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■オープニング本文 「九死に一生とは、まさにあのときのことだな!」 開拓者相手にくだを巻く男は、猟師にして山師の男であった。 「前人未踏の雪山で道に迷った時は、この俺様も終わりか、と思ったね」 酒をしたたかにのみながらそういう男。 彼は、山野で獣を追い、時には山で鉱脈を探す専門家だ。 だが、彼はすこし前に雪深い山で道に迷ってしまったらしい。 吹きすさぶ風が積もった雪を舞い上げ視界は閉ざされる。 身を切り裂くような寒さが刻一刻と体温を奪っていく。 どの方向に向かえば山を下りられるのか、それすら分からない絶望の時。 そんな時に、彼はその温泉を見付けたのだという。 雪に覆われ、地吹雪が吹き荒れる中で微かに感じる湯の匂い。 山肌の一角に、その秘湯はあった。 岩肌の覗く山の窪地、非常に浅い洞窟のようになっている一角に、その温泉はぽつんとあったのだ。 そして山師にとってはその温泉が遭難中の救いとなったのである。 「というわけで、あの温泉が見つかると山奥の秘湯! ってな話題になるかもと思ってな」 だれも入りに行けないのでは? 山奥で誰も来ないような所ならなおさら。 「……まぁ、そうかもしれないけど、場所が分からないのも気になるしな」 こうして一つの依頼が出されることとなった。やることは、雪山で温泉を探すことのようだ。 余り儲けは無いだろうが、探索の果てで入る温泉は格別だろう。 さて、どうする? |
■参加者一覧
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
シュネー・E(ib0332)
19歳・女・騎
クリスティア・クロイツ(ib5414)
18歳・女・砲
高崎・朱音(ib5430)
10歳・女・砲
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
ベアトリス・レヴィ(ic1322)
18歳・女・魔
桧衛(ic1385)
14歳・女・サ |
■リプレイ本文 ● 「この季節に温泉ってだけでも格別なのに……」 雪に覆われた山を見ながら、天河 ふしぎ(ia1037)は頬を緩めた。 暖かい防寒着を着ていても、ひしひしと寒さがしみいってくる冬。 だからこそ温泉で暖まることを考えるだけで、笑みが浮かんでしまうようで。 「山奥の秘湯だなんて、ワクワクするなぁ」 そんなふしぎの言葉にうんうんと頷く、ペケ(ia5365)。いつも薄着な彼女もさすがにこの季節では防寒具姿。 「話を聞く限り正に幻の湯ですからね。温泉愛好家の私への挑戦に他ならないのです」 おそらく防寒着のまるごともふら姿のペケは、フッフッフと笑いながら、きりっと山々を見上げて。 「絶対に発見して堪能させていただきます!」 と気炎を上げるのであった。もふらさまの姿で。 開拓者は、ひとまず麓の山小屋に資材をたっぷりと運び込んでいた。 燃料に保存食に毛布や寝袋を用意して長期戦の構えである。もちろん個々の防寒具も重要だ。 「……あんまり山奥だと私達以外誰も入れなさそうだけど、それでいいの?」 「ああ、もちろんだ。そこにそういう場所がある、というのが分かるだけでも御の字だ」 そんな猟師の返答に、いいのねと念を押すシュネー・E(ib0332)。 彼女はジルベリアのフード付の上着を着込んで暖かそうな姿だ。 他の面々も、暖かい上着にマフラー、しっかりしたブーツと準備万端のようで。 「ここに換えの靴下と手袋を皆さんの分用意して貰いました。あと、必要ならばかんじきと……」 小さい体でいそいそと用意をしているのはジルベリア出身のファムニス・ピサレット(ib5896)。 しろくまんとにまるごとねずみを着込んだ彼女は防寒対策も万全だが、見た目は白いもこもこ。 そして防寒具の準備のそろった開拓者達は、山小屋の机に広げられた地図の周囲に集合した。 「空でも飛べれば多少は探しやすかったのじゃろうがのぉ」 「さすがにこの山では無理でしょうね。これも神の試練で御座います」 黒い耳をぴこぴこさせて地図を覗き込んだ高崎・朱音(ib5430)を諭すクリスティア・クロイツ(ib5414)。 