上流の方々、求む
マスター名：雪端為成
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■開拓者活動絵巻
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| ■オープニング本文 神楽からちょっと離れた街道筋。 そこに、非情に趣味のわるい屋敷が一つ建っていた。 屋敷の名前は、金魂館（キンコンカン）……正直言って、美意識はかけらも無い成金屋敷だ。 屋敷の主は、かつては開拓者であった天儀人、金潟市之助（カネガタ・イチノスケ）。 ジルベリアかぶれで、騎士としては二流どころか三流止まり。 だが、開拓者の時のコネやわるい仲間と商売をはじめ、それで少々成功を収めたとか。 結果、趣味のわるい屋敷の主と収まって、日々私腹を肥やしているのだが……。 この男の商売、それは盗品の売買なのだ。 はじめは、遺跡や依頼の中で手に入れた珍しい商品を売っていたらしい彼。 だが、開拓者崩れの悪党たちと連むようになってからは、本格的に悪の道へ。 そしてその盗品を売りさばくことで金を稼いでるのだという。 彼の顧客もまた微妙に後ろめたい者たちばかり。 何に使うのか知らないが、怪しげな薬や危険な装備を買い求める人々が日夜彼の館に集うのだ。 そこで行われているのは、顔を隠した競売である。 主の酷い美意識を反映してか、全員なぜか豪華絢爛な成金衣装に、仮面を付けての参加だとか。 だが、参加してる者たちは本気も本気。上流階級気取りで、日々宴を繰り広げているとか……。 そこで開拓者の出番だ。 ギルドとしては、かつて開拓者だった者がその時の交友関係を活かして悪事を、というのはいただけない。 なんとしても彼の悪事の証拠を掴まなければならないのだ。 そして、今回。 この悪趣味な競売において、盗品だと確実な品が出ることをギルドは掴んだ。 さらに、手を回して館の門番の１人を買収することに成功した。 これで、あとは中に客の振りをして乗り込んで、盗品を確保し悪党の身柄を抑えるだけだ。 ……上流階級気取りで、ジルベリア風や天儀風のきらびやかな格好をして。 そして顔には怪しげな仮面を付けつつ、きんきんきらきらな会場で金持ちを装う必要があるが……。 さて、どうする？ |
■参加者一覧
羅喉丸（ia0347）22歳・男・泰 
レヴェリー・ルナクロス（ia9985）20歳・女・騎 
猫宮 京香（ib0927）25歳・女・弓 
アルバルク（ib6635）38歳・男・砂 
ケイウス＝アルカーム（ib7387）23歳・男・吟 
呉若君（ib9911）25歳・男・砲 
藍 芙蝶（ib9912）25歳・女・泰 
山茶花 久兵衛（ib9946）82歳・男・陰 |
| ■リプレイ本文 ● 趣味のわるい金魂館での競売は、今日も始まろうとしていた。 絢爛豪華な衣装を身につけ、顔を隠した怪しい者たちの集いはいつものこと。 だが今日は、ひときわ人目を惹く人物が……妙に多かった。 まず一つ。ざわざわと人が視線を集中させる理由は……肌色だからだ。 「あぁ……私は如何してこんな格好をしているのかしら」 「予想以上に派手なドレスですね〜。趣味ではないですが、依頼のためにしょうがないですね〜」 小さく呟きつつも、屋敷の中に進み出たのは女性が２人。 先を行く女性はぎらぎらと宝石で飾られた派手な仮面を顔に付けていた。 衣装は黒、レースで作られたドレスなのだが、それはとても淫靡で妖艶であった。 大きく開いた胸元と背中、体の線を浮かび上がらせるぴったりとした造り、そして深いスリット。 さらに極めつけは、布地の少ないドレスの下から覗くローライズと黒いニーソックスである。 「……見られているわよね、私達」 こっそりと、相棒に呟いたのはレヴェリー・ルナクロス（ia9985）。 「見られてますね〜。でもその方がやりやすいですよ〜。だから、しっかりと見せつけて上げましょう〜」 応えて艶然と微笑んだのは猫宮 京香（ib0927）。 こちらの仮面は可愛らしい猫だがドレスは同じように豪華で妖艶だ。 レヴェリーのドレスと対象的にスカート丈は長くたっぷりとした豪華さである。 だが胸元は大きく開き、そこにはいくつもの真珠や宝石の首飾りが踊っていて。 