【初夢】超越者の戦い!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/18 21:56



■オープニング本文

 ※このシナリオは初夢シナリオです。
  オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 強さを求めた果てに何があるのか。
 高みを求めた先に何が見えるのか。
 それは、その者にしか分からない。

 拳の道を極めた果てに、限界を超えた強さを得た者が居る。
 剣の技を極めた果てに、刃の真理へと辿り着いた者が居る。
 魔術の研鑽の結果、禁断の力を超越してしまった者が居る。

 あらゆる限界の先には、それでもまだ見えぬ頂が待っているだけであった。
 ……だが孤高にも思える超越者にも敵が現れる。

 自分と同じく研鑽の果てに超越し、力の限界を超えた世界を知った者。
 全くの異界からの力を手に入れて、限界を軽々と飛躍してしまった者。
 世界に潜む真実に触れて、この世の法則と限界を逸脱してしまった者。
 そして、自分の内に潜む隠れた力に気付き、本来の力を取り戻した者。

 どちらが正義でどちらが悪なのか、それはどうでもいい。
 自分の力を発揮せねば打ち倒せない敵が眼前にいるという事実があるだけだ。
 今こそ、この力を振るうときだ。
 未だかつて、全力を発揮することの出来なかったその力。
 それをぶつけることの出来る敵が現れたのだ。
 ならば、あとは戦うだけだろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
ムキ(ib6120
20歳・男・砲
黄霖(ib6132
25歳・女・砲
八条 高菜(ib7059
35歳・女・シ
アナ・ダールストレーム(ib8823
35歳・女・志
田中俊介(ib9374
16歳・男・シ
鴉乃宮 千理(ib9782
21歳・女・武
サドクア(ib9804
25歳・女・陰


■リプレイ本文


 ある日滅びがやってきて、世界は混乱の極みに陥った。
 そんな世界の中で、超然と我が道を貫く者たちが居る。
 人は彼らを、超越者と呼ぶのだった。

 とある街、巨大なは虫類型のアヤカシが人を喰らおうとその顎をがぱりと開いた。
 泣き叫ぶ人々たち、世界は彼らにとって優しくない場所へと変貌していたのだ。
 力を増したアヤカシ、アヤカシまがいの力を得た悪党たち。
 力なき人々はただ耐えるしか無いのだ。
 だが、そんな光景を目にして、
「……なーんか、スッキリ爽快って感じかね」
 飄々と嘯く男がいた。男は魔槍砲を取り出して、眼前のアヤカシを一撃。
 閃光は魔砲「ブレイカーレイ」の一撃だ。
 空間が悲鳴を上げるほどの力の奔流は、アヤカシを粉々に消し去りその背後の山を削った。
 救われた人々は、救世主にすがり感謝を述べようとするのだが。
「あのなあ、そーやって一人一人がアヤカシ超越者と化して人を襲い続けるとなぁ……」
 ムキ(ib6120)は、人々を意に介さず滅ぼしたアヤカシに苦言をこぼす。
「俺達アヤカシにとっての勝機を生み出す元が、あっというまに居なくなるわけよ」
 男は、自分をアヤカシと言った。人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
「人が居なくなったら残るのは飢えだけ。だから、それなりに残ってて欲しい訳なんだな、これが」
 飄々と言う男、彼は淡々とその超越した力で、邪魔者を排除しているのだった。
 暴走し、力に踊らされている雑魚を排除し続けるムキ。
 だが、彼の力も狂気の超アヤカシ『知られざる混沌』から得たものだ。
 彼は人類の敵であり、同時にエサである人を守る存在だ。
 だが、そんな彼の前に、初めて同じ力を持つ者がやってきた。
「俺の大切な人を守るため、そこは退いて貰うよ! ……邪魔するなら斃さないとね!」
 叢雲 怜(ib5488)は左右の色が異なる瞳でじっとムキを見つめて言い放った。
 彼が手にした銃は単なるマスケット。だがその身に満ちる力はムキに勝るとも劣らない。
「へえ、そうかい……でも、此処を通すわけにはいかないね」
 にやりと笑って魔槍砲を向けるムキ。
 じわりとムキの魂に潜む深淵から力がにじみ出し、ムキもまた力を高めるのだが。
 がしゃん、その代償に彼の魂と記憶には縛鎖が絡みつく、閂が掛かっていく。
 それでもなお、彼は人の敵として立ちはだかり。
「それじゃ、勝負だぜ!」
 叢雲の紅瞳が輝くと、彼の力もまた高まって、そして両者は同時に最大の魔弾を放った。
 同時に放たれた「嵬」祇々季鬼穿弾は真っ向から衝突。
 叢雲が放ったのは極大の紅の閃光、ムキが放ったのは漆黒の奔流が五発。
 それがぶつかり弾け、爆音と地響き、地形は歪み、空の雲さえ引きちぎられて。
「叢雲の銃の技術は……一味違うのだぜ?」
「なら、今度はこっちから撃たせて貰おう」
 がしゃん、さらに記憶と魂を封じられつつムキが反撃、二人は人知を越えた戦いを繰り広げるのだった。


