黄泉還りの夜
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/08/25 17:19



■オープニング本文

 君たち新米の開拓者達は、とある依頼を受けた帰り道であった。
 新米にふさわしい依頼として、受けたのは護衛の依頼。
 とある山村へと医者を連れて行くというもので、依頼は無事成功。
 その医者を連れて、神楽の町へと帰路についていたのである。

 しかし、その山村を出た後の夕暮れ、突然の激しい雨が。
 慌てて、山間の道を急ぐと、唐突に護衛の医者が言った。
「そういえば、前に聞いたことがあるんだが、すこし山に入ったところに、物見櫓の跡があるらしい」
 かつて、戦場だったこの地の名残があるのだという。
 雨に降られた一行は、他に選択肢も無く、そこに向かうこととなったのだ。
 医者の言った物見櫓はすでに屋根を失い、崩れていた。
 しかし、付随して建てられた小屋は、どうやら狩人や炭焼きのために未だ使われているようで。
 雨に濡れた開拓者たちと医者は、這々の体でその小屋に駆け込むのだった。
 その後、雨は止まず。
 結局、開拓者達とその医者はそこで夜を明かすこととなったのである。

 そして夜半、やっと雨は止み、明日には出発できるだろうと、雲間に見える月を見上げる開拓者たち。
 彼らは、ふと、聞き慣れない物音に気づいた。
 がさがさと草木をかき分けるような足音だ。
 もしそれが、一瞬だけであれば、きっと獣が立てた音であろう、と思ったのだろうが。
 その音が、止むことなく、しかも周囲すべてから聞こえてくるのだ。
 警戒することしばし、そして開拓者が見たものは‥‥。
 ぞろぞろと山の上の櫓へと向かってくる、歩く白骨の群であった。
 狂骨と呼ばれるアヤカシは、ぞろぞろとひっきりなしに麓から現れて。
 そういえば、この周囲一体は、古戦場であったのだ。
 何の因果か、運命の悪戯か。
 物見櫓を一晩の宿と決めた開拓者達を獲物として、群れ集ってきたようである。

 依頼ではない、彼らは自らの命を救うために、この状況どうにかしなければならないのだ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
土橋 ゆあ(ia0108
16歳・女・陰
九重 除夜(ia0756
21歳・女・サ
伊崎 紫音(ia1138
13歳・男・サ
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
白姫 涙(ia1287
18歳・女・泰
ジンベエ(ia3656
26歳・男・サ
A(ia3839
13歳・女・巫
佐竹 利実(ia4177
23歳・男・志


■リプレイ本文

●長い夜の始まり
 ‥‥その夜、私たちは気づいたときにはすでに囲まれていた。
 奴らは、生気もなくただ静かに忍び寄っていたのだ。
 月明かりに照らされた眼下の森を見れば、ゆっくり近づく影がそこかしこに。
 がしゃがしゃと、嫌悪感を覚える骨の擦り合わさる音があたりから聞こえる。
 人たるもの、誰しもその皮膚と肉の下には骨がある。
 だが、骨は肉によって支えられ、皮膚によって包まれるべきものだ。
 瘴気より生まれるアヤカシ、人を喰らう化け物‥‥ああ、なんと恐ろしいことだ。
 動くはずのない、死した骨の行進に、その夜、私は心底恐怖していたのだ。
 逃げ道は無く、閉じこもるには脆弱すぎる、ただの小屋に身を寄せて震えるしかできず。
 アヤカシが、我が身を引き裂く恐ろしい光景だけが頭を駆け巡る。
 しかし、どうやら同行者たちは、私とは違ったようだ。
 まだ暑い夏の夜、迫り来る恐怖に身を震わせる私に対して。
「災難だったなぁ、先生。ま、なんとかなるさ」
 笑みを見せて、緋桜丸(ia0026)はこともなげにそう言ったのだった。

 もう駄目かと思うような状況の中、幸運に恵まれた私は開拓者達と共にいたのだ。
 夜明けはまだ遠く、狂骨たちの迫る音はますます高まる、だがしかし。
 私は、希望があるように感じられた。
                   〜医者の手記より〜

