熱気溢れる令杏の街
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/26 22:41



■オープニング本文

 泰国、令杏の街。
 そこはかつて悪徳門派・八極轟拳に支配されていた街だ。
 しかし開拓者が支配者の幹部を倒したことで街は開放された。
 そして現在。
 街は、近隣にあった清璧派という流派と手を結び、栄えている。
 清璧派は、綾麗という年若い女性泰拳士を掌門(武門の総帥)とする門派だ。
 清璧派は本拠地の清璧山を八極轟拳に襲われたものの、それに負けずに戦う正義の門派である。
 八極轟拳の支配領域の端にあるとはいえ、支配を受けず支配に抗った令杏の街。
 街道筋に近い立地も相まって、商業は復興し、今年も祭が行われるらしい。
 村を救った英雄、清璧派を興した拳士の伝説を伝えるその祭は、大いに盛り上がりを見せるのだった。

 そんな令杏の祭にて。
 今年は客と街の人達の耳目を集める大きな出し物が行われるという。
 村の開放と、清璧派との友誼を讃えて作られた酒がこの祭にて振る舞われるというのだ。
 酒の名は白酒「清山宝璧」
 翠色をした陶製で細口の瓶に収められたその酒はここ数年で仕込まれたものである。
 まず最も素晴らしいのは、その香りだ。力強くも猛々しくは無く優雅で繊細な馥郁たる香り。
 その香りは杯を飲み干しても、なお口中と杯に残り決して尽きることがないという。
 また、風味は清冽でありつつもまろやかで飲みやすく、度数は強いが柔らかに感じる味わいだという。
 泰国の、油たっぷりな料理とも相性が良く、また冷やしても旨いという話だ。
 その酒の完成を祝い、どうやら祭では酒が大いに振る舞われるらしい。

 泰国と言えば泰拳士の国だ。
 泰拳士が皆、酒飲みだというわけではないが、酒を愛する武人が多いのもまた事実。
 現に酒を実際に飲みつつ戦う酔拳使いも数多くいるようで、酒との縁は深いといえるだろう。
 また、天儀の開拓者達もまた酒を好む者が多いという。
 一つ、ここは令杏の街に赴いて味見をするのはどうだろうか?

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 礼野 真夢紀(ia1144) / ネオン・L・メサイア(ia8051) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / イライザ・ウルフスタン(ic0025) / 白隼(ic0990


■リプレイ本文


 祭には独特の空気がある。
 静謐で荘厳な祭もあれば、熱狂と迫力の祭もあるわけで。
 ここ令杏の祭は、活気と賑やかな楽の音、そして素晴らしく胃袋を刺激する香りに満ちた祭であった。

 天儀の祭も賑やかだが、ここ泰国の祭もまた賑やかだった。
 賑やかな楽の音、爆竹の音、笑い声に人々のざわめき。
 そんな華やかな陽気に誘われたのだろう、興味深そうに周囲を見回す麗人が1人。
 風になびく銀の髪とそれに対をなす健康的な小麦色の肌。
 だが、目を引くのはそれだけではない。背中に大きな二枚の白い羽が。
 それはまるでジルベリアで天使と呼ばれる存在のようで。
 猫族と呼ばれる獣人種族もよく見かける泰国でも、その美しさは十分に人目を惹いていた。
 彼女は白隼(ic0990)、賑やかな祭にふらりと立ち寄ったようだが、なにやら目的がある様子だ。
 まずちらりと見かけたのは龍踊り。大きな龍を棒で支えて操って、玉を追いかけ乱舞する見事な物である。
 続いて見かけたのは、町のそこかしこで行われている奉納演舞だ。
 途中の屋台で串焼きや、肉や野菜の入った饅頭なんかを買い込んだ白隼。
 さらには今年の目玉、酒『清山宝璧』を片手に、彼女は暫く演舞に目を奪われるのだった。

