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■オープニング本文 空に浮かぶ世界、天儀。 あまたの冒険と伝説に彩られた世界。 様々な不思議、未知の遺跡、恐ろしい敵。 だが、問題はもっと身近にも転がっている。 遠くから聞こえる遠吠え。 毎夜毎夜、響き渡る獣の声にその村の住民は神経をすり減らしていた。 村には獣よけの柵があり、夜には家々の戸が厳重に閉ざされる。 しかし、音を遮ることはできないのだ。 故に、毎夜毎夜森から響く遠吠えに村人達ははっきりと恐れを感じていたのだった。 しかし、村人たちに遠吠えを止める術は無かった。 少しずつ村を広げ、山野を開拓してはいても、まだまだ森は広大で。 迷い込めば命すら危うい場所、そんなところにおいそれと踏み込めるものではないのである。 しかしある日、村で農耕用に飼われている一頭の牛が、無残な姿で発見された。 夜間、村はずれの小屋につないであったその牛は鋭利な牙と爪をもつアヤカシに襲われたのだろう。 牛が襲われるなら、いつその牙が人間に向くかわからない。 当然、そう考えた村人たちは、この事件の解決を開拓者達に託すことにしたのだった。 村の周囲に隠れているアヤカシを退治してくれ、そして遠吠えを止めてくれ。 さて、どうする? |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
土橋 ゆあ(ia0108)
16歳・女・陰
明星(ia0188)
13歳・男・泰
稜緋(ia0550)
18歳・男・陰
鳳・月夜(ia0919)
16歳・女・志
暁(ia0968)
14歳・女・サ
天目 飛鳥(ia1211)
24歳・男・サ
愛紗(ia1212)
16歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●始まりの始まり 武天の片田舎、そこに八名の開拓者達がやってきていた。 総じて若く、中には幼いといっても良いかもしれない者たちも混ざっている。 ならば村人に侮られてしまうだろうか? 実際のところ、そうとも限らないのだ。 開拓者達の開拓者たるゆえんは何か。 それは、志体を持ち素質に優れることでも、様々な技を身につけていることでもない。 開拓者が開拓者たるゆえんは、彼らが開拓者という生き方を選んだことだ。 自由が故に後ろ盾は持たず、持てる技と力で困難を切り開く者たち。 アヤカシの害にあえぐこの世界では、彼らは希望であり若き力なのだ。 とはいっても、事実彼らは新米で。 「僕らは開拓者。アヤカシ退治はいつもの仕事」 まだ若いその顔ににこ、と笑みを浮かべて言ったのは、暁の髪と緑柱石の瞳が目立つ暁(ia0968)だ。 背は村の少女らとも変わらず、見た感じでは少女といっても過言ではないだろう。 だが、彼女が放つ雰囲気というのだろうか、言葉は少ないながら、物怖じしないその剛胆さ。 それだけはしっかりと漂ってきて。 「そうそう、しっかり仕事をして、稼がせてもらわにゃならんからなぁ」 からからと笑いながら、不安そうな村人達を励ますのは天津疾也(ia0019)だ。 商家の生まれだからだろうか、人当たり良くにっと笑みを浮かべて軽口をたたく天津。 そういた姿を見れば、依頼主である村人達もやっと安心するようで。 そして、一行八名はさっそく行動を始めるのだった。 人に害をなすアヤカシ、瘴気より出でて人を喰らうモノ。 いかに開拓者達が人より優れた武力を持っていても、一筋縄ではかなう相手ではないのだが‥‥。 さて、彼らはどういった策をとるのだろうか。 ●我らに策あり 「で、君が見たアヤカシというのは、どういう姿をしていたのかな? 矢張り狼に似ているのかな?」 勢い込んで、村でアヤカシの姿を見たという青年に話を聞いているのは稜緋(ia0550)だ。 黒衣の陰陽師が、自らの知的好奇心でそんな話を聞けば、その横ではそれを紙に書く者も。 村で簡易な地図を書いてもらって、そこに覚え書きを記しているのは明星(ia0188)。 