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■オープニング本文 理穴の小さな領地、葉山領。 かつて魔の森に飲まれたその領は、開拓者の働きにより取り戻され再開拓が進みつつあった。 葉山を治めるのは、少年領主の葉山雪之丞だ。 そんな葉山領は、開拓者に大いに助けられている場所であった。 雪之丞の両親の悲願であった領地の奪還。さらには、領地の復興や兵たちの訓練、開発計画の立案。 そして、最近この領地で温泉が見つかったのだが、これもまた開拓者によるものだった。 ちょうど葉山では薬草園と医術や本草学(薬草学)を研究する場所を作ってはという提案がされていた。 そこで、塩気の強い温泉は怪我に丁度よいということも相まって、複合施設を作ることになったのだ。 療養の為の温泉と、その温泉の熱を使った温室付の薬草園、そして療養所と医学校。 領主、雪之丞少年の号令の元、一気にこれらの設備が整えられていった。 そして一番最初にできあがったのは温泉だ。 ある開拓者の名を貰ったこのアルマ温泉、急ごしらえながら広々とした温泉宿が完成。 湯治に最適、しかも切り傷や火傷に最適な塩の温泉とあれば、きっと人気が出るだろう。 「孫市! とうとうできたぞ温泉が!! ……すぐにでも店開きできるはずだな!」 「……坊ちゃま、従業員はどうしたのですか? 見当たりませんが」 「………あれ?」 完成した温泉、張り切ってそれを取り仕切っていた雪之丞少年は従業員の募集を忘れていたらしい。 慌てて人を集めてみたのだが、集まるのは一週間後とか。これは困った。だが、雪之丞少年は閃いた。 「………か、開拓者を呼べば良いのだ!」 「またですか坊ちゃま……」 というわけで、開拓者にお仕事の募集である。 新しく出来た温泉が、従業員を募集中。なお、人手がさっぱり足りないので今回は特例で相棒が許可。 なお、相棒は人語を喋ることの出来て、活動時間制限の無い種類のみ。 具体的には、「からくり・人妖・羽妖精・土偶ゴーレム・猫又・もふら」が相応しい。 相棒と協力して、一週間の間新たな温泉宿を運営して欲しい。 さて、どうする? |
■参加者一覧
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
露草(ia1350)
17歳・女・陰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
ネオン・L・メサイア(ia8051)
26歳・女・シ
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
セフィール・アズブラウ(ib6196)
16歳・女・砲
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
イライザ・ウルフスタン(ic0025)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 「では張り切って働きましょー!」 「はーい!」 露草(ia1350)と彼女の相棒、人妖の衣通姫の元気な声が響き渡る早朝の温泉宿。 2人は、揃いの前掛けを付けてしっかり準備完了、仲居の仕事をこなすようだ。 仲居とは宿で給仕や客の接待をこなす仕事、だが今はまだお客が居ないわけで。 「……でも、なにするのー? お客さんまだいないのー」 「そうね、それならまずはお掃除でもしましょうか」 そして2人は真新しい宿をさらに磨き上げにかかるのだった。 廊下を雑巾がけして、窓を磨いて。そしてやってきたのは宿の顔である玄関だ。 そこには十野間 月与(ib0343)と彼女の相棒が。 