【負炎】守るべき時
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/28 20:47



■オープニング本文

 理穴を襲った大規模なアヤカシの被害、その規模はますます拡大しつつあった。
 魔の森の被害にあえぐ理穴の国、今回は緑茂の里がその舞台となった。
 天然の要害として今までは無事であった緑茂の里、その東の魔の森の拡大がその発端だ。
 開拓者達は、理穴の儀弐王からの協力要請に応じ、理穴へと急ぐ。
 すでにいくつもの村はアヤカシの被害に遭い、危険な状況となっているようである。

 被害にあい、焼け出され逃げ出した人々が流れ込んでいる村の一つ、深柳の町。
 そこに派遣されたのは保上明征という名の男だ。
 彼は儀弐王の部下であり、幾つかの村から避難民が流れ込むこの村の援助を命じられたとのこと。
 そして、彼のもう一つの重要な仕事は、やって来た開拓者たちとの仲介役である。

 その深柳の村に避難する予定であった、周囲の小さな村の一つ。
 そこで問題が起こった。
 距離があるために、避難が遅れたのだが、どうやらその村に向かっているアヤカシの一団がいるらしいのだ。
 このままでは、アヤカシの一団の到着までに避難が完了するかどうか危険である。
 そういった判断のもと、急遽開拓者への協力要請がだされたのであった。

 開拓者達は、深柳の町へと避難する予定の村人のため、時間を稼ぐのが主な任務である。
 アヤカシの一団はすでに、他の開拓者や儀弐王らの部下の手によってその位置が判明している。
 しかし、正面から当たればかなりの危険があると思われる。
 どうにかして、村の避難が完了するまでの時間を稼がねばならない危険な任務となるだろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
月夜魅(ia0030
20歳・女・陰
無月 幻十郎(ia0102
26歳・男・サ
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
美空(ia0225
13歳・女・砂
六道 乖征(ia0271
15歳・男・陰
江崎・美鈴(ia0838
17歳・女・泰
アルカ・セイル(ia0903
18歳・女・サ
荒屋敷(ia3801
17歳・男・サ


■リプレイ本文

●務め
 動乱の理穴にて。
 にわかに巻き起こったアヤカシ達の攻勢は、多くの被害を生んだ。
 住む場所を追われ、命からがら逃げ出す人々。
 この天儀において、人は絶対の強者ではないのだ。
 しかし、人もアヤカシに対してただ耐えるだけの弱者でもない。
 志体を持つ開拓者達は、アヤカシを討つ剣にして民草を守る盾である。
 そして、この度もまた、開拓者達は人々を救うため、奔走するのだ。

「美空の任務は時間稼ぎ、わふー、武者ぶるいするのでありますよ〜」
 小柄な姿は美空(ia0225)、まだ子供と言っても良いような容姿だが、れっきとした開拓者だ。
 志体を持つ開拓者の能力は常人とは桁違い、いくら幼くても立派な戦力である。
 だからこそ、歳に関係なくこうして依頼に加わるのだ。
「‥‥このまま進めば大丈夫だと思います」
 地図を手にそう言ったのは鈴梅雛(ia0116)、彼女は途中で立ち寄った避難作業中の村にて地図を手に入れたようで。
 彼女も美空と同じく、まだ少女といった容姿であるが、
「出来るだけ時間を稼いで、安全を確保しないと、いけないです」
 体の疲れも気にせずに、一路足止めのために歩を進める。彼女もまた開拓者としての気概十分なのである。

 開拓者達の一行は、避難の完了までの時間を稼ぐために、迫り来るアヤカシの軍勢の元へと向かっていた。
 避難先は防備のしっかりある深柳の街、そこには周囲の小村落から続々と避難民が集まっているとか。
 避難を手伝いそのまま護衛として避難民達を守る予定の儀弐王の部下たちで。
 彼らは避難が完了し次第、その場所で狼煙を上げるとの約束を開拓者達にするのだった。
 開拓者達は、それまでの時間を稼げばいいわけだ。
 地図を手に、街道を進み、報告があったアヤカシの軍勢へと近づく開拓者達。
 いよいよ、身を潜めながら決死の時間稼ぎが始まるのである。

●誘導と罠
「‥‥そう楽々な道のりにはさせない‥‥」
 声なき呟きは六道 乖征(ia0271)だ、足音を忍ばせて先行していた彼の視線の先にはアヤカシの群れが。
 街道とは名ばかりの、細い道をぞろぞろと小鬼達が進んでいるようであった。
 周辺は林、視界をふさぐように木々が並ぶ起伏のある地形だ。
 ここで開拓者達の一つ目の策が動き出す。
 アヤカシに対して、個々の力では開拓者達の方が有利であろうが、多勢に無勢。
 ならば、彼らの取った策は遊撃戦、少数の利を生かして、まずは攪乱する作戦である。