さらに高く髪を結い上げそこにも綺羅星のごとく宝石が飾られ、いかにも成金趣味。 そんな２人の様子に、他の女性客が歯噛みしていたりするのだが……ともかく。 ２人は視線を一身に集めながら、悠々と用意された最前席に腰を下ろすのだった。 「……京香……私達、場違いではないわよね？ ね？」 どうやらレヴェリーは、あまりにもエロ……妖艶な衣装なためちょっと心配気味なようだが。 「大丈夫ですよ〜。ほら、あれが目標では〜？ 後は合図があるのを待つだけですね〜」 猫宮は口元を艶然と扇で隠し、ひそひそとレヴェリーに語りかけて。 そしてゆっくりと椅子に深く体を鎮め、ゆったりとその時を待つのだった。 注意を引いているのは彼女たちだけでは無い。 「これはこれは……なかなかに、見事、ですね」 多少ぎこちないしゃべり方の青年は、その出で立ちが特別だった。 さらりと流した髪には宝石飾りを満載した幅広の布が絡み、金糸銀糸で飾られた衣装はアルカマル風。 体の動きに合せて揺れる布地の多い衣装はどれもこれも豪華絢爛である。 仮面はアルカマルの精霊を模した物か、なめらかな石造りの不気味ながら美しい品。 一見すると、アルカマルから来た大富豪の青年な彼はケイウス＝アルカーム（ib7387）だ。 屋敷の広間をふらりふらりと歩いて、給仕から酒杯を受け取るなどとしていれば。 ふと、ケイウスはある物を見て、一瞬だけ固まった。 「ははは、面白いもんがあるって噂だろう？ そいつは見せて貰わねえと損ってもんだな」 派手な演劇用の白い仮面の下で、野太い笑い声を上げているのはアルバルク（ib6635）だった。 仮面の下から覗く黒髭やその粗野な印象からすると山師かどこぞの親分といった印象なのだが……。 彼の衣装は凄かった。真っ白なスーツ、それに赤マント。金のマント留めがきらり。 「……あれ、隊長か……」 ぽつりと呟くケイウス。思わず二度見してから慌てて平静を装って。 彼もまた悠々と、広間に用意された席に腰を下ろすのだった。 そして、人目を惹く最後の一組は、ジルベリア風の２人やアルカマル風のケイウスとまた違った。 ２人の装いは泰国風。人々は、その見事な装いと雰囲気に圧倒されたのであった。 ● 「あの装束は……貴人のためのものでは？ よほどの地位の方かしら？」 「後ろの女性は、護衛だろうな。受付で小刀を預けていたようだ」 「とすると、やはりあの男性はかなり身分の高い御仁なのだろうか……」 ざわざわと人々の口の端に上がっているのは一組の男女だ。 前を傲然と進む男性は呉若君（ib9911）。 仮面は紺碧色の龍を模した物、鱗と角までが付けられた恐ろしい品だ。 そしてその衣装は、なんと泰国の帝である春華王の衣装を模したものだった。 上品な布地、飾りは落ち着きのある衣装ながらも質が良いのが一目で見て取れて。 そして、声を掛けようと近寄ってくる相手には、じろりと視線を向けながら、 「汝等如きが、我に触れる、と……？」 仮面の下に酷薄な笑みをくつりと浮べて言い放つ彼は、他の客を圧倒しながら席に着くのだった。 そしてその後ろに付き従っていたのは白い蝶々の仮面の女性だ。 彼女は呉若君を主と仰ぐ、藍 芙蝶（ib9912）である。 豪華でありながら華美ではない白一色の旗袍を身につけた彼女はあくまで従者として振る舞っていて。 そして彼女は悠然と席に着いた主を見送ると、静かに入り口付近の壁際に立って開場を見渡した。 興味深そうに彼女やその主を見てくる者、下卑た笑いを上げて談笑する者……。 そのどれもが、芙蝶からすれば趣味がわるいとしか見えなかった。 「成金趣味とはこういう事か……良い見本じゃないか」 白い蝶の仮面の下で、芙蝶は目を細め油断無く神経を張り巡らすのだった。 「……あれが、金潟か……」 ちらりと視線だけを飛ばして、あらかじめ舞台の脇に置かれている品々に目をやった。 あらかじめギルドから貰った情報と頭の中で照合している彼は羅喉丸（ia0347）だ。 身なりの良い天儀風の着物に身を包んだ彼は、一見すれば冷やかしにきた何処かの若旦那といったところ。 だが、護衛も他の客も気付かないほどに、彼の気の配り方と動きは卓越していた。 金潟の護衛の位置、舞台や客の配置、そして周囲の状況。 それを頭にたたき込んだ羅喉丸は、虎を模した仮面の下の口を引き締め静かに気配を殺すのだった。 