アヤカシ七分に海が三分!?
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや難
参加人数: 24人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/02/11 20:03



■オープニング本文

 曇り空の下に広がる冬の海。
 寄せては返す波の音と吹きすさぶ冬の風、白い波濤を吹き散らされて寒空はますます凍てついていく。
 そんな海岸に影が現れた。
 小さなアヤカシの姿、開拓者の間では小鬼と呼ばれる最下級のアヤカシだ。
 海から現れたその姿は、普通の小鬼とは多少違い表面には鱗が生えている。
 それがぞろぞろと、海の下から現れた。
 ぞろぞろ、ぞろぞろぞろぞろ、ぞろぞろぞろぞろぞろ。
 その数、100を越えたあたりからは数えるのもバカらしくなるほどの大群だ。
 続いて、ぽつりぽつりと大きな影も加わっていく。
 魚鬼などと呼ばれる、蛙のようであり魚のようである大型の鬼だ。
 人の身長を優に超える巨体、その全身に硬質な鱗や甲殻がへばりつく不気味なアヤカシである。
 それもぞろぞろと、十体以上も現れる。
 この海から這い出したアヤカシの群れは、ゆっくりと陸を目指しはじめた。
 砂浜の七割がアヤカシで埋まるほどの群れ、それが人里にでればどれほどの被害がでるだろう。

 この大群は止めなければならない。
 だが、貴方たちはこのアヤカシに見覚えがあった。
 魚や蛙のような、これらの不気味な魚鬼アヤカシを操る上級アヤカシがいた。
 その名は、無有羅。冥越八禍衆の一体に数えられる謎多き不気味なアヤカシだ。
 無有羅がこれらの魚鬼系のアヤカシを好んで配下にしていたはずである。
 ならば、今回のこの大群も無有羅の暗躍によるものだろう。
 無有羅は、混沌と狂気を好むアヤカシだ。
 ヤツの望みは、決して叶えさせてはならない。

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 海神 江流(ia0800) / 九竜・鋼介(ia2192) / 菊池 志郎(ia5584) / 日御碕・神楽(ia9518) / ラシュディア(ib0112) / 不破 颯(ib0495) / 海神 雪音(ib1498) / ジレディア(ib3828) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / クリスティア・クロイツ(ib5414) / 高崎・朱音(ib5430) / ファムニス・ピサレット(ib5896) / フランヴェル・ギーベリ(ib5897) / ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905) / 正木 雪茂(ib9495) / 雁久良 霧依(ib9706) / 二香(ib9792) / 鴇ノ宮 瑠璃(ib9871) / 草薙 早矢(ic0072) / ライラ(ic1280


■リプレイ本文


「はー……冷えるわねぇ……」
 ふるりと身を震わせて、アル=カマル出身のライラ(ic1280)は呟いた。
 ずらりと、海岸を見下ろす場所に陣取った開拓者の数は二十と少々。
 彼らは、海岸からじわじわと攻め寄せてくるアヤカシの群れを迎え撃とうと待ち構えて居た。
 ライラもその一人。彼女は今回が初仕事らしいが、準備は万端だ。
「相棒を連れてこれなかったのは残念だけど……それなら、自力で何とかするわ!」
 そして彼女は傍らの魔槍砲を手に取った。
 居並ぶ開拓者達のうち、遠距離の武装を持つ者たちは同じようにそれぞれの武器を取って……。

