桜祭と甘味の宴
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 43人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/31 23:01



■オープニング本文

 武天の商業の街、芳野。そこでは今年も桜の祭りが行われていた。
 今年もなかなか天候は落ち着かなかった。
 急に寒かったり、雨が降ったりと安定しなかったがそろそろ陽気も本調子。
 だが桜もそろそろ終わり、遠くの山桜が見所といった具合である。
 今年の桜祭りは、あっとうまに桜の盛りが過ぎ去っていったので時期を逃してしまったよう。
 といっても例年通り、芳野の住人達は示し合わせて花見をしていたようで。
 桜にかこつけた商売に、去年に引き続き鰻や酒なんかも大賑わいだったとか。
 桜が尽きるまで、いや桜の見頃が終わっても、今年の花見の宴はまだまだ続くようであった。

 今年は、その桜の祭に合せて、せっかくならばと面白い催し物が企画された。
 それは名付けて「甘味の宴」。
 最近、芳野の街には天儀のみならず他の儀からも様々な料理人が集まっている。
 その中には、普通の料理人だけでは無く、いわゆる菓子職人たちも少なからずいるようだ。
 で、彼ら菓子職人達は考えた。
 春のこの季節、木々は芽吹き、寒さは和らぐこの季節は甘味の季節!
 寒さを越えて果物も豊富、いろいろな場所の甘味を食べ比べて貰うのはどうだろう、というわけだ。
 そんなわけで企画された今回の「甘味の宴」。有り体に言えば、甘味と菓子の品評会といったところだろう。
 天儀の伝統的な菓子も勢揃い。茶菓子焼き菓子や寒天寄せなんかの見た目にも拘った物もずらり。
 ジルベリアからはケーキなんかも出るだろうし、他の儀からもいろいろと菓子が持ち込まれるかも知れない。
 ふらりと品評会に顔をだしてお菓子の味見をしてみるのもいいだろう。
 今年は別に最優秀を決めたりすることはないらしい。
 あくまで菓子職人の切磋琢磨を促す顔見せのような役割りとのことで。
 つまり、会場に遊びに行けば、いろんな甘味が食べ放題。
 もちろん、自分も腕を振って自慢のお菓子を披露するのもいいだろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 六条 雪巳(ia0179) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / レヴェリー・ルナクロス(ia9985) / イリア・サヴィン(ib0130) / リスティア・サヴィン(ib0242) / 燕 一華(ib0718) / 猫宮 京香(ib0927) / 言ノ葉 薺(ib3225) / 東鬼 護刃(ib3264) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918) / 玖雀(ib6816) / 神定・千景(ib7866) / 華角 牡丹(ib8144) / 紫ノ宮 莉音(ib9055) / ラビ(ib9134) / 音羽屋 烏水(ib9423) / 金剛寺 亞厳(ib9464) / ツェルカ イニシェ(ib9511) / 稲杜・空狐(ib9736) / 雲雀丘 瑠璃(ib9809) / 音野寄 朔(ib9892) / 豊嶋 茴香(ib9931) / オリヴィエ・フェイユ(ib9978) / 法琳寺 定恵(ib9995) / 麗空(ic0129) / カルミア・アーク(ic0178) / 理心(ic0180) / 結咲(ic0181) / 紅 竜姫(ic0261) / 紫ノ眼 恋(ic0281) / 鶫 梓(ic0379) / ジャミール・ライル(ic0451) / 紫ノ宮 蓮(ic0470) / イヴ・V・ディートリヒ(ic0579) / 遊空 エミナ(ic0610) / 火麗(ic0614) / 兎隹(ic0617) / 紫上 真琴(ic0628) / 惣間 遼秋(ic0706) / 色澤 叶(ic0708) / 庵治 秀影(ic0738


■リプレイ本文


 早朝、まだすこし肌寒い時間に、街の和菓子屋の調理場を借りる小さな開拓者が1人。
「よし、これでこっちは完成ね。しらさぎ、できた方から運んでくれる?」
「うん、きをつけてはこぶね」
 にっこり笑ってカラクリのしらさぎに礼野 真夢紀(ia1144)はお手伝いを頼む。
 どうやら真夢紀は手を尽くした料理を自らつくって振る舞う予定のようだ。
 からくりのしらさぎが運んでいるのは桜の花びら型のクッキーだ。
 それだけではない。三色団子に桜餅、さらには桜色の葛餅まであるようだ。
 氷霊結できっちり冷やされて、保存中のお菓子の山。
 これには厨房を貸してくれた芳野の職人さんも感心しているようで。
「いやぁ、これだけの腕がありゃ、明日にでも店に入って貰いたいんだがねぇ」
「しらさぎも、はたらく?」
 思わず呟いた職人さんに、しらさぎがかっくり首を傾げて問いかけたり。
 そして、そろそろ芳野が賑やかになってきた。人々が甘味の宴に繰り出してくる時間のようだ。
「これで、おわり?」
「うん、ここで作る分は終わり……設備を貸していただいてありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げる真夢紀、彼女はにこにこしているしらさぎを伴って店を離れて会場入りしつつ。
「……あとはホットケーキね。作り置きすると美味しくないから、その場で作ろうと思って」
「しらさぎも、おてつだいするね」
 小さなお姉さんと、大きな妹はにっこりと微笑みを交わし、開場へと向かうだった。

