船員求む!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/29 22:35



■オープニング本文

「まったく、どいつもこいつも肝っ玉の小さい男ばっかりだね!」
 飛空船の上で、真っ赤な髪を振り乱して怒鳴る女商人。
 彼女の名前はシュンレイ、泰国で飛空船を駆る若き女傑だ。
「たかが命を狙われてるぐらいで、船を捨てるなんて、まったく嘆かわしいよ!」
 だが、さすがに今回、彼女はそう嘆きながら実はとても困っていた。
 なぜなら、雇っていた船員が皆、船を下りてしまったからだ。

 彼女の飛空船の名は「玉麒麟」号という。
 快速小型船を輸送のために改修した船で、運べる荷は多くないが速さと戦闘力を兼ね備えた良い船だ。
 普段なら、船長の女商人シュンレイに加え、雇われの船員たちが彼女に従い船を動かすはずだった。
 だが、その船員たちが今回全員暇乞いをして、船を下りてしまったのだ。
 その原因は、ある噂だった。
 この女船長シュンレイは、女傑として名高い人物だった。
 儲けと、そして仁義を通すためなら危険な航海も何のその、命をかけて荷を運ぶ。
 そして、妨害にも屈すること無く筋を通す好人物である。
 だが、そのために彼女は睨まれてしまったのだ。
 とある村からの助けに応え、食料と衣料品を破格で運び村を救った彼女。
 だが、その村を支配しようと兵糧攻めにしていたのは、とある八極轟拳の幹部であった。
 八極轟拳の幹部の名は「窮奇のリシ」。自前の飛空船をもつ女泰拳士だ。
 彼女は、企みを女商人のシュンレイに邪魔をされて怒り心頭、彼女の妨害工作をはじめたのである。
 日々激しくなる妨害や、悪い噂の流布、果ては暗殺計画があるとまで噂が広まって。
 そしてその結果、乗組員は全て去ってしまったというわけである。
 流石に女傑の女商人といえど、人が居なければ船は動かせない。
 すると、最後に1人残った彼女の部下……否、相棒のからくり「ツバメ」が主に告げた。
「シュンレイ様、一つ考えがあるのですが」
「ん? このにっちもさっちも行かない状況を打開する良い策があるっていうのかい? ……言ってみな」
 大杯で強い酒を呷っていたシュンレイは、杯を乱暴に放り投げるとツバメに向き直った。
「はい。八極轟拳と真っ向勝負になっても、物怖じしない方々に船員を頼むのです」
「ほうほう、だがなぁツバメ。そういう勇士も居ないわけじゃ無いが、探すのも一苦労だぞ?」
「いえ、依頼を出せば良いと思うのです。開拓者に」
 それを聞いて、シュンレイはパシンと手を打って。
「なるほどな! そういえば最近、開拓者たちの活躍も良く聞くな。なら、一つ賭けてみようか!」
 朗笑しながらシュンレイはそういって、2人は泰国のギルドへと赴くのであった。

 そして、依頼が出された。
 内容は、飛空船「玉麒麟」号の船員募集だ。
 今回、泰国内部のとある場所、なんと八極轟拳の支配領域の中のある場所へ荷を届けに行くらしい。
 荷物は大量の医薬品と食料、そしてなんと武器だ。
 荷物を受け取る相手の素性は定からしく、依頼自体には問題はないらしい。
 だが、そんなにを運ぶとなれば、八極轟拳の幹部「窮奇のリシ」の妨害は確実だろう。

 なお、追加情報として、女商人シュンレイとその相棒、ツバメについて記しておこう。
 シュンレイは、年の頃30前後の女性、志体を持つ泰拳士出身の女傑。
 名は鷺・俊麗(ロ・シュンレイ)。大柄で豪快な女商人で、商人の護衛から独立して商人になった。
 なお、彼女が独立してからは10年ほど。
 少し前に手に入れた相棒の女性型からくり、ツバメと共に船を操り、それなりに成功しているらしい。
 ちなみに、シュンレイは槍の名手、ツバメは機械弓の扱いを得意としているようだ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
海神 雪音(ib1498
23歳・女・弓
将門(ib1770
25歳・男・サ
トィミトイ(ib7096
18歳・男・砂
豊嶋 茴香(ib9931
26歳・女・魔
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
津田とも(ic0154
15歳・女・砲


