五里雪中の戦場
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや難
参加人数: 27人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/04 19:36



■オープニング本文

 護送中の賞金首が逃亡した。
 場所は武天北方の山道、現在激しい雪で視界の悪い古い街道。
 囚人護送の馬車が雪に足を取られている際に、囚人らが結託し逃亡したという。
 囚人等は全員が志体持ちの重犯罪者で賞金がかけられていた。
 今回、その追跡に関して、新たな賞金が懸けられ、追跡が始まったのだが……。

 問題は彼らが逃亡したのは雪の山中。木の多い森の中だ。
 天候は依然として悪く、さらにはこの季節、常に風が強く地吹雪が収まらないらしい。
 そこに逃げた賞金首の数は4名、それを追跡しなければならない。
 しかし、そこでさらに問題が発生した。
 視界が悪く、しかも今回は依頼として集団行動で賞金首を追うわけではないのだ。
 開拓者達は、賞金だけを狙って単独行動することとなっている。
 故に、最も気をつけるべきことは同士討ちである。
 賞金首と誤認して開拓者の仲間に刃を向けないように注意して欲しい。

 賞金首の情報は以下の通り。
 「刀鬼」白秋斎(トウキ・ハクシュウサイ)
 老境にさしかかった剣客。辻斬りで志体持ちの剣士を13名殺傷した狂人。居合いの達人。
 「血拳」亜昏(ケッケン・アコン)
 泰国生まれの泰拳士。職業暗殺者として要人を殺害。高速での強襲を得意とする爪使い。
 「黒鞭」ナイラ(クロムチ・ナイラ)
 獣人のジプシー。鞭とナイフを使う暗殺者。金で何でも請け負う女で、犠牲者数不明。
 「闇燕」(ヤミツバメ、本名不明)
 シノビ。遠距離からの手裏剣投擲を得意とする。武天の要人を狙ったため捕縛。

 この4名に対処して欲しい。生死は問わない。捕縛、もしくは撃破した場合賞金が下りる。
 撃破時には、武器を持ってきてくれればそれで首を持ってきた場合と同じに扱う。
 なお残念ながら全員再武装している。
 護送時に護送役人が手間を惜しんで、証拠品でもある賞金首の装備を同時に運んでいたためである。
 なお、この無能な護送役人は賞金首が脱走時に殺害されてしまった。
 生き残った別の役人が逃げ延びて、賞金首逃亡の事実を告げたためこの件が発覚した。

 さて、どうする?


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 相川・勝一(ia0675) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 御凪 祥(ia5285) / 菊池 志郎(ia5584) / 千代田清顕(ia9802) / レヴェリー・ルナクロス(ia9985) / 不破 颯(ib0495) / フィン・ファルスト(ib0979) / レイス(ib1763) / 黒木 桜(ib6086) / アルバルク(ib6635) / 羽紫 稚空(ib6914) / 羽紫 アラタ(ib7297) / 羽紫 雷(ib7311) / 伯皇 蛍(ib7377) / ケイウス=アルカーム(ib7387) / 煌星 珊瑚(ib7518) / 影雪 冬史朗(ib7739) / ライナー・ゼロ・バルセ(ib7783) / ゼクティ・クロウ(ib7958) / 緋乃宮 白月(ib9855) / 雪邑 レイ(ib9856) / 闇夜 紅魔(ib9879) / 沙羅・ジョーンズ(ic0041) / スチール(ic0202) / 神澤 将成(ic0322


■リプレイ本文


 地吹雪が吹きすさぶ山道にふらりとやってきた開拓者が一人。
「五里霧中、いや、五里雪中か……」
 風で散らされる雪の上に微かに残る足跡を見つめ、呟いたのは羅喉丸(ia0347)。
 彼は地面に残る足跡を見つめていた。
「……ふむ、すでに賞金首を追って他の開拓者たちが来ているようだな」
 新しい足跡も多いことに気付いたのだろう。彼はそう呟いて。
 そして新しい足跡を一つ一つ精査しながら、羅喉丸は古い痕跡を探していた。
 雪の表面に付いた足跡は消えやすいだろう。だが雪が深いからこそ、残る足跡もある。
 それは、たとえば全力で踏み込んだり、走って逃げるような深い足跡だ。
「……開拓者であれば、慎重に進むだろう。だが逃亡する賞金首なら……これだな」
 羅喉丸が見つけたのは、間隔が広くそして深い足跡、逃げるために走った痕跡であった。
「足跡は見付けたが、天候は回復しそうにない、か……何れにしても臆するわけにいかないようだな」
 そして羅喉丸は、地吹雪で散らされて肩に積もる雪もそのままに歩き出した。
 狙いはこの山の中、逃亡中の賞金首だ。
 他の開拓者に遅れを取るまいと、足跡を追って雪の中に。
 どうやら賞金首たちはバラバラに逃げたようだ。それを追いかける開拓者の足跡も方々に散らばっている。
 羅喉丸はそのうちの一つを追って、真っ白な地吹雪の中へと踏み込んでいくのだった。

