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■オープニング本文 たとえ年中無休の開拓者でも、年末年始ぐらいはゆっくり過ごしたいものだ。 家族や仲間、一人でのんびりと行く年を惜しみ来る年を楽しみ。 お正月ならではの風物詩に触れて、正月料理もたっぷりと堪能する。 外は寒いし、しばらくのんびり寝正月も良いだろう。 だが、そんな生活を続けていると、あるときふと気付いてしまう。 ちょっと、太った? ……そういえば、のんびりとこたつでごろごろ寝正月。 ちょっと豪華な正月料理に、甘いお餅をぱくついていた気がする。 仲間と集まれば正月だからと宴会続き。 年に一度だとちょっと豪華な料理にお酒、甘い物だっててんこ盛りだ。 外は寒いし、のんびりと火鉢に当たってくつろいで。 網で干物を炙って、酒を飲んで……。 そんな生活を繰り返していたら、そりゃ太るだろう。 そんな開拓者に朗報。 ちょっとした依頼のついでに、なまった体をスッキリさせるのはどうだろう? 神楽の都から、街道を外れて暫くすすんだ山の中。 水の綺麗なその山奥に、小さな集落があるという。 そこは、山の湧き水が有名な場所らしい。 そこに荷物を運んで貰おうというのが依頼の内容だ。 運ぶのは、集落のための生活雑貨、だが結構な重さがあるという。 そして、その集落でも幾つかの雑用を片付けて欲しいらしい。 具体的には薪割りや、古いお寺の修繕など。 その集落にある古寺は精進料理で有名で水が綺麗だからと豆腐料理でも有名だとか。 山には小さな温泉もあり、そこの蒸し風呂は格別体に良いとも言われている。 荷物運びで適度な運動、集落でもいろいろと仕事をすれば良い運動になるだろう。 そして豆腐料理や精進料理で、なまった体をすっきりとさせて。 ついでに温泉で汗を流せば、すっきりさっぱり出来るのではないだろうか? さあ、痩せにいく? |
■参加者一覧
鳳・陽媛(ia0920)
18歳・女・吟
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
一之瀬 白露丸(ib9477)
22歳・女・弓
不散紅葉(ic1215)
14歳・女・志 |
■リプレイ本文 ● 「巫女の鳳・陽媛です。宜しくお願いしますね」 ぺこりと可愛らしくお辞儀する鳳・陽媛(ia0920)、その手を誰かがきゅっと握った。 「陽媛さんと一緒……ん。なら、尚更頑張る、よ」 かくり、と首を傾げるのは陽媛を見上げる不散紅葉(ic1215)だ。 無表情ながらも、見知った顔を見付けて喜んでいる紅葉に陽媛も笑いかけて。 「紅葉さんと一緒で私も頑張れそうです♪ そういえばエメラルドさんもご一緒だったと思うのですが……」 すると、そこにはなにやら思い悩む様子のエメラルド・シルフィユ(ia8476)が。 「むむ……なんだろう……少し二の腕とお腹が……緩んだような……い、いやいや! そんな筈はない!」 お腹全開な家伝の衣装を着こなすエメラルドにとっては、これはかなり大問題のよう。 「大丈夫。緩んだ筈はないけど……仕事しよう。そうだ、開拓者として!」 理由付け、というか言い訳を見付けて顔を上げたエメラルド。そこで漸く彼女は、視線に気付いた。 「む? ふしぎ。お前も来ていたのか」 「お正月はちょっとゆっくりしすぎちゃったし、温泉があるって聞いたから! ……あ」 天河 ふしぎ(ia1037)とエメラルドはあることを思い出した。 昨年末、山奥の秘湯を探す依頼にて、二人は何の因果か混浴することになったのだ。 「そっ、その、この間の温泉はゴメン……なんだからなっ!」 「ご、ごめんとはなんだ!? あ、謝られるような事など何もないっ!」 顔を真っ赤にして頭を下げたり否定したりと忙しい二人。しかし他の面々は自前の問題で大忙しだった。 「荷物の重さは……こんな所でしょうか。生憎と私はそこまで力があるわけではないので……」 荷を用意して貰った背負子に積み込む斑鳩(ia1002)。彼女はその二の腕をぷにぷにと触れて。 「慢心って、恐ろしいですね……年末ちょっとだらけていただけで、あっという間にお肉が……」 そんな言葉に大きくエメラルドが頷いた。 