 二つの国が延々と戦い続けるその地。
「こりゃ総力戦じゃの」
 じゃらんと錫杖を慣して、淡々とそれを見守る武僧が一人。
 鴉乃宮 千理(ib9782)は、今まさに戦いが始まろうとしているその時、トンと錫杖で地を打った。
 ちりんと響く錫杖の音、応えるのはその地の神々だ。
 すでに忘れられ、消えかけた古代の神や精霊が鴉乃宮の求めに応じて力を貸せば、結界が現れた。
 その広さはなんと国を包むほど。見渡す限りを微かな燐光が走り天からは光が差して。
 そして結界は完成し、彼女は悠々と両軍の間へ歩を進めた。
 結界の中に居る限り、死をも退ける凄まじい呪がこの地には満ちている。
 だが、その真っ正面から鴉乃宮へと向かってくる人影が一つ。
 魔剣をひっさげた修羅の剣士はアナ・ダールストレーム(ib8823)だ。
 彼女はたまたま立ち寄った酒場で、依頼を受けてこの地へやってきた。
 依頼は危険人物の排除。目標は鴉乃宮だった。
 大軍同士の合戦の最中で、神をも使役する超越者が相手だ。だがアナに恐れは無い。
 彼女もまた、研鑽の果てに超越者の階梯へと達した超人なのである。
「面倒な所にきたわね。まぁ私に敵うのはいないけど。さて、どこにいるのかしら?」
 剣戟の響きが轟く戦場を悠々と横切ってくる。
 時折襲いかかってくる兵士は触れられもせずに吹き飛ばされる。
 だが鴉乃宮の結界のせいで、死にはしない兵士たち。
 だがアナとの力の差は歴然だ。不死の力を得ていても、超越者と単なる兵士の差は大きいのである。
「おや、お主アナかね?」
「あら、やっと見付けたわ。さ、勝負して貰おうかしら?」
 アナは魔剣を掲げると、にやりと笑う。彼女はただ強い敵を求めているだけなのだ。
 周囲から、兵士たちが二人の邪魔者に殺到する。
 だが、アナは弱者に興味は無く、鴉乃宮も結界を張っているので彼らを巻き込んでも気にせずに。
「ふむ我と戦いたい? 我が相手になるかわからぬが御相手しようぞ……汝等、邪魔じゃ」
 しゃらんと鴉乃宮の錫杖が響き応えたのは嵐の神だ。
 瞬間、風の無かった戦場のど真ん中に巨大な竜巻が発生し、兵士たちを蹴散らしていく。
 そこにアナは造作も無く踏み込む。魔剣を手に、神速の一閃。
 雷鳴のように剣が風を切る音が閃けば、竜巻ごと空間が真っ二つ。そしてアナは鴉乃宮に肉薄。
 だが、すでにそこに鴉乃宮は居なかった。嵐を煙幕に距離をとっていた彼女は、
「ほれ、出番じゃぞ」
 かつんと地面を錫杖で突くと、応えたのは邪神だ。地の底から数多の魑魅魍魎が這い出てきた。
 何百もの化け物がアナへと襲いかかる。アナは対抗してブラッドレイン。
 鍛え抜かれた五月雨の技は進化し、幻影ながらも威力のある無数のフランベルジェが化け物を串刺しに。
 周りの幾万の兵士を巻き込みながらも、超越の戦いが始まった。