 追う者の気持ちも様々で、そして備えも様々だ。
「……怪我人が出そうですし、お手伝い出来るかも知れません」
 かくりと小首を傾げて思案した礼野 真夢紀(ia1144)は、装備を調えて現場にやってきた。
 どうやら仲間の開拓者達はすぐに賞金首を追ったらしい。
「賞金首は……人里にでるかと思いましたが、潜伏するために山へ向かったのでしょうか?」
 足跡を見て見れば、逃げる跡も追う跡も全て山へ向かっている。
 確かに、超人である志体持ちの賞金首であればこの気候でも短期間なら潜伏できるだろう。
 ならば仲間と同じように自分も山へと踏み込まなければならない。
「…………念の為、髪が目立つ用にしておきましょう。攻撃されたらいやですしね」
 手袋に包まれた手で、もふもふと髪を帽子の外に出してなびかせる真夢紀。
 彼女もまた雪の中に踏み込んでいった。

「さぁてさて、無事賞金ゲットできるかねぇ。ま、やるだけやってみますかねっとぉ」
 へらりと笑う不破 颯(ib0495)。
 だが、声はすれどもその姿は見えない。地吹雪の中にすっぽりと溶け込んでいるようだ。
 白いマントで保護色のように体を隠した弓術士は、雪の中で周囲を警戒しつつ進んでいて。
「……ま、一番いいのは誰かが交戦中のところで、漁夫の利、なんだけどねぇ」
 飄々と呟く不破、彼は再び雪煙の中に姿を消していく。

「ハントー、ハントー、狩ってがっぽり儲けるのー♪」
「フィンちゃん、あんまり浮かれて隙を晒しちゃダメだよ?」
 雪の中、連れ立って進むのはフィン・ファルスト(ib0979)とレイス(ib1763)だ。
「大丈夫だよー。こう見えてちゃんと警戒してるんだから♪」
 そんな風ににこにこと請け負うフィンを見て、大丈夫かなぁと苦笑するレイス。
 この二人は主従であった。
 主はフィン。騎士の彼女は雪をものともせずにのしのしと道を進んでいく。
 そして周囲を注意深く窺いながら彼女を守るように付き従うのがレイスだ。
「……フィンちゃんに大怪我させないように注意しないと……」
 そんなレイスの視線には時折剣呑な光が宿るのだが、それは彼の生い立ちのせいだろうか。
 ともかく、二人はわいわいと話ながら雪の中を進んでいく。
 もちろん、そうすることによって賞金首をおびき出そうというつもりなのだ。
 果たしてそれが吉と出るか、それはもうすぐ分かるだろう。

 そして他の開拓者もそれぞれ賞金首を追跡しつつあった。
「視界が悪い中での戦闘になるでしょうしね……気をつけましょう」
 ロングコートとマフラーでしっかり防寒対策をした緋乃宮 白月(ib9855)。
 彼は、改めてコートの襟を合せて、地吹雪の中で身震いした。
 雪が降っていないとはいえ冬の雪山だ。
 ああ、ひなたぼっこが恋しい。
 そんなことを思ってぐるりと周囲を見回して、さらに先へ進もうとしたその時に。
 なにかを緋乃宮は感じた。それは小さな違和感か、それとも単なる虫の知らせか。
 だが、彼はすぐに警戒を張り巡らせてじっと構えるのだった。まるで猫のように。
 同じように一人で進む沙羅・ジョーンズ(ic0041)。
 煙る地吹雪をゴーグルで防ぎながら、淡々と彼女は歩を進めていく。
 手には宝珠銃と魔槍砲、砲科傭兵を名乗る彼女の相棒を手に、進む彼女はついに獲物を見付けた。
 敵は単独だ。砲術士の優れた視力はその姿を捉えたのだが、まだ細かい判別は付かない。
 もしかすると仲間の開拓者かも知れない。
 ならば、分かるまで静かに追跡すればよい。そう考えたジョーンズは、
「……このまま上手く単独の敵を仲間と連携できたら良いんだけどね……」
 静かに、しかし確実に気配を消しながら距離を詰め、敵の姿を見据えようと接近するのだった。
 そして寒さに震える開拓者が一人。
「剣士のひとりとして、殺人狂の賞金首など絶対に許すわけにはいかない!」
 寒さとは裏腹に、血気盛んに決意を告げるのは女騎士はスチール(ic0202)だ。
 幸いギルドで一枚コートを貸してくれたのでなんとか風雪はしのげているようだが、
「この手で八つ裂きにしてくれる! ……しかし、もっと防寒対策してくれば良かった……」
 どうやらやっぱりまだ寒いようで、ほうと白い息をついてごしごし手を擦り合せるのだった。
 そんな彼女の眼前の、地吹雪の向こうになにやら人影のようなものがあった。
「……っ、人影? もしや、賞金首……づああああああっ!! 手応えありっ!! もらっ……」
 気合い一閃、誰何することもなく切りつけるスチール。
 もし仲間だったらと思うと少々怖いが、その一撃は見事に人影を両断した。
 しかし残念。人影は雪だるまだった。その雪人形はなぜか、コートを羽織っていたので見間違えたのだ
「っ人違いでしたごめんなさい! ……ってなんだ、雪だるまか……」
 思わず慌てかけたものの、雪だるまだと分かって一安心するスチール。
 だが、なぜこんな所に雪だるまが? ふとそう思った彼女の後方に気配が。
 どうせ開拓者だろう、休憩がてら遊んでいたのかも? そう考えながらも即座に振り向くスチール。
「あんたもこの寒い中、たいへ、ん……」
 そこに、鋼の一撃が閃いた。


