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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 開拓者というものは、新たな世界を拓く仕事である。 新しい世界、新しい文化、見たこと無い景色に新しい産物……。 だが、なによりも。開拓者という仕事には一攫千金の夢がある! 遺跡や新しい儀から見つかる新たな産物が巨万の富を産むこともある。 新たな技術、新たな素材、見たこと無い資源に新種の動植物。 それを入手し、活用し、流通できれば大きな財を産むことだろう。 貴方たちは、幸運にもそうした巡り合わせで巨万の富を得た。 万屋を経由して飛行船を借りる? 必要ないない、買っちゃおう。 大きな家を建てるのも良いだろう。素晴らしい装備を調えるのもいいだろう。 天儀どころか他の国からも美味しい物や珍しい物を集めて宴会をしようか。 はたまた、大盤振る舞いで仲間と共に大旅行も良いかもしれない。 この世は金が全てとは言うまい。金で買えない物は沢山ある。 だが、大概の物が金で買えるのは事実だ。大きな自由を、大金があたえてくれる。 さて、貴方はこの金でどんな風に使うのだろう? 誰もが夢見るこんな状況。新年から縁起も景気の良い話だ! さて、どうする? ……だが、好事魔多し。 金があるところを、悪い奴らが狙うのも事実だ。 貴方たちの財産を狙って、悪い盗賊団が動き出したらしい。 とんでもなく巨大な盗賊団、その構成員は百を超えるらしい。 盗賊団の名は「闇梟」(やみふくろう)。大物狙いの大盗賊団だ。 大事な金を守るため、戦わなければならないようだ。 護衛を雇うのも良いし、防備を固めるのもいいだろう。 金を守るために金を使わなければならないが、金は腐るほどある。 さて、あらためてどうする? |
■参加者一覧 / 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / ペケ(ia5365) / クリスティア・クロイツ(ib5414) / 高崎・朱音(ib5430) / 計都・デルタエッジ(ib5504) / 十朱 宗一朗(ic0166) / 呉 花琳(ic0273) |
■リプレイ本文 ● 幸運に恵まれたのか、はたまた努力が実ったのか。 とにもかくにも、とんでもない金持ちになった開拓者達がいた。 金がこの世の全てでは無いが、この世の大半のことは金で何とかなるわけで……。 巨万の富を誇示することも無く、長閑な生活を満喫する少女が一人。 古風な田舎の屋敷の奥で、遺跡から発見した貴重な宝をのんびりと眺める柚乃(ia0638)。 彼女がもたらした様々な発見はこの天儀の歴史に大きな進歩をもたらしたのだが……それはまた別の話。 もふらの八曜丸や宝狐禅の伊邪那、からくりの天澪等の相棒達とともにのんびりと暮す柚乃。 だがそんな彼女に魔の手が迫っていた……。 迫り来る盗賊団「闇梟」、それが若き大富豪の柚乃に目を付けたのだ。 田舎の村落であれば、周囲に人の目は無いだろうし、防備も薄いはずだ。 それに何より村の主となったのは未だ若い女一人。 たとえ、歴戦の開拓者だろうが、たった一人なら……。 しかしそんな状況にもかかわらず、柚乃はのんびりともふらの八曜丸にぎゅっと抱きついて。 「いい、天気ですね……」 小さく伸びをして、冬の麗らかな日差しに目を細めるのだった。 はたして、彼女はどうなってしまうのだろうか? 「くぷぷっ、まさか先月末にモフ……げふん、げふん……ナンデモアリマセーン」 なんだか怪しげな事を呟いているペケ(ia5365)。 彼女が巨万の富を得た理由や経緯は、永遠の謎である。 彼女は、絶海の孤島に居た。 