朝顔市を浴衣で過ごせ!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 34人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/31 20:18



■オープニング本文

 お祭り好きの街、芳野。
 そこでは今、祭のような賑わいのとある市が行われていた。それが、朝顔市だ。
 観賞用の朝顔には、さまざまな種類があるのだが、その中でも流行なのは「変わり咲き」。
 朝顔の交配と栽培によって、珍しい形や色の花が咲く朝顔がこの市の目玉なのである。

 そんな朝顔の栽培業者が軒を連ねる芳野の朝顔市。
 縁日も沢山出て、まさしく朝顔祭と言った雰囲気である。
 だが、祭で多くの客が遠くからも訪れるとあればそれは商売の好機。
 そこで芳野の呉服屋たちが揃って一つの依頼を出すことにした。
 それは、この夏売りに出される新作の浴衣を、開拓者に宣伝して貰うというものである。

 浴衣の柄は、朝顔市にならぶ様々な変わり朝顔や、普通の朝顔の柄が中心だ。
 夏らしい涼やか色合いから、ど派手なキワモノまで選取り見取り。
 それを着て貰って、ぶらりと市を歩いて貰えばそれだけで宣伝はばっちりというわけで。
 浴衣さえ着て貰えれば、それで宣伝は十分。
 店の名前の入った日傘を借りて差すも良し、たんに街の噂に任せるも良し。
 浴衣を着てちょっとした芸を披露するでもよいし、屋台を出すのもそれはそれでよいだろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 川那辺 由愛(ia0068) / 音有・兵真(ia0221) / 雪ノ下 真沙羅(ia0224) / 真亡・雫(ia0432) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 野乃原・那美(ia5377) / ネオン・L・メサイア(ia8051) / 尾花 紫乃(ia9951) / 猫宮 京香(ib0927) / 尾花 朔(ib1268) / 朱華(ib1944) / アル・アレティーノ(ib5404) / 葛籠・遊生(ib5458) / 扶桑 鈴(ib5920) / アルセリオン(ib6163) / 玖雀(ib6816) / 朧車 輪(ib7875) / 金森凪沙(ib7920) / 巌 技藝(ib8056) / 藤田 千歳(ib8121) / 月雪 霞(ib8255) / 八意・慧(ib9683) / 鬼嗚姫(ib9920) / 名月院 蛍雪(ib9932) / 銀鏡(ic0007) / 白葵(ic0085) / ジェラルド・李(ic0119) / 月城 煌(ic0173) / 結咲(ic0181) / ジャミール・ライル(ic0451) / 火麗(ic0614) / 兎隹(ic0617) / 白隼(ic0990


■リプレイ本文


 その日、街を埋め尽くしているのは朝顔の鉢植えだった。
 小ぶりな鉢、そこから伸びる支柱にくるりと巻き付いて、緑の葉と色とりどりの花を咲かせる朝顔。
 ……朝顔と言えば、喇叭の形の花が一般的だろう。
 だが、この朝顔市にある朝顔はそれだけではないようだ。
 普通の朝顔も十分美しいのだが、職人たちが手塩にかけた変わり朝顔の数々が咲き乱れているのである。
 市場の朝顔をざっと眺めてみても、その咲き方だけを見ても千差万別。
 たとえば、切れ込みの入った花なら切咲、花弁が別れていれば牡丹咲と呼ばれるらしい。
 さらに、桔梗に似た形の桔梗咲、細長く切れた花が特徴の采咲、風車のような車咲などもあるとか。
 これでもほんの一例だ。花の色、入る模様に花弁の細かい形の違い……と数え上げていけばきりが無い。
 その上、花が大きければ大輪、小さければ姫と花の銘にも工夫があるそうで。
 こんな風流な朝顔たちが一同に会する朝顔市。
 そこには朝顔に負けず劣らず、色とりどりの美しい浴衣を纏った開拓者達の姿があった。

