海辺の街から逃げろ!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/30 19:23



■オープニング本文

 今年の夏は暑い。
 かといって、海水浴にでも行こうと考えると、皆同じ考えているようで海辺は大混雑だ。
 だったら、ふらりとあんまりひとけの無い港町なんかに行くのはどうだろうか?
 どちらかといえば寂れた港町が良い。
 海鳥と野良猫がうろつくようなひっそりした港。ほそぼそと漁業を営む小さな町なんかぴったりだ。

 ……あなたたち開拓者は、ふらりとそんな漁村を訪れた。
 かつては賑わっていた時期もあるというその漁村。
 そういえば、もう住む人は居ない、なんて話も聞いたのだが、今もひっそりと住人がいるようだ。
 数隻の漁船、網を投げて魚を捕る猟師達。
 ぼんやりと釣りをするお爺さんに、干物を商うお婆さん……鄙びた雰囲気だがそれはそれで味のある物だ。

 あなたは、ちょっとした旅行気分でその村を訪れたのかも知れない。
 修行がてらに立ち寄ったのかも知れないし、なにか特別な目的があったのかもしれない。
 そんな開拓者達が数人、村に一軒だけあるボロボロの宿屋に集まっていたのだが……。

 けろけろ、うぉーうぉー……遠くから獣の唸りのような、カエルの鳴き声のような声がする。
 ごぼごぼ、ぶくぶく……不快で粘つく水をかき混ぜるような、泡がわき上がるような音がする。
 ぺたりぺたり、べちゃり……なにか重い物が、たっぷりの水を帯びて這い回る気配がする。
 そして潮の香りに交じって、魚の腐ったような不快で不潔な匂いがそこかしこからする。

 何かがおかしい。鍛え抜かれた第六感か、虫の知らせか、危機を察知する野生の勘か。
 君たち開拓者は、今すぐにこの漁村を逃げ出さなければと感じたのだが……。

 もう遅かったようだ。

 村のそこかしこを徘徊するのは、巨大な魚の頭をしたアヤカシの姿。
 武器や道具を手に、けろけろごぼごぼと音を立てて歩き回っている。
 それだけではない。
 ずるずると足を引きずるように歩く長身の男たち。
 決して曲らない方向に曲る関節、ゆらゆらとまるで骨がないようにふらつく体。
 その男たちの指……いや、身体中にはまるでタコの吸盤がびっしりとあるように見えて……。

 どんどん、控えめに宿の入り口が叩かれた。
 ぎぃ、きしむ音を立てて宿の入り口が開かれた。
 ずるずる、べしゃりべしゃり、ぎしぎし。宿の階段と廊下を歩く足音がする。
 けろけろ、うぉぅうぉぅ、押し殺した不気味な声にぶくぶくごぼごぼ、水音が交じる。

 そして、とんとん、と控えめに部屋の戸が叩かれて……。

 とん、とんとん……。
 どん、どんどんどん。
 どん! どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん!!!

 がたがたと軋んで歪む部屋の扉。
 逃げなければ。このままでは決して良い結果はやってこないだろう。

 さぁ、どうする? まずは逃げてから考えるのが良いと思うが……。
 とりあえず包囲を蹴散らして、死ぬ気で逃げることをお勧めする。


■参加者一覧
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔
鴉乃宮 千理(ib9782
21歳・女・武
サドクア(ib9804
25歳・女・陰
若佐 大輔(ic0433
25歳・男・武
リズレット(ic0804
16歳・女・砲
閻羅(ic0935
22歳・男・サ


