不貞で不埒な輩を退治せよ
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/20 23:51



■オープニング本文

 その日、開拓者はギルドを介さずとある小料理屋へと案内された。
 そこで待つのは、武天は芳野の街に住む酒屋のご隠居、住倉月孤という老人だ。
 酒屋から始めて金貸しに口入れ屋と手広く商売を広げたこの月孤翁。
 その実体は、裏の世界にも顔の利く老人だと言うが……ともかく。
 酒と料理を勧め、しばし時間が経ってから、月孤翁が取り出したのは資料の束だ。
「あー、こいつぁ最近、武天のそこかしこに顔を出して荒稼ぎをしてる女に関する話なんだがのう」
 煙管で一服付けながら、資料について語るでも無くぽつりと切り出した月孤翁。
「女の名は、天南(あまな)。年の頃は三十路の手前。聞く話じゃ、脂の乗ったいい女だそうだ」
 かつんと灰を落としてまたぷかり。
「……だがこの女、腹んなかは真っ黒、自分以外の誰も信用しない女狐よ」
 そして月孤翁はその女の事と、彼女の悪事を語り始めた。

 アマナの生まれは武天の片隅、例に漏れずアヤカシの害による孤児だったという。
 珍しいのは母親がジルベリアの人だったようで、金の髪と蒼い瞳が珍しく。
 また評判の美人だったというその母譲りの美貌は、幼い頃から評判だったらしい。
 だが、人生は甘くないようで、彼女はやっかみや悪意にさらされ、つらい幼少期を過ごした。
 しかし彼女は悪意に負けなかった。かといって強く正しく生きようともしなかった。
 持って生まれた美貌は才能。妬み嫉みを向けて来るのならば、力を得てねじ伏せれば良い。
 そして、年の頃18で彼女は年老いた富豪と結婚した。次の年に、富豪は病死する。
 彼女を怪しむ人も居た。だがそれを彼女は富豪から受け継いだ金と、そこから生まれた力でねじ伏せる。
 すぐさま、彼女はまだ壮年の豪農と結婚する。その豪農はその数ヶ月後、辻斬りに切られて死んだ。
 悲しい事故だ、と信じる人は少なかった。だが強い力と金を持つ彼女に異を唱える者は居なかった。
 三度目の結婚は、余り評判の良くない金貸しの男が相手だった。
 数週間後、金貸しの男は川に沈んでいるところを見つかった。
 金貸しの男は、女衒の元締めでもあったのだが、アマナはその組織の長となったのだ。

「最近、女を物のように扱う、評判の宜しくない女衒が増えて来たのさね」
 ――それが先程の女に関係していると?
「さぁ、どうかねぇ? ただ、長が変わってから、ちょいと品のないのが増えて来たのは確実だのう」
 にやりと笑う月孤翁。
「ま、女衒や女郎屋の亡八なんぞは、褒められた仕事じゃあるまいよ。でも、それでも仁義ってのはある」
 ――では、どうしましょうか?
「そうさな……二度と商売が出来ない方が、向こうさんにとっても幸せだと思うがね」
 そうとだけ月孤翁は告げて、あとは何も言わなかった。

 さて、どうする?


■参加者一覧
皇・月瑠(ia0567
46歳・男・志
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
フィーナ・ウェンカー(ib0389
20歳・女・魔
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
シルフィール(ib1886
20歳・女・サ
巳(ib6432
18歳・男・シ
高尾(ib8693
24歳・女・シ