 呉服屋にて、紺の作務衣と男物の浴衣を矯めつ眇めつする男が1人。
「作務衣もあるのか」
「ええ、隠れた柄も粋ということで、こっそりと目立たない朝顔の縫取りがしてありますけどね」
 店員に言われて、どちらを着るのか悩んでいるのは音有・兵真(ia0221)だ。
 しばし悩む兵真、結局は浴衣を着ることにしたようで。
「たまにはこういうのもな」
 そういって兵真もぶらりと日差しの眩しい芳野の往来へと歩き出すのだった。
 そんな兵真を待っていたのはすらりと背の高い姉御肌、火麗(ic0614)である。
「お、なかなかに男前な浴衣だねぇ、兵真さん」
 そんな言葉に応えるように、兵真は火麗の浴衣に視線を向ける。
 火麗が選んだのは、落ち着いた黒地に大輪の青い朝顔がくっきりと描かれたものだ。。
 その青が火麗の瞳とも相まって、黒地の浴衣から浮かび上がるように鮮やかで艶やかで。
「可愛らしい感じの浴衣や丈の短いのも流行ってるようだけど……私じゃ似合わないだろうしねぇ」
 そんな火麗の言葉に、そんなこと無いのでは、と首を傾げてみる兵真。
 そして2人は待ち合わせの友人たちを追って、朝顔市へ向かうのだった。
「……浴衣ってのは初めてだなー、なんか動きづらい」
 着慣れない浴衣に難儀しつつ、すそや合わせを引っ張っているのはアル・アレティーノ(ib5404)。
 彼女は白地に変わり格子と朝顔の模様が入った浴衣姿で、1人の少女の手を引いている。
 うさぎのぬいぐるみ、キルシュを胸に抱いて、白地に色とりどりの朝顔柄の浴衣姿は兎隹(ic0617)。
 朝顔の間からは可愛らしい金魚の柄が入っており、ふわふわの飾り帯と相まって可愛らしい様子だ。
「……ママ姉様、我輩の浴衣は、どう?」
 くびをかくんと傾げつつ尋ねる兎隹に、
「うん、可愛い♪ やっぱり女の子は着飾ってなんぼだねー」
 と応えるアル。2人は、ずらりと並んだ変わり朝顔を興味深げに眺めつつ、待ち人2人を待っていた。
 そこにやってくるのは兵真と火麗。
「着飾ってなんぼなら、アルもそうなのか? ……そういえば、アルのそういう姿は初めて見るよな」
「あ、あたしは除く。あんま柄じゃないからねー」
 手を上げて挨拶交わす兵真とアル。
「やあ兎隹、浴衣姿も可愛いな。朝顔に興味があるのか?」
「うん、こんな不思議な形の種類があるとは知らなかった。いろんな種類があるのだな」
 朝顔を突きながら応える兎隹に、笑顔を向ける火麗。そして揃った4人はどこに行こうかなと考えれば、
「あたしたちは砲術士、ならやるべきことはただ一つ! 射的だー♪」
「我輩の腕前、刮目していただきたいのだ!」
 アルと兎隹の提案で射的へ。まずはドヤッと構えた兎隹が撃つ役目のようだ。
 芳野では弓矢ではなくぽんと空気で栓を飛ばす銃の玩具を使うのだが、
「……(ポンッ!)……むむぅ……」
 狙い定めて弾丸を放った兎隹、残念ながら狙いはすこしそれてしまったよう。
「ママ姉様に負けない砲術士になれるよう、もっと頑張るのだ」
「うん、これからも精進するように。でも、惜しかったじゃ無い」
 くしゃくしゃとアルは兎隹の頭を撫でつつ、お手本とばかりにぱかんぱかん的を打ち落とすのだった。
 そして一同は、再び盛り上がりの中へ。兵真は兎隹に林檎飴を買ってあげれば喜ぶ兎隹。
 そんな兎隹を見て、火麗は思わず、
「それにしても兎隹のはしゃぐ姿本当に可愛いわねぇ」
 と呟くと、かじりかけの林檎飴から顔を上げた兎隹、周囲の視線を集める火麗をじっと見て、
「可愛い、だけじゃなくて……火麗姉みたくないすばでーに、我輩もなれるかな……?」
「ないすばでー? ……それは気合いでなるものよ」
 ふふっと笑って胸を張る火麗。酒の入った徳利を手にそういう火麗を見て兵真は思わず、
「兎隹は可愛いとして……火麗はなんで駄目姉系なのかね? それも可愛いっちゃあ可愛いのだが」
 苦笑を浮べて言って、仲間たちと笑い合うのだった。


 火麗や兵真たちとすれ違ったのは、仲良く歩く姉妹のような女性二人組だった。
「ほら、那美。そんなに飛び跳ねないの」
 笑いながら先をぴょんぴょんと飛び跳ねている友人を追う川那辺 由愛(ia0068)。
 由愛の浴衣は、黒字に赤の彼岸花。妹分も同じような柄の浴衣を着ているようだ。
 2人は、はしゃぎあいながら雑踏をかき分けて。
「こうしていると、本当に子供っぽいわよね〜。ふふふっ」
 そう笑う由愛に相手はちょっと頬を膨らませてむくれてみせるが、
「お、お酒があるじゃないの。行ってみましょう、那美」
 はぐれないように手を繋いだ由愛たちは、再び雑踏に紛れていった。

 もちろん恋人たちもこの市を楽しんで居るようで、開拓者の中にはそういう者たちも大勢いるようだ。
「朝顔、気に入ったものがありました? 僕、これなんか色が良いなと思うんだけど……」
 真亡・雫(ia0432)が指を差したのは深い紫の変わり朝顔だ。
 それに頷くのは彼の年上の恋人だ。2人は買い求めた朝顔の鉢を手にぶらりと散策。
 雫の来ている浴衣は紫の男物で、恋人の浴衣もそれに合せたかのような色合いの楚々とした一着で。
 おもわずぼうっと恋人の浴衣姿を眺めている雫に、恋人はどうしたんですか〜と首を傾げて尋ねれば。
「京香さんの浴衣姿は、いつみてもきちんと着こなしていて綺麗だな、って……」
 思わず応えてしまった雫に、恋人も嬉しそうにはにかんで。
「大人の魅力というか。僕は好きです……ってこんなこと面と向かって言うと、紅くなってしまいますが……」
 真っ赤になりつつ言う雫の腕に、恋人はそっと腕を搦めて、食事でもしましょうと2人は歩いて行く。