「ああ、お父様、お母様。意志の弱い私をお許しください……」
 自分に厳しい騎士のレヴェリー・ルナクロス(ia9985)は死別した両親に思わず謝罪する。
「でも……駄目なんです。此れだけは、如何にしても駄目なのです!」
「そうねー。こんな良い香りがしたら我慢出来ませんよね〜」
 レヴェリーに、うんうんと同意する猫宮 京香(ib0927)。そんな京香の手をはしっと取るレヴェリー。
「……行きましょう、京香。至福の時間が、私達を待っているわ!」
「あはは〜、誘って貰ってありがとうですよ〜。甘いもの食べ歩きもいいものですね〜」
 そして2人は宴の会場へと踏み込んだ。
 まずは、ずらりと並ぶ芳野の和菓子屋さんの逸品からだ。
 春の季節を感じる饅頭に団子、桜餡入りの最中や桜を模した練り切り等々。
「〜〜〜〜!! 危険よ、此処は危険だわ! ……で、でも逆らえないのぉ♪」
 味見して、くねくねと悩ましげに身悶えするレヴェリー、彼女の手にはすでに山盛りのお菓子が。
 そんな親友をくすくすと笑いながら見守る京香、彼女もレヴェリーと並んでお菓子を片っ端から試食して。
「ん〜、どれもこれも美味しいですね〜。レヴェリーさん、あれ美味しそうですよ〜」
「え、どれどれ? 桜の葛餅? あっちのういろう包み?」
 そんなこと良いながら開場をうろうろする2人。
「……ん〜! これはお勧めですよ〜。はい、あーんで食べさせてあげましょう〜」
「あ、あーん……お、美味しいわ! ジルベリア風の苺のムースを使った和菓子なのね!」
 普段なら照れて拒否するレヴェリーだが、今日ばかりは事情が違うようでなすがままだ。
 一つ食べる度に陶然と身を揉んで、うっとり吐息をつくレヴェリーに、道行く男性陣がちょっとどきどき。
 そんなレヴェリーに京香は次から次へとお菓子を食べさせてあげて、2人の様子にますますどきどき。
「……あぁ、ちょっと小休止しましょう。礼野さんの屋台から桜茶を貰ってきたわ」
「こうして外で飲むお茶も美味しいですね〜」
 そんな風にほっこりする2人。さすがにあれだけ食べたらなぁと周りのお客は思うのだが、
「さ、一休みしたら続きですね〜。やっぱり全種類制覇したい所ですね〜、せっかくですし〜」
「そうね、どれも食べ逃したくないわね! こうして競い合うことでどれもすごくレベルが高いんだもの!」
「どれもこれも美味しいですし、食べ逃すのは勿体ないですよね〜」
「ええ、その通りよ! じゃあ次は礼野さんの屋台でホットケーキなんてどうかしら?」
 レヴェリーの提案に、にっこり賛成の京香。
 全種制覇を成し遂げてしまいそうな2人に、周りの客はさすが開拓者だと妙な感心するのだった。


 興味深そうに和菓子を眺めるイリア・サヴィン(ib0130)。
 彼は恋人のリスティア・バルテス(ib0242)に、
「天儀の菓子は造形も凝ってて見るだけでも楽しいな。ティアは甘いものは好きなのか?」
 と尋ねてみると、
「うん、私、甘味は大好きなの! 嫌いな女の子はいないと思うわよ?」
 と言われて、それもそうかと苦笑してみたり。
 ぎこちなさが残っているのは、2人がつきあい始めてからそんなに経っていないからだろうか。
 そんな2人は和菓子を味見をしたり、飾りや細工に目を奪われたり。
「……あれ?」
 イリアははっと気付いた。先程まで隣にいた筈のリスティアが居ない。
 ちょっとした拍子にはぐれてしまったようだ。……一方同じ頃、はぐれたリスティアは、
「あちゃー……やっちゃったー」
 浮かれすぎだったかしらとちょっと反省しつつ周囲を見回していた。
「……仕方ないわ。気付いたら探しに来てくれるだろうし、ちょっと待っていましょうか」
 すれ違うよりは、とリスティアは木陰の長椅子にちょこんと腰を下ろして一休み。
 彼女は往来を行く沢山の人々をぼんやりと眺めてみた。
 するとその中に金の髪を見かければ、思わず目で追ってしまって。
 意識せずに、イリアの姿を捜している自分にがおかしくて、くすりと微笑むリスティア。
 そして彼女はその暖かい気持ちを楽の音と歌に乗せるのだった。
「ティアが喜びそうだな……」
 一方、人混みの中で彼女を捜していたイリアは、可愛らしいお菓子を見付けて思わず足を止めた。
 どんなときも小さなきっかけで彼女の事を考えてしまう。
 そんな自分に苦笑すると、そこに歌が聞こえた。
 それは、愛しい人を待つ時間も楽しいものだ、といった心情を込めた可愛らしい恋の歌。
 そんな歌声を辿ってみれば、そこにはリスティアが。
 彼女の歌には道行く女性達も共感したようで、楽しそうに耳を傾けていて。
 そこに、やっとイリアがやってくれば、ぱっと顔を明るく輝かせて、歌を終えるリスティア。
 イリアに駆け寄る彼女。歌に聴き惚れていた客たちもその様子に納得したようで。
 2人は、今度こそはぐれないようにと手を繋いで歩き出すのだった。