そこにあるのは、手つかずの自然と……。 「これにて風雲ペケ氏城、完成〜!」 何故か、巨大な天守閣がそびえ立っていた。 見上げるほどの巨大なお城、しかも無人島全域にわたってなにやら仕掛けがぎっしりのようだ。 城を守るのはカラクリたちだ、ずらりと揃った軍団を眺めてペケもご満悦で。 「さあ、城の上までやってきた人には金一封ですよー」 実はペケ、余るどころか余りすぎて唸りまくるお金をエサに使った模様。 結果、天儀各地から賞金を目当てに、盗賊団どころか開拓者までが大行列で押しかけていた。 そんな挑戦者を前に、ペケは天守閣最上階で仁王立ちして。 「さぁ、この城攻略できるかな? 皆の者、心して城をまもるのだ〜!」 ノリノリで待ち構えるのであった。 そして、巨万の富があれば、とんでもなく豪華な生活をすることも可能だ。 異国の言葉では、せれぶ、と言うらしいが……。 「乾杯〜♪」 常夏の国、泰国。そこにそびえる大邸宅。そこの豪奢なプールサイドに一人の男がいた。 古代文明の遺跡を発掘し、名声も金も……全てを手に入れた男、天河 ふしぎ(ia1037)だ。 空賊団の仲間や、屋敷のメイドさんがずらりと彼の周りには勢揃いしていた。 燦々と降りかかる暖かい夏の日差し、そんなプールサイド。 しかも周りは全員美女、もちろん水着姿だ。 ……男の子ならば誰もが一度は夢見る状況だろう。 だが、そこで彼は酒盃をくいっと飲み干して、高らかに言い放った! 「さて、そろそろ次の冒険に行きたくなるよね、みんな!」 たとえ、周りに名だたる美女が選取り見取りだろうが、彼の冒険心は止められないようだ。 その声に、仲間たちは応と応えて準備に取りかかるのだろうが……。 そんな彼の邸宅に迫り来る魔の手があった。 天儀の世界に名を轟かせる空賊団、しかもその団長のふしぎは大富豪だ。 ならば彼の邸宅には、素晴らしい宝が多くも眠ってるはずだ。 そんな思惑の盗賊団「闇梟」はふしぎの屋敷に向かっても迫りつつあったのだが。 「……どうやら冒険の前に、招かれざるお客が来たみたいだね。総員、迎撃用意!!」 なにやら嬉しそうなふしぎ、彼は盗賊団が迫り来る事を知りつつ、堂々と待ち構えていた。 ● 使い尽くせないほどの金があれば、人はどんな夢を抱くだろうか? その一番単純にして根源的な夢を叶えた、二人の女性がいた。 「やはり宴と言えば、こうではなくてはなぁ」 「ええ、宴といえばやっぱり、贅の限りを尽くした酒池肉林ってヤツですよ〜♪」 にんまりと笑う高崎・朱音(ib5430)と微笑む計都・デルタエッジ(ib5504)。 酒池肉林、それは酒で満ちた池と、肉が実る木を揃えた庭園で宴を開いたという古の皇帝の故事だ。 その言葉の通り、朱音と計都は誰も見たことの無いほどの宴を開いていた。 それ一本で家一軒どころか、人の人生一回分がまかなえるほどに高価な酒。 希少な材料と当代一の腕前によって作られた贅沢な料理の数々。 そして、二人にとってなにより重要なもの……それは美しい男たちだ。 希儀に残されていた古代の英雄の像がごとき、筋骨隆々たる美丈夫。 透きとおるような肌と女性と見まごうばかりの美貌を備えた白皙の貴公子。 そしてまるで妖精かと思えるような、儚さと妖艶さを兼ね備えた紅顔の美少年。 それがずらりと彼女たちに傅いていたのだ。 淫靡で妖しい宴……そこに一人の客人が招かれた。 酒池肉林を目にして、目を見張り言葉を無くしているクリスティア・クロイツ(ib5414)。 それもそのはず、彼女はこうした贅の極みとは無縁。清貧を良しとする神の信徒なのだ。 「こ、これは一体……」 「おお、よく来たよく来た! 何を赤くなっておる。クリス、お主も楽しもうでは無いか?」 にんまりと笑みを浮べて手招きする朱音。彼女は傍らの美丈夫に杯を注がせながらそう言い放つ。 