■リプレイ本文


「約束の場所はこのあたりのはず……」
 町外れのあばら屋に近づく男。派手な着流し姿の美形、彼はアマナの部下の女衒だ。
「最近はアマナにも敵が増えてきたし、そろそろ潮時か。それにあの女……旨そうだったしな」
 実は彼、煮売り酒屋で引き抜きを誘われ、ほいほいやってきたのである。もちろん誘った女の体が目宛てだ。
 もし罠ならば、懐に隠し持った短刀で女を殺せば良い、そんな風に考えてながら。あばら屋に踏み込む男。
 すると彼の背後で戸が締まった。振り返ると、そこに女が居た。
 後ろ手で戸を閉め、艶然と微笑む高尾(ib8693)。
「はっ、まだちぃと暑いが、こう言うのも偶には悪くねぇな」
 ゆっくりと近付いてくる高尾に手を伸ばしす女衒。だが、次の瞬間、彼の肌にぎちりと鋼線が絡みついた。
「ぐっ!? て、てめぇ!」
 短刀を抜こうとするも巻き付く鋼線がそれを許さない。
 鋼線を操っているのはもちろん高尾だ。彼女は微笑んで、
「あんたにゃ恨みは無いけども……あたしが生きるために、犠牲になって貰うよ」
 もがく女衒の頬をひと撫でして高尾、鋼線を引き絞った。
 どさり、悲鳴も上げずに倒れた男を一顧だにせず、あばら屋を出る高尾。
 彼女の背後で、廃屋が炎に包まれた。仕込んでおいた火種であばら屋が燃え始めたのだ。
 それを振り向きもせず、高尾は消える。
 そして数日のうちに、似たような事件が数件起き、どれも死んだのは評判の悪い女衒だったという。

 火事は重罪だが、どの火事も延焼すること無く小火程度で収まったらしい。
 “偶然”近くに居た者がすぐに気付いて火を消し止めたらしいのだ。
「……月孤翁、火付けは危険過ぎはしませんか?」
「なぁに、毒を制するには、ってなものよ。大丈夫さね、根回しはしてある」
 部下の言葉に首を振って笑う月孤翁。彼は部下を率いて後始末に奔走するのだった。


「おじさんが新しい髪結いさん?」
「ああ、少し前、紹介をしていただきやしてね……」
 アマナが関わる妓楼、そこで1人の男が背中を丸め、黙々と髪結いなどの仕事をしていた。
 大柄な体を窮屈そうに縮めて、器用に髪結いから着付け、帯結びをこなす皇・月瑠(ia0567)。
 妓楼の女郎たちは、どこか疲れたような表情の女ばかりなのだが、
「今日、乗客が来る予定なんだけど、ちょっと珍しい結を頼めるかしら、だらり結びとか」
「あれが逝ってから……機会が少なくなって、今の流行にゃ疎いが……其れなりに、出来る積もりだ」
 妻が亡くなって、という言葉に女郎たちの目は少し優しくなる中、皇は帯を結ぶ。
 どうやらなかなかに馴染んでいる様子の皇。彼は、ただ黙々と仕事に努めるのだった。

 朴念仁ながらも腕利きの職人として皇が認められ始めた数日後、その妓楼に新入りがやってきた。
 唇を強く引き結んで俯くその女性は、金の瞳を不安げに曇らせている。
「菊、と申します……私は、この状況に屈したりなど、しません……絶対に……」
 かすれるように呟かれた言葉に、共感する者も居たようで菊は女衆には受け入れられた模様。
 一方、女衒たちは女たちにはさっぱりと近寄ろうとしない。
 彼らの主アマナは商品である女に手を出す男を、たとえ部下でも絶対に許さないのだ。
 それ故に、朴念仁扱いされて居る皇のような、無害な人物が数少ない男衆として採用されるのだろう。
 一瞬、不安げに震える菊の視線が皇に向くと、皇は静かに受け止める。
 そして皇はすぐに視線を逸らし、菊もおそるおそると下働きの仕事に取りかかるのだった。