 雪と地吹雪は全てを包み隠すように吹き荒れていた。
 声も雪に吸いこまれ、地吹雪は姿を消すかのように猛威を振るう。
 その中で、仮面の女騎士はやっと人影を見つけ出した。
(此処で逃がすわけにはいかない……!!)
 仮面の騎士、レヴェリー・ルナクロス(ia9985)はぎりっとハルバードを握りしめる。
 賞金首を取り逃せば、どんな犠牲がでるかもわからない。
 それを恐れた彼女は義憤のままに、視線の先の影にじりじりと近付いていくのだった。
 その曇り無き義憤と、絶対に逃すわけには行かないという気負い。
 ……それが、かすかに彼女の判断を曇らせたのだろう。
「覚悟っ!!」
 ハルバードを片手に吶喊するレヴェリー。その相手はというと、
「……この視界の悪い中で見つけるのは大変だな……と、何奴!」
 とっさに武器を構えてハルバードの一撃を受け止めたのは相川・勝一(ia0675)。
 彼も、仮面の剣士であった。
 実は、現場にやってくるときに一度装備を忘れかけた相川。
 そのための準備不足と仮面による視界の悪さ、そしてこの気候のせいで彼も相手が誰か気付かなかった。
「そちらからやってきたなら好都合! 賊なら容赦せん! 速攻で決着をつけてやる!!」
 相川の気迫、だがその声も風と雪に防がれ切れ切れに。
「覚悟しなさい! 貴方を逃がすわけにはいきません、大人しくしなさい……!!」
 レヴェリーの気合い、こちらもまた風にかき消されてしまうのだった。
 そして同士討ちの戦いが始まった。
 相川はレヴェリーのハルバードを受け流すと、そのまま大きく雪を巻き上げながら横薙ぎ。
 レヴェリーはそれを後退して紙一重で回避。だが巻き上がった雪の向こうから、追撃の槍が飛んでくる!
「隙あり! この一撃で決める!」
 しかしレヴェリーは超反応。強引に体を捻ってかわして、槍は鎧の留め具をかすめて飛んでいく。
 相川の投げた魔法の槍は即座に相川の元へ。だが槍が戻る隙を逃さずレヴェリーはハルバードで追撃。
「ここは、一気に押し切る……はぁぁああ! これで決めるっ!!」
 裂帛の気合いとともに、大上段から振り下ろされるハルバード。
 これを戻って来た槍で受け止める相川。だが流れはレヴェリーにあり。
 一発ではとどまらず、連打連打で一気に押し込んでいく。
 その強烈なハルバードの一撃を、相川は槍でがっしりと受け止めて鍔迫り合いの形に。
 そこでやっと両者は、仮面の奥の相手に気が付いた。
 仮面? 仮面をしている賞金首はいただろうか?
「とと、開拓者!? す、すいません!? てっきり賊だと思って攻撃を……」
「……え。あ、あの……こ、此れは一体……!?」
 慌てて仮面を外す相川を見て大慌てのレヴェリー。お互い雪の中で武器をしまってお辞儀して。
「こ、こちらこそごめんなさい! てっきり賞金首だと思って……」
「あ、あの、さっきに槍の一撃、掠ったと思いますけど大丈夫ですか? 怪我をしていたり……」
 あわあわと、二人はお互いの怪我がないか、武具は大丈夫かと確認しようとしたところ。
 ごごごと変な地響きが。
 強烈な威力でハルバードを振り回したレヴェリー。
 槍を投げ放ち、さらには大立ち回りの相川。二人とも歴戦の開拓者だ。
 その二人が、短時間とはいえ、全力で暴れたのだ。
 ずずず、次は違う音が。どうやらそれは雪崩の兆候のようで……。
「……あ、さっきの一撃で雪が……っきゃー!」
「わわわ! な、なにかつかまらないと!!」
 というわけで、二人はごろごろ小さな雪崩れに巻き込まれていくのだった。

