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■オープニング本文 アヤカシ、その姿は千差万別である。 だが人の恐怖と血肉を糧とするのは同じであり、さらに彼らは倒されれば瘴気と化して消えてしまうもの。 全く持って不思議な存在である。 そして、奴らの中には生物の姿をまねたものも多く。 今回、武天のとある海岸沿いにて、人々を脅かしているのもそうしたアヤカシの一種のようであった。 「最初はでっかい獲物かと思ったんだがなぁ‥‥やつら襲いかかってきてな。ああ、こりゃアヤカシに違いねぇ、と」 そう語るのは猟師の1人だ。 聞けば、数日前から、海岸沿いの洞穴の近くにて、そのアヤカシと遭遇したとのこと。 そこは漁場ではないもの、貝類などがとれる岩場の近くであり、一刻も早い退治が望まれているらしい。 「いやー あれだけでっかいカニだと、アヤカシじゃなかったら食べて見てぇんだがなぁ?」 どうやらアヤカシは巨大なカニの姿をしているようである。 その岩場の洞窟にいるとおぼしきカニ型のアヤカシ退治。 無事退治しきれば、報酬に加えて海の幸を堪能できそうなこの依頼であるが。 さて、どうする? |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
ダイフク・チャン(ia0634)
16歳・女・サ
天雲 結月(ia1000)
14歳・女・サ
鳴海 風斎(ia1166)
24歳・男・サ
橘 琉架(ia2058)
25歳・女・志
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●夏の終わりの海 たき火の火花はぱちぱちと。 そこは、主に海からあがって体を温めるために使われる小屋であった。 たとえ夏といえども、長い間水に触れれば体温は奪われるもので。 特に素潜りをして獲物を探す海女たちなどにとって、重宝されている場所なのだが。 今日は、その小屋でたき火を起こしているのは、漁師や海女達ではなかった。 彼らは開拓者達、今回は依頼のためにここへやってきているのである。 開拓者にもたらされる依頼は様々である。 国を揺るがすような一大事から、大きな陰謀に絡む影の依頼。 巨大なアヤカシと戦う絵巻物で語られるような英雄譚もあるだろう。 だが、開拓者が必要とされるのは、もっともっと身近な問題に対してである。 しかし、いくらそれが身近で小さな依頼だとは言え、依頼主からすればそれは死活問題で。 今回のように、大きなカニ型アヤカシに手を焼く漁師達の苦労はなかなかのもののようだ。 アヤカシがいれば安心して、漁も出来ず獲物も捕れず、一刻も早い解決が望まれているようだ。 「ほうほう、確かにこうして布を巻けば滑りにくくなりますな」 さて、もちろん優秀な開拓者といえど、その道の専門家には適わないもので。 真珠朗(ia3553)をはじめとして、開拓者達は水場での便利な装備を教わっていたり。 開拓者達も、濡れるのは想定済みのようで、小屋の片隅には着替えの山を置いて。 岩場で脚を切らないようにと布を巻いたり、いろいろ準備は終わったようである。 開拓者たちの意気込みは十分。 「騎士として困っている人々を助けたいって気持ちがあるからっ」 天雲 結月(ia1000)は珍しい装備が目立つ少女であるが、凛々しくもそう宣言すれば。 「‥‥決して海の幸につられたって訳じゃ」 と、視線の先には、囲炉裏にかけられた鍋やら用意された食材やらで、結月のお腹からきゅーぐるると可愛い音が。 「‥‥あぅ〜」 赤面する結月であったり。 それもそのはず、わざわざ依頼を解決しに来てくれた開拓者達を歓待しようとすでに料理が用意されているようで。 「温かい料理を用意して待っていますから!」 そう言われて、近場の漁師さんや奥さん方総出で、見送られる開拓者達。 さて、カニ退治の行方はどうなるのだろうか。 ●水辺を行けば 「あぁ‥‥やっぱり夏でも、そろそろ涼しくなってきたから、水が冷たいわね」 少女の冒険者が妙に多い今回の依頼で、色気が目立つのは橘 琉架(ia2058)だ。 