいつも以上。 だが、どうやら今屋根の上を飛び回っていたのは単なる猿のようだった。 茶色い毛皮や尻尾も見えたし、変な痕跡があるわけでもないし……。 そんな風に上を見上げていた雑兵の横をするりとすり抜ける、透明な人影があった。 わずかに空気が動いたが、猿のせいで雑兵は気付かない。 潜入したのは秘術・影舞を使ったライ・ネック(ib5781)だ。 警備体制を把握して、着々と情報を得ていく。 そして彼女は発見した。 「……こんなものまで持ち込んでいたんですね」 見付けたのは、火付け用に用意された柴の山だ。 どうやら八極轟拳はここから兵糧を運び出したあと、火を付けるつもりだったようだ。 その場所と、量や配置。移動経路全てを頭に叩き込みながら、またしてもするりと姿を消すのだった。 それを屋根の上からじっと見る猿が一匹。 もちろんそれは猿では無かった。リィムナ・ピサレット(ib5201)が術で姿を変えているのだ。 豊かな村である紹家村を見て回る偵察役は、なんとこのリィムナとライの2人だけだった。 幹部が3人控えるこの場所を、果たして2人で間に合うのか? そこで2人は手分けして事に当たったのだ。 攪乱役のリィムナ、術で猿に見えるように偽装して注意を引く。 その間に姿を消したライが潜入して情報を集める。 同時にリィムナも村中を見て回り、人質の有無や人員配置を探る。 たった2人だが、この2人は全くその存在すら悟られずに村の隅々を調査し得たのである。 ならば優れた開拓者の2人、十分に情報を集め終えて。 そして、2人は遠くからやって来る飛行船の姿を静かに見つめた。 時間は十分間に合った。そして情報は十分に集まった。 後は、仲間が戦いの始まりを告げるだろう。 紹家村の近くに身を潜めた2人は、ただ静かに仲間を信じて待つのだった。 ● 村の近くの小高い丘で、遠くを見つめる小さな瞳。 真っ青な瞳をぱちくりと見開いて、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)は飛行船を見つめていた。 距離、十分。時期、丁度。ならば今こそ出発の時だ。 布と草で地表に偽装していた滑空艇が呻りを上げて、隠蔽工作を吹き飛ばしルゥミを乗せて空へ。 彼女の師であり育ての親の綽名を冠した愛機、それが真っ直ぐに飛行船へと突き進む。 「はっきょきゅごーけんてのは悪い奴だね! あたいがまとめてどかーんしちゃうよ!」 高らかにルゥミは告げて、手にした大筒でぴたりと狙いを付けるのだった。 そして風のような速度で突き進む滑空艇を追って、二匹の竜が姿を現した。 「頼んだぞ相棒」 緋桜丸(ia0026)の呟きに、首を一振りして応える轟龍の華龍王。 「詳しィ事は分かンねェが、要はあの船とクソ共をブッ潰せばイインだろォ? 行くぜぇ火之迦具土!」 鷲尾天斗(ia0371)の咆哮に、咆哮で応える轟龍の火之迦具土。 奇しくも同じ轟龍二匹が、その主を乗せて飛行船へと一直線に飛んでいくのだった。 たった三機、普通なら武装も積んだ中型船を落とせようも無いはずだ。 だが、この三組、ただものではなかった。 先頭を飛翔するルゥミ、気付いたときにはもう遅かった。 対空砲火を放つ間もなく、彼女は船に接近。ぴたりと狙いを付けた大筒の一撃ががつんと船を貫いた。 信じがたいことに、それだけで船は装甲に大穴を開けて、煙を噴いた。 凄まじいのは彼女の火砲の威力だ。 ここでようやく自体に気付いた船の乗組員たち、次々に矢を気功波を、そして精霊砲で反撃を開始。 ルゥミ1人に対して、信じがたいほどの反撃だ。 普通なら、軍船まがいの中型船の対空反撃を受けたら、滑空艇の一機ごときすぐに落ちてしまうはず。 だが、ルゥミには掠りもしなかった。 そして、そこに轟龍が二匹突っ込んできた。 すぐさま反撃の砲火が轟龍たちを狙って放たれる。 だが、1人は涼しい顔で、相棒に身を任せた。 緋桜丸は、相棒の華龍王を信じているのだ。彼に任せれば砲火など恐るるに足らず。 そしてもう一人の天斗。こちらはひたすら吼えていた! 「やっぱイイなァ! 派手な砲撃って言うのはよォ!」 ゲラゲラと砲火の中で笑う天斗、それにあわせて楽しそうに吼える火之迦具土。 