【AP】最期の一撃
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/29 21:26



■オープニング本文

 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 冥越八禍衆、無有羅が作り出した奇妙なアヤカシが居る。
 長い年月をかけて、瘴気を元に作り上げた精緻で奇妙なアヤカシ。
 完成したその数はわずか数体だけだった。
 だが、狂気を糧とする無有羅、自らが作り上げたそのアヤカシの力は、恐ろしいものだった。

 志体をもつ人間は、アヤカシの憑依や支配に関しては強い抵抗力を持つのはよく知られた事実だ。
 そこで無有羅は考えた。
 まず長い年月をかけて、瘴気を介さないで人を操る方法が無いかと探り始めた。
 目を付けたのは医学、大勢の人間で実験を繰り返し、その結果無有羅は一つの結論を経る。
 脳を介して人を操るアヤカシを作れば良いでは無いか。
 だが、思いのままに操るのは、あまりにも難しすぎる。
 そこで無有羅は考えを変えた。
 なにも全て操る必要は無い。結果として、人間同士に狂気と悲劇を広められれば良いのだ。
 その結果生まれたのが、凶悪なアヤカシ、『操人魂』である。
 見た目は小さな浮遊する球体だ。実体は無く、大きさは小指の先程も無い。
 だが、このアヤカシは人間の脳に融合してたった一つのことを実行する。
 それは、その人間の戦いたいという欲求の箍を外してしまうのだ。
 開拓者の多くは戦うための技を学びそれに磨きをかけている。
 そしてその力をアヤカシに向けるのだが、優れた開拓者であれば多くの戦友がいるものだ。
 戦友同士、技を磨きあい力を高め合う者も多いはずである。
 そこにこのアヤカシはつけこむ。

 仲間と戦ってみたい、といっても命のやり取りをするわけにはいかない。
 そんな理性の縛りだけを取り去ってしまうのだ。
 結果、このアヤカシに取り憑かれた人間は、普段は抑えているその欲求を叶えるために武器を取る。

 一度でいいから、こいつと本気で戦ってみたい。
 自分の技がどこまで通用するのか、試してみたい。
 普段は人を守るのに使うこの力、それがどれだけのものか確かめてみたい。

 強い力を持つ人間ほど、それを制御する理性も兼ね備えているはずだ。
 だが、このアヤカシはその理性だけを溶かしてしまう。
 記憶は何も変わらない、技の冴えもなにも変わらない。
 だが、このアヤカシは取り憑いた人間の脳に作用して、根を張り融合してしまうのだ。
 一度取り憑かれてしまえば、排除する方法は無い。

 取り憑かれた者は、戦いたいと思う相手と戦わざるを得ないだろう。
 それは心の底からにじみ出てきた本心だ。
 本来ならば、理性がそれを押しとどめるが、今は違う。
 戦いたいから戦う。そうなってしまってはもう手遅れだ。
 自分でも止められない。だって、操られているわけでは無いのだから。
 ただ本心がこぼれ、それを自分では止められないだけ。
 止められるのは、武器を向ける相手だけだろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
ルシフェル=アルトロ(ib6763
23歳・男・砂
ジェラルド・李(ic0119
20歳・男・サ
結咲(ic0181
12歳・女・武