 令杏は武の町だ。近くに清璧派の本拠地があるために、清璧派の門人たちも多くこの町には滞在している。
 そしてこの町には、昔に令杏が化け物から救われた救邑の伝説が伝わっている。
 龍が旅の武人へと姿を変え、力ある武具を身につけ、化け物を退治したという伝説。
 それは人形劇の形で今も演じられており、この祭においてもそこかしこで見られる馴染みある物なのだ。
 そんな町だからこそ、武人たちが競って集まり、自らの腕を披露するという訳なのである。

 舞台の上では槍を手にした武人が1人、槍をぶんぶんと振り回しながら演舞をしている。
 時にはしなり、鋭く唸りを上げて空気を切り裂く槍。
 それを縦横に操る武人の動きは、単なる武ではなく美しさをも兼ね備えているようであった。
 そんな武人たちの演舞をじっと見つめる白隼。
 すると、そんな彼女の様子に隣の少女が首を傾げて問いかけてくる。
「おねえさんも、泰拳士なのかな?」
 少女は麗珊と名乗った。彼女も小さいながら一応泰拳士であるようで。
 どうやら白隼の足を包む格闘用の靴を見て気になったようだ。
「ええ、でもあたいはどちらかといえば舞姫ね」
「舞姫? 踊り子さんなの?」
 興味津々な様子の少女拳士麗珊に、白隼は、
「舞は武に、武は舞に通ずっていう教えがあってね。ここのいろんな舞や武を見に来たのよ」
「そうなんだ! じゃあ、次は私の番だから良く見ててね!」
 そういって、なんと麗珊が舞台に上がるのだった。
 麗珊が抜き放ったのは泰国の剣だ。
 時に鋭く、そして掌打と組合わせて柔軟に動き回る麗珊。
 どうやら彼女の流派は剣をよく使うようで、継ぎ目も無く連綿と技を繰り出す麗珊の動きは見事だった。
 そして演舞を終えた麗珊に、白隼は笑いかけると。
「それじゃあお礼にこっちの舞も見せてあげるわね。いいかしら?」
 そういって舞台に上がる白隼。
 翼を持った彼女にしか出来ない風のように軽やかで、しなやかな強さに満ちた舞。
 それは、鳥のように自由で力強さに満ちあふれた素晴らしい舞であった。
 音楽はより一層高らかに響、彼女の舞を飾り、客たちの歓声はより一層大きくなるのだった。


 歓声が大きく響く演舞場。
 羅喉丸(ia0347)がふとみれば、そこでは白銀の翼の開拓者が舞を披露しているようで。
「ほう、さすがは令杏の街だ。いろいろな物をやっているようだ」
 うむうむと頷きながら彼は、祭の中を歩くのだった。
 歴戦の泰拳士である彼はこの令杏とは浅からぬ縁のある男だ。
 清璧派の若き掌門・綾麗を助け依頼をこなすこと数知れず。
 この町を狙っていた悪しき流派八極轟拳と戦うことも多く、まさに義侠に溢れた武侠であった。
 武に令杏の街であれば、腕の立つ泰拳士には敬意を払うという物で。
 さらには町のそこかしこで警備や祭の手伝いをしている清璧派の門弟たちも同じだ。
 争い事があっても、羅喉丸が一声かければ、とても敵わないと争いの火種は沈下するわけで。
 少々、物足りないぐらいの気持ちで羅喉丸は祭をてくてく歩いているのだった。