そんな二人と二匹は、砲火の中を突っ切って、なんと船の上甲板へと降下していくのだった!! 巨大な弩、発車直前にルゥミの火砲が射手ごと吹き飛ばして沈黙。 強力な矢を放ち迎撃しようとしてくる八極轟拳の雑兵たち。 そこに向かって2匹の轟龍は、炎を吹き付け、さらには炎龍突撃。 炎を纏った轟龍2匹は、そのまま上甲板に着地、蹴散らしながら着火、すぐさま飛び立つ。 そして、炎に巻かれる上甲板には、二つの人影が残った。 「さて、盗んだ物はきっちり返してもらわないとな」 片手に剣、片手に短銃を構えた緋桜丸は、黄金の瞳に炎を写しながら隣の天斗にそう言うと、 「まァ、イキナリの奇襲で三下程度ならビビるっただろォなァ」 魔槍砲を肩に乗せた天斗は、げらげらと笑うばかり。 「……おいおい、やり過ぎは勘弁してくれよ? 船と一緒に大爆発とかは嫌だぜ」 「ああん? 詳しィ事は分かンねェが、要はこの船とクソ共をブッ潰せばイインだろォ?」 「そこに俺や自分自身を巻き込むな、ってことだよ」 「あいあい、了解だぜェ小隊長殿……さァて、俺に斬られたいヤツは何処だァ?」 「……まったく、お前の尻ぬぐいは……ま、なるべくしてやるよ。なるべく、な」 そして緋桜丸は短銃を即座に構えて炎の向こうに一発、忍びよって拳士を射貫くのだった。 「ちくしょう! たったの二人だ!! すぐぶち殺して船を立て直すぞ!」 吼える八極轟拳の船長。おそらくは腕に覚えのある拳士なのだろう。 だが、彼が次の言葉を呟く前に、彼にむかって真っ直ぐ天斗が歩み寄っていた。 慌てて飛びかかる八極轟拳の雑兵、魔槍砲で一撃。 後ろから忍び寄った八極轟拳拳士、槍で受け止められて蹴り飛ばされて、そこを火之迦具土が炎でこんがり。 そして船長の前にどっかり仁王立ちした天斗はじっと品定めをして…… 「ちっ! 三下かよォ! これじゃあ欲求不満だぜェ?!」 「なっ!! この俺を三下だと?! 我が奥義を喰らっ……」 「ああ、うるせェうるせェ。とっとと死んどきなァ」 船長が動き出そうとした瞬間、すでにその胴体には天斗の魔槍砲が突き刺さっていた。 そしてそのまま砲撃。船長ごと甲板に大穴を開けてますます船は制御不能に陥った。 「オイ! 天斗、あんまりポンポン砲撃するな! こっちに当たるだろ!」 「お? なんでそんなところにいたんだ?」 天斗がぶちあけた大穴の下に居たのは緋桜丸だ。 「お前が大暴れしてる間に、浮遊宝珠や機関をぶっ潰してたんだ。さ、さっさと脱出するぜ」 「おうおう、流石は小隊長殿だァ、気が利くねぇ……じゃ、いくとするか!」 そして二人は船の甲板から飛び出した。 浮上しようとしていた飛行船は地上より大分高いところへと飛び上がっていた。 そこから身を躍らせた二人、すぐさま轟龍たちが二人を受け止める。 死につつ、反撃の精霊砲を討ってくる飛行船に、轟龍の上で二人は剣と魔槍砲を構えて、 「文字通り、さっさと沈めぇ!」 「騎乗した砂迅騎に敵うと思ったか、阿呆がァ!!」 再度の炎龍突撃に砲撃と斬撃、竜骨をへし折られた船はみしみしと音を立てて……。 そしてそこに無慈悲な一撃が空から降ってきた。 「これで終わりだよ! ルゥミちゃん最強モード!」 可愛らしい声とともに、飛行船の機関部を貫通したのは巨大な火砲の一撃だ。 上空で援護に徹していたルゥミ。 緋桜丸と天斗が対空砲火を潰したので、対に狙いを付けて一撃必殺。 船は再起不能な損害を受けて、大爆発とともに湖に墜落するのであった。 ● それを八極轟拳の面々は見ているしか無かった。 飛行船がやってきたので迎えに出たら、それに襲いかかる三騎の開拓者。 すぐさま打ち落とされるだろうと思いきや、沈んだのは自分たちの船だ。 その光景は信じられなかった。 だが、遠くからでも感じる爆炎の熱を受けて、彼らはやっと気付いた。 どうやらとんでもない相手を敵に回しているのだと。 だが、気付くのすら遅かった。 逃げようとする者、作戦従って紹家村に火を放とうとする者。 動き出そうとしたときにはもう遅かった。 響き渡った呪声はリィムナの相棒の人妖、エイルアード。 怯んだところに、 「ウッキッキー!」 楽しそうに飛び出てきた猿……が放ったのは陰陽師の術・黄泉より這い出る者だった。 血反吐を吐いて崩れ落ちる拳士たち。 