■リプレイ本文


 分厚い雲の下、遠雷が轟いていた。
 薄暗い路地裏で、ルシフェル=アルトロ(ib6763)は立ち尽くす。
 いつもは笑みの浮かぶ彼の顔に、なんの表情も浮かんでいなかった。
 雷の閃光が一瞬だけ周囲を照らし、少し遅れて雷鳴が響く。
 その閃光の中で、息を切らして駆けつけた宮鷺 カヅキ(ib4230)は見てしまう。
「……貴方は……」
 カヅキは血の滲むような声で叫ぶ。
「……っ……なぜこんなことをしているのです……!」
「……まさか、カヅキが来るとは思わなかったなぁ……」
 困ったように、何処か嬉しそうに微笑んで振り向いたルシフェルに、カヅキは言葉を失った。
 なぜなら、ルシフェルの足下で倒れ伏しているのは、彼の半身だからだ。
 アヤカシ『操人魂』に操られたルシフェルは、その殺意を最も親しき双子の片割れに向けたのだろう。
 薄く微笑むルシフェルと、カヅキは見つめ合う。
 2人の関係は一言で表すのは難しい。
 愛とも恋ともまた違う関係だが、互いにとって大切と思いあう同士であることは確実だ。
「ねぇ……もう、いいんだ……もう……此処には、何もなくなった……」
 再び雷光が周囲を照らし、一瞬だけ笑みを消したルシフェルが浮かび上がる。
 全てを失ったルシフェルは、再び笑みを浮べながら、カヅキへと襲いかかった。

「戦ってみたかった! 壊してみたかった!」
 笑いながら刃を振うルシフェル、その攻撃は死角から急所を狙う暗蠍刹の一撃だ。
 凌ぎつつカヅキは呼びかける。だがその言葉はどれもむなしく響くだけ。
 そこでカヅキは、距離を取って立ち尽くした。
「おや、もう観念したのかい? それじゃあ、素直に殺されてくれるのかな」
「……ルーさん……私は貴方の傍にいる。受け入れる……」
 武器を構えるルシフェルを前に、カヅキは告げる。
「たとえ貴方が変わってしまっても、それは変わらないよ……いなくなってしまったら、悲しい」
「……アイツは消え、俺には何もなくなったんだ……」
 答えるルシフェルに、カヅキは静かに言い放った。
「私が消える瞬間まで、貴方の隣に立とう。だからこそ……」
 その時、再び閃光と雷鳴が響き、
「………!」
 カヅキが呼んだルシフェルの名は轟音に紛れて消え、振り下ろされる刃を前に、カヅキは
「もう貴方に、人殺しはさせない」
 彼女も『操人魂』に取り憑かれながら、身構えた。

 迫るルシフェルの刃とムチ。どれも急所を狙う一撃だ。
 その全てを紙一重で躱すカヅキ。接近して影縫を放ち、さらに影縛りで動きを止める。
 しかし、それを受けてもルシフェルは止まらない。
「ねぇ、カヅキ……止めたいなら、殺さなくちゃ!」
 ルシフェルの反撃がカヅキに迫る。しかしカヅキはそれを避けなかった。
 刃とムチを体で受けるカヅキ、それを見てトドメを前に一瞬だけルシフェルは手を止める。
 その刹那、深手を負いながらもカヅキ長苦無を構え、
「……安心して。苦しまず、痛みを与えず殺してさしあげます」
 そのまま踏み込んだ一撃が、ルシフェルの胸に深々と突き立った。

 いつの間にか雷は遠ざかり、代わりに霧雨が静かに降り始めた。
 路地裏で、刻一刻と体温を失いながらルシフェルはカヅキに抱かれて空を見上げる。
「……空、見えないな……。……が……見えない……」
 呟いてルシフェルは、力の入らない腕を伸ばすとカヅキをゆっくり抱きしめた。
 そして最期に、ルシフェルは声も無く、ありがとう、と呟いて、微笑みながら目を閉じる。
「……嫌いだよ、雨なんて。あの日も、あの時も、いつも―――」
 霧雨の中、カヅキはただ静かに涙するのだった。


(戦い方は、おばあちゃんに、習った)
(容赦、いらないん、だって。倒さないと、いけないん、だって)
(でも、これが、悪いこと、か、いいこと、か、分から、ない……)

 まだ幼い結咲(ic0181)、操人魂に操られた彼女は思い出を反芻する。でも、いくら考えてもわからない。
「考える、の、苦手。知らない、こと、いっぱい」
 ぽつりとこぼす彼女の手には、血に塗れた一振りの剣があった。
 周りには“もう”誰も居ない。彼女は孤独だった。