彼女は両手を組むと祈りを捧げながら、 「ですが、神のお導きがあれば、必ず見付けることが出来ましょう……」 「ふむ。ま、なんとかなるじゃろうて」 好対照な二人。どうやら今回朱音がクリスティアを誘って参加したようだ。 彼女たちをはじめ、地図とにらめっこしつつ依頼人に山の様子を聞いたりと準備を整える一向。 「とりあえず翌々日までの天気は安定しているようですが……晴れている分冷え込むと思いますよ」 あまよみを使えるファムニスが皆に言えば、 「雪山では脱水に注意! 乾燥してるからちゃんと水分は取った方がいいらしいわよ……たぶん」 本に書いてあったわよ、と仕入れた知識を披露するのはベアトリス・レヴィ(ic1322)。 そんなこんなで賑やかに準備は整ったようで、開拓者達は3人ずつに分かれて探索することに決まった。 「依頼人殿も見つかるように祈っておいてくれ。では出発しようか!」 エメラルド・シルフィユ(ia8476)の勇ましい声とともに出発。 依頼人や留守役の北条氏祗(ia0573)に見送られつつ一行は山に踏み居るのだった。。 そしてそれぞれの雪山行軍が始まった。 雪の山は迷いやすく、ただでさえ体力を使う山登りに寒さが加わる……はずだった。 だがしかし、出発の少し前に、ふしぎが仲間たち皆を集めて、とある精霊魔法を披露したのだ。 それは保天衣、精霊の加護によって過酷な環境を退ける優れた魔法だ。 「これで少しはすごしやすくなるんだぞっ」 少々自慢げに微笑を浮べるふしぎ。もちろん簡単な魔法では無い。 九人全員にかけるとなると、練力の大半を消費してしまうほどだ。 「……これはすごい効果だね。あまり厚着はしてこなかったが十分な程だよ」 桧衛(ic1385)は驚いて自分の毛皮の外套に手を触れた。 雪花紋の指輪に加え、毛皮の外套だけが彼女の防寒具だ。 だが、保天衣の加護は、凍傷や冷気による体力の消耗に加え雪眼すら防ぐのだ。 これで開拓者の苦労は大分軽減されて、一同は意気揚々と山々を探索するのであった。 ● あっというまに二日が過ぎた。 保天衣のおかげもあって、体力の消耗はほとんどない。 山小屋を守る北条は剣技を活かして薪を大量に用意してきたようで、山小屋は暖かく保たれている。 夜になる前に下山し小屋で暖を取り、しっかりと食べて次の日に備える。 そうした準備の甲斐あって、場所の目星も大体ついてきたようであった。 「それじゃ、あしたはこのあたりにまずは人魂を飛ばして……」 「こっちの尾根の西側も怪しいと思いますよー。猟師さんが下山した時間とかから考えるとー」 ふしぎの提案に、ペケは温泉到達への糸口がそこに隠れているはず、と地図を指さす。 夕暮過ぎ、開拓者達は明日にそなえて準備をしているのであった。 「明日も天気は大丈夫です、すこし曇り風が出るみたいですけど」 地図に印を付けつつ、ファムニスが言うのに一同はしっかりと頷いて、それぞれの手袋や靴下を干して。 「はい、料理が出来たよ。紅音さんが落とした野鳥いりの雑炊だよ」 料理を作っていたのは桧衛だ。探索の最中で朱音が弓で鳥を落としたらしく、それを調理したようで。 「ふふん、我に感謝しつつ食べるのだぞ〜」 「この恵みをあたえてくださった神に感謝しましょうね」 冗談めかして胸を張る朱音に、クリスティアがお小言を言ってみたり。 蝋燭の点す柔らかい明かりの中で、こうしてその日の夜も暮れて行くのだった。 そして次の日、うっすらと曇り冷え冷えと白む雪山に開拓者は今日も踏み込んでいく。 準備は万端、保天衣も万全。今日こそ見つかるだろう。 そんな予感と共に開拓者達は意気揚々と出発するのだった。 「……朱音様……御覧下さいまし……」 「む、あれは雪煙ではないようじゃのう? ちと調べてもらおうか」 最初に気付いたのはクリスティアと朱音だった。 分かりにくい山間の谷の中程、山肌の途中の窪地、岩場の影に白いもやが。 風が通る谷のようで、雪煙かと思うそのもやだったが、どうにも様子が違うようで。 三班に分かれていた開拓者達は、それぞれ人魂や呼子笛、手鏡の光で連絡を取って集合。 