■リプレイ本文


「飛行船の船員さんですね……余り経験が無いので、少し自信が無いのですが……」
 船は今、荷物の積み込みの最終確認をしていた。
 そんな「玉麒麟号」を見上げて、不安をこぼす柊沢 霞澄(ia0067)だったが、
「なぁに、大丈夫だよ! こうして依頼を受けてくれただけでも大助かりさ!」
 がしっと霞澄の背中に手を置いて、大笑するのは依頼人のシュンレイ。
「それに、危険を承知で来てくれてるんだ。その胆力がありゃ、問題なしさね」
 からからと笑いながらひょいと食料を入れた樽を運んでいくシュンレイ。
 それを見送った霞澄は、隣でぐるると唸りながら首を傾げている相棒の炎龍を見上げて。
「……紅焔、一緒に頑張ろうね……」
 そう告げれば、炎龍の紅焔は一際大きく唸って応えるのだった。
 出発前、開拓者の一人が連れて行く相棒をを間違って申請してしまう失敗があったとか。
 だが、それもギルドの取りなしで何とか正規の相棒を連れて行くことが出来て。
 いよいよ船は空の旅へと出発した。

「だんだんと慣れてきたな。船長、こんなところか?」
「ああ、なかなかに上手いな! 開拓者じゃなきゃうちの船員に欲しいくらいだ」
 舵輪を握る将門(ib1770)に女商人は笑って応える。
 船の旅は、なかなかに快適に進んでいるようであった。
 相棒達は甲板や船倉で落ち着いているようで、天候は晴天、揺れもなく船はすいと空を切って進む。
「宜しく」
「はい、こちらこそ宜しくお願いしますね。豊嶋様」
 頭を下げるからくりのつばめの手をとって、握手握手と笑顔を見せる豊嶋 茴香(ib9931)。
 彼女の役目は航海士だ。
 空に道はないわけで、正しい方向に自分たちが進んでいるかを常に確認しつつ進まねばならない。
 地図で見る地形、遠くの景色、時には太陽や月、星すら指針にしてすすむのである。
「ええと……ここは、こう?」
「はい、地図はこちらに合せるのが大事ですね。六分儀もあとで使って合せましょうか……あ」
 そこでぱっとツバメは顔をあげて。
「柊沢様もお手隙でしたら、航海士のお仕事を手伝っていただけますか?」
「あ……はい、何を……したらいいでしょうか?」
「ええと、観測員の方にも手伝って貰いますが、交代で確かめた方が間違いが無いですから」
「わかりました……ではお手伝いさせていただきますね」
「私からも、ありがとうね。はい、きみはこっちをお願いね。明日の航路なんだけど……」
 豊嶋は危機として柊沢に地図の写しを手渡して、作業を進めていくのだった。

 一方、船の甲板で、風に髪をなびかせながら海神 雪音(ib1498)が観測員を務めていた。
 周囲の警戒や天候変化を感じ取ること。それには勘が鋭く視力の良い弓使いは適任だ。
 だが、彼女は油断なく周囲を窺いながら、なにかしているようだ。
 陶器製の半球を二つつなげて球にして。油紙で包んでぴっちり密封。
 1カ所だけ穴を残しておいてそこから油をたっぷり注ぎ、蓋を塞いでさらに密封。
「……ああ、雪音、だったか?」
「はい、船長さん、なにか御用でしょうか」
 テキパキと頭ほどの大きさの球を造りながらそれを紐でぐるぐる巻きにしつつ、海神が応える。
「いや、用って訳じゃないんだが……それは確か用意しておいた油だよな? なにしてるんだ?」
 そんなシュンレイの問いに、雪音は一つをひょいと持ち上げて、
「油を入れた球を作っているんです」
「……うむ、そうだな。それは見てたので分かるが、攻撃用か?」
「はい、敵船にぶつけようかと。あとは、火薬で小型の簡単な焙烙玉を作りたいのですが」
「ああ、そんなに大量ではないが小量なら用意できた、可燃性が強いもので良かったよな?」
「ええ、助かります」
 淡々とした雪音は、さらに続けて小型の火薬玉を造っていくのだった。
 それを船長のシュンレイはじーっと見つめる。職人気質なのだろうか、それとも退屈なのだろうか。
 無表情な雪音を観察して…………すこしだけ、彼女が楽しそうであることを頑張って見抜いたようで。
「うむ、まぁ大丈夫そうだな。うむうむ」
「?」
 なんだか得心して満足げに去って行くシュンレイを雪音は不思議そうに見送るのだった。