「いいですか、睡蓮。今回は女将候補は居ないようなので、とりあえず交代で女将役を勤めますからね?」 彼女の言葉にこっくり頷くからくりの睡蓮。2人は受付で、業務の確認中の模様だ。 従業員が空のこの宿。女将候補もその例に漏れず不在のようで、今回は彼女らが女将代わり。 領主の雪之丞も彼女らに女将役を任せるということで、十野間は大忙しのようで。 「各部屋への手鏡と耳栓は?」 「……先程雪之丞様の家臣、孫市様が予備分を含めてお持ちくださりました」 手元の帳面をめくって確認した睡蓮は、籐の籠に入った一式を手渡して。それを受け取った十野間は、 「……ああ、丁度良いところに。露草さん、衣通姫さん。これ、部屋に届けてくださる?」 「うけたまわったなのー」 元気に応える衣通姫に、十野間は荷物を渡して 「さて、なら次は……見取り図と案内表示ね。今は簡単に張り紙で良いでしょう」 墨と筆を手にさらさら張り紙を書き上げていく十野間。 新しい宿ゆえに、客の不便を避けるため、見取り図や利用時間などの案内を何枚か書き上げて。 「では睡蓮、手分けしてこれを張りに行きましょうか」 再び頷く睡蓮と共に、十野間は忙しく廊下を歩いて行くのだった。 その十野間、途中ですれ違ったのは大荷物を抱えた小柄な少女だ。 「あら、まゆちゃん。材料はそろったの?」 声をかける十野間。 すると、かごに大盛りの野菜の間からひょこっと礼野 真夢紀(ia1144)が顔を覗かせた。 「はい。これはお昼用ですけど……沢山材料が揃いました。特に鴨が手に入ったのは嬉しいです」 「鴨? さすが理穴ね。なら、お昼は鴨料理かしら?」 「お昼は、お蕎麦の予定ですよ。手打ちは限界があるので、領にお店を誘致出来ると良いんですけど」 首を傾げて応える礼野。小さいながらも有能な料理人の彼女は今回料理担当のようで。 「あら、なら鴨蕎麦かしら? まゆちゃんが作るの?」 「いいえ、お手伝いはしますけど、お蕎麦は私よりもっと得意な人が……もうすぐくると思います」 そういって、礼野はおてつだいーと荷物を運んでいる相棒のしらさぎとともに、厨房へ。 十野間はそれを見送って、お蕎麦の張り紙も作ろうと受付に戻るのだった。 その頃、礼野が待ち望んでいた蕎麦職人……ではなく、開拓者がちょうど宿の前にやってきていた。 どうやら蕎麦の材料のそば粉やらを仕入れて来たようで。 「久しぶりに寄ってみたら、温泉なんて湧いてたとはな……ま、仕事は仕事だがあとで温泉も楽しむかね〜」 暢気に宿を見上げて、呟く喪越(ia1670)。 怪しい風体の彼だが、実はそば切りの屋台を引く蕎麦職人でもあるとか。 そんな彼の横にいるのは楚々としたメイド姿の美女……のからくり。綾音だ。 綾音は温泉宿を見て、それから主の喪越をちらりと見て。 「……温泉宿、ですか。構造的には主がよく行きたがっている遊郭に酷似しておりますね」 「?! こらこらこんな往来で人聞きのわるい……」 「ですが、この施設は健全な目的のために、健全な運営を行うもののようですね」 「それは遠回しに……あなたは不健全、不潔ですって言ってないか?」 「さて、なんのことでしょう」 喪越の抗議も何処吹く風で、すたすた先に裏口へ向かう綾音を、慌てて追う喪越。 すると裏口からすぐの厨房では礼野やしらさぎが下ごしらえや準備の真っ最中だった。 そこで、喪越は思い出す。今回の依頼は、従業員が居ないのでその変わりを開拓者がするらしい。 「……しっかし、美人な仲居さんとくんずほぐれつできると思ってきたのになぁ……」 はぁとため息をつく喪越をじーっと眺める綾音。 「…………やっぱり不潔ですね」 「遠回しですら無くなったっ!」 遠慮無しの綾音の言葉に、ぐったりする喪越だった。 