さらに、風を鋼線が切り裂いて、次々に八極轟拳の拳士たちに襲いかかっていった。 ライの鋼線は、火を放とうとする拳士たちの腕を切り裂いて火種を消し飛ばす。 松明も斬り飛ばされて、さらには柴の山がすでに水浸しに……。 「ぬかりはありません」 そうとだけライは言うと、奔刃術で走り出しながらさらなる残党をかり出すのだった。 たった10人しか居ない八極轟拳の残党たち。 逃げ隠れするものにもライの優秀な相棒がその場所を探し出していた。 相棒は鍛え抜かれた忍犬、闘鬼犬の隠だ。 その相棒が、全ての火薬や油の場所を暴いていく。 ライと隠の協力によって彼らはあっという間にかり出されていくのだった。 戦いの趨勢は決した。 開拓者の実力の余り、八極轟拳はなにもすることが出来なかったのだ。 もし、偽装工作を怠っていれば、飛行船に発見されていたかも知れない。 また、火への警戒を怠っていれば、村が燃えていたかも知れない。 その両方を警戒した開拓者達の作戦勝ちだと言えるだろう。 そして幹部の3人は、逃げ出すことを決めていた。 このままでは勝てるはずが無い。逃げても、八極轟拳に戻れないだろうが……逃げるしか無い! そう考えた3人の幹部は、それぞればらばらの方向へと逃げだそうとした。 雉を字としたチヨク、彼は個人用の滑空艇を隠し持っていた。 村の裏手に回り込み、乗り込んで始動。飛んで逃げようとしたところで。 「逃がさないよ!」 空からの一撃はルゥミ。飛び出そうとした滑空艇の機関部を打ち抜いて撃沈。 転がり落ちるチヨク、ごろごろと地面を転がりぼろぼろになった彼の前には猿が一匹。 さすがに違和感に気付いた時にはもう遅い、黄泉より這い出る者が即座に彼に食らいつくのだった。 崩れ落ちたチヨクを前にリィムナは術を解除して。 空をぐるりと廻る同世代の仲間に、ふわりと顕れた相棒の人妖と一緒にぱたぱたと手を振った。 狗を字としたクガ。彼は森へと逃げ込もうとしていた。 泥臭い戦いが彼の真骨頂、森へは誰も追いつけないだろうと走る彼の足に銃弾が貫く。 正確無比な弾丸に、血相を変えてクガが振り向くと、遠くで炎上する飛行船を背景に緋桜丸がたっていた。 「……けっ! だがタダじゃ死なねぇぜ!!!!」 クガは死を悟りつつ、悪あがきをした。背中から短い槍を抜き放ち投擲。 毒がたっぷり塗られた槍が緋桜丸めがけて飛来する。 それと同時にクガは打ち抜かれた片足の痛みを無視して、緋桜丸に飛びかかった! 必殺の二段攻撃の成功を信じて疑わないクガ。 だが、槍はなんと空中で細切れに、鋼線が短槍を斬り飛ばしたのだ。 さらに飛び散る毒液を隠の咆哮烈が薙ぎ払う。 ライと隠が影から緋桜丸を援護したのだ。 それに気付いたクガ、だがもう遅かった。緋桜丸はすでに剣と銃を抜いている。 剣が一閃して、同時に銃声が一発。緋桜丸はあっさりと幹部を倒して、 「やあ、助けてくれて有難う、お嬢さん」 紳士的に一礼して、ライにきょとんとした顔で見つめられるのだった。 そして最後の一人、エンソウは何も考えていなかった。 逃げようとしても、大柄で力自慢だが鈍足の彼には逃げる手段が無い。 ならば一人でも道連れにしよう、そう考えて彼が歩いて行くと…… 「お前が此処の纏め役かァ? ってェ事は手柄首だろ!? なァ、お前大将首だろォ!」 戦いの狂気に彩られた、天斗が彼の前に立ちはだかった。 ごう、風を切って魔槍砲が旋回して、空に向かって砲撃一発。 「だからよォ、首置いてけやァ!」 その咆哮と同時に、天斗はエンソウに襲いかかった。 エンソウは、決死の覚悟で両手の爪で迎え撃つ。 だが一撃二撃、かるく合っただけで彼は実力の違いを感じていた。 武名を馳せたエンソウ。だがその武名は所詮井の中の蛙だったのだ。 次の打ち合いで、エンソウは右手を斬り飛ばされた。 うしろに吹っ飛ばされてかろうじて踏ん張ったエンソウ。 彼が最後に見た光景は、呵々大笑しながら一直線に突っ込んでくる天斗の魔槍砲、その穂先だ。 そして爆音が響いて、 「首とったぞォォォ!!」 天斗の声が全ての終わりを告げたのだった。 兵糧は無事取り戻された。 紹家村は無事に住人たちに引き渡されて、恩義を感じた紹鰐は蒼旗軍への協力を約束。 代わりに蒼旗軍は人員をこの紹家村に配することとなって、さらなる結束を固めたようだ。 |