「あっちもこっちも、どこも大変だね」
 鷲のような巨大アヤカシにまたがり空を行く田中俊介(ib9374)。
 あちらでは、巨大な砲撃が地を抉る戦いが。
 そして、戦場では神の力と剣の極みが激突し、凄まじい嵐を巻き起こしていた。
 それを飄々と眺める俊介は、ただただ得た力を振るい人間社会を蹂躙する。
 まだ無事な街を見付けては、無数の召喚獣を彼は呼び出して放った。
「さてさて、どういう悲鳴を聞かせてくれるかな」
 生み出したのは漆黒の猟犬のごときアヤカシの群れだ。それが人々を襲いはじめれば、
「ん? なんか近付いてくるね」
 街を挟み込むように、大きな二つの力が近付いてくることに彼は気付いた。
 巨大な龍の如きアヤカシの群れと、鎧騎士の軍勢を呼び出し、それを両者に向かわせるのだが、
 やってきたのは全く違う、二人の超越者だった。
「うふ、ふふふふ、ふふ……愉しいなぁ! たぁのしぃなぁ……!」
 踊るように歌うように、やってくるのは影を纏った全裸の女。八条 高菜(ib7059)だ。
 体を飾る影は生きているかのように命脈し、うねうねと動いていた。その全てが瘴気の塊なのだ。
 彼女の前に俊介の放った巨竜のアヤカシが牙を剥く、だが艶然と微笑んだ高菜、
「ふふふ、やぁん、暴れちゃダメよぅ……お仕置きしないとねぇ?」
 じわりと彼女の体にまとわりつく影がにじみ出て広がった。
 瞬く間に、それが巨竜へと絡みつき、瘴気へと分解していく。
 だが、群れはまだまだアヤカシがいる。それが次々に殺到し、角で貫き牙をたてる。
「うふ、うふふふ、構ってほしがるなんて、かわいーこだぁ……もっと遊びましょう?」
 だが高菜は攻撃に痛痒すら見せず、楽しそうに微笑むのみだ。
 そして高菜は召喚獣を通して、主の俊介に感づいた。妖艶に微笑み、舌舐めずりさえ浮べて。
「……はぁ、いいなぁ、すごくいい……決めた、絶対お持ち帰りしよう……待っててね?」

 一方の鎧騎士の軍勢が遭遇したのは一人の女砲術士だった。
 見たところ、超越者らしき力はまったくといっていいほど無かった。
 それどころか志体を持つものとしても弱そうである。
「……我ながら面倒くさい能力を得たものです」
 彼女は黄霖(ib6132)、実際彼女は一般人程度の力しか無かった。
 そんな彼女へと百をこえる軍勢が迫るのだが、弱い彼女はやれやれと呟いて。
 一歩、足を進めるとふわりと彼女の隣に『彼女』が現れた。
 二歩目、二人の彼女は四人に。それが8、16、32、64と増えていき。
 百を超えるアヤカシの軍勢の前に、1000の黄霖が立ちはだかるのであった。
「私を殺しきれば戻りますよ。殺しきって見せなさい」
 一般人並みの力しか無い黄霖。だがその一人一人は分身でも幻影でもなく彼女自身なのだ。
 この力の名は『最弱の群れ』。
 殺されても減らされても、すぐに増えて千人に。そして彼女が放つ弾丸は超越者の力を奪ってしまう。
 力によって作り出された召喚獣の群れは、あっという間に力を吸い尽くされて消えていく。
 もちろん、何百もの黄霖が殺されたのだが、すぐさまその数はもとどおり。
 瘴気を纏う妖艶な魔女と、弱いが故に全てを飲み込む千の英雄。
 その二つに挟まれた俊介は、
「うーん、困ったな。………逃げよ。じゃあねー」
 俊介は、囮の召喚獣を大量に放ち姿を消すのだった。


 地球へ魔手を伸ばす『知られざる混沌』。それに呼応して目覚めた者が居た。
「……星辰は正しき位置に”……そうか。余は神であったか」
 自覚と共に力が取り戻したサドクア(ib9804)は、すでに多くの信奉者を得る神となっていた。
 元を辿れば、何処とも知れぬ宇宙の深淵で、伴神の笛で踊る狂神の同胞だったのかもしれない。
 だがサドクアはこの地が気に入っていた。
「余を賞賛する聖歌が昼夜を問わず響く……うむ、心地よい」
 それを乱すのが『知られざる混沌』だ。故にサドクアは同じ神として宣言する。
「知られざる混沌よ。余の振舞いはやはり気に入らぬか……よろしい、ならば討ち果たすのみだ」
 こうして神と神との戦いは、誰に知られることなく始まった。
 人を守るためにサドクアは戦い続ける。
 因果にも時の流れにも縛られない神々同士の戦いだ。時間も因果律も超越して戦いは続く。
 だが、力の差は決定的だった。
 時間は稼げているが、このままでは消えるのはサドクアだ。
 だが永遠のように短く、そして一瞬のように長い攻防の果てで、サドクアは気付いた。
 地獄のような地上にあって、まだ救いを諦めない人々の意志を。