「……ぶはっ! ああ、びっくりした……あ、レヴェリーさん、無事ですか〜!!」
「……ぷはっ! え、ええ、なんとか無事……ああ、びっくりした」
 ぽこっと二つ、雪の中から顔をだす相川とレヴェリー。
 だが、そこでほっと安心した相川は、はっとあることに気付いた。
 そして、そのままくるっと顔を背け、赤面しつつ、
「……あの、やっぱりさっきの一撃で、その鎧が……」
「あら? …………っ!? ……えっとその……すこし向こうを向いていてくださるかしら?」
 雪塗れで鎧が脱げて散らばったレヴェリーはいろいろと大変な姿になっていた。
「……うう、こんな雪の中で着替えをすることになるとは思わなかったわ……っくしゅん!」
「ははは……えっと、すいません……はっくしゅん!」
「こちらこそ、ごめんなさいね……っくしゅっ!」
 くしゃみをしながら、苦笑する二人であった。


 ちりちりと、熱を帯びた長槍「紅蓮修羅」が音を立てる。
「……護送から逃れた賞金首、か……斯様な者と手を合せる事はそうそうないだろうな……」
 紅の槍を手に、御凪 祥(ia5285)は小さく呟いた。
 すでに彼は山の奥深くまで入ってきている。敵が現れるとしたらもうすぐだろう。
 周囲の視界は悪い。ならばと、気を引き締めた彼は心眼を発動した。
 なにも反応は無い。だが、確かに御凪の第六感はなにかを捉えている。
 槍を体に引きつけて、どこからの攻撃にも対抗できるように御凪は構えた。
 そこに、風と共になにかが飛びかかってきた!
 颶風のように、地吹雪をぶち破り飛びかかってきた影は蹴りを放つ。
 それを御凪は回避、だが続く一撃こそが本命だ。
 影は千代田清顕(ia9802)。蹴りからつなげた漸刃の一撃で忍刀「風也」が御凪の急所を狙う。
 これを御凪は、体に引きつけていた槍でかろうじて受け止めた。
 備えていなければ、無理だっただろう。
 しかし、千代田の刃は御凪の髪の1本をはらりと断ち切っていた。
「……女かと思ったけど、男か……来なよ。来ないなら俺から行くけどね」
 千代田は風に吹かれて飛ばされる髪を見て、再び飛びかかっていくのだった。
 くるりと跳びすさって距離をとった千代田。
 今度は、遠間から雪を蹴り上げて視界を奪う作戦だ。
 それを御凪は槍を振るって雪を払う。高熱を纏う紅蓮修羅は煙を上げて雪を蹴散らした。
 だがそれも千代田の読み通り。千代田は追撃で暗器を投げはなっていた。
 あくまでこれは牽制の投擲攻撃。肩や足を狙う暗器を御凪は穂先を縦横に振るって弾き散らす。
 その隙にシノビは一気に距離をつめ、鳩尾への柄の一撃を狙う。
 伸びきった槍の懐へ、もらったと確信する千代田。
 だが、それを御凪は槍の柄でがっきりと受け止めた。穂先を振るう勢いのまま槍を反転させたのだ。
 絶妙の一撃を防がれて、仕切り直そうと飛び離れる千代田。
 そこを逃さず御凪は追撃する! ゆらりと穂先をゆらしてから、回避不能の葉擦を放った。
 空中の千代田には、死角から放たれる葉擦の一撃は回避不能のはず。
 そして確かに槍は真っ直ぐに空中の千代田を捉えたのだが、
「……分身か」
 確かに捉えたその姿は、ぐにゃりと解けて消えた。
 千代田は、シノビの奥義、理によって影分身を身代わりとして一撃を避けたのだ。
 再び距離をとって退治する二人。
「……こんなに手強いとは聞いてないけどね」
「……」
 小さく呟く千代田に、同じ気持ちだったのか、じっと構える御凪。
 すると、偶然かちょうど地吹雪が止み、さっと木々の間に光がさした。
 両者は、やっと明らかになったお互いの顔を見て、はっとして。
「……手強いはずだ。祥さんだったのか」
「千代田さんだったか。………すまない」
「ははは、殺されるかと思ったよ」
 お互い、依頼では組んだことすらある相手同士は、相手の技の冴えを知って。
 ぎりぎりの攻防だったことを、怖く思いつつ、互いに知る友の技量の高さを改めて思い知るのであった。