「漸く羽を伸ばすことができるのぅ」
 東鬼 護刃(ib3264)は春の陽気の中、隣を見下ろして言えば、
「そうですね。ここでしか味わえない新作とか、限定品があるといいんですけど」
 にっこりと笑いながら見上げたのは最愛の相手、言ノ葉 薺(ib3225)だ。
 ぶらぶらと、お菓子を手に取りながら往来を行く二人。
「ふむ、どれも目にもしたにも楽しいものばかりだな……ほれ、薺、あー……ん、とな」
 護刃はくすりと笑って、手にした可愛い寒天寄せを一口食べさせてみて。
 それをもぐもぐと食べる薺。どうやら小食の薺はどのお菓子も半分こにして分け合っているようだ。
「甘味に珍味、美味しいというよりも、面白いものもありますね」
 食べ歩きを続けた二人は、その後喧噪から抜け出すことにした。
「さて、腹も膨れたところでちと休むかの?」
 そんな護刃の言葉に、遠くの山野に視線を向ければ春の緑と山桜がとても綺麗だった。
 そこで二人は芳野から暫く歩いて、六色の谷と呼ばれる景勝地を見下ろす良い場所にやってきて。
「遠くある山桜もまた美しきものじゃ。移り変わる時の中でも変わらずそこにある……」
 そんな護刃の言葉をじっと聞いた薺。彼は静かに目を細めて笑みを浮べると
「山桜も綺麗ですし、逆に花より団子という言葉がありますが、私はそのどちらよりも―――」
 そういって彼は懐から守護刀を取り出した。それは隣の恋人と同じ名を持つ守刀「護刃」だ。
 名の通り、護刃がその意匠を発案したという守刀。それに薺は口づけを落とせば
「……ふふっ、わしの胸にも隣にも、常に花は咲いているというわけじゃな」
 我が身に口づけされたかのように嬉しそうに微笑んだ護刃。
 彼女は最愛の人の膝にころりと頭を預けて、優しく微笑みながら暫く午睡にまどろむのだった。


 甘味の宴の会場には、他とはちょっと違う一角が幾つがあるようだ。
 その一つは、ちょっとした賑わいの空隙にひっそりとある茶席であった。
「甘味ばかりでは舌が鈍るのでは無いかな? 一休みして、口直しにお茶でも如何?」
 丁度大きな木が陰を落とす場所。自然の結界のようにぽつんと出来た空間。
 そこにからす(ia6525)は茶席を設けていたのだ。
 ちらちらと木漏れ日が照らす中、花柄の茣蓙で出来た野点の席には桜ひと枝が目印代わり。
 甘味の食べ過ぎや、祭の活気で疲れた丁度そのときに、ぽつりと見つかるそんな場所だった。
「甘味は口に残りやすいからね、苦みでスッキリしていくのもいいだろうし」
 抹茶に桜茶、桜の花湯と口直しがずらり。
「一息入れたいのなら、こちらのほうはいかがかな」
 さらに、花濁酒や花彫酒、秘蔵の「桜花」までもが勢揃いして煌めいていて。
「花紅庵の桜姫やクッキー、押し寿司もある……さあ、味わって飲むのだ」
 そう言いながら一席設けるからす。その茶席は、甘いお祭りに一息入れる憩いの場になるのだった。

 世には両刀遣いという者たちもいる。甘い物も好きだけど、お酒も好きという彼ら。
 こんな陽気に、美味しいお菓子に加えて、酒をたらふく飲めば、昼日中から千鳥足で。
 なかには、迷惑な輩もいたりする。
「おうおう! ちんたらお茶なんて飲んでないで、酒だ酒……ぐぇ!」
 そんな酔漢たちをあっというまに取り押さえたのは、
「……これ以上迷惑をかけるならば、この特製薬草茶をお見舞いするぞ?」
 激烈に苦そうなお茶を手に、にこりと笑う茶席の主、からすと。
「宴の席で、無粋を働きなさるのは、美しうありんせん。お控えなんし?」
 茶席の一角で、お茶を点てていた美貌の花魁、華角 牡丹(ib8144)であった。
 牡丹は一息入れた菓子職人たちに、お茶を振る舞っているところだったようだ。
 お茶には砂糖漬けの桜が一片。茶菓子にも映える粋な抹茶の一工夫と行った所だろう。
 だが、さすがにのんびりした茶の席も、無粋な酔っ払いの乱入に浮き足だったようで。
 それを華角は、茶杓を使ってぴしりとねじ伏せ、からすはからすで薬草茶で静かにさせた。
 しかし、荒事は荒事。祭の空気に水を差したと思ったのだろうか、牡丹はふと何事かを思い立って、
「からすさん、なんぞ楽器は弾けんすか?」
「ふむ……素人芸で良ければ、横笛を持っているよ」
 そしてからすは早春という横笛を奏で、それに合せて牡丹が舞を一差し踊り始めたのだった。
 荒事で、浮き足立った祭の空気にふわりと優しい笛の音が響く。
 それに合せて、さすがの花魁。ゆるゆると、本当ならば千金を詰まなければ見られない踊りを披露。
 ざわざわした空気はあっというまに消えて、やんやと喝采が巻き起こった。

「だったら、俺も飛び入りでお仕事させてもらいますかぁ」
 そこにぴょんと飛び込んできたのは、アル=カマルのジプシー、ジャミール・ライル(ic0451)だ。
 ゆるやかに舞い踊る花魁の牡丹を真似て、春めいた衣装の踊り子が踊りに加わったのである。
 最初は、牡丹が踊る天儀の舞をなぞって、鏡写しのように踊ってみるジャミール。
 さすがは本職の踊り手2人、相手の呼吸と動きを読んで、迷うこと無く踊りを続ける。
 何時しか、からすの笛に合わせるように楽の音も増えていた。
 どうやら、賑わいを見て芸達者たちも次々に加勢したのだろう。
 そんなわけで、舞を見守る客たちも大いに賑わって。
 値千金の舞を披露する牡丹に、男たちは声も無く魅了されて。
 そして、ジャミールが踊りながら茶目っ気たっぷりに、ウィンクを飛ばせば女性達の黄色い声が飛んだ。
 こうして祭は元の賑わいを取り戻すどころか、ますます盛り上がっていくのだった。
 そして踊りが終わった後は、
「んー、やっぱ働いた後は甘いもん、だよねぇ」
「甘味ばかりではなく、花も良いものでありんす。盛りは過ぎれど、散る桜もまた美し」
 ジャミールは甘い物でも一緒にどう、と牡丹に誘いかけた。
「花もいいけど、美味しい物とかあった? 良ければ俺と探しに行かない?」
「折角のお誘いでありんす、ならばわっちもお供させて頂きんしょう」
 そんな提案に、くつくつと笑いながら頷く牡丹。
 同じ踊り手としての共感がそうさせてのだろうか、2人は連れ立って祭見物に出かけるのだった。

