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■オープニング本文 開拓者も時には休息する。 そこは、神楽の都の片隅にある小料理屋だ。 金持ちの別邸だかを改装したとかで、街の喧騒の届かぬ落ち着いた良い場所である。 その日も、その小料理屋はそこそこの客の入りであった。 開拓者の姿もちらほら見える。 だがとくに挨拶をするわけでもなく静かに料理を味わったり、酒を傾けたり。 そんな静かな時間を、叫び声が切り裂いた。 「火事だっ!!」 奥の調理場から転がるように逃げ出してきたのは板前たちのようだ。 大きく調理場の戸が開け放たれると、途端に漂う焦げ臭さ。 だが、慌てて正面入り口から逃げようと思ったその時、あっというまに火が回った。 奥の小上がりの窓からも、土間の壁も。どこもかしこも炎が這い回り始める。 藁葺きの屋根にもすぐさま火が伝い、煙と熱があたりをあっというまに埋め尽くすのだった。 板前たちは、火が迫りつつある入り口から走って逃げ出したようだ。 偶然巻き込まれたあなたたちも逃げなければならない。 だが、はっと周りを見回すと、逃げ遅れた人が居るようである。 どうする? 話し合う時間はほとんどないだろう。 人を救うか、火の周りを押さえるか、余りに早い火の周りに懸念を抱くか。 ……全ての選択と行動は開拓者次第である。 さて、どうする? |
■参加者一覧
荒屋敷(ia3801)
17歳・男・サ
孔雀(ia4056)
31歳・男・陰
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
ビシュタ・ベリー(ic0289)
19歳・女・ジ
深翳(ic0998)
25歳・女・シ
五黄(ic1183)
30歳・男・サ
遼 武遠(ic1210)
45歳・男・志
伍 凛々(ic1386)
20歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ● 雰囲気の良い小料理屋の寛いだ空気。気持ちの良い喧噪と美味い酒に料理。 そんな穏やかな空気を切り裂いたのは、最低最悪の悲鳴だった。 「火事だっ!!」 言葉と同時に、どっと煙が立ちこめる。 鼻をつく焦げ臭い匂いに目に染みる煙、我先にと逃げ出す数名の客たち。 このままではあっという間に火は広がるだろう。急いで逃げなければならない。 だがそのまえに、炎と煙が立ちこめるその場所で、開拓者達はすぐに動き出した。 まだ、逃げ遅れた人がいるならば、まずは彼らを救わねばならないからだ。 「親父さん、お勘定ここに置いとくよ……っていうわけにはいかないか」 最初に逃げ出した人に紛れて席を立とうとしたビシュタ・ベリー(ic0289)。 だが、お勘定を払う店の主人の姿も無いようだ。 ならばと煙の中視線を走らせれば、残っているのは開拓者ばかり。 「ねー……火消しの連中が来るまで待ってたほうが……」 だが、そこまで言いかけて、ふと彼女の鋭敏な鼻が違和感を訴えた。 一カ所から火が付いたにしては、余りに火の周りが異様に早い。 それに煙に交じる異臭は燃えやすい油の匂い。それが調理場だけではなくそこかしこから漂っている。 ……十中八九付け火だろう。犯人はすぐ側に居るのかも知れない。 そこまで一瞬で考えたビシュタは、くるくると髪の毛を指に巻き付けるのを止めてがたんと立ち上がった。 「どうやら火付けみたいだね! ジプシーの集落でも大罪だよ、そのバカどこにいるんだよ!」 そのまま彼女は、子供の悲鳴の元を探しに、一目散に奥へと進むのだった。 ● 他の開拓者もすでに一斉に動き出していた。 「良い店を見付けたって言うのにさ、無粋な事をする奴もいるもんだね」 落ち着いた着物姿で静々と酒を傾けていた妙齢の女性。 彼女は立ち上がるとばさりと注染の着物を脱ぎ捨てた。するとその下には忍び装束が。 「美味い酒に料理を出して貰ったんだ。お代の代わりにちょっと働いていこうじゃないか」 そう呟きながら、脱ぎ放った着物をふわりと放る深翳(ic0998)。 続く早業で放ったのは水遁の術。