 ごくりと喉を鳴らして、熱い酒を飲み下す。
 熱の塊が、ゆっくりと胃の腑へ落ちていき、そこでとどまり熱を全身に染み渡らせる。
「……雪山で狐狩りなんざ……昔を思い出すねえ」
 アルバルク(ib6635)はヴォトカの瓶を片手に、小さくそう呟いた。
 そんな彼の視線の先には帽子を目深にかぶった男の姿があった。
 その男の手には楽器が握られている。どこか見覚えがあるような背格好だ。
 だが、彼の知っている男とは服装が違う。ならば、相手は賞金首だろう。
 ごくりともう一度アルバルクはヴォトカを飲み干すと、ナイフと剣を手に一気に距離を詰めるのだった。
 狙われているのは、なんとアルバルクと同じ小隊の吟遊詩人ケイウス=アルカーム(ib7387)だ。
 雪が深く音は響かない。だが吟遊詩人の超越した聴覚が確かになにかを捉えた。
 はっとその方向を振り向けば、一気に近付いてくる男の姿が!
(あれは賞金首……!?)
 すぐさまケイウスはリュートを構えると、重力の爆音をたたきつけた!
 だが、その一瞬前、アルバルクはナイフをすでに投げはなっていた。
 場所はケイウスの頭上だ。ケイウスが重力の爆音を発動する寸前、ナイフは樹に突き刺さり雪を落とす。
 落下してきた雪が目くらましになった瞬間、アルバルクは横に跳びすさった。
 そこに直撃する重力の爆音。狙いはわずかにそれ、アルバルクが寸前までいた空間を直撃。
 たたきつけられた音の衝撃が、雪を円形状に吹き飛ばし、さらなる地吹雪が巻き起こった。
 その最中をアルバルクは真っ直ぐに進んでいた。
「……っ! 外した?!」
 慌てて距離を取るケイウス、牽制にジョーカーナイフを放つがそれはアルバルクの剣が弾く。
 ならばともう一度重力の爆音を放とうとするケイウス。
 だが、その瞬間、こちらを追撃してくる男が笑った気がした。
 果たして相手は本当に賞金首なのか、ふとケイウスはそう思って一瞬気を緩めてしまった。
 すると、びんっ! と足になにかが引っかかる。
 いつの間にかケイウスはアルバルクに追われて、誘導されていたのだ。
 その場所には雪に埋もれるように縄が張られていたのである。
「しまっ……!」
 手をリュートから離して転がるケイウス。そこにアルバルクが襲いかかった。
 砂塵の鳴き声で雪を巻き上げる剣の一撃。ごろごろと躱すケイウスだが、舞い散る雪で何も見えない。
 絶体絶命だ。転んだせいで、帽子はどこかに吹っ飛んでしまっている。
 最後のナイフを引き抜いて、慌てて構えた次の瞬間、そのナイフを持つ手をがっちりと捕まれてしまい。
 そしてケイウスの顔をじっとのぞき見ているのは、よく知った髭面の男だった。
「……た、隊長……?」
「おう、なんだやっぱケイかよ。お前じゃ金にならねえなあ」
 からからと笑う隊長の姿に、はあとため息をつきつつ、ケイウスはぐったり脱力するのだった。
「ああもう、死ぬかと思いましたよ?」
「おうおう、そりゃ悪かったなぁ。だが、すぐに賞金首を追うぞ。ほれ、ばらまいた装備とってきな」
「はぁもう、人使いの荒い隊長だなぁ……」
 どきどきする心臓を抑えつつ、ケイウスは、散らばったリュートや帽子を集めていて。
 そして二人は、改めて賞金首を追跡するのであった。