「あんさん、これもおあがりなんし。あんさんの故郷のお菓子ではありんせん?」
「へぇ、こんなのまであるんだ。珍しいねぇ」
 目立つ踊り手二人連れの牡丹とジャミール。
 目についた珍しいお菓子なんかをつまみつつ進んでいると、なんだか妙に目立つ一団がそこにいた。
「二人は何が食べたい?」
 鷹揚にかまえて同行者に問いかけるのは紫ノ宮 蓮(ic0470)だ。
 そして彼の言葉に応えたのは、
「ボク、食べたい甘味が沢山あるんです!」
「蓮兄様、莉音はあれが食べたいです」
 オリヴィエ・フェイユ(ib9978)と紫ノ宮 莉音(ib9055)だ。
「じゃあ、まずコレを頂きます! さっきからこの香りが気になってたんですよ」
「それ、僕も一口欲しいな〜♪」
「いいですよ、で莉音くんは何を食べてるんですか? ……苺プリンですか? わぁ、それ一口下さい!」
 わいわいとオリヴィエと莉音はお互いに自分のゲットした獲物を味見し合ったり。
 ちなみに、可愛らしい容姿のこの二人。仲良くこうしていると仲の良い女の子同士のようだが……。
 蓮を含めて、全員歴とした男である。
 そんな光景を見付けて、通りかかったジャミールはクスクス笑って。
「あれ、お二人さんも来てたんだ。相変わらず仲良しさんだねぇ」
「ん? なんだ君も来てたのか……でそちらは?」
 蓮は旧知のジャミールを見かけて、ふとその横の美人さんが気になったようだ。
「わっちは、牡丹でありんす。華角楼の花魁でありんすが、今日はふとした縁でご一緒しているでありんすよ」
 優しく微笑む牡丹の美貌に、蓮は思わず感嘆する。
 そして二言三言と挨拶をした二組はまた別々に分かれて祭の雑踏の中を歩き出すのだった。
「このプリンも美味しいですね。そういえば、ジルベリアのジェレゾに新しくケーキの店が……」
「そうなんだ。ジルベリアにもまた行きたいですね」
 わいわいと甘味話に花を咲かせつつ先を行くオリヴィエと莉音。
 そんな二人の後ろを歩きながら、先程のジャミールと牡丹の事を考えていた蓮はふと知人を見かけた。
 即座に声をかける蓮。
「視線を奪われると思ったら……梓ちゃんじゃないか。良ければ宴を一緒にまわらない? 二人きりで」
「二人っきり? 何言ってるの嫌よ」
 そしてばっさりと蓮は鶫 梓(ic0379)に振られた。
 ここで漸く先頭の二人は、後ろで蓮がナンパして、さらに速攻で振られたのに気付いたようだ。
「蓮兄様ったら! またナンパですか?」
「ふふ、ちょっとした挨拶さ」
 だが、とうの梓はというと、蓮をさっくりと無視しつつ、近寄っていくのはその弟の莉音の方だ。
「やっぱり莉音君可愛いわね、二人だけで回らない?」
 こっちはこっちでナンパであった。急に言われて目を白黒させる莉音だったが。
「えっと、それじゃあ二人っきりじゃありませんけど、梓様もご一緒しましょう♪」
「そうだな、梓ちゃんの酒は俺が酌をしよう。それぐらい良かろ?」
「お酒? それならいいわよ。二人で飲みましょうか」
 というわけで、彼らはまとまって一席を設けることにしたようだ。
 莉音にご執着の梓、
「ほらほら、莉音君、これ食べる? さっきそこで貰ったんだけど美味しいわよ。ホットケーキですって」
 そんな梓につれなくされつつ、めげない蓮。
「皆その菓子の様に、俺に甘くなっても良いのだよ……?」
「ほらほら、そんなこと言ってないでお酒をついで頂戴」
 と、あしらわれつつもまんざらでは無い様子だ。
 そして、彼らと同行していたオリヴィエは、新たに幼馴染と合流していた。
「……美味しい? ……なら、良かった」
 オリヴィエの口の周りを吹いてあげるのは、イヴ・V・ディートリヒ(ic0579)だ。
 彼女は無口ながらも甲斐甲斐しく世話を焼いていて、そんなイヴをオリヴィエも気にかけているようだ。
「イヴ、此れとっても美味しいですよ。お土産に持ち帰りたいくらいです」
 はいと、食べていたムースをお裾分けするオリヴィエ。イヴはそれを一口ゆっくりと食べて。
「……これなら、僕にも作れる。帰ったら、作るよ」
「イヴはお料理上手ですもんね。ふふ、楽しみにしてます」
 二人はのんびりと賑やかな仲間たちと一緒に、甘味話に花を咲かせるのだった。
 そして、梓と兄の蓮に挟まれている莉音の所にももう一人、新たなお仲間が。
 いや、正確には一人と一匹、友人がやってきていた。
「桜の見頃は終わったけど、甘味の祭はやっぱりまた華やぐわね」
 そんな主、音野寄 朔(ib9892)の言葉にわんと吼えて応える忍犬の和だ。
 和は莉音がお気に入りのようで、たったか駆けてきては莉音の膝元にぴったりと寄り添って。
「なんて可愛らしいのかしら! それにお利口さん」
「ふふふ、褒めてくれてありがとうね。お手も出来るの……いつも間違うのだけどね」
 和を褒められてニコニコと微笑む朔。彼女がお手と言えば、なぜだか和はころんと転がってお腹を見せたり。
「あら、やっぱり間違ってるわね。何故覚えないのかしら?」
 そんな様子に、酒を飲み交わしている梓や蓮も笑いつつ、莉音はわんこの魅力にめろめろのようで。
 莉音を挟んでわいわいと盛り上がる蓮と梓に忍犬の和、そして朔が加わって一座はますます賑やかに。
 そんな喧噪の中で、幸せそうにお菓子をほおばるオリヴィエ、その頭をイヴが優しく撫でるのだった。


