【初夢】性格激変の朝?
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 14人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/16 22:32



■オープニング本文

 ※このシナリオは初夢シナリオです。
  オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 貴方は自分の性格についてどう思うだろうか?
 直情径行型の性格を直したい。もっと冷静にいられたら……とか。
 引っ込み思案の性格をどうにかしなければ、もっと活発に……とか。
 ちょっと開放的すぎるのをどうにかしたい、知的さが欲しい……とか。
 お淑やかばかりでは開拓者科業は大変だ、もっと攻撃性が必要……とか。

 ある新春の晴れた日の朝。
 貴方の性格は一変していました。
 どんな性格になったのか? それは貴方の自由だ。
 いつも開放的でセクシーなあの人が今日だけはなんだか恥ずかしがり屋、もじもじ。
 いつもつんけん、攻撃的でツンツンしてるあの娘が今日だけはしおらしい、でれでれ。
 普段はわいわいと賑やか明るいあの人が、今日は眼鏡で理知的だ。素敵……じゃなくて不気味。
 いつもは引っ込み思案なあの人が、今日ばっかりはどーんとワイルド! 攻撃的だ……不安。
 そんなことが神楽の方々で発生しているのだとか。

 どうやらコレ、神楽の街に現れた怪しげな妖精の仕業だとか。
 とっ捕まえれば直して貰えるらしい。
 だが、放って置いても数日で消えるとかで、さてどうしよう?
 性格のころっと変わった親しい友人や恋人、家族と一緒に新たな魅力……かどうかは知らないが。
 彼、彼女たちの新たな一面を知るのも楽しいだろう。
 もちろん、普段通りに直してくれと、怪しげな妖精を追いかけるのも良いだろう。
 何をするかは自由だ。
 だが、どんな性格になるかは全くの未定だ……。

 さて、どうする? ってか、どんな性格?


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / アーニャ・ベルマン(ia5465) / 鶯実(ia6377) / 和奏(ia8807) / デニム・ベルマン(ib0113) / 樋口 澪(ib0311) / シルフィリア・オーク(ib0350) / 門・銀姫(ib0465) / シルフィール(ib1886) / 郭 雪華(ib5506) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 桃李 泉華(ic0104) / 麗魔(ic0276


■リプレイ本文


 性格とは、先天的な気質と後天的な環境によって育まれるその人固有の傾向である。
 人はその傾向に応じて、感情が動き、何が好きで何が嫌いかを判断し、様々に行動をするのだ。
 ではその性格ががらっと変わってしまったらどうなるだろう?
 普段の感情とは違う感情が動き、好き嫌いが大きく変化してしまうに違いない。
 だが、本人にとってはそれこそが自分の性格なのだ。なのでその性格のまま行動するだろう。
 結果、巻き起こるのは……騒動だろう。