「あいつは共に居た奴を手に掛けたらしいな。一人は寂しいと言っていたにも拘らず、か……」
 長巻直しを手に、ジェラルド・李(ic0119)は無念そうに呟いた。
 思うのは心を許していたあの少女、結咲のことだ。
(これだから、関わるのは嫌だったんだ)
(人と縁ができれば、余計な事まで考えるようになる……)
 ジェラルドは、千々に乱れる思いを胸に、それでも尚彼女の元へと向かう。
(……煩わしさやいらだちがそうだ。それに義理もできる、真意を確かめようと思う程度には……)
 そして、彼はたどり着いた。
 孤独を嫌いながらも、孤独へと向かう少女、結咲を前にジェラルドは問う。
「お前は何がしたいんだ」
「……ジェラル、ド……?」
 問いかけに、首を傾げる結咲。
「……殺してどうなる。そんなに一人になりたいのか」
「殺す、と……死ぬ。死ぬって、何、かな」
 霊剣を手に結咲は一歩、ジェラルドへと歩み寄り、問い返した。
「こわい? いたい? くるしい? さびしい? ……さびしい、だけはわかる」
 ボクはいらない子だから、そう言いながら結咲はさらにジェラルドに近付いて、
「ジェラルドは、全部、知っているの、かな」
 答えを求める結咲は、ジェラルドに特攻した。
 襲いかかって来る結咲。彼女を見て、ジェラルドは覚悟を決める。
「自分の衝動を止められないのなら……俺が止めてやる」
 びたり、ジェラルドは長大な刃を構え、そして無言の戦いが始まった。

 ひらりひらりと舞うように刃を振う結咲。躱しながら両手の刃に精霊力を纏わせて霊戟破を放つ。
 それを受け止めるジェラルド。彼は結咲と真逆にただ無心で刃を振う。
 長巻直しが風を切って大上段から振り下ろされれば、結咲はひらりとそれを避ける。
 そして反撃の霊剣とマキリが唸り、ジェラルドの肌を切り裂く。
 だがジェラルドは意に介さず再び刃を振り抜いた。手加減も無く、ただ真っ直ぐな斬撃を繰り返す。
 操られていたため実力の全てを発揮できなかったためだろうか、ついにジェラルドの刃が結咲を捉える。
 真っ直ぐに放たれた斬撃を受け止めようとして結咲の両手の刃ははじき飛ぶ。そしてそのまま、
「……こんな感情をいつまでも感じさせるよりは、終わらせてやるのが一番だ……」
 ジェラルドは刃を振り下ろした。

 倒れた結咲。彼女は霞んだ視界でジェラルドを探すが、もうなにも見えなかった。
「……誰も、いない。死ん、だら、ひとり……? ひとりは、やだ…………」
 結咲の心に浮かぶのは、ただただ寂しさだけ。それが溢れて、つと頬を伝う。
 その涙を見て、ジェラルドは結咲に近付いた。最期に、その手を取ってやろうとしたのだ。
 何も見えない孤独のなか結咲は彼女の手を取ったやさしくてあったかい人の気配にすがりついて……。

 そして、結咲は懐に隠した短刀をジェラルドに突き立てた。

「いっしょ、が、いい、な」
「いい、だろう……俺も……もう、面倒だ……」
 ジェラルドなら止められたのかも知れない。だが彼は甘んじてその一撃を受けた。
「一人が寂しいと、いうなら……付いていってやる……。奴が居る、その場所まで……な」
 最期まで寂しがり屋な結咲の我儘、それをジェラルドは聞き届けた。


 深い森の中、一人静かに待つ女。
 彼女は抗いがたい衝動を感じながら、ただひたすら待っていた。
 もう、戻れない。止めることはできない。ならば、すべきことをするだけだ。
「狂ってしまう前に―――那美、あたしと戦って。あたしを止めて頂戴」
 川那辺 由愛(ia0068)は、自身の人生に幕を引く相手を待っていた。
 そして、その願いを聞き届けた野乃原・那美(ia5377)は森へと向かう。
 頼まれたのなら、ただそれを遂行するだけだ。
 やるべき事は簡単だ。油断も無く躊躇も無く、ただ一撃で終わらせる。
 sろえがたとえ、殺す相手が親しい友でもだ。
「んふ♪ 待っててね、由愛さん♪ ボクがちゃんと引導渡して上げるのだ♪」