 食べるだけが祭の盛り上がりではない。
「ゴンは大食いだかんな、味もだが、量が重要だぜ……」
 ふらふらと屋台を見回るツェルカ イニシェ(ib9511)。
 彼女はどうやら友人のために土産を捜しているようだ。
 そこにふらりと通りかかったのは、大盛り上がり中の蓮だ。
 飲み物とお菓子が切れたので買い出しに来たようで、彼はツェルカを見付けると、
「甘い香纏って何処へ? ご一緒したいね〜」
 と声をかけたのだが、
「そいつぁ嬉しいがツレがいるんでね」
 あっさりと撃沈。
「何処に行ったのかと思ったら、また蓮兄様ったら!」
 そこに弟の莉音がやってきて、蓮はあっさりと連行されていったり。
 それを見送って、ツェルカは再度お土産探しに戻って。
 見付けたのは、ジルベリア風のゼリー菓子を扱っている屋台だ。一つ味見をしてみれば、
「ん! すっげぇうめーな! ハッハ! 来て良かったぜ!」
「おお、この味が分かるのか! で、幾つぐらい必要だ?」
「そうだなー、アイツは大食らいだかんな、とりあえず在るだけ全部くれ!」
 そういって、吃驚する店主から、山のように美味しいお菓子を買い込むツェルカであった。

 そして、彼女はそのお菓子の山を抱えて、在る場所に向かった。
 向かう先は開場の外れ。そこにはなかなか奇っ怪な屋台があった。
 屋台の前には『超絶シノビ飴』と書かれた巨大な旗。そして、法被を着たデカイ忍者が屋台をやっていた。
「これだけ賑わっていると、拙者の腕も腹も鳴るでござるよぅ」
 屋台を切り盛りしているのは金剛寺 亞厳(ib9464)だ。
 可愛らしくデフォルメされているが、売っている飴はなぜだか彼の顔を模した棒付き飴。
 奇っ怪である。だが、そこそこ子供には受けているようで、ちびっ子が時折買いに来る。
 さらに、簡単な細工物なら希望を聞いて作ってくれるようだ。
「おじちゃん、馬つくっておくれ!」
「ふむ、拙者はまだお兄さんだが、馬でござるか……こうしてこうして、出来上がりでござる!」
「……おじ、お兄ちゃん……なんでこの馬、眉毛がついてるの?」
 と、どんな動物でも凛々しい眉毛が追加されているのはご愛敬、強い精神の表れだとからしい。
 そして、妙に繁盛している飴細工屋を切り盛りしている彼の所に、やっとツェルカがやってきた。
「ほらよ、お土産だ。旨かったのを沢山もってきたぞ。これなんか歯ごたえが秀逸だ」
「おお、ルカ殿! 拙者の飴もとっても美味しいでござるよ!」
「なら俺にも作ってくれよ」
 ツェルカはそういってお土産を手渡して、まつことしばし。
 彼女を模した飴細工が完成したのだった。もちろん、凛々しいごんぶと眉毛付きだ。
 それをみたツェルカは大いに爆笑したとか。
 酒飲み友達の二人にとって、この珍妙な飴細工はしばらくの間は酒の肴の話題になりそうであった。

「ちっかちゃーん! 美味しそうなの見繕ってきたよー!」
「随分持って来たな。食い切れるのか?」
 甘い物食い倒れのつもりで、両手に山と甘味を抱える法琳寺 定恵(ib9995)。
 それを見て、大丈夫かといぶかしむのは神定・千景(ib7866)。
 二人の男は、全く違う性格ながら、中々に仲の良い友人同士のようだ。
「いやー、これなんて天儀じゃ見たことも無いお菓子で、ジルベリアのものなんだってさ」
「ふむ」
「ムースとか、冷やして提供するお菓子とかも結構あって、わざわざ冷たいのをもってきたんだよ」
「ほう」
「もちろん天儀のお菓子もあるよ。やっぱり職人が多いと腕を競うのかな? どれも綺麗だねぇ」
「……楽しそうだな、お前」
 なんだか仲が良いんだかよく分からない二人だが、とりあえず千景もお菓子を幾つか選んでかじってみる。
 甘いのから不思議な味まで、香辛料の利いた異国の甘味や不思議な歯ごたえのものまで目白押しだ。
 洋菓子はどうやらあまり得意では無い千景は、自分の好みのモノを選びつつつまんでいると、
「……くわせろ?」
「うん、ほら両手がふさがっててね」
 からからと笑いながら言う定恵。そんな相棒に、やれやれと千景は肩をすくめつつ、
「仕方ないな、ほら口を開けろ、それぐらいはしてやる……」
 ぶっきらぼうながら意外と世話を焼いてくれる千景であった。
 そして、何度も屋台と席を往復する定恵。だが、どうやら観察していて千景の好みを把握したらしい彼。
 いつの間にか持ってくる甘味は、どれも千景の好みにあうものばかりになっていた。
「……すまんな、ありがとう」
 無骨に礼を言う千景に、定恵は彼の頭をわしわし撫でて、
「相変わらず鈍いねー、ちかちゃんは。気付くの遅すぎ!」
「鈍いつもりはない、が?」
 憮然としつつも、頭を撫でるのに任せる千景だった。