 他から買われてきた菊はすぐに店に立つことは無かった。まずは他の女郎たちの手伝いと下働きだ。
 そんな忙しい妓楼に、主のアマナがやってきた。新入りの菊の様子を確かめるためだろう。
「おい、新入りはどこだい? ちょっと確かめてやろうと思ってね」
 そういって笑うアマナ。彼女が女性を好むことは周知の事実だ。
 だが、寵愛を得られるからといって其れが良い事ばかりだとは限らない。
 寵愛が失われれば、掌を返したかのように酷い目に遭うことだろう。
 現に、寵愛を受けていた女性がある日ふっと居なくなることが何度もあったらしい。
 それを思いだしてか、女郎たちが戦々恐々としている所に新入りの菊が連れられてきた。
「ふぅん……結構大柄だけど……」
 じろじろと無遠慮に眺めて、手を伸ばすアマナ。
 だが、菊はそっとその手を取ると、まるで自ら身を差し出すように近付いて唇を重ねた。
 おどおどした新入りの菊からは想像もつかない、情熱的な口づけにアマナも驚いて。
 そして、唇を話した菊はかすれるような声で、
「……従います。でも、今はどうか、これで許してください。……触れられたくは、ないのです」
 そういって、頬を染めて逃げるように去ってしまうのだった。
 驚き半分のアマナはそれを見送るが、どうやら気に入ったようで。
「菊、だったか? あの娘は暫く見世に出すなよ」
 そういいながらにやにや笑いながら妓楼を後にするのだった。


 アマナの本拠地は彼女の邸だ。
 そこは部下と用心棒、そして商品として抱える女たちがときおり集められる場所である。
 その日、新入りの菊を始め商品として幾人かの女郎がその邸に集められた。
 髪結いの皇も、手伝いのためにそこについていく。どうやらそこで重要な商談がおこなわれるらしいのだ。

「本日はお招きいただき光栄ですわ」
 優雅に一礼するのは葛切 カズラ(ia0725)。連れているのは2人の護衛と、外套を着た2人の女だった。
 一行は、ジルベリア風の洋間に通されて、持て成されているのだが……。
 急遽用意された今回の商談には実は裏があった。
 アマナの部下の女衒が最近数を減らして、結果商品としての女性の仕入れが滞っているらしいのだ。
 火事に巻き込まれた女衒がいるらしく、それが幾度も重なれば、女の恨みか同業者の妬みか。
 ともかく、アマナは早急に商品を確保する必要があるのだ。
 そこで呼ばれたのがカズラであった。
 最近商売を始めたとかで、このごろ初めて裏科業の顔役たちの間に名前が知れ始めた彼女。
 護衛はたった2人、しかも両方が女性。
 カズラはどうやら自分と似たような女なのだろうとアマナは踏んでいた。
 そして商談が始まった。

 護衛役として立つのは対称的な2人だ。
 ひっそり見守るように立つ黒衣の女性はフィーナ・ウェンカー(ib0389)。
 大げさな武器も持たず、カズラを守るようにしてただ静かに立っていた。
 もう一人は刀を差した赤髪の剣士、シルフィール(ib1886)。
 彼女は外套を着た売り物の女性2人をアマナの前に引きずり出した。
 シルフィールが外套を奪い去ると、あられも無い格好をした2人。
 1人は仮面の女性だ。カズラは火傷を隠すためだと説明する。
 仮面で隠されても分かる整った顔立ちに、服装は胸を大きく露出した扇情的なもの。
 それを恥ずかしげにもじもじと隠そうとする彼女はレヴェリー・ルナクロス(ia9985)。
 そしてもう一人、レヴェリーにしなだれかかり、甘い声を上げる女は猫宮 京香(ib0927)だ。
「緊張しないで、ほら皆さんに身体を見せてあげませんと〜♪」
「あ、ああ、そんな……止め、はうっ!?」
 もぞもぞと猫宮はレヴェリーの服の下に手を潜り込ませてごそごそとなにやらいちゃついて。
 周囲の護衛たちの喉が鳴る音が聞こえるほどに、淫靡で色っぽい二人の様子を見せつけるのであった。