 そして、那美は由愛が待つ森へとやってきた。
 森のなかにぽっかりと空いた空間、そんな目立つ場所の真ん中に由愛は立ち尽くしていた。
 手には血塗れの符。高位の陰陽師である由愛と戦えば、優れたシノビの那美とて無事では済まないだろう。
 だが、それならば陰陽師が術を放つ前に一撃で引導を渡してしまえばいいだけ。
「射程に捉えたよ♪ 一撃必殺! これで決めるよ、由愛さん!」
 そして、死角から那美は飛びかかった。
 風のように早く、奔刃術で一気に距離を詰め、急所を抉る影の一撃。
 振り向く由愛、だがもう術を放つだけの猶予は無かった。
 真っ直ぐに、刃は由愛の胸へと伸び……
「さぁ……来て頂戴、那美」
 由愛の呟き。それを聞きながら那美は、刃は一気に突き立てた。

 由愛の胸の中心を、深々と那美の忍刀が貫いた。
 抵抗もなく、刃は細い由愛の体を貫いて、背中へと抜ける。
 あまりにも精緻なシノビの一撃。
 しかしその一撃は精緻すぎたためか、はたまた相手が由愛だったからか、わずかに急所を逸れていた。
「! あは、ボクとしたことがちょっと切っ先ずれちゃったかな? かな?」
 刃を引き抜く那美、だが血は零れてこなかった。
「此の一撃に、此の私が背負った恨みの全てを込めて……」
 噴き出す筈の血は、零れる端からちりちりと符に吸いこまれていく。
 まるで命をそのまま力に変えるかのような、その技は外法・血の契約だ。
「しま、間に合わない……」
「怨念よ、我が生命を吸って形となれ……!!」
「きゃぅぅ!? 由愛……さん……」
 生命力全てを瘴気とかして、由愛は黄泉より這い出る者を放った。

 黄泉より這い出る者。それは死にいたる呪いを放つ陰陽術だ。
 胸を深々と貫かれた由愛は、命の最後の一滴までを絞り尽くして、術を放った。
 とさっ……彼女は綺麗な森の真ん中で膝を折って座り込んだ。
 胸を背中まで貫かれたのに、血は零れていなかった。それすらも全て術のために使い尽くしたのだろう。
 そして、彼女の渾身の呪いを受けた那美もまた、全てを失った。
 外傷は無い。だがもう力は入らなかった。
 二人とも、命を維持する決定的な何かが、完全に壊れてしまったのだ。
 ゆっくりと由愛の膝にすがるように倒れ込む那美。
 座り込む由愛、その膝に頭を置いて倒れる那美。
「……悪い、わね……こんなことに付き合わせちゃって……」
 弱々しく告げる由愛に、ゆっくり首を振る那美。
 2人の姿は、まるで膝枕をする姉妹のようであった。
 もう、体もろくに動かず、目も見えない。由愛はそれでも力を振り絞り、那美の頭を優しく撫でた。
「那美……また、お姉ちゃんと呼んでくれないかしら……昔みたいに、ね」
「うん、おねえ……ちゃん……。また、遊ぼう……ね」
「ふふふ。あの頃みたいに、遊びましょう……ね」
 森の中で仲良く寄り添う2人。静かに眠る2人を小鳥だけが不思議そうに見つめていた。