まだ若いのに、ずいぶんとしっかりしているようで。 「‥‥稜緋さん、なにかわかることはありましたか?」 と明星が聞けば、稜緋は首を振りつつ。 「ふむ、俺も直接見たことは無いからわからないけど‥‥狼に似た姿なら光を警戒するかもしれないね」 と、用意してある灯りに関して言えば。 「ああ、それでしたら隠れている間はこれで隠しておけるかと思います」 ちょうどそこに顔を見せたのは、大きめな箱をふらふらしつつ抱えている土橋 ゆあ(ia0108)だ。 明星にその箱をもってもらいつつ、どうやら土橋も警戒を怖れて灯りを隠す策を練っていたようで。 そして、アヤカシの情報や光の対策とは別に、なにやら村はずれでも策が。 「‥‥これで、良し」 土まみれの姿になった暁、そしてそれを見つつも少し不満げなのは愛紗(ia1212)だ。 「‥‥ふん、狼ごときにこの念の入れよう。ばかばかしいわね」 策を弄して勝利を掴むことに対してはどうやら不満もあるようだ。 「まあまあ、そないなこと言わんといて」 天津がそういって取りなして、もらってきた村の牛舎の敷き藁の束を囮をやる仲間に渡して。 明星はそれを受け取ると、外套のようにかぶるためのぼろ布を広げて、牛のにおいが染みついた藁をくっつけて。 そして、そこに戻ってくると、準備の整った一行を見やる天目 飛鳥(ia1211)。 見れば、皆は一様に依頼に対する興奮とわずかな不安をにじませているようで。 自分も同じく、これから命のやりとりをしなければならない緊張か、はたまたそれに対する恐怖か。 早鐘のように打つ心臓の鼓動をかみしめつつも、あえてそれを飲み込んで。 「‥‥そろそろ日も落ちるが、アヤカシたちが動くのは夜だろう。一匹たりとも逃がさず仕留めなければな‥‥」 この中で、見た目には一番年かさの天目がそう言って覚悟を決めて。 こうして、開拓者達の一行は準備を整え、件の牛が屠られた場所からさらに少し進んだ森の中に潜むのであった。 森の中で、もらった牛の干し肉や牛のにおいを移したぼろ布に隠れてじっと囮となるのは暁と明星。 そして他の六名はそれぞれ風下に陣取り、じっとアヤカシ達がやってくるのを待つのである。 細工は流々、さて結果はいかに‥‥。 ●牙と刃 闇に潜んでアヤカシを待つ間、思うことは人それぞれで。 たとえば、アヤカシを楽しみに待つ者。 稜緋は、アヤカシに対する好奇心にうずうずしながら暗闇の中に隠れていた。 アヤカシをこの目で見るために開拓者になったという彼、初の邂逅に期待するのは当たり前で。 また、天目は違う意味でアヤカシへの期待が。 それはアヤカシという異質な力への期待だった。 刀鍛冶として、得られる知識と経験に限界を感じた彼は、外で新たな刺激を得ようとしてとのこと。 となれば、人の未だ知り得ぬ存在であるアヤカシ達は刀の持つ力に新たな地平を開くだろうか。 だが、彼らの持つ思いも目の前の敵との戦いを終えねば花開かないもので。 遠くからこの夜初めての遠吠えが聞こえた瞬間、開拓者達は一様にぞくりと恐怖を感じたのだった。 共にこの大地に生きる動物としての獣ではなく。 この地からわき出る瘴気から生まれ、そして人を喰らおうとする異質な存在。 そしてアヤカシの遠吠えは幾度も響き、山々をこだまし、徐々に近づいてくるのであった。 闇の中の確かな気配、しかも複数。 一番最初にそれを感じたのは囮の二人であった。 人にはまねできない静けさで森を駆け、いつの間にか近づいてきたのだろう。 だが、どうやら戸惑っているようだ。 エモノのにおいはするものの、どうもいつもと違う‥‥。 しかし、開拓者達はアヤカシ達の接近を逃さなかった。 いよいよ戦闘開始だ。 「お、銭の元がやってきおったわ。ほな、狩らせて貰うとするかな」 にやりと笑みを浮かべて、飛び出すのは天津。 きりきりと引き絞った弓は、アヤカシをびしりと狙い。 「‥‥人の手が入らないところはどこでもアヤカシの天下なのかしら。