「……大丈夫か、早瀬」
 心配げに相棒の鷲獅鳥を見つめる篠崎早矢(ic0072)。
 だが鷲獅鳥はぷいっと首を背けてしまった。元来鷲獅鳥というのは気むずかしくて獰猛なのだ。
 空を一緒に飛んで戦うとなれば、一蓮托生だ。
 だが、この鷲獅鳥の早瀬はまだ手元に来てから日が浅いのか、まだまだ心配なよう。
 ごそごそと篠崎はえさ入れから肉を取り出して、
「ほら前払いだ、無事に戦ってくれたらこの三倍食わせてやろう!」
 手の上の肉をしばし観察する早瀬、ふんふんと匂いをかいだ後がぶっと噛み付いて一息で飲み込んで。
「……だからまかり間違っても振り落とされて転落死とかやめてくれよ! ほんとに!」
 そう言いながら、甲斐甲斐しく世話を焼く篠崎。
 相棒の早瀬もそれはまんざらでも無いようで、まあなんとかご機嫌は取れたようである。
 そんな、二人の後継を影から見てたのは、やっぱり船長のシュンレイ。
 彼女はこっそりくつくつ笑いながら、朋友達のいる船倉を後にして向かうのは機関部だ。
「蒼羅、宝珠機関は問題ないか?」
「ああ、問題ないようだ……船長」
 機関部にいたのは機関手の琥龍 蒼羅(ib0214)だ。
 飛空船は、浮遊と推進にその宝珠の力を使うのだ。その力を生み出すのがこの宝珠機関。
 つまりこの機関部こそが船の心臓部である。
 大型の出力をもつ宝珠機関は少なく、かなり高価だ。そのためこの機関はシュンレイの自慢でもあった。
「どうだ、良い機関だろう! 玉麒麟号はな、速力を出そうと思って風宝珠に大分金をつぎ込んだんだが」
 どうやら船長のシュンレイ、それを自慢したかったらしくて話し始めたらとまらないようで。
 ふむ、と時折相づちをうちながら、口数少なく聞き手に回る琥龍だったが。
「それでな、一度空賊に狙われたときも、この船の足があったからこそ……」
「……ふむ」
 とりあえず、シュンレイは満足しているようなので、琥龍は淡々と武勇伝を聞きに回るのだった。

 黙々と後方の甲板上で火縄銃の手入れをしている津田とも(ic0154)。
 彼女は砲術の専門家であった。そんな彼女が、まずしたことは宝珠砲の整備と確認だ。
 大砲は船首と左右に一門ずつ。この大きさの船としては普通の数だろう。
「とすると、やっぱり後ろからの奇襲が怖いな。艦砲戦となりゃ、上方背後を取られるとマズイと……」
 砲撃手として、周囲を見回す津田。そこに遠くから声が響いてきた。
「天候が変わるようだ。雲が少しずつ増えてきている! ……雨はまだ大丈夫そうだけど」
 観測手の一人、海神が皆に注意を促しているようだ。
 すぐに津田は周囲を窺う。すると増え始めた雲があっというまに船の下に雲海を作り出していた。
 どうやら大分低いところに雲が出たようだ。これならおそらく地上は雨か霧が出ているだろう。
 暫くして、津田はなにか嫌な気配に気付いた。後方の船下方、雲海の中。
 あそこにもし敵が居るとしたら、砲撃の範囲からは外だろうが、奇襲をうけかねないのでは……。
「おーい、ちょっときてくれ」
「ん? 呼んだか?」
 呼ばれてきたのはトィミトイ(ib7096)。もう一人の観測手だ。
「ああ、ちょうどいい。砂迅騎の目でなにか見えるか確認して欲しいんだが……」
 そういって狙撃手として後方の雲海を見据える津田。
 トィミトイも同じく、砂迅騎の技で視力を強化し後方を見据える。
 だが、雲の海は深くそこには何も見られなかった。
 ……杞憂だろうか。だが、開拓者2人はやはり嫌な予感がぬぐえなかった。
「ん? なにか見付けたか?」
 そこに顔をだしたのは船長のシュンレイ。2人の顔からなにかを読み取ったのだろう。
 彼女は表情を引き締め、事情を聞くと、
「そうか。だったら警戒すべきだろうな。航海士! 地図上の位置はつかめてるな!」
「あ、ああ。大丈夫だ!」
「……現在地はここです……」
 豊嶋と柊沢がすぐにやってきて地図を示す。場所はぎりぎりで八極轟拳の支配領域の中であった。
「操舵手、取舵、とーりかーじー! ぐるっと回るぞ。船の大砲も準備だ!」
「船長、敵が居ると決まった訳じゃ……」
 即決した船長に思わず津田は尋ねるが、シュンレイは首を振って。
「いや、開拓者達が怪しいと感じているんだ。きっと何かあるはずだ。私はお前達を信じる」
 そういってにっと笑うとすぐさま配備に付くため指示を飛ばし出して。