裾をまくって潮だまりに足を触れさせて、妙に色っぽいご様子。 しかし、元気が有り余ってる様子の者も。 「若干寒いみゃが、濡れて良いように水着姿みゃ〜♪」 ダイフク・チャン(ia0634)はばしゃばしゃ潮だまりをかき分けつつ緑と赤の瞳をぱちくり。 そして彼女が元気にぴょんぴょん岩場を進めば、後ろからか細い声が。 「あ、待って下さい‥‥」 よじよじと岩場を登ろうとしているのは鈴梅雛(ia0116)だ。 段差の激しい岩場で苦労しているようで、手を貸すみゃとダイフクが手を貸せば恐縮しつつ引き上げて貰う雛。 見た目だけなら、楚々とした大人しそうな少女である雛も立派な開拓者だ。 確かに年齢は低いのだろうが、志体を持つ開拓者は常人とは違う。 彼女も、立派な開拓者であり、なかなかに腕の立つ巫女なのである。 そして、その雛と同じぐらいの年頃に見えるのは隊列の先頭を行く結月だ。 彼女の視線の先には、やっとたどり着いた洞窟の入り口が。 「やっとついたねっ。気を引き締めて行かなきゃ」 そう言えば、隣に立つ羅喉丸(ia0347)も 「ふむ、どうやらこの辺りには姿は無いようだな。やっぱり中か‥‥面倒だな」 手にした長柄斧を見ながらそう言って。 とにもかくにも、一行は洞窟へと踏み込むのであった。 ●洞窟の中で 海辺の洞窟は、人が掘ったものではなく自然によるもので。 どうやら大きく割れた崖がそのまま洞窟のような形になっているようであった。 入り口は人の背丈を遙かに超える広いもので、水がたまっているのか足は太ももまで水に浸かり。 灯りが必要ないほど内部は明るく照らされているのだが‥‥。 「‥‥見事な蟹だな、アヤカシなのが残念だ」 羅喉丸がそういって見やる視線の先には大きな蟹が3匹ほど。 洞窟は奥行きがほとんど無いらしく、早々のご対面である。 そして同じく蟹に視線をやるのは紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)だ。 「本当に残念です、あれだけ大きければさぞかし沢山身があるのに」 料理人の癖か、残念そうであるが。 しかし、こうして軽口を叩いていても、それぞれ開拓者達は獲物を速やかに構えていた。 立ち回りに困るほどの狭さではないだろうが、さすがに洞窟内部、壁や天井、岩場が行動を阻害する。 だが、開拓者側も準備は怠りなくしてきたのである。 となれば、後は目の前のアヤカシを退治するのみである。 「白騎士・参上っ☆カニ型アヤカシ、覚悟しろっ!」 いろんな意味で白騎士という、結月の名乗りは蟹たちの注意を引いたようだ。 一斉に蟹たちはがしゃがしゃと開拓者達へ向かって殺到してきた。 戦闘開始である。 さてさて、そこからが大立ち回りである。 名乗りを上げた結月は、振り下ろされた蟹のはさみをがっちりと盾で受け止める。 サムライである彼女は小さなその体に秘めた力を主に、蟹の一匹の動きをまず引きつけたようだ。 まずは一匹。 そしてその横を、風のようにぴょんぴょんと、水の軌跡を残して駆け抜ける影が二つ。 「みゃみゃい〜んすらっしゅ! 斬!」 技名?を叫びつつ、両手の刃を振るったのはダイフクだ。 同じサムライながら、二刀流で速度を生かす。 しかし、振るった刃は蟹の甲羅にがつんとあたって弾かれれば、 「みゃっ! やっぱり蟹だけに硬いみゃ!」 「ならあたしに任せて下さい〜。蟹を料理するのは慣れてますから」 同じく駆け抜けた影は紗耶華だ。蟹の一撃を回避すると、蟹の関節の継ぎ目をがつんと一撃する。 「関節をなるべく攻撃しますから、ダイフクさんはそこを狙ってください〜」 「わかったみゃ! 関節部分みゃね〜 それならもう一度みゃみゃい〜んすらっしゅ!」 「あら、冷たいじゃない。でも、そんな攻撃じゃ当たらないわよ?」 蟹のはさみがガチンとかみ合うと、その場にすでに姿は無く。 するすると回避しているのは琉架だ。 しかし攻撃を回避できるとは言っても、自分が動けば水しぶきが飛ぶようで。 踏み込みで裾から白い足がのぞき、水で濡れた服が体の線を浮き上がらせたりと、世の男性なら悶絶必至の様子だ。 