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■オープニング本文 どんな場所にも酔狂なことをする人間というのがいるもので。 今年の夏の花火大会の話を聞いて、その酔狂な男はあることを考えた。 普通なら、地上からただ見上げることしかできない花火。 あれを空から見下ろしてみたらどう見えるのだろう。 幸か不幸か、その酔狂な男はそれなりに金のある商家の主で。 声をかけたら、似たような酔狂な人間が我も我もと協力を申し出て。 そして今年の夏、花火大会の日。 芳野の空には一隻の飛行船が浮かぶことになったのである。 船は、芳野で数人の商家が管理している短距離輸送用の小型船。 それを展望台代わりに、芳野の町から少し話して飛ばそうという算段だ。 もちろん芳野の領主代行とも話はついており、危険は無いという話。 だが、運の悪いことが一つ。 最近、芳野の近くで、飛行するアヤカシ、大怪鳥の群れが確認されたのだ。 花火があればそれだけで目立つだろう、おそらく大怪鳥は寄ってくるはず。 そんなところに、ぷかぷかと武装も無しで浮かんでいる飛行船があれば、格好の的だろう。 そこで芳野の商人たちは、開拓者と縁のある住倉月孤翁を通じてギルドに依頼を出すことにした。 依頼の内容は、船の護衛と大怪鳥の駆除だ。 花火があがる夜の空、相棒と共に戦っては貰えないだろうか? さて、どうする? |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
ゼス=R=御凪(ib8732)
23歳・女・砲
リズレット(ic0804)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ● 芳野の空に夜の帳が降りて、蒸し暑い空気にひやりと涼しい風が交じる黄昏時過ぎ。 よく晴れた夜空に星とお月様が浮かび上がる中、花火大会は無事行われる運びとなった。 芳野の街では、老若男女が空を見上げて歓声を上げるのだろう。 だが、今日。開拓者達のあるべき場所はそこではない。 花火の上がる夜の中天。そこには、開拓者達と酔狂な飛行船が一隻。 だが、彼らに向かって邪な闖入者の影が迫っていた。 敵は無数の鳥型アヤカシ、大怪鳥。 開拓者達は、花火の上がる中天にて敵を待ち構えるのであった。 夜の空に、大きな音を立てて花火が上がり始めた。まずは小さく可憐な花火からだ。 色とりどりの輝く花が空を飾っていく、それを中天から眺める1匹と1人が居た。 「見ろ華龍王、間近で見る花火は迫力が違うなぁ」 遠巻きに花火を眺めつつ、ケラケラと笑う緋桜丸(ia0026)。 それに応えるように、炎龍の華龍王はぐるると唸ると、 「さて、そろそろ来るはずだ。これだけの音と光……遠くからでも目立つからな」 にやりと笑って優雅に空を行く龍と開拓者。 戦いの予感に華龍王は花火に負けないほどの咆哮を放って気勢をあげるのだった。 そんな2人の先を飛ぶ甲龍に緋桜丸が気付き、すいと隣にならぶ。 ふわりと旋回する甲龍の背には緋桜丸の知己、九竜・鋼介(ia2192)がいたのだ。 「よう、駄洒落の。……その手に持っているのは?」 「ああ、これは用意して貰った小型の花火だ。これでアヤカシを誘い出せないかと思ってな」 駄洒落好きの九竜に、緋桜丸が尋ねると九竜は手にした花火玉を示して見せて。 「光や音に反応するという話だ、効果はあるかもな。ただ自爆とかは止めてくれよ?」 からから笑いながら緋桜丸が言えば、 「大丈夫だ。導火線がある。これで、どうにかせん、とな……」 しれっと駄洒落を言う九竜に、ツッコミ代わりに砲撃は如何? と緋桜丸。 だがそんな冷たい反応も我関せず、満足げに頷く九竜。 遊撃役の2人は花火を見ながら悠々と配置につくのだった。 じりじりと敵の到着を待つ開拓者達。 最初に気付いたのは、遠目の才にも長けた砲術士、ゼス=M=ヘロージオ(ib8732)だ。 夜空に舞う大怪鳥の黒い姿は見付けにくい。 