 そして、砲火が。魔術の閃光が。投擲武器が。爆弾が。矢が。銃弾が一斉に放たれた。

 ぞろぞろと緩慢に近付いてきていた敵軍勢にその破壊の雨が降り注ぐ。
 爆音が鳴り響き、砂浜の砂が舞い上がり、爆風が吹き付ける中、
「ひゃ〜、ぞろぞろいるねぇ。いやはやご苦労なこって……」
 へらりと笑って弓を構える不破 颯(ib0495)だ。
 彼は次々にバーストアローを放って敵前衛を粉砕。弓の攻撃はその連射と精密さが心情だ。
 突出した敵軍の先頭を、衝撃波を放つ矢が次々にかき乱していく。
 敵軍の足は止まらない。だが矢の雨は敵の動きを一瞬止めるには十分だ。
 敵の一瞬の停滞、そこを狙うのは……。
「何と言う数……此れ程までとは……」
 ぎゅっと魔槍砲を握りながらクリスティア・クロイツ(ib5414)は呟いた。
 そんなクリスティアに、
「想像以上のアヤカシの数じゃのぉ。奇跡でもおきねば厳しいか?」
 とくつくつ笑いながら軽口を投げかけるのは彼女の隣に立つ少女、高崎・朱音(ib5430)。
 彼女もまた、魔槍砲を手に敵軍の動きを注視しながら、クリスティアにそういった。
「き、奇跡……ならば此れも、神が、わたくし達に与えた試練ですわ……見事乗り越えてみせましょう!」
「うむ、その意気じゃ。奇跡は我らが起こす。起こしてみせる! ……というところかの?」
 こうして二人は覚悟を決めて、蠢く敵軍を見下ろす正面に進み出た。
 このまま手をこまねいて見ていれば、敵軍に呑み込まれてしまうような場所だ。
 だが、二人はぴたりと魔槍砲を構えて、
「よい塩梅じゃな。……クリス、あれを使うぞ」
「ええ、朱音様……宜しくてよ……!」
 後方から、仲間たちの援護が次々に飛んでくる。だが敵の勢いは収まらない。
 だが、それこそが二人の狙いだ。アヤカシを誘い込み、集めたところで、
「錬力充填120%じゃ! ゆくぞ、これがわしの……全力全壊、メガブラスターじゃ!」
「朱音様……いえ、何でも御座いません……。わたくしも、全力ですわ……!」
 そして二本の巨大な破壊の光が、敵陣を貫いた。
 魔槍砲の持つ特性をもっとも活かした破壊攻撃、それがこの魔砲「メガブラスター」だろう。
 魔槍砲に限界まで練力を注ぎ込み、その射程全てを呑み込む光線を放つのがこの奥義だ。
 二人の持つ業物の魔槍砲は、注ぎ込まれた莫大な力を全て破壊の光へと還元して解き放ったのである。
 その威力たるや、砂浜を溶かすほど。直撃したアヤカシらは一撃で瘴気へと化したようだ。
 だが、一発の砲撃で消し飛ばせたのはせいぜい数十匹……まだまだ敵の数は多い。
 やはり奇跡が起きなければ勝てないのだろうか?

 ……開拓者の力は、まだまだこんなものではないようだ。猛撃はさらに続いた。

「あはは! 七面鳥がいっぱいだね!」
 幼き英才、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)はスパークボムを乱射して敵陣を混乱させる。
「数ばかり多いわねぇ。これじゃいい的ね♪」
 魔術師の真骨頂、範囲攻撃のメテオストライクを放つ雁久良 霧依(ib9706)。
 彼女らの攻撃を始め、数多の遠距離攻撃が敵陣をズタズタに粉砕していった。
 一撃で小鬼が消し飛ぶ破壊力だ。数百匹いてもその数がめりめりと減っていく。
 だが、しかし、それでもなおアヤカシたちは脅威だった。敵は恐れも知らず接近してくる。
 ひとたび乱戦となってしまえば、こうした範囲攻撃の利点は潰されてしまうだろう。
「すごい数ですね。……でも退くわけにはいきません」
 すでに間近に迫る敵に軍勢を前に、菊池 志郎(ia5584)は静かに呟いて術を発動。
 現れたのはストーンウォールだ。
 体力と練力が尽きる前に、何とかしなくてはと防衛陣地を作るつもりで彼は石壁を作ったのである。
 そのままブリザーストームを敵へと放ち牽制する菊池。
 だが、すでに敵軍は目の前。ついに乱戦が始まった。
 忍者刀を構えて、跳びかかってきた小鬼を切り裂く菊池。
 彼は、重傷者を出すまいと仲間たちの背を探した。乱戦が始まれば消耗は必至だ。