■リプレイ本文


 突然襲いかかる狂気。だが、開拓者達にとってそれはさして珍しいことでは無かったようだ。

 ドンドンドンドン!!
 異形の息づかいと隠す気の無い殺気。それが扉をぶち破ろうと殴打している。
「……ふぁ、誰ですの?」
「ケロリーナさん、起きてくださいな。一大事ですよ」
 寝起きの目をくしくし擦るケロリーナ(ib2037)をゆり起こす斑鳩(ia1002)。
「どなたか、お客さんですの?」
「いえ、この名状し難き冒涜的な瘴気は無有羅でしょう……どうやらまた招き寄せられてようです」
「う〜、それなら斑鳩おねえさま、早く逃げなきゃですの〜」
 扉が破られる前にと、急ぐ2人だったが、感知の術を使っていた斑鳩がはっと窓を向くと……。
 そこには招かれざる客の姿が。蛙頭の魚人アヤカシ、それが目をぎょろりと動かして覗き込んでいたのだ。
 その不気味な姿に恐れおののく2人、かと思いきや。
「かえるさんは大好きですけど、これは認められませんですの!」
 ケロリーナはきっと杖を向けるとアムルリープ。眠り込んだ魚人はごろごろと屋根を転がり落ちて。
「……えっと、裏手にいるのは今の一匹だけみたいですね。とりあえず逃げましょうか」
「う〜、密やかに脱出ですの」
 そして2人は窓から屋根を伝って路地に抜けていった。

 ケロリーナと斑鳩が路地に降りた後、隣の部屋の窓と壁が爆音と共に吹っ飛んだ。
 派手な音、一瞬周囲に広がる眩しい火炎。
 その炎と煙が晴れるとそこには路地裏を見下ろす2人の開拓者の姿があった。それは、
「何ぞ臭う村じゃとは思うたが……生臭いだけでは無かった様じゃのう」
 ふん、と忌々しげに鼻を鳴らして、ぷかりと煙管を一服する椿鬼 蜜鈴(ib6311)と。
「そんな気はしておったわ。ほれ、ド・マリニーも狂った反応しておる」
 瘴気と精霊の力を測る懐中時計をかざして、首肯する鴉乃宮 千理(ib9782)だった。
 逃走経路を確保するために窓をぶち破った2人。路地裏を去りゆく仲間の開拓者の姿を認めて、
「おや、見よ椿鬼。誰ぞもう逃げておるようじゃ。この数が相手だ、我らも報告のために脱出するかの?」
「ふむ、依頼帰りの疲れた体じゃ……殲滅してしまいたい所じゃが、そうも言ってられんのう」
 老獪な口調の2人は、そういって顔を見合わせて。
「では先を任せるぞ千里。背中はわらわに任せい。出遅れるでないぞ?」
「うむ、荒事は得意じゃしの、では参ろうか」
 ひらりと路地に飛降り悠々と村外へと向かうのだった。

 爆音を聞いて、
「やっぱりどうにか切り抜けないといけませんね……考えは同じ筈、です……っ」
 両手の銃に弾丸を装填しながら、殴打される扉を見つめるリズレット(ic0804)。
 リズレットは、宿で顔を合せた他の開拓者たちの事を考えていた。
 爆音以外にも窓を破る音や戦闘音が聞こえたということは、行動を起こした仲間がいるということ。
 ならば自分もと、短銃を構えたリズレット。
 いつも愛用しているマスケット『魔弾』ではないことだけが少し気がかりだったが、
「脱出路は……窓から、ですね……」
 ちらりと戸を見ると破られる寸前。ならばと決意を決めた若きガンスリンガー。
 窓枠に銃弾を叩き込んで、そのまま布団をひっつかみ、窓に体当たり。
 窓をぶち破って外へ。布団を盾に転がると屋根からひらりと路地裏に。
 扉の破られる音とともに、彼女が飛降りた後の屋根に魚人の影。そこに銃弾一発。
 さらに、路地裏に回り込もうとする魚人に閃光練弾を叩き込み、仲間の後を追っていくのだった。