「叢雲の弾丸は、どこまでも逃がさないのだぜ!」
 叢雲の弾丸がうなりを上げて飛来する。一発一発が大アヤカシを粉砕する一撃だ。
 それが縦横無尽に軌道を変え、視界を埋め尽くすほどに飛来する。
「ならば、全て打ち落とそう」
 対するムキは、魔槍砲を向け力の奔流を放った。
 「嵬」祇々季鬼穿弾で放つ五発の弾丸。それはでたらめに空中をねじ曲がり全ての弾丸を相殺する。
 反撃は魔砲「ブレイカーレイ」。あらゆる属性へと変化する無数の弾幕をムキが放つ。
 だが、叢雲はそれを超人的な連射で迎撃。さらにその中に本命の強力な攻撃が混じりムキを穿つ。
 実力は互角だ。だが、力を使うほどにムキの魂は縛られていく。
 がしゃん、がしゃん、がしゃん。そして終にその時がやってきた。
 残っているのは戦い方だけ。全力の一撃を放ったムキの最後の記憶が、音を立てて砕けた。
「……楽しかったぜ」
 迫る弾幕を前に、ムキは小さく呟いて、爆炎に飲まれた。
 そして、全てを喰らい尽くされたムキの内側から、彼の魂を食い破り現れたモノがいた。
 空間に穴を穿ってにじみ出る『知られざる混沌』を前に、叢雲は銃を構えて。
「とうとう来たな! これが最後の一発……受けて見ろ!」

 戦場で暴れに暴れるアナと鴉乃宮。
 その両者を狙う両陣営、すでに戦場は両軍が協力して二人を狙うという状況だった。
 そこで、空が落ちてきた。
 やってきたのは『知られざる混沌』だ。
 両陣営の首脳陣達によってこの戦い自体が禍神に捧げるものに作り替えられていたのだ。
 だが、狂気の神を鴉乃宮の結界が受け止めた。
 戦場に交じる禍神の信奉者達が、次々に二人を狙う。
 両軍の最終兵器すら表れ、アヤカシの群れに禍神の力を使った兵器の数々が二人を襲う。
 だが、二人は、意にも介さなかった。
「見よアナ。団結じゃ。人間の美しい姿じゃのう」
「……この戦いの邪魔はさせない。それだけだ」
 二人は、ともに狂気の神の軍勢へ向き直ると武器を掲げ、そして力を放った。

「うふふ、うふふふ! さぁ、もっともっと遊びましょう!!」
 高らかに、そして妖艶に笑いながら踊る漆黒の魔女は千の軍勢に囲まれていた。
 最弱の群れ、黄霖の力だ。
 だが、黄霖は何人殺されようと無限に増えて高菜に襲いかかる。
 そして長い戦いの末、高菜は築いた。少しずつ少しずつ自分の力が消されていく。
「私は最弱です。同じ最弱になったご気分はいかがですか?」
「なぁにこれぇ……これじゃあ、人の枠に収まっていたころに逆戻りじゃない……うふふ、うふふふふ!」
 だが力を削られようと高菜は笑い続けていた。
 瘴気を吸われ、お返しに黄霖たちを大勢殺しても、黄霖の群れはひたすらその槍衾で高菜を攻め続ける。
 そしてついに高菜は力を失った。狂気の神から得た力は枯渇し、
「うふふ、うふふふふ……あはははははは!!」
 彼女はただただ、身動きも出ず瘴気の渦に飲み込まれながら笑い続けているのだった。
 そして瘴気の渦の向こうから、「知られざる混沌」がやってきた。
 黄霖はそれを待っていた。最弱の千人は、相手めがけて一斉に瘴気の渦へと身を躍らせた。

 サドクアはそれを全て見た。
 そして、人々の祈りや救いの意志を感じて、それを全て込めた一撃を放った。
「……まだ消える訳にはいかぬ! 受けてみよ、これが人の信じる力ぞ!!」
 金色の一撃は、神々の高みで戦う混沌の禍神へと吸いこまれていった。
 叢雲の放つ一撃は極大の砲撃となって『知られざる混沌』を穿った。
 アナと鴉乃宮の力は、空間を割って空に顕現した『知られざる混沌』へと殺到した。
 黄霖は『知られざる混沌』が分け与えた力をその千の槍衾で相殺し、
「後は人間の皆様のお仕事です。私の役目は終わりですね」
 そう呟きながら、ただ粉々に砕けて消えるのだった。

「ま、今回はこのくらいにしてやるわ。でもまた勝負よ。いいわね」
「うむ、じゃがその前にこの先の国で飯でもどうかね、アナよ」
 アナと鴉乃宮の二人は連れ立って旅に出た。
 黄霖はその欠片だけがただ風に消え、やがて高菜の笑い声も消えていった。
 そして神の力を得たサドクアは再び眠りにつくのだった。
「ただいまー!」
 世界を救った叢雲の声が、故郷に響く。こうして、地球の危機は救われたのである。