「それじゃ、人魂を飛ばすよ……うん、どうやら湯気みたいだね。当たりだ」 そしてトドメはふしぎの人魂だ。しっかりとその眼で確かめて、とうとう捜し物が見つかったようで。 入り組んだ山肌で気付きにくい山の懐の奥底にて、つい探していた温泉が見つかったのだった。 ● 温泉を前にして、開拓者達は感嘆の声を上げた。 「温泉好きだが、こうして苦労して見つけると感動もひとしおだな……」 思わずため息をつくエメラルド。 そこは雪の中に、ぽかりと出来た温泉池だった。 丁度くぼんだ岩肌の影になっているようで雪も薄くしか積もっていない。 そこに、すこし白く濁ったお湯が滾々と湧き出ているのだ。 すこし雪が交じっているのか、源泉より大分温度は下がっているようで、丁度良い温度のよう。 そんな、絶好の温泉を眺めて、開拓者達はほっと息をついて。 「ともかく、これで依頼は完了かしら? 折角だし入らせて貰おうかしらね」 シャーネの言葉に、一同はそのとおりだこっくり頷くのだった。 「そういえば、個人用天幕が一つあるから、ここに服を入れておこう。そうすれば濡れないだろうしさ」 「うむ、それは良い考え! この寒いなか、だらだら待ってられないし、早く入ろう!」 桧衛が天幕を用意して、ベアトリスと一緒にいそいそと準備。 そして、天幕を前にすこしお姉さんな女性陣はだれから使うと顔を見合わせていると、 「ここまできて、もう我慢は出来ませんよ〜! 一番乗り、いただきま〜す!!」 ずばっと服、というか丸ごともふらごと服を脱いでペケがすたこらと温泉へ。 「ぬ、遅れをとったの。負けてなるものか!」 くつくつと笑いながら朱音も服を放り出して、温泉へ一直線。 「ふぁ、ファムも行きます!」 そして、子供らしさを前回にしてファムニスも温泉に真っ直ぐに飛び込んでいくのだった。 野外の露天風呂だ、流し場も無ければ石鹸もない。 もってきた飲み水を湧かす用の鉄鍋や桶を使って体を流して次々にドボンと跳びこむ、ペケに朱音にファム。 いかに保天衣や防寒具の助けがあっても、それなりに寒いのは寒いのだ。 その凍えた体に、温泉の熱がじんわりとしみこんでくる。心底幸せそうな3人は口々に、 「ぬくぬく〜♪」 「うむ、極楽じゃ〜♪」 「やっぱり温泉は素敵ですね〜♪」 と体を伸ばすのであった。それを見て他の女性陣も思わず急ぎ足。 そんな中で、クリスティアはごそごそと荷物から水着を取り出すのだが、 「ふっ、温泉でそれは野暮ってもんじゃろうて。温泉は裸の付き合いというではないか」 ずばっと温泉の中の朱音に言われてしまって、クリスティアはぐぬぬと困り顔だ。 たしかにほかの開拓者達も皆、水着どころかタオルすら巻かずに温泉の中だ。 それが天儀の作法だと言われれば流石にそれを否定するわけにもいかず、 「……くっ、これもまた神の試練で御座いましょうか……」 覚悟を決めて、クリスティアも真っ赤になりつつ温泉にとぷんと浸かるのだった。 「やっぱり、多少狭くても皆で入りたいね。ちょっとつめてつめて」 「……うーん、生き返る……」 桧衛とベアトリスも温泉に入ったようで、小さな温泉池は開拓者で満載だ。 そこに最後に加わったのは、エメラルドだ。ジルベリア生まれの彼女も少々気恥ずかしかったようだが、 「まあいいか、女しかおらんしな……」 と、なにか忘れてる気がしつつも、いそいそと服を脱いで天幕の中にしまい込んで温泉へ。 お湯を掬って体に描けて、髪の毛を束ねてひとまとめに結い上げて、さあ満員の温泉へ入ろうという時に。 先に温泉の中で、ほうっと息をついていたシュネーが、あることを思いだした。 「……どうしたのふしぎ、早く入れば?」 開拓者9人、その中で、唯一の男性。それが天河ふしぎ、17才であった。 細身で小柄、黒髪も長く、ぱっと見で女性に間違われることもあるふしぎ。 それでも歴とした男性の彼は、氷の像のように、固まって突っ立っていたのである。 「ふしぎ……? きゃああああ!! こ、こら! 見るな!!」 悲鳴を上げてざばっと温泉に身を沈めたのはエメラルド、そして声も出さずにクリスティアも真っ赤っか。 だが、そんな反応をしたのはこの二人ぐらいで。 「今さら男女がどうとか言いっこ無しですよ? 