ばしゃりと小量の水柱が着物を撃ち、彼女はそれを抱えて奥へ。 向かった先は、火が激しくなったときに子供の悲鳴が聞こえたところだ。 早駆すら使って奥へと飛び込んだ深翳は、そこですぐさま子供2人が固まって泣いているのを見付ける。 遠くからは、おそらくこの子を探す母の声だろう。 子供達の名を呼ぶ声が聞こえてくるのだが、煙と炎がそれをかき消してしまう。 時折屋根の藁がぼうと音を立てて燃え尽きて燃え落ちて、木の板壁がばらばらと焼け落ちる。 その音、熱、煙は子供達をすっかりとおびえさせてしまっているようであった。 「……大丈夫、今助けてあげるから」 努めて優しく声を掛ける深翳。だが相手は2人だ。この炎の中どうしようかと思って居ると、 「私も手伝うわ。シノビよりは遅いけど、子供の脚よりはいくらか速いでしょう?」 やってきたのは伍 凛々(ic1386)だ。 子供達の側の棚にある果物をひょいひょいと懐に入れつつ手を貸して。 そこに、ビシュタがやってくる。子供に手を貸すべきか、それともさらに調理場へと進み犯人を捜すか。 彼女の顔に一瞬、逡巡が浮かぶのだが、 「子供2人でしたら、私たち2人で外へお連れ出来ますわ」 「ここは任せてくれ」 凛々と深翳の声にこくりとビシュタは頷いて、 「分かった。じゃ、私は犯人をとっちめることにするわ!」 そういって炎の激しい奥へとさらに進んでいくのだった。 じりじりと炎を避けて進みつつ、ビシュタは懐にある占い用のカードを一枚引いてみた。 すると出てきたのは死を暗示するカードだ。この状況で縁起でも無い。 だが、にやりとそれをみてビシュタは笑って、 「……どうせ当たらないんだ! じゃあ大丈夫ってことだね!」 さらに煙と炎が逆巻く奥への道を探るのだった。 ● 「さ、これを口に巻いて……これを被って。あたしらが抱えててやるから安心しな」 惜しげも無く珍しい赤いスカーフを二つに裂いて渡し、水遁で濡らした着物を子供にかぶせる深翳。 そうして子供2人を抱えるようにして、深翳と凛々は急いで出口へと向かって行くのだった。 そんな2人と同時に、開拓者達の救助は進んでいく。 ふらふらと子供を探して彷徨う女性。不安に混乱する彼女に声を掛けたのは遼 武遠(ic1210)だ。 「ご婦人! 歩けますか。火が完全に回ってしまう前に急いで逃げてください」 「で、ですがまだ子供が……」 彼女を安心させるように、身をかがめた武遠。彼は先程すれ違った深翳と凛々の事を伝えて。 「大丈夫。その子らはすでに我ら開拓者の同胞が外に連れ出しているようです。ですからご安心を」 そういって手を貸すと、周囲に目を配る武遠。 奥の方では、大柄な板前を2人の開拓者が救い出そうとしていた。 「煙が毒だからな−! 姿勢低めに、転ばないように気を付けて……手を貸すぜ!」 背中を打たれ、1人では立てない板前を支えて起こしたのは荒屋敷(ia3801)だ。 細身ながら鍛え上げられた彼は、サムライの強力によってさらに力を発揮して、板前を軽々と支える。 だが、同じように板前を支えているもう一人はというと……、 「そうそう、煙が毒だから深く吸いこむとまずいわよ? これで口を覆うといいわ!」 と、なぜか下着をいそいそと脱ごうとする孔雀(ia4056)だ。 「おいおい、そりゃ何のつもりだ?」 「あら、趣味と実益を兼ねた防災用品よ?」 苦笑する荒屋敷にしれっと返す孔雀だが、流石にそれは要らんと言われて何故か残念そう。 ともかく、二人は気を取り直してがっちりと板前を抱えて、軽々と出口に向かうのだった。 さすがはサムライの技、強力だ。軽く荒屋敷たちの二倍はある板前を荒屋敷が軽々と支えて運んでいく。 そしてそれを助けつつ、時には人魂を飛ばして逃げ道を探る孔雀。 「それにしても凄い力ね。火事につけ込んでアタシのハートを盗もうなんて……嫌いじゃないわよ」 「なにいってるんだか……しかし、火の勢いが強いな。これだと出口がどうなっているんだか……」 ともかく、逃げ道が未だ残されていることを信じて、二人は出口を目指すのだった。 ● この様子をちらりと見て、武遠はどうやら板前の助けは十分そうだと当たりを付けた。 