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■オープニング本文 こんな噂話がある。 曰く、とある開拓者が雪山上空を龍で飛んでいるときに、突風が吹いた。 突然の風に龍は体勢を崩し、哀れ開拓者と龍は2人ならんで地上へ真っ逆さま。 龍は必死に主を助けようとあがくも、風が強い。 そして不幸なことに、白き羽毛の宝珠も手元には無い。 ああ、不幸な開拓者とその龍は、この雪山で空しく散るのか……。 だが、彼らが落ちたのは雪の分厚く積もった斜面だった。 ぼふんと雪煙を上げて、そのまましばらくごろごろと斜面を転がり落ちる龍と開拓者。 ……雪煙が収まると、そこにはよろよろと立ち上がる開拓者と龍の姿があった。 身体中痛い、でも一人と一匹は生きていたのだ! とまぁ、こんな話である。 嘘か誠か、そんなお話。それを聞いて、目をらんらんと輝かせる一人の青年が居た。 砲術士にして、爆発をこよなく愛する発明家(自称)、中務佐平次その人である。 「以前、雪の実験をしたけど……まだまだ可能性がありそうだな。よし、実験してみよう!」 というわけでお手伝い募集。 今回の内容は以下の通り。 ・雪にまつわる噂話を実験したい。具体的には高所からの落下。 そのために、身体頑強にして、勇猛果敢な者が望ましい。 ・出来れば、怪我の治療が出来る人が必要。いや、怪我させないように気を付けるけど……。 ・同時に、雪の可能性についても検証したい。 以前、雪や氷の壁や、雪玉の投擲などでの攻撃力を検証したので、今回は雪中での移動に関して。 具体的には、ソリや雪滑り用の板を使用して、雪上の滑降を検証する。 こちらも、転倒の危険があるので、運動神経が高く、頑強な者を求む。 ※ジルベリアや北方地方では、雪上の遊びとしてこの手のことを得意とする者もいるらしい。 スキーなどとも言われる雪上での滑降、これの可能性を検証したい。 最高速度は? 飛距離は? その他、自由な発想に基づいた検証を求む。 ……単に佐平次が雪遊びをしたいだけのような気がしないでは無いが……。 ともかく、彼が居候する保上明征氏の屋敷の裏山にて、実験は行われる模様だ。 我こそは、と思う開拓者は是非参加して欲しい。 基本三食昼寝付き。怪我と寒さは自己責任。暢気で危険な実験依頼だ。 さて、どうする? |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
不散紅葉(ic1215)
14歳・女・志
紅 鈴椿(ic1364)
15歳・女・巫
吉田慧沼(ic1390)
12歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ● 真っ白な裏山の斜面を、一陣の黒い風が滑り降りていく。 「……さん、に、いち、きゃ〜♪」 ソリ遊びを早々に切り上げた叢雲 怜(ib5488)は、楽しげな叫びと共に斜面を下る。 彼はジルベリア渡来のスノーボードをつけて、意気揚々と斜面に挑んでいるようだ。 「わっ、と、っと……うーん、意外と立つのも難しいな〜、でも……」 そういいながら、つるりと体勢を崩して転んでしまった叢雲は、ふるふる雪を払って。 そして綺麗な瞳を麓に向けると、そこには仲間の開拓者や依頼人の佐平次の姿が。 「上手く滑れたら、カッコいい気もするし……お姉ちゃん達、カッコよく決めたら褒めてくれそうだし♪」 心を決めた叢雲は、立ち上がると、なんどか転びつつも斜面を滑り降りていく。 だが流石は運動神経に優れた開拓者だ。 すぐに体重移動のコツを掴んで、ボードのエッジを使って鋭く曲る技も習得。 次第に速度も乗ってきて、すいすいと斜面を滑り降りていけば、そこには風雪で自然に出来た雪のコブ。 「ここは、カッコよく飛んでみるのだぜー……えいっ♪」 膝をたわめて、空に飛び出す瞬間大きく跳躍! 空中でひねりを入れつつ一回転! 「わわっ! 鳥みたいで楽しいの〜♪ ……っと、わぷっ!」 しかしどうやら着地に失敗して、雪の小山にぽふんと埋まってしまったりで。 「怜、大丈夫?!」 「あらあら、怜くん、寒くないかしら〜?」 慌てて駆け寄るレヴェリー・ルナクロス(ia9985)と猫宮 京香(ib0927)。 