 そんな羅喉丸にも目標があった。
 それは、以前祭を訪れたときは見逃してしまった救邑の英雄の伝承を伝える人形劇を見ることだ。
 ぐるりと祭を回ってみると、そこかしこで人形劇は行われているようだ。
 小屋の中では影絵を使った人形劇が。路地では子供向けの指人形を使った簡単で痛快な物が。
 だが、羅喉丸が狙うのは、もっとも大規模に行われる大きな劇であった。
 清璧派の師範代の雷晃や、門派の後継者である綾麗からも幾つか評判は聞いてきたようで。
 それによると祭の真ん中に大きな舞台を用意して、そこで有名な人形劇一座が講演を行うとのこと。
 糸繰りや棒で操る人形を駆使した派手で華麗な劇らしく、多くの客がそれを見たくて集まるらしく。
「となると、少し早めに行った方が良さそうだな……」
 そういって彼は人形劇の会場へと向かうのだった。
 途中で手に入れたのは酒『清山宝璧』。飲みやすいように瓢箪に入れて貰った羅喉丸。
 次に狙うのは屋台料理だ。
 煮込んだ豚肉がどっさりのった丼物、春雨入りの油揚げやら、肉味噌あんかけや海鮮入りの麺料理。
 焼き海老や蒸し牡蠣、魚肉の入った饅頭に、揚げた餃子や春巻きの山。
 葱入りの薄焼き、葱油餅や甘い点心なんかもずらりとそろえた羅喉丸は人形劇を見るための席に到着。
「……ちょっと買いすぎたかな」
 熱々の海老を一口囓り、続いて葱油餅をぽいと口に放り込んでから酒を一口。
「ふむ、清璧宝山か、これは旨いな」
 素晴らしい香りと柔らかい味わいが料理の脂とも良く合っていて、満足げに羅喉丸が頷いて。
 そしていよいよ人形劇の幕が上がり、伝説を伝える劇が始まるのだった。

 人形は糸と棒で操られ、精緻な細工と素晴らしい衣装を備えた見事な物ばかりだった。
 表情も豊かで、動きもなめらか。その人形が演じるのは、華麗な戦いである。
 まだ小さかった令杏の邑を襲った恐ろしい化け物。人々は戦いを挑むも負け続けるばかり。
 そんな人々の悲哀を受け取ったのか、強き龍が人に変じて、旅の武芸者を装って邑にやって来る。
 一目で分かるほど覇気に満ちたその武芸者は、見事な籠手と脚甲を身につけていた。
 そして龍の武芸者は化け物へと戦いを挑むのだった。
 人形たちが丁々発止の大活劇。爆発や火炎の仕掛けも相まって、派手で華麗な立ち回りだ。
 そんな戦いの果てについに武芸者が勝利を収め、化け物は倒される。
 邑は勝利を祝って大いに沸き立ち、武芸者は英雄として邑で歓迎される。
 そしてその後、武芸者は邑からほど近い霊山、清璧山に居を構え流派を興した。
 それが今もなおこの令杏を守る清璧派の興りである、と結び撃破幕を下ろすのだった。

 子供から大人まで大いに盛り上がり感動をあたえる見事な劇が終わった。
 それを通して見た羅喉丸は、ただ一言。清璧派と令杏の友誼を讃える酒、清山宝璧を煽りつつ、
「救邑の英雄か、俺も彼女の力になれるように精進しなければな」
 そう呟くのだった。


 盛り上がる人形劇の裏で、もう一つ大いに盛り上がっている催しがあった。
 それは、この新酒『清山宝璧』を使っての大酒飲み大会だ。
 巨体を誇る武人や堂々たる偉丈夫が大きな酒盃に満たされた酒を呷り、その速さを競うのである。

 そんな会場で、順番待ちをしている2人の開拓者が居た。
 1人は、周りの巨漢たちに隠れがちな細身の女性だ。
「うーん、ちょっと恥ずかしいけど……やってみようかな」
 (*´ω`*) こんな顔をして、お酒の香りにはにかむのはエルレーン(ib7455)。
 そしてもう一人は、エルレーンの反対側の待機列で、
「ふふ……うさみたん、ただでごはんもお酒もくれるって! 世の中にはあったかい人々がいるもんだな」
 やっぱり (*´ω`) こんな顔で、背負ったうさぎのぬいぐるみに話しかけている男。
 ラグナ・グラウシード(ib8459)その人であった。

