体を張って強度実験!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/07 20:35



■オープニング本文

 理穴のとある刀鍛冶の工房は、その日も大忙しだった。
 この工房は、複数の鍛冶師が集まって一つの大きな組合を作っているところである。
 主な仕事は、大口の顧客相手。
 時には、腕利きのための名刀を時間と技術をかけて作ることもある。
 だが、ほとんどの仕事は揃いの刀剣や鎧を何十何百と作ることであった。
 そして、今回大忙しなのも其れが理由。
 工房には、刀鍛冶に鎧の職人、ほか様々な工程に携わる職人がいた。
 それが、全員不眠不休で作業に打ち込んで、やっと完成のめどが立ったとのことで。

 だが、そこで問題になるのは納品する商品の性能だ。
 今回の納品先は、とある小さな領地でそこから歩兵や弓兵のための装備が発注されたというわけだ。
 商品の数は、刀80振り、槍50本、弓50張り、そして胴丸鎧が50組だ。
 すでに商品は一揃い完成したらしい。
 だが、収めるからにはしっかりとした商品なのか調べなければならない。

 そこで、声がかかったのは理穴の高官のところで暇していたとある発明家、中務佐平次氏である。
 構造試験や強度実験などに関する知識もあるそうで、理穴高官の保上明征氏が紹介したらしい。
 というわけで、商品の調査をすることになった佐平次だったのだが……。
「こういうものは、実際に使用してみて試すのが一番ですよ。お手伝いを呼んで試しましょう!」
 というわけで、ギルドに依頼が出たというわけだ。

 開拓者の仕事は単純、大量生産の武器の強度調査の手伝いだ。
 だが、佐平次による注意書きが一つ。
 「武器の扱いに長け、身体頑強にして武勇の者、もしくはその動き迅雷風烈にして鋭い者を求む」
 どうやら、一筋縄ではいかないようだ。
 さて、どうする?


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
霧咲 水奏(ia9145
28歳・女・弓
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
マルセール(ib9563
17歳・女・志
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
平野 等(ic0012
20歳・男・泰
カロン(ic0091
25歳・男・泰


■リプレイ本文


 工房の裏にある開けた試験場にて、きりっと弓を引く女性がひとり。
 弓は小ぶりなものだ。おそらく山野の中で弓を使う狩人用に近いものなのだろう。
 矢をつがえ、ぐっと胸を張って、弓を引き絞り、そして放つ。
 放たれた矢は、やや近めの的に見事命中、女性は手にした弓の具合を改めて確かめるのだった。
「……弓の調子はどうですか?」
「中務殿。……大量生産の品にしては、なかなかの仕事だと思いまする」
 弓を扱っていた女性、霧咲 水奏(ia9145)は依頼人の中務佐平次を振り向いてそういった。
「そうですか。私、銃はある程度分かるんですが、弓や他の武具に関しては基本しかわからないもので……」
「反りや成りもまずまず、耐久性に関しては問題ないようで御座います」
 見れば、的やその周囲にはすでに大量の矢が刺さっていた。かなりの本数試射してみたのだろう。
「即射や強射にも対応出来る耐久性、弦や弓弭の耐久性・利便性共に確認致しましたが、大丈夫でしょう」
「なるほど、一流の弓術士にそう言って貰えれば工房の方々も喜ぶと思いますよ」
 我が事のように笑顔になる佐平次に、霧咲は頷いて。
「して、一つ相談なのですが」
「はい、なんでしょう?」
 報告をまとめていた佐平次が顔を上げて聞けば、
「湿気は弓の大敵故に、湿気に対する強さも調べたい所でありまして、何か良い案は御座いませぬか?」
「ふむ、工房で使う水のための溜め池が裏手にあったと思いますよ。その側なら湿気てると思いますし」
「では、しばらくそこで放置してみて、、見極めると致しましょう」
 そういって2人は、工房へと戻っていくのだった。