すると、雪山がもこもこ動いて、 「っぷはぁ、失敗失敗〜、やっぱり着地が一番難しいから、転んで慣れろ、なのだぜ!」 元気にぴょこんと出てきた叢雲は、安心した2人のおねえさんたちにぱたぱたと雪を払われたり。 そんな感じに暢気で和気藹々と、実験は進んでいくのであった。 といっても、こんな実験は開拓者の仕事なのか、といわれたらそれは首を捻る。 「まさか合戦での怪我が治ってから最初の依頼が、身体を張るものになるとは思わなかったな」 こきこきと肩を回しながら、体の様子を確かめる水鏡 絵梨乃(ia0191)。 やっと怪我が治った彼女は、そこで隣の朝比奈 空(ia0086)にじっと見つめられて思わず口を噤んだ。 「……あまり無茶してはいけませんよ? まったく、開拓者の体で怪我するほどに実験、だなんて……」 一体何処まで無茶する気なのかしら、とちょっと不安げな表情の空。 そんな友人の不満顔のほっぺたをむにっとつまんで、大丈夫だと絵梨乃は笑って。 「まぁ、気にせず思いきり楽しませてもらうつもりだし、多少の怪我なら、うっちゃんがいるからさ」 そういって病み上がりなのにも関わらず、意気揚々と実験に取りかかろうとする絵梨乃。 そんな友人を見て、まったくもうと困ったように笑顔でため息をつくうっちゃん、もとい空であった。 つまり、こうした実験に付き合ってくれるかどうか、それはどれも開拓者次第。 「いやぁ、今回も沢山集まってくれて良かったなぁ! これで実験が捗る!」 喜色満面な中務佐平次のこんな依頼は、開拓者の善意によって成り立っている、というわけだ。 頭の中を駆け巡るいろいろなアイディア。それを開拓者達が補強し、さらには新たな発想を付け加える。 それが楽しくてたまらない佐平次は、寒い空気も何のその、大きく深呼吸して……。 「……おや?」 「雪……снег……。うん……? 知らない筈、なのに……どうして、こうも懐かしい?」 「どうしてでしょうね?」 かくり、と首を傾げて問う不散紅葉(ic1215)に、佐平次もくびをかくりと傾けて応えたり。 紅葉は、ぺふぺふと雪を触れたり固めたりしつつ、じっと思案顔だ。だが、暫くするとかくりと頷いて、 「まずは雪に慣れてみるよ。そのあと、これを乗り回してみたいし」 「すのーぼーど、ですか? 良いでしょうこれ♪ 最近広まってる新しい遊びだそうですが」 「こういうの、どこで見つけてくるんだろう……。結構気になる、よね」 「うーん、新しい物好きなんで、いろいろと話を聞いて自作してみたんですよ〜」 と、ちょびっと不安なことを言う佐平次をじっと見つめる紅葉だが、こくりと頷くと。 「うん、大丈夫。体の換えは……効く」 えぇ!? という顔の佐平次を置き去りにして、紅葉はてくてく斜面を登っていくのだった。 ● 意気揚々と他の開拓者の実験を手伝う親友の絵梨乃を麓から見上げる空。 どうやら、今度は大凧をつかっての滑空実験をやるようだ。 見るからに危ないけど大丈夫かしら、といった面持ちで見上げつつ、 「もしや、ごろごろと転がって雪だるまになってしまう人とか……いないですよね?」 空の心配ごとは……数秒後に的中することになる。 「それじゃ、佐平次さんに皆さん! よろしくお願いします!」 紅 鈴椿(ic1364)が提案した実験は、滑降からの飛行、しかも大凧によるものだ。 幾たびかの相談の末、軽い竹などで骨組みを組んだ大凧を背負って、まずは斜面を滑降する鈴椿。 そして先程の怜のように、ぴょんと飛び上がると勢いにのって鈴椿は大凧を広げた! 大凧が風を掴んでふわり、と浮き上がりかける。それに大興奮の鈴椿。 だが、山を吹く風はなかなかに強いもので不意の風で鈴椿は体勢を崩す。 背中の大凧がぐらりと傾いて、そのまま斜面に軟着陸。 だが勢いと速度はなかなかとまらないようで、大凧がすぽんと脱げた後もころんころんと転がる鈴椿。 桃色の髪がくるくると回転しつつ一気に斜面を転がり落ちて、転がっていくのであった。 ……そしてそのまま巨大な雪だるまと化して斜面を転がり落ちた鈴椿。 雪だるまになった鈴椿を開拓者みんなで助け出して、そのまま空が怪我をしていないか調べることに。 「はー、びっくりしました。まだ目が回ります」 「怪我が無くて良かったけど……」 怪我を治す役なのに、と空も困り顔。だが、どうしても鈴椿は望みがあるようだ。 「大丈夫ですよ! からくりですし、体は丈夫だと思いますし。