「うむ、慢心か……慢心は良くないな。よし、荷物を増やそう。これも痩身……ではなく鍛錬だ!」 斑鳩の荷物からすこし奪って自分のに追加。一方山盛りの荷物を前に難しい顔をしているのは。 「私は太っていないわ。ええ、太ってはいないのよ」 自分に言い聞かせるレヴェリー・ルナクロス(ia9985)だ。 だが、女の後ろにそーっと猫宮 京香(ib0927)は近付きながら。 「ただちょっと、そう、人よりちょっとだけ甘い物が好きなだけで……聞いているの? 京香」 「聞いてますよ〜。でも、あれだけたくさんのお菓子を食べたのですし〜。ちょっとだけですか〜?」 「たしかにお菓子は食べたけど、ちゃんと運動しているし……」 「いくら運動していると言っても、限度がありますよ〜……ほら、お腹つかめますよ〜?」 「はぁぅ!?」 京香が後ろから、がばっと抱きついてむにっとそのお腹をつまんだ。 「ほらほら、こんなになってますよ〜?」 「ちょ、京香、そんなにつまんじゃ……はぁぅ!」 なにやら悩ましげな声を上げて悶えるレヴェリーだったり。 女性陣のそうした悩みとはあんまり無関係なお嬢さん方も。 「私はむしろもっと太れと言われるんだがな。私の体が小さすぎるんだ」 からす(ia6525)が、成長著しい女性陣を眺めつつそう言えば。 「うむ、泰拳士たる妾も日々修行し余計な肉がつかぬ様、体を絞っておる」 からすと同じほどの小柄な体躯の泰拳士、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が胸を張る。 この二人は、大人な女性陣の悩みとは無縁らしい。 「ならばより頑健に成長する必要は?」 「成長で身体運動の目算が狂い、十全に戦えぬでは話にならぬからの。このままで良い」 からすの問いにあっさり答えるリンスガルト。 「それに、妾は毎晩恋人と……いや、何でも無い」 「うむ、ごちそうさまだ」 リンスガルトの危険発言を笑って流すからす。見た目以上に大人な二人であった。 ● 「正月に怠けてしまったかな……だが、こうして体を動かす機会があって良かった。では出発しようか」 天野 白露丸(ib9477)の声で、一同は荷物を背負って歩き始めた。 狭い山道で道が悪いため荷馬や荷車は使えないが代わり背負子などを用意して。 「怪我をしたら大変だから、無理はしないようにしよう」 黒い毛皮をくるりと首に巻いた白露丸が先導役。後に続くのは陽媛と紅葉。 「山道をこんなに歩くのって久し振り……」 「知らない場所に、初めての物……そういうのを見るの、ボク好き、だよ」 紅葉の言葉に、にっこりと頷く陽媛は重い荷物も苦に感じないようで。 「そうね、新しい景色………ところで紅葉さん、荷物は大丈夫?」 「ん、大丈夫。そうだ、温泉……って言うのがあるみたいだけど、どんなのだろうね?」 かくりと首を傾げて尋ねる紅葉に、にっこりと陽媛は笑いかけるのだった。 彼女たちの後ろにはエメラルドとふしぎだ。 「すっごく重そうだけど……すこし僕が持とうか?」 元来優しい性質なのだろう、ふしぎがそう言うと。 「手伝いはいらん! ここまでは私の担当だ! ……怠惰は敵なのだっ!」 くわっ、とエメラルド。 「それに、寒いと身体は脂肪を燃やそうとすると聞く……」 「へ? しぼう?」 「……あ! し、脂肪とか、なんでもないっ!」 「は、はいっ!」 迫力に気圧されて、黙々とふしぎは荷物運びに集中した。 「なるほど、太りたいと……私の逆に痩せたいですけど、痩せても胸だけは大きいままなんですよねぇ」 体質なのかな? と首を傾げる斑鳩に、からすは思わず自分のぺったんこな胴体を眺めるが。 「ふふん、あろうがなかろうが相手の好み次第……ごほん、うむ、まあ体質次第だからの」 無い胸を張るリンスガルト。しかし、からすはべつに悩みなんかは無いようだ。 「ふむ、私は単に弓術士として天儀の弓を引く場合、胸があると辛そうだな、と思ってね」 そしてからすはちらりと後ろに視線を。 そこには大荷物を背負った騎士のレヴェリーと、弓術士の京香が。 「あら〜? 胸の話ですか〜。でも、結局は慣れですよ〜? それに機械弓なら胸は関係ありませんし〜?」 笑って応える京香だが、彼女は手を横に伸ばすと大荷物でへろへろしているレヴェリーの胸をつんつん。 