「こうして花に囲まれるというのは良いものだな」
 変わり朝顔の鉢がならぶ中をのんびりと歩きながら、にやりとネオン・L・メサイア(ia8051)が言った。
 確かにずらりとならんだ花は目を奪うほど美しい。
 だが、売り手の職人や他の男性客たちの視線はネオンとその連れに釘付けのようで。
「あの、ちょっと胸が収まりきらないんですけど……えと、大丈夫、ですよね?」
 まず目を引くのは、どうしても開いてしまう襟を、一生懸命押さえる雪ノ下 真沙羅(ia0224)。
「ふふ、大丈夫大丈夫。……まぁ、とびっきりの花は我の隣だが。ふふふふ……」
 そしてにんまりと微笑むネオンもまた、その立派な胸が2人お揃いの浴衣の襟を広げているようで。
 花に囲まれつつも、色や香りではなく、どっちかというと色香で周囲の視線を釘付けにする2人だった。
 そんな2人、とりあえずは朝顔市を見ているようなのだが、
「さ、早く参りましょうネオン様ー♪」
「コラコラ、真沙羅。そんなに慌てるんじゃない」
 手を引く真沙羅に、困った顔で笑いかけるネオン。2人の浴衣は揃いの朝顔柄で、いろは赤紫と青紫だ。
 だが、浴衣は生地が薄めで体の線が結構でてしまうもので、
「見て下さいネオン様ー! これ、とっても不思議な形をしてますね……」
「確かに滅多に見ないナリだな。此の朝顔を部屋に飾れば、よりお前が映えそうだ」
 しゃがみ込んで鉢を見れば、二人してその胸の辺りが特に弾ける寸前取った様子で。
「でも……その、もっといろいろ見てから、決めませんか……? こうして探しているのが楽しくて……」
「ふふふ、可愛いやつめ……」
 ぎゅっと胸に抱え込むようにして腕に抱きつく真沙羅に、ネオンは楽しそうに笑顔を向けて。
 そのまま、頬に軽く口づけを一つ。ぽっと赤くなる真沙羅に、ますます嬉しそうに体を寄せるネオンだった。
 腰を抱いたり、肩を抱いたりとあっつあつの女性2人は、今この瞬間が最高だとばかりに楽しそうで。
 周りが鼻血を吹きそうなほどにいちゃいちゃを振りまくのだった。

「あのお花が……あさがお? たくさんあるよ?」
「うん、あれも珍しい形だけど全部朝顔。この市場にあるお花は全部朝顔なんですよ」
 にこにこと、童女姿のカラクリ、天澪の手を引くのは柚乃(ia0638)だ。
 2人は呉服屋でいろいろとお揃いの浴衣を見立てて貰ったよう。
 薄い水色の地に色とりどりの朝顔が花咲く可愛らしい浴衣姿で。
 ついでとばかりに、お揃いで朝顔の形の髪飾りも貸して貰ったようで、まるで姉妹のようだった。
 そんな2人は、すこし歩き疲れていると、遠くに氷と書いた幟が一つ。
「……天澪、かき氷食べたくない?」
「かきごおり?」
 かくりと首を傾げる天澪の手を引いて、柚乃はその屋台へと一目散に向かうのだった。
 そしてその屋台では、沢山の客を手際よくこなしていく少女とからくりの姿が。
「はーい、かき氷は、赤青紫に白い甘酒、黄色いマーマレード味もありますよ?」
 にっこりわらって屋台の向こうでくるんくるん削り器を回すのは礼野 真夢紀(ia1144)だ。
 紺地の真夢紀、白地のしらさぎ、2人とも朝顔柄の浴衣で涼しげな格好だが、店主の真夢紀は大忙し。
 小柄な手足を一生懸命大回転させて、隣ではからくりのしらさぎもどれにする? とばかりに首を傾げ中。
 奇しくも、少女とカラクリという組み合わせの店主とお客。
 柚乃と天澪も、それぞれ好きな味のかき氷を貰って、熱い日差しを遮る木陰の縁台でまずは一口。
 きーんと貫く冷たさもおいしさのうちで、ふたりはしゃくしゃくかき氷を楽しむのだった。
「……天澪、美味しかった?」
 そんな柚乃の言葉にこくんと頷く天澪、口の周りについたかき氷色の雫を拭いてあげる柚乃はふと、
「折角だし、一芸……というつもりは無いけど、歌でもうたいましょう。お店の宣伝にもなるかしら?」
 そういって柚乃は天澪と一緒に澄んだ歌声を披露して。
 可愛らしい姉妹のような2人が歌う涼しげな歌声。それは大いに受けたようで、
「はい、これ歌のお礼ね」
「きっと、おいしい、よ」
 柚乃と天澪に最後は真夢紀としらさぎが差し入れのようだ。
 中身は歩きながら食べられる餡子玉と紅茶の寒天、それに葛切とてんこ盛りで。
 暑い夏の空の下、大繁盛する真夢紀の屋台のそばで差し入れ満喫する柚乃と天澪であった。


