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■オープニング本文 武天には多くの山があり、鉱物の産出も盛んである。 そんな鉱山の一つにて、最近問題がおきているらしい。 鉱山と言っても規模は大小様々で、その鉱山は比較的小規模とか。 産出するのは銀で、規模が小さいなりに賑わっているようである。 その鉱山において、開発初期の頃、いくつか試しとして作られた坑道があった。 その中で、産出規模の大きく有望な場所が鉱山として開発されるのである。 つまり外れだった坑道は手つかずのまま放置されるのが定めであるのだが。 その放棄された古い坑道の一つに最近アヤカシが現れたのだという。 アヤカシの姿は、黒い外皮で覆われた巨大な蟻のようなもので、まだ人里には下りてきていないようだ。 しかし近くには稼働中の鉱山もあり、さらには鉱山で働く人々の住む小さな村もある。 となれば危険は野放しにはしておけず、開拓者の出番となったのであった。 少々古びているらしいが、坑道が崩れると言った危険は少ないとの話だが、なにせ坑道である。 姿形を模すだけで、その生物そのものとは違うとはいえ、アヤカシの姿は蟻。 地中を住処とする蟻相手に、開拓者は苦戦を強いられることだろう。 さらに、坑道の狭さも問題だ。 試しとして掘られた坑道ゆえに、あまり大きくなく、坑道自体も横に3人並べば狭く感じるだろう。 その狭さとなれば、槍などの長物はおろか、刀すら自由に振るうのは難しいかもしれない。 開拓者達は、それぞれの持てる力と知恵を絞って、命を賭けた蟻退治をすることになるのだ。 さて、どうする? |
■参加者一覧
柄土 仁一郎(ia0058)
21歳・男・志
川那辺 由愛(ia0068)
24歳・女・陰
沢渡さやか(ia0078)
20歳・女・巫
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
南風原 薫(ia0258)
17歳・男・泰
十河 茜火(ia0749)
18歳・女・陰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
吉田伊也(ia2045)
24歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●仲間と共に 開拓者に求められるものとは何だろう。 知力体力時の運、様々な依頼に応じてそれぞれ必要なものは違うだろう。 だが、今回必要なのは戦闘力。 いや、殲滅力と言っても良いかもしれない。 では、その開拓者が仲間に求めるものは何だろう。 社交力交渉力経済力、こちらも求めるものは様々だ。 一緒にいて楽しい、とかそんな一面も必要だろう。 だが、今回は、背中を預けられること、これこそが求められている。 暗く湿った坑道の奧。 頼れるのは自分の力と仲間だけ。 単純明快ゆえに危険、そんな依頼の今回は、はてさて一体どうなることだろうか。 「さて、いよいよおいでなすったな‥‥まぁ改めて宜しく頼む、よっと」 首をゴキゴキメキメキと鳴らしながら、後ろの仲間に一声かけつつ刃を構えるのは南風原 薫(ia0258)だ。 彼ら一行は何本目かの坑道を進んでいた。 開拓者達は2班に分かれ、片方が後方警戒をして片方が進むという安全策をとったようである。 ゆえに、現在は薫たちがいる班が先行して坑道を進んでいたのだが。 まず聞こえたのはがさがさという音だった。 さほど広くない坑道に反響するように聞こえてくる剣呑な音。 それはいくつもの脚がうごめく様が想像できるような音であった。 