【新開拓者向き】同胞の罪
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/26 23:14



■オープニング本文

 開拓者は、皆総じてある才能を持っている。
 それが志体だ。優れた運動能力や反射、そして様々な力を備えた天賦の才である。
 さらに、開拓者とあれば様々な技術や才能を持って居る者も多い。
 習得した武技、様々な知識や技術、音楽や舞などの芸術的な感性……。

 ここに、一人の開拓者がいる。本名は明かして居らず、あだ名を白房(シロフサ)というらしい。
 由来は、こめかみの一房だけ髪の毛が真っ白だからだとか。
 彼は志体を持ち、剣技に長けたサムライ。年の頃は30ほどだ。
 ひょろりと背が高く、手足が長く、そして蛇のようにぎらりと光る眼光をもつ男だ。
 開拓者としては、それなりに長く活動しているのだが彼には問題点があった。
 協調性がなく、しかも癇癪持ちで、執念深いのだ。
 そのせいで、依頼の最中に騒動を起こすことも多く、あまり評判は良くない。
 そして彼はついに、一線を越えてしまった。
 仲間と依頼の取り分でもめて、かっとなって刀を抜いてしまったのだ。
 普段から折り合いの悪い相手だったらしく、殺意十分の一撃はその仲間の命を奪った。
 取り押さえようとする他の開拓者達に手傷を負わせ、白房は逃亡。
 彼は賞金首となったのである。

 ここで一つ問題が起きた。
 白房は一つの特技があった。彼は、人の顔を覚えるのが非常に得意なのだ。
 そのため、ギルドからの追手を彼はすぐに感づいて逃げてしまうである。
 よく神楽の都のギルドで、ぼんやりと他の開拓者を眺めながら時間を過ごしていた白房。
 彼は大概の開拓者の名と顔、そして装備を覚えているらしい。
 ……誠に衆ね深い男らしい行動である。

 故に、 彼に覚えられていない、開拓者となって日の浅い者が追手として適任となった。
 もちろん、しっかりと変装をしたり、装備を大きく変更して欺くならば、新人以外でも可能。
 現在、まだ白房はとある宿場街に潜伏中のようだ。
 彼に見つかることなく、疑われることなく捕縛せねばならないのだ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
燕 一華(ib0718
16歳・男・志
巳(ib6432
18歳・男・シ
佐藤 仁八(ic0168
34歳・男・志
ビシュタ・ベリー(ic0289
19歳・女・ジ
ジャン=バティスト(ic0356
34歳・男・巫
山中うずら(ic0385
15歳・女・志
帚木 幸助(ic0402
15歳・男・サ
システィナ・エルワーズ(ic0416
21歳・男・魔


■リプレイ本文

【新開拓者向き】同胞の罪 リプレイ 修正版


 白房と呼ばれる男は、憎々しげに顔を歪め宿場街の宿二階から往来を見下ろしていた。
 逃げ切らなければ……。自分の力を妄信し、この期に及んでも尚悪あがきをするこの逃亡者。
 彼は、往来を見つめながら、この小さな宿場街の変化に気を張り巡らせるのだった。

 街道を進む二人連れの姿が。
 二人は明らかに天儀以外の人間だ。その彫りの深い顔はジルベリア人だろうか。
 だが背の高い方は天儀の巡礼者、天儀天輪宗に帰依し、その寺社を廻る旅人の服装だった。
 ならばジルベリアから天儀へ巡礼に来た旅人といったところだろう。
 その旅人を先導するのは地図を手にした青年だ。こちらは従者だろうか?
 だが実は、この二人は……
「取り分の揉め事で仲間殺すとか何考えてんですかー、やだー」
「罪を憎んで人を憎まず、だよ……人は誰しも過ちを犯す。罪を償ってくれればいいのだが……」
 システィナ・エルワーズ(ic0416)の暢気な言葉に、苦笑で応えるジャン=バティスト(ic0356)。
 親しい間柄故に、明るいシスティナと寡黙なジャン。
 宿場街であれば、確かに巡礼者はそれほど珍しくは無い。だが二人は多少目立つ異郷の人間だ。
「ギルドによると……足取りはこの宿場に向かう途中で途切れているようだね……」
「じゃあ、やっぱりこの宿場に居るんですかね?」
 システィナが尋ねれば、ジャンは頷いて。
「変装のために店に立ち寄る必要もあるだろう。それに食事も必要になる筈……」
「なるほど! 腹が減っては戦は出来ぬ、ですもんね」
 ぽんと手を打つシスティナ。彼は周囲を見渡すと、丁度店開きした定食屋を見付けて。
「ちょうどいいですし、ご飯食べに行きましょジャン様。女将、定食二つください♪」
「……システィナ、あまり目立つような行動は……」
 ずるずるとシスティナに引き摺られてジャンも定食屋に入店。
 そのまま二人は店でこっそりと聞き込みを始めるのであった。