●我々に、策あり
「まったく、とんでもないところに泊まってしまったみたいだね」
 月明かりの下、小屋から出たアルティア・L・ナイン(ia1273)はそう言って。
 抜き放った二本の刃をすらりと構えつつ。
「仕方がない、もう一働きするとしようか」
 彼が視線を眼下に向ければ、緩慢ながら森を進む狂骨たちが見えて。
「うわぁ、なんだかぞろぞろと集まってきますよ‥‥」
 同じ光景を眺めた伊崎 紫音(ia1138)はそういって、手にした即席の灯りをかざして。
 医者の持っていた油や布、廃材を活用して多めに作った即席の松明だが、灯りとしては十分なよう。
「‥‥大変なこと、になりました‥‥けど、がんばりましょう‥‥」
 黒衣に身を包んだ少女、A(ia3839)がそういい、見上げた先は不安そうな医者であった。
「お医者様、必ず、無事に脱出します、ので、ご安心を‥‥Aも頑張ります故‥‥」
 そういえば、医者も覚悟を決めているようで、頷き返して。
 そしていよいよ作戦決行の時、医者に対して赤い鎧姿が声をかける。
「さて、しっかりと掴まっていることだ。少々揺れるのでな」
 医者をひょいと背中に乗せたのは九重 除夜(ia0756)だ。
 自分と同じぐらいの背丈の医者を背負いつつも、苦ともしないのは強力によるもので。
 見た目からは想像できないその膂力と、性別すら分からないようなその姿に思わず医者は目を白黒。
 そんな医者の様子を見て、除夜は。
「‥‥なんだ、仮面になにか付いているかな?」
 鎧の奧から聞こえてくるような性別不詳の声に、医者は首をふって、世話をかけますとしっかりと掴まるのだった。
 医者にとっては、命を預けるほか無いこの状況で。
 自身が足手まといでありながらも、救ってくれようとしているという開拓者達。
 その心意気に、医者は頭を下がる思いであった。

 さて、開拓者達は二つの組に分かれて行動していた。
 医者を守り、この包囲を突破しようとする本隊。
 そして、もう一方は突破の時間を稼ぐために囮となる組であった。
 包囲の突破にもっとも必要とされるのは、純粋な戦力だ。
 そのために、人数を本隊に多く配置するのはもっともな案である。
 医者という護衛対象を抱えているのだから、なおさらではあるのだが、そこで問題が一つ。
 囮はそもそも危険を伴う役割である。
 今回は時間を稼ぐという目的もあるため、危険性はさらに上がり。
 包囲の中で、狂骨たちの攻撃に身をさらしつつ時間を稼ぐという非常に危険な仕事となるはずだ。
 その役割を果たすことは、ただただ無策に狂骨を迎え撃つだけでは難しいだろう。

「クカカカ、またぞろぞろと沸きおって。まるで灯りに群がる羽虫の如き連中よ」
 白装束に面をかぶり、哄笑を上げる様はまさしく怪人、ジンベエ(ia3656)はそういって。
 彼ら、囮となる開拓者達は、櫓の近くに集まっていた。
「いやはや、よもやこのようなことになろうとはな。全く不思議な縁だ」
 あまり嬉しくはないがなと、笑みを浮かべるのは紬 柳斎(ia1231)彼女もすでに刀を抜き放っていて。
「しかし、拙者はつくづく巫女を守ることに縁があるようだ」
 柳斎が見る先には土橋 ゆあ(ia0108)がいて。
 彼女は、自身を守るようにして構える2人に頭を下げて、
「頑張りましょう。彼らのお仲間に入るのは御免被りたいですしね」
 ゆあの視線の先には、集まってくる狂骨の姿があり、いよいよ作戦決行の時が迫っていた。