 彼女は良家のお嬢様で、少々お転婆ながら明るく活発で好奇心旺盛。
 そんな性格のアーニャ・ベルマン(ia5465)は今……。
「ほほほほほ! デニムよ、お前を我の下僕にしてやろう。ありがたく思うがいい」
 彼氏を踏んづけて、高笑いを上げていた。
 ちなみに、下僕と呼ばれて踏んづけられている彼氏はデニム(ib0113)だ。
 騎士らしく実直で、家督を継ぐに相応しい名声と実力を得るために邁進する青年だ。
 そんな彼は、女王様と変貌した彼女に踏んづけられながら、
「ああ、アーニャ様、喜んで下僕になりますっ」
 喜んでいた……。
「我は甘いものが欲しい。何か買ってきてまいれ」
「はいっ、ただいま。アーニャ様のためならなんでもご用意させていただきます!!」
 命令を受けてデニムは一心不乱に近くのお菓子屋さんへ。
 買い込む買い込む、焼きたてのドーナッツにケーキ、マドレーヌにクッキーと山盛りで帰還だ。
 それをもぐもぐと味わうアーニャ。
 ちなみに、豪華な椅子に腰掛けたアーニャの膝の上には、可愛い猫が。
 つーんとおすましした猫さんは、生クリームをほんの少しぺろりと嘗めてみたりして。
 だが、もぐもぐお菓子をかじっていたアーニャは、
「……ちがーう! 我が欲しいのはもっと甘さ控えめの大人の味じゃ」
 しゅぱーんとドーナッツをデニムに投げつければ、お菓子は見事に彼の口の中にすっぽり。
 もぐもぐゴクンと飲み込んだデニムだが、その背中をアーニャはげしげし踏んづけて。
「見よ! 我が猫も甘さが強すぎると不満げでは無いか!」
 とがったハイヒールが背中にぷっすり突き刺さる勢いだ。しかし、当のデニムは、
「ああっ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
 やっぱり大喜びであった。
「もう良い! 次は靴を磨け!」
「はい喜んで!」
 靴に口づけんばかりの勢いで磨くデニムに、ふふんと満足げなアーニャ。
「次は肩をマッサージするのだ! 丁寧にだぞ!」
「もちろん誠心誠意、心を込めてもやらせていただきます!」
 陶然とうなじを眺めながら、真心込めて恋人……否、女王様の肩を揉むデニムに、ほうと吐息のアーニャ。
「次は爪だ! 綺麗に磨き、美しく飾るのだぞ!」
「はい! ……大好きです……愛してますよ、アーニャ様」
 そしてデニムは、爪を磨いてその美しい手の甲にそっと口づけて愛を囁くのだが。
「ふふん、愛されるのは当然じゃ! ……よし、もう良いぞ。それより外が騒がしい。連れて行け!」
 傲然と言い放つアーニャは、なんとデニムにお姫様だっこされたまま、外へと向かうのだった。
 もちろん、デニムは喜んでアーニャを抱きかかえ、頭の上に猫をのせて外へ。
 そして2人が見たものは、2人の状況に勝るとも劣らない大混乱であった。


「死ねッ、貧乳娘ッ!」
 今日も今日とて、非モテ騎士のラグナ・グラウシード(ib8459)は仇敵へと襲いかかっていた。
 犬猿の仲でありお互いに相容れぬ敵、それはエルレーン(ib7455)だ。
 いつもならば、相手も「この非モテ騎士ッ!」とか言いながら反撃してくるはずだ。
 だが、この日ばかりは違っていた。
 えーいと襲いかかるラグナの間合いにすっと入ったエルレーン。
 その瞳はしっとりと濡れ、唇は妖艶に微笑んで、そしてその吐息は色気に満ちていた。
「……はっ? え……っと、人違い、デスカ?」
「あら、私はエルレーンよ……うふん、いたずらっ子ねぇ……おしおき、してほしいの?」
 エルレーンはうっとりとラグナを見上げると優しくその頬を指先でなで上げたのだ。
 お互いによく知る相手だ。だが目の前に居る相手は、一体誰だ!
 ラグナの「お友達」。ウサギの人形うさみたんをぎゅうぎゅう抱きしめつつ、大慌てのラグナ。
「なななな何を言っている貧乳娘のくせに」
 そういって、いつものようにエルレーンを突き放そうとするのだが。
「貧乳、ね…‥ちっちゃいかどうか……うふ、確かめさせてあげよっか?」
 エルレーンは、胸元に指を掛けると、その指を……。
「う、う、うおおおおおおおおお!!!」
 ラグナ、猛然と逃げた。尻尾を巻いて、全速力で!
 だが、追ってくる。妖艶お姉様モードと化したエルレーンはあっという間に追いついて、耳に吐息攻撃。
「かぁいい……恥ずかしいの? やらしい子ね」
「ひあああああ、た、助けてうさみたん!」
 追いついたエルレーンに、思わずうさみたんを突き出すラグナだが。
「……うふん、うさぎちゃんみたいに、かわいがってあげるわぁ……」
 エルレーンは、ラグナの友達・唯一の味方のうさみたんをなでなで。奪われてしまった!
 もう終わりか。だがラグナの脳裏に閃きが。
 性格を変えてしまう精霊が現れたという噂、ならば直して貰えば……
「うおおッ! 何処だ、妖精さーんッ!」
 最後の希望、そして自分のいろいろなモノを守るため、騎士ラグナは猛然と走り出すのだった。