 一方、暢気に跳ねるように街道を歩く猫獣人の姿が一つ。
「ひょろ長くて刀を持っていて、追われてそうで短気な人かあ……」
 後半の方は外見に出るのか謎だが、ともかく元気に白房を探す山中うずら(ic0385)。
 この無邪気な新人開拓者は、いろいろ悩んだ末に道行く人にとりあえず聞き込みを始めるのだが、
「あ、すいませんそこのおばちゃん、殺人犯顔でアメンボみたいなサムライを知りませんか?」
「え、ええ? 殺人犯顔……って、そんな人がいるんですか?」
 びっくりするおばちゃん、ぎりぎりどころかど真ん中過ぎる質問で直球勝負のうずらであった。
 もちろん、彼女とその聞きこみのことは噂になってしまったようだ。
 猫の神威人で刀をぶら下げたまま、こんな剣呑な聞き込みだ。話題にならないわけが無い。
 その噂は、あっという間に白房の元へと届いてしまうのであった。

「ついに来たか……わかりやすいのは囮、だろうな……ならば慎重に動かねば」
 白房は、宿で他の客の会話からうずらの噂を盗み聞いていた。
 だが、開拓者は複数人で依頼をこなすのが普通だ。となれば他に伏兵が潜んでいるはず。
 白房はそう考えて、夜まで待つことにするのだった。


「さ、手相を拝見……金物の気と血の匂い……辻斬りに会う危険性があります。なにか心当たりは?」
 剣呑な結果を告げて、相手に絶句されてる辻占い師が一人。
 そんな心当たりは無い、と客に気味悪がられている彼女はビシュタ・ベリー(ic0289)だ。
 当初は、熊回しを連れて行きたいとギルドに尋ねたのだが、もちろん却下された。
 目立ちすぎるのは当たり前だが、そんな危険なものを自由に連れて行けるわけもなく。
 仕方なく宿場で占いをしながら情報収集をしているが、なかなか情報は集まらなかった。
 白房は賞金首であり、その知らせや高札はすでに出ている。
 しかし彼はこんな宿場で事件を起こすほど杜撰では無かった。
 さらに逃げるときの服もすでに換えて変装した上で潜伏しているのだ。
 そうなれば背格好程度ではそれほど目につかない単なる旅人の一人だ。
 そこに、先程のうずらやこのビシュタのように目立つ者たちがやってきたのだ。
 話題になるのは開拓者の事ばかり、ますます白房の気配は消えてしったようで。
 夜にこの宿場を離れる決意をした白房は、なおのことひっそりと気配を殺して宿に潜むのであった。
「……まずは聞き込みと思ったんだけどねえ」
 さっぱり情報の見つからない手詰まりになってビシュタははぁとため息をつくのだった。

 そして、一人。困った顔で思案する若者が一人。
「新人向けだつっても相手は手練れか……変な仕事引いちまったな」
 帚木 幸助(ic0402)はそういって、宿場街の端にある茶店から往来を眺めていた。
「さすがに、往来を出歩いたりしては居ないか……裏道にでもいるのかねえ?」
 首を傾げて考えるが、さすがに全てには手が回らない。
 ともかく、今できることはこうした地道な調査だけだ。
 幸助は自分の持ち場を守ることだけを考えつつ、静かに様子を窺うのだった。

「さて、こちらにいらっしゃると良いのですが……」
 菊と名乗るその女は、思い人を探してこの宿場にやってきたという。
「私、今とある方を……お慕いしている方を探しておりますの。白房と名乗る方……」
 白い肌に、金の眼だけが人目を惹くその女性、彼女は似顔絵を取り出すと、
「この絵に似ている方……ご存知ではありませんか?」
 彼女が尋ねているのは、宿場街の住人達だった。
 井戸端で、菊と名乗る女性を囲んでやいのやいのと声を上げていれば、
「ああ、そういえばそんな顔の人をたしか、宿で見たねぇ」
 聞けばそのおばちゃんは、宿場の外れの宿で手伝いをしているという。
 その言葉に、嬉しそうに顔をほころばせる菊は頭を下げて、
「ああ、私が来たことや探していることは、どうかご内密に」
「へぇ? 折角会いに来たんだろう? すぐに知らせてあげりゃいいじゃないか」
 そんな言葉に菊は首を振って。
「だって、驚かせたいじゃありませんか」
 くすりと笑って応えれば、女性達もなるほどと笑い会うのだった。