 だが、またしてもここで開拓者達は実力を見せつけることとなる。
 個々の卓越した武力、そして連携による優れた戦術、その両方だ。


「こんな軍勢、人里には行かせられないな」
 瞬脚で敵陣のど真ん中に飛び込んで、流星錘を振るう羅喉丸(ia0347)。
 流星錘が唸りを上げて、前後左右の鬼たちに食らいつく。
 勢いの乗った錘の一撃が装甲のような鱗もろとも鬼たちを粉砕していった。
 だが、周囲には十重二十重に敵の群れだ。それが一斉に襲いかかってくる。
 それを羅喉丸はひらりと避ける。まるで後ろに目があるかのような回避は泰拳士の技、背拳によるものだ。
 羅喉丸はちらりと周囲に目を配る。そこは敵陣深く、ならば周囲に巻き込む味方は居ない。
 そこで崩震脚!
 ズドンと砂浜を振るわせる震脚の響きとともに、一瞬遅れて衝撃波が敵を吹き飛ばす。
 そして砂煙が晴れると、羅喉丸の周囲の敵は一掃されていて、
「砕けば消えるだけましか……さて、次だ」
 再び羅喉丸は瞬脚で新たな敵陣を目指して突っ込んでいくのだった。

 次々に乱戦に飛び込んでいく仲間たち。
 最初に魔槍砲を構えていた、初陣のライラもその一人だ。
 だが、飛び出す彼女を柔らかな光が包み込んだ。
 それは、柚乃(ia0638)の唱えたホーリーサークルの光だ。
 守りの衣がライラだけではなく、これから乱戦へと飛び込もうとする仲間たちを照らしていた。
「助かったわ。こっちは任せなさい! ……あんたも闘うなら、援護するけど?」
 シャムシールを構えながら、ライラが柚乃にそう聞けば、
「私ですか? ……私は控え目で。はい」
 にっこりと笑う柚乃は、そう言いながら術を紡いだ。
 唱えたのはアイシスケイラル。氷の精霊力を扱う高度な魔術だ。
 乱戦へとなだれ込もうとしていた敵陣の戦闘に着弾すると、鋭い氷の槍が敵の鱗を切り裂く。
 それをみて、ライラはにやりと笑うと、
「今が好機ね。さあ追い込むわよ!」
 砂迅騎ならではの戦術眼を活かした戦陣を発揮、一気に他の開拓者共々敵軍へ切り込んでいくのだった。

 ドドドンと、焙烙玉の爆音が敵をひるませた次の瞬間、二振りの刃と矢の連携が閃いた。
 ライラの戦陣や柚乃のホーリーサークルで強化された少数連携の開拓者達。
 彼らの先頭にいるのは九竜・鋼介(ia2192)と、海神 雪音(ib1498)だ。
「鋼介さん、バーストアローで薙ぎ払います。そこを狙って下さい」
 言葉とトモに、雪音が会で強化したバーストアローを放った。
 衝撃波が小鬼達を薙ぎ払い、敵の動きを止める。そこに二刀をひっさげた九竜が飛び込む。
「右も左も魚鬼どもの群れとはねぇ……」
 左右の刃が閃くと、一撃毎に小鬼が瘴気に帰り、バーストアローで傷ついた鬼たちは次々に消滅する。
 あっさりと雑魚の魚小鬼たちを蹴散らす二人。そうなると出てくるのは魚鬼たちだ。
 手には粗末な武器を掲げて、鱗の強固な防御力でたった2人を叩きつぶそうと迫り来る。
 だが、その前で九竜は両手の刃を広く構えて、焔陰を発動。左右の二刀が炎を纏う。
 そのまま迫り来る魚鬼を引きつけて回転切りを一閃すると、鬼たちは炎上しながら胴体で真っ二つ。
 さらに迫り来ようとする鬼にはだめ押しで雪音が強射「繊月」の一矢。
 楚々とした外見からは想像も付かないような強弓の一撃で、魚鬼は頭を射貫かれて消滅。
 あっというまに2人は乱戦の中で、周囲を蹴散らしていくのだった。
 だが、変わらず思案顔の九竜。なにか問題でもあるのかと思いきや、
「この光景、正にギョッとするな……魚鬼だけに……何てな」
 魚とギョッをかけた渾身の駄洒落……だが、それを聞くのはアヤカシと雪音のみ。
 雪音は矢を構えたまま、しばし黙考して、
「……なかなか、面白いかと」
 ほとんど表情を見せない雪音の反応は本当に面白かったのかどうかは全くの謎だ。
 だが九竜は気にしない。駄洒落はつまらないからこそ、というのが信条の九竜。
 たとえ駄洒落がウケなくてもそんなことは関係ないのだ。
 故に、九竜は二刀を攻撃と防御に器用に使い分けつつ、敵をなぎ倒しつつ、次の駄洒落を考えるのだった。