喪越と綾音に気付いた礼野が、蕎麦の準備を手伝い始めたその時、ちょうど厨房にやってきたのは、 「ああ、皆さん丁度良いところに。用意した揃いの衣装をどうぞ」 揃いの藍染めの前掛けと手ぬぐいを手にしたセフィール・アズブラウ(ib6196)だ。 奇しくも、彼女の衣装はメイド風、綾音とよく似た出で立ちで。 しかし、セフィールはその藍染めの手ぬぐいをヘッドドレスに見立てて身につけていた。 それをみた綾音、自分もいそいそと似たように揃いの衣装を身につけて。 「では、私は別の業務に……業務内容はメイドの仕事と大差ない様子ですし、腕が鳴りますね」 綾音の言葉にうんうんとセフィールも頷く。 「ええ、共通点は多いですし、一度やってみたいと思って居ましたので……」 だが、頼りになりそうな綾音は、喪越に向き直ると、しれっと告げた。 「確か、お客様を出迎えるときは、『お帰りなさいませ、ご主人様♪』ですよね?」 「だからそれだと、別の商売になっちまうって……って、なんか廻りの視線が痛いんデスガ?」 綾音の言葉で場が凍った。慌てて喪越は仲間の誤解を解こうとするが、時すでに遅し。 「……さ、クロさんも強制参加ですよ。お仕事に戻りましょう」 「まあ、構いはしないが」 すたすたと、セフィールは相棒の猫又クロさんを連れて館内清掃の仕事へ。 「しらさぎ、一緒に晩ご飯の下ごしらえをしましょうか」 「ガンバル」 体は大きいが、中身の幼い妹分のしらさぎに仕事を教えつつ礼野も料理を開始。 さらには綾音もさっさと自分の仕事に向かってしまって、ぽつりと喪越は1人残されて。 「……蕎麦でも作るか……」 孤立無援の喪越は、しょんぼり蕎麦を打ち始めるのだった。 「我は面倒なのは嫌なのじゃがのぉ……」 「桔梗もそんなこと言わずに……なかなかこういう経験も出来ないし頑張ろうっ」 白い髪の少年、相川・勝一(ia0675)は黒髪の人妖、桔梗と共に。 「……本当は、あまり人と関わりたくない……けど、このままじゃ駄目……って、ネオンが言うから」 「大丈夫、あたしも頑張ってサポートするから!」 伏し目がちな少女イライザ・ウルフスタン(ic0025)は元気なからくり、エリィと共に。 「ふふふ、如何なるか楽しみだ。そうだろう、リリィ?」 「……御意」 そして2人を見て楽しそうに笑うのはネオン・L・メサイア(ia8051)だ。 傍らには、からくりのリーリエ・メサイアが。 この3人は知己のようでどうやら仕事がてらなにか目的があるようだ。 「準備不足は頂けないが、丁度都合が良い。この機会、イライザのリハビリに使わせて貰おうか」 と、ネオンが言うように客商売を通じてイライザの人見知りを改善したいよう。 ネオンはからくりのリリーエ、通称リリィから仲間が用意した揃いの前掛けを受け取って。 「さあ2人とも、揃いの前掛けと手ぬぐいを付けるんだ」 イライザと相川の2人にも手渡して、ネオンはぐるりと一同を見回すのだった。 「さて、頑張ろうか二人共……いや、お前達もか」 「御意……全力補佐」 からくりのリリィは主の傍らで準備万端のようで。 「じゃあボクは、お掃除とか細々とした雑用を……」 「あたしは接客ー! お客さんが来るまでは受付のお仕事を手伝ってくるね」 おどおどと、しかし相棒のエリィやネオンに助けられつつ、奮起するのはイライザだ。 そして相川はというと。 「よし、お客さんがいないうちに、綺麗にしちゃおうかな!」 「……ぬぅ、出来れば楽をしたいのじゃがな……」 やる気をちっとも見せてくれない人妖に手を焼いていた。 「桔梗もそんな事いってないで……そうだ、厨房で聞いたんだけど、美味しいお酒があるらしいよ?」 「ぬ、美味い酒じゃと? なら仕方あるまいの!」 