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■オープニング本文 武天の商業都市、芳野の冬の風物詩と言えば雪の祭りである氷花祭だ。 芳野のすぐ近くの景勝地、六色の谷で行われるこのお祭りは、今年も寒さに負けない熱気溢れる催しである。 今年も去年と同じくある企画が行われているようだ。。 それは、賑やかな芳野の氷花祭に彩りを添えるべく企画された「屋台競べ」である。 芳野の様々な商店が協賛し、材料や屋台の準備は整えてある。 開拓者がすることは、材料を使って好きな屋台を運営することだ。 お品書きは自由だ。世界各国の珍品料理から、家に伝わる秘伝料理まで何でも御座れ。 この祭でいっそ新しい流行を作ってしまおうじゃないか、というのがこの「屋台競べ」の目的なのである。 芳野の腕利き料理人から、噂を聞きつけた他国の料理人まで津々浦々の腕自慢が集まっているとのこと。 腕に覚えのある開拓者は、参加してみるのも良いだろう。 今年は覇者を一人決めるのは止めたようで、あくまでも皆で盛り上げるという形のようだ。 材料は十分に用意され、屋台も借りられるかわりに、残念ながら売り上げは手に入らないとか。 その代わり、祭の一環なので屋台を出すことの料金は取られないので心配ご無用。 一方、氷花祭といえばそれを象徴するのが雪像作りである。 見事な芸術品から、愛嬌ある一品まで所狭しと雪像が並ぶのは、この氷花祭ならではの一幕。 雪を固めた雪像から、氷を用意しての氷彫刻までなんでもござれなのはいつもの通りだ。 投票と賞金は今年はないようだが、誰にでも参加出来る催しなので参加してみるのも良いだろう。 真っ白な雪で埋め尽くされた六色の谷。 そこを見渡す楼閣で、温かい料理に舌鼓を打つのも良し。 珍品から伝説の一品までが玉石混淆の屋台を廻るのも良し。 雪像を眺めるのもいいだろうし、有り余る雪で童心に返って雪遊びも楽しいだろう。 一週間にも及ぶ氷花祭、ふらりと遊びに来ては如何かな? さて、どうする? |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 和奏(ia8807) / 浅葱 恋華(ib3116) / 綺咲・桜狐(ib3118) / イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138) / フレス(ib6696) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / キャメル(ib9028) |
■リプレイ本文 ● 大勢の人で賑わう氷花祭。 漂う屋台や店からの料理の香り。賑やかで威勢の良い客引きの声。 友達や家族、仲間と共にはしゃぐ声と楽しげなざわめき。 そして冬の山を真っ白に飾る雪と雪像の数々が、まさに壮観だ。 手に熱々の串焼き、椀に入ったほかほかのお汁粉、そんなモノを手に白い息を吐きながら人々は行く。 そんな中で、にこにこと歩く青年が一人。 「へえ、これはなかなか興味深いですね」 「……そうか?」 ふわりと空中に浮かんだ人妖の光華姫が首を傾げるのだが、和奏(ia8807)は気にしない。 二人の前には雪像が一つ。 ……たぶん、動物の像なのだろう。子供が作ったのか、細部の曖昧な猫か何かの雪像、らしい。 和奏は、その制作意図を読み取ったのか、はたまた単に深く考えていないのか。 ともかく、満足げに頷きながら雪像の森の中をのんびり進むのであった。 「こっちもなかなか面白いですね」 「むぅ、さっぱりわからん……」 続いて和奏が矯めつ眇めつ干渉しているのは、これまた奇っ怪な雪像。 歪んで傾いた正体不明の雪像は、端から見れば邪神の像か崇高な芸術作品か分からない出来で。 満足げにうんうん頷く和奏に、相棒の光華は思わず、これは何なのだ、と尋ねてみるのだが。 「……さぁ? なんでしょうねえ?」 首を傾げる和奏。どうやら彼にもよく分かっていないようであった。 ふわふわと浮かびながら思わず脱力する光華。