「あゝ……彼奴だ。さて、戦おうぜ、戦おう……俺を、昂揚させてくれよ?」
「うん、付き合ってくれてありがとうね! それじゃあイってみよ〜〜〜〜!!」
 北條 黯羽(ia0072)にとって、戦いとは昂揚だ。
 アヤカシと戦うことも、そして開拓者と戦えばさらに昂揚できるかもしれない。
 そんな想いが黯羽を突き動かす。戦いの後の虚脱も、全てを出し切っている代償なのだろう。
 では叢雲・暁(ia5363)にとって戦いとはなんだろうか。
 戦うのに、深い理由も重い背景も、彼女にとって必要は無い。
 ただ、ふらりと道行く異性に声をかけた、いわばナンパのようなもの。
 彼女たちの言葉を借りて言えば……

「ヤリタイ衝動に負けました。ゴメンネ♪」
「と、何だ……暁も同じ気分っぽいじゃねえか。それなら遠慮はいらなさそうさね」

 昂揚と衝動に突き動かされるまま、戦う2人。
 意味も無く、背景も無く戦うこの2人こそが、無慈悲な戦いの終幕に相応しいだろう。

「まずは、行動阻害……足を殺さねえとな」
 黯羽は構える。場所は開けた町外れ。
 合戦場だったのだろうか、それとも処刑場? 周囲には人の気配は無く瘴気だけが色濃く渦巻いている。
 まず呪縛符で足を止めるか……否、距離が近すぎる。
 呪縛符が届く距離ならシノビは一瞬で詰めてくる。ならば手数で押すしか無い。
「下手な小細工は……無用だねぇ。正面から、攻め続けて押し潰すさね」
 そして黯羽は武器を構えた。龍が封じられたと言われる金蛟剪が虹に輝き、数多の刃を放つのだった。

 瘴気で作られた風の刃が無尽蔵に飛んでくる。それを暁はけらけら笑いながら見つめていた。
 紙一重、いや髪一筋で躱し、次は肌一筋で避ける。さらに手裏剣で相殺し、忍刀の一撃でかき消す。
「もー、近づけないなぁ。もっとうりゃりゃりゃりゃ〜! って一気に殺したいのに!」
 物騒な事を叫びながら、今度は暁が手裏剣を放つ。
 それを黯羽は斬撃符で弾き、さらに避ける。
 この距離ではお互いに攻め手に欠ける……ならば一気に仕掛けるのみ。
 暁は奔刃術、シノビの速さに刃を乗せて、風のように一気に襲いかかった。
 そこに黯羽は再び斬撃符。ますます密度を増して瘴気の刃で切り刻む。
 奔刃術は護りを捨てた攻めの技だ。刃が幾度も暁の肌を抉り、時には肉に深々と突き刺さる。
 だが、それでも暁は止まらなかった。
 血風を尾のように引いて、手裏剣を放ちつつ一気に距離を詰めて、必殺の一撃!
「魂ぁ、貰ったぁ!!!」

 その瞬間こそ、黯羽が狙っていた瞬間だった。
 斬撃符では止まらないなら、一撃で致死の呪いで蝕んでしまえ。
 切り札は、黄泉より這い出る者。由愛が那美の鼓動を止めた術だった。
 真っ向から向かってくる暁。すでに血塗れで抵抗する力は残るはずもない彼女に黯羽は術を放った。
 解放された致死の呪い、それは確実に暁に絡みつく。
 その証拠に、風のように飛びかかってきた暁の口から、ごぼりと血が零れた。
 それで終わり……ではなかった。

 その呪いは、確かに暁の心臓を止めた。だが、暁の体は最期の一撃を放つ。
 シノビとは、首をはねる者。そう信じ込む暁の執念が体を動かしたのだ。
 刃を振り抜き、そのまま転がり、無人の荒野で動かなくなった暁は、笑顔で事切れていた。
 刃は確実に黯羽の首を捉えたのだ。
 とっさに躱したものの、刃は深々と首を切り裂いていた。
「……何か疲れたさね。ここは帰って、寝ると……するかね」
 一歩、二歩、三歩、そこで黯羽も力尽き、草原にごろりと転がって。
「……浮世は夢さね、ただ…………狂へ」
 ぽつり、そう呟いて目を閉じた。

 こうして、四つの戦いは幕を引いた。全ては夢、だけど悲しい夢ばかり。