とたんにしゃきーんと元気に支度する人妖の桔梗。どうやらなかなかの酒豪らしい。 そんな様子を見て、くすくすと笑うネオンとその裾をきゅっと掴んで隠れ気味のイライザ。 一同は、いそいそと仕事を始めるのだった。 そしてしばらく後。ごしごしと露天風呂の浴槽を清掃する相川がいた。 このアルマ温泉は源泉掛け流しだ。湯量は豊富なようで、湧いた温泉をそのまま流しているようだ。 だがそこで問題なのが衛生面と塩気。そのため清掃は念入りにというわけだ。 そこに、ひょっこりと薪の束を持ってきたのは、九竜・鋼介(ia2192)だ。 「薪はひとまず使う分は用意できたぞ? 薪割りだけに、巻きで……ってな」 「………え、えぇと、薪は裏手の竈近くに積んでおいてくださいね」 とりあえず、九竜のダジャレにツッコミ損ねた相川。特に気にせず九竜は薪をどすんと裏手に置いて。 竈はどうやら加温のための設備だ。 温度が低めのこの温泉では陶製の管に湯を通し、加熱する事で温泉の温度を加熱し保つ仕組みらしい。 九竜は仕事はこれで一段落でさてどうしようかと考えて居れば、そこにてこてことやって来る人妖の瑠璃。 「おお、ここに居ったか主殿。薬湯の許可を領主殿に貰うたぞ。客引きついでに唐辛子を買ってくるかのう?」 そんな瑠璃の言葉に反応したのは、清掃中の相川だった。 「薬湯ですか! それはいいですね……でも、唐辛子を使うんですか?」 「ああ、折角薬草園があるなら各種薬湯を、と提案したんだがな。すぐ手に入るのは唐辛子ぐらいで……」 そう説明する九竜。肌が弱い人には勧められないが、といいつつ準備して。 「丁度こちらも一仕事終わったところだし、街まで出て買い物と宣伝に行ってくるさ」 そういって、相川に見送られつつ、瑠璃と九竜は街へと繰り出すのだった。 時刻はそろそろ昼頃だ。 もうじき客も来る事だろうが、その中開拓者の最後の一人が黙々と働いていた。 「キルアも頑張っていることだろうし、私も頑張らないと!」 一人、宿の裏手で汗を流しているのはラグナ・グラウシード(ib8459)だ。 仕事は薪割り。すでに大量に用意されていた丸太を鉈でぱっきんぱっきん割り続ける仕事である。 しかし、これが一苦労だ。暖房に煮炊き、さらには先程九竜が運んだ温泉の加熱用。 それら全てに薪が必要なのだ。一日に必要なのは数百本以上だろう。となれば、仕事量も相応で。 ちなみに、ラグナの相棒は羽妖精のキルア。彼女は現在受付あたりでお客を待っている事だろう。 一人孤独に働くラグナ。だが彼の顔には笑顔が浮かんでいた。 肌寒い季節、孤独な仕事、大変な肉体労働……では何が彼を笑顔にさせるのか。 「……温泉が混浴なのかどうか! それが問題だ!」 心中の懸念がちょっとばかりぽろり。どうやら、そういうことのようだ。 それは従業員が温泉を使える時間になれば分かるだろう。だがともかく、そろそろ最初の客が来るようだ。 いよいよ、真新しい温泉宿の営業開始である。 ● 「アルマ温泉開業じゃ、期間限定で開拓者の相棒たちが働いておるぞ」 ふわふわと空中に浮かぶ人妖は九竜の相棒、瑠璃だ。彼女は甘上手で愛想を振りまいて。 「もちろん温泉も良い湯じゃ、是非アルマ温泉に足を運んで欲しいのう」 にっこりと上目遣いで微笑めば、葉山領の人々も心を動かされるというわけで。 しかも、領内の人間は格安で温泉を利用できるとか。ならば行ってみようという人も増えて。 「……ふむ、こんなところかの? おお、主殿。必要な者は手に入ったかの?」 「ああ、まとまった量を買ってきた。これだけあれば薬湯にも料理にも使えるだろう」 そういって九竜は買い込んできた唐辛子の束を見せて。そんな九竜に瑠璃はふと、 「せっかくじゃ、主殿も宣伝をしたらどうじゃ? 