そんな小さな相棒に向かって、 「さて、それじゃあそろそろ露天を冷やかしに行きましょうか、光華姫」 小さな相棒をそう呼んで、二人は連れ立って屋台の並ぶ界隈へと向かうのだった。 ● 和奏が立ち去った雪像会場。 ずらりと並んだ雪像の数々は、完成品も多いのだが、制作中のものもまだまだあるようで。 そこに3人の開拓者がやってきた。 彼女たちがやってきたのは、先程まで和奏が眺めていた雪像だ。 どうやら正体不明だった理由は作りかけだったからのようで。 「さーって、頑張って続きを作りましょうね。うふ、うふふのふ〜♪」 まずは、ふさふさの真っ赤な尻尾をフリフリ振って、嬉しそうに笑う浅葱 恋華(ib3116)が。 「寒いので家でごろごろしてたいですけど、恋華達のお誘いなら断れないです……」 続いて銀の尻尾をくるりと丸めたまま、綺咲・桜狐(ib3118)が、白い雪の塊を前に首を傾げる。 「で、作りかけみたいだけど、何が題材なのかしら?」 そしてしなやかな猫の尻尾をぴこぴこ動かしてイゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)。 犬と狐と猫。獣人の3人娘が作りかけの雪像を前にして勢揃い。 そこで、恋華はふふふと笑いがら胸を張って宣言するのだった。 「……題材はね、私たち3人が仲良くしている様子の雪像よぉ♪」 というわけで雪像作りが始まった。 大きな雪の塊を削り、時には水をすこし足した雪を使って表面を持って造型を重ねる雪像。 雪の塊から生み出されていくのは、恋華が言うとおり、女性3人の像であった。 だが、単なる像では無い。 恋華が主導してテキパキ造型しているのだが、 「……やっぱり像とは言え他の人に見られるって思うと気恥ずかしい処はあるわね……」 苦笑しつつイゥラが言えば、桜狐もこくりと頷いて。 「やっぱり、ちょっと恥ずかしいです……」 表情は見せないが、銀の尻尾が当惑するようにゆらゆらと動いていたり。 だが、恥ずかしがる二人の様子に恋華はご満悦のようで。 「ほらほら〜二人とも、恥ずかしがっちゃ駄目よぉ♪ もっと仲睦まじい様子を表現しないと!」 どうやら、3人の像は単なる像では無いようだ。 実はこれ、3人が体を寄せ合って、仲良く……というかいちゃいちゃしている様子の像なのだ。 確かに芸術的に見えなくも無いのだが、それ以上に可愛らしさの溢れる像で。 「ほら、ここなんてもっとくっつけちゃってもぉ〜」 「って、ちょっと恋華! それはさすがに大胆すぎるわよ! もっと控えめに……」 ぴったり頬を寄せ合っていた二人の像をちょびっとイゥラが修正すれば。 「良いじゃ無いのぉ、見せつけたかったんだからぁ♪」 「見せ付けるとか言うんじゃないの! ただでさえ恥ずかしいのに……」 イゥラの言葉に、桜狐もこくりと頷くのだった。 そして、雪像作りは楽しげに進む。 「まぁ、やっぱりこうして一緒に共同作業、ってのは悪い気はしないな」 ぺたぺたと、雪を盛りつつイゥラが言えば。 「ん、寒いけど、結構簡単にできるし……こんなかんじ?」 「おお、尻尾か。うんうん、上手に出来てるな」 イゥラは桜狐が作った雪像を見てうんうんと頷いた。 「うん、本当に良い出来よ! うふふ〜桜狐は雪像でも可愛いし、イゥラは雪像でも美人よね〜♪」 赤い尻尾をぶんぶか振って、恋華は大いに満足げだ。 だが、そんな様子を見てイゥラと桜狐は小さく笑って。 「……やっぱり、恋華だけに任せなくて良かったな」 「ん、もし恋華に任せてたら……」 「ああ、とんでもないモノを作りそうだな」 そういって、くすくすと笑う二人に、何々どうしたのぉ? と首を突っ込む恋華。 3人は楽しそうに笑い合いながら、最後の仕上げに取りかかるのだった。 そして、数十分後。 「ん、完成です……」 ついに完成した雪像を前に、桜狐は満足げに頷いた。 「うふふ〜終に完成ね。コレさえあれば、私たちのアツアツっぷりがいつでも分かるってことよね〜♪」 「まったく恋華はもう、どれだけ修正したと思ってるんだか……」 嬉しそうな恋華に苦笑気味のイゥラ。3人は出来上がりに大満足であった。 「……身体が冷えてしまいましたし、何か温かいものを食べに行きませんか?」 