 だが、すでに他の場所で賞金首への追跡は佳境を迎えていた。


 賞金首の一人、黒鞭と呼ばれる女ナイラはあっけにとられていた。
 逃走してしばし、山で潜伏してから遠くの街へ逃げようとしていたその最中。
 即座に追っ手が掛かったらしく、1人2人を返り討ちにして時間を稼ごうとしたのだ。
 こうした戦いの場合、開拓者よりも暗殺稼業の自分の方が上手だという自負があった。
 なので、待ち構え、気配を消して静かに機会を窺っていたのだが……
「これ、なに……?」
 彼女が見付けたのは、雪山の中、にょっきりと作り出された石の壁による休憩所であった。
「はーい、皆、お茶がはいったよ」
 お茶を配っている給仕姿は羽紫 雷(ib7311)。
 なんと彼らは11名の大所帯の小隊がまとめて追跡にやってきたのだ。
 雷の紅茶を仲間10名は次々に受け取って。
 地吹雪は、ゼクティ・クロウ(ib7958)のつくりだしたストーンウォールが防いでいる。
 そして空気は寒いが、その中で飲む暖かい紅茶は格別で、仲間たちはほうと幸せなため息をついて。
 そんななか雷は、3人仲間の元へ最後の紅茶を運んでいた。
 だが、手渡された3人は、妙に怪訝な顔だ。
「ん? なんだい? どうしたんだい? 美味しいだろ? ……俺の特性紅茶♪」
 羽紫 稚空(ib6914)は、じっと手の中のカップを見る。でろりとしてる気がする。
 羽紫 アラタ(ib7297)も、じっとカップの中を見る。やっぱりでろりとしてる気がする。
 そして最後の一人、ライナー・ゼロ・バルセ(ib7783)は、特に気にせず、紅茶を飲もうとして。
 すると稚空もアラタも、他の仲間たちの視線に促されて一緒に飲み干すのだが……
「ぶ、ぶほっ!! な、なんだこれ! すげぇ甘いってかどろどろしてる!!」
 稚空はむせた。紅茶は蜂蜜たっぷりの特製品だったのだ。
「ざけんな、クソ兄貴! 殺す気か!」
 アラタはキレた。がばっと立ち上がり雷に食ってかかろうとする。
「げほっ! な……なんで俺まで……?」
 ライナーはちょっと泣いた。雷は彼のも特製にしたのは何となくという理由だそうだ。
 ともかく、ぎゃーすと3人は地獄のように甘い紅茶を飲まされて、雷へと反撃の構えだ。
「ふ……上等じゃねーか! これでもくらえー!」
「ああ、これでも喰らいやがれ!」
「加勢するぜ、稚空、アラタ!」
 反撃は雪玉だ。雷めがけてしゅぱんしゅぱん3人が雪玉を投げる。
 だが雷はひらひら避けて、それどころかハリセンを構えて、弟二人をしゅぱぱーんと叩いて。
「……紅茶を配っているというのに、万が一大事な隊長が火傷したらどうするんだい?」
 ゴゴゴと怒りのオーラを笑顔で放射。
 だが、それにも負けじと3人は雪玉で応戦するのであった。

「ふふ、仲がいいですね♪」
 そんな光景を眺めているのは、小隊長の黒木 桜(ib6086)であった。
「我が隊は、やはりこうでなくては」
 満足げに頷きつつ、紅茶を静かに一口。
 だが、雪玉合戦は激しさを増していた。満足げな桜はおいといて、心配げに見守る仲間もいるようだ。
「影雪さん、これ……どうしましょう、止めるべきかしら?」
「そうだな……これ以上無駄に体力の消耗は困る……が、俺で止まるだろうか……?」
 不安げに見つめるゼクティ言われ、影雪 冬史朗(ib7739)も、困り顔だ。
「そうだな。そろそろ止めたほうがいいんじゃないか?無駄な体力の浪費は、この雪山の中では無謀だ」
 賛同するのは雪邑 レイ(ib9856)。彼も頷いて、
「……ま、寝てしまうよりはマシなんだろうが」
 といっても、あれに割って入るのはそれこそ自殺行為だと皆は悟っているようで。
「……たのしそうじゃねーか、俺も混ぜろ! 羽柴兄弟! 加勢するぜ雷!」
 そんな時に、もう一人テンション高く加勢したのは闇夜 紅魔(ib9879)だ。
 ますます雪合戦は白熱していくのだった。

「あら、どうしましたか神澤様?」
「黒木隊長、今回はすまないな。俺の申し出を受けてくれて。おかげで隊に入れて腰落ち着けたような気分だ」
 そんな賑わいの中で隊長の下へやってきて告げたのは神澤 将成(ic0322)。
 神澤は、賑やかに雪合戦している仲間たちを見守って。
 ちょうど雪玉の流れ弾がぽんぽんと飛んでくる。
 黒木や神澤はひょいひょいと躱したのだが、躱し損ねたのはゼクティと煌星 珊瑚(ib7518)だ。
 きゃっきゃと雪合戦ではしゃいで居た男たちに電流走る。
 雪玉が頭に命中して雪塗れになった女性2人は、ぱさりと雪を落とすと、笑顔を向けた。
 怒ってない? 否、臨界点突破だ。
「わ、悪い珊瑚! って、うわっ……やりやがった……な……?」
「へ〜、ふーん……あんたたち、覚悟は出来てんだろうね?」
 ライナーは、珊瑚が投げ返してきた雪玉を喰らって、反撃しようとしたのだが、その顔を見て硬直。
 一方のゼクティは、
「……あたしが止めてもいいけど、皆死んじゃうかも……」
 ゴゴゴゴと渦巻く魔力を噴出していた。それを影雪たちが必死で止めていて。
 そんな一同を眺めて、改めて笑みを浮べる神澤。
「……こんな雪の中、楽しそうだな。良い隊に入ったようだ、俺は」
「ええ、それは保証しますわ。やはり我が隊はこうではなくては」
 にっこりと笑って、そう請け負う黒木であった。