空を飛ぶのは憧れなんです!」 「……無理はしないようにね?」 というわけでこの実験もまだまだ続けられるようであった。 怜やレヴェリーと京香らはスキーやスノーボードを練習中。 その横のちょっとした斜面に、ぽんやりと立っているのは、紅葉であった。 「お〜……高い……。こういう光景も、また楽しい。な」 綺麗な赤の髪をはたはたと風になびかせて、2階建てか3階建ての高さがありそうな崖から見下ろす紅葉。 彼女はどうやら雪へと飛び込む実験をするようだ。 こくり。一つ頷いてぱたぱたと手を振ると、下で待ち構える開拓者や佐平次もぱたぱた手を振って。 そしてぴょんと紅葉は崖を飛降りた。 慌てず騒がず、ぐるりと周囲を見渡す余裕で落下する紅葉。 そして無表情のままで、えいやっとポーズを決めて、ぺふっと雪山に埋もれる紅葉であった。 「紅葉さん、大丈夫ですか〜?」 おーいと、声を掛けて佐平次達が雪山を掘り返してみると、ころんとそこから出てきた紅葉は 「……うん、いつもとは違う光景が見えた、楽しい」 こくこくと頷く紅葉の髪からぱらぱら雪が落ちて。 どうやら可愛らしい見た目に相反してなかなかに剛胆な娘さんのようだ。 「じゃ、次はこれですか?」 そういってスノーボードを差し出す佐平次に、 「これ、これ……落下とはまた違った光景がみれそう。空に居るとき、どんな風に映るんだろう、ね?」 「それは気になりますね。是非とも詳細な報告を」 「うん、わかった」 かくりと頷いて応える紅葉に、佐平次はわくわくと期待のまなざしをむけるのだった。 ● というわけで、ちゃくちゃくと実験は進行しているのだが、そんな様子を見つめて。 「……来るところ間違えたかなあ……」 狸の耳をぺちっとふせて、困り顔は三味線弾きの吟遊詩人、吉田慧沼(ic1390)だった。 並み居る開拓者達はみんな命知らずだったり剛胆だったりで、インドア派の慧沼からするとびっくり。 だがしかし、怖じ気づいてるわけには行かないのだ。 「でも、アヤカシと戦わずに済む依頼くらいこなせないでやっていけるもんか!」 というわけで決意を決めた三味線弾きの少年は、先程紅葉が飛降りた崖に立っていた。 足にはついでにスキー板。ちょっと加速して飛んでみようという実験を受け持つことになったようで。 「それじゃ、行きます! でも……高いなぁ、この崖……」 下を覗き込もうとしたとたん、ぐらりと体重が傾いて、斜面を滑り出すスキー板! 叫ぶ間もなく、しゅぱーんと崖を飛び越えて、あっというまに空に飛び出す。 だが、硬直しきった慧沼、そのままの体勢でふうわりと風に乗ると、なんと足からしゅたっと着地。 おーっと皆が拍手をするのだが、 「……な、何が起きたんでしょう……」 当の本人は硬直しきって、そのままついーっと滑り降りて行くのだった。怪我が無くてなのよりである。 まだまだ実験は続く。 しかし、どうやら開拓者達は体が温まってきたようで、実験以外にも気合いが入ってきたようだ。 「うっちゃん、ソリの実験を一緒にしてみよう! 救護役ばっかりじゃ凍えてしまうよ」 ずりずりと、絵梨乃が持ってきたのは2人乗りの大きなソリだ。 山小屋待機で怪我に備えていた空を誘って2人はそり滑りを実験するようなのだが……。 「直滑降! どう、こわい?」 「……いいえ? でも、風がなかなか気持ちいいですね」 急な斜面を凄い速度で滑り降りても、空は表情を崩さない。ならばと、絵梨乃は悪巧みを考えたようだ。 「じゃ、今度はうっちゃんが前ね、僕は後ろに……」 「? いいですけど……それじゃ、行きますね」 そして滑り出す2人。だが、絵梨乃には目的があった。 後ろに回って、ぎゅっと抱きついた体勢でしがみつく絵梨乃。 彼女は、ひさしぶりだし、と愛しい親友にぎゅうっと抱きついたまま、その手をそっと胸に伸ばして……。 だが、それに対しても空は冷静だった。そっとその手を握って。 「……どうなさったんですか?」 と、顔を後ろの絵梨乃に向けて、そっと冷たい頬をくっつけてみたり。 「!!」 反撃されたのにびっくりしたのか、それとも頬が冷たかったのか。 ともかく、絵梨乃は反撃にびっくり、思わずソリの操作を誤って2人はごろごろ雪塗れになるのだった。 雪塗れで笑い会う2人。そんな2人を遙か斜面の上から見下ろすのはレヴェリーと京香だ。 