恋華とイゥラにそう提案する桜狐。二人はもちろんと賛同する。 だが、そこで桜狐はふと気付いた。自分の像がなぜだか油揚げを咥えているのだ。 「……? って、いつの間にか私の像の口に油揚げが……」 「じゃあ桜狐。屋台の方にでも行ってみる?」 「そうね〜。なにか美味しい物をみんな一緒に食べましょう〜♪」 「え、えっと、あの油揚げは……」 「美味しそうな匂いがするわね、恋華? 桜狐は、なにか食べたいものとかあるかしら?」 「そうね〜。いろんな国の料理があるから目移りしちゃうわね〜♪ ……桜狐は油揚げ食べたいの?」 不思議そうに首を捻る桜狐を連れた恋華とイゥラ 3人はそのまま屋台の群れへと消えていくのだった。 ● そんな賑やかな3人組が嵐のように過ぎ去った後。 まだまだ雪像作りは大人気のようで、賑わう会場の中、楽しげに笑う二人の少女がいた。 「ね、キャメル姉さま! どうかな、大っきな犬を作りたいんだけど、こんな感じかな?」 もこもこと冬用の出で立ちの褐色の肌の少女は、フレス(ib6696)だ。 元気いっぱいに語りかける相手は、同じくらい小さな少女。 しかしながら、姉さまと呼びかけるその様子は親愛の情に満ちていて…… 「姉さま……」 姉さまと呼ばれている当のキャメル(ib9028)は、その言葉を噛みしめてちょっぴり感動中だった。 だがフレスは、じーんと感動しているキャメルを見てちょっと心配になってしまったらしく。 「……キャメル姉さま、姉さまって呼んじゃだめだった?」 しおっと耳を伏せてうるうると見上げるフレス。 捨てられそうな子犬のようなその表情にキャメルは慌てて笑顔を浮べると、 「ううん、違うの! キャメル兄弟姉妹がいないから新鮮な感じだっただけなの」 そして照れたようにはにかむキャメル。 「さあ、それぞれ一緒に雪像をつくって見せっこしよ♪」 「うん、私も頑張る! キャメル姉さまと一緒だから、すごく楽しいよ!!」 笑い合う二人は、仲睦まじくお互いに渾身の雪像を作るのであった。 昔は雪は嫌いだったけど、いまは好きかも。 そんなことを考えながら、キャメルはぺたぺたと雪を持って、愛着のある、とある動物を作っていた。 「キャメル姉さまは、何を作っているの?」 「キャメルは、くましゃんつくるのー♪」 ぺたぺたと、小柄なキャメルにとっては大きな大きな雪像ができあがっていく。 一方、フレスもぺたぺたこねこねと、言っていたとおりの大きな犬の雪像を作る。 大きくて、強くて、そして格好いい犬。 フレスは誰かを思い描くように、時折遠くの空を見つめてから、犬の雪像と見比べて。 強くて、頭も良くて優しくて格好良い、そんな想いを込めながら、フレスは犬の雪像をぺたぺた。 それを横目で見ながらキャメルもいっそう気合いを入れて熊さんの像を造るのだった。 そして像は完成した。 「くましゃーん!」 完成したキャメルの熊さん! ……いや、その出来は熊さんやくましゃんではない。 どっちかというと「熊!」が相応しい、堂々たる野生の熊の姿であった。 野に生きる野生の力、獰猛さとそして静かな迫力が充ち満ちる熊の雪像。 口にはしっかりと大ぶりな川魚を咥えたその熊の迫力たるや、となりのフレスがちょっと怖がるぐらい。 「……えっと、とっても強そうな熊さんなんだよ。キャメル姉さま、熊さんが好きなのかな?」 フレスはキャメルの裾をきゅっと掴んで問いかけてみる。 すると、可愛らしいお姉さん分のキャメルは、にっこりと微笑んで。 「うん、好きー!」 「キャメル姉さま、熊さんのどんなところが好きなの?」 「えっとね、美味しいところ! ……美味しそう」 じゅるりと微笑むキャメルを前に、フレスはきょとんとするのであった。 ……キャメルの故郷では、熊はごちそうだとか。 そして今度はキャメルがフレスの作品をじっとみつめて。 「フレスちゃんは、わんわん?」 「うん、強くてかっこいい、耳がぴんと立った、わんこ」 そう言いながら、フレスは自分の心を込めて作った犬を嬉しそうに見つめて。 「えっと、私の大事な人をイメージして作ったんだよ」 「にゅ? 