制御不能の狂拳
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/12 21:12



■オープニング本文

 泰国、瑞峰。八極轟拳の新たな本拠地にて。
「……探し出して斃せ」
 錆びた声で、ただ静かに告げたのは八極轟拳の掌門、門派の長にして賞金首の拳士、轟煉。
 かつては瑞峰という領地の主が腰掛けていたであろう豪奢な椅子に腰掛けて、彼は部下を見つめていた。
「暴力と狂気は近しい……だが、凶暴さや狂気すら御してこその八極轟拳の拳士よ」
 静かな言葉に部下達はただ震えていた。
 なぜなら、彼らの主、轟煉は確かに怒っているからだ。
「だが、狂気のままに力を振るうのは、唯の獣にすぎん!」
 吼えた轟煉の言葉は、巨大な獣の咆哮のように部屋に響き渡った。
「獣以上の力に、人の技が合わさってこその拳の技! 技の理も理解出来ぬ獣は殺すが良い!」
 そして、轟煉は興味を無くしたように部下達から視線を外した。
 指令は為された。部下達は、たとえそれが不可能な任務だろうと遂行するだけだ。
 務めを果たせなければ、別の形で死が訪れるだけ。
 八極轟拳の追っ手達は、如何なる者が邪魔しようと決死の覚悟で任務を遂行しようと動き出すのだった。

 彼らの任務は1人の拳士の暗殺だった。
 拳士の名は、メイハ(冥把)。
 年齢は二十代後半から三十代前半、中肉中背で細身の泰拳士。
 使う技は相手の防御を貫く一撃と、一瞬での連打を得意とし、一撃の鋭さにかけては随一と言われていた。
 だが、この拳士の恐ろしいところは、その精神性だ。
 八極轟拳は力こそ全てだと掲げる流派である。
 力があるものが最上であり、力があればあらゆる我を通すことが出来る。
 それゆえに、弱者を虐げるのだが、このメイハはその根底が壊れていた。
 彼にとっては、力を振るうことが全てなのだ。
 戯れに、技の練習をしたいからと言って、一つの村の老若男女百数十人を一晩で虐殺した。
 気にくわないからと言う理由で、同じ八極轟拳の幹部をその手で殺した。
 部下も、邪魔だという理由で意味も無く、手当たり次第に技の実験台にした。

 たとえ、八極轟拳であっても、組織自体が崩壊しないために理性は働くものである。
 力があれば、弱者を虐げるのは咎められないが、弱者を支配し働かせてこそ強者たりえるのだ。
 片っ端から殺してしまえば誰も残らない。
 もし、同輩の幹部が気にくわなければ正々堂々と闘うべきだと八極轟拳は考える。
 その場合も、どうして諍いが起きたのか、その理由を述べてお互いの誇りをかけて闘うのが筋だ。
 しかし、メイハは意味も無く力を振るって同僚を殺した。
 しかもその理由を問われても、特にない、というばかり。
 理性も無く、理由もなく、さらにはなんの目的もないこの拳士は完全に狂っていた。
 彼は、気の向くままにただ目の前の相手を殺したいだけなのだ。
 流石に、その狂気は八極轟拳にあっても制御出来るものではなく、彼は囚われた。
 だが、今回八極轟拳の本拠地が移る際に、なんと彼は脱獄したのである。

 メイハを追いかける八極轟拳の追っ手達。
 だが、やつらもまた力のみを信奉する八極轟拳の拳士たちだ。
 追っ手達がメイハと闘えば、必ず周囲に被害が広がるだろう。
 このことを知った、対抗勢力の蒼旗軍は急ぎ開拓者に依頼を出した。
 ただ手をこまねいて見ているわけにはいかない。
 開拓者がメイハを討ち、八極轟拳の拳士たちを止めれば、被害は最低限に収まるだろう。
 三つ巴の厳しい戦いとなるだろうが、人々を救うためにはやらなければならない。

 さて、どうする?