きっと自身に疑問を抱く事も無いのでしょうね、羨ましい‥‥」 斬撃符を手に、土のにおいが染みついたまま、少々後ろ向きなのは土橋。 隠してあったたいまつに急ぎ火をつければ、暗い目に慣れた一同の目に映る数頭のアヤカシがそこに。 囮であった暁と明星はばさりと布を取り去って、自分たちを囲んでいるアヤカシを牽制し、一行の緊張が高まったところで。 「‥‥行くぞ!」 しゃりんと刀を鞘走らせ、こちらをみてうなりを上げているアヤカシに切り込んだのは鳳・月夜(ia0919)。 こうして戦いの火ぶたは切って落とされた。 「ぅぅるぅぉぉおおおおおオオオオオ!!!」 およそ彼女の姿から想像の付かない獣じみた咆哮を上げたのは暁だ。 もしアヤカシ達がただの獣ならば、逃げたところかもしれない。 しかし、アヤカシ達にとっては武器を持ち、手向かう意志を持っているといえども人は餌である。 多少は向かってくると言っても、目の前のエモノから逃げ出すことはなかった。 そして、同じく大きな声で咆哮、いや名乗りを上げるもう一人の姿も。 「遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは愛紗、真の益荒男を求める者なり! さあ、我と思わん者はかかってくるがよい!」 獣のアヤカシはもちろんそれを解する訳ではないだろう。 だが、こうして名乗り声を上げることで、自らを奮い立たせた愛紗は、刀をずらりと抜き放つとアヤカシたちへと突貫したのだった。 一方襲い来るアヤカシ達を迎撃しているのは囮役だった二人。 そこに、やっと隠れていた鳳や天目が切り込んで加勢して。 稜緋の援護がとび、多少の傷ならば土橋が癒せるとなれば、開拓者たちがじりじりとアヤカシたちを圧倒し始めて。 「おっと、逃がさないよ!」 逃げようとするアヤカシには稜緋の呪縛符が飛び、呪縛されたアヤカシを鳳が切り伏せ。 逆に牙をむいて噛みついてくるアヤカシを、がっしりと刀で受け止めると、そのまま膂力で真っ二つに叩き斬るのは暁。 身の丈からは想像の付かない剛の剣をぶんと振ると、 「‥‥倍返し。ここで、果てろ」 どんと地面に刀先が刺さるほど、とどめをさして。 そうすればアヤカシは瘴気へと化し、すうっと地面へと流れていって。 「アヤカシの力、これならばまだまだ‥‥」 武器に炎をまとわりつかせた天目はそういって一匹を斬りつければ、横合いから飛び出したもう一頭のアヤカシを、獣の速度より早く迎撃する明星。 疾風脚による神速の一撃で打ち倒して、 「‥ええ、もう少しですね」 見れば、いつの間にかほとんどのアヤカシ達は打ち倒され地に解け消えていったのだが。 そのとき、最後の一頭に突っかけたのは、愛紗だ。 「これでも、喰らえ!」 たんと軽やかに地を蹴って、大上段から振り下ろされた一撃は、アヤカシの体をざっくりとえぐり。 しかし、それで絶命しなかった怪狼は、間近の愛紗の首筋に牙を剥こうとしたのだ。 だが、そこに飛来したのは一本の矢。突出した愛紗を追って天津が矢を放ったのである。 狙い過たず、怪狼を一条の矢が穿てば、それでそのアヤカシも地に消えて。 「やれやれ‥‥これは貸しにしとくさかいな。無駄な怪我するなんて一文の得にもならんのや」 天津はそういって、ふっと息をつけば、愛紗も助けられたのだから何も言えずに。 そして見渡せば、いつの間にかすでにアヤカシ達の動く姿は残っていなかった。 「‥‥アヤカシは地に還るのも楽でいいわね」 ぽつりと土橋がつぶやくとおり、あれほど村の人々を脅かした遠吠えの元は毛筋一つも残さず消え失せたのだった。 ●始まりの終わり 彼ら一行は、それからも数日残ってみて、それ以上アヤカシの遠吠えが聞こえないことを確認してから村を去ることにした。 村人達は彼らの労をねぎらってささやかながら宴を開いてくれたようで。 確かに、このアヤカシ達はあくまでもこの世界に迫る害のほんの一部であり。 歴史に残る英雄譚ではない。 だが、これは確かに彼ら開拓者の物語の始まりなのである。 これにて、無事に依頼終了。 それぞれの思いを胸に、彼らは帰路につくのであった。 |