 そして、菊はふわりとその場を離れると、宿場街を歩き始めた。
 白い肌、金の瞳のこの女性。実は巳(ib6432)が女装した姿である。
「さてと……所在は分かったが、今から追い詰める時間はねぇ……か。どちらに逃げるかわからねぇしな」
 くつくつと喉の奥で笑う巳。
 それまでの楚々とした女性らしい雰囲気は霧散し、変わって一流のシノビならではの空気を纏って。
「この世にゃ、白い蛇は一匹居りゃ十分だろ? だったら消えて貰わなきゃな……」
 くつくつと、人知れず笑いながら、彼……いや、彼女に戻った巳はふらりと町中を進むのだった。
 巳はそのままふらりと、とある僧の前で足を止めた。
 托鉢中の僧だ。深編み笠で顔を隠したその僧は黙然と立ったままである。
 その足下の鉄鉢にぽいと紙に包んだ銅銭を投げ入れる巳。そのまま巳は姿を消すのだった。

 続いてその僧の前にふらりとやってきたのは二人連れ。
 食堂から出て暫く町中を廻っていたジャンとシスティナである。
 一見すれば、単に托鉢僧に話しかけている異国の二人、といった様子なのだが、
「……そうですか。所在はある程度つかめたのですが、もう時間が無いようですね……」
 ジャンは、托鉢僧から話を聞いて思案していた。
 この托鉢僧は燕 一華(ib0718)の変装だ。
 装備を調え、髪の色を染めてまで姿を変えた彼はジャンとシスティナ二人を相手に情報交換をしていた。
「ええ、ですが大まかな所在ですし、そこに未だ居るとは限りません……手配の方は?」
「……駕籠や馬への手回しは終わりました」
 燕の言葉にジャンが応えれば、
「賭博場やその他怪しいところにも姿はありませんでした! やっぱりそのまま逃げるつもりでしょうね」
 システィナも調べてきたことを燕に告げる。
 こうして、少ないながらも掴んだ情報によって、白房のおおよその行動が判明したのであった。

 白房は逃亡者だ。
 猜疑心も強く、仲間を殺めて逃げたこの賞金首。目立つことを避けるのが当たり前だ。
 だが、巳が女装をして集めた情報でおおよそ、ある宿にいることは分かった。
 ならばそこを踏み込むべきか?
 いや、踏み込むのに向いた人材は少なく危険が大きい。近付けば感づいてすぐに逃げてしまうだろう。
 宿のように出入り口の多い建物であれば、逃げる方が有利になってしまうかも知れないのだ。
 ならば、やはり宿から出たところをこっそりと追いかけて捕まえるしか無い。
 そう決めた一同は、托鉢僧に擬装した燕を通じて、なるべく多くの道を見張れるように手分けをした。
 そしてそろそろ夕刻、旅人達が宿を求めて宿場街にあつまり、賑わう時間だ。
 白房が逃げるとしたらこの時間だろう。
 開拓者達は、ひっそりとそれぞれの場所で、白房の姿を探すのだった。
 その中で、燕は静かに思い返していた。
「白房兄ぃがそんなことをするなんて……」
 先輩開拓者として、燕は白房の事を知っていたのだろう。だが、今は追う者と追われる者だ。
「……もうこれ以上罪を重ねさせないように、止めにいかないとですねっ」
 決意を固め、そして彼は最後の一手を待つのだった。


「白房てえ野郎を見なかったかい。のっぽで手足の長え、三十がらみの侍なんだがよ」
 大音声で呼びかけて、堂々と白房を探す佐藤 仁八(ic0168)。
 派手な身なりに豪快な言動、見るからに傾奇者といった装いの仁八は大いに耳目を集めていた。
 折しも、宿場街の賑わう夕暮れ時。
 彼はますます大きな声を上げて、白房を探すのだった。
 彼のこの行動は、誘いだ。
 街道の一方から、こうして大いに声を上げて踏み込めば、何らかの反応をするだろう。
 事実、白房はこの目立つ開拓者が宿場にやってきたことを知って、急いで動き出したのだった。

 すでに宿を離れ人混みに紛れていた白房は、傘を深く被りつつ、遠くで大声を上げる仁八を見て、
「……あの姿と声、佐藤仁八、か……奴一人なら倒していけるが……」
 だが、あからさまに目立っている仁八。なにか罠があるのではと白房は考えた。
 ならば、当初の予定通り秘密裏に逃げた方が良いだろう。
 もちろん、逆側に罠がある可能性も考えては居た。
 だが、獣人の剣士やジプシーならば相手取っても血路を開けるはず。
 そう考えて、白房は急ぎ足で宿場を離れるのだった。