しかし、開拓者達の表情に不安の色はない。 仲間に背中を預け、作り上げた策で待ち構え、その上でそれぞれの力を振るう。 そこまで舞台が整っていれば、何の不安があるだろうか。 そして宜しく、との薫の言葉に、 「任せなさい‥‥それにしてもでっかい蟻ね〜これは見物だわ、参考にしようかしら」 にまりと、爪を舐め微笑むのは川那辺 由愛(ia0068)だ。 それぞれの手に符を構え、万全の様子。 そして由愛の視線の先には、坑道の低い天井の下、頭がつっかえないまでも窮屈そうな背の高い女性の姿が。 「ふむ、まぁずは一匹ってとこか。増えるようなぁら、俺も加勢するぜぇ」 陰陽師として左手には符が、だが右には抜き払った刀を構えるのは犬神・彼方(ia0218)だ。 そしてこの班最後の1人、吉田伊也(ia2045)も松明を片手に仕込み杖を抜き払って。 「‥‥さらにもう数匹近づいているようです。お気をつけて」 細工は流々、戦闘開始である。 薫が前衛として一匹の巨大蟻アヤカシの前に出る。 とりあえず、視界内にいるのは一匹だけだ。 大きさは、大型犬ほどの蟻の姿、しかし虫はあの小ささにしては力強い生物だ。 アヤカシは通常の生き物とは違うといえど、その姿を模しているならば、動きや力も想像がつくもので。 蟻アヤカシががちんと噛みついて来た瞬間、薫はすでにその場所にはいなかった。 身を翻すようにしてギリギリでかわすと、逆手に持った刃を脚の付け根に叩き込む。 突き刺さる刃、しかし脚の一本をたたき落とすにはいたらず、がっちりと食い込んでしまったのだが。 「殻硬ぇつっても衝撃ぁ内まで届く、だろう?」 薫は突き刺さった刃を支点に脚の一本に膝蹴りを叩き込み、付け根から脚をへし折る。 それに対して、ひるむことなくギチギチと音を立てて噛みつこうとする蟻アヤカシだが、 「おっと、そうはさせないわよ!」 鎌鼬を放つ由愛、その一撃はさらに脚の一本を切り飛ばし体勢が崩れたところで頭の付け根に薫の一撃がぐっさり。 1匹目を仕留めて、ほぅと息をつく薫、だがその頭上にはいつの間にかもう一匹が。 巨大蟻のアヤカシたちにとってこの坑道は蟻の巣と同じ、天井を這うこともできるようであった。 死角となっているそのアヤカシの一撃だったのだが 「そうは、問屋がおろさぁねぇよっと」 がすんと刀を突き上げて、アヤカシの腹を貫く彼方。 そしてさらに、するすると近づいて鋭い突きを蟻の頭に見舞う伊也。 「‥‥危なかったですね」 彼方が突き刺さったままの巨大蟻を振り落とすと、再度伊也が突きを見舞って2匹目も仕留めれば 「おっと、悪ぃね。まだぁ戦闘経験薄くていけねぇ」 と、ニヤリと余裕の笑みを浮かべる薫、見れば手にはいつの間にか懐から抜いた短刀が。 どうやらとっさに投げつけるために構えていたようである。 こうして、無事に怪我もなく二匹を仕留めたのだが‥‥ 「大御所〜、やっぱり貴方の腕っ節は頼りになるわね〜」 「あぁん? 急にそんなぁこといって、どうしたぁんだ、由愛」 にんまりと微笑む由愛が彼方にそう言えば、彼方は不思議そうな顔で聞き返す。 「あら、だってもう一組団体さんがいらっしゃるみたいよ? 頑張ってね♪」 ぱたぱたと蝙蝠型の式を飛ばして先を確認してた由愛がそういえば、言葉の通り2匹ほどが奧からやってきて。 「‥‥巣でぇもこさぁえてるんじゃぁねえだろうなぁ‥‥」 さすがに、げんなりと彼方が言えば。 「そいつは勘弁だなぁ。こんな陰気臭ぇ坑道、とっととおさらばしてぇのにな」 と薫も言って。 しかし皆、口の端に笑みを浮かべて武器を構えなおすのであった。 ●次の番 「しかし、坑道ってのは、遺跡に通ずる良さがあるな。