 この二人には因縁があった。兄妹弟子ながら二人は犬猿の仲なのだ。
 絶対に相容れない二人。どんな場であろうと張り合わずには居られない2人の関係……。
 それに令杏のお祭り会場で盛り上がってる観客たちが気付かないはずが無かった。
 本来ならば、数人ずつが壇上に上がって飲む速度を競うこの大酒飲み大会。
 天の采配か、はたまた祭の運営者たちの計らいか。
 偶然ラグナとエルレーンが競うこととなったのだ。
 壇上で鉢合わせする2人、
「ぐっ! ……貧乳女めっ、こんなところにも……」
「なっ! ……馬鹿ラグナも参加していただなんて……」
 ぎりりとお互いを睨み付けて火花を散らすこの2人。
 2人の前にはどんと大きな杯が置かれ、そこになみなみと『清山宝璧』が注がれた。
 漂うかぐわしい香り。だが、エルレーンとラグナはお互いにぎろりと睨み付けて。
「ふふん……おばかさんのラグナ、剣だけじゃなくってお酒も私のほうが強いって見せつけてやる!」
 ふん、と無い胸を張って宣言するエルレーンの啖呵に会場はおおと歓声で応える。
 だが、ラグナも負けじと不適な笑みを浮べて、
「ふっ、無い胸を張って何を威張っている! いいだろう! 私の、真の男らしさを見せつけてやるっ!」
「胸は関係ないでしょう胸は! ふふん、私を本気にさせたこと、絶対に後悔するわよ!!」
「はっ! 後悔するのはどちらかな! この私に挑んだことを悔やむが良い!!!」
 傲然と言い放ったラグナに、ますます怒りの炎を燃やすエルレーン。
 大いに盛り上がる2人の対決は、大歓声と共に始まるのであった。

 まずは一杯目! なみなみと杯に継がれた酒はこれ一杯で常人なら酔っ払う量だろう。
 だが、2人はお互いの誇りと、その他諸々の怒りのままに、これを一気に傾けた!
 んくんくと、細い体の何処に入るんだろうという勢いで一杯目を飲み干すエルレーン。
 がばがばと、偉丈夫ならではの勢いで一杯目を飲み干していくラグナ。
 そして最後の一滴まで飲み干して、だんっ! と杯を叩きつける2人。
「ふふん、勝ったのは私よ! 私の方が早かった!!」
「はっ! 何処を見ているのだ、私の方が一瞬早かったでは無いか!!」
 やいのやいのと言い合う2人。どっちの勝ちだと詰め寄られた審判は目を白黒させて、
「……ど、同時!!」
 というわけで第二戦がスタート。
 さすがに一杯目と同じ勢いにはいかないようで、じりじりと杯を飲み干していく2人。
「ふ、ふははは、だらしないぞ! この調子では勝つのは私のようだな!」
「ふふん、そんなこと言って時間稼ぎをするだなんて、やっぱり勝つのは私みたいね!」
 ゆっくりとしかし確実に飲み進む2人、そしてとうとう二杯目を飲み干したのだが、今度も判定は……
「ま、またしても同時!」
 そんなわけで地獄の三杯目が開始。
 へろへろになりつつ杯を傾けるエルレーン。
 ふらふらになりながら酒を飲むラグナ。
 そして三杯目をお互い同時に飲み干した2人は、
「ふふーん、やあっぱりラグナは私より弱くってヘタレなんだよ……」
「何を言う、勝ったのは私だ! ああ、なんてさわやかな気分だろう……」
 (*´∀`) 満面の笑みで勝利宣言をするエルレーンに、
 (*´ω`) すがすがしい笑顔で勝利宣言をしたラグナ。
 2人は、そのまま真後ろにばったりとぶっ倒れるのだった。

「……そ、そんなぁ……わらひが、らぐなに、まけるなんてぇ」
 ろれつの回らない舌で、えぐえぐ泣きだしそうなエルレーンと。
「……う、うぐぐ…うさみたん……まけるはずでは……」
 うさみたんを抱きしめ、滂沱の涙を流すラグナ。
 勝敗つかず、2人はぱったり倒れたままぐーすかと寝込んでしまうのであった。