 扉が叩かれ、爆音や銃声が響く宿の部屋で頭を抱える青年がひとり。
(ううう、俺のこの運の悪さ、どうにかならないもんか……)
 若佐 大輔(ic0433)は自信の不運を嘆いていた。
 だが、彼と同室の閻羅(ic0935)は、
「ドタバタと夜中にうるせぇなぁ……まあ、大歓迎って感じには見えねぇし、とっとと逃げるか」
 周囲の状況を冷静に分析しながら、うずくまる同室の若佐にてくてく近寄ると、
「のんびりしてる暇かよ。おら、さっさと行くぞっ!」
「あたっ! 蹴ることは無いじゃないか! ……でも命かかってるしな、行こうか」
 どうやら若佐も覚悟を決めたよう。そしてこの2人も窓をぶち破って路地裏に向かうのだった。
 だが、どうやら一瞬遅かったらしい、他の部屋を突破して路地裏に来ていた魚人らが立ちはだかる。
「なんだこいつら、気持ち悪いし……生ぐさっ!」
「まずは他の奴らに追いつかないとな。バラバラに動くのは良いことじゃぁねぇな」
 鼻をつまむ若佐に舌打ちをして周囲を見回す閻羅。2人は武器を構えて、
「よし、突っ切るぞ。前だけ見とけよ……あと、転ぶなよ?」
「転ぶかっ! ……俺には使命がある! やられるわけにはいかないんだ……」
「おう、その意気だ。じゃ、行くぜ! てめぇらの相手は、時間の無駄だ!」
 吼える閻羅を先頭に、2人は村の出口を目指し集まってくる魚人アヤカシを蹴散らしていった。

 その戦いの音を耳にしながら、もぐもぐと口を動かす暢気な女性が1人。
「はぁ……面倒ですが逃げないといけないですねぇ」
 もぐもぐごくん。持ち込んだ大量の食料を淡々と消費するのはサドクア(ib9804)だ。
「食べるのは大好きですがぁ……食べられるのは困りますねぇ」
 そう言って重い腰を上げたサドクア。外で戦う若佐と閻羅の気配を感じつつ、窓に向かって火炎獣。
 窓の外で様子を窺っていた魚人が火だるまになって転げ落ちる中、彼女は悠々と窓を抜けて外に出て。
「さて、では皆さんに追いつきませんと。これが足止めになると良いんですが」
 そういって取り出したのはヴォトカを使って作った簡易の火炎瓶だ。
 対して燃えはしないだろうが、無いよりはマシ、というわけでそれを投擲するサドクア。
 そこかしこで火が上がるなか、彼女も若佐と閻羅を追って村の外に向かうのだった。

 そして最後の2人は、宿の中で大慌てであった。
「如何してこう、私達が旅をすると碌でもないことになるのかしら!?」
「何故私がレヴェリーさんを誘うとこうなるのでしょうね〜……ここまで来ると運命と言いたくなりますよ〜」
「うう、そろそろ、本気で何かしらの厄祓いでも考えないと……」
 寝間着姿で取るものも取りあえず、扉につっかえ棒をかますのはレヴェリー・ルナクロス(ia9985)。
 そんな彼女の姿を眺めつつ、こちらもまた寝間着で猫宮 京香(ib0927)は首を傾げた。
 きな臭い、どころか焦げ臭い。どうやら他の開拓者の脱出の余波で火が回りつつあるようだ。
 もう時間は無いようだ。
「京香っ! 壁をぶち破って路地裏に抜けるわよ! 少し荒っぽいけど、此れしかないわね!」
「囲まれてしまう前に一気にいかないとですね〜。援護しますわ〜」
 ということで、魚人と炎に追い立てられた2人。
 まずはレヴェリーがハルバードで壁をぶち破り、そこに京香のクロスボウが。
 壁の外で待ち構えて居た魚人達を蹴散らして、2人は命からがら脱出。
 先行した仲間を追いかけて、爆発や閃光練弾、戦闘の音がこだまする町を駆け抜けるのだった。


 魚人アヤカシたちの死角を縫って、慎重に進む斑鳩とケロリーナ。
「ケロリーナさん、次はこっちを進みましょう。こっちは数が少ないようです」
 先導するのは斑鳩だ。彼女の瘴索結界「念」があれば、敵の位置は手に取るように分かる。
 そして、仮に邪魔者がいたとしても、そこで活躍するのはケロリーナ。
「斑鳩おねえさま、次はあいつを眠らせればいいの?」
「ええ、ここを抜ければしばらくはやり過ごせると思いますが……凄い数です、急がないと」
 結界で周囲を探る斑鳩は、ぞろぞろとまるで無尽蔵に思えるほどに集まるアヤカシに戦慄するのだった。