 黒の地に大きな白の朝顔、流水の模様に金魚。
 涼しさと可愛さの同居した可憐で清楚な浴衣を選んだのは、泉宮 紫乃(ia9951)だ。
 どうですか、と婚約中の思い人を見上げて訪ねる紫乃に、尾花朔(ib1268)は、
「金魚が紫乃さんらしくて愛らしいです」
 とにっこり応えれば、
「お揃いの様で少し恥かしくて……嬉しいです」
 頬を染めながら紫乃はそう答えるのだった。
 鉄紺色で無地の浴衣姿の朔、帯に朝顔があしらわれた粋な姿で、婚約者を連れて出店へ。
 どうやら2人で出店を出すようで、それはお茶と和菓子の店らしい。
 まだ日は高く、出店と言えば実は夕方以降が稼ぎ時なのだが、2人の店は違うようだ。
 紫乃が配置を工夫して並べているのは、洋菓子と和菓子。目にも美しく、涼しげな寒天や水羊羹だ。
 それに合せるお茶を用意している朔、お茶の他には冷たい麦茶に生姜の利いた冷やし飴。
 ジルベリアのレモネードまで用意したようで、さらにはお菓子にも一工夫。
 寒天なんかを使った朝顔のかたちの和洋菓子を用意してきたようで。
 日中からも甘味と冷たい飲み物ならばと大繁盛の様子で、2人は暫く忙しく立ち働くのだった。
「ふう、やっと一段落しましたね」
 材料も切れて、一足先に店じまいをする2人の屋台。朔は片付けをしながらふと婚約者に向き直り、
「少し早めに店じまいをして、デートに行きたいのですが……だめですか?」
 突然のお誘いに、頬を染める紫乃。しかし、ぷるぷると首を横に振って、
「駄目な訳、ありません。……折角ですから、お庭に飾る朝顔が欲しかったんです」
 そういってはにかむ紫乃。店を片付けた2人は、
「一緒に選んでくれますか?」
「ええ、もちろんです。紫乃さんみたいに愛らしい花を探しましょう」
「……誘ってくれて、ありがとうございます」
「こちらこそ……また来年も一緒に来ましょう」
 そっと手を繋いで、まだまだ賑わう朝顔市へと向かうのだった。

 ぼんやりと、雑踏の隅で立ち尽くす金の瞳の男が1人。
 黒の浴衣がびしりと決まった彼は朱華(ib1944)。どうやら人を待っているようだ。
 ぼうっと空を眺めていれば、たたたと駆け寄る足音が。
 やってきたのは黒の浴衣に紫と青の紫陽花模様。そして黒地に映える赤い帯の白葵(ic0085)だ。
 紫の瞳をぱちぱち瞬かせて、奇しくもお揃いの黒浴衣姿の朱華を見つめ、
「おまっとさん♪ ……あら朱華さん、えらい男前やなぁ」
 にっと笑う白葵であった。そんな白葵にすっと視線を向ける朱華。
「ん、似合うな。こういうのも新鮮で……もうちょっと、衣紋が抜けてる方がいいんじゃないか」
 そういって、手を伸ばす朱華。彼は白葵の襟を直してやるのだが、吃驚した白葵は。
「ひにゃ……っ」
 と声を上げて首を竦めるのだった。
 そして歩き出した2人。ずらりと鉢を並べて朝顔を売る職人たちも多いのだが、目についたのは屋台の方。
 香ばしい匂いを立てる屋台料理、いか焼きやら林檎飴やらを軽く数人前も平らげる朱華に白葵は吃驚しつつ。
 見かけたのは、どうやら恋人同士でやっている和菓子の屋台だった。
 朔と紫乃が可愛らしい和菓子とお茶を売っている屋台に立ち寄る朱華と白葵。
 ここでもまた、どっさり買い込んでひょいぱくひょいぱくと平らげていく朱華に、思わず白葵が、
「朱華さん、白も一口……あーん、あーん……!」
 口をぱくぱくとねだってみたり。そんな彼女の様子にきょとんとしつつも、水羊羹を小さく割って、
「なんか、雛みたいだ」
 くすりと苦笑しながら、しっかり付き合ってあげる朱華であった。
 そして、さらに道を行けば、どんどん雑踏は混み合ってくる。
 長身の朱華から見て、先を行く小柄な白葵はいかにも人並みに紛れてしまいそうで。
 朱華はふっと手を伸ばして、しっかりと白葵の手を握りしめた。
 すると、はしゃぎながら和菓子を食べ、変わり朝顔を眺めていた白葵は真っ赤になって大人しくなって。
「……ん? どうした?」
「い、いや、なんでもあらへん……な、なんで急に手なんか握って……」
 少し俯いて大人しくなる白葵。内心では、(仕事やったら平気やのに……)と思っていたのだが、
「……こうしている方が、安心する」
 ほっと小さく安堵のため息をつく朱華に大人しく白葵は手を引かれて。
 小さくきゅっと手を握り直し、2人は人並みに飲まれていった。