 全力疾走のラグナ、そしてそれを
「うふふ、待ちなさい、悪い子ね……怖がらなくて、いいのよ?」
 妖艶に囁きつつ、これまた素晴らしい速さで追いかけるエルレーン。
 アーニャとデニムはそんな2人を見送ってなんだろうあれ、と思うのだが。
 そんな2人も、端から見れば、なんだろうあの2人、という状況だ。
 2人は、精霊を探しに走り去るラグナを追いかけることにしたのだが、そこに聞こえてきたのはこんな声。
「ひぃ! ごめんなさいごめんなさい、すいません〜!」
 悲鳴を上げて泣きだしそうな女性が1人。普段は、男嫌いらしいシルフィール(ib1886)だ。
 彼女は、何の因果か男性恐怖症気味になって、神楽の街を逃げ回っているのだった。
 暫く逃げ回った後で、彼女は考えた。
 このままでは怖くて街も歩けない。だったら、どうにかこの性格を変えて貰おう。
 そんな風に思う彼女の眼前に、ふわりと怪しげな、小さな影が現れた。
「性格を変えて欲しいのかい? だったら変えてあげようじゃないか〜!」
 にぃっと笑ってくるんと回る、一見すれば羽妖精のようなその姿。
 身体中に様々な表情の仮面をぶら下げたその怪しげな精霊は、性格激変の精霊だったのだ。
 ぴかりんと、その精霊が放つ光を浴びたシルフィール。
 今度は、真逆で……何処かでラグナを追いかけ続けているエルレーンのような妖艶な光がその目に。
 恐怖の表情を一変させた彼女は、足取りも軽く再び人の多い方向へと足を向けるのだった。

 同じ頃、神楽の街を疾駆する1人の女性がいた。
 屋根を足場にひらりと宙を飛び、鞭が唸れば悪党が一網打尽。
 性格の激変で巻き起こった騒動の数々を、華麗に解決する女性の英雄、その正体は……。
「悪党共は許しませんよ! マルっと颯爽に登場して、男らしく解決するのです!」
 まだ若いながらもその整った肢体はまるで女神のよう。
 豪奢な青い髪は高く結い上げられ、さらには美しい体を女神の舞衣が華麗に彩っている。
 普段は、大人しく箱入りの娘である柚乃(ia0638)。
 その彼女が、なんと人々の危機を救う女英雄として活躍していたのだ。
 積極的に立ち振る舞い、表情から衣装まで普段とはほとんど真逆の彼女。
 またしても鞭が唸り、大人しい性格から強引な性格に転じた迷惑な男をとっ捕まえて。
「ああ、いくら退治しても切りがありませんね……ですが私は諦めません!」
 颯爽と飛び上がり、魅惑的な笑みを後に残して再び神楽の街を駆けるのであった。
 だが、そんな彼女の努力と活躍に、困り切っている者がいた。
 正確に言うと、彼女の相棒である管狐の伊邪那だ。
 伊邪那は、柚乃の首にくるんと襟巻として巻き付いたまま、
「……このままだと、あたしが目立たなくなるじゃない……」
 そう考えて居れば、ふと耳にするこの性格激変の原因である精霊の噂。
 伊邪那は、主の柚乃を一生懸命に説得して、精霊の元へと向かわせるのだった。