しかし、狙撃すら易々と果たす砲術士たちはその中でも敵を見付け出すのだ。 「皆、来たぞ」 空を舞い連携する開拓者達は、それぞれ手信号や身振り手振りで合図を送り敵接近の報を知らせる。 そして、それが一同に伝わりきったのを確認したゼスは、駿龍の背をぽんぽんと撫でて、 「行こうか、クレースト。お前の翼は信用している」 一瞬だけクレーストはちらりとその背の主を白い瞳で振り返ると、一気に加速して。 「さて……ご退場願おうか。この華やかな場にお前達は似つかわしくない」 そんなゼスの言葉に、首肯するかのように小さく吼えて、一気に敵に向かって距離を詰めた。 一方、仲間の合図を受けて、くつくつと笑う女性が1人。椿鬼 蜜鈴(ib6311)だ。 「さて、来たようじゃ……おんし、瘴気の香りを忘れてはおらぬであろ?」 ぷかりと口から紫煙を吐き出して、煙管の灰を落とすとさらりと彼女を支える龍の背を撫でた。 龍の名は天禄、強き力を得た空龍だ。 船の上空をぐるぐると回っていた天禄と椿鬼。天禄は椿鬼の言葉にもちろんだと言うように低く唸って。 「よしよし、ならば狩りに行こうか」 その瞬間、背後で一際大きな花火がどんと上がった。 びりびりと空気が震え光が広がるのだが、それを一顧だにしない天禄と椿鬼。 「空からの花火か……わらわにとっては然様に珍しいものでも無いがのう」 どうやらこの空では、龍を共とする開拓者の方が、粋人たちよりも遙か先を行っているようだ。 そして天禄は椿鬼を背に、天龍のみがなし得る早き翼で一気に距離を詰めた。 遊撃最後の一人は、その時船の甲板にいた。 船の乗客は殆どが花火に夢中だ。だが中にはアヤカシを恐れて不安げにこちらを見ている者もいる。 だがそんな視線を気にせずに、クロウ・カルガギラ(ib6817)は愛馬の首を撫でた。 甲板に馬。これから空中戦が始まるのに、それはあまりに相応しくない光景であった。 だが、クロウとその愛馬、プラティンには空で戦う力があった。 美しく輝く白馬のプラティン、その鬣だけが金に輝いている優美な姿はまさしく名馬の趣だ。 だが、プラティンはただの馬では無い。力を増した霊騎がさらなる力と飛行能力を得た戦馬なのである。 「よし、それじゃ行くぞ相棒!」 ひらりと愛馬の背に飛び乗るクロウ。プラティンはしっかと受け止めると、蹄の音を立てて甲板を蹴った。 力強い蹄の響と共に、空を駆け上る戦馬プラティン。 遊撃の配置についた開拓者達は、それぞれこちらに向かってくる敵に対して身構えるのだった。 ● わらわらと暗い空を飛ぶ大怪鳥の群れ。 鳥のような修正をもつこのアヤカシ等は目立つ光と音を頼りにひたすらに羽ばたいていた。 あれは人が出すしるしだ。ならば近付けば旨い人がたんまりといるに違いない。 賢くない頭なりにそう考えて、飛んでいけばより楽そうな得物が手前にあった。 ぷかぷかと無防備に空に浮かぶ飛行船だ。 きっとあのなかにも人が居る、襲って喰らってしまえば良い……だが、妨害する者たちが居た。 遙か遠方から飛んできたのは弾丸だ。 文字通り口火を切ったのは、ゼスのブレイクショット。 ロングマスケットから放たれた弾丸、それは真っ直ぐに先頭の大怪鳥を穿つとそこで爆発! 花火の音に紛れながらも、強烈な一撃が見事に大怪鳥を痛撃したようであった。 そこでやっと大怪鳥らは気付いた。自分たちを害することの出来る敵が居る。 迷って距離を取るもの、獰猛に敵を狙うもの、ただ目的を果たそうと花火に向かって飛ぶもの。 ばらばらに動き回る大怪鳥たちは難敵だ。 だが、そこに一気に遊撃たんとうの開拓者達が襲いかかるのだった。 しかし、敵は強敵な上に数が多い。 遊撃の網を抜けてくる大怪鳥、それが飛行船へと向かってくる。 だが、飛行船には守りの要が居た。それはたった3人の開拓者だ。 「来たようだぞ頑鉄、呼ばれもしない客にはお引き取り願おうか」 大怪鳥の眼前に躍り出たのは一の盾、鋼龍の頑鉄とその主、羅喉丸(ia0347)だ。 その頑鉄に、大怪鳥が襲いかかる。一際大きなその大怪鳥は勢いに乗せて鋭い嘴と爪を叩きつける。 