「浴衣、で……おま、つ……り………楽し……み……」
 尻尾をパタパタさせて、全身で喜びを表現している扶桑 鈴(ib5920)は白い浴衣に青地の紫陽花。
 そして、彼女と対になった白地に赤い紫陽花の柄でにっこりと笑うのは葛籠・遊生(ib5458)だ。
「これでどうかな、……えへへ、お揃いだね!」
 髪を邪魔にならないように結い上げて、遊生が鈴に笑いかけると、錫は尻尾をぱったぱったさせて、
「ん……♪」
 嬉しそうにこくこく頷いた。どうやらお揃いなのが嬉しいようだ。
 そんな2人は、お店の名前の入った日傘を借りてそろって市に繰り出すところだった。
「ねね、鈴ちゃん。こっちの朝顔凄く綺麗だよ!」
「ぇ、ぁ……ま、待っ……て……」
 元気に飛び出していく遊生、わたわたとそれを追いかける鈴。
 周りの客たちは、そんな2人を微笑ましそうに見ていたりして。
 しかし、予想以上に混み合う朝顔市、余り目の良くないらしい鈴のためにも遊生は彼女の手を引いて。
「この朝顔なんて、不思議な形。獅子咲き、って言うんだって。綺麗な色だね」
「ぅ、ん……綺麗、だね……」
 2人ならんで鉢を眺めて、鈴はその朝顔の葉や花に手で触れて撫でながら。
 しっかり手を繋いだ2人は、楽しそうに朝顔の鉢の間を仲良く歩いて行くのだった。

 そんな2人がしっかりと掲げて、宣伝に努めている店名入りの日傘。
 それを見る人達の中に、微笑み合う三人連れ姿が。
「輪とはぐれてしまうのはいけません……しっかりと、手を繋ぎましょうか」
 藍色の地に大きな朝顔の書かれた浴衣を楚々と着こなす月雪 霞(ib8255)。
 彼女が橙色の紫陽花柄を着た小柄な少女、朧車 輪(ib7875)の手を取ってそう言うと、
「……手をつなぐなら、アルさんも、つなご?」
 きゅっと霞の手を握りながら、もう片方の手を輪は伸ばした。
「そうだな。はぐれないように……」
 輪の手をそっと握って微笑むのは、緑に朝顔の描かれた浴衣を着たアルセリオン(ib6163)だ。
 輪を左右から挟むように左右から手を繋ぐアルセリオンと霞。
「……こうしていると、家族……のように見えるかもしれない、な」
 繋がった手の温もりを感じながら、アルセリオンがちらりと霞を見て呟けば、
「偶には夫と二人きりでなく、賑やかに過ごすのも悪くありませんね」
 ふふっと優しく微笑む霞、彼女も優しく手を引いて、
「それじゃ、輪はどこに行きたいですか? どこでも、お好きなところに付き合いますよ」
 そういって3人は仲睦まじく朝顔を見て回り始めるのだった。
 日が高く登っても、まだまだ頑張って咲いている朝顔たち。その種類は千差万別で色とりどり。
「花はここまで色鮮やかに咲き誇ることができるものなのだな……」
「ええ、本当に素敵な朝顔……縁日もあるようですし、後で行ってみるのもいいですね」
 そう夫婦のアルセリオンと霞が言っていると、なにやら輪が思いついたようだ。
(あ、そうだ。きっとあの人も……お花が好き。一つ買っていこう)
 大好きなあの人のことを思い浮かべて、見付けたのは綺麗な紫色の朝顔一つ。
 あまり形は珍しいものではないが、小ぶりな花の咲き方と深い紫の色合いが見事で。
「あの、それください」
 元気に注文する輪、ついでに折角だからと3人は一つずつ鉢植えを買ったようで。
「輪、それは誰かへの贈り物かい?」
 アルセリオンが尋ねると、輪は大きく頷いて嬉しそうに笑いながら、
「うん。プレゼント。……喜んでくれるかな」
 と心配そうに尋ね返した。そんな輪の頭を霞は優しく撫でて、
「大丈夫ですよ。きっと喜んでくれます……輪が選んだものなのですから」
 と笑って安心させるのであった。そんな様子に、アルセリオンは不意に安堵の笑みを浮べる。
 なにか笑われるようなことを言っただろうか?
 そう思って輪がかくりと首を傾げると霞も同じように首を傾げるのだが。
「ん……いや、輪が楽しそうだったからな。それが嬉しかったんだよ」
 わだかまりが解けた胸の暖かさを感じつつ、アルセリオンはそう応えたのだった。
 転びそうな輪を支えて、代わりに鉢植えを持ってあげるアルセリオン。
 今度は霞が輪とアルセリオンの間で手を繋ぎ、
「……アル、いつか三人になったら……きっとこんな感じなのでしょうね……」
 そっと聞こえないように呟きながら指を搦めて、寄り添う霞。3人はのんびりと市を歩いて行くのだった。