「あれ、派手な服しかない……こんなの着れませんよ……」
 しょんぼりと肩を落とした鶯実(ia6377)は衣装を引っ張り出しては落胆していた。
 引っ込み思案でおどおど。普段は自由奔放な彼から比べたら凄まじい変わりようである。
 だが、その結果、外に着ていく服が無い。そう困っていると来客が、
「なぁ、おーずち。ボクあの妖精さん、捕まえたい、ねん……っ! お手伝い、したってぇ……や」
 やってきたのは桃李 泉華(ic0104)。
 妖精だか精霊だかを探そうと、知り合いの鶯実を見かけてやってきたようだ。
 可愛らしく、上目遣いで鶯実の服の裾をくいくいと引っ張る桃李。
 だが引っ込み思案と化した鶯実は、おどおどと隠れてしまったり。
「んにぃ……変な感じぃ……これ、妖精さんのせいやて、聞きよん、やけど……」
「妖精さんの、せいなんですか?」
「にゃ……捕まえた、変なの、治るやろか……思ってな?」
「そう、ですか。だったら、お手伝い、します……困ってましたし」
 というわけで、2人連れ立って妖精探しに向かうことになった。
 先を行くのは桃李だ。
「妖精さん……っ♪ お友達、なれる……やろか?」
 そわそわ、と嬉しそうにはにかむ桃李に手を引かれ、鶯実は恥ずかしがってもじもじ。
「わっ……ちょっ……あの、もう少し人の少ない道の方が……」
「んに? でも、妖精さん探さな、ならんで?」
「うう、人が多いです……こういうのは苦手」
 なんだか不思議な二人組も、妖精を探して神楽の街をてくてくすすむ。


 そんな神楽の街のとある酒場にて。
「……おかしいなあ……本来ならボクはこんな口調だったかな……」
 首を捻り、悩んでいる門・銀姫(ib0465)は男装の吟遊詩人だ。
 だが、普段ならば楽しく暢気に歌う彼女、今日ばかりは違和感に首を傾げていて。
 それもそのはず、きっちり普通で、真面目な雰囲気のしゃべり方になっているのだ。
「まあ、とりあえずはもうすぐ出番だし、まずは仕事をこなしてからかな」
 そういって楽器を手に舞台へ出る彼女。そしていよいよ演奏開始というその時に、
「あははっ、なんだろ何で今まで恥ずかしかったのか分からないです」
 楽しげな声が酒場の前までやってきて、ばーんと扉を開けて飛び込んでくる樋口 澪(ib0311)。
 恥ずかしがり屋の彼女は普段、腹話術を使って人前で話しているはずだ。
 しかし、その代弁もふらも今は忘れ去られているようで、ぷらんと服の裾に引っかかっているだけだ
「……むしろ、みんなの前で沢山歌いたい気分です♪」
 そのまま、なんと彼女は真っ直ぐ舞台の上に上がってしまうのだった。
「ちょ、ちょっと。これからボクが歌う番なんだけど……」
「えー、良いじゃ無いですか♪ 私は今此処で歌いたいんですよ!」
 だめ? と上目遣いで見つめる澪に、弱りきってしまう銀姫。
 助けを求めるようにお客の方を見て見ても、皆一様に成り行きを見守っているだけで、
「……えっと、それじゃあボクが一曲弾いてあげるから。一曲だけなら……」
「そんなのじゃ足りないですよ! もっともーっと歌いたいんです!」
「えー、折角譲歩してみたのに、そんなこと言われても……」
 ますます困り切る銀姫とエヘンと胸をはる澪。
 そんな2人のやり取りに、思わずお客たちも噴き出して、笑い出してしまうのであった。
 さすがに笑われては本職の胡顕に関わると、銀姫は曲を奏でて歌い出す。
 すると、あろう事か綺麗に歌声を調和させて、ハープで合奏する澪。
 ならコレでどうだと高速の高難易度曲を奏でる銀姫。
 それにもハープでしっかりと演奏を合わせ、あろう事かぴょんと飛び上がり歌いながらステップを踏む澪。
 これには客たちも拍手喝采。
「さあ、もうこれで満足したよね! だったら、そろそろ……」
「すごいすごい! こんなに楽しいの初めて♪ もっと歌いましょう?」
 そう澪に言われては、銀姫もなんとも言えなくて。
 だが、そんな彼女はふと客たちの間で流れる噂話を耳にする。
 超越聴覚が掴んだのは、いま神楽の街では性格が急変する珍事が頻発しているようだ。
 原因は珍種の精霊だとか……ならば、ここは原因を取り除くしか無い!
 意外と真面目になってしまっている銀姫は、精霊を追うことに決めるのであった。
「このままだと困るからね、煩い!」
「あ、待ってくださーい! もっと一緒に歌いましょう〜♪」
 じゃかじゃかハープを響かせて、可愛い歌声を上げる澪に追いかけられる銀姫。
 2人は賑やかに、
「なんで着いてきてるのっ?!」
「わーい、外で演奏するのも楽しいですね〜!」
 賑やかな2人も精霊を追いかけて、神楽の街を駆けていく。