 九竜と雪音のように、二人一組で戦うことは乱戦における最低限の連携の形である。
 お互いに死角を補うようにすれば、それだけで危険度はぐっと減る。
 さらに、それぞれが遠近に別れて対応すればさらに戦略の幅は広がるわけで、
「私の命、貴方に預けます。ラシュディア」
「ああ、何があっても君に傷はつけさせないよ、ジレディー」
 杖を構えるジレディア(ib3828)と、剣を構えるラシュディア(ib0112)。
 ラシュディアは、大切な人を守るために覚悟を決めて。
 そしてジレディアは彼に全てを任せて詠唱を開始した。
 奔刃術を使うシノビのラシュディアはまるで風のように敵陣を動き回る。
 近寄るアヤカシを優先的に狙い、手裏剣を投げ長剣を振るって切り倒す。
 倒さなくても良い、ただ注意さえ引ければそれで彼の役割りは果たせるのだ。
 そこにジレディアのサンダーが突き刺さる。
 婚約者の背を狙うアヤカシをジレディアの雷が貫いて、ますますラシュディアは加速。
 ジレディアが魔術を使うための囮の役を果たすのであった。
 そして敵がかき乱され、十分に集まったその時、ラシュディアとジレディアの瞳が交錯した。
 一瞬だけの視線のやり取り。だがそれだけで二人には十分だ。
 即座にラシュディアはジレディアのそばへと早駆でひらりと舞い戻る。
 それを確認した刹那、ジレディアは高らかに杖を掲げると、魔術を発動した。
 周囲に仲間は居ないのを見計らっての発動だ。なぜなら、この術はあまりに破壊力があるから。
 トルネード・キリク、風の刃で満ちた竜巻を作り出す高度な魔術、それをジレディアは解き放ったのだ。
 すると歴戦のシノビであるラシュディアがジレディアの肩を抱いて身構える程の暴風が巻き起こる。
 周囲の小鬼どころか魚鬼すら切り裂いて吹き飛ばす荒れ狂う暴風。
 それが一瞬で周囲のアヤカシをなぎ倒し消し飛ばした。
 だが、風が収まると、すぐさまラシュディアはジレディアを抱きかかえ、早駆で跳びすさった!
 一瞬遅れて、二人が居た場所に粗末な槍や石がばらばらと落ちてくる。
 射程のぎりぎり外にいたアヤカシが術者のジレディアを狙ったのだ。
 しかし、間一髪でそれを回避するラシュディア。
 どうやら彼は宣言通りに、愛しいジレディアに傷一つ追わせるつもりは無いようであった。