2人は、いよいよ斜面を滑り降りつつ飛んでみることにしたようだ。 「レヴェリーさん、どっちが飛べるか勝負なのですよ〜」 「ええ、良いわよ京香! それじゃ、いくわよ〜……それっ!」 そういって、2人は斜面を一気に滑り降りていく。 歴戦の開拓者で、運動神経の良い2人だ。みるみる加速していき、そして一気に空へ。 仲間たちが見守る中で、2人はかなりの飛距離をだして……と、そこまでは良かったのだが。 どうやらこの2人、妙に運が悪いんだか良いんだか。 まず、着地点ではらはらと見守っている怜に気を取られたのか、空中でレヴェリーが体勢を崩した。 それに京香も気を取られたのか、2人はそろって体勢を崩して斜面に軟着陸。 レヴェリーはごろごろと転倒、京香は体勢を崩して枯れ木立にがさがさっと突っ込んで。 慌てて怜が駆けつけるのだが…… 「くっ……!? 真逆、此処まで速度が出るなんて……!」 「はふぅ、なんとかぶつからずに出てこれましたよ〜」 ぱっぱと雪を払うレヴェリーに、木立から無事出てきた京香、ふたりはほっと一息ついて。 肌が妙にひんやりしていることに気付いた。 「……京香、貴女凄い格好に……!」 「そういえば何か体が寒いような……って、あ……きゃぁ!? でもレヴェリーさんも、凄いことに……」 「え、私も? ……え、あ? なんで脱げてるのっ?!」 転んだレヴェリー、転がる内にすぽんと綺麗に服が脱げたようだ。 そして京香は、木立に服が引っかかってぼろぼろ。ただの布と化していた。 「レヴェリー姉〜、京香ママ〜。思いっきり転んでたけど、大丈夫〜? ってお服が凄いことに……」 ぱったり鉢合わせする怜と2人。 「……寒くないです?」 「っきゃー!! 怜、見ないで下さい!」 「あらー、結局今回もこうなるのですね〜?!」 慌てて体を隠す2人に、怜は上着や毛布を提供するのだった。 ● そんなこんなで盛り上がったり、ハプニングのあった実験の連続だったようで。 「これが……鳥の見る景色なのかな……」 大きく空に飛び出して、その光景に感嘆する紅葉。 彼女は夕日に沈む山の景色を眺めながら、綺麗に斜面に着地するのだった。 すると、そこにどこからともなく声が飛んでくる。 「丁度、お汁粉とかお味噌汁とか出来たみたいですよ〜、不散さんもどうですか?」 慧沼の「貴女の声の届く距離」による語りかけだ。それに紅葉はこくりと頷いて、麓の山小屋へ。 冬の日は短いようで、今日の実験はこれで終了のようで、紅葉が山小屋に入ると。 そこには思い思いに寛ぐ開拓者達の姿があった。 「はい、紅葉さんはお汁粉とお味噌汁、どちらが良いですか?」 鈴椿はくるくると囲炉裏側で配膳中のよう、手作りの味噌汁を皆に振る舞っていて。 「それじゃ、お汁粉……」 「はいこれ、朝比奈さんが作ってくれたんですよ。あ、佐平次さんはお味噌汁どうぞー。好物の茸入りですよ」 「おお、それは感激〜!」 わざわざ佐平次の好みを調べた鈴椿であった。 一方他の開拓者と言えば。 「はい、お疲れさま」 「はい、あーん」 「……もう、仕方ないわね」 くすりと笑って応える空に笑顔でもたれかかる絵梨乃。2人は酒を開けて、仲良く寄り添って晩酌中だ。 「おねえちゃん達! どう、格好良かった?!」 「ええ、格好良かったわよ、怜……でも、さっきのことは忘れて欲しいわね……」 「毎回こうなりますよね〜……どうしてでしょうか?」 怜を挟んで、赤面するレヴェリーに、首を傾げる京香だったり。 そして、紅葉も輪に加わって囲炉裏の側で腰を下ろして暖かいお汁粉を一口。 こころから暖まるその味に、思わず小さく微笑むのだった。 片隅では慧沼が得意の三味線を疲労して、とりあえずは実験の成功を祝っての小さな宴が始まるのだが。 「ねえ、これだけ体を張っているのだし、なにかしらの結果は見えてきたのかしら?」 不意に佐平次にレヴェリーがそう聞くと、 「そうですねぇ、調べれば調べるほどいろいろ新しい案や、やりたい実験が浮かんできますね!」 大凧の新しい図面なんかを作りつつ応える佐平次に、はぁとレヴェリーはため息をついて。 「それは新たな実験追加ってことね……あぁ、本当に。解っているのに、如何して来てしまうのかしら」 困った顔で遠い目をするレヴェリーの反応に、きょとんとする佐平次。 どうやらまだまだ実験は終わらないようだ。 |