薬湯や料理についての宣伝をしてみてはどうかのう?」 「“唐辛子”の薬湯に浸かれば、体も温まって、春“遠からじ”……とかか?」 「……まだ秋じゃし……宣伝は私に任せるのじゃ……」 そういって、瑠璃はひとしきり宣伝をすると、二人でそろって宿へと帰るのであった。 二人が宿へ戻ってくるとそこには多くのお客が。 それは宣伝に誘われた領内の者に怪我の療養に来た開拓者、そして非番の兵たちであった。 そして、彼らを愛想良く案内するのは相棒たちだった。 「いらっしゃいませなのじゃ。お客様の部屋はこちらになるの。ゆるりと過ごすと良かろう」 猫を被ってお仕事中なのは相川の相棒、人妖の桔梗。 「こちらが温泉となっております。お食事は部屋へ運ぶ事も出来ますが如何致しましょうか?」 完璧な仕事ぶりのメイドさんは喪越の相棒、からくりの綾音。 「ようこそ! ゆっくりしていってくれ!」 元気いっぱいに接客中なのは、ラグナの相棒、羽妖精のキルア。 「お部屋へご案内しまーっす!」 「……こちら、です」 明るく働くからくりのエリィと、その後ろで懸命に仕事をこなすイライザ。 彼女たちに指示を飛ばし、テキパキ采配を振るのは十野間とその補佐をするからくりの睡蓮だ。 まず客たちは、人妖と羽妖精、そしてからくりが案内してくれる事に驚くだろう。 だがそれだけではない。 「温泉卵は如何ですか?」 そっと温泉卵の入った篭を差し出してくれるセフィールと猫又のクロさんだ。 無口なクロさんは、ひょいと竹篭を頭上に掲げていて。 小腹が空いたら温泉卵を一つ貰って、温泉に行くのが良いだろう。 とある開拓者の希望むなしく、露天風呂は時間で男湯女湯が交代するよう。 もちろん別に常設の男湯女湯もあるようで、お客はまずは温泉へ。 女湯限定だが、人妖の衣通姫が背中流しや髪梳きをやってくれるらしく、これは女性兵士に評判で。 こうして、兵士たちや怪我人は傷を癒やし、旅人たちは日頃の疲れを癒やすのだった。 さて、一汗流した後は食事だ。食堂代わりの広間に行くも良し、部屋に運んで貰うも良し。 ちなみに昼の料理は鴨蕎麦のようだ。 「怪我する兵士の方は男の方が多いと思いますからお肉食べれた方が良いかと」 「はい、かもそばおまちどうさま〜」 配膳しているのは真夢紀としらさぎ。 ちなみに晩ご飯は彼女たちの担当のようで、今日の献立を聞いて見ると、 「今日は牡丹鍋です。辛いのが欲しい人のために唐辛子の効いた煮込みうどんもありますよ」 その他、壁にぺたぺたと、出来たばかりとは思えないほどの料理の数々が張り出されていて。 さあ、その後は療養がてら近場を歩くのも良いし、冷え込んできたら温泉に入り直すのも良いだろう。 夜になれば礼野が腕を振るった料理の数々が食卓に並ぶ。 唐辛子を使った泰国の麻婆豆腐に牡丹鍋、九竜が進言して紅葉下ろしで頂く鴨鍋も追加だ。 そんな夜の広間を彩るのは、ちょっとした余興。 「音楽に合わせて宙でふわふわ踊ってね」 三味線を片手に爪弾く露草に其れに合せてふわふわ踊る人妖の衣通姫。 あくまでも余興だと彼女たちは言うが、それでもなかなか人気なようで。 そして夜になれば、セフィールや十野間がちゃんと用意した布団が部屋には用意される。 至れり尽くせりの温泉宿は、新しいながらも大いにお客を喜ばせることに成功するのだった。 ● そして夜。 「それじゃ夜間の窓口はお願いね」 からくりの睡蓮にそう頼んで十野間は休憩に。 長い一日だった。10人の開拓者とその相棒たちは大忙しで働き通しどうにか成功にこぎ着けて。 やっと一休みできると思いつつも、十野間の手にあるのは小さな手帳だった。 表紙には『従業員の心得・手引き』。どうやら引き継ぎのための手帳のようだ。 同じく深夜まで料理の記録を残すために起きていたす礼野。 