 ……ちなみに、事の顛末を述べておこう。
 この一団が油断していると思った黒鞭のナイラは、なんとか各個撃破を狙おうとした。
 だが、この一団はこの楽しげな様子もそうなのだが……戦闘集団としても連携が取れていたのだ。
 それだけが黒鞭ナイラの油断であった。

 ナイラの接近は二重三重に感知されていた。
「来たわよっ!」
「……来たぞ」
 まずは珊瑚と雪邑の人魂が接近するナイラを捕捉した。続くのは影雪の心眼だ。
「雷、周りの警戒は忘れるな」
「ああ、あっちだ!」
 さらに雷が超越聴覚、そしてすでに一同は連携して戦闘準備を整えて居た。
「参るっ」
 最初の一撃は、神澤の地断撃だ。雪を切り裂いて視界を確保。
 続いて遠距離攻撃が連続して放たれた。
「青き炎よ、奴を狙い焼き尽くせ!」
 雪邑の火炎獣が青い焔を噴き出して、巻き上がる雪は全てかき消え、炎の余波がナイラの突進を止める。
「ゼクティ、力を貸せ! 君なら心配ないだろうが……援護のタイミング、逃すなよ!」
「ええ、任せて!」
「よし、いまだ……やつを身もろとも凍りつくせ! 氷龍召喚!」
 アラタの氷龍に合せてゼクティはブリザーストーム。
 氷雪の二段攻撃が熱波を喰らったナイラを再び凍り付かせた。
 だが、まだまだ攻撃は止まらない。
「さあ、一気に畳みかけましょう。私達も、やる時はやるんです! 絶対逃しは致しません!」
 小隊長の桜の檄が飛ぶ。彼女は舞で稚空と影雪を援護。さらには雷による剣の舞までが響き渡る。
 まず吶喊したのは闇夜だ。
「こいつを喰らいやがれ! 牙狼拳!」
 単騎であれば隙を晒す技もこの小隊ならば連携の要。
「逃がさねぇ!」
 続くのは守りの要、ライナーだ。ポイントアタックで苦し紛れのナイラの鞭を切り裂いて完封。
「行くぜ! 冬史朗!」
「ああ!」
 続いてフェイントで連携する稚空と影雪。2人は一気にナイラへと切り込んで。
 鞭を切り裂かれ、峰打ちで吹っ飛ばされたナイラ。
 そこにトドメとばかりに待ち構えていたのは、珊瑚だった。
「……最後に、あたしの拳をくらいな!」
 霊青打の一撃で、ついにナイラは昏倒。
 そのまま縄で縛られるのであった。
 小隊総勢11名による連携によってナイラは捕縛された。
 賞金は3万ほど。これが11名に分配されることとなった。


 鋼が閃き、眼前に迫る。
 とっさにスチールは鎧の頑丈な部位で受け流しつつ、盾を構えて飛び退いた。
 だが、ちりっと熱さが生まれる。
「な、なんだ、これ……血が……」
 二の腕をかすめた一撃が熱さを生んでいた。浅くだが斬られたのである。
 だが居合の一撃を躱された老剣客は苦々しげに顔をしかめていた。
「貴様……刀、鬼……」
「ふひょひょ……その通りじゃが……御託はいるまいて……死ぬが良い」
 炯々と目を輝かせた剣客はスチールへと向かって一気に襲いかかるのだった。

 だが、次の一撃をがきりと防いだのは氷の花弁だ。
「大丈夫ですか? 今、癒しますから……」
 氷咲契を使って、二発目の居合を受け止めたのは礼野真夢紀だった。
 やっと追いついたのだろう。彼女はスチールの傷を即座に癒そうとした。
 だが、刀鬼はにたりと笑って、
「ひょひょ、小娘二人。やすやすと傷を癒すのを見守ってると思うてか?」
 吼えた老人は、今度は礼野に狙いを定めて一気に襲いかかった。
 しかし、スチールはその眼前に躍り出て、居合の一撃を盾と鎧でかろうじて受け止める!
「なにぃっ!」
「我は鎧、我は鉄! 女子供を守る者なり!」
 防御を固めたスチールは、その言葉の通り決死の覚悟で礼野を守ったのだ。
 ぎしりと歯噛みする刀鬼、さらに追撃しようとするその手に、矢が突き立った。
「っがぁっ!! ど、どこだっ!!」
「……女子供をいたぶって喜んでるから、隙だらけなんだぜぇ」
 雪の中から姿を現したのは不破だ。
 言葉の通り漁夫の利を得た形だが、決定力に欠けたスチールにとっては救世主である。
 さらに、手と肩を矢で射貫かれて刀鬼は武器を取り落として。
「さ、あんた。さっさとそいつをふん縛っちまいなぁ」
「……あ、ああ。助かったぞ!」
 こうして、刀鬼も捕縛されるのであった。