「へへっ。鬼さんこちらァってな‥‥うおおおおお!!!」
 街道に躍り出たのは荒屋敷(ia3801)、出会い頭に咆哮一発、アヤカシ達の注意を引きつける。
 突然飛び出してきた人影に、アヤカシ達はまず驚愕、だがたったの1人と見れば、もちろん追いかける。
 荒屋敷は、小鬼達が食いついてきたのを確認してから一目散に林の中に駆け込む。
 見れば十数体の小鬼が追いかけてくる模様だ。
 おそらく指揮系統がしっかりしていないアヤカシだからこそ、こうして混乱し単独行動が起きるのだろう。
 そして、木々が生い茂る林の中を走っていけば、小鬼達はばらばらになるのは必然であった。

 一方その頃、作戦通りその木々の間で待機していた他の開拓者達も行動に移っていた。
「さてっ、では行くとしようか」
 大徳利から酒を一口煽って、立ち上がるのは無月 幻十郎(ia0102)だ。
 静かに移動して、手にしたのは仕掛けた罠につながる縄の端。
 荒屋敷を追いかけてぞろぞろと駆けてくる小鬼達が近づいたのを見計らって、ぐっと綱を引く。
 すると、ゆるませてあった縄がピンと張り、足下を引っかけられた小鬼達はごろごろと転んで。
 さらに、その前に躍り出る幻十郎、小鬼達に対し
「はっはっはっは、さぁこっちだっ!」
 咆哮でさらに引きつけて、走り出す。
 こうして、林の中に引き込まれたアヤカシの軍勢の一部はさらに分断されていくのだ。
 もちろん、引きつけた先には、簡単な罠が仕掛けられている。
 しかしどの罠も、あくまで足を引っかけたり、軽い傷を負わせるための簡単なものだった。
 それは、罠を仕掛けるための十分な時間が無かったためでもあるのだが。
 それ以前に、注意を引きつけるだけの罠でも十分だから。

「うにゃうー! アヤカシかくごー!」
 散り散りばらばらになったアヤカシを狙う影が。
 木陰から飛び出してアヤカシを蹴り飛ばしたのは江崎・美鈴(ia0838)だ。
 すでに林の中に誘い込まれて、分断されたアヤカシに対して、個々の戦力では優勢である開拓者達が攻勢へと転じる。
 棍を振りかざして、小鬼を打ちすえて。
 そして、攻めるとなれば一気呵成に。
「つきよみ! いくぞ!」
「はい、いきますっ!」
 美鈴が声をかけたのは、月夜魅(ia0030)だ。
 美鈴の後方に控えて、声に合わせて符を放てば、小鬼の一匹が呪縛され。
 その隙に美鈴がさらに攻撃を加えていく。
 すでに、小鬼達は連携がとれぬほど、ばらばらと林の中に迷い込んでしまっていた。
 そこに仕掛けたれている、陰陽師の術や罠の数々で足止めされ。
「ここで仕舞いだよ、覚悟しな!」
 アルカ・セイル(ia0903)が振るう刀は小鬼の一体を斬り倒す。
 こうして、開拓者達が張った罠はアヤカシ達の数を減らしたのである。
 小鬼達が森に迷い込んでしまえば、その間は本隊は動きを止めるわけで。
 どうやら、初手の時間稼ぎは成功した模様であった。
 その後、誘い込まれた小鬼達が戻ってこなかったことに対して、アヤカシ達は追うことなく歩みを再開するのだった。