「皆さん、五行での合戦はお疲れ様でしたっ!」
 笠から下げたてるてるぼうずを揺らしながら、仲間を見回す燕 一華(ib0718
「今回の戦いも色々あったけど、またこうして遊べるようになって、本当に良かった……」
 ほわっと笑うラビ(ib9134)。そして
「合戦はお疲れさんじゃなっ。慰労に打ち上げ兼ねて、大いに祭りを楽しもうぞ!」
 そう声を上げる音羽屋 烏水(ib9423)。
 3人は、最近名を聞くようになってきた開拓衆『飛燕』の面々であった。
 彼ら3人、上げた功績は数知れない優秀な開拓者だが、まだまだ年端もいかぬ少年たちだ。
 そんな彼らの前に、今はこれでもかとお菓子が詰まれていた。
 芸を良く行う彼ら、この芳野でも何度か芸を奏でる機会があったのだろう。 
 それ故に、彼らを知る町の人や屋台から、次々にお菓子を貰った結果がこの山だった。
「これだけあれば、今日来れなかった人のお土産も十分そうですねっ!」
「うむ、ジルベリアやアル=カマルの甘味もあるようじゃ! 詳しい話も聞きたい所じゃな!」
 ラビの言葉に応える烏水、思わずべべんと三味線をかき鳴らしつつ、
「あとで野点をしているところにも行ってみましょうか! お茶請けのお菓子もあるみたいですしねっ」
 一華はそういって。そして3人はとりあえず目の前の山を倒しにかかるのだった。
「わぁ〜、ケーキだ! 天儀に来てからジルベリアのお菓子がこんなにいっぱいあるの、初めて見た!」
「こりゃわしの創意工夫も湧くというものじゃな! けーきの唄、とか作るのもいいかもしれんのう」
「また今度、小隊の皆で集まって演奏演舞をしたいですねっ」
 そういって盛り上がる3人。何時しか、盛り上がりは音楽になって、結局は3人でも演奏会と相成って。
 演舞に音楽、そして甘味と周囲のお客も巻き込んで、飛燕たちは大いに場を盛り上げるのであった。

 そんな賑わいを遠くに聞きながら。
「いやぁ、賑わってるねぇ……」
 のんびりと、祭の賑わいの中を歩く男が1人。
 庵治 秀影(ic0738)は若い開拓者達が盛り上がっているのを眩しげに見つめていた。
 彼の胸に去来するのは寂しさか、それともまだ燻る野心なのか……、とそんな彼の足下になにか違和感が。
「ん? ……どうしたお嬢ちゃん」
 そこには、迷子らしい少女の姿があった。
 べそべそと泣きながら、やっとしっかりと秀影の足を掴む少女。
「迷子か、仕方ねぇな……あー、親御さんはどこだい?」
「う、うぁぁあああ、おがぁざぁぁん〜〜!」
「とぁっ、な、泣くんじゃないっ、俺が泣かしてるなんて思われたらどうする……」
 飄々と渋い秀影だが、こういう子供の相手は苦手なようだ。どうしたものかと首を捻っていると、
「……幼子を泣かすとは感心しないな」
「あー、完全に疑われてるじゃないか。いやいや、俺が泣かしたわけじゃない」
 ずいと現れたのは紫ノ眼 恋(ic0281)だった。
 品定めをするような視線で、ぎろりと秀影を射貫く恋。
「こんなお嬢ちゃんを泣かしたりはしないさ、どうせ泣かすならもっと大人の、あんたみたいな……」
「……然も飽き足らず貴様、この狼を泣かすと今言ったか。やれるものならやって……」
 場を軽くしようとした秀影の軽口はどうやら逆効果だったようだ。ますます泣き出す少女。
 それを見た2人は一時休戦と言うことで。
「……ってしまった、益々怖がらせたか。よしよし、君、饅頭をやるから元気だしな」」
 とりあえず少女は、恋が両手に抱えていた饅頭を一つ貰ってやっと泣き止んだ。
 そこで2人はこの迷子の親を捜すために歩き出すのだった。
「俺ぁ庵治秀影、警護をやってて迷子の保護をしてた所だ。怪しいもんじゃぁないぜ」
「……疑ってすまなかったな。あたしは紫ノ眼恋と申す。迷子だったか……」
「それはいいさ。でも、さすがだな。泣き止んじまったし、饅頭は偉大、いやぁ、恋君が居て助かったなぁ」
 と少女を挟んでうろうろしていればすぐにはぐれた両親と再会できたようで。
 無事、迷子は親元に帰るのだった。これで一安心と思われたのだが、周囲をきょろきょろする恋。
「……ところで此処、どこだっただろうか」
「………んん? 恋君も迷子か? 迷子が片付いたと思ったら、また新しい迷子を発見だな」
「い、いやちょっと待て。断じて違う。狼は迷子にはならぬ、ならぬので!」
 助けを求める目をしてしまった恋、慌てて否定するのだが、
「くくくっ、それじゃ団子でも食いながら行こうじゃねぇか。ほら、腹が減ると不安になるからな」
 そんな恋をからからと笑い飛ばす秀影であった。