そして、同じく計都も、豪奢なドレス姿で寛いだまま。 「これは、クリスティアさんも、どうぞいらっしゃいませ〜」 そう客人のクリスティアの手を引いて宴に誘い入れるのだった。 「朱音様、計都様……なんですかこの乱痴気騒ぎは! ……あの、その……少しは節度を……」 周りの男性陣たちを見て、羞恥心から真っ赤になりつつクリスティアは二人に言う。 だが、二人はそんなお堅いクリスティアをじっと見つめると、しっしと男性陣を下がらせて。 「そんなカタいコト言わず〜、どうぞ愉しんでってくださいな〜」 「そうじゃ! たまにはこういう場所で羽目を外すのも悪くないぞ?」 計都と朱音が左右からがっちりと引き込んで、妖艶な宴の奥へと連れて行ってしまうのであった。 「え。あ、いや、わたくしは……あぁぁ、お、お放し下さいましぃ!? か、神よお許しくださいませ……」 いつのまにやら豪奢で淫靡なドレスに着替えさせられたクリスティア。 あれよあれよというまに二人の過激なスキンシップに翻弄されて。 「くくくっ、なかなか良いもの持っておるのぉ」 「ええ、恥ずかしがることはないですよー。大丈夫、優しくしますから〜」 「……そ、そんなぁ♪」 抵抗もそこそこに、お酒を飲まされてしまえば何がなにやら。 クリスティアは、計都と朱音とともに妖しい宴にどっぷりと溺れていくのであった。 ……もちろん、彼女たちの宴に盗賊団が迫りつつあるのだが……。 その結果は後ほどわかるだろう。 ● 粋で鯔背なお大尽、を気取るとなると、身だしなみから髪の手入れにとかくお足がかかるものだ。 天儀に点在する遊郭は数あれど、その格式はぴんからきりまで。 中には、一番の花魁と一夜の夢を共に見ようとすれば蔵が建つ、という場所まであるという。 そんな場所で豪遊しているのは、十朱 宗一朗(ic0166)だ。 流行の高価な衣装を身につけて、宴会のために集めた芸人や太鼓持ちへも大盤振る舞い。 そんな賑やかな場でも、宗一朗の顔はどこか飄々としていた。 「……ぶっちゃけ、欲しいものなんてないんやけどなあ」 へらり、と笑いつつ、全く表情は変えず。あくまで大金持ちのお大尽な宗一朗。 彼の内には一抹の寂しさがあるのだが、それは誰にも気付かれないようで。 そして彼は、今日もまた遊郭をあとにして、ぶらりと夜の町に消えていくのだった。 「うちは自由やー!」 手に入れた大金で、大きく生活を変えたのは呉 花琳(ic0273)だ。 彼女は元は宗一朗に使える従者だったのだが、替わりの護衛を雇って自分は自由の身。 そんな彼女が、まず最初に取りかかったのは、 「もう、守るヤツもおらんのやし、存分におしゃれしてもええんやな♪」 というわけで、早速お買い物に繰り出すつもりの花琳だ。 家からぽんと駆けだした花琳は、いつものように振り返って主の宗一朗の姿を探す。 だが、もちろん自由になった彼女には守るべき主はもういないわけで……。 (………寂しくなんてないわ) そんな思いを断ち切るように、勢いよく花琳は買い物に出かけるのであった。 流行の帯に新しい色の反物、珍しい簪に装身具、色とりどりの宝石。 裁縫が苦手な花琳は仕立てを含めて全部丸ごとお店に頼んで、その結果……。 「お、おも……前が見えへん……」 山のような荷物を抱えて、よろよろと歩く花琳の完成である。 そこにふらりと通りかかったのは、今日も今日とて大尽遊びから朝帰りの宗一朗。 宗一朗が気付いたときにはすこし遅かった、崩れかけた荷物を支えようとした花琳がふらついて。 「わっ、おっと……危ない!」 どさどさと崩れる荷物の山に二人は巻き込まれてみたり。 「なんや一体! っと……花琳か」 「って宗!? こんなところでなにしてんねん」 お互い、かつては主従として過ごした間柄だが、思わずお互いの姿をじっと見つめて。 