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
朧楼月 天忌(ia0291
23歳・男・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
松戸 暗(ic0068
16歳・女・シ
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文


 昼も夜もなく、獲物を追いかけるために八極轟拳の追っ手達は急いでいた。
 狙うべき相手、メイハは強敵だ。こちらが命を狙って仕掛ける以上、反撃されるのは必至。
 命のやり取りになるどころか、追っ手の多くが死ぬだろう。それは自明の理だった。
 だが、それでも追っ手達はこの仕事を成し遂げるしかなかった。
 失敗しても、待っているのは死なのである。
 故に、彼らはただひたすらに急ぐのだ。
 邪魔する者は須く排除する覚悟で、一刻も早くメイハを殺すために。

 そんな鬼気迫る一団を物陰からこっそりと窺う女性がひとり。
 どこにでも居るような町娘姿に変装した松戸 暗(ic0068)だ。
(ニセの情報をばらまいては見たが、あまり有効ではなさそうじゃの……)
 八極轟拳の一団は、高圧的に酒場で聞き込みをしているところだ。
 暴力に訴え、八極轟拳の名で脅し、客にメイハを見なかったと聞いているようだ。
 しかし、それに備えて先回りした暗はメイハの噂を町の酒場や盛り場に流しておいたらしい。
(この調子でしらみつぶしに聞き込みをされては、すぐにニセの情報での攪乱も効かなくなるかの……)
 すっと酒場から離れた暗は、貧民街へと脚を向けた。
 わずかに追っ手を攪乱し時間は稼げただろうが、これ以上の策は無理だろう。
 それならば、あとは仲間に加勢するだけ。
 時間との勝負である。

「ん〜っと、丁度良い場所はあるかな〜……」
 小さな体で精一杯に背伸びして、きょろきょろと辺りを見回す叢雲 怜(ib5488)。
 背中に、布で包んだマスケット銃を背負った小柄な砲術士の少年は、周囲を見渡せる高台を探していた。
「できれば、望楼みたいな場所があればいいんだぜ……火の見櫓とか」
 だが、貧民街を見渡せる場所にはそんなものはなかなか無かった。
 困ったなぁと首を傾げる怜、だがふと見上げればそこには大きな木が一本。
「んー、この際仕方ないのだぜ」
 ん、と一つ頷いて、器用に怜は木を登り、しっかりした枝の一つに腰を下ろした。
 貧民街と市街を隔てるあたりに立つうっそうとした大樹の上で、下界を見下ろす怜。
 ぐるりと貧民街の全域が視界に収められる様子に満足すると、背の銃を取り出して。
 そして、左右で色の違う瞳でしっかりと狙いを定めて、静かに自分の役目を待つのだった。

 今回の開拓者達の作戦は、囮を使うものだ。
 速さで八極轟拳に勝ることが肝要。そのうえ、時間は少ない。
 交渉や、反間の策を弄する時間も無いだろうと考え、囮を使っておびき寄せることにしたのだ。
 だが、囮の作戦はやはり危険が伴うもので、そしてその策の要となったのは一人の少年だった。
 貧民街をその少年が行く。
 ぼろぼろの外套にすり切れた衣装は常夏の泰国にあってもなお寒そうで。
 身につけた石飾りからみるに、異国の生まれの様子のその少年は、ふらふらと路地裏を歩いていた。
 アル=カマルから流れてきた旅芸人のなれの果て、そんな様子の彼はサライ(ic1447)の変装だ。
 日々の食事にも窮した様子のあわれなその姿、見事にサライはそんな物乞いの少年になりきっていた。
(……殺されたのは、ほとんどが殺されても騒ぎにならない相手ばかり……)
 サライは、獲物が罠にかかるのをじっと待ちながら、調べたことを思い起こしていた。
 彼が調べたのは、メイハがこの街に至るまでに起こした事件の詳細、それも被害者についてだ。
(犠牲者は貧しく孤独な人ばかり……楽しむために残虐な技を振るいたいだけの快楽殺人者……)
 サライが思い描くように被害者は貧民や旅人など、殺されても警戒されない相手ばかりだったのである。
 つまり、メイハは殺したいだけ。その結果、問題が起きたり追われるのはなるべく避けたいわけだ。
 今でこそ八極轟拳に追われて逃げているようだが、その最中でも殺しを辞めていない。
 それを鑑みるに、やはりどこか壊れた思考回路をもつ異常者なのだろう。
 だが、現在狙うのは皆、そういった弱者ばかり。
 そのため、サライはいかにも狙われそうな、物乞いの少年に扮しているのであった。