 高い破壊力を誇る遠距離攻撃と連携で敵を寄せ付けない開拓者達。
 その狭間で、破壊を楽しむ小さな怪物の姿があった。
「ははは! 退屈凌ぎにもならんのぅ!」
 殺人剣として名高い殲刀「秋水清光」を振るえば、魚鬼すらも一刀両断。
 崩震脚で雑魚を蹴散らしては、そのまま刃が空中のアヤカシたちを細切れにする。
 この暴れ回る小さな破壊者はリンスガルト・ギーベリ(ib5184)だ。
 敵の大群の中にある開拓者達の戦いに飛び込んでは、暴れ回って一撃離脱。
 そうして仲間を助けつつも大いに破壊を楽しむのであった。
「……雑魚が雑魚を率いているという訳か。笑止な」
 にやりと、見た目にそぐわぬ老成した笑みを浮べて彼女は番天印を投擲、小鬼達の頭を粉砕した。
 まだまだ破壊し足りない彼女は、新たな戦いを求めて飛び出していくのだった。

 その先には、大群を前に立ち塞がる二つの集団があった。
 一つは、音楽とともに暴れ回る集団だ。
「ゴミがいっぱい来たね♪ お掃除開始だよっ」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)はそういって、ひらりと跳びだした。
 同時に彼女は歌を口ずさむ。それは「魂よ原初に還れ」の旋律だ。
 ローレライの髪飾りが燐光を放ち、その歌は力として周囲に響き渡る。
 リィムナが唱うと周囲のアヤカシはその歌で傷一つ無いままに、瘴気へと還っていく。
 その光景は美しくも、凄まじかった。彼女の歌に合わせて周囲のアヤカシが消えていくのである。
 だが、アヤカシたち全てを破壊出来るほどでは無く、アヤカシの数は多い。 
 それを撃破するのはリィムナの仲間たちだ。
「やれやれ、砂と塩でプレイトメイルが傷んでしまうよ。後で手入れが大変だ」
 ぼやきつつ、刀と盾を構えてリィムナの護衛に立ちはだかるのはフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。
 魚鬼の群れがやってこようと、それはすでにリィムナの歌でぼろぼろだ。
 そこを待ち構えるフランヴェル。盾で受け止めて、刀を一閃。
 柳生無明剣の一撃があれば、いくら強化された魚鬼たちだろうと一撃で粉砕されるのだった。
 さらに巧妙に二人を援護するのは雁久良だ。
 ブリザーストームとアークブラストを駆使して敵陣を粉砕。
 しかし、さすがの雁久良もそこで練力が尽きたのか杖を仕舞うと、なんと彼女は鞭を取り出した。
 そのまま、フランヴェルの隣でリィムナの護衛に付くのだった。
「霧依さん、手伝ってくれてありがとう、助かるよ♪」
「お安い御用よ。練力が尽きても、私は戦えるんだもの……でも私たち、ある意味最強コンビよね♪」
「……ある意味最強? どういう意味かな、ハハッ」
 軽口をたたき合い、リィムナの左右で刀と鞭を振るう二人。
 歌の響く中、彼女たちは押し寄せるアヤカシの大軍勢をモノともせずに粉砕していくのだった。
 だが、敵もますます強固な魚鬼の個数が増えていった。
 歌だけじゃ粉砕出来ないほど強化されているやつらも増加しているようだ。
 だが彼女たちは止まらなかった。
「沢山きましたね……でも、リィムナ姉さんも、仲間の皆さんもいるし、きっとどうにかなります♪」
 元気はつらつに、ファムニス・ピサレット(ib5896)はそういって神楽舞「心」を舞い始めた。
 それは術の力を強める神楽舞だ。それがリィムナの歌にさらなる力をあたえる。
 同時に、雁久良も残った練力でブリザーストームを放って、
「ファムちゃんの支援、すごく……イイわ♪ やっぱり小っちゃい子は最高ね♪」
 なにやら危険なことを宣う雁久良。しかし、そんなことをちっとも気にせずにファムニスは満面の笑みで、
「はい! 私も胸のおっきな人の支援してると漲ってきます!」
 興奮気味に応えて仲間の援護を続けるのだった。
 そんなやり取りに思わず苦笑しつつ、フランヴェルは一気に敵陣へ突入し回転切り。
 再び周囲に雑魚が詰め寄ってきても、
「……雑魚も指揮官も、あたしの前ではただのゴミだね♪」
 美しくも凄まじい破壊の歌を振りまいて、リィムナは微笑むのだった。