大事な人? もしかして噂のだんなさま?」 フレスの言葉を聞き逃さずに、目をきらきらさせるキャメル。 「え、えっと……」 「お話ききたーい♪ あったかいご飯買いにいこーよ。食べながら女子会なの!」 こうしてお姉さんのキャメルは、あわあわと当惑気味のフレスを連れて屋台へと突進。 そんな二人を、優しい目の犬雪像と、食べられなくて良かったと安心する熊雪像が見送るのだった。 ● 「柚乃の像、作る……頑張る……」 雪像広場の一角で、懸命に雪像をつくるカラクリが一人。 柚乃(ia0638)の相棒の天澪。年の頃十ほどの可愛らしい童女のからくりが今日の主役のようだ。 そんな相棒をにこにこ笑顔で見つめる柚乃。 今日は彼女はモデル役のようで、じっと動かずに天澪が像を造るのを見守っていて。 そんな彼女の襟元には、いつもどおり管狐の伊邪那。 「天澪は言い出した事だし、ま、あたしは応援してるわー」 そう言いながら、くるりといつも通り襟巻役で。 そんな襟巻状態の伊邪那を羨ましそうに見つめるのは、もふもふと白い塊。 まるで雪山がかってに動いてるようなこの塊、もふらの八曜丸だ。 「……応援とか言いながら、ぬくぬくしてるのは、サボりというもふ」 「おだまり! あなたのほうこそさっきから雪をちっとも運んでないじゃない!」 襟巻と雪山がやいのやいのと言い争いを始めるのだが、これもまたいつものことだ。 そんな賑やかな中でも、天澪はじっと柚乃を見つめながら、ぺたぺたと雪像を作る。 柚乃の優しい瞳、長い髪、白磁の肌をなんとか雪の上に再現しようと苦心中で。 「なんだか、こうして相棒達が作ってくれるだなんて、嬉しいような恥ずかしいような……」 思わず笑顔と一緒にこぼれたそんな言葉を、襟巻気分の管狐、伊邪那はちゃんと聞いて居て。 「あたしがしっかり監督するんですもの! きっと素晴らしい雪像ができあがるわね!」 「監督と言っても、なにもしてないもふ」 「おだまり! これからよこれから! あたしが監督をしたら優勝間違いなしよ!」 「今年は優勝とかないもふよ」 もふもふと八曜丸はマイペースに。そして伊邪那は賑やかに。 そして時間が過ぎていけば、ついに完成したのは可愛らしい柚乃の像だ。 天澪の小さな手が作り上げた柚乃の雪像は、可愛らしく、しっかりと特徴を捉えた雪像で。 「柚乃の像、出来た……どう……?」 「あたしが監督したんですもの! 完璧よ完璧!」 「てつだったもふ!」 相棒達皆も満足げで、そんな天澪と伊邪那、八曜丸をぎゅっと抱きしめると、 「素敵な像をありがとうね。さ、皆でなにか暖かいもの、食べに行きましょう」 柚乃の言葉にこっくり天澪も頷いて。四つの影は賑やかな屋台へと向かうのであった。 ● 賑やかな3人のケモノ娘が作った可愛らしいいちゃいちゃの像。 それをみて、こういうのもあるのかと頷く一人の武人がいた。 続いてみるのは、並んだ大きな犬と熊の像。 二つとも、いろんな想いの籠もった立派な雪像で、それをみてその泰拳士は深く頷いた。 「なるほどな、見て回るのも楽しいが……参加するのも楽しみの内ということか」 羅喉丸(ia0347)はそういうと、自分も雪像を作る申請をして、場所を確保するのだった。 道具を借りて、基本を教われば、大概のことは出来る羅喉丸だ。 途中で、からくりともふら、それに管狐までが協力して像を造っているのを見て、 「こうして心を込めて作る、というのも良い作品を作るためなのだな」 そう考えた羅喉丸。彼も雪像作りの一人として、制作を開始するのであった。 羅喉丸の周囲をふわりと漂い、周囲の雪と雪像に感嘆する羽妖精。 「どれも凄いですね、羅喉丸……ところで、何の像をつくるのですか?」 彼女の名前はネージュ。白い甲冑を身に纏った雪の妖精だ。 輪とした雰囲気ながら、好奇心旺盛にきょろきょろと周囲を見回しているネージュ。 彼女を前に、羅喉丸は雪と氷をがしがし削りながら、 「ん? 折角の氷花祭だからな。雪にちなんで、雪の妖精の雪像でも作ろうかと思ってな」 そういって、手際よくネージュの姿を雪と氷で作り上げていく羅喉丸。 モデルになったネージュは、少しだけ照れくさそうにしながらも、羅喉丸に付き合うのであった。 