では、まだ残っている人間はいるだろうか。 やっと落ち着いた女中に手を貸しつつ、周囲を探ると、そこには老人2人を助ける五黄(ic1183)がいた。 「爺さん婆さん! 大丈夫か? ……婆さん、悪いが背負わせて貰うぜ。爺さんは歩けるか?」 ぶっきらぼうに声を掛けつつも励ます五黄、老人を立たせて、老婆を背負いかけたところで。 「五黄殿、手を貸そう。そちらのご婦人はお任せするので、こちらのご老人の手を私が引こう」 「おお、武遠のおっさん! そりゃ助かった。歩けなければ、引き摺ってでも連れていこうと思ってたんでな」 そういって闊達に笑う五黄。二人は旧知の間柄で、今日も一緒に飲みに来ていた仲間である。 一度はぐれた仲間の合流に喜ぶ五黄と武遠。 ますます勇気づけられた五黄はしっかりと老婦人を背負うと、武遠とともに出口へと向かうのだった。 これで老人2人に女中、そして板前に子供の六名全員が出口に向かったようだ。 開拓者達が手早く分担し、助け合ったおかげだ。 だがしかし、開拓者達の予想をも上回る勢いで火は回っていたようで、玄関付近もすでに火の海だ。 さてどうしよう。そう考えたときに、すっと進み出た開拓者が一人。 「何とも心地よい熱気じゃのう。じゃが、悪意ある炎は好かぬ」 にっと笑みを浮べ、なんと手にした煙管に燃えさかる炎で火を付ける椿鬼 蜜鈴(ib6311)。 彼女は、ずらりとやってきた救助の開拓者達を見ると、 「おんし、陰陽師じゃな? 入り口付近の壁は敗れるかのう?」 問われたのは凛々だった。彼女は頷くと、 「……そうね、行けると思うわ。あそこで良い?」 「うむ、そのあたりが丁度かのう? 一撃に合わせてわらわが壁を作ってやろうて」 「わかった。それじゃ、岩首で壁をぶち抜くわ……あぁ、皆。目と口を塞いでおいてね、破片対策よ」 そう凛々は告げると、符を放った。 巨大な岩が出現し、天井の一角と壁をぶち抜く。 崩れる燃えかけの天井や壁、だがそれを遮るように即座に鉄の壁が地中からせり上がる。 即座に二枚、通路を作るように二枚の鉄壁は、椿鬼の作ったアイアンウォールだ。 それが支えとなり、しばらくの間火が回るのを防いでいるようだ。 これで外まで出る道が出来た。 「ふむ、もうちと火勢を押さえてみるとするかの」 さらにだめ押しは椿鬼のブリザーストーム。 風と冷気が炎の熱と煙を一瞬吹き散らした。すぐさま炎は勢いを取り戻すだろう。 だが、一瞬あれば十分だろう。 「火勢は抑えた、救助は任せても良いかの?」 そんな椿鬼の声に、他の開拓者達は応と応え、一気に外へと向けて走って行くのだった。 それを満足気に見つめた椿鬼は、炎の色の髪と着物を翻し炎の奥へ。 彼女もまた犯人を追うつもりなのであった。 ● 「ほら、あんたらの母親も無事だったみたいだぞ」 野次馬が見守る中、子供と一緒にいてあげたのは深翳だ。 不安そうな子供達を、母親の方に押しやってあげるのだが、子供達は深翳を振り返り、 「お、おねえちゃん、ありがとう!!」 「あ、ありがと……」 煤けた泣き笑いの顔で精一杯お礼を言うと、一目散に子供達は母親の元へ。 「はい、これでも食べて元気出して? 怖かったでしょう……お母さんが見つかって、これで一安心ね」 そんな子供達に、凛々は懐に入れてきた果物を手渡して、優しい笑顔を見せて。 そしてすぐさま二人は、仲間を助けるために来た道を戻っていくのだった。 「こっから近いトコに、水汲めるトコ、あるかな?」 「た、たしか……この先に共同の井戸があったはずですが」 「お、そりゃ最高だ。悪いな板前さん。まだやることがあるからな、もう行くぜ!」 「ええ、助けてくれて有難う御座います……ご武運を」 助けた板前を野次馬達に託して、急ぎ水場を探すのは荒屋敷だ。 彼はがしゃがしゃと手桶をかき集め、それに水を汲むと一目散に燃える料理屋にとって返す。 すると同じように燃える料理屋に向かって孔雀や他の仲間たちの姿があった。 「ここまで火が回っちゃしかたないよな。延焼予防のために道を作るには壊すしかねぇか」 「ああ、そのようだ。