 ……周囲をおどおどと見回しながら、ずるずると路地裏に腰を下ろすサライ。
 一見すれば、ひもじくて動けなくなった薄汚れた物乞いの少年である。
 だが、彼は静かに耳を澄ませて周囲を窺っていた。
 シノビの技、超越聴覚。遠く離れた物音でも聞き分ける聴力で気配を探る。
 すると、さまざまな音の中で一際静かな足音が一つ、ゆっくりと近付いてきた。
 足音の静かさとその気配、悠々としているがぴりぴりと慎重に気配を殺しているような足音。
 それこそまさにサライが待ち望んでいた足音だった。
 顔を上げずに、集中するサライ。そしてその足音はゆっくりと近付いてきて……止まった。
 サライがゆっくりと顔を上げると、すこし離れた場所に男が立っていた。
 すこしだけ、口角をあげて微笑むような表情を作った細身の男。メイハだ。
 メイハの瞳にはなんの感情も浮かんでいなかった。ただただ、サライを値踏みするように見つめるだけ。
 サライは、物乞いの少年を演じたまま、おびえたように立ち上がる。
 すると、ゆっくりとメイハが歩み寄る。
 音を立てずに雑然とした路地裏をするすると進んでくるその足運びは、達人の域だ。
 ひっ、と息を呑んでサライは走り出す。路地に積まれたゴミや板きれをなぎ倒しながら逃げ出した。
 そして、決死の追いかけっこが始まった。


 少年は逃げる。転びそうになりながら狭い路地を塗って、よろよろと走る。 
 だがその足取りはおぼつかない。
 サライは、シノビとしての足運びをあえて発揮しないように押さえ込んで、どたばたと逃げていた。
 それを悠々とメイハは追いかける。
 なぎ倒された板きれや、ゴミを躱しながら一気に距離を詰める。
 それを、遠くから見つめる一人の少年がいた。
「ん〜と、悪いヤツらが追いつく前に、はやく凄く悪いヤツのやっつけたかったのに……」
 むむむ、と呻りながら高台の木の上で、銃を構える怜だ。
 路地裏を逃げるサライと追いかけるメイハ。だが、怜は驚いていた。
 メイハは狙撃を警戒するように、物陰から物陰へと伝うように動いているからだ。
 自分に気付いているのか? いや、それはどうやら違うようだ。
 メイハは、射撃や投擲武器に狙われるような場所を、たんに徹底的に避けているだけなのだろう。
 だが、それは一つのことを示している。
 メイハは、サライを追いかけながらも周囲を警戒し続けていると言うことだ。
 殺しの狂気に取り憑かれながらも、徹底的に油断のないメイハを怜は改めて強敵だと感じた。
 だが、出来るのはただ機会を待つだけ。
「悪いヤツ等がくるまでに、間に合ってほしいの……」
 必死に逃げているようすのサライの無事を願いつつ、怜は再び銃を構えなおすのだった。

 メイハは逃げる少年を追いかけていた。
 必死で逃げるサライ、それを悠々と追いかけるメイハ。
 メイハは、こういう瞬間が好きだった。
 命のやり取りの高揚感を求める拳士もいれば、技の練度や上達を誇る拳士もいる。
 だが、メイハにとっては、弱者相手に力を振るう瞬間が最高なのだ。
 圧倒的強者の自分の一撃におびえて逃げる弱者。それこそがメイハの愉悦。
 にたりと不気味な笑みを浮べたまま、ついにサライにおいついたメイハは、抜き手を一閃。
 転がるようにしてそれを躱そうとする少年だったが、抜き手は肩口を抉り血をしぶかせた。
「ひ、ひとごろし! たすけてー!」
 血と痛みに恐怖したのか、顔面を蒼白にして逃げ惑う少年。
 そんな様子と叫びにぞくぞくとしながら、角を曲って逃げた少年を追いかけるメイハ。