 囮組が危険な状況の中、少しでも本隊のために時間を稼げ、なおかつ狂骨の群に対して効果ある一手。
 それは豪快な手であった。
「倒れるぞっ!!」
 佐竹 利実(ia4177)が声を上げて。
 彼を始め、短い時間の内に小屋のそばに立つ櫓にはいくつもの傷がつけられて。
 すでにかなりもろくなっていた櫓はそれだけでぐらぐらと揺れるほど。
 そこに縄をかけて、山の斜面に向けて引き倒す、これが開拓者達の策だった。
 自分たちが巻き込まれれば危険な作戦、しかし危険を冒して決行したこの策は、どうやらうまくいったようだ。
 ばらばらと崩れ、斜面を転がる大きな丸太は、のそのそと登って来つつあった狂骨を蹴散らし。
 木々の間から進んできた狂骨たちには決定打を与えられないまでも、だいぶ狂骨は数を減らしたようであった。

 この機を逃す冒険者達ではない。
 まず、残る狂骨たちの眼前に姿を現したのは囮組の面々だ。
 後ろに控えるゆあは前衛の2人を援護する構えで、まず前衛のジンベエと柳斎は咆哮によって注意を引く。
「このジンベエが、貴様ら纏めて蹴散らしてくれよう!!」
 近づく狂骨を槍で払い、突き、叩き伏せるジンベエ。
「引きつけるだけではつまらん。折角だから、いくらか倒してしまっても構わんだろう?」
 柳斎は不適な笑みと共に、両手で刀を構えて、近づく狂骨の攻撃を受け、返す刀で蹴散らして。
 そして、囮の3名が場所を変え、じりじりと狂骨の群を引きつけている瞬間に、本隊も動き出すのであった。

●強行突破
「今の内です、早く」
 紫音たち、開拓者の本隊は、一気に山を下る道を選択した。
 崩した櫓によって、狂骨の包囲の出鼻をくじき、さらに今は囮の3名が狂骨を引きつけている。
 その間隙を縫って、突破をはかる開拓者達一行は、突破のために陣形をくんで進んでいた。
 いくら数を減らしたとはいえ、まだまだうじゃうじゃとやってくる狂骨の群だったのだが。
「骨だけ切るってのも味わいがあるなぁ‥‥肉がない分だけ重さがいる」
 振るう刀は、的確に狂骨の骨を砕き、その感触を満足げに確かめているのが利実だ。
 武闘派の開拓者達を戦闘に、歩みを止めず、一団となって走る速度で山を駆け下りる開拓者達。
 これだけの速度で進めるのは志体を持つ開拓者達だからこそといえるだろう。
 だが、敵はアヤカシだ。アヤカシ達も常軌を逸した能力を持つ者たちばかりなのだ。
「数だけで、大して強くないですね。このままなら、なんとか逃げ切れ‥‥」
 長脇差しを振るいながら、進む小柄な紫音、しかし、やはり数が多いのが問題だ。
 前衛の倒しそこねた狂骨の一体が、医者を背負う除夜の方へ向かうが。
「‥‥そうは、させません」
 除夜と医者のすぐそばに付き従っていた白姫 涙(ia1287)が即座に飛び出してきて、薙刀を一閃。
 素早い踏み込みで、袈裟懸けに狂骨を叩き伏せるその技に迷いはなく。
「‥‥大丈夫ですか? 私が、守りますから」
 医者を背負って武器を震えない除夜と、術によって前衛を援護しているAを背に、涙は薙刀を振るうのだった。

 そして一気に駆け抜ければ、かなり大量の狂骨を蹴散らして進み。
 やっと、開拓者達の本隊は目的の、街道近くの道まで到達した。
 時間にすれば、さほど長い間ではなかっただろう。
 だが、いつ果てるともない狂骨の群れを蹴散らした一行は疲労していた。
「‥‥すまないな。酷い乗り心地だったろう」
 仮面の奧から響く除夜の声に、さすがにぐったりしてる医者だが、首を振って。
「お怪我は‥‥?」
 心配そうに一行を見回す涙だったが、まだ大きな怪我をしている者はいないようだ。
 そして、狼煙に着火すれば、医者とAを中心に、再び開拓者達は警戒態勢だ。
 除夜も刀を抜き払い、紫音、利実は、こちらを追って山を下ってくる狂骨を迎え撃ち。
 涙は医者とAを護衛、Aは彼らを援護し。
「さて、もう一仕事、ってな」
 緋桜丸がそういえばに、頷いて応えるのはアルティアだ。
 この2人は、いま来た道を再度とって返すように進み始めた。
 彼らの目的は、囮組が脱出するための援護、今度は早さが勝負の決め手だ。
「ふふ、少し血が騒いできたね、さて、暴れるとしようか」
 そうして2人はまるで風のように、道を駆け戻り始めるのだった。