「食事は出んのか？」 「え？ ……あ、食事ですか。軽食でしたら、ジルベリアの立食形式ですが用意が御座います」 こちらです、と案内されるその男。大柄な体を天儀風の着物で包み、仮面は可愛らしいもふら。 仮面の下からちらりと覗く口元には人なつっこい笑み……だがその雰囲気は剣呑さを帯びていた。 豪奢な着物の着こなしや立ち居振る舞いは、大店の旦那と言うよりは裏社会の顔役。 その老爺は山茶花 久兵衛（ib9946）であった。 料理の小皿と酒を手に、ふらふら屋敷を見回る山茶花。 彼はは、方々でこっそりとあることを触れ回っていた。 「そこの御仁、聞いているか…？ 今日は主催者が、ある趣向を画策しているらしい」 人なつっこく、そして時には堂々と話しかける彼が切り出したのは、。 「虚偽の悶着をお越し、我らが慌てふためく様子を楽しむようだぞ……騙されるな」 という話であった。にやりと笑う山茶花に、仮面のお客たちは、同じくにやりと笑みを返して。 仮面の趣向にも嬉々として従う客たちだ。こういう遊びが好きなのだろう。 こうして山茶花の下準備も終了。彼はそっと広間の別の出入り口近くに陣取って。 「さて、あとは御覧じろ、か……ふん、成金か。趣味がわるいな」 小さく吐き捨てて、出されていた見かけ倒しの酒をちびちび啜るのだった。 ● 競売が始まった。 「次は遠く異国、アルカマルの名家に伝わる秘宝の短剣でござい！ これは世に二つの無い逸品です！」 高らかに声を上げる肥満男が金潟だ。彼はこうした弁舌においては多少才があるようで。 彼の煽りに合せて、徐々に競売は熱気を帯びていく。 もちろん、金潟の目的はその競売の売り上げから生まれる金と、 「そこなお嬢さんたち、このような商品は如何？ ジルベリアの没落貴族に伝わる首飾りであります！」 その金に釣られてくるような女のようだ。 金潟の視線はべったりと、京香やレヴェリーに張り付いているようだ。 だが、京香やレヴェリーにとっては気味がわるくてもそれが目的。 時に艶然と微笑んだり、嬉しそうに視線を返したりと、彼を手玉にとっていた。 そして、いよいよある品が舞台の上に上げられた。それは綺麗な絵が表面には描かれた美しい壺で、 「これは天儀のとある寺で大切に保存されていた古い絵付け壺でございます！」 蕩々と来歴を語る金潟。この壺は今回の目玉でもあったようで、次々に競りの声が上がる。 値段がどんどんつり上がれば競り合う者も減り、決まるかと思われた瞬間。 「……待ちたまえ。私も参加しよう……一万、上乗せだ」 静かながらも響く声で告げたのは若君。初めて動いたこの泰国の謎多き男に場内がどよめいた。 競りの相手になったのはどうやらどこぞの商人だ。 太った顔に流れる汗を拭きながら競り合うのだが……。 「ならば、さらに一万」 「……で、では五千……」 「もう一万だ」 みるみるうちに値段が上がっていき商人の顔は青くなったり赤くなったり。 だが、とうとう彼は値を上げた。 「さあ、もう値段は決まりでしょうか？ ではそちらの方が……」 値段が跳ね上がり喜色満面な金潟が若君を指さそうとしたその時、 「まってくれ！ ……倍額だ」 開場がどよめいた。声はアルカマル風の男、ケイウスが放ったものだった。 すでに相当の高値だがその倍額を付けたわけで、どよめきと歓声、興奮の声が上がる。 その中をすたすたとヤジを上げながら、ケイウスに近付いていく男は白スーツのアルバルクだ。 まるで、ケイウスを称えるように声を掛けたりと競売場は大賑わいとなって。 「っ！ ……こ、これは驚きました！ 倍額ですか！ では……落札となり」 と言いかけた金潟。盗んだ壺がこんな高値で売れるとはと天にも昇る気持ちだろう。 だが、それでは終わらなかった。 「ならばこちらも倍額だ。如何か？」 「では、さらにその倍で。どうしますか？」 なんと、ケイウスと若君の２人が競りだしたのだ。もう金額は天文学的な値に昇っていく。 それに比例して沸き返る他の客たち。その最高潮で、ついにケイウスが宣言した。 「『もうお終いですか？』」 笑顔とともに放たれた凛と響く声。その勝利宣言に、大いに歓声があがるのだった。 ● 熱狂と興奮で目を曇らせたのは客だけでは無く、場内の金潟や護衛たちも一緒。 次の瞬間から巻き起こったことは、全員の度肝を抜くこととなった。 