 そして船は大きく迂回しながら航路をそれた。
 するとすぐさまに後方に影。雲海から浮かび上がる船の姿が現れた!
「敵襲! やっぱり予想通りか!! ……敵影九時の方向だ、総員警戒しやがれ!!」
 津田が声を上げながら、すぐさま宝珠砲を準備する。開拓者達の尽力によって奇襲は避けられたようだ。
 だが、すぐさま敵船から10の龍が。
 敵船も、こちらの船に勝る速度で近付いてくる。そして緊張の一瞬。
「……まずは砲撃戦だ! 龍を打ち落とすよ!!」
「「了解!!」」
 船長の檄に、開拓者達が応え戦闘が始まった。


 操舵は船長のシュンレイ。機関にツバメ。船は最低限の航行を出来る形で開拓者達は戦闘準備。
 まず、玉麒麟号の宝珠砲が轟音と共に火を吹いた。
 狙いは接近してくる龍たちだ。砲手は琥龍と津田。
 琥龍は過去に宝珠砲を扱った経験で、津田は砲術士として、宝珠砲を十分に操っていた。
 だが、流石に大砲では中々に龍を捉えられない。
 甲板で、弓を構えるのは弓術士2人。海神と篠崎だ。
 歴戦の弓術士の弓は銃弾もかくやという速度と威力で龍を狙う。
 大砲と弓弾幕によって龍たちは中々に玉麒麟号へと近づけなかった。
 だが、こちらが攻めに欠いているのも事実だ。どうするか、開拓者達は判断を迫られる。
 将門は、甲龍の妙見の手綱を取って、舵輪を握る船長を見据えて、言った。
「……シュンレイ! 船を任せて大丈夫か!?」
「ああ、いっといで! あっちの船に近付かれたら砲の数で競り負ける! ここは攻めの一手だよ!」
 その言葉に、開拓者達は次々に相棒の元へ。
 空戦は第二局面。空中戦へと移り変わっていった。

 最速で飛び出したのは津田と彼女の滑空艇「宙船号」だ。
「砲とグライダーにかけた俺の全てをぶつけてやる!」
 滑空艇の利点はその圧倒的な速度だ。矢のように八極轟拳の拳士らの龍をすり抜けていく。
 龍や相棒の扱いにかけては流石に開拓者たちが一枚上手だ。
 すり抜けた後急上昇した津田は、相手の頭上から銃弾を雨あられと撃ち始める。
 龍たちも次々に玉麒麟号を離れ飛び立っていく。
 まずは周囲に集まって来ている10匹の龍と泰拳士を船から引き離さなければ。
 そして次に速度を活かして飛び出したのは、鷲獅鳥の早瀬とその背の篠崎だ。
 弓術士の篠崎は、すでにその優れた目で空中の敵達の動きを把握しつつある。
 そして彼女も一気に加速だ。
「出番だ! 早瀬、頼んだぞ!!」
 ぐぉう! と一声吼えて早瀬が急加速。
 戦いを好む獰猛な鷲獅鳥は、龍に挑みかかるように爪を振り、嘴を打ち鳴らして飛んでいく。
「ちっ! 一気に落とすぞ、集中して狙え!」
 目立つ鷲獅鳥を狙って敵拳士が吼える。投げ槍、投げ斧を放つものがいれば、拳を構える者もいる。
 そのまま一気に篠崎を狙って集中攻撃。武器が、気功波が飛んでくる。
 だが、早瀬は翼を大きく広げ、瞬速で風を捉える。
 そして、すぐさま体と翼を小さくたたんで急降下、曲飛で変幻自在の軌道を描いて回避だ。
「っっと! ……ああ、落ちるかと思ったが……好機!」
 敵軍の下をすり抜けて背後をとった篠崎。
「人馬一体……いや、人鷲一体、我々は二人で一つ! いざ行かん!!」
 乱射からさらに弓を立て続けに打って反撃。
 彼女の援護をうけて、仲間たちは一気に反撃を開始した。
「君の初陣だ、行くよ」
 ぽんぽんと頭を叩いて、豊嶋が声をかければ、駿龍のアクティオも高速飛行。
 そのまま風に乗って、ウィンドカッターとサンダーだ。
 津田の銃弾、篠崎の矢、そして豊嶋の魔法が乱れ飛べば流石に数で勝る敵も距離をとる。
 だが、彼らは焦っていなかった。
 なぜなら、彼らはこうして開拓者達の戦力を足止めするだけでいいのだ。