しかし今は戦闘中、艶めかしい姿の彼女に注意を払う余裕のあるものはいない、否、ほとんどいない。 「ふむ、目の保養になりますね」 今まで無口だった開拓者、鳴海 風斎(ia1166)が琉架に視線を向けつつするりと蟹へ近づいて。 どうやらなかなかに、女性に惹かれてしまう性質のようだが、それと同じぐらい血をたぎらせるのが戦いとか。 危険な蟹の間合いに身を躍らせると、蟹の突進をがっしりと受け止めて。 その隙に、琉架が今度は関節を狙って炎を纏う刃を振るうのだが。 その様をじぃっと見ている風斎、といってももちろん蟹の攻撃をいなしながらではあるが。 その視線に混じるのは、喜悦と若干の羨望で。 もしかすると、彼は琉架の戦う姿に、奴隷になりたい、なんて思ったのかもしれない。 「ちょいと、結月君。後ろに一度距離をとれるかねぇ?」 真珠朗が前線の結月にそう告げれば、白騎士結月は、盾で大きく蟹を押し返し、即座に下がって。 同時に、真珠朗は洞窟内の岩場を足場に、高さを確保、手には引き絞られた弓が。 放たれた矢が穿つのは、蟹の甲殻の隙間だ。 そしてその一撃で蟹アヤカシは体重を支える足を穿たれて、体勢を崩せば。 「よしっ! ハサミいただき!!」 即座に距離を摘めた結月、無防備なハサミの付け根に一撃をいれれば、ちぎれ飛ぶハサミ。 そして、そこに滑り込む羅喉丸。 「これでとどめだ」 ハサミを失い、足を穿たれた蟹を壁面と挟み込むようにして、羅喉丸が放ったのは鉄山靠だ。 がしゃんと壁面にたたきつけられた蟹はそれで活動を停止。まず一匹。 「よっ、もう一丁‥‥」 きりりと真珠朗が絞った弓から放たれた矢が今度は風斎と琉架の相手している蟹の柔らかい腹に突き刺さる。 「‥‥あたしにゃ、一撃で破壊するような力は無いですがねぇ。ネズミにゃネズミの噛みつき方があるって話ですよ」 そして、真珠朗の援護と共に、 「応援しますから頑張ってください」 雛の舞は水しぶきを上げながら神秘的に、その力を受けて、前衛はますます勢いをつけて蟹を攻撃する。 一匹が倒されれば、後はただ開拓者達優勢に進み、程なくして残る二匹の蟹も無事撃ち取られたのであった。 「全部、倒せたでしょうか?」 「ああ、大丈夫だろう。この洞窟は隠れるような所は無いようだし」 雛の言葉に、長柄斧の柄でざばざばと深そうな潮だまりを突きながら応える羅喉丸。 こうして開拓者一行は依頼をこなし、漁師小屋へと帰還したのである。 ●賑やかな海の夜 「‥‥ここで着替えたら駄目ですか?」 雛がそう言ってさっくり着替えを始めたので、女性陣が着替え中は男性陣は小屋の外。 すでに時刻は夕暮れ時であった。 小屋の中には、暖かい囲炉裏。用意されたたっぷりの食材と料理の数々。 無事依頼が片付いたという報告を受けて、お祭り騒ぎ好きの漁師達を巻き込んでの宴会が始まるのであった。 「まずは無事に成功したことを乾杯だな」 「いやはや、タダより高いものはねぇって話もありますが、今日はどうやら無事にタダ飯タダ酒にありつけたようで‥‥」 お酒をあおるのは羅喉丸と真珠朗だ。 その横で、お酒もほどほどに、どこに入るのだと言うほどぱくぱく食べているのは琉架。 「‥‥琉架殿はなかなかの健啖家なのだな」 「御馳走が沢山だし、運動した後のご飯は美味しいから」 驚いた様子の羅喉丸に、さらっと琉架が応えてみたり。 「紗耶香おねーちゃん、何か作ってみゃ〜☆」 「新鮮な魚介類がたくさんありますし、お刺身はもちろん煮付けや焼き料理‥‥色々な物が作れそうです〜」 すでにある料理とは別に、ダイフクの要望に応えて、包丁を振るうのは紗耶華で。 「これ、すごく美味しいです‥‥」 「お魚イカ海老うまうまみゃ〜☆」 その腕前には、雛もダイフクもご満悦のようであった。 さて、宴会はますます盛り上がる。 ふらりと姿を消す風斎のような孤独な楽しみ方もあれば。 どうやらあまりに無防備だったために、白騎士が違う意味で広まってしまいそうな結月が赤面するのを皆が笑ったりと。 依頼が終われば、開拓者達も普通の人達と一緒に盛り上がり笑いあうことができるのだ。 とにもかくにも蟹退治、依頼とは別のところで大いに盛り上がりつつ、大団円である。 |