 リィムナたち四人は、周囲のアヤカシ全てを粉砕して敵陣を突き進んでいた。
 それと同様に、凄まじい勢いで敵陣を食い破る集団がもう一つ。
「さぁて……轟けあたしの、凱旋の雷!」
 それは鴇ノ宮 風葉(ia0799)を主とする開拓者の一団だ。
 主砲は風葉、轟けと吼えサンダーヘヴンレイを放てばそれだけで敵の一角が消滅する。
 もちろん、それだけの大魔法だ。連射も効かなければ狙いをしっかりと定める必要がある。
 その時を稼ぐのが、周囲の仲間たちだ。
「無理に切り込むよりお前の好きにさせた方がラクそうだからな」
 飄々と太刀を振るう海神 江流(ia0800)。彼の戦い方は、周囲の露払い、掃討役だ。
 接近する敵を押しとどめ、残党を切り払い、周囲をよく見る司令塔といってもいいだろう。
 そんな江流は瞬風波で攻撃し風を纏って回避力を高め、さらに横踏で敵を回避。
 ひらりひらりと敵を誘導して……
「呼吸を合わせなさい? 巻き込まれたら……痛い、じゃ済まないわよ!」
「分かってるさ。ちゃんと周りは見えてる。あとは、風葉がまとめて吹き飛ばしてくれれば、万々歳」
 風葉の言葉通り、ひらりと距離を取って江流が距離をとれば、そこには誘導された敵の一団が。
 それを見て、にやりと獰猛に風葉が微笑んで、再び渾身のサンダーヘヴンレイ。
 荒れ狂う雷撃が雑魚も強敵も、諸共に敵の一団を消滅させるのだった。
「調子でてきたね! なら、どんどん飛ばしていこうか! ね、風葉!」
「無理すんじゃないわよ! ……あたしがあんたも守ったげる」
「ありがと! なら、全力で……日御碕・神楽! いくよ!!」
 一転して攻守交代、飛び出したのは日御碕・神楽(ia9518)だ。
 風葉のサンダーヘヴンレイはすさまじい破壊力があるが、いかんせん消費が大きい。
 さらに、二発の雷撃で敵陣はズタズタ、まだまとまりが無いため一直線の雷撃では巻き込める数が少ない。
 そこで活躍するのが遊撃役の日御碕だ。
 江流とともに迎撃役を務めていた日御碕。だが瞬脚を使えば一撃離脱の高速戦闘が可能だ。
 撃ち漏らしや、範囲から外れたはぐれアヤカシ、そこに日御碕が襲いかかる。
 一転して風葉は援護役だ。アイシスケイラルを放って敵の防御を崩す。
 そこに、日御碕が刀を振り回し突貫するのだ。
 日御碕が遊撃に回って護衛役としては江流が盤石の構えで待ち構えているのだ。
 さらに他の仲間が援護に回っていた。
「私は瑠璃。ただの女より生まれでて、風葉と出会い、生きる意味を、歌を覚えた一人の女」
 唱うように、高らかにそういって言葉に音を乗せる少女は鴇ノ宮 瑠璃(ib9871)。
「この私の生き様、踏み超えるならばやってみるがいいですの!」
 彼女は仲間を強化するために精一杯声を振り絞る吟遊詩人だ。
 寒空の下で、暖かな音色を響かせるリュートを手に仲間を助けるための歌を唱う彼女。
「精霊よ! 我ら共にアヤカシと対峙する者なり! 我らに助力を、剣となり、盾となり給え!」
 高らかにその声が響けば、それはたしかな力となって前衛たちの刃に力をあたえるのだ。
「……されば我ら、魔を討つ戦士とならん!!」
 高らかな声に合わせて、日御碕の刃が大きな魚鬼を一刀両断にした。
 吟遊詩人の奏でる剣の舞、その力によって前衛の力が増しているのだ。
「支援ありがと! ならそろそろもう一発ね……攻撃はあたしに任せなさい!」
 三度、風葉はその力を練り上げて、大技を放つ構えに入る。
 それを見て瑠璃は口笛で仲間に合図、すぐさま射線から外れる江流と日御碕。
 そこで最後の仲間の援護がだめ押しだ。
「風葉様ぁああ! ああ、こんな場所でなければもっとお慕い申し上げたものをおおお!」
 感涙というかなんというか。叫びながらもひたすらに矢を乱射している篠崎早矢(ic0072)。
 彼女は腰の箙から矢を取るのも惜しみ、あらかじめ周囲の地面に指した矢を引き抜いて次々に放っていた。
 その速さはまさに神速だ。乱射やガトリングアローによって雨のように敵に矢がふりそそぐ。
 彼女の目的は、まず第一に、
「汚らしいアヤカシどもめ、絶対に近づけさせるものか!」
 と彼女が叫んでいるように、敵への牽制だ。
 だが今回は違う。矢のような雨で敵を追い込んでいるのだ。
 それは最も多く敵を風葉の大魔術が巻き込めるように誘導する形で……
「今です、風葉! 私もこの歌で!! …‥‥精霊よ、今一度我らに敵を討つ力を!!」
 さらに瑠璃が精霊集積で風葉の魔術を強化した。
 精霊力が渦を巻いて風葉の元に。そして風葉は周囲の仲間を満足気に見渡して、
「……ハアハア、一瞬、一息つける程度の余裕ができましたね、団長、褒めてくださいハアハア……」
「はいはい……この一発を放ったあとで、踏んだり蹴ったりしたげるから」
 若干一命、篠崎の言葉に苦笑しつつ、最大級の雷撃を解き放つのだった。
 そして放たれた強化されたサンダーヘヴンレイ。
 それは、誘導されて集まった敵の群れを貫いて、全てを瘴気に還元するのだった。