すっくと立ち上がったのは泰国の男、若君。彼がすっと手を伸ばすと、その手中に短銃が。 魔法のように現れた一対の短銃を見て、金潟すらがぽかんとし。 「質の低き遊戯は終わりだ。……我が名は呉若君。開拓者の名の下に汝等に終焉を呉れてやろうぞ！」 ズドンと轟音とともに、天上に銃弾が放たれた！ 金切り声を上げる婦人。逃げようとする肥満体。 山茶花の言葉を信じて余興だと思ってきょろきょろする老人。 だがやはりわずかな客は悲鳴とともに出口へと殺到した。 しかし、そこに立ちはだかる影が二つ。 「……蝶、一匹たりとも逃がすで無いぞ」 「御意のままに……若」 大きな正面入り口の前には蝶の仮面の芙蝶。彼女は仮面を取り去り、軽やかに飛び上がった。 逃げようとする客眼前の壁に向かって蹴り一閃！ 趣味の悪い壁は粉砕して靴の跡がくっきり残された。 「……黙って、大人しくしていれば、手荒な事はしない」 蹴りと言葉だけで、暴徒と化した客はぴたりと動けなくなるのであった。 そしてもう一方。広間の裏口を目指した客の前にひらりと躍り出たのは山茶花だ。 にやりと笑いつつ袖を振ればその裾からぞろぞろと符が現れ式を無し、空気の刃が飛んでいき。 ふっと風の刃が通り過ぎれば、逃げようとしていた男の服が細切れに。 「……素っ裸で外に出るつもりか？」 ドスのきいた声で静かに言えば、客たちはぺたんと尻餅をつくのだった。 もちろん、護衛や警備の者たちも一瞬遅れて動き出した。 だが、その前にすっくと立ち上がり、声を高らかに響かせたのはケイウスだ。 叫び声？ 否、歌声だ。隠されたのど元の鈴がリンと響き、広がる歌声は夜の子守唄。 場違いなほどにゆったりとした曲が響けば、なんと広間の客等が全員ばたんと眠りに落ちたのだ。 護衛たちは志体があるのだろう、抵抗した者も多かったが、客は全滅。 一瞬、芙蝶と山茶花が足止めをしたおかげで全員を巻き込めたようだ。 そしてケイウスは仮面を取りながら、呆然としている金潟を指さして、 「あなたのしている事はお見通しだよ。だから、こんな事はもうお終い」 にっと笑みを向けるのだった。 敵だと判明したケイウスと若君に警備員たちが殺到する。 その前にひらりと躍り出たのは赤いマントと白スーツ、のアルバルクだ。 「おおっと、ここは通さねぇよ」 手にしているのは単なる折りたたみナイフ。だがそれで彼は護衛を手玉に取り圧倒。 ならばと若君へ殺到する警備員、その頭上を越えて飛来したのは白い影だ。 「これでも主人なんでね……手は出させんさ」 護衛の背を踏み台にひらりと側に飛降りて、殺到する護衛を蹴り飛ばしたのはもちろん芙蝶だ。 殺到した護衛たちは軒並み倒され、ならば逃げようと金潟が踵を返そうとすれば、 「た、助けて！ お願い、私達を……！」 「きゃっ、助けてください〜。何か怖いことになってますよ〜」 飛びついてきたのは美女２人。思わず鼻の下が伸びる金潟だったが、 「……大人しくしなさい！ 京香、そちらを抑えて！！」 「……なんちゃって〜。まずは目標確保ですね〜」 がっちり金潟をつかまえたレヴェリー。スタッキングで肉薄して鳩尾に膝蹴り一閃！ 京香は、くるりとスカートを翻すとその下の太腿にダーツと苦無。 一瞬でそれを手にして、左右に投擲、近寄ってきた護衛２人の足を射貫いて転倒させる！ もちろん、護衛はまだいる。女２人ならと殺到するが、 「そうはさせん。……因果応報というものだ、これで御前の悪事も終わりだ」 ドン、地を蹴る音とともに瞬脚で舞台上に飛び込んだ羅喉丸はただ二発の拳打を放つ。 それだけで、２人の護衛が鞠のようにはね跳び壁にたたきつけられて。 そして、残る護衛こそは、と思った次の瞬間、銃声が轟いた。護衛はもんどり打って転げて、 「………三流風情の遊戯、実に滑稽な物であったの」 くつくつと笑う若君。彼が笑いながら短銃を収め、仮面をぽいと放り投げれば、それはカランと音を立て。 眠りこける客、呻く護衛たち。カランカランと仮面が音を立てる中で……、 悠々と立っているのは開拓者だけであった。 金潟はレヴェリーの一撃であっさり昏倒していた。それをテキパキ縛る開拓者たち。 すぐさま、捕り物が行われ、大勢の悪人がこの場で捕まったとか。 依頼は無事成功、見事な潜入と策によって、金潟は事態を飲み込めないまま御用となるのであった。 |