先の見えない暗闇、張り詰めた空気、すえた土のにおい‥‥」 坑道の暗がりを眺めつつ、こんなことを言っているのは喪越(ia1670)だ。 こちらは待機組、先行班が行動中は後方の警戒や、罠の設置をするなどと準備をしつつ交代に備えるのが役割だ。 喪越はさらに続けて 「未知のお宝やらが加われば、さらにグッドなんだがなぁ」 と陽気に言えば、 「アタシ狭いのキラーイ。ねー、ブッ壊して広げちゃおーよー」 浪漫を語る喪越に、そんな冗談を飛ばしてるのは十河 茜火(ia0749)で。 こちら一行は、後方警戒用の鳴子を設置したりしつつ、今は待機中だ。 そして松明の明かりのなか、坑道の見取り図から顔を上げるのは沢渡さやか(ia0078)で。 「もう、残る坑道も少ない見たいですね、散発的にはアヤカシと戦闘になってますけど‥‥」 見取り図の横には、遭遇した蟻アヤカシの数を記しつつ。 こちらの班も、何度か坑道を進み、幾度か蟻アヤカシを撃退したあとでの待機である。 せいぜい2,3匹程度としか一度に遭遇しないので、それほどの消耗もなく。 同じく、見取り図に目を落としていたのは柄土 仁一郎(ia0058)で。 「しかし廃坑なのが幸いだな。人が余り立ち入らん分、被害も多くないようだし」 と、そんなことを言っていれば、急にがばっ、と暗がりに視線を向ける喪越。 「はっ!」 何かに気づいたような喪越、一行に緊張が走り、それぞれが身構える。 アヤカシの接近か、それともそれ以外の危機が迫っているのか‥‥。 が、喪越はがっくりとうなだれると、 「‥‥って、今気づいたが、南風原の班はハーレム状態!? 羨ましいぜ!!」 きーと、袖をかみ締めていたりする喪越に、ぷっと待機組一行は思わず吹き出したりするのだった。 と、噂をすれば影、坑道の奧にゆらゆらと松明の明かりが見えて、戻ってくる先行班。 両方の班は、お互いの無事を確認すると、先行と待機の役割を交代。 今度は喪越たちの班が、まだ調べていない坑道を進むのだった。 見取り図に寄ればこれが最後の坑道、喪越達が無事に奧まで確認すればそこで終了となる予定である。 「こう狭くて暗いとやっぱり不意打ちや挟撃がとても怖いですね‥‥気をつけないとっ」 松明を手に、さやかはそうつぶやいて、一行は慎重に最後の坑道を進んでいた。 見取り図によれば、さほど長くないはずなのだが‥‥。 「ンフフ、ご馳走はまだかなまだかなー」 と、茜火は戦闘の気配に心を躍らせているようで。 奧まで伸びる坑道に、戦闘の仁一郎の影が伸び、角を曲がるたびにゆらゆらと揺らめいて、そして次の瞬間。 「‥‥と、これは予想外だな」 そういた柄土の声は反響し、影は大きく伸びていた。 見取り図には無かった小さな空間がそこにはあったのだ。 おそらく坑道の先が何らかの理由で崩落して地下の小空洞につながったのだろう。 今までの通路とは違い、狭いながらもぽっかりと小さな部屋ほど空洞が広がっているのだった。 「‥‥おや、しかも奴ら気づいちまったみたいだな」 見れば部屋には7,8匹の蟻が残っていたようで、そのどれもが部屋の入り口にいる開拓者達に頭を向けて。 「こいつらで最後みたいだな。挟撃を受けないように、退きながら持ちこたえるぞ」 仁一郎の言葉に、こくんと頷くさやかは呼子を鳴らす。 残る最後の蟻アヤカシどもに対して、数で劣る開拓者たちは、待機班が追いつくまで持ちこたえねばならない。 決死の防衛&撤退戦が始まったのだった。 ●最終決戦 「お兄さ〜ん、ちょっと遊んでかな〜い?」 喪越がしかけた地縛霊に一匹のアヤカシが捕らわれる。 しかし、がさがさと小部屋から押し寄せる蟻アヤカシ達。 一行はじりじりと通路を下がりつつ、なんとか待機班と合流しなければ、ならないのである。 