●足止めと火攻め
 街道を進み、アヤカシの群れは山間の谷へとさしかかっていた。
 慎重に足を進めるアヤカシの群れ、すると街道の先には人影があった。
 姿は四つ、幻十郎、美鈴、アルカ、荒屋敷の4名である。
 全員が、武器を構えて準備万端、アヤカシが彼らの姿に気づくと同時に彼らは一気に攻め込んだ。
「かっはー‥‥あやかしかくごぉー! うにゃうー!!」
 威嚇も十分、先頭を駆け込む美鈴は棍を手に、まだ迎撃準備の整わない小鬼を足払いをして蹴散らして。
「おらおら、血を出したい奴から前に出やがれ!」
 長柄の斧を手に、豪快に斬り込む荒屋敷は小鬼達を力任せに打ち砕き。
 狙う先には、このアヤカシの群れの中心である人型のアヤカシがいた。
「ここは、あたしがやらなきゃあね!」
 刀を手に、一気に接近したアルカは人型に斬りかかり、
「我が輩の刀、河内善貞の切れ味、味わってもらおうか」
 アルカと連携して、一気に攻め込む幻十郎は、大上段からの一撃を見舞う。
 突然の猛攻に慌てるアヤカシの群れは一時混乱するのだが、しかし多勢に無勢。
 4名の猛攻撃で、一匹の人型アヤカシが大きく傷つき、小鬼も何匹か蹴散らされた模様ではある。
 それでも、アヤカシ達はなんとか体勢を立て直して反抗に転じようとした瞬間。
「はっはっはっは さて、あともう少し、俺達に付き合ってもらおうか!」
 幻十郎は、刀を振るい、合図をすれば、なんと開拓者達は、一目散に逃げ出したのだった。
「っへ! 雑魚が! そこをどきやがれ−!」
 重量を生かして長柄斧で小鬼を蹴散らして、荒屋敷が血路を開けば、そこを一気にアルカや幻十郎が駆け抜けて。
 開拓者達は一団となって、街道に沿って走り出した。
 そうなればもちろんアヤカシ達は追いすがるわけで、怒濤のごとく追いかけていく。
 開拓者達も無傷ではなく、手傷を負った彼らは必至で逃げるのだが、アヤカシ達が執拗に追いかけて。
 彼らの命運もここまでかと思われたのだが。
「やった、かかった!」
 街道の先には、木で作られた障害物と他の開拓者の影が。
 地縛霊を仕掛けて、逃げてきた開拓者を援護したのは月夜魅だ。
 追いすがる小鬼達が術によって足止めされて、同時に矢が谷の上から降り注ぐ。
 美鈴や雛が谷の上に陣取り矢を放ったのである。
 突然の障害物と矢の攻撃によって、開拓者を追いかけていたアヤカシ達の足が止まった瞬間。
「熱く焼けるような御酒をどうぞっ!」
 月夜魅が投げたのは酒だった。
 開拓者達が一気に障害物の脇へと抜けて、姿を消したのと同時に、酒が投げ込まれ、一瞬混乱するアヤカシ達。
 見れば、街道にでんと置かれた障害は木々を積み重ねたもので。
 アヤカシ達が誘い込まれた谷の道筋には燃えやすそうな木々と油が所々に仕込まれていた。
 策を弄したのは美鈴だ。あらかじめ枝を集めて防壁を築き、さらには足止めをして。
「‥‥散歩はここで終わり‥‥全部燃やして潰して引き裂いて‥‥止める」
 乖征はそう言うと、符を放ち術を行使した。
 狼のような形の炎が一気に障害物を貫き、さらにアヤカシ達へと突っ込んで。強力な術、火炎獣である。
 この季節の乾燥した空気、木々が多い地形によって準備された豊富な木による障害物。
 それらが相まって、障害物の山は一気に燃え上がる。
 そう、美鈴が狙ったのはこの火攻めであった。さすがにこの状態で追撃する余裕は無いが、足止めには十分だ。
 逃げ延びた囮役の開拓者達は、武器を飛び道具に持ち替えて、障害物越しに攻撃を加え。
「ここは通さないよ! 護れるもん、護らなきゃなぁ!」
 火に巻かれながらも突破してくるようなアヤカシは、アルカたちの刃が撃退し。
 こうして火と策によって完全に足止めをされた形のアヤカシたちに対して、
「無理をして、倒されてしまっては、時間が稼げませんから」
 雛たち巫女が怪我をした仲間をいやし、開拓者達は次なる防衛地点まで移動するのだった。

●最終決戦
 一度ならず、二度までもアヤカシ達の軍勢を足止めした開拓者達。
 彼らの策を警戒したのか、アヤカシ達の進軍速度は目に見えて遅くなり。
 おそらくは警戒に時間を割いたのだろう。
 しかし、それでもじりじりと進んでくるもので、アヤカシは小川の橋へと到達していた。
「うー‥‥にゃっ! ぽいっ!!」
 橋の上から小鬼を投げ飛ばす美鈴。
 橋の狭さを利用して、開拓者達は足止めをしているのだった。
「まだ‥‥もうちょっとだけっ‥‥」
 呪縛符で援護をする月夜魅。消耗戦になってしまえば、開拓者は不利なのだが、彼らはあるものを待っていた。
 すでに稼いだ時間は十分、もうじき避難完了の狼煙が上がるのを待つだけなのだ。
「後もう少しだな」
 小鬼達をしのぎながら、口の端に笑みを浮かべる幻十郎。
 そして、橋での攻防で、開拓者達が徐々に押され始めたその時、
「皆さん、狼煙が!」
 巫女ながら、弓を手に援護をしていた雛が声を上げれば、遠方に狼煙が見受けられ。
「一気に退くのでありますよ〜」
 美鈴の号令によって、開拓者は一気に血路を開いて退却に移るのだった。
「‥‥纏めて焼却する‥‥」
 残る練力を使い切るつもりで、岩首の連打から最後に火炎獣を放ったのは乖征。
 橋という一直線の地形が、火炎獣の効果を高めて、一気に小鬼達が火に包まれて。
「あたしの後ろをついてくるんじゃねぇ!」
 アルカは、開拓者達の最後尾で、後続の小鬼を旋風脚で蹴散らせば、
 開拓者達に一瞬の好機。
 そこで、荒屋敷と幻十郎は膂力の限りに橋を破壊。
 歩いてわたれる小川といえども、橋を崩されてそれに巻き込まれれば、ますますアヤカシ達の妨害となって。
 その隙に、開拓者達は一気に退却するのだった。

 こうして、決死の足止めは成功、無事村人30余名は深柳の街へと避難できて。
 その後を追うようにして、開拓者達も逃げ延びたようである。
 まだまだ動乱は続き、被害はでるのだろう。
 しかし、この依頼は成功し、開拓者達は多くの人々を救うことが出来たようであった。