 恐ろしいほどのアヤカシの群れ。
 だが、それ以上に開拓者達は強かった。
 鍛え上げた個人の力で敵を正面から粉砕する猛者。
 磨き上げた連携の力で縦横無尽に敵を翻弄する仲間。
 築き上げた集団の力で協力しあい敵を圧倒する一団。
 それぞれがアヤカシの群れ深くを蹂躙し、あっという間に数を減らしていくのだった。

 だが、それでもなおアヤカシは数の多さで突破を計っていた。
 全員が無有羅の影響で死を恐れぬ無謀なアヤカシと化しているこの一軍。
 彼らは敢えて強い相手にぶつかって玉砕するだけではなく、寄り開拓者の防御の弱い方を狙う知恵があった。
 しかし、そこでもまたアヤカシは開拓者の強さに直面する。
 それは決して負けられぬという意志の強さだ。

「推参なりアヤカシども! 私こそは武天国が住人、正木大膳亮雪茂!」
 女武芸者、正木 雪茂(ib9495)は片鎌槍を手に、敵の群れを前にして名乗りを上げた。
「汝らことごとく討ち果たし、後世への誉れとしてくれん!」
 白の具足、白の陣羽織、そして業物の槍からは白いオーラをたなびかせて、雪茂は敵陣に突っ込んだ!
 時が足りず、愛騎を連れてくることは敵わなかったが、それでも彼女はひるまない。
 背の低い小鬼には突き下ろしと下段の薙ぎ払い。
 片鎌槍の形状を行かしての柔軟な攻めで一匹たりとも敵を通さぬ盤石の構え。
 そして魚鬼に対しては、胴体狙いの鋭い突きだ。
 急所や鱗の隙間を狙っての突き、そして一転して槍を袈裟懸けに振り下ろしての強撃。
 それを縦横に織り交ぜる戦い方はまさしく一流の武芸者ならではの技の冴えだった。