 煤竹色の浴衣は男物としては流行の色味、それに白地黒柄の角帯をきゅっと締めて。
 雪駄からは踵をすこしだして、普段は結い上げる髪も今日ばかりは肩下で緩く結う粋な姿は玖雀(ib6816)だ。
 そんな親友の姿を見て、思わずぼーっとしているのは藤田 千歳(ib8121)。
 お互い久々の浴衣姿の上、普段の服装と大きく違うから、思わずぼうっと見てしまっているようで。
「普段シノビ服ばっかだしな、違和感強くても笑うなよ?」
 そういってそっぽを向く玖雀に、紺地の浴衣を着慣れない様子で来ている千歳は、
「そんなことは……よく、似合っていると思う。着慣れない俺とは違って流行の色を着こなしているし」
「……褒めすぎだ。千歳も悪くないさ、似合ってるぞ」
 そういって、お互いに気恥ずかしそうに笑い合う2人であった。
 そして、2人は朝顔市へ。どうやら目的は朝顔のようだ。
「こうやって、玖雀殿とゆっくりと過ごすのは久しぶりだな」
「そうだっけな? まぁ、たしかにゆっくりするのは久しぶりかもな」
「……誘ってくれて、ありがとう」
「こちらこそ」
 他愛もないことを言い合いながら、朝顔を見比べている2人。
 玖雀は結構世話焼きのようで、人混みでは盾となり、暑ければそっと黒い扇子で風を送ってあげたり。
 そんな兄貴分に守られながら、一鉢の朝顔を眺めていた千歳。そういえば、ときりだしたのは、
「誕生日記念、遅くなった事を気にしていた様子だったが……俺は、あまり気にしていなくてな」
 散策しながら千歳は玖雀に告げて、
「玖雀殿から形の残るモノを貰った事が、何だか嬉しくて。大事に使う。改めて、ありがとう」
 そんな風に、信頼出来る兄気分に告げる千歳の言葉に、気恥ずかしそうに視線をそらす玖雀だった。
 そして、やっとみつけたのは薄紫の儚げな朝顔だ。千歳が気に入ったようで、
「それが気に入ったのか?」
「……玖雀殿が良ければ、これに決めたいのだが」
「ふふ、千歳が言うならこれにすっか」
 同じ朝顔をそれぞれ買った2人はのんびりと鉢を抱えて歩き去って行った。

 賑わう市の中、祭のように縁日が立ち並ぶ一角にて。
「あなたには赤よりも黒の方が似合うと思うのです!」
 人相見ならぬ浴衣のお勧めをしているのは金森凪沙(ib7920)だ。。
「この浴衣は裏地の色が結構派手なのですよ。なので、若い人にお勧めなのです!」
 どうやら呉服屋さんの協力も取り付けて、どんな浴衣があってどれが似合いそうかを披露しているよう。
 ひらりひらりと踊りながら、お勧めの浴衣をお客さんたちに見せてみたりと大忙しだ。
 ちなみに、彼女が着ている浴衣はシンプルな白地に朝顔が描かれた淡く涼しげな一着。
 だが、踊り子の凪沙はもう一着、踊り子の被る薄絹のように羽織っていた。
 そちらは黒地に金や銀の模様や赤や青の鮮やかな柄が描かれたその派手な浴衣で。
 二枚の浴衣をひらりひらりと翻し、浴衣のお披露目も兼ねつつ凪沙は舞を踊るのだった。
 手足に付けた鈴がちりんと鳴れば、市を行き交う人達の耳目が引きつけられて。
 大いに凪沙の踊りは、朝顔市の客に受けているだが、問題はその忙しさ。
「時間があれば、朝顔をめでたかったのです……」
 と、そんなところにやってきたのは二人組の開拓者だった。
「手助けしてあげましょうか? 舞踏を愛する者同士、協力しないとね」
 にこりと微笑む巌 技藝(ib8056)。普段の装いとは違って今日は薄青の浴衣姿だ。
 そしてもう一人は紺色の浴衣を着た白隼(ic0990)。
「でも、どうする? 流石にこの服で何時もの様な舞を待ったら、大変な事になっちゃいそうだね」
 くすくすと笑う技藝に白隼は首を傾げて、
「この浴衣という服装は、何時ものように軽やかに舞い踊るには不向きだけど……」
 そういいながらふと考えて。
「この服装なら、穏やかな草原を揺らすそよ風……そんな風合いの緩やかな舞が良いかもしれない」
「なるほど、精霊に納める奉納の舞には、そういう穏やかな舞も数多くあったね。たまには良いね」
 そういって二人は凪沙の代わりに踊りを披露するのだった。
 浴衣で踊ると言えば、天儀ではもっぱら盆踊り。
 一方技藝が言うように、巫女たちは舞を奉納こともおおいのだが、二人の舞はそのどちらとも違った。
 たしかに、穏やかで激しく動くことはないその踊り。
 だけどどこか異国情緒の溢れる動きでゆるゆると舞い踊る技藝と白隼に、客は大いに盛り上がるのだった。
「これはこれで、風情があって素敵だね」
「そうだな」
 扇を手に、ゆるゆると舞い踊る白隼に応える技藝。
 二人の舞は、大いに浴衣の評判を上げるのに役立つのであった。