だが、驚くべき事に大怪鳥の攻撃は、頑鉄の強固な鱗にがちんと阻まれてしまうのだった。 より強固で強い外殻を得た甲龍、其れが鋼龍だ。 頑鉄の名の通り頑強でクロガネが如き強固さを誇る頑鉄、それがさらに龍戈衛装で精霊力の鎧を纏う。 その強力な装甲は、生半可なことでは傷一つつかないのである。 「……この程度なら、そうそう当たり負けはしないようだな。良くやった頑鉄」 大怪鳥をはじき返した鋼龍の頑鉄を労う羅喉丸は、すらりと弓を取り出した。 そしてそれをきりりと構えると、 「武器は腕の延長、故に泰拳士の技を奮うのにいささかも支障はない」 得手では無いはずの弓を構える羅喉丸。その顔や気勢には一片の気負いや乱れも無かった。 「遠間ならば弓、近付けば拳でお相手しよう……近づければ勝てるなどと思わぬことだ」 盾となり足場ともなる頑鉄と共に、轟と吼えると羅喉丸は次々に矢を放ちはじめるのだった。 だが、敵の数はまだまだ尽きない。次々に飛行船に大怪鳥は迫る。 そこで船から飛び出したのは二の盾、三の盾。 飛行船の護衛に配備されていた三名の開拓者、その残り二人だ。 「リズ、準備はいい? 連携していくよ」 「はい、水鏡様が一緒なら、とても心強いです……」 水鏡 絵梨乃(ia0191)がリズと呼びかけたのはリズレット(ic0804)。 駿龍のスヴェイルに乗ったリズレットは、水鏡の言葉に優しく頷くと、 「それでは先に参ります……今回もよろしくお願いしますね、スヴェイル?」 相棒の駿龍を気遣うように撫でて、一足先に飛び出していった。 リズレットは手にマスケットを構え、飛来してくる大怪鳥を狙った。 揺れ動く空中、しかも相手は移動する目標、いかに練達の砲術士といえどその狙いは難しい。 だが、リズレットは信頼とともに優しく相棒のスヴェイルに語りかけた。 「行きますよスヴェイル……息を合わせて……っ」 わずかなリズレットの体重移動や指示を敏感に受け取るスヴェイル、緩急自在の高速機動で敵を翻弄。 ひらりと大怪鳥の突進を回避して、上を取るリズレット。魔弾の一撃が大怪鳥の胴を穿った。 さらに一瞬も止まることなく加速して、単動作で装填をこなしながら弾丸を次々に放つ。 羽や胴体を穿たれて、ぐらりと傾ぐ大怪鳥たち。 そこにさらなる追撃が、甲板の上から飛び出してきた。 それは、先程まで迅鷹の花月とともに甲板にいた水鏡だ。 いつの間にか、水鏡の背には翼があった。 優れた迅鷹と強い絆をもつ開拓者のみが身につけられる技、友なる翼だ。 だが、花月は迅鷹の中でも多くの戦いを経験し技を磨いた優れた相棒である。 空を舞う力の名は、大空の翼。水鏡は相棒の花月の力と融合し、一気にそらに駆け上がっていった。 「狙いぴったり! さすがはリズだな」 水鏡が狙うのは、リズが打撃をあたえた大怪鳥たちだ。 失速し無様にあがく大怪鳥。それは水鏡にとって単なる得物だ。 竜や戦馬に比べても遙かに小回りの利く迅鷹の力、大空の翼。 その対応力を活かして、水鏡は次々に大怪鳥を蹴り飛ばし、蹴り落とし、蹴り散らした。 たった三枚の盾ながらその守りは盤石。 飛行船にはただの1匹の大怪鳥すら近付くことができないのだった。 ● どーんと、派手な音を立てて芳野上空に光の華が開いた。 その音に紛れるように、微かな雷光が上空から大怪鳥を狙い撃った。 「ふむ、こうして花火の咲く音に合わせれば、場を乱すことは無かろうて」 くすりと笑いながら空龍の天禄と椿鬼は遊撃として大怪鳥を狙い撃っていた。 主戦力は、空を裂く雷の一撃アークブラスト。そして、接近されたとしても相手は空龍。 速度と攻撃力を兼ね備えた歴戦の龍、天禄にとっては大怪鳥は敵にならなかった。 すれ違いざま、天禄の爪と風の刃が大怪鳥を切り刻み、さらに椿鬼の魔刀が追撃する。 そして、それでも尚立ち向かう個体がいたとしても、 「ほれ、おんしらも塵花と消えるが良い」 高位の魔法ララド=メ・デリタが放たれれば、灰色の精霊力が大怪鳥を飲込んで消し去ってしまう。 