最初にやれやれと口を開いたのは宗一朗だった。 散らばった荷物の山をぐるりと眺めてから、 「……きみ、あほなん? 一気に買い込むから持てへんのやろ」 「なんやの、もううちはあんたのお守りちゃうねんで。何買おうが勝手やろ」 「へー、買い物。ま、幾ら着飾ったところでそう変わらんけどな」 「なんやその言いぐさ!」 ぷいっとへそを曲げる花琳に、本心を見せられずイヤミを言ってしまう宗一朗。 やいのやいのと言い合いながら道を進む二人だったが……。 二人の周囲からはいつのまにか人の気配が消えていた。 いや、人の気配は沢山あった。それは一般人では無くて、 「宗! 危ない!!」 飛んできた手裏剣を、同じく手裏剣で迎撃したのはとっさに動いた花琳だった。 ふたたびばらばらと散らばる荷物の山、そこにはいつの間にか盗賊団がずらりと周囲を囲んでいた。 とっさに背中合わせになって構える花琳と宗一朗。 花琳は苦無を抜き放ち、宗一朗は豪奢な衣装に着替えても手放していなかった三叉の戟を構えて。 「……もう! 世話が焼ける奴やな! やっぱりあんたみたいな能天気にはうちがついとらんとな!」 「不本意やけど僕が背中を預けられるのはきみだけやし、しゃーないわ」 賊を前に、笑い合いながら二人は言い放った。 どうやら本来の調子を取り戻した二人は、盗賊を前にしても一片の不安も感じて居ないようであった。 ● 白昼の街中でおきた盗賊の襲撃。 それは宗一朗と花琳の二人を狙ったものなのは、間違いなかった。 だが無言でじりじりと包囲を縮めてくる盗賊たちを見ながら、宗一朗は悠々と懐に手をつっこんだ。 「?」 「いやあ、皆金目当てやと思ってなぁ」 にっと宗一朗が浮べた笑みの意図に気付いた花琳。 彼女も隠しからごっそりと両手になにかをつかみ出して。 「ほんなら、好きなだけ持ってき〜」 「金は腐るほどあるんやし、な!」 そういって二人は、両手にぎっしりと手にした金を、豪快にばらまいた! ちゃりんちゃりんと音を立てて、高額な金銀の貨幣が周囲に散らばる。 普通に生活していては滅多に見れない大判小判。 それが無造作に放られたら誰だって、例え盗賊でもそれ見てしまうだろう。 その瞬間、背中合わせの宗一朗と花琳は弾けるように飛び出していた。 宗一朗は、軍神の名を冠した戟を振り回し、盗賊達をなぎ倒す。 容赦の無い急所狙いの一撃に、賊たちは為す術も無く倒れ伏していく。 一方花琳は、風のように盗賊達の間を飛びまわる。 苦無と手裏剣が放たれて、蹴りや拳もついでにオマケ。あっというまに賊は昏倒。 そして、ちゃりんちゃりんとお金の跳ねる音が収まるのと同じ頃には、賊は全滅しているのだった。 「ほな、ちゃっちゃと縛り上げてとこか」 「そやね」 さくさくと賊を縛り上げた二人。そして花琳が散らばった荷物をため息と共に見つめていると、 「わやになってしもうたもんもあるやろ……一緒に買い直しにいこか」 「……宗が、そこまで言うなら付き合ったるわ」 ということで買い物をし直しに行く二人であった。 白昼堂々の襲撃をあっさり撃退された盗賊団。 さすがは一代で巨万の富を築いた開拓者は違うと認識を改めたのだろう。 彼らが次なる目標を狙う際、開拓者の油断を突くことにした。 具体的には、宴を開いて浮かれているときを狙おうとしたのだが……。 「何じゃ。我の楽しみを邪魔する無粋な輩じゃのぉ。ほれ、皆の衆出番じゃ!」 宴を邪魔されてご機嫌斜めな朱音嬢、やれやれと部下の美形男子たちに指示を飛ばす。 「こんなこともあろうかと集めてきたものが役に立つじゃろうて。さて、突破はできるかの?」 そして、彼女はぽちっと手元のスイッチを押した。 その瞬間、外から爆発音と悲鳴。もろもろの機械が作動する音と共に、新たに悲鳴。 