彼女は眠い目をこしこし擦りながら、最後に小さな氷室を確認して。 「……ん、あしたの食材も全部大丈夫そうです……しらさぎ、すこし休みましょう」 そして礼野はからくりのしらさぎと手をつないで、一足先に休むため、割り当てられた部屋へ向かって。 すると前方からてくてく歩いてくる小柄な姿が。 小さな提灯を手にした猫又。セフィールの相棒クロさんだ。 彼は、無言でぺこりと会釈。しらさぎと真夢紀もぺこりと会釈してすれ違う。 どうやらクロさんは、夜間の見回り中のようで、そんな彼はすたすたと露天風呂の前を通過。 その頃、露天風呂ではのんびりとクロさんの主がお湯に浸かっていた。 「……傷に良いという評判の通り、開拓者のお客も多かったですね……宣伝をしていたのでしょうか?」 一日働きづめだったところからほっと一息ついて、セフィールは湯船の中で手足を伸ばして。 その彼女の後ろ、流し場には露草と衣通姫が。 「衣通姫、ご苦労様」 「ごくろうさまなのー」 露草が衣通姫の頭を撫でれば、衣通姫も笑って応えて。 そして衣通姫は今日一日のがんばりの成果で、上達した髪梳きを披露して大いに露草を感動させるのだった。 「ふぅ、いいお湯でした……ってあれ? 同室だったんですか?」 温泉上がりで部屋に戻ってきた相川は、そこにネオンとイライザがいて驚いた。 どうやら部屋が足りなくて親しい彼らは同室になってしまったようだ。 「如何した勝一、何を取り乱す必要があるんだ?」 しれっと応えるネオン。だが、相川は困った顔、何せ3人ともお風呂上がりの浴衣姿なのだ。 「えへー、勝一も一緒ー♪」 「わ、わわ!!」 そんな状況でも意に介さないのはエリィ。 主のイライザがネオンにすがりついているのを尻目にぴょんと相川に抱きついて。 そんな状況で、相川の相棒である人妖の桔梗は……なぜか、忍び寄って女性陣の浴衣の帯をはらりと解いて。 はわわと真っ赤になる相川に、平気な顔のネオン、ますます固まるイライザと大騒動になってみたり。 「ふ、相変わらず耐性がないのぉ? もう少し慣れても良いものじゃが」 そう言って笑う桔梗に、折角だしと仲間二人を構いにかかるネオン。 この3人のところはまだ暫く賑やかになりそうであった。 そして、むせび泣く男が1人。ラグナだ。 温泉は時間入れ替え制。内湯は男女別。しょぼーんと膝をついてむせび泣くラグナ。 「……そんなことだろうと思った、馬鹿が」 そんなラグナにぐっさりと刺さる言葉を投げかけるキルアだった。 もう一人、やっと厨房仕事も一段落。明日の蕎麦の仕込みが終わった喪越が。 「……まぁ、防水処理の確認がてら、俺もひとっ風呂浴びたいねぇ……って、なにごとだ?」 突っ伏してしくしく泣いてるラグナをひょいとまたいで、喪越は風呂へ。 男女別れた内湯を使うようだが、 「……覗いちゃ駄目ですよ?」 「その恥じらい、絶対ぇ知識だけだろ! 台詞棒読みだし!」 ツッコむ喪越。だがその言葉にぱぁっと顔を輝かせたのは、なぜかラグナだった。 「そ、そうか! キルア、一緒に温泉に……」 「お前は男湯に行け……お前の裸などみたくもない、目が腐る」 完膚なきまでに心をへし折られるラグナだった。 ちなみに、からくりの綾音は無事温泉には入れたようだ。からくりは防水も完璧なようで。 「……あ゛ぁ〜……たしか、こうしてオッサン臭い声を発するのが作法だと窺いましたが?」 と、温泉を満喫するのだった、多分。 そんな騒動を尻目に、のんびり温泉に浸かる九竜。 「露天風呂から見る紅葉は見事だな……紅葉か」 ふと何か思いついた九竜。 「見事な紅葉の中、薬湯には良い効用……そんな温泉に、また来ぅよう……ってな」 誰に言うでも無く、九竜はダジャレを呟くのだった。 |