温泉は裸の付き合いが基本です〜、ぬくぬく〜♪」 あっけらかんと女性らしさに満ちあふれた体つきのペケがいえば、 「……そうか男だったか。でもまぁ、特に気にしないし」 しれっと天然なのか、シュネーも気にした様子は無し。 「温泉といったらやはりお酒じゃろうて。このいっぱいがたまらぬのじゃ」 我関せずですでにお酒をくぴくぴ飲み始めている朱音。 「ふしぎさんは入らないんですか? ……それにしても、皆さんなかなかに立派なものばかりで興味が……」 首をかしげつつ、わきわきとすでに他の物に気を奪われている様子のファム。 「……事件起こそうってわけじゃないだろうし。楽しく温まれれば良いと思うよ」 信用しているから、と桧衛。そしてベアトリスは、 「ということで、早くおいで。お前のような美しい男相手なら、混浴も嫌じゃ無いからな」 とにんまり笑って手招きしてみたり。 こうして、針のむしろか桃源郷か。世にも幸運なふしぎは混浴を満喫することになったのである。 「あ、ふしぎはみんなの中央ね。もう場所が無いから」 ベアトリスの提案によって場所もどまんなか。 「べっ、別に恥ずかしくなんか無いんだからなっ……」 そんなわけで、恥ずかしそうに真っ赤になりつつ、ふしぎも温泉に加わるのだった。 ● こうして温泉で暖まった一行は無事下山しました……とは問屋が卸さない。 じーっと周囲の仲間たちを凝視していたのはファムだ。 眼はらんらんと輝いて、手はわきわきとなにかを揉みしだくように動かしている。 そう、彼女の狙いは胸なのだ。 「おっきいのも普通のも小さいのも興味あります!」 胸、それは母性の象徴であり、女性の大きな魅力を生み出す夢がいっぱいつまった部分でもある。 それに興味津々なお嬢さん、ファム。 彼女はふしぎを前に真っ赤になっているエメラルドにまず最初に狙いを定めたようであった。 「ぱいたっちです!」 「ぱ、ぱい? なにかの暗号か? ……ってどこに手をっ!?」 「純粋な好奇心です! 子供のやることですから……うへへへ!!」 「いや、その笑い声は子供じゃ……待て、何故手をわきわきさせている! っきゃぁああああ!!!」 裸の付き合い、とばかりに抱きつきさんざん揉みしだき。もにもにぷにぷにと堪能するファム。 「……93のFですね! ではお次は……」 くてっとなったエメラルドをあとに、ファムが次なる得物を探す。それは、 「……? どうして触るの、ファムニス……?」 「くっ、反応がないので物足りませんが、その分しっかりチェックさせて貰います!」 シュネーであった。こちらは、ファムの行為にきょとんと首を傾げる天然っぷりだ。 だが、しばらくもにもにと確かめたファムはかっと目を見開いて、 「ん、87のD……じゃあ次は……」 ぐるりと見渡せば、そこはかぱかぱお酒を飲んでいる朱音と真っ赤なクリスティアが。 「ふむ? 我のは調べるまでもないと思うがのぉ? 調べるなら……クリスじゃろうて? このようにの♪」 「あ、ああぁ、朱音様ぁ。堪忍して下さいましぃぃ!?」 「ずるいずるい! 半分こしよう!!」 というわけで、三人目に餌食になったのはクリスティア。 左右からちびっ子にぺたぺたむにむにと好き放題されるクリスティア。 真っ赤に頬を染めつつ顔をあげると、なんとこんな光景を見てしまったふしぎと眼があってしまって。 ぶはっと鼻血をふきつつ倒れ込んだふしぎ、その先にエメラルドとシュネーがいて。 「いっ、今のは事故なんだからなっ」 「ふしぎ、のぼせた? 温泉そろそろでる?」 「きゃあっ! ふしぎ?! み、みるなぁぁああああ」 「いや、今は出られないってか事故だから! のぼせてないからなっ!」 そんな阿鼻叫喚の様子を眺めて、クリスティアはもう祈るしかないようで。 「……神よ、此れも、此れも試練なので、御座いますか……」 たぶん違うんじゃないかな、と思うペケであった。 「あたしは何が起ころうと楽しめるし、これはこれで面白いね?」 「……まぁ、貴重な経験かな?」 桧衛がしげしげと言うのに、思わず苦笑するベアトリス。 ともかく依頼は無事に完遂。開拓者は非常に羨ましい経験をするのであった。いろんな意味で……。 |