「だれっ?! 攻撃してきたってことは、開拓者じゃないわよね!」
 飛来して来た手裏剣を、盾と鞘入りの剣でたたき落とすフィン。
 彼女は大音声で誰何し、自分たちは開拓者だと告げた。
 だが、返答は手裏剣としてやってきた。
 死角から、フィンの後ろ。首筋を狙う危険な手裏剣が何枚も。
 だが、それをたたき落としたのはレイスだ。
 拳の技で手裏剣をたたき落とし、周囲を窺う二人。
 接近戦に長けた二人の相手は、どうやらシノビの闇燕だ。少々分が悪い。
 だが、その助けは予想外の方向からやってきた。
「二人に攻撃したってことは……賞金首で確定だな!」
 轟音とともに魔砲「メガブラスター」を放ったのはジョーンズだ!
 樹をへし折って放たれた巨大な一撃、それによって闇燕の所在が明らかになる。
 ひらりと飛降りた賞金首のシノビ、手裏剣の間合いをとるために姿をくらまそうとする。
 そこに追撃するジョーンズ。短銃を手に、狙撃で狙いを定めて逃がさない。
 その隙さえあれば、フィンとレイスには十分だった。
 瞬脚で距離を詰め、一気に接近するレイス。その勢いのまま旋蹴落で相手の動きを止める。
 ジョーンズも、短銃を構えたまま、連携を見守っていると、
「フィンちゃん、あとはよろしくー♪」
「まかせてー! ……おっしゃ、かっ飛べぇ!」
 なんと、追いついたフィン。鞘に入ったままの剣でオウガバトルによる最大攻撃!
 防御力の弱いシノビの闇燕は、そのままぶっ飛ばされて、樹にたたきつけられて。
「……よし、大丈夫そうだな」
 にっと笑うジョーンズの言葉の通り、完全に気絶してしまったシノビを縛る3人。
 無事、賞金首を捕縛し、依頼を達成するのであった。

 そして最後の一人を追っているのは菊池 志郎(ia5584)だった。
 巫女の彼にとっては、強敵の亜昏。気配を消して近付くのだが、秘策の影縛りの射程は短い。
 この距離に踏み込んでしまえば、反撃を受けてしまうだろう。
 亜昏を少し遠くに見据えながらも彼はじりじりと焦れていたのだが。
 ぱきり、彼の足下で枝が折れた。
「しまったっ!」
 すぐさま亜昏は反応して瞬脚から爪を振るってくる!
 だが、巫女ながら菊池は月歩で距離を稼ぎ躱す! 紙一重の回避だ。
 そして、次の瞬間、一瞬で決着が付いた。
 飛び込んできたのは羅喉丸と緋乃宮だ。
 二人とも歴戦の泰拳士である。しかし亜昏も歴戦の暗殺拳士。
 そうそう遅れを取るはずはなかった……相手が羅喉丸と緋乃宮でなければ。
 亜昏の爪の一撃、緋乃宮は八極天陣で躱す。
 狙いが緋乃宮に向けば、羅喉丸が泰練気法・弐で三連攻撃。
 これを亜昏がなんとか躱す。するとこんどは緋乃宮が武布による三連攻撃だ。
 両者から雨あられと降り注ぐ連続攻撃。
 だが、それを凌ぐ亜昏も達人であった……だが、彼は忘れていた。
 すぐそばに、菊池がいたことを。
 影縛り、それは一瞬でも十分だった。
 動けなくなった一瞬、そこに叩き込まれる羅喉丸と緋乃宮の連打!
 それだけで、亜昏は昏倒し捕縛されるのだった。
「……苦しむのを見ても楽しくはないですから」
 暗殺拳士はその後、菊池の手で癒されたが大人しく縛についた。
 おそらくはこの3人にはかなわないと思ったのだろう。
 こうして、3人も最後の一人を捕縛し、無事に依頼を達成するのだった。

「あーあ、賞金が……」
「ま、こういうこともあるわなぁ」
 残念がるケイウスを慰めるアルバルク。
 悔しい思いをする者もいたようだが、ともかく無事に賞金首は全員捕縛。
 依頼は完璧に達成されたのであった。