 そんな彼女たちに後方から追いすがる開拓者達が居た。
 派手なのは二組。
「ちとこの量はやっかいじゃな」
「集まったものじゃのう……ちと掃除しおるか」
「うむ、だが深入りは厳禁じゃ。ここの情報を持ち替えるのが重要な任務じゃからの」
 しゃらんと玄武の飾りがついた錫杖を構える千里は、そう言いながら詰め寄る魚人を迎撃した。
 霊戟破で精霊力を纏った錫杖が唸りを上げて魚人を打ち据え、じりじりと彼女たちは囲みを突破。
 そこに椿鬼の援護が飛ぶ。縦横無尽に閃く雷撃はアークブラストだ。
「斯様な化け物には極力近付きたくないしのう、雷槌にて頭を消し炭として進ぜよう」
 歌うように術を放って回り込む魚人を雷で痛打していくのだった。
 だが、二人の前にぬるりと現れたのは蛸の集合体のような異形だ。
「兎に角撤退したいところなのじゃが……そうもいかんようだの」
「うむ、千里よ。覚悟を決めて突破しようぞ。とりあえず、これで反撃の狼煙としようかのう?」
 錫杖を構え治す千里とその背後で歌うように囁く椿鬼。
 その手から強力な火炎弾が放たれて、蛸人諸共大爆発を起こすのだった。

 そしてもう一組派手に立ち回っているのは、今回唯一の男性組。
「雑魚がうじゃうじゃとうるせぇ! 邪魔だっ!」
 魔剣が唸りを上げて魚人を切り払えば、ごぼごぼと呻いて魚人は瘴気に立ち返る。
 鬼神の如くアヤカシを切り倒して進むのは閻羅だ。その背を見て、若佐は夏にもかかわらずぞっとした。
(な、なんだこいつ……この状況を、楽しんでいる……!? あの眼……まるで狂……)
 畏怖すら感じる若佐だったが、どんどん先に進む閻羅の背を狙うアヤカシがいることにはっと気付くと、
「お、おいアンタ! 突っ込みすぎだろ! 少しは自重を……」
「たぁのしぃなぁぁっ! さあ、かかってこいよぉ!」
 さっぱり聞いてない閻羅。若佐は閻羅の背を狙っていたアヤカシを錫杖の一撃で打ち倒して、
「ああもう! 援護するから、一気に抜けて他の開拓者達と合流しよう!」
 肩を並べて戦い始める若佐。するとやっと閻羅はにやりと笑って、
「……たしかに男二人だとむさいばかりだしな。できれば女性が一緒の方が、道中も楽しいしな」
 と笑うのだった。だが、そんな二人の前に蛸人が現れた。
 すぐさま斬りかかる閻羅。だが腕を斬り飛ばされても、ずるりと蛸の足が生えそろい再生。
 じりじりと集まってくる魚人と蛸人。二人は冷たい汗が伝うのを静かに感じた。


 椿鬼の放った火炎弾が炸裂し、魚人と蛸人諸共大爆発が巻き起こる。
 だが、蛸人はぶすぶすと焦げつつも炎を突破、椿鬼と千里に触手を伸ばす。
「あぁ、然様な手で触れるで無い」
「相手にしてる時間は無いからの。吹き飛ぶが良い」
 椿鬼はアゾットでその触手を斬り飛ばし、そこに千里の烈風撃が叩き込まれ蛸人は吹っ飛ぶ。
 そこを一気に駆け抜けようとする二人。だが、二人の死角から飛びかかる他の蛸人が居た。
 ぎりぎりで気付いた二人に、迫る蛸の足が如きの触手の群れ、蛸人は一体では無いようだ。
 しかしその窮地を救ったのは、同じぐらい不気味な術と、弾丸の雨だった。
「さあ、おとしごちゃん。食いちぎってあげましょうねぇ」
 サドクアの放った斬撃符が、奇っ怪な式を産みだし触手を切り裂いた。そしてもう一人は、
「間に合いました……こうして短銃を取り回すのは初めてですが、この子達も中々素直な良い子達ですね」
 愛しげに両手の短銃を眺め、ふふふと微笑むリズレットだった。
「助太刀感謝じゃ……おんしらも開拓者じゃの」
「ええ、一緒に脱出しましょう。お食事の続きがまだですから」
 微笑むサドクアに絶句する椿鬼が、同行者の方を見てみると、
「助けられたようだの。お嬢ちゃん、飴でも如何?」
「あ……はい、いただきます……?」
 千里は暢気にリズレットに飴をあげていたり。
 ともかく、合流した四人は一気に包囲を蹴散らしながら村の出口に向かうのだった。