 演舞や舞、屋台の料理に酒、そして人形劇や大酒飲み大会。
 そうした催しはどれも賑やかだが、祭と言ったら忘れてはならないのは衣装だ。
 天儀の夏の祭では浴衣を皆が着込むらしいが、ここ泰国ではあまり服装にこだわりはないようである。
 だが、ここぞとばかりに着飾る者も居れば、熱いからと薄着で色気を振りまく者たちもいるようで。
 ここにとても人目を奪う。特に男性陣の視線を釘付けにする2人の姿があった。

 1人はネオン・L・メサイア(ia8051)。
 翠の髪に金の瞳、そして白い肌を彩っているのは深紅の旗袍だ。
 すらりと背の高い彼女の脚線美を彩るようにスリットは深く、体の曲線をこれでもかと主張している。
 その隣で、小さな体をより一層縮ませているのはイライザ・ウルフスタン(ic0025)だ。
 小柄な彼女にあうよう仕立てられたのは蒼色の旗袍。
 それはネオンの来ているものと対になるように色違いで作られたもので。
 2人はその揃いの旗袍で祭の中を歩いていた。
 ネオンが買い込むのは辛い料理だ。辛い醤のかかった蟹肉の和え物や揚げた海老。
 酒に合うようなたれのかかった薄焼きは平焼きの饅頭などをまずは買い込んで。
 続いて探すのはイライザの好む甘味や果物だ。
 冷やした桃に桃饅頭、胡桃の餡が入った月餅に、冷やした杏仁豆腐までがずらりだ。
 それらを買い込んだ2人は、人形劇の熱気や大酒飲み大会の盛り上がりからは離れていく。
 まるでイライザを守るようにネオンが立ち、そのネオンの手をしっかり握るイライザ。
 2人は、どこか落ち着ける場所は無いか、と探していると、そこには古びた東屋が。
 余り人は来ないその小さな東屋に2人は腰を下ろしと、のんびりと食事を始めるのだった。

 2人にとって大事なのはお互いだけだ。
 祭も、2人で一緒に料理を買って賑やかな町並みを歩いて、人形劇を見たりするのが楽しいわけで。
 こうしてひとけのない東屋でのんびり料理を食べるのも、それもまた2人の世界。
 2人はどっぷりとその世界を満喫するのであった。
「ふむ、なかなかに旨いな」
 酒『清山宝璧』を煽りつつ、辛い蟹料理を食べていたネオン。
 ふとイライザを見ると、丁度彼女は甘そうな桃の一切れを囓っているところであった。
 なにか思いついたネオン。彼女は笑ったまま、ちょんちょんとイライザを突いて桃を指さしてみる。
 するとイライザは不思議そうな顔でネオンを見上げて。
「……? ネオンも欲しい……? じゃあ、これ……」
 そういって、新しい桃の一切れを差し出そうとするのだが、ネオンはそれを見て首を振る。
 そこでイライザは、ネオンがなにを言わんとしているかを察してぽっと頬を染めて。
「……あ、そっか……♪ はい、間接キス……♪」
 はにかみながら、自分のかじりかけを差し出すイライザに、よく出来ましたとばかりに頭を撫でるネオン。
 彼女は桃の一切れを貰って、もぐもぐ噛みしめながら、
「ふふふ、お前の味が加わって余計に甘いな?」
 しれっと呟き、ますますイライザの頬を染めさせるネオン。そんな彼女に、
「ね、ボクも……ネオン、口移しで、頂戴……?」
 そう強請るイライザだったが、にっこり笑ってネオンは彼女の頭を撫でると、
「此処では駄目だ。帰ってからじっくり、な♪」
「……ん、そうする……♪」
 こうして2人は祭を後にするのだった。