灰魔法に雷鎚、この二つに空龍の力で椿鬼はまさしく夜空の女王として君臨するのだった。 戦いの最中、ちらりと視界の端に花火が映る。 空から見下ろす花火も、椿鬼にとっては見慣れた者かも知れないが、 「相も変わらず美しい空華じゃ。おんしら如きに穢させはせんよ」 何度見ても美しさには陰りは無いようで、さらなる得物を求め一人と一匹は空を駆けるのだった。 開拓者の優れた防御と、遊撃によって千々に散らされた大怪鳥たち。 その中には、船も開拓者も無視して花火へと近付こうとする大怪鳥もいた。 それを追いかけるのは、 「いくぞ相棒、花火の中に突っ込むぞ!」 愛馬プラティンを駆るクロウだ。シャムシールをすらりと抜き放ち、大怪鳥を追いすがる。 花火が上がるが、人馬一体のクロウとプラティンはその機動を読んでひらりと躱す。 そして、花火に翻弄されて失速した大怪鳥の背に一太刀! 人馬一体の、イェニ・スィパーヒと騎乗戦技の冴えは見事の一言。 あっというまに数匹の大怪鳥へと追いすがり奴らを瘴気へと帰すのだった。 花火玉が打ち上げられ、空を登る音をクロウは耳にしてひらりと距離を取る。 するとすぐ近くで見事な光の芸術が花開く。 「……いいね。最高の眺めだぜ!」 爆音に体の芯まで揺さぶられる気持ちでしばしクロウはその花火に目を奪われるのだった。 だが、それがちょっとだけまずかったのかもしれない。 倒したはずの大怪鳥の一匹がしぶとく復帰して、上からクロウたちを狙ったのだ。 即座に反応するプラティンとクロウ、ひらりと回避したが、ぼろぼろと崩れながらもつめを伸ばす大怪鳥。 その爪ががっきりとクロウのシャムシールをつかみ取った。 「くっ! しまっ……!!」 ぐらりとバランスを崩し、宙に放り出されるクロウ。 運悪く間近で花火が炸裂し、光と音で視界が揺さぶられる! だが、クロウは短銃を抜き放ち、瀕死の大怪鳥を一撃。今度こそ本当にとどめをさす。 その瘴気が霧散した瞬間、花火の向こうに主へ一目散に向かうプラティンの姿があった。 「こっちだ、プラティン!」 愛馬は高速走行で主の元へ一直線、ひらりとクロウをその鞍の上にのせて。 「……今のは危なかったな。たすかったよ、相棒」 ほっと息をつくクロウは、心配げに背の上の主を振り向く愛馬の首をぽんと叩いて。 「もう一回やれと言われても勘弁だぜ……」 そんなクロウの様子に、もっとしっかりして、と言いたげなプラティンであった。 ● 空の戦いは、近くて遠い戦いだ。 一瞬で彼我の距離が接近しまた離れる。地上との戦いとはまた違った戦場だ。 「クレースト。少しの間だけ敵の攻撃を避けてくれ。頼んだぞ」 そんな中を縦横に舞うのは駿龍のクレーストとゼスだ。 匠に距離を取り、近付く大怪鳥の攻撃を避けるのがクレーストの役目。 そして狙った距離に敵をおさめればゼスの銃が弾丸を放ち大怪鳥を打ち落とす。 淡々と仕事をこなすゼス、敵の数も大分減ってきたようだ。 そんな中で彼女はちらりと空を見上げた。そこには綺麗な三日月が出ている。 ゼスは月から視線を引きはがすと、ほう、と小さくため息をついた。 彼女は余り月が好きでは無いのだ。そんな主の様子に気付いたのか、ぐんと強く加速したクレースト。 敵から距離を取ると、クレーストは主の様子を窺うようにちらりとだけその綺麗な白銀の瞳を向けた。 「……大丈夫だ、クレースト。気遣ってくれたのだな」 ぽんと優しくその背を撫でると、ならばその信頼に応えましょうとばかりに龍の翼が力を増した。 そして一人と一匹は、また風のように空を駆け巡りながら敵の数を削っていくのだった。 そして、とうとう敵の数も底が見え始めてきた。 だが逃がすわけにはいかないアヤカシが相手となれば、あとはおびき寄せるだけ。 「花火といえばたまや、かぎや……と。この花火『玉』が、『鍵』や、ってところか」 導火線に火を付けながら九竜が駄洒落を言うが、聞いて居るのは甲龍の鋼だけ。 九竜は、街の反対側でその小さな花火玉を放つと、小さいながらも派手な花火が空を彩った。 突然、近くで花開いた空の華に大怪鳥が引き寄せられる。 