 それを前にして商談は進んでいたのだが、ある一言で思いも寄らぬ方向に商談は進んでしまう。
 商談の最初から、カズラは艶然と微笑みつつ、アマナの手に触れたりと妙な雰囲気が漂っていた。
 周りを女性で固めたカズラだ、おそらく自分と似たような趣味なのだろうとアマナは思ったのだが、
「それでは、値段は大体相場通りということで。ぜひこれからも仲良くしていただきたいですね」
 微笑むカズラに応えるアマナ。だが、カズラの次の言葉がアマナの表情を変えた。
「是非、今度はこちらも買い付けをさせていただきたいものですわ」
「ああ、もちろん。なかなか良い新入りも入ったし、いつでも言ってくれ」
「……相場の倍、いや三倍を出せば……貴方を一晩、我が物に出来ますでしょうか?」
 カズラが切り出したのは、金で天南を買うという話だった。
 その言葉を聞いた途端、天南の表情が怒りに染まった。
 彼女が女性を品物として扱う理由、そして金しか信じない理由。
 それは、彼女が金で自分を扱われた過去が許せないからであった。
 そのため金が最上だと信じる一方で、自分以外の女を金で買える物として扱っているのだ。
「っ! この、天南を金で買おうというのか」
「い、いえ、あくまでもそうしたお付き合いが……その、お気に障ったのでしたら……」
 取り繕おうとするカズラ、だがそれを許さず天南は席を立って。
「……この商談は終わりだ、お引き取り願おうか……二度と顔を見せるんじゃ無いよ!」
 そういって、立ち去ろうとしたのだが、
「……だったらこっちも好都合だね。みんな、いくよ?」
 不意にそう告げたのは、護衛の剣士のシルフィールだった。
 彼女は腰の刀に手をかけると、ざわっと反応する護衛たち。
 10人の護衛が殺到し、天南は距離を取ろうとして応接間は騒然となった。
 だが、シルフィールは慌てず騒がず、二つある刀の片方をレヴェリーに投げ渡して。
「お、おまえら! 一体何が目的だっ!」
「……何事も限度というものがあるわ。ただ、お前が越えたらいけないラインを越えた愚物、ってだけよ」
 シルフィールは刀を抜き放ち、殺到する護衛や女衒たちを一気に切り払うのだった。


 護衛の女性たちは皆志体を持つ腕利きだ。対して相手は護衛2人だけ。
 だが、相手を甘く見ていた天南はその予想が甘かったとすぐに思い知らされた。
 刀を抜き放つシルフィールと、投げ渡された刀を掴んだレヴェリー。
 捕縛用の袖絡みや短刀を掲げて殺到する護衛たちを前に2人は悠然と立ちはだかったのだ。
「貴方達のせいで果てた女性達の苦しみ。其の身体で思い知りなさい!」
 レヴェリーが白刃を閃かせると、悲鳴と共に護衛たちが武器をはじき飛ばされた。
 そこにするりと接近する京香。
「あらあら、あなたとっても綺麗な顔してますね〜。……この瞬間までですが〜」
 女性護衛に接近すると、容赦の無い顔面への拳一撃! 鼻血を吹いて吹っ飛ぶ護衛。
 レヴェリーと京香の2人は悠然と護衛を叩きつぶしながら制圧していく。
 そしてもう一方は刀を構えたシルフィール。
 単独故に、倒しやすいと護衛たちが殺到するのだが、そこに後方から援護が。
 じめつく夏の空気を切り裂いて、巨大な氷の槍が放たれて足を穿たれた護衛が悲鳴を上げて倒れ込む。
「一応言っておきますが、死にたくなければさっさと逃げてくださいね。遠慮せず殺しますから」
 にっこりと微笑むフィーナ。黒衣の彼女が微笑みながらそう告げれば、思わず足が止まる護衛たち。
 だが、その背後からじりじりと逃げようとしながら天南が吼えた。
「……裏切ったヤツは私が殺す! たった五人だ、お前たちも加勢して一気に叩き殺せ!!」