●大脱走
「お二人とも、大丈夫ですか?」
 ゆあが不安げに柳斎とジンベエを伺う。
 彼らは、なんとか自分たちも包囲を解いて逃げ出す機をうかがっていたのだが、
「ああ、まだ大丈夫だ。しかし、まったく、きりがないな!」
「クカカカ、どうやら本隊は無事に包囲を抜けたよう‥‥後はこちらが包囲を抜けるだけなのだがな」
 ジンベエは、明け方に近づき、徐々に明るくなる景色の中、あがる狼煙に目をやって。
 少々、不利な状況の3名だが、次の瞬間、待ち望んでいたものがやってきた。
 囮組を狙う狂骨たちの包囲の外から、切り込んできた影が二つ。
 両方ともが二本の刃を振るい、獅子奮迅の働きで。
 緋桜丸は、背後から狂骨の一体を蹴り飛ばし踏みつけ、横合いから彼に気づいた狂骨の一撃は短刀で受け。
「‥‥おっと、失礼。俺は足癖も悪くてな」
 踏みつけたままの狂骨を、蹴りですくい上げて、襲ってきたもう一体にぶつけると、2体纏めて業物で両断。
 さらに、新手の出現に戸惑う狂骨に向かって、咆哮を上げ、注意を引きつける。
 一方、アルティアは、
「我が名はアルティア・L・ナイン! 風のように疾き者なり!」
 体捌きで狂骨の一撃をかわし、接近すれば足払いから流れるような刃の一撃で狂骨を胴体から真っ二つにして。
「行くぞアヤカシ、我が一撃は容赦がないぞ!」
 名乗りを上げるのが、元兵士たる狂骨への礼儀だとばかりに、声高らかに名乗りを上げれば狂骨たちも反応し。
 今まで追っていた3名をそのまま追うか、新手に現れた2人を狙うべきかと思わず動きが乱れる。
「‥‥行きましょう、今です」
 ゆあが放つ斬撃符が突破口を開けば、そこに切り込むジンベエと柳斎。
 そこに緋桜丸とアルティアが合流し、一同はゆあを中心に一団となって本隊と合流するために逃げ出すのだった。

 そのころ本隊は、彼らを追ってきた狂骨の残党を排除し終わり、残る開拓者達を待っていた。
 狂骨たちの包囲からはすでに外れているようで、数体のはぐれた狂骨を蹴散らせば後は何事もなく。
 小さな怪我の手当も終えて、ゆっくりと朝日が覗き始めた森の中で彼らは待っていた。
「どうか、ご無事で‥‥」
 Aが朝靄でけぶる山道を見据えて、そう願っていれば、山道を下りてくる5人の影が見えて。
 どうやら、ゆあたち囮組は、緋桜丸とアルティアも含めて何とか無事に包囲を突破できたようである。
「‥‥皆様がご無事で‥‥Aはとても、嬉しいです、ね」
 こうして一行は、無事包囲を抜け、なんとか帰還することが出来たのである。
 もちろん、この狂骨の群れに関しては、紫音の進言もあり即座に対策が取られたのだった。

 のちに医者はこう書き残した。
 あの夜、私は一度は死を覚悟した。
 だが、私を救ってくれたのは、私よりも遙かに年若い開拓者達であった。
 朝焼けの中、無事全員、包囲を抜けて生還したことを喜び合う若者達の姿。
 それは、なによりも美しいものだった。
 ‥‥私にとってあの夜は、何よりも恐ろしく、何よりも素晴らしい経験になったのである。