「ほら、寝てないで行きますよ」
「うーん、あと、五分……」
 朝が弱くて中々起きないジャミール・ライル(ic0451)にあきれ顔の八意・慧(ib9683)。
 しかし、朝顔市で最も綺麗なのは実は早朝なのだ。
 朝顔というだけあって、朝顔の花は品種にも寄るが昼を過ぎると花がしおれてしまう種も少なくない。
 そんな朝顔の花が一番多く見られるのは朝方というわけで、慧は起こしに来たというわけだ。
 白地の浴衣の裾には紫と青の朝顔、それにきりりと黒い帯を締めた慧は、しょうがないなとばかりに。
「……しかたがないですね、ほら浴衣は着せてあげますから、起きてください」
 そういって、甲斐甲斐しく世話を焼くのであった。
 ジャミールのために用意した浴衣は、濃い色の赤無地。そこに黒地に灰青で朝顔の縫取りが入った帯だ。
「ほら、後ろ向いて下さい。手上げて」
 そんな派手で粋な浴衣を慧はジャミールにかっちり着付けるのだが、こっそりジャミールは着崩して。
 二人は朝顔市に向かうことにするのだった。
 そしてやってきた朝顔市は綺麗な朝顔がよりどりみどり。
 変わった形の花に、珍しい色、滅多に見られない咲き方をするものまでが揃っていた。
「おー、すげ……ねぇせんせ、これマジで全部アサガオ、ってやつなの?」
「変わり朝顔、というそうですね」
 と、市場を見回って、気になった朝顔を買ってみたりしつつ、段々と人が増えて来て。
「お、ねぇせんせ、見て見て。あっちで踊り子まで出てるよ! あれは同郷の人かな?」
 技藝や白隼、凪沙の踊りを遠くに眺めて完成を上げるジャミールと、縁日の出店を眺める慧。
 ふと慧は、小間物を売っている縁日の一つに目を留めて、
「何か似合いそうな物があったら買ってあげましょうか。既に間に合ってる気もしますが……あれ?」
 と顔を上げるとジャミールが居なかった。
 どこにいったのだろうと周囲を見回すと、遠くからてくてくと日傘を手にしたジャミールが。
「どこにいってたんです?」
「んー? いや、ほら……先生って色白いから、なんか溶けてなくなっちゃいそうなんだもん。はい日傘」
 そういって日傘をさして上げるジャミールに、慧は、
「ではお礼にこのブレスレットなんてどうです?」
 そういって、教え子に選んだブレスレットを付けてあげる慧であった。

 やはり朝顔はこの市、一番の見物で、鉢の間をてくてく歩く兄妹の姿も。
「兄様……朝顔、とても綺麗ね……?」
「うむ、儚い、が、強い。これは不思議な花だな」
 優しく微笑む妹は鬼嗚姫(ib9920)。兄の半歩後ろを淑やかについていって。
 そして朝顔に妹に似たところがあると思いながら歩むのは兄の名月院 蛍雪(ib9932)だった。
 二人は共に黒地の浴衣、妹の鬼嗚姫は桃色の帯で、兄の蛍雪は白に薄紫で朝顔の入った帯だ。
 そんな二人の耳に、遠くから響いてくるのは踊りの音曲だ。
 どうやら遠くで踊る開拓者達とそれを彩る音楽の調べが聞こえてきたようで。
「あちらに……面白い出し物も、あるみたい……」
「……興味があるなら、行ってみるか?」
 そういって、兄は先に立って歩き出すのだった。
 妹のため、人並みをかき分けて道を作りながら先を行く蛍雪。
 だがやはり人が多くて、鬼嗚姫はそっと兄の裾を指で掴むと、
「掴まりなさい。袖では、私も心許ない」
 そういって腕に捕まらせる兄。
 二人は、ゆるゆると人並みをかき分けて、縁日や踊りの舞台に目を向ける野だっtあ。
 そしてしばし祭のような盛り上がりを楽しんだ二人は、再び朝顔の鉢に目を向けていた。
「朝顔の、花……。光に咲いて……闇に枯れる……花……。きおとは、違うのね」
 ぽつりと消える鬼嗚姫の呟き、それを何も言わずに聞く蛍雪。
 鬼嗚姫は、その花をそっと指先で撫でながら、
「兄様、あのね…きお……きおね、笑ってほしい方がいるの」
 そう兄に話しかけた。人並みから外れた木陰の朝顔鉢に語りかける陽に呟く鬼嗚姫。
「でもね、きおは……困らせてしまうわ……きおには、分からない。何が正解で、何が悪いのか……」
 彼女は伏せていた顔を上げて、兄を向くと
「兄様なら、分かる?」
 そう問いかけた。すると蛍雪は目を伏せながら、彼女の目に似たいろの朝顔の花を撫で、
「なら、その相手をよく見ておきなさい。感情に共感できるように」
 稀生華と、彼女の名を呼んで、励ますように兄はそう諭すのだった。