 仲間たちは敵陣の中でその掃討を行っている。
 ならば、そこからはみだした敵は彼女たちが止めなければならないのだ。
 そんな決意で手傷を負いながらも雪茂は果敢に闘っていた。
 そこに新たな加勢が現れる。
「ここから先、お通しするわけにまいりません。大人しく倒されてくださいませ」
 ひらりと足場の悪さも何のその、雪茂の近くにやってきて槍で敵を討ち払う二香(ib9792)。
 武僧ならではの身のこなしと、その槍捌きで雪茂を援護し、さらには敵が引いた隙に浄境での治療。
「これはかたじけない……」
「いいえ、この地獄絵図もあとすこしです……全力で叩きつぶしましょう」
 そういって、二人は背中を合わせて槍を構えて。
 周囲の迎撃を続けるのだった。

「あと少しです……無理はしないでくださいね」
 強力な癒やしの技、精霊の唄で周囲を治療する柚乃。
 その力を受けて、大暴れをしていた面々も最後の一踏ん張りだ。
「強敵と呼ぶには物足りないが……少々数が多いのだけが面倒だったな」
「うむ、だが残りも妾の得物じゃ!」
 大いに暴れる羅喉丸とリンスガルト。
 羅喉丸が一撃で敵を粉砕すれば、リンスガルトはなんと刀を収め素手で馬鬼を殴打殴打殴打!
「潰すのは指揮官からってねぇ。さっさと舞台から降りちまいなぁ」
 残り少ない魚鬼を潰すのは、不破だ。精密射撃で強敵を狙い撃ちして敵を追い込んでいく。
「さあ追い込むわよ!」
 ライラたちのような単騎の開拓者達も連携し残党を追い詰めて、
「妾たちは、必ず勝たなくっちゃいけないのじゃよ! さあ、最後まで闘うのじゃ!」
「分かったは朱音様……最後の連携を致しましょう!」
 朱音の言葉の熱に呼応するように、クリスティアも最後の練力を絞って魔槍砲を構えた。
 二人は残り少ない残党を狙い撃ち。そして最後は、
「大丈夫! 絶対当てるよ……だってあたい毎日練習してるんだから!」
 ルゥミは長射程の狭間筒「光明」を手に狙いを定めていた。
 狙撃の一瞬、それは一番遠くの海岸をふらついていた最後のアヤカシを捉えて粉砕して。
 その一撃で、ついに開拓者は全アヤカシを掃討し終えたのであった。

 そして戦いは終わった。
「……」
「もしかして、駄洒落を考えてます?」
 やっと武器を収めつつも、黙考する九竜に雪音が問えば。
「敵は魚だけに、まだ海の下に潜んでいる……まさかな。……ま“さかな”……」
 自分で言っておいて、首を捻る九竜に、これまた無表情な雪音。そんな二人に、
「よければどうぞ」
 柚乃が甘酒を手渡して。
 戦いが終わって、わいわいと仲間同士騒ぐ風葉たちのような集団も居れば、
「ラシュディア、ちょっとかがんで貰えますか?」
「なんだい、ジレディー……」
 傷一つ無く婚約者を守り通したラシュディアは、婚約者にそういわれて身をかがめた。
「チョコは苦手です。だから代わりに……」
 そういって、ジレディアは口づけを一つ。
 こうして、無事に一人の重傷者を出すことも無くアヤカシは掃討された。
 それは一重に、連携と優れた実力をもつ開拓者が集まったからに他ならない。
 これにて無事に依頼は成功。開拓者達は強い絆や新たな自信を胸に帰路につくのだった。