彼女はこの酒池肉林な宴の周囲を、集めた銃器や機械を活用した罠でびっしりと覆い尽くしていたのだ。 紐を引けば、魔槍砲がどかん。スイッチを押せば精霊砲がずどん。悲鳴と怒号がこだまする。 もちろん宴を邪魔されてご機嫌斜めなのは朱音だけではないようだ。 「こういうときこそ、お金にあかせて集めた銃火器の数々の出番ですね〜♪」 部下達といっしょに屋根に登った計都。手元には世界中から集めた銃器の数々だ。 それをとっかえひっかえ撃ちまくれば、ばたばたと盗賊達は蹴散らされて……。 そこに、ふらりとクリスティアがやってきた。 「これ、一度やってみたかったんですよね〜♪ って、クリスティアさん、どうしたんですか?」 「計都様、銃をお一つお貸し下さいませ……」 そういって、銃を借りたクリスティア。どうやら二人の熱烈なスキンシップで精根尽き果てていたようで。 残ったのはふつふつと燃える怒り……友二人に良いように弄ばれ、それを享受してしまった自分への怒りだ! 「わたくしの心の平穏の為、身を捧げて下さいまし……!!」 歴戦の砲術士であるクリスティア、彼女が加わって弾幕はますます加熱。 盗賊たちは、宴に一歩も近づけないまま撃退されるのだった。 「漸く落ち着きました……」 ほっとクリスティアが胸をなで下ろす。だがそんな彼女の背後に再び影が忍び寄っていた。 「撃退したようじゃな。ふんっ、一昨日来るがよいのじゃ……さて、クリス。続きといこうか♪」 「うふふ〜、ほらほら〜、朱音さんも逃げようとしないでくださいね〜。宴はまだまだ続きますよ〜♪」 「い、いやぁああああ、もうお助けくださいぃ……」 クリスティアの悲痛な、そしてどこか色っぽい悲鳴も何のその。 宴はどうやらまだまだ続くようであった。 ● 這々の体で逃げ出した盗賊団、彼らは再起を賭けて次なる目標に狙いを定めた。 それは常夏の国で日々のんびりしている空賊団の屋敷だ。 護衛もいるだろう、だがどうやら彼らは今なにか作戦の準備中のようだ。 ならばつけいる隙はあるだろう。そんな思いで盗賊団は、不思議の屋敷へとやってきたのだが……。 「ここが只の邸宅と思ったのがお前達の運の尽きなんだからなっ!」 盗賊たちを出迎えたのは、なぜか仁王立ちでマントを翻し、屋根に立つ不思議であった。 「……偽装解除、宝珠機関始動、万能無敵飛空戦艦『天河』発進!」 その言葉とともに、地面が割れた。 いや、正確には地面ごと、屋敷が浮かび上がったのだ! ばりばりと地を裂いて浮き上がる屋敷、それは巨大な飛行船だったのだ。 あんぐりと、もう驚きすぎて何も言えない盗賊団。 そんな彼らを、無慈悲にも巨大飛行船に備えられた無数の砲門が捉える。 「各砲座、砲門開け〜……ってぇ!!」 どどどどどん!! 連なる爆音とともに、盗賊団が蹴散らされた。 一方、屋敷に潜入して命を繋ごうとした賊たちの前にも、おもてなしが用意されていたようで。 「侵入者発見! アーマー部隊出撃!!」 ノリノリのふしぎの指令とともに、プールがざばりと真っ二つに割れて、その地下からアーマーの群れが。 ごうんごうんと昇降装置がうなりを上げて、アーマーが発進、侵入者を排除していく。 だが、こうなってしまえば盗賊団も引くに引けない。 手に入らないならば、打ち落としてしまえと手下を総動員して飛行船まで持ち出して。 さあ、いよいよ空戦の始まりかと思ったのだが……。 「よし、今だ! 艦首井出怨砲、薙ぎ払え−!」 波動どころかもっともっと危険で、いろいろ消し飛ばしてしまいそうな物騒な名前の大砲が一閃。 盗賊団は飛行船団ごと光のなかに消えていくのだった。 「さて、敵は倒した! あとは冒険の旅に出発だ〜!!」 そして賊をまるっと壊滅させたふしぎと彼の船は、夕日に向かって悠々と空を征く。 あとに残ったのは、大砲の一撃でちょびっと変形してしまった大地に、蹴散らされた賊たちだけである。 ● 残った賊は途方に暮れた。もうこんな戦力ではどうすることもできないだろう。 だがまだ望みはある。 物好きの開拓者が、絶海の孤島で賞金をばらまいているなんて噂が彼らの耳にはいったのだ。 金が腐るほどあれば、そんな物好きな事をするやつもいるのだろう。 というわけで、賊の生き残りはペケの風雲ペケ氏城へとやってきていた。 城の最上階にたどり着けば金一封らしい。それを再起の資金にしなければ、と挑んでいく賊たち。 だが、彼らを待ち受けていたのは容赦ない仕掛けの数々だった。 第一の試練は、迷宮と化した島の自然だ。 袋小路に迷い道、なぜか用意された四つの扉を潜ろうとしてもそこには壁があったり水たまりだったり。 だが、やっとのことで城にたどり着いたら、そこからもまた仕掛けが満載だ。 第二の試練は回ってドボン。 油まみれの回転棒がずらりと通路に勢揃い。どうやらそれを渡っていかなければいけないらしい。 しかしそんなもの上手に渡れるわけも無く、失敗すれば下の池にどぼん。 何度も落ちて、しおしおになりながら何とか向こう岸に。 だが試練はまだまだ続く。第三の試練は鬼ごっこ。 ドアを開ければそこに二つのドア。どうやら六角形の部屋が延々と連なる一角のようだ。 どんどん開けて、どんどんすすむと、そこでばったり鬼と遭遇。 鬼はペケの雇ったからくりたちだ。そのカラクリが、迷い込んだ挑戦者を追い立てて行く。 そしてそのまま端っこの部屋の扉が開くとそこにはまたしても掘が。やっぱりドボン。 ついでに怪しい糸やら粉やらを掛けられて屈辱を味わわされたり。 だが、盗賊達は諦めなかった。次々失敗していく仲間たちを後に残し、なんとか先に進む。 大岩の転がってくる坂を登り、城主の出す無理難題に答え、そしてやっと城の最上階に。 「お見事! では約束の金一封と……城の崩壊をプレゼント♪」 へ? と呆然とした盗賊を置き去りに、なんとペケはそのまま窓から身を投げた。 そこには縄梯子が。空を征く飛行船から下がった縄梯子につかまるペケは、そのまま空の彼方へ。 あばよ、とっつぁーん、ってな声が聞こえそうなペケが城から去って行くと……。 彼女の言葉通り、城はがらんがらんと崩れ落ちていくのだった。 そんな馬鹿な〜と叫びつつ、金一封を大事に抱えた盗賊も城の崩壊に巻き込まれて。 そんな様子を遠くから眺めて、けらけらと笑うペケ。 どうやらまだまだこんなイタズラを続けるつもりのようだ ● そんなこんなで、盗賊団は勝手に壊滅した。 だが壊滅状態の賊たちは、一縷の望みを託して、片田舎の農村にやってきたのである。 そこには、隠遁生活を送る億万長者の開拓者、柚乃がいるという。 もう、なりふり構っていられない。どうにかして再起を図らねば……。 だが、長閑な村に踏み込んだ途端、一見普通の農家の戸がぱたんと開くとそこには黒スーツの男が。 目があった盗賊と黒スーツ。思わず逃げる盗賊。 だが、なぜかジルベリアの黒スーツと黒いサングラスを身につけた護衛たちは、凄まじく足が速かった。 シノビや泰拳士の技の力か、盗賊はあっさり捕まり牢屋入り。 忍犬や管狐を連れた追跡担当の護衛もいれば、身体能力や力の強い護衛もいるようで。 その全員が黒スーツに黒いサングラス。不気味である。 迷い込んでしまった賊たちは、訳も分からぬまま右往左往と逃げ回っていた。 「逃げ切れたら賞金をだしますよ?」 そんな柚乃の提案もあったのだが……やっぱり追跡者の護衛たちは強かった。 残党もあっさり捕まってしまい、柚乃は退屈そうにため息一つをついて。 隣でごろごろしていたもふらの八曜丸を枕に、ころりところがって昼寝に戻るのだった。 夢はうつつかまぼろしか。 お金と宴、大混乱と大騒動。そんなこんなが入り交じる夢はこれでおしまい。 |