それにどうやら再突入する積もりの御仁もいるようだし、某は水を用意しよう」 五黄は壁を切り払い、炎の周りを制限するいわゆる破壊消火。 そして武遠は入り口の水桶を運び、先程作った出口の周囲に水を撒き火の勢いを押さえる。 そこに、荒屋敷が水桶をかかえてやってきた。彼はざばりと水を被って、 「……寒いんだか、熱いんだかよく分かんねーな! お前も使うか?」 「あら、この水は中にいる二人のために使うわ。あたしはへーき」 にっと笑って孔雀は水桶を手に再突入の構えだ。 そこに戻ってくる深翳と凛々。深翳は水遁でさらに火勢を押さえ、凛々の岩首が障害物を蹴散らして。 「じゃ、ちょっと手伝ってくるぜ!」 「あらん、待ちなさいよ〜」 そこに荒屋敷と孔雀が突入していくのだった。 屋敷の厨房はすでに火の海だった。 竈や積まれた薪など燃えやすいものが全て燃え上がり、周囲は熱気と煙に満ちていた。 そこを突き進むのは両手のナイフを振るうビシュタ。 遅れてそこに椿鬼がやって来る。 「油の匂いが一番強いのはこの先の裏口ね……」 「ふむ、裏口か……するとやはりその先に付け火の犯人が要るのかのう?」 ごうごうと燃える中で、二人は覚悟を決める。 そこに、やっと再突入してきた荒屋敷と孔雀が。 孔雀は、手にした水桶を二人にざばっとかけ用とするのだが、それをぱっと奪うビシュタ。 「あら、化粧の落ちた顔が見たいとか、そんなんじゃなかったのに? 衣装や髪を守るための優しさなのよ?」 「おー、それなら丁度良かった。丁度水が欲しかったんだ。そこのおねーさんは?」 「ふむん、わらわは遠慮しておくぞ。火は恐ろしうない。この付け火は無粋じゃがの」 からからと笑って応える椿鬼に頷くと、ビシュタは水桶の水をばしゃりと被る。 そして、同じく水浸しの荒屋敷とならぶと、椿鬼に頷いてみせて。 「おんしら、全部の火は押さえられぬ故、多少は我慢じゃ。では道を作ろうてな」 再び椿鬼は呪歌を唱い、術を放った。鉄の壁で火を遮り、吹雪が道を作る。 だが今回は火の勢いが先程の比では無い。荒れ狂う炎はさすがの椿鬼の術でも全ては防げない。 そこに勢いよく荒屋敷とビシュタが飛び込んでいった。 荒屋敷は戦塵烈波で火の壁を吹き散らし、木刀で崩れ落ちる梁の欠片を殴り飛ばす。 ビシュタは両手のナイフを振るって、落ちてくる炎の塊を切りつけ、踊るように蹴り飛ばす。 そして二人は一気に火の壁を突き破り外へと飛び出した。 火の向こう、暗がりの中にひっそりと男が隠れていた。 もっとも火が激しい一角を眺める特等席だ。そこに付け火の犯人、赫目の亥三郎がいたのだ。 慌てて亥三郎は逃げようとする。追いすがる2人。 火炎獣を放とうと構える亥三郎だったが、一瞬彼の動きが止まった。 つくり、毒蟲が刺したのだ。それは孔雀の放った術の一撃。 さらに、だめ押しで椿鬼のアイヴィーバインドが逃げようとする亥三郎を捕らえ……。 ビシュタの刃が、荒屋敷の木刀が、亥三郎に報いをあたえるのであった。 「なぜ止めるの? 火付けはズタズタにされても文句言えないはずでしょ?」 「まあな。更正の余地ナシ、殺せ! ……とは思うけど、今回は子供もいるし」 ズタズタにしたいビシュタを荒屋敷が止めたようで、結果犯人はこの冬の中、川に暫く漬けられて。 役人が来るまで、骨まで凍えさせられたとか。 死者を出さずに客を救った開拓者一向。彼らは火事の近くで行われた炊き出しで、体を休めていた。 煤けた着物や破れた衣装は店の主人がなんとか同じものを用意するとのことで。 「あー、終わった終わった。おーい、武遠のおっさん無事か」 「どうやらみな息災のようですな。しかし……お互いにひどい恰好になってしまいましたな」 「ああ、お前の方は、尻尾が煤けて黒くなってるぞ」 「……たしかに、少し尻尾の先が縮れたような気が……」 と、偉丈夫の武遠がどことなく肩を落として言えば、無事だった皆も思わず顔を見合わせて。 「まぁ、尻尾はその内治る。何事も命あっての物種だし、飲み直すか! 今日の災難を肴にな!」 そんな言葉に、某でよろしければと頷く武遠。 他の開拓者もまた、同じように考えながら、店の主人が振る舞う焼け残りの酒で祝杯をあげるのだった。 |