 ふらりふらりと屋台の間を歩きながら、気軽に一つ二つお菓子を貰っては、口に放り込む。
 そして、酒でそれを流し込みつつ、祭の空気を楽しむのは色澤 叶(ic0708)だ。
「叶さん。招待客だからといって呑み過ぎては駄目ですよ」
「ふ、可愛いねえ。遼秋も呑むかい?」
 そんな叶の後ろを、人混みに揉まれてあわあわと難儀しながらついてくるのは惣間 遼秋(ic0706)。
 2人は、道行く開拓者や、同じ招待客に挨拶を交わしながら、ゆったりと祭を楽しんでいた。
 叶はいかにも世慣れした風だが、一方の遼秋はまだまだ硬さが残るようで。
 だが、遊びなれた先輩を追いかける遼秋はふと小さな屋台の前で足を止める。
 目についたのは繊細な飴細工だ。先程、同じ開拓者のシノビ、金剛寺がやっている屋台も見たが、
「綺麗な飴細工ですね」
 思わずそう告げてしまうほどに、繊細な細工であった。
 金剛寺の飴細工が、楽しさ溢れる豪快な逸品であれば、こちらは精緻な芸術品のよう。
 それを買い求めた遼秋、だがそこでやっと彼は叶とはぐれてしまったことに気が付いたのだった。
 一方そのころ、叶も遼秋とはぐれたことに気が付いたのだが、
「ま、待ってりゃ来るだろう……しかし、菓子が主役なんざ、こんな花見もあるんだねえ」
 そういって、会場の外れにある散りかけの桜の下にあぐらをかいて、酒を呷る叶。
 そこに暫くしてやっと遼秋がやってきた。
「捜しましたよ、叶さん」
「で、はぐれたのはそれが理由なのかい?」
 くつくつと笑いながら問いかける叶。遼秋の手には、買い求めた綺麗な飴細工があった。
「そんなのが好きだとは意外に繊細なんだねえ」
 笑いながらそういう叶に、困ったように笑いながら手にした飴を眺める遼秋であった。


 そして祭の日は続く。日は落ちかけてもまだまだ宴の熱気は冷めやらず、
 甘味の山も数を減らすこと無くお客に答え続けていた。
「あ、あれも美味しそう! ジルベリアのケーキとか素敵すぎない!」
 保護者としてがんばれたのは最初の数十分だけ、今はもう仲間ともに大騒ぎしているのは火麗(ic0614)。
「生クリームたっぷりのケーキが食べられるとは! 是非賞味してみたいのである♪」
 ほわわんと、ケーキをうっとり眺めるのは兎隹(ic0617)。
「ケーキは美味しそうだけど、見た目も素敵だよね! 新しいアクセサリーのモチーフになるといいんだけど」
 見事な飾りのケーキを前に、目を輝かせているのは紫上 真琴(ic0628)。
 そして、
「なんて素敵な宴……ここが天国か!」
 思いの全てを言葉に込めて、心底幸せそうなのが遊空 エミナ(ic0610)だ。
 この4人、朝からずうっとこんな調子で、端から端までお菓子を食べ歩いているようだ。
 といっても、小さな試食を4人で分け合って、とりあえず沢山種類を制覇するのが目的らしい。
 しかし、そこでやっと兎隹は気付いた。
「……しかし、我らはすでにかなりの量食べているのであるな。このままではぷにぷにしてしまう危機……」
 この言葉は、お年頃の女性達に電撃のように響く! だが、眼前にはまだまだ甘味が……
 そこで彼女たちは覚悟を決めることにしたようだ。
「大丈夫、私は全部の甘味を愛してみせる」
 恐れず、ケーキを新たに一口ぱくりとエミナが口にする。
「美味しく食べてありがとうとごちそうさまを言うのが私の今日の使命だから!」
「そうそう、分け合って食べてるから大丈夫だよ! こういうときはいろんなお菓子を楽しまなくちゃ!」
 賛同する真琴。彼女は、ぷにぷに発言をした兎隹の頬をぷにぷにと挟んで。
「でも、たしかに兎隹のほっぺってお菓子を連想しちゃうね。ぷにぷにして可愛い」
「はうっ、もう我輩ぷにぷにであるかっ!?」
「あはは、大丈夫だよ! それに体重は帰ってから何とかする、今は気にせずにどんどん食べよう!」
 そう覚悟を決める3人を見て、保護者としての立場をはっと思いだした火麗。
 ケーキを突いていたフォークを置いて、こほんと咳払いをして。
「そうだぞ。食べ過ぎなければ大丈夫さ」
「……火麗さん、お口にクリームついてるよ?」
「うむ、火麗姉、鼻の頭にもついておるぞ」
 エミナと兎隹に指摘されて、真っ赤になる姉貴分の火麗。
 ともかく、4人は一時ひるんだものの、覚悟を決めて再度お菓子の山に立ち向かうのだった。