泰拳士に必要な素質には、器用さがある。 動きの精妙さは全て器用さ故、なので羅喉丸は危なげなく雪像作りも慣れたようで。 「……うまく出来たかな」 「そっくりですよ、羅喉丸」 できあがったのはネージュの等身大の雪像だった。 難しい羽は氷から削り出した豪華な氷彫刻。全身の鎧まできっちり作られた見事な雪像だ。 満足げに完成した雪像を見つめる羅喉丸。 彼の雪像も、広場に居並ぶ沢山の雪像の仲間入りをしたわけで、 「……こうしてここに沢山の雪像が並んでいると、やはりなかなか壮観だな」 「そうですね。折角ですから、もっと他の雪像も見に行きましょう」 ネージュの言葉に羅喉丸は頷いて、さらなる傑作を探しに広場の奥へと進むのであった。 ● しろくまんとをはためかせ、雪像広場に立つ男が一人。 眼前には白い雪山。 どうやら彼はなかなかな大物を作る準備中のようであった。 「ふふん、見ていろよ! 皆が、わあかわいい! と思わず声を上げるようなものを作ってみせるからな!」 (`・ω・´) こんな顔で、うさぎのぬいぐるみに話しかけるラグナ・グラウシード(ib8459)。 彼は、猛然と雪山をぺたぺた固め、彫り、優しく飾り付け始めるのだった。 まるで雪山から生み出されるように、徐々に輪閣を表していく巨大うさぎ。 愛らしいつぶらな瞳、可愛らしく丸い頭。 片方だけが愛嬌たっぷりに垂れた耳に、今にも動き出しそうな手足。 このラグナという騎士。無骨な見た目に合わず筋金入りの可愛いもの好きなのだ。 そんな彼が全身全霊を込めて作り出した、可愛い可愛いうさみたんの雪像。 冷え性のラグナは冷たく凍える手を擦りながらも懸命に作り続けて……そしてついに。 「どうだうさみたん! そっくりだぞ……」 (*´Д`) ほっこり、そんな顔で見上げる巨大な雪像は、まさしくうさみたんの姿であった。 わぁと思わず声を上げたのは通りがかったネージュだ。 その後ろで羅喉丸もほうと声を上げる出来映え。 雪像の出来映えに感心したのか、はたまたラグナの努力に感服したのかは謎だが、ともかく。 「……よし、これで完璧だ! ……と、さすがに冷えてきたな。すこし暖かいものでも……」 そういってラグナは雪像を離れ、甘酒の屋台にふらりと足を向けたのだった。 ネージュと羅喉丸も他の雪像を見に離れ、次にやってきたのは子供達だった。 大きなうさぎの雪像だ。可愛い、凄いと大はしゃぎ。 だが、それも離れていけば、うさみたんの周りからは人がいなくなる。 そこに、ふらりとやってきたのは…… 「まったく、何を作っているかと思えば……どでかいうさぎの像とは……」 苦笑してうさみたんを見上げるエルレーン(ib7455)だ。 このエルレーン、ラグナとは犬猿の仲だ。 しかも、エルレーンは先程とある像を眺めてちょっぴりお冠であった。 それは、仲睦まじい3人の女性を象った雪像だ。 油揚げを咥えた狐娘に豊満な犬娘と猫娘が仲良くくっついた像。 その像の女性の胸は、どれもがなかなかに自己主張が激しかったようで。 「………はぁ、なによなによ」 ぷくっと頬を膨らましてむくれるエルレーン。 だが、そのまま邪心の無いうさみたんの像に見つめられていれば。 「はぅ………あいかわらず、すじがねいりのかぁいいもの好きなの」 可愛らしいつぶらなうさみたんの瞳にエルレーンは思わず笑みを浮べてしまって。 天敵のラグナが作った雪像相手に、パンチの一つや二つがめり込むかと思いきや、 「……こうした方が、もっとかぁいいのっ」 エルレーンは、自分の付けていた花飾りを、うさみたんに付けてあげるのだった。 それは屋台をてくてく歩いていたエルレーンが、行商の女の子から貰ったものであった。 可愛らしいその花飾りは、季節外れの本物で、色鮮やかな赤い野花だ。 それがうさみたんの耳元に収まれば、確かにぐっと可愛らしい。 エルレーンはそれをじっとみると、一際大きく頷いて。 ぱたぱたと足早に、雑踏の中に姿を消すのだった。 そしてしばらくしてラグナが戻ってくる。 背中でゆらゆらとぬいぐるみのうさみたんをゆらしつつ戻って来たラグナ。 