しかし、危険な状況にありながらも、開拓者達に焦りはなかった。 こういう時のための様々な準備がしてあったのだ。 通路を退きつつ、呼び子に気づいた待機班が合流すれば、挟撃されることもない。 となれば、窮地にあってもやることは変わらないのだ。 「さぁツムちゃん! 盛大にバラしてやろうよーっ!」 茜火が放つ斬撃符は、狙い過たず蟻アヤカシの脚の関節をざっくりと切り飛ばし。 ついでに脚をもがれて壁から落ちてくるアヤカシにはフレイルの一撃が。 硬い殻を持っていようと、鈍器の一撃で思いっきりどつかれればそれなりに効果があるようだ。 「もっと広ければ、槍が使えたんだがな‥‥」 といいつつ、仁一郎は炎を纏う刀を振るって。 あくまでも彼はアヤカシ達を遮る盾役としてアヤカシ達を牽制して、攻撃を受け止め、あるいは回避して引きつけて。 「おぅりゃ、これでも喰らっとけ!」 喪越が放った符が形どったのは霊魂型の式、それはまるで銃弾のように飛んでいくと天井を這う一匹の蟻に命中し。 「‥‥撃ちます!」 短弓を構えたさやかは、喪越が攻撃したアヤカシの動きが止まった瞬間に、矢を放って蟻を牽制して。 「アハハハ! 派手に行くよー、トゲちゃん!」 今度は、茜火が仕掛けていた地縛霊が発動、地面から飛び出す針の穿たれる蟻アヤカシ。 そして、そこに背後から飛び込んできたのは薫と彼方だった。 「楽をしたかったんだがなぁ‥‥ま、しかたねぇな!」 「間ぁに合ったようだねぇ!」 仁一郎の頭上に迫りつつあった一匹に薫は空気撃。 衝撃ではじき飛ばされ、落ちてくるアヤカシに接近して逆手の白鞘を突き立てて。 その後ろから迫ってくる一匹に、今度は彼方が呪縛符放ってから、動きを止めたところに刀で一閃。 見事、胴体と頭の境目に滑り込んだ刃は、アヤカシを屠り。 そこに追いつく、彼方達の班の後衛組。 「‥‥一匹、回り込んで来ますよ」 結界で敵の動きを的確に読んだ伊也がそういえば。 「大丈夫、そこには罠が仕掛けてあるから‥‥恨み辛みよ怨念よ。地に潜みて顕現せよ!」 と由愛。 ぼこりと土を堀って現れた一匹だったが、由愛の言葉どおりにそこには地縛符が仕掛けられていて。 「あはははっ! 蟻は蟻らしく、ソレに喰われてなさい!」 現れた蟻地獄型の式に呑まれて動きを止めたアヤカシに、伊也の仕込み杖がとどめを刺すのだった。 すでに数を減らした巨大蟻のアヤカシに対して、開拓者達は万全の体制に復帰。 そうなれば、戦いの趨勢は決まったも同然であった。 ●お天道様の下で 「ん〜、生きてるって実感するぜぇ」 やっと入口まで戻ってきて、大きく伸びをしているのは喪越だ。 朝早くから坑道を進んで、出てきたときにはもう昼も大分過ぎているようで。 大分傾いたお天道様の下で、開拓者達一行はやっと一息ついていた。 一行は、最後の猛攻をしのぎ、蟻のアヤカシをすべて撃退。 その後、残ったアヤカシがいないかを暫く確認したが、どうやらすべて倒しきったようであった。 「やー、堪能したよ思いっきりっ! アハハハハ!」 と、天を見上げて高笑いの茜火。どうやら術を使う余力は無いようだが元気は有り余ってるようで。 軽い怪我は2人の巫女によって癒されて、どうやら大きな被害も無かったようで。 「んん、空気すら旨く感じる、俺にゃ鉱夫ぁ無理そうだ」 そう薫が言えば、疲れ果て土埃にまみれた一行は、全くだというように頷きあう。 こうして、付近を騒がすアヤカシの害は取り除かれ、開拓者達は無事生還。 伊也によって、その坑道は清めと安全祈願の舞まで行われて、周囲の人々やより安心したことだろう。 無事、依頼は成功したのであった。 |