 一方、蛸人と魚人に囲まれた閻羅と若佐の元には、裂帛の気合いと暢気な声が聞こえてきた。
「京香! あの人たちを助けるわよ、援護して!!」
「では乱射しますので気をつけてくださいよ〜!」
 ハルバードを轟と振り回すレヴェリーと、乱射からの烈射「天狼星」で道を切り開く京香。
 不意に現れた援軍を前に、閻羅と若佐も一気に反撃に映るのだった。
 だが、そこで問題なのはレヴェリーたちの格好だ。
 寝間着のまま、装備もとりあえずで脱出した二人。夏らしく、肌を大きく晒したその格好。
 そこに、蛸人らが襲いかかり、触手が京香と、続いてレヴェリーに絡みつく。
「ひゃっ!? 変な所に絡んだらダメですよ〜!? ふぁ……ぁ」
「くっ……はぅ!? 此の、放しなさい!!」
 ぬるりと肌に這い回る蛸の足にぞっとして思わず声を上げてしまう二人だったが、レヴェリーが反撃。
 ハーフムーンスマッシュで一気に触手を薙ぎ払って。
「ぁ、レヴェリーさんありがとうございますよ〜」
「い、いいのよ京香! さあ、そこのお二方! 協力して敵を蹴散ら……って何処を見て……ぁ」
「あ、きゃぁ!」
 漸く自分たちの姿に気付いたレヴェリーと京香。
「あいや、見てない! わけじゃないけど、とりあえず、こ、これを!」
「困ったときは助け合いってな? ほれ、これでも着ててくれ。目の保養……じゃなくて目の毒だからな」
 慌てる若佐にからからと笑う閻羅。二人は外套を京香らに手渡して。
 四人は改めて、村の外に向かうのであった。


「うー、斑鳩おねえさま! みんな、来たよ!!」
「確認しました! ……みなさん、こっちです!!」
 村の外に伸びる唯一の道。そこを、敵の軍勢に追われつつ逃げる二組の開拓者。
 彼らを待ち構えていたのは斑鳩とケロリーナだ。
 ケロリーナは、足下にフロストマイン。
 同時に斑鳩はゆらりと魔神の力を帯びた襟巻をはためかせて、浄炎を放った。
 すぐそばまで迫っていたアヤカシたちは凍らされ、清浄な炎に焼かれて足が鈍る。
 その隙に開拓者達は全員合流するのだった。

 あとは逃げるのみだ。だが後ろからは大軍勢が追ってくる……だが仲間が揃えば怖い物は無い。
 斑鳩の閃癒が仲間を癒し、ケロリーナは軍勢に向かってブリザーストームを叩きつける。
 レヴェリーのハルバードが途中の廃屋を砕き、そこにサドクアが火炎瓶で着火。
 京香の矢弾が追いすがる魚人を狙撃し、閻羅の地断撃が燃える地面ごと敵を蹴散らした。
 若佐の放った荒法師が、蛸人を足止めしそこにリズレットの攪乱用の閃光練弾が直撃。
 そしてだめ押しに、椿鬼のメテオストライクが直撃。
 さすがの軍勢もこの猛攻撃には足踏みのようで、追ってくる姿はがくんと減って。
「では、今のうちに逃げようかの。この近くの村に警告もせんといかんしの」
 千里の言葉に一同は頷いて、一気に海辺の村から逃げ出すのだった。

 情報は無事ギルドに伝えられた。
 無有羅の暗躍、それを無事開拓者達は未然に防ぐことに成功したのである。
 狂気は、溢れること無く防がれたのであった。