 そして、この祭でももっとも賑やかな一団と彼女たちはすれ違った。
 会場の端に、小さな野点を開いている六条 雪巳(ia0179)。
「今日だけで、いろいろなお菓子に巡り会えました。甘い物は心を豊かにしてくれる気が致します」
 と、お茶を振る舞いつつ一息つく雪巳。
 彼は、野点の席でさきほどから長居している稲杜・空狐(ib9736)に近寄ると声をかけた。
「ここが気に入りましたか? ゆっくりしていって構いませんよ」
「ぽかぽかなのですー……クーコなのですよー」
 そういって、にぱっと笑う狐面の少女。
 そんな2人の所に、賑やかな一団がやってきた。
 事の始まりは少し前だ。苦労人の玖雀(ib6816)は、朝から襲撃されていた。
「来て早々……これかよ」
 彼の頭の上には、プレシア・ベルティーニ(ib3541)。朝からダッシュで頭によじ登ったらしい。
 そして今日は彼女の妹の雲雀丘 瑠璃(ib9809)も追加されていた。
 ちなみに瑠璃も引っ張り上げられ玖雀の肩の上、最初は緊張していたが今はなれたようで。
「さすがに目立つから降りたほうが……」
(もきゅもきゅ)(もきゅもきゅ)
「……このままがいいのか?」
(もきゅもきゅ)「お、お姉ちゃん?! そんなに沢山食べれるの?!」
(もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ)「ふに、大丈夫」(もきゅもきゅもきゅもきゅ)
 降りる気のない2人だった。
 そんな3人。てくてくと進めば顔見知りに遭遇。
「あー……なんだか賑やかだな。食べる?」
 鯛焼きと林檎飴の二刀流な豊嶋 茴香(ib9931)は、玖雀の惨状を見て鯛焼きを指しだしてみた。
「うお、有難うな」
 そして一行は4人に増えたのだが、さらに新手が。
「お〜、くじゃく〜、おなかすいた〜」
 ふらふらと手当たり次第食べていた野生児な少年は麗空(ic0129)。玖雀を見付けてダッシュで接近。
「……クジャク、見つけた……背中、見せ、て」
 ふらりと現れたのは保護者とはぐれた結咲(ic0181)だ。
「あああ、麗空、それ売り物じゃ無いやつだろ、なにやってるんだ! って結咲、いつのまに?」
 慌てて野生児の麗空を止める玖雀、プレシアと瑠璃を乗っけたまま、右往左往。
 その玖雀の背中をめくろうとする結咲。玖雀が羽を隠してると疑う彼女は毎回確かめようとするとか。
「だあああ、いい加減に諦めろ! 羽なんかねえよっ。茴香、ちょっと手伝って……」
 助けを求める玖雀だが、大騒ぎになっている彼らを茴香は他人の振りで。
「……鯛焼きは尻尾の方が好き♪」
 だがそこに救世主がやってきた。
「やっと見付けたぞ、ガキ共がっ!」
 ごつんごつんと拳骨二つ。麗空と結咲をがっちり捕まえたのは保護者の理心(ic0180)だった。
 こうして、ますます拡大した一団は、とりあえず一休みするために、雪巳の野点に向かうのだが。
「あら? カルミア、いつもと服が違うのね。それもとても似合ってると思うわ♪」
「ありがとう……天儀の祭は初めて来たけど、随分と賑やかなんだな」
 彼らの前を行く2人の女性。カルミア・アーク(ic0178)と紅 竜姫(ic0261)。
 竜姫を見付けたのは、結咲だった。
「ロン、ちゃん、見つけた……会えて、嬉しい、な」
「うん? 誰かと思えば結咲。……それに玖雀たちも。へばってるのか?」
 子供に塗れている玖雀を見て、竜姫はからかい、カルミアは
「ははっ、玖雀は男だけじゃなくて子供にも好かれるんだな」
 と笑って、合流。そして最後にもう一人。
「はぅ! それ、10個欲しいのです!」
 両手に山のようなお菓子を持ったネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)。
 彼を疲労困憊の玖雀は見付けて、とててーと奔り寄ってきた。
「はうっ! 玖雀さんなのですー! ……プレシアさんも発見なのですー!」
 だが、ネプの見ているのは二人では無かった。もきゅもきゅとプレシアが囓るお菓子の一つを見つめて、
「……そのおいしそうなの、どこにあったのです?!」
 そんなネプの頭を玖雀は器用にくしゃっと撫でると、
「あー……幾つか買い込んできてるから、一緒に行こう。皆で食べるぞ」
 そういって、増えに増えた大所帯は、雪巳の野点までやってくるのだった。

「……雪巳……俺にも茶を……と、ありがとう」
「はい、そうだと思って用意しておきました。……子守、お疲れ様です」
 玖雀を小声で労う雪巳。彼は、プレシアと瑠璃を下ろしてぱったり倒れ込んだ玖雀にお茶が手渡した。
 勢揃いする仲間たち。プレシアと瑠璃は、雪巳の出す抹茶を飲んで、目を白黒させていたり。
「初めましてなのです。くーこは空狐というのです。玖雀がいつもお世話になっているのですー」
 待ち構えて居た空狐は、疲労困憊の様子の玖雀を見て、甘えながらも初対面の仲間に挨拶をして。
「これなら、お前も食えるだろう」
「林檎、……飴。甘いの、好き。理心、あり、がとう」
 賑やかなのは苦手だと、席を離れる理心の背に、結咲は小さくお礼を言って。
 そして、野点の作法には、
「作法とかよく分からないのよね、カルミア、分かる?」
「いや、さっぱり分からないんだが……なんと言うか、慣れない事はするもんじゃないな、うん」
「うん、まあ見よう見まねでいいんじゃないかな?」
 首を捻る竜姫にカルミア、そして茴香。
 いつしか野点は酒の入った宴会に変わり、足の痺れたプレシアはそれをつつかれふにぃと鳴いたり。
 その中心で、ひっくり返ってへたばる玖雀。彼を撫でながら、空狐は、
「玖雀は皆に愛されてるのですー♪」
 そう呟くのだった。