 まずひとつ。荷物を積んでいない分彼らの主が乗った窮奇号の方が早いこと。
 二つ目。窮奇のリシと彼ら八極轟拳の目的は、玉麒麟号とその主シュンレイを亡き者にすること。
 なので、船ごと破壊してしまえばいいのだ。賊のように奪おうなどと考える必要は無い。
 そして三つ目。窮奇号は速度でも玉麒麟号に勝るが、攻撃力でも勝っている。大砲の数は全部で8門だ。
 この状況……絶体絶命か? いや、開拓者は、一人も諦めていなかった。
 彼らに策あり。反撃は、小さな一撃から始まった。
「……小さくとも威力は高い、ただの石とは思わないことだ」
 高速飛行で飛び出したのは琥龍と相棒の駿龍、陽淵だ。
 明らかに空戦を意識した琥龍の刀はまだ背中。
 だが琥龍は手を翳してなにかを投擲した。泰拳士顔負けの指弾か、飛んできたのは天狗礫。
 それが泰拳士と龍を打つ。致命傷ではないが驚愕と衝撃で体勢は揺らぐ。
 その隙を3組の開拓者が付いた。

「どきな! いまはあの船が優先だ!」
 三機の先頭は太刀を構えた将門だ。甲龍の妙見はラッシュフライトで先陣を切る。
 投げられる礫、気功波を躱し、時にはうけつつも妙見は止まらない。甲龍はその頑丈さこそが強みだ。
「下を取るよ! 敵陣は抜けた、先頭は俺が! ……風、行くよ!!」
 続くのはトィミトイだ。将門と妙見の後ろから一気に飛び出し、先導しながら向かう先は窮奇号。
 慌てて、泰拳士らが追いかけるために龍の首を廻らせようとする。
 が、それを海神とその相棒、駿龍の疾風が許さなかった
 駿龍の疾風が炎を周囲に吹き散らす。距離を取る敵たち。
 まだ距離はある、そんな攻撃効かん、と油断したその時、炎の向こうから矢が飛んできた。
 先即封による高速射撃だ。海神はこれで距離を稼ぐと、将門とトィミトイに合流。
 窮奇号の大砲の弾幕を回避しながら、敵船の下を回って、そこから一気に急上昇し敵船の上空に。
 ……龍は三頭飛んでいた。だが龍の上にいるのは海神だけだ。
「貴様が窮奇か、生かしておいても益にはなるまい」
「窮奇……泰の幻獣か。名前負けもいいところだ」
 いつの間にか窮奇号の甲板に降り立っていたのは将門とトィミトイだ。
 急上昇の最中と飛び移ったのだろう。両者共に武器を構えて、窮奇の前に立ちはだかった。
「……ここまで腕利きが付いてるとは……だが、この私を倒せると思うか?」
 そういうと、女幹部の窮奇は指で笛を吹くと、
「こい、トウコツ!」
 その音と共に、甲板の下から一頭の龍が現れた。大柄な炎龍、おそらく窮奇のリシの相棒だろう。
 幸い、下級の八極轟拳の門弟達は操船や大砲操作でこちらにはこれない。
 リシと将門、龍のトウコツとトィミトイは向き合って、甲板上でも戦いが始まった。