 2人でぎゅっと仲良く手を繋いで体を寄せ合うネオンとイライザ。
 道行く男性陣の視線を引きつけつつ歩く2人だが、彼女らとは別の意味で目立つ二人組が。
「お祭りめぐりにつきあえ、なのっ」
「ふん! 結局決着がつかなかったが、酒に酔った女を打ち据えても無意味だからな!」
 ふらふらとまだ少し酒が残っているのか、なぜか連れ立っているエルレーンとラグナ。
 お酒ばかりじゃつまらないとどうやら屋台巡りの最中のようだ。

 そんな賑わいを、きょとんとした顔で眺めるからくりが1人。
 名前はしらさぎ、首をかくりと傾げて、
「テンギとすこし、ちがう?」
「そうね、テンギで見かけた人達も居るけど……やっぱり国ごとの特色ってあるからね」
 にこりと微笑んで、大きな妹分のしらさぎに応える礼野 真夢紀(ia1144)だった。

 真夢紀はまずは清山宝璧を幾つか買い求めたようで。
 料理をよくするこの小さな開拓者にとっては、客の好みに合わせた様々な酒もまた武器になるのだ。
 そして、続いて目指すのは屋台だ。
 いつもはいろんな場所で屋台を開いている彼女。だが今日は珍しく食べる側で、
 ずらりと並んだ南国の果物に、熱々の料理、焼き物、麺料理……。
「まゆ1人じゃとてもじゃないけど食べきれないものね。しらさぎも手伝ってね」
「うん、がんばる!」
 真っ白の髪をふわりとゆらしてこたえるしらさぎ。
 2人がまず向かったのは果物の屋台だ。
 黄色い果肉で棘だらけの不思議な果物や、さらに珍しい南国の果物がずらり。
 細長い黄色のすべすべした果物は、生で食べても、未熟なものをシロップ漬けでもまた美味しく。
「これ、オイシイ。かきこおりにもりつけてもおいしいとおもう」
「うんそうだね。すいませーん、この果物くださーい」
 まずはかき氷に使えそうな果物を幾つかということで、買い込む真夢紀。
「わ、すごい! よっぱらいエビ、だって!」
「お酒で漬けてから、生で食べたりゆでたりするんだね……天儀には無い調理法だね」
「こっちはよっぱらいカニだって……エビとおんなじ?」
「どうなんだろう? ちょっと聞いて見ようかな……」
 真夢紀が屋台の主の老婆に尋ねると、最初は門外不出だからと教えてくれなかったのだが。
「へぇ、あんたら天儀の人かい、小さいのにはるばる……それじゃ、こっそり教えてあげるよ」
 そういって笑う老婆から、真夢紀は蟹の酒漬けの調理法を教わるのだった。
 まだまだ料理の追求や材料集めは終わらないようだ。
「こんどは、なにをさがすの?」
「うん、折角本場に来てるんだし、餃子の具材探しかな」
「ギョウザ? たくさんみつかるといいね!」
 水餃子、焼き餃子、揚げ餃子と料理がならぶ泰国の屋台。
 辛いのもあれば、変わり種だと甘い具が入っている果物餃子なんかもあるのだが……
「ん〜?……んー!」
「これは……ちょっと真似はしない方がよさそうね」
「ん〜……」
 もぎもぎあんまり美味しくなかった変わり餃子を悲しそうな顔をしてる囓るしらさぎ。
 そんなしらさぎを撫でてあげる真夢紀であった。
 そして暫く屋台巡りに精を出していれば、てんこ盛りの料理を抱えたエルレーンとラグナと再会したり。
 丁度人形劇を見終えた羅喉丸が、御飯を探してやってきたり。
 少女拳士と一緒に、踊りを終えた白隼がやってきたり。
 そんな開拓者達一同、どの出し物が面白かった、どの屋台が面白かったと話に花が咲いて。
 まだまだ見所は尽きないようで、酒盃で乾杯をした一同は、また祭の雑踏に飲み込まれていくのだった。