 一方その頃、工房の中庭で実験用の胴丸を装備中なのは三笠 三四郎(ia0163)だ。
 普段の装備を外し、鎧直垂の上から胴丸を装備、体に合うようにぎりっと締めて準備完了。
 白墨を使って擦れ、摩耗、歪みがわかりやすいようにしてから、彼は職人たちの前で軽々と動き始めた。
 急に走り出したり止まったり、飛び上がったり滑り込みをしたり。
 それはどれも、ちょっとまえに三笠が何時もの装備でしていたことを繰り返して行っているようで。
 おそらくは、動きの差から比較しているのだろう。
 さらに、その後武器を手にさまざまに動いて武器の重心や使い勝手を確かめて。
「……こんなところですか。量産品ですからね」
 一通り、実験を終えた三笠は、手早く結果や手応えを文章にまとめるのだった。
 こうした量産防具に重要なのは霧咲が試していたように、信頼性と堅牢さ、そして耐久性だ。
 最新技術や先進的な造りは必要無く、さらにいえば個々の装備者へ適応することは望めないのだ。
 ならば、激しい動きでも決して繋ぎ目が解れず、装備が緩むこともなく。
 そして、頑丈であれば良いというわけで、その点では及第点だったようで。
「おや? 三笠さん。これからどちらへ?」
 そこにやってきたのは、霧咲と手はずを整え終わった佐平次だ。
 もう一度胴丸鎧を着け直している三笠に不思議そうに佐平次が問えば、
「ええ、この後は……殴られに」
「あー……怪我には気をつけてくださいね」
 苦笑しつつ見送る佐平次に、三笠は仕事ですからと肩をすくめて去って行くのだった。

 そんな佐平次は、てくてくと別棟の工房前にやってきた。
 そこでは他の面々に先駆けて、鎧と武器の耐久実験が行われていた。
 ……何故か、男たちと一部の女性職人たちは、良い笑顔でその実験を見守っていた。
「なかなか変わった依頼ですね〜。とりあえずどちらがどれを対応しましょうか〜?」
「そうね、京香はその胴丸鎧を身につけて……ふ、ふふふ、何時も流されてばかりだけど、今日は一味違うわ」
 猫宮 京香(ib0927)とレヴェリー・ルナクロス(ia9985)。
 この2人は、良く一緒に依頼に参加する間柄だ。過去に佐平次に関わる依頼でも2人揃って参加経験がある。
 だが実は2人のうち、レヴェリーが毎回貧乏くじやら大変な目に遭ったりすることも多いとか。
 まぁ、大変な目、というのはだいたいにおいて服が大変なことになったりして、とても眼福なのだが……。
 それはさておき、今日のレヴェリーはひと味違うようだ。目の輝きが違う、ぎらぎらというかめらめらというか。
「では私が鎧ですね〜。武器は確かにレヴェリーさんの方が使うの得意そうですしね〜」
「ふふふふふ、それじゃあそうさせて貰うわね。腕が鳴るわ〜」
「………? なんだか、レヴェリーさん、今日はとてもやる気ですね〜?」
「え? 何のことかしら京香。私は何時も通り……ええ、何時も通りだわ」
 にっこりと仮面の下に笑顔を浮かべるレヴェリー、京香は一抹の不安を覚えつつ、鎧を身につけるのだった。
 さて、いろいろと職人たちが見守る中、対峙する2人。
 京香はその量感たっぷりの胸をなんとかかんとか胴丸に押し込み、しずかに構えていた。
 今回は鎧帷子も控えて、あくまで鎧の耐久やその影響を調べるため我が身を晒しての献身だ。
 だが、それももちろん相手のレヴェリーへの信頼があるからこそ、こうして身をさらせる分けなのだが。
「それじゃ、行くわね……ハッ!」
 気合いと共に打ち込むレヴェリー。もちろん、鎧の性能を確かめるためだ。
 最初は手加減をしつつ、何度も防御の厚い場所を打ち据えて。
 レヴェリーはその優れた腕前で的確に鎧を打ち込んでいく。すると鎧の限界もいろいろと見えてきたのだが。
「鎧をつけているとはいえ、流石に受けるだけというのはちょっと大変ですよ〜。でも結構もちますね〜……」
 びしっと、一撃。丁度、肩の留め具が壊れたようで、ぺろんと前の鎧がはがれて。
 すると鎧の下には上気した肌に薄着一枚。それがあらわになったのだ。
「あれ? ……きゃぁ!? レヴェリーさん頑張りすぎですよ〜」
「……覚悟を決めて、京香! これも実験の成就のためよ!」
 なぜかわーっと拍手をしている職人たちや佐平次。だがとりあえずレヴェリーは次の鎧をもってくる。
「あら? 次の鎧? ……これはなんだか防御部位がとても少ないですけど〜」
「女性用の鎧の試作品らしいわ! さ、次も実験よ。そうこれも全部実験のため!」
 といって、いろいろ掠っているためか、鎧の下の服もぼろぼろな京香に向かってレヴェリーが詰め寄って。
「って、このままするんですか〜!? レヴェリーさん、何か顔が怖いですが〜」
「ふふふ、実験、って言ったでしょう? だから、なーんにも心配することはないわよー」
 ずいずいずずいと詰め寄って、鎧を着せてはびしばし攻撃。鎧ぼろぼろ服ぼろぼろ。
 そして鎧が壊れたら京香から鎧をぺいっとはぎ取って、さらに次の鎧。
 気付けば京香の鎧帷子代わりの着衣はもうぼろぼろ。布というか残骸だ。
 さすがは歴戦の騎士。
 わーっとますます拍手喝采。なにやら女性職人たちもやんやと喝采。
 そして、ついに試験用の鎧を潰しきったレヴェリーは良い笑顔を浮かべるのだった。
 邪念を払いきるほどに、武器を振るって鎧の限界を調べることが出来た。
 そして、なんというか、背後には鎧ごとぼろぼろになった姿で、ちょっと目を回し気味な京香がいるのだが。
「……ふぅ〜スッキリしたわ。ええ、偶には良いかもしれないわね。こういうことも」
 健康的な汗を浮かべ、仮面の上からでも分かる満面の笑顔。だが、そんな彼女の後ろに忍び寄る影があった。
 ちなみに、この時点で観衆だった職人たちは撤退済みだ。
「……レ・ヴェ・リー・さん♪ とっても満足そうですね〜♪」
 ぽむっとレヴェリーの肩を掴んだのは、もちろん京香。
 ぎぎぃっと首を向けるレヴェリーが見たものは、素敵な笑顔の親友だった、どす黒いオーラを放射しつつだが。
「きょ、京香? 話し合いましょう。何事も、其れが大事だと思うわ」
「そうですね〜、話し合いは大事〜♪ だから、今度は私に付き合ってもらいましょうか〜♪ うふふふふふ♪」
「ゆ、許して! 御免なさい、い、嫌、嫌ぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!」
 そしてどこかに連れて行かれるレヴェリーであった。
「……あっ、そういえば、他の方々も鎧の試験をするとか……」
 硬直が解けた佐平次は、慌てて他の面々の所二向かうのだった。