 主を救おうと泰拳士たちの一部が窮奇号へ戻ろうとする。
 だが、そこに精霊力の弾丸が飛来。龍に直撃しぐらりと体勢を崩す。
「仲間の、邪魔は……させません」
 炎龍の紅焔に乗り、精霊砲を放ったのは柊沢だ。
 彼女を含めた5組の開拓者は、自分たちの倍の龍を相手に空中戦を開始。
 苦戦するかと思えたのだが、
「紅焔、炎を……」
 轟と渦巻く炎を目くらましにして、柊沢が縦横に飛ぶ。彼女は回復役だ。
 打撃を受けた仲間やその相棒をすぐさま癒してしまう。
 遊撃として高速で動き回るのは、滑空艇の津田と鷲獅鳥の篠崎だ。
 両者とも遠距離攻撃の専門家。
 射程外の上下左右、あらゆる方向から放たれる弾丸が敵をじわじわと疲弊させていく。
 そこに狙って放たれる豊嶋の魔術。雷が来るか、冷気が来るか、風の刃が来るか。
 三種の攻撃が敵を混乱させる。
 そしてそこに突貫するのは、
「斬龍刀の名は……伊達では無い」
 斬竜刀「天墜」を抜き放った琥龍だ。まさに龍を堕とすための刀を構える琥龍。
 その琥龍を藍色の駿龍、陽淵が加速する。
 翼を畳み高速飛行の形で加速するその姿はまさに名の通り飛燕。
 そのまま、風焔刃や斬竜刀の一閃が、一匹また一匹と敵の泰拳士を倒していくのだった。

 逃げるかどうするか、泰拳士らが迷いはじめた頃、迫りつつある窮奇号に異変が起きた。

 切り結ぶ将門と窮奇のリシ。
 将門は、剣士として超一流と言って良いだろう。新陰流の技は鋭くリシも受けに回る。
 だが、リシもさすがは幹部。両手の爪を縦横に振るって、新陰流の猛打を凌ぎ反撃。
 将門は一撃に賭ける。柳生無明剣の一撃! だがリシは距離を巧妙にとって間合いを外す。
 瞬脚を縦横に使って、間合いを取らせないのが上手いのだ。
 その横でトィミトイが太刀を振るいながら龍を牽制。
 2組の戦いが工作し、一瞬両者の視界が遮られる。
 とっさに、トィミトイは短い宝剣「キュプリオト」を抜き、接近してきたリシの攻撃を受け止める!
 リシは瞬脚で今度は一気に距離を詰めたのだ。
 トィミトイがリシの技に警戒していなければ、大きな怪我をうけていただろう。
 一方、龍のトウコツを前に将門は隼襲の構えから猛攻だ。
 だが、相手は龍。被害を与えてもその尻尾の反撃が命取りになりかねない。
 両者打つ手がなくなったのか。そう思って居たときに、激しい爆発音が響いた。

 爆発音に、思わずリシは距離を取って顔色を変えた。
 焔を上げているのは、窮奇号の機関部だ。
 そこに、砲撃を回避しながら油入りの球を投げはなっているのは海神だ。
 がしゃんと割れて油が飛び散ればさらに焔が燃え広がる。
 彼女は相棒の疾風の焔に油を引火させたのである。
 すこしの焔ならすぐ消し止められただろう。
 現に、窮奇号の船員たちがばらばらと出てきて火を消そうとしている。
 が、そこにさらに海神は油の爆弾と、さらに小粒の手作り焙烙玉を投げ放った。
 油で火が回り、そこにがしゃんと落ちた火薬玉は、ぼんと煙を上げてさらに燃え広がる。
 このままでは、窮奇号の火薬庫にも火が回りかねないどころか機関部が止まり船が墜落する!
 それを将門とトィミトイは理解したのだろう。リシも一気に距離を取って。
「……くそっ貴様ら覚えていろ!!」
「貴様らに空の戦は千年早い……これが本物だ」
 トィミトイの言葉に、激高したリシはさらに怒号を上げて。
「だが、この船からどうやって帰るつもりだ? トウコツ、やつらを突き落とせっ!!」
 吼えるリシだったが、トィミトイはふんと鼻で笑って、
 そして、将門はぎらりと一睨みで龍のトウコツを一歩引かせると、二人は船の縁から飛降りた。

 次の瞬間、二人をすくい上げるそれぞれの相棒。
 一気に上昇する開拓者3組、追撃の大砲は再び海神が矢と火炎で妨害して一気に彼らは玉麒麟号へ。
 船が燃えはじめたことで、半数近くを倒され、墜落させられた泰拳士立ちも機関。
 玉麒麟号は一気に距離を稼いで目的地へ向かうのだった。


「なあ、一人でも良いからさ。私のところで船員やらないか? 別荘使いたい放題にするぞ!」
「……シュンレイ様。さすがにそんなこといっても無駄だと……」
「だ、だったら……副船長! 副船長にするならどうだ?」
「シュンレイ様。子供ですか……」
 泰国の空を玉麒麟号は行く。
 女商人シュンレイは、いたく開拓者を気に入ったようで、ご執心だが。
 ともかく依頼は無事成功。荷を届ける開拓者達は、しばし空の旅を楽しむのであった。