彼はすぐさま、うさみたん雪像に付けられた花飾りに気付いた。 「おお! だれが付けてくれたのかしらないが、愛らしい……よかったな、うさみたん!」 思わず喝采を上げるラグナ。 宿敵の手によるものとは知らず、心の底から喜ぶ彼は、改めて屋台の方へと向かうのだった。 ● うれしくて、思わずスキップ混じりで屋台へとやってきたラグナ。 彼は一つの屋台に目を留めた。そこで働いているのは知った顔だ。 台を足場にテキパキ屋台を切り盛りするのは礼野 真夢紀(ia1144)。 からくりのしらさぎを相棒に、どうやら例年以上の忙しさのようで。 だが、どうやら真夢紀ちゃんもラグナに気付いたようで、 「あ、ラグナさんラグナさん! 丁度良いところに……ちょっと渡したいものがあるんです!」 ラグナは真夢紀の屋台へとやってくる。 ぐるりと料理を見回せば、串で食べやすく作ったお餅のお好み焼きに泰国風のあんまん肉まん。 その他、ジルベリア料理のカレーの入った蒸かし饅頭や、ジルベリア風のチーズ饅頭。 生姜の蜂蜜漬けのお湯割りやらお汁粉までが完備のようで。 「おおお、ちょうど寒かったところだ、お汁粉を一つ!」 「はい、おしるこ……どうぞ♪」 にっこりと笑うしらさぎからラグナはお汁粉を受け取って啜っていれば、そこに真夢紀がやってきて。 「はい、これ前に言ったうさみたん用のドレスとリボンです」 お姉様に作って貰ったんですの、と笑う真夢紀。 彼女は、ラグナからうさみたんを預かるとドレスを着せてあげて。 「おお、これは! ……雪像の花飾りだけじゃなくてドレスまで貰えるとは……か、かあいいなぁっ!」 くわっと感涙せんばかりに喜ぶラグナ。 そんなラグナの喜びように、真夢紀も嬉しそうに笑って応えるのだった。 そして、喜ぶラグナ以外にも、大いに真夢紀の屋台は繁盛していた。 「私たちもアツアツだったけど、ここの料理もアツアツで美味しいね〜♪」 「ん、寒い中で食べるのも……美味しい、です……」 「うん、偶にはこういうのも楽しいわね。お魚料理があるともっと良かったんだけど」 恋華と桜狐、そしてイゥラは屋台の片隅でわいわいとお食事中だ。 「お魚料理ですか? 魚入りのお饅頭や、汁物でしたら用意しますよ」 にっこりと笑う真夢紀に、それなら是非と喜ぶイゥラ。 「それでそれで、どんな人なのー?」 「えっと、強くて、頭も良くて、優しくて……」 キャメルとフレスは、お汁粉片手に女子会のようだ。 そんな二人からちょっと離れた席で、みんなに背を向けてはぐはぐ饅頭をかじるのはじつはエルレーン。 ラグナに見つからないように、ともぐもぐあんまんを食べつつも 「いやー、うさみたんよかったなぁ! 雪像もかあいいし、言うこと無しだ!」 大いに感激しているラグナの声に、思わずぷっと噴き出していたり。 そしてそんなラグナを不思議そうに眺めているのは柚乃たちだ。 きょとんとしている天澪を隣に座らせて、賑やかさに笑みを浮べる柚乃。 入っていいもふ? と尋ねた八曜丸は、真夢紀からもふら専用のメニューを貰ってご満悦だ。 そして屋台の温もりでますます伊邪那はくるんと柚乃の首元で体を丸めていて。 そこにふらりとやってきたのは羅喉丸。 「羅喉丸、屋台で一休みしますか?」 「ああ、見知った顔も沢山居ることだしな……ネージュ、何を頼む?」 羅喉丸が尋ねると、ネージュは目移りするほどの沢山のお品書きを眺めて長考に入ってしまったり。 そこにあらたにお客が。 「ああ、真夢紀さんこんにちは……そうそう、さっきすごい大きな兎の雪像を見て来たんですよ」 和奏の言葉に、うんうんと頷く光華。 「なんだかお花で飾られた愛嬌のある雪像で……そうそう、ちょうどそんなうさぎさんでしたよ」 和奏と光華が指さしたのは、もちろんドレス姿のうさみたんだ。 「あの雪像は、このうさみたんだからな!」 「……このうさぎさんが、あの像の元なんですか?」 「うむ、うさみたんはかあいいかっただろう?」 えへんと胸を張るラグナの様子に、なんだかうさみたんが困った顔をしているように見えたりで。 冬の祭の一日は、開拓者にとっても楽しい思い出の一幕となるのであった。 |