 女衒の男たちも志体は無いが戦い慣れをしている。それが殺到するのだが、一部はまだ控えていた。
 天南は、女たちを引き連れてくることを彼らに指示した。
 女を連れて逃げれば再起もかなうだろう。
 そう思って女衒の部下たちを邸に置かれている新入りたちのところに向かわせたのだが、
「な、なんのつもりだ!」
 女たちを引っ立てていこうとした女衒の前に立ちはだかったのは新入りの菊だった。
「……少し大人しくしていてくださいませね?」
 くすりと笑った菊がその手を閃かせると、女衒たちが崩れ落ちる。
 旡装で隠し持っていた暗器の毒手だ。そして菊が変装を脱ぎ捨てると、
「……お、男だと?!」
 現れたのは巳(ib6432)だった。彼は毒手を駆使して女衒たちを沈黙させていく。
 だがたった1人ならと、女衒の数人が武器を構えたところにもう一人。
「……か弱き者を食い物にする……人の親の一人として許しては置けん」
 ぬぅっと立ち上がったのは髪結いの皇。
「おい、じじいテメェも刃向かうつもり……ぶぁっ!」
 そう吼える女衒の顔を、皇の手ががっちりと掴んで、そのまま壁に叩きつけた!
 潜入していた二人はあっさりと女衒たちを無力化し、おびえる女性たちに、
「帰りたいなら抵抗するな……」
「大丈夫。他の仲間が他を制圧しているからな。安心しな……さて、それじゃ首魁のとこに向かうかねぇ?」
 皇が安心させ、巳と連れ立って二人は天南の元に向かうのだった。

 天南な窮地に立たされていた。
 護衛はほぼ全滅、あっさりとシルフィールらに壊滅されられ、女衒たちもいつの間にか無力化されていた。
「命をとられるか、男としての人生をとられるか、好きな方を選んでくださいね〜」
 がつんと、京香に股間を蹴られて女衒の最後の一人が崩れ落ち。
「親近感を覚えなくも無いけど……手心は加えないわよ」
 シルフィールの回転切りで最後の護衛2人が倒れ伏した。
「まだお続けになりますか? もう、手は無いと思いますが」
 優雅に微笑むフィーナの氷刃が天南の近くに直撃し動きを止めた。
 打つ手の無い天南の前に、やってきたのはカズラだ。呪縛符で束縛し、彼女は語りかけた。
「……さあ、どうしますか? 生き延びたいなら……」
 そう言いかけたのだが、天南は束縛されながらも懐から短刀を取り出して……。
 自分の喉に刃を突き立て、崩れ落ちるのだった。

 肩を竦めるカズラ。
 止めることも出来たのだが、死を選ぶ相手なら籠絡は無理だろうと思って放置したのだ。
 皇と巳も女郎たちを守ってさっさと撤退、無事依頼は解決するのだった。
「もう、振りとは言っても恥ずかしかったじゃ無い!」
「まあまあ、細かいことは気にせず依頼成功祝いにお酒でも飲みましょう〜♪」
「え、京香、ちょ、貴女……あ〜っ!?」
 憂さを晴らすためか、京香に引き摺られていくレヴェリー。
 他の開拓者達も一件落着とばかりに、依頼を終えて帰っていくのだった。


 月孤翁の部下たちが後始末に訪れる予定の天南邸。そこに高尾の姿があった。
 倉の鍵を開け踏み込む彼女、狙いは天南がため込んだ金だ。
 だが、そこには先客が居た。護衛を連れた月孤翁とその部下たちだ。
「……ちょっと遅かったか」
「ほっほっほ、今回は後始末や女郎の世話にちぃと金がかかりそうなんでのう。全額は渡せんな」
 からからと笑って告げる月孤翁。ただし、すこし報酬に色を付けようと告げて、
「金の確保まで考えて貰ってすまんの。ま、後は我らに任せて貰おうか」
 そう告げた月孤翁、高尾は仕方が無いと肩を竦めて場を後にするのだった。