 かつかつかつと踵を上げて、歩幅を揃えてきっちり歩く。
 道の角ではきっちり正確に90度、かっきり曲っててくてく進む。
 そんな彼は、ふだんはのんびりした性格の和奏(ia8807)であった。
 いつもならのほほんと日だまりのような暢気さの和奏。そんな彼が今は人生杓子定規人間になっていた。
 彼が向かうのはギルドの受付だ。今日は朝から予定が目白押し。
 しかし、少しのズレでも彼には気にくわないようで。
「今日は、これやって、あれやって……ギルドでは予定を確認して依頼を入れて……」
 しかし、ギルドは基本はのんびり暢気な組織である。受付の人が居なかったり、予定が変わったりで。
「ああもう、決めていたことがちっとも進まない!」
「わぁ、すいませんすいません! ……えっと依頼のご相談で?」
 遅れてやってきたギルドの係員はいつもと違う和奏の様子に吃驚しつつ、おずおず尋ねれば。
 じっと和奏が見ているのは、ごちゃっとした係員の机であった。
 書類がバラバラに突っ込まれ、印章や筆、紙や書き付けもごちゃごちゃ。
 それをテキパキと急に片付けはじめる和奏。
「わ、どうしたんですか急に!」
「ああ、だめだめ! 横から手を出さないで! ほら、ズレちゃった……よし、これで直った」
 書類の角を揃え、大きさ順に棚に並べて、使いやすく印章は収めて、きっちり筆も揃え直して。
 きっちり整った机を前に満足そうに和奏は背筋を伸ばすのであった。しゃきーん。

 そんなギルドに顔を出すもう一人の人物が。
 なんだか、こそこそというかおどおどしながらギルドにやってきたのは郭 雪華(ib5506)。
「……ど、どうしましょう、起きたらこんな事になっているなんて……」
 困って眉を下げる雪華。その様子は妙にしおらしく可愛らしかった。
 普段なら商人として表情を変えず、自信満々の堂々とした性格の彼女。
 だが、今ばかりは困った気持ちが顔に表れ放題で、しゅんとしおらしい様子がまた可愛いのだ。
「困りました、これでは交渉事なんてしても相手に隙を与えてしまいます……」
 どうやら彼女がおどおどしているのはそれが理由らしい。さらに、
「もし普段の僕を知っている人に会えばどんな目にあうか………」
 よほどそれを怖がっているのか、目にうっすら涙すら浮べる雪華は呟いて。
「きっといつものお返しと言われて碌な目に合わないのは目に見えてます。ああ、普段の僕の馬鹿馬鹿」
 しおしおとギルドで弱気になっている雪華を、周りはほほえましく見つめているのだった。
 そこではっとギルドの係員が気付いた。
「あの、お二人とも、もしかしたらいつもとちょっと違うのは、へんな妖精のせいかもしれませんよ?」
 きっちりと、依頼の整理棚を徹底的に片付けていた和奏は、片付けを終わらせてから振り向いて。
 そして雪華は、ビクッと大きく驚いてから、おどおどと話の続きを聞き出して。
 とりあえず、二人はこのままじゃどうにもならないからと妖精を追うのだった。