 そして路地を曲ると、そこには誰も居なかった。
 血の跡が途切れている。
 次の瞬間、空気の動く気配を感じたメイハはとっさに跳びすさった。
「っと、さすがに当たらないカ……ともあれ、轟拳の連中がかぎつける前に、何とかしようカ」
 山刀を投げつけたのは梢・飛鈴(ia0034)。
 物陰に潜んでいたのかずいと退路を塞ぐようにして、路地の一方を塞いだ。
 そして路地のもう一方に姿を見せたのは、
「サライさんを追う姿を見ていましたが、ここまで呵責に苛まれる事の無い相手というのも珍しいですね」
 錫杖を構えた朝比奈 空(ia0086)だ。
 即座にメイハは考えた。どうすればこの状況から逃げられるだろうか。
 退路を塞ぐのは見たところ泰拳士。山刀を投げたその技や立ち姿からみてかなりの手練れ。
 一方錫杖を手にしている前方の女はおそらく術者。
 ならば与しやすいのは前方の朝比奈。じりっと飛びかかるために体勢を変えたメイハだったが、
「……そこまで迂闊ではありませんでしたか」
 メイハは朝比奈のその視線や立ち位置、そして表情からなにかを感じ取ったようだ。
 おそらく、なんらかの備えがある。設置型の術や、接近されても対処できる準備があるのだろう。
 自分を相手にひるまずにいる朝比奈に、メイハはその可能性を感じ取って動きを止めたのだ。
 ならば、次はどうするか。
 こうなれば逃げの一手だ。
 奇しくも、先程のサライと同じくメイハにはシノビに近い技を習得していたのだ。
 その技をもってすれば壁を蹴って路地から脱出し、同じ泰拳士の飛鈴からも逃げおおせるだろう。
 だが、開拓者はそれを許さなかった。


「逃げるつもりか?! くだらねェ真似してンじゃねェ!! いくぜ、ルオウ!!」
「こっから先は通行止めだ。これ以上はやらせねーぜ!」
 メイハが動くより一瞬早く、屋根から路地裏に飛降りてきたのはサムライ二人。
 朧楼月 天忌(ia0291)とルオウ(ia2445)だった。
 ルオウは周囲の人を剣気で追い払い、二人で屋根の上を伝ってここに飛び込んできたようで。
 ルオウは剣気、天忌は猿叫を使ってメイハに向かって足止めをしつつ、一気に攻めた。