 街の反対側へと通じる幾つかの路地。その一つを人混みに白房は紛れていた。
 変装はしていても、彼は持って居る刀を隠そうとはせずに腰に落とし差しにしていて。
 その刀に目を留めた一人の男。
「あの刀……こっちは一人か、まずったかな……」
 呟く帚木。彼は周囲を見渡すが、まだ誰も味方の姿は見つからない。
 だがこのままでは逃げられてしまう。そこで、彼は刀を手に、ずいと白房の進路を塞いで立ちはだかった。
「……貴様も開拓者か。見ない顔だな」
 じろりと帚木をにらみつける白房。周囲に伏兵の居ないことを察知し、刀の鍔に手をかけると、
「切られたくなければ、そこをどけ。剣士なら、腕前の差は分かるだろう……」
 だが、そう言われても帚木は動かなかった。彼もまた柄に手を添える。
 次の瞬間、すでに白房は刀を抜いて斬りかかった。
 周囲の人混みから悲鳴が響く。即座に他の開拓者も事態を察知して、二人の場所へ。
 だが、容赦なく白房の刃は帚木へと振り下ろされた。

「っ! ……止めた、だと?」
 白房の必殺の一撃を、帚木はなんと刀で受け止めた。
 即座に離れる白房。
 帚木は同じ新陰流をよく知る剣士として刃を見切り、なんとか十字組受で一撃を凌いだのだ。
 だが、幸運は長く続かないだろう。
「……早く見つけてくれる事を祈っとくぜ」
 じりっと退治しつつ、帚木は小さく呟くのだった。
 そしてその願いはすぐに叶えられることとなった。やってきたのは二人。
「早くみんな来てえ! 辻斬りですっ! 助けて! 私はただのジプシーーですう!」
 近くで占いをしていたビシュタは身軽にやってきて、わいわいと騒ぎ立てつつ鞭を構える。
「ちょ、ちょっとみなさんどいてどいてえ! いた!! ……どい、てえ……袖摺返しぃ!」
 さらに白房の背中に向けて斬りかかったのはうずらだ。
 袖摺返しとは、刀を縦に抜いて刃で周囲を傷つけないようにする技の一つだ。
 刃を立てたまま、うずらは肘で周囲の人混みをかき分け、切り下ろした。
 だが、達人に近い白房はその一撃をいとも簡単にいなす。
 ちらりと二人を見比べて、先に弱い方からと容赦なくうずらを白房が狙う。
 しかし、その攻撃は逆に横から飛び出てきた托鉢僧の十手に弾かれるのだった。
 笠をはね飛ばして顔を見せる燕。その顔と十手の房のてるてる坊主に白房は驚いた顔を見せる。
「ボクのこと、覚えてますか? 奪ってしまった命は戻らなくても、まだ引き返せると思いますっ」
 ぎりっと刀を十手で押さえ込みつつ、燕はそう告げた。白房はこの少年を覚えていた。
「だから……刀を下ろして頂けませんか!」
 だが白房は返答代わりに蹴りを見舞って、燕と距離を取る。
 続々と開拓者が集まってくるこの状況に白房は歯噛みしていた。
 このままでは仁八も来るだろう。そうなれば腕利きが燕と仁八の二人。
 他が新顔だとしても苦戦は必至だ。ならば、その前に血路を開こうとするが、それは遅かった。

「お願いだ……罪を認め、降伏してくれ」
 追いついたジャンの神楽舞「縛」が白房の行動を縛る。
「びりっと痛いですよー」
 そこにシスティナのサンダーだ。威力は低く一瞬の足止めにしかならない。
 だが彼らが稼いだ時間で、仁八は街を突っ切り騒動の元へとやってきていた。
「くっくっくっ、掛かりゃあがった。白ちゃんよ」
 にやりと笑う仁八は、刀を手に間合いへと踏み込んで。
「ナリはでけえがナニが縮み上がってんじゃあねえのか」
 ぴたりと刀を構えて待ち構えた。
 帚木とうずらも武器を構えて白房を見据えている。
 この場に腕利きは二人。仁八と燕だ。両方を凌いで包囲を抜けるのは難しい。
 ならばと、玉砕覚悟で白房は手当たり次第に斬りかかろうとしたのだが、
「……蛇気取りの兄さん……もう終わりさ」
 とんと、一人の男が白房の真後ろに着地した。
 それは変装を解いた巳だ。そして即座に影縛り。
 そこに仁八が小手狙いの片手突き、白房はかろうじて刀で受ける。
 だが抵抗はそこまでだった。動きの隙を突かれ、燕の十手とビシュタの鞭が白房を打ち倒す。
 こうして、巳という伏兵の活躍もあり、白房は捕縛されるのだった。

 今回は、辛くも偶然や幸運に助けられて開拓者達は白房を捕縛することが出来た。
 依頼は無事成功だと言えるだろう。
 そして重い罪を犯した白房は開拓者として復帰することはもうあり得ない。
 それだけが少々後味の悪さを残すのであった。