 何人もの開拓者が要請を追いかける賑やかな神楽の街。
 その片隅にある茶店で寛ぐ女性が1人。シルフィリア・オーク(ib0350)だ。
 風はすこし冷たいが、暖かい日差しが実に心地よい冬の日。
 街に出るときは、
「……綺麗に着こなせないな。胸元がちょっと、きつい……」
 と、苦労したのだが、なんとか着物をきっちりと着こなした彼女。
 きっちりと胸元を閉じて、軽く衣紋抜いた大和撫子の楚々とした佇まいだ。
 普段なら、姉御肌で気っ風が良いシルフィリア。
 今日ばかりは胸元を大きく開けて着崩したりもせずに、緋毛氈敷きの長椅子で一息。
 熱い焼き餅の入ったお汁粉が何とも美味しく心を和ませる……。
 そんな彼女の前を、様々な開拓者たちが走り抜けていった。
 先頭は、
「妖精さんッ! 頼む、こいつを何とか、何とかしてくれええええッ!」
「あら、こいつだなんて失礼ね……可愛がってあげるのに、逃げなくても良いじゃ無い?」
 全力疾走のラグナとそれを軽々と追いかけるエルレーンが通り抜けた。
 彼らの前をふわふわ飛んでいくのは妖精だろう。
 その後ろを手を繋いで追いかける二人組は、桃李と鶯実だ。
「妖精さん、待ってぇーっ♪ お友達、なろー……っ♪」
「わわ、あの……もうちょっと、ゆっくり……」
 楽しげに、弾むように駆けていく桃李と、それに引っ張られて、あわあわと転びそうな鶯実。
 さらに、続くのは賑やかな二人組だ。
「ああもう、なんでこんなに賑やかなんだろう!?」
「わーい、あれが妖精さんかな? いっしょに歌おー!」
 銀姫はこの状況に目を白黒させながら。そして後ろに続く澪はますます元気に歌いつつ。
 そしてその後を、なんとお姫様だっこされつつ追いかけるアーニャとデニム。
 さすがは騎士だ。姫……じゃなくて女王様をしっかり抱きかかえて猛然と追いかける。
「行け、行くのだデニムよ! 目的の妖精はもうすぐじゃ!」
「はい、アーニャ様! 不肖このデニム、愛するアーニャ様のためなら、たとえ火の中水の中っ!!」
 にゃーと、デニムの頭の上で、アーニャの相棒、猫又ミハイルにそっくりな猫が鳴いて応えて。
 そして、一番最後尾を追いかけていくのは、
「まったく、予定が狂ってばっかりです! はやく精霊を捕まえたいのに、どうなってんの!」
 変わらぬ歩幅でちゃきちゃき歩く和奏と。
「うう、知ってる人があんまり居ないと良いんだけど……はぅっ! ……なんだ犬か」
 わう? と顔を出した犬にびっくりしつつ、こそこそ進む雪華の2人であった。

 シルフィリアは、その10人をじーっと目で追って、ほうじ茶を一口。
 ほう、とあくまでお淑やかに息をついて、今度はお茶でも頂こうかしらと思案して。
「ああ、それよりもお買い物に行こうかしら? ……綺麗に着こなせる着物が欲しいわ」
 そっと立ち上がるとお代を渡して、ゆっくり坂を登って行くシルフィリア。
 すれ違う人が振り返るほどに、お淑やかな美しさを振りまいて。
 彼女は妖精の騒動を特に気にせず、のんびりと買い物を楽しむのであった。