 道を美人が行けば、男ならばつい振り向いてしまうもの。
 だが、それは男女が逆でも同じであった。
「こういうのも良いもんじゃの。馬子にも衣装っていうやつかの?」
 からりとわらう銀鏡(ic0007)。彼は華やかな黒地に銀の装飾が入ったきりりと粋な浴衣姿。
「浴衣なんて何年ぶりだろうな……たまにはいーか」
 そして彼と連れ立って行くのは月城 煌(ic0173)。
 浴衣は薄紫に朝顔の柄が、どこか涼しげで高貴、そして神秘的な印象を醸し出していた。
 そんな二人が連れ立って行けば、女性は思わず目を奪われてしまうようだ。
 だが当の本人たちはさっぱり気にしていないようで。
「人が多いのぉ……大盛況なようじゃ」
「賑やかでいいじゃねぇか。皆楽しそうだしな」
 ぼやく銀鏡にからからと笑う煌。二人はのんびりと朝顔を見てから屋台の方へ。
 そこで、煌はふたつばかり林檎飴を買って片方を手渡して、
「せっかく来たんだし、なんか食わねぇと損だぜ?」
「そうか? 折角じゃし、いただこうかのう」
 このときばかりは煙管を手に、林檎飴を囓る銀鏡であった。
 足の向くまま気の向くまま、ふらりと二人が向かうのは、ひとけのない一角へ。
 ぽつぽつと朝顔の鉢植えが縁台にならんでいるが、このあたりは屋台からも遠く人が少ないようだ。
 そこにあった長椅子に腰を下ろす銀鏡。煙管を引っ張り出すとぷかりと紫煙を吐いて一休み。
「へぇ、朝顔にも色々あんだな。これなんか、変わってて綺麗だ」
 一服する銀鏡の前で、いろんな朝顔を眺めている煌。かれをみて、銀鏡は懐かしそうに目を細めると。
「朝顔なぁ……儂の家にもあったがの……」
 ぽつりとそう呟いた。
「……まあ、枯れてしもうただろうなぁ……あやつらが面倒見るとは思えんし」
 そう、懐かしそうに呟く銀鏡に、煌は何も言わず、二人で揃いの鉢植えを買って。
 買った朝顔を足下に置いたまま、ひとけのない市の片隅で、二人はならんで煙管をふかすのだった。

「……人、いっぱい。はぐれるの、嫌……」
 山吹色の地に可憐に咲く朝顔。そんな浴衣を着ている結咲(ic0181)はそっと手を伸ばした。
 手の先には、ジェラルド・李(ic0119)。彼は黒に朝顔柄の浴衣を着ているのだが。
「……然し、本当に人が多いな。おい、勝手に居なくなられても面倒だ。袖にでも掴まっていろ……」
 そういって伸ばした手に袖をひらひらとかざすジェラルド。
 だが、そんなジェラルドに、結咲はすこし不服そうで。
「手、繋ぐの、だめ……? 手、繋い、だら、一緒に、いられる、……迷子に、ならない、から」
 そういって、きゅっと手を取る結咲。
 ジェラルドは、今日はお礼として同行していたのだったなと思い直して、不承不承そのままにするのだった。
 だが、ジェラルドはどこまでいってもぶっきらぼうだった。
「……お前から誘ったんだ。何か見たい場所があれば言え」
「ボク、朝顔、見たい、な。ボクの、知らない、朝顔、いっぱい……綺麗、だね……」
「俺もあまり見ないから分からないがな……確かに見かけないものが多いようだ」
 結咲に言われて、改めてみれば不思議な形の朝顔も多いようで、しばらく二人は朝顔選び。
 小さな鉢植えを買った後、さてどうしようとなれば、こんどもぶっきらぼうにジェラルドが、
「……腹が減ってもな。祭のように屋台も色々出ているなら、珍しい物もあるだろう」
 と、提案すれば結咲はかくりと首を傾げて、
「おまつり…? お店、いっぱい。これが、お祭り……? ボク、知らない、けど、すごく、賑やか、だね」
 ジェラルドに連れられて縁日の賑わういっかくまでやって来る結咲は眩しそうに人混みに目を向けて。
「皆、楽し、そう」
「……なにか買う物とかがあれば、付き合ってやる」
 繋ぎっぱなしの手を引いて、結咲の歩みに合せるジェラルド。二人は賑わう市へと繰り出すのだった。
 開拓者仲間の屋台を幾つか見かけた。歌の聞こえてくるかき氷の屋台に和菓子と冷たいお茶を出す屋台。
 踊っている開拓者も居れば、家族で楽しそうに歩む仲間たち。
 そんな朝顔市を堪能した結咲とジェラルドは、思い出にと朝顔の鉢を買って。
「ジェラルド……今日は、ありが、とう」
 じっと見つめて微笑む結咲に、ただ静かに頷いて応えるジェラルド。

 こうして、賑やかな朝顔市は幕を閉じるのだった。
 浴衣は思い出に、だけど代わりに開拓者達の手元には朝顔の鉢が。
 これをみるたび今日のことがきっと思い出せることだろう。