 それからの攻防はまさしく一瞬の間のものだった。
 ルオウの剣気にも、天忌の猿叫にもメイハはひるまず、飛び込んでくる二人を冷静に見極めた。
 この状況では、だれかを倒さねばさすがに逃げられないだろう。
 メイハは二人のサムライを見比べた。
 奇しくも二人が手にしているのは清光という名の刀工が打った殺人刀。
 天忌は「乞食清光」、ルオウは「秋水清光」だ。
 両者とも歴戦のサムライだ。だがメイハは、技量においてはルオウの方が手練れだと瞬時に見抜いた。
 天忌も油断できない手練れ、しかしルオウの方が勝っているようだ。
 咆哮を上げて飛びかかるルオウの剣は、おそらく一呼吸で四度は閃く腕の冴え。
 それならば、同じ手練れでも天忌の方がまだ与しやすいだろうとメイハは決めた。
 ルオウの間合いからわずかに逃れ、天忌の間合いへと敢えて踏み込むメイハ。
「イカれた技を試したいんだってな。いいだろう、たっぷりと相手してやるよ。そンでこれで最期だ……!」
 対する天忌も殺人刀を掲げて気合いの一撃、するどい両断剣が放たれた。
 それを紙一重で躱すメイハ。八極天陣を発揮している泰拳士ならではの身のこなしで、天忌へ肉薄。
 そして、そのままメイハは抜き手で天忌の首を狙った。
 抉られれば致命傷だ。だが天忌はひるまず体で受ける。首を抉られ血を流しながら、
「がァッ! ……だけどこれで捕まえたぜ! おめェら、任せた。クソ野郎に引導を渡してやんな!」
 肉を切らせて骨を断つつもりで天忌は、その身を犠牲にしたのだ。
 即座に追撃に入るルオウ。だがメイハは冷静に見極める。
 このままでは危険すぎる、ならば……速やかに自分を捕まえているこの男を絶命させ盾にすればいい。
 体を入れ替えて、もう一方の手で抜き手の構え。狙うのは心の臓への一突きだ。
 ルオウの攻撃を天忌の体で躱そうとしつつ、抜き手を放とうとした次の瞬間。
 氷の刃がメイハを襲った。朝比奈のアイシスケイラスである。
 メイハは直撃を避けて微かに躱そうとした。
 だが、鋭い刃は避けられず直撃。しかしメイハはそれでも抜き手を止めなかった。
 炸裂する氷の刃の嵐の中で、メイハの抜き手が天忌の胸に突き刺さろうというその時。
 手甲ごと、その手が粉砕され、そして遅れて銃声がやってきた。
「っ……ふ〜……間一髪なのだぜ」
 遠くの木の上から、「嵬」祇々季鬼穿弾を放った怜。
 その一撃が、攻撃の瞬間のメイハの腕を打ち抜いたのだ。
 いつのまにか、メイハは物陰から引きずり出されていたのである。
 さらには、朝比奈のアイシスケイラスによる氷刃の炸裂で邪魔な障害物は排除され。
 だからこそ怜の狙撃は間に合ったのだ。
「があああああっ!!」
 獣のように吼えて距離を取ろうとしたその刹那、踏み込むルオウ。
 脅威の四連撃、それを紙一重で躱しながら逃げるメイハ。天忌を蹴り飛ばし距離を取る。
 だが、まだ開拓者の追撃は続いていた。
「悪あがきはここマデだ」
 ひらりと間合いに踏み込んでいたのは飛鈴。
 苦し紛れのメイハの反撃の蹴りを同じ八極天陣で躱し、そのまま転反攻。狙うのは軸足だ。
 腕を砕かれたメイハにとって、蹴りでの苦し紛れの反撃だったのだが、そこが狙い目。
 軸足を一撃されれば、いかなる達人だろうと、体勢は崩れる。
 そこに、飛鈴の絶破昇竜脚が叩き込まれた。
 顎先に強烈な一撃、壁に叩きつけられるメイハ。砕けた顎から血を流しながらまだ立ち上がる。
 しかし反撃もそこまで。
「皆の者、追っ手はすぐそこじゃ。いそいでこの場を離れるぞ」
 メイハに手裏剣を放ちつつ現れたのは暗だった。
 手裏剣をかろうじて手甲で弾くメイハ。そこにルオウが一閃。
 メイハはどさりと崩れ落ちた。
 そのメイハを前に開拓者は逃げる算段を考えるのだったが……。
「……身柄を渡せば、引き下がるんじゃねェのか?」
「ああ、無駄な被害を出さないためなら、身柄を引き渡せばいいんじゃないか?」
 血を押えながら言う天忌に、彼に肩を貸して言うルオウ。
 だが、それに首を振ったのは暗と、
「……どうやらそうもいかないようです。我々が倒したとなれば……彼らの面目が立ちません」
 ひらりと現れた、変装姿のままで忍刀を構えたサライであった。
「八極轟拳が追っていたメイハを、八極轟拳以外の開拓者が倒したならば……」
「うむ。八極轟拳にとっては面目を潰されたのと同義じゃの。自分らの腕が及ばず、ということじゃからな」
 暗が言葉を引きついでそう告げた。
 そして開拓者達はメイハをそのままに、一気に逃げた。
 サライと暗が殿を務め、遠方から怜が射撃で牽制、そこに飛鈴が合流。
 ルオウが天忌を支え、追われぬように朝比奈がフロストマイン。
 あっという間に姿を消した開拓者相手に、八極轟拳の追っ手はただ歯噛みするだけであった。