 妖精を追いかけた一行、しかし、こんな面子じゃ捕まるものも捕まらない。
「うふふ、捕まえた〜。ね……お姉さんといいこと、し・ま・しょ?」
「ぬぎゃーーー! よ、妖精さん、は、はやく、はやくなんとかしてくれー!!」
 ラグナはエルレーンにがっちり抱きつかれて、耳をかじかじ囓られて、悶絶していたり。
「妖精さん〜、お友達に、なろー」
「妖精さんー! 一緒に歌おー!」
 賑やかな桃李と澪。桃李は鶯実の袖を握ったままぴょんぴょんと跳ねて、澪はじゃかじゃか演奏して。
 他の面々は、皆の頭上をくるくると飛び回りながら、ケラケラ笑う妖精を見守るだけであった。

 だが、そこにひらりと影が跳びすさる。
 屋根と屋根を華麗に飛び越えながら、翻ったのは鞭の一閃。
「わぁっ!! だ、だれだよう!!」
「ちょっとあんた! さっさと柚乃を元に戻しなさいよ!」
 くるんと鞭で優しく精霊を捕まえたののは柚乃だった。
 柚乃にきゅっと抱きしめられて、なんだか嬉しげな性格激変の妖精。
「ほら、みんな迷惑してるんだから!! すぐ、いますぐにー!!」
 だが、その鼻先でやんやと騒ぎ立てる柚乃の相棒の伊邪那。
 言うこと聞かないと囓っちゃうぞ、とばかりに長い体で妖精をぐるぐる巻きにしたり。、
「わかったよう、じゃあ悪戯した皆を全部元に戻すから勘弁してくれよぅ」
 そういうと、鞭から抜け出た妖精は、ぴかっとひときわ強く輝いて。
 すると、それを見つめていた開拓者たちは皆はっと普段の自分が戻ってきたのに気が付いた。

 妖精をとらえた立役者の柚乃は、慌てて逃げ帰ってしまった。
 それを見て満足げにうんうん頷く管狐の伊邪那。

 ほっと一息ついて何時もの余裕を取り戻すのは和奏や雪華だ。
 雪華はこそこそするのをやめて、そして和奏はのんびりと普段の調子を取り戻して。

 遠くでは、買い物途中のシルフィリア。
 たまにはこんなお淑やかなのもいいかもね? とさっきまでの自分を思い出して微笑んで。
 一方、妖艶にほほえみ、男を虜にしかけていたシルフィールははっと我に返って。
 そして眼前で、下心満載の男をパシンと一発。すたすたとその場を去った。

「うわっ。緑の……何であんた居るん?」
「それは、こっちのセリフですよ……ああ、もうびっくりした」
 桃李と鶯実は慌ててぴょんと離れて、決まりの悪い顔でそっぽを向いたり。

 そして、はっと我に返って、みるみるうちに真っ赤になったのはエルレーン。
 ぱっと離れる両者。エルレーンは拳をぎゅーーっと握ると、
「……う、うわーん!!」
 それは見事な右ストレートをラグナの鼻っ柱にめり込ませた。
「ぶほぉっ! ……だが、それでこそ、いつもの、貧乳娘、だ……ぐふっ」
 きりきりと宙を舞ったラグナは、どこか嬉しそうな顔で昏倒。
 わーんと泣きながら駆け去って行くエルレーンを、うさみたんだけが見送っていた。

 そして、澪は慌てて代弁もふらを手に取った。
「澪は、ご迷惑をお掛けしました、と申しておる」
 腹話術で、傍らの銀姫に語りかける澪。
 しかし、銀姫はにっこり笑って、琵琶を構えると、
「いろいろ賑やか妖精騒動〜♪ 無事解決で一件落着で万事良し〜♪」
 じゃかじゃかと琵琶を奏でながら、弾み謳うように語るのはいつもの銀姫だった。
「常ならば困るこの騒動〜♪ たまにはこんな夢物語もまた楽し〜♪」
 そういって銀姫が澪を見れば、
「澪は、少しだけ、楽しかったです、と申しておる」
 小さく告げる代弁もふらに、銀姫は笑いかけるのだった。