「あぅ! な、なな、何するのよ京香!」 「私はただ、こ〜んなにお肉が付いちゃうと、武器を振るのも大変では? と思って〜♪」 「はぅん! 京香、分かったから! だからつつくのは……って揉むのもやめなさい〜!」 つんつんむにむに。なんだか怪しげな話で盛り上がる後ろの女性陣たち。 そんな話が風に乗って聞こえてきたのか、ますますぎくしゃく山道を行くふしぎ……。 「どうしたふしぎ。疲れたのか?」 「い、いや……ナンデモ、ナイデス……」 と、重い荷物も何のそので、開拓者は半日ほどで無事に目的の村に到着するのだった。 ● 村での宿泊場所は古寺だ。広いが古い分、寒さが染み入ってくるようで。 「なら、体を動かせば問題ない」 朝から弓の鍛錬するからす。早起きして、弓の空撃ちをしてから、彼女の一日は始まるらしい。 同じく鍛錬する仲間も居るようだ。巫女舞を練習する陽媛は、眠そうな紅葉に見守られて。 そして、ほどほどで他の仲間たちも起き出してきて、朝ご飯の時間だ。 粥におみおつけ、漬け物やつくだ煮、そして少しの煮物。それで朝ご飯は終わり。 すこし足りないぐらいだが……ともかく一日の仕事が始まった。 「これは修行よ修行……除雪を怠ると大変だからね。頑張らないと」 空きっ腹を無視するためにも集中して、せっせと雪かきをするレヴェリー。 なにせ範囲が広い。丁寧にやれば結構雪かきも大変だ。だが、そんな時に悲劇が。 「結構進みましたね〜。あと少しですよ〜」 「ええここはこの塊で終わりね。なら奥の方に放らなきゃ……えいっ!」 「……きゃぁ!? つ、冷たいですよ〜!?」 レヴェリーが放った雪が、一緒に作業中の京香に直撃したのだ。 「き、京香? ごめんなさい、大丈夫?!」 「ええ、全然大丈夫ですよ〜。はい、もうまったく全然問題ないのです〜」 いつもどおりニコニコ返す京香だが、さすがに付き合いの長いレヴェリー。 「あの、怒っているわよね? 絶対怒っているでしょう!?」 大慌てのレヴェリーに、ただ京香はニコニコするだけだったり。 「私も手伝いたいのだが……危険な事をすると、怒られる気がするしな」 苦笑して、屋根を見上げる白露丸。 毛皮に顔を埋めれば、自分を叱る恋人の顔が脳裏をよぎるようで危ないことはなしと決めているよう。 そんな彼女の視線の先には、屋根の上で仁王立ちのリンスガルトだ。 「大丈夫じゃ! 妾は身軽で、幼子故体重も軽い……まず雪を下ろしてから屋根の修繕を始めようかの」 二人は古寺の屋根の雪下ろしとその修繕を担当しているようで、協力してテキパキと作業は進む。 一方、どたばたと賑やかなリンスガルトの足の下、屋根裏では。 「流石に狭いが……うむ。太っていたらここの隙間にも入れなかっただろうな」 屋根裏の隙間に入り込んで、傷んでる箇所を探したり、時には天井周りの細工を修繕したり。 小さい体を活かして細かい仕事をこなすのはからす。 そして彼女が猫の細工がついた欄間を修繕していると丁度外では薪割りが始まった。、 「あれはエメラルドとふしぎ、か……女性の中に一人だけふしぎが混ざってるのは、もう自然だね」 ふっと笑って、彼女は今回はどんな騒動があるのかなと考えつつ、新たな細工をはめ直すのだった。 「お正月とかってやっぱりおせちが美味しいよ、ね……」 話題を振るふしぎ、だがエメラルドはきっと彼を見つめて。 「それは禁句だっ! ……やはり薪割りは剣の鍛錬に他ならん。ですよね……? 神よ」 さっぱり相手にして貰えないふしぎ。そこにやって来る斑鳩。 「そろそろお昼ですよ」 その言葉に、エメラルドは喜色満面で、 「朝も食べたが、好きなだけ食って太らない魔法の料理なのだよな! 豆腐とか……」 「ええと、魔法では無いですけど。健康には良いですよ」 斑鳩とエメラルドの二人は笑い合う。そんな二人をみて、ふしぎはほっと息をついて。 「うん、そうだお豆腐といえば、やっぱり冬はすき焼きと、か……」 「……慢心は恐ろしいのです」 「……ああ、慢心は敵だ」 ぎろりと二人に見られて、口を噤むのだった。 唯一の男性、天河ふしぎ。彼は今ひとつ何で女性陣が必死なのか気付いていないのだ。 そんなわけで、何度も睨まれて、しおしおといつも以上に疲れるふしぎであった。 ● 「ん、生姜葛湯……暖まる、よ?」 かくりと首を傾げて仲間に生姜葛湯を渡す紅葉。 「はい、今日は体力仕事も多かったでしょうから、煮物の味付けはすこし濃いめです。どうですか?」 お膳に料理をのせて運んでくる陽媛。 陽媛と紅葉、そして斑鳩は寺の坊様たちから精進料理の手ほどきを受けたようでその料理がずらり。 つやつやの白米、薄味ながら良い水と大豆で出来た味噌が香る味噌汁。中の豆腐が舌に優しい。 おかずも疲れた仲間をいたわるために少し豪華だ。山芋を使った茶碗蒸し。泰国風に山芋入り焼売。 舌をさっぱりさせるキクラゲの酢の物。そして、たっぷりの根菜類が入った煮物。 「これ、どうかな?」 「とっても、美味しい、よ」 陽媛が作った一品は、ずっと手伝っていた紅葉のお墨付き。 さらには豆腐の料理もいろいろ揃っている。炉端で炙った田楽には蕗味噌。 ほろ苦さが豆腐の甘さを引き立てて、さらには油が一切無いのも辛いかもと、大豆の揚げ浸し。 油揚げを使った白和えに凍り豆腐。それがずらりと揃っていて。一同は、物も言えずに平らげて。 「……やはり、良い水がある場所は良い食材ができる。あとでお茶を淹れさせてもらおうか」 料理を満喫した一同は幸せな気分でからすのお茶まで楽しむのだった。 「紅葉さん、一緒にはいろ♪ エメラルドさんもよかったらどうですかー?」 陽媛は紅葉とエメラルドを誘って温泉へ。体を露天風呂で流してから、向かうのは蒸し風呂だ。 「お〜、温泉……こういう感じなんだ……あったかくて、もくもく」 蒸し風呂に、めをぱちくりさせる紅葉。じんわり染み入る温もりは幸せだ。 3人は並んで腰を下ろしてほうと一息。そんな中、陽媛をじっと見る二人。 「どうしたの紅葉さん?」 「ん……綺麗だな、って……」 そんな言葉に、良い景色だったね、と返す陽媛。笑い合う二人……だが、エメラルドは。 「……陽媛、かなり細いな……くっ、強敵か」 と思わず呟いていたり。そしてのぼせる前にと出て行く二人をエメラルドは見送って。 次に、やってきたのはレヴェリーと京香。 「んふふ〜、岩風呂ではタオル巻いたらいけないですよ〜。タオルは下に引くのです〜」 「え。ええっ!? 京香、ちょ、返して頂戴! ……でも、そういうしきたりなら」 京香を怒らせてしまってレヴェリーは強く出られないようでしぶしぶタオルを外して岩肌に敷いて横たわる。 だが、それが京香の計画だった。 「さて、レ・ヴェ・リー・さん〜♪ 力仕事して身体凝ってませんか〜?」 「え、ちょっと京香ぁ〜っ! いや、マッサージは湯上がりにするものでしょう!?」 「ほぐしてあげるのですよ〜♪ 遠慮せずに、私に全て任せてくださいね〜」 「いや、それはだめぇ〜!!」 となにやら悩ましい悲鳴を上げるレヴェリー、それを好き放題する京香。 「……まぁ、幸い女しかいないしな……」 なんだか頭を抱えつつ、見てみない振りをするエメラルドだった。だが彼女は忘れていた。 「流石にこれだけ冷えてると、温泉の湯気も……あれ? 先客さんが……えっ、エメラ……」 「え、ふ、ふしぎ……」 二度あることは三度ある。しかも今度はエメラルドだけじゃなくていろいろとおまけ付だ。 「「「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」 声にならない悲鳴が幾重にも響いたとか。 「なにか……悲鳴が聞こえたような?」 のほほんと温泉を満喫する斑鳩。彼女は暇さえあれば露天風呂を満喫中だった。 一方、賑やかなのは、 「ははは! 気持ちよいのぅ。蒸し風呂で火照ったからだを雪で冷やすのがジルベリア流じゃ!」 「なんだか風邪を引きそうだが、まぁこれはこれで身が引き締まるね」 ジルベリア流に蒸し風呂を楽しむリンスガルトにからすが居たり。 そして月を見上げて、黒い毛皮に顔を埋める白露丸は。 「……いつのまにか、すっかり寂しがり屋になってしまったな」 今度は一緒に、と愛しい人の顔を思い描いて。そして早めに風呂を出た少女2人は、明るい囲炉裏のかたわらで。 「陽媛さん………一緒に来てくれて、ありがとう、だよ」 「うん、こちらこそありがとう……」 ほんのりとだけ笑みを浮べる紅葉に、陽媛も優しい笑顔で応えて、笑い合うのだった。 |