そこには、九竜の咆哮の力もあったようで、さらに九竜は真空刃を放って大怪鳥らを誘導する。 じりじりと誘導される残り少ない大怪鳥。そこに九竜と鋼が突っ込んだ。 今度は手に持っているのは焙烙玉。 「焙烙玉を放ろう……ふむ」 出来は今ひとつか、なんて真剣な顔の九竜は、なんと言葉通りに焙烙玉を大怪鳥の群れに投げ込んだ。 そして盾を構え、甲龍の鋼は霊鎧で身を固めた。 花火に紛れる小さな爆音と爆風。焙烙玉の爆発は大怪鳥を屠るほどでは無かった。 だが、注意を引きつけるには十分であった。 「最後は派手なのが良いと思ってたんだ!」 そこに上空から急降下をしかけたのは緋桜丸と華龍王だ。 華龍王が火炎を吹き付け、そこに魔槍砲の砲撃が叩き込まれた。 「邪魔者は夜の闇に塵と消えな! ……緋剣弐式・牙朧穿ッ」 業火に砲撃が合わさり、より一層広がると大怪鳥らを巻き込んで一気に炸裂した。 すでに九竜は待避していたのだが、それでもなお熱波を感じるほどの爆発と熱量が広がって。 刹那の業炎が収まると、ばらばらと力尽きた大怪鳥が燃えながら瘴気に帰り。 そしてわずかばかりの瀕死の大怪鳥が残るだけであった。 「さて、思う存分牙を振るって良いぞ、華龍王……どいつが好みだ?」 「緋桜丸、手を貸すぞ」 緋桜丸は龍の華龍王に任せて追撃し、九竜と鋼もそれに加わり、最後の集団も打ち倒されるのだった。 ● 「スヴェイル、目標〜左前、下方、合わせて、……trois、due、un、feu!」 飛行船を襲っていた大怪鳥の上をとり、フェイントショットの一撃で胴を射貫くリズレット。 同時に、もう一体が水鏡に向かっていたのだが、ひらりと強力な爪の一撃を飛び上がって回避。 そのまま転反攻。相手の勢いのまま、なんと水鏡は大怪鳥の背に飛び乗った。 ぎしりと首を背後から巻き締める水鏡、さすがの大怪鳥も背中には爪も届かない。 嘴をお見舞いしようとしても首を絞められて動きが取れず、ついにはごきりと首を折られて大怪鳥は消滅。 ひらりと消えゆく瘴気の塊から飛降りた水鏡は、背の翼をはためかせて船の甲板に着地をするのだった。 ぐるりと天を仰ぎ見る。 花火が上がる度に光が広がり空を染めるが、そこにはもう大怪鳥の影は無かった。 その水鏡の横に、ばさりとスヴェイルが舞い降りて、その背からリズレットが降りてきて。 「水鏡様、これで終わりでしょうか?」 「ん、そうみたいだね。お疲れさま」 水鏡がリズレットを労うと、水鏡から分離した迅鷹の花月が、俺は? とばかりに見つめてきて。 「はいはい、いま芋羊羹あげるから。花月もお疲れ様」 「スヴェイル、よく働いてくれましたね。ありがとう」 水鏡とリズレットはそれぞれお互いの相棒を労うのだった。 戦いは終わったようだ。 「ふむ、華の終わりは夢の終焉。さぁ、片付いた事じゃて帰るとするかのう……」 敵を倒しきったとの合図を見て、椿鬼は天禄の背で煙管を加えていた。 敵との華々しい戦いはおわったが、どうやら未だ少し花火は続くようで、それをぼんやり眺める椿鬼。 「まぁ、之も一興かのう」 ぷかりと紫煙を吐き出せば、天禄もうなり声で応えた。 「酔狂だったが、これも祭の華なのだろうな。この調子なら来年も続けられるだろう」 深々と頷く羅喉丸に感謝する依頼人。 その横で、フードを被って、用意されていたお菓子をつまむのはゼスだった。 船の客たちは花火に夢中なようで、ダメにするぐらいなら是非どうぞと進められたゼス。 ジルベリアのケーキやクッキーが置いてあったのに気付いた彼女は、その味見をしている様子で。 「クレーストにお土産にもう少し貰っていこうかな?」 そんなことを考えながら花火の光と音を眩しそうに見つめるのだった。 緋桜丸は、九竜と共に暢気の空を跳びながら駄洒落を聞き流していたり。 クロウは世話になった愛馬の背にブラシをかけてあげていたり。 戦いの後は、相棒たちとともに過ごす時間でもあった。 より絆を深め、戦いの経験を積んだ開拓者達。 彼らは花火が終わるまでの一時を、戦いの後の満足感とともにのんびり過ごすのであった。 |