「う、カロン……! どうしてここに……カロンがここに居るということは……我が師は近くにいるのだろうか?」
「なんとマルスとこんなところで出会うとは! ということはマルスの師であるあいつはこの近くに居るのか?」
 マルセール(ib9563)とカロン(ic0091)、2人にはなにやら因縁があるようだ。
 だが、それはさておき。
「……いや、、今は依頼を果たさねば………問い詰めるのはそのあとだ」
「……すぐにでも問い詰めたいが……今は依頼が優先だ」
 2人とも、なかなかに仕事に対しては真摯なようで、2人とも配置につくのだった。
 さて、まずは青い目の女性志士。マルセールの方を見て見よう。
 彼女は刀の1本を受け取り、構えたりかざしたりとしばし確認。
 どうやら重心や握りの感覚を確かめているようだ。そんな彼女の相手は妙齢の武僧だ。
「マルセールさん、おひさ! 元気だった〜?  お相手して貰えるかな?」
「ああ、久しいな。それでは相手をしようか。お互いの修練にもなるし一石二鳥だな」
 槍を手に、具合を確かめているのは戸隠 菫(ib9794)。槍使いらしく堂々たる物腰だ。
 そして対峙する2人。マルセールは刀を手に、戸隠は槍を手にして、そして同時に武器を繰り出した!
 槍の特製はその長さだ、鋭く突き出された槍、それをマルセールは刀で横にそらし踏み込む。
 その刀の一撃を槍の柄で受け止め、刃に負担を掛けつつ鍔迫り合い。
 折られまいとするマルセールが刃を逸らして薙ぐのを、今度は戸隠が柄を使って逸らす。
 どの攻防も、刃や柄、鍔に負担を与えるものだ。一撃ごとに火花が散り、時には刃が欠けて。
 そして数合打ち合っていくのだが、その速度はどんどん上がっていって。
「……はぁー、速くてさっぱり見えませんねぇ。霧咲さん見えますか?」
「ええ、弓術士は目が良いもので御座いますから。今の攻防は、平突を槍が払い落とし、臑を刈りで反撃、です」
 そこにやってきたのは佐平次と霧咲。ちょっと動きを見ながらお手伝いといった様子で。
 一方、もう一組。先程のカロンと対峙しているのはへらへらと笑う青年、平野 等(ic0012)だ。
「……何か、両手に刀持って、羽飾りのついた仮面被って、がに股でポーズつけたくなりますよね」
 全信金ピカでなのかはさておき、そんなこと言いながら刀を選んでいた平野は1本を手にとって。
「さて、カロンさん! 鎧の準備も良いみたいだな……はじめようか!」
「ふむ、平野とやら。この私を相手に選ぶとは、さてはなかなかの目利きだな! 参るぞ!」
 そういって二人も激突。こちらは両者共に刀だ。
 実はこの両者泰拳士、刀は本職では無いのだ、それでも試すには問題ない技量で、がっきりと二人は斬り合う。
 袈裟斬り、払い、打ち上げ、小手うち。剣閃がひらめき刃がかみ合い火花を散らす。
 ちなみに防具はカロンだけ。なので、カロンは時折防具でワザと攻撃を受けてみたりといろいろ試して。
 だが、二人の攻防は徐々に白熱してきた。
 両者、身のこなしでは並ぶ者無き泰拳士たちだ。鋭い動きと緩急自在の体捌きは甲乙付け難しで。
「……一見軽そうにも見えるが、きっとなかなかの実力者だな平野とやら。遠慮はいるまい!」
「こうきて……こう! あ、こっちのほうがいいか……次はこれ!」
 がちんとかみ合った刃が欠け、その破片が飛んだのだろう、両者の額に軽く血が。だが二人は止まらない。
 次はどんなワザが出るのか、どんな攻防が飛び出すのか!

「カロンさんもなかなかやりますね……! じゃあ、これでどうだ!」
 びし! 平野は跳びすさって構えた! 見事な荒鷹陣! 決まったっ!!
「いいだろう、ならば全力を見せてやろう。この技には自信がある……完璧に決めてみせる!」
 びし! カロンも見事に構えて見せた! こちらも見事な荒鷹陣! 決まった!!

「次はこれだ!!」「これならどうだ!!」「なに!? 見事だが、これはどうだ!」「だったらこれだ!」
 びしびしー! と二人は荒鷹陣で応酬し合うのだった。
 そこにやってきたのは、隣で調査を一段落させたマルセールと戸隠だった。
 額の傷に気付いた戸隠は、治療をしなければと思うのだが、なにはらカロンと平野は盛り上がっている様子。
 そこにすたすたと近付いたのはマルセールだった。
「お前たちいい加減にしろ!」
 ごつんごつん、まとめて予備の鎧の鉄板で頭を叩いて、荒鷹陣合戦を止めたマルセール。
 実験から脱線しまくりの二人は、戸隠の治療を受けつつちょっとお説教を喰らうのだった。


 そして実験は終わって。
「まったくバカロンは……」
 はぁと、ため息をついているのは鉄拳制裁をしたマルセールだ。
 いろいろと脱線はあったモノの実験は無事成功。問題ないという結果が出た上にいろいろと役に立ったようだ。
 そんなマルセールが手にしているのは、
「はーい、体が温まるよ〜。カロンさんと平野さんも、はいどうぞ!」
 戸隠が作ったほうとうのようだ。秋の野菜をたっぷり使ったほうとうを振る舞っている戸隠。
 これは職人たちにも好評で、調査に関する話も賑やかに進んでいるようであった。

「三笠さんや霧咲さんは葉山領とご縁があるんですか! 奇遇ですね〜。この武具は葉山からの依頼なんですよ」
「それは重畳であります。良質であれば一筆認めようかと思っておりました」
「ええ、それなら折角ですし、お墨付きだと紹介文を添えてもいいかもしれませんねー」
 佐平次が明かしたこの商品の納品先はたまたま開拓者の知るところだったようだ。
 そこでふと三笠はほうとうを手にしつつ、
「……そういえばレヴェリーさんも葉山領で教官をしていたはずですが……」
「ああ、そうなんですか! ならレヴェリーさんも……ゎぉ」
 くるりと振り向いた佐平次。
 彼はそこでがっちり京香に捕獲されたまま、ぷしゅうと煙を噴いているレヴェリーを発見して。
 なにやらいろいろお仕置きされたのか、よく分からないがてろんとしているレヴェリー。
 一方の京香は、いつも以上につやつやしているようだが、とりあえず見なかったことにした佐平次。
「あ、あはは、とりあえず貴重な情報が集まりました。お疲